はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part127 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第26譜

2019年07月19日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第26譜 指始図≫ 7三歩成まで

 指し手  △7三同銀


    [『Fire-ball』の扉絵 ]
男A「とにかく今度の蜂起では必ずATOMの存在を確認しないと」
ひげの男「そうだな。ATOMの存在の確証さえつかめば市民も我々に着くことは必至だ」
大沢ひかる「アトム…?」
   (中略)
ひげの男「急ぐんだ。捕まった幹部が口を割らされたらしい」
大沢ひかる「クスリですね」
ひげの男「ATOM計画は我々が考えているよりすすんでいるようだ。あれができちまったらアウトだからな」
ひげの男「それに我々のスパイがやられた……。もう情報が入らん。」
ひげの男「ヤツの情報によると今ATOMを使って人体実験をしているらしいんだ……。これを公表出来たらスゴイぞ」
大沢ひかる「人体実験…?」
ひげの男「ああ、機動隊の隊員で超能力を持っている男だそうだ…」
ひげの男「決行は一週間後に……? どうかしたのか……」
   (大友克洋作 漫画『Fire-ball』)



 大友克洋作『AKIRA』は有名だが、漫画『Fire-ball』はその原型となる作品で、1978年暮れに双葉社「アクションデラックス」誌に発表されたもの。
 巨大コンピューターATOMと、超能力兄弟(大沢晃と大沢ひかる)とが闘う話である。内容的には、その闘いが始まったところで、話が終わっている。

 いま読むと、『Fire-ball』は、『AKIRA』と較べると、メインキャラの風貌が“地味な”ところが決定的な違いで、そこがとても面白い。兄弟と対決するコンピューターATOM計画を強力に押し進めるリーダー役は、小太りで眼鏡のこれまた“平凡顔”のおばちゃんである。(『AKIRA』では強そうなモヒカンの大佐に代わっていた)
 もともとこれ―――主人公の風貌の平凡さ、地味さ―――が大友克洋漫画作品の個性だった。
 そして、近未来なのに、携帯電話をだれも使っていないところがまた異世界のようでおもしろい(映画『ブレードランナー』もそうだった)

 大友克洋の初期作品には、『鏡』というタイトルの短編もあり、また江戸川乱歩の小説『鏡地獄』を漫画化したものもある。どちらも“狂気的な”風味の作品である。
 この『Fire-ball』のタイトルページ(扉絵)は、「ボール型の鏡」に映ってゆがんでみえる部屋を描いている。その部屋の中には分解された(あるいは作りかけの)頭のない人間型ロボットが映っている。
 ――――よく見ると、「ボール型の鏡」と思っていたものは、このロボットの頭だった。
 (この絵の元ネタは、画家エッシャーの「球面鏡に写る自画像」の絵)



<第26譜 悪手は悪手を呼ぶ>

≪指始図≫ 7三歩成まで

 「亜空間戦争一番勝負」、先手の終盤探検隊が ▲7三歩成 と指したところ。

 悪手であった。 ▲8七玉が予定だったのに―――そしてそう指せば実際先手有望だったのに―――なぜか、▲7三歩成を選んだのである。“魔物のしわざ”だとしか言いようがない。
 (指した瞬間はしかしこれがベストだと思って指していたはずだが)

 指した後、後手の≪亜空間の主(ぬし)≫の手を待っている間に、7三歩成が悪手だと気づいた。
 ここで後手7五銀と指されて―――――負けそうだ。

 嗚呼―――――。


5六と図
 その一手前の局面。後手が「△5六と」としたところ。
  【子】3三歩成 → 後手良し
  【丑】2五香  → (互角に近いが)後手良し
  【寅】2六香  → 後手良し
  【卯】4一角  → 先手良し
  【辰】5四歩  → 後手良し
  【巳】6七歩  → 「互角」(持将棋の可能性あり)
  【午】8七玉  → 先手良し
  【未】7三歩成

 先手良しとなっている 【午】8七玉【卯】4一角 とは、実質同じもので、8七玉から9七玉と玉を先逃げしておいて、4一角から攻めていくという意味。つまりこの場合“手順前後”が成立して、どちらが先でもよいのである。

 そして、「【未】7三歩成 → 後手良し 」である。

≪指始図≫(再掲)7三歩成まで
 ほんとうに、この図はすでに「先手が悪い」のだろうか。 
 今回の報告では、それを検証していく。
 ここから、「7五銀、8七玉、6六と」が我々(終盤探検隊=先手)の恐れている手順である。
 (他に「6六と、8七玉、7五桂」もある。選択権は後手にある)

7五銀基本図
 ここで攻める手は先手勝てない。
 “4一角”が先手期待の攻め筋だが、“4一角”、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、同歩の後、次の攻めがない。6一飛のように飛車を打ちたいが、8一桂(同竜は5四角の王手竜取り)があって、後手良し。先手の「8七玉」の位置が悪いのだ。
 それなら、ここで5四歩はどうだろう。これならいまの“後手5四角”の手がない。
 しかし5四歩は、手抜きして攻められる。5四歩、7六銀、9七玉、7七と、8九香、7五桂(次の図)、

変化4一角図
 図以下、9八角(金で受けるのは8七桂成以下全部清算して再度7五桂と打たれて寄り)、8七桂成、同香、7五桂、7九桂に、7八歩となって、後手の勝ち将棋。
 5三歩成の余裕がない。

7五銀基本図(再掲)
 ここで“6三と”も、同じことだ。7六銀以下攻められて先手負け。
 つまり、この図で攻めの手はうまくいかない。

 この図での先手の候補手は、〔a〕9七玉〔b〕8九香〔c〕9八玉 の3つ。
 順に見ていく。


変化9七玉図01
 〔a〕9七玉(図)と玉を早逃げして、4一角や6三との攻めのチャンスを窺う。
 しかし、7六と、8八香に、8六銀(次の図)

変化9七玉図02
 8六銀(図)と、休まず攻めたててくる。
 8六同香、8五桂、同香、同金、8七歩、7五桂、9八銀、8四香、8八玉、8六金(次の図)

変化9七玉図03
 速い攻めで寄せられてしまった。


変化8九香図01
 〔b〕8九香(図)
 ここは、後手も 「7六銀」「7六と」 とで、手の選択に迷うところ。
 「7六銀」には、9八玉(次の図)

変化8九香図02
 ここで 7七と7五桂 がある。
 7五桂 はしかし、そこで7四とがあって、同金に、7八歩、7七歩、7五馬(次の図)

変化8九香図03
 7五で取った桂馬を3三桂と打ちこんで、こうなると先手優勢になっている。

変化8九香図04
 だから後手は 7七と(図)を選ぶことになる。
 これに対しても、ここで7四とがある(次の図)

変化8九香図05
 先手としては、7三歩成でつくった「と金」を、このように有効に働かせる展開になることが望ましい。
 この7四と(図)を同金は、先手が良くなる(4一角、3二歩、5二角成)
 他に手がなければ先手良しで確定するが、ここで“8七桂”があった。以下、7八歩、9九桂成、9七玉(次の図)

変化8九香図06
 ここで7八となら、5四歩と打って先手が勝てる展開になる(5四同銀には3三歩成、同銀、7二飛、3二歩、8四と)
 8九成桂が後手としては最善で、以下7七歩、同銀不成、7八歩、8八銀不成、8七玉、7四金、7二飛と進んで―――(次の図)

変化8九香図07
 形勢不明である。以下は、6二桂、6三歩、7三香、6二歩成、同銀、4一角の進行が予想される。
 このように、「7六銀」 では「互角」になって、後手としてははっきり良くなる順を求めたいところなので、おもしろくない分かれである。

変化8九香図08
 後手の“本筋”は、「7六と」(図)である。
 以下、9八玉に、8六銀(次の図)

変化8九香図09
 「8六同香」と「8七歩」が考えられる手。
 「8六同香」には、7五桂と打つ。以下9七金(代えて8八歩では8六とで後手良し)、6六銀、6三と、8五桂、同香、同金、8八歩、8六と(次の図)

変化8九香図10
 後手の攻めがほどけない。後手優勢。

変化8九香図11
 「8七歩」(図)と受けた場合。
 ここで後手に攻めの継続手がなければ、先手が良くなる。図で7七銀成なら、7八歩、同成銀、6三とで先手良しである。
 ところが、“9七桂”という妙手がある。8八香なら、今度は7七銀成とし、7八歩にも同成銀で次に7七とが狙いとなって後手が良い。
 “9七桂”に、8六歩、8九桂成、同玉、8七と、7八銀、7五桂と進んで―――(次の図)

変化8九香図12
 後手の攻めが切れない。次に後手7七歩があって、先手玉は助からない。
 
 〔b〕8九香 は、後手良しがはっきりした。


変化9八玉図01
 ということで、〔c〕9八玉(図)が、先手“最後の手”になる。
 この手が一番手が広くて闘える可能性がある。相手の手を見て、持駒の「香」を攻めと受けとの使い分けができるからだ。
 ここで後手 (1)7六銀 には、先手8九香と打って、それは先ほど調べた「形勢不明」の変化に合流する。
 後手としては、他の手でもっとよくできるか、という問題になる。

 しかしここは、(2)7六と でも、先手にうまい攻めがあって、先手良しになるのである。
 (2)7六と に、4一角、3二歩、3三香と攻める。これには3一銀が最善の対応だが、そこで3七飛と打つ。(次の図)

変化9八玉図02
 後手玉は、“詰めろ”がかかっている。それを受ける必要があるが、4二金は、5一竜、4一金、同竜で、以下8六銀には3一竜、同玉、3二香成、同玉、3三銀、4一玉、4二歩以下、後手玉詰み。
 4二銀引には5三歩がある。5三同金に、8四馬と金を取り、その手がやはり“詰めろ”になる。これも先手良し。
 4四銀引には5二角成である(5二同歩は3一竜以下詰み)

 これはどうやら、先手が勝てる図になっている。
 「7六と」の形が、角を手にしてもすぐに先手玉を詰ませられない形になっているので、先手のこの攻めが後手に届いたのである。

変化9八玉図03
 ということで、第3の手、(3)7七と(図)。
 今度は、後手は角を持てば、8七角から先手玉を詰ませることができる。
 すなわち、“4一角”、3二歩、3三香、3一銀、3七飛には、4二金と対応する(次の図)

変化9八玉図04
 先手は7七の「と金」を払いたいが、ここで7七飛は4一金と角を取られて先手が悪い。
 だからといって、6三角成では、7六銀で後手が勝ち。

 図以下、8四馬(同歩なら後手玉に詰みがある)、4一金、7五馬、8七角(次の図)

変化9八玉図05
 先手は8四馬~7五馬で、上部の金銀をさらったので、8七角(図)は詰みにはならないが、9七玉、7八角成、8九香に、6四銀上、7四馬、7五桂で、やはり後手が勝ちになる。

 “4一角” では先手勝てない。 (3)7七と には、次に示す手が先手の最善手であろう。

変化9八玉図06
 “7八歩”(図)と打つ。
 同となら6三とが利く。同金に、今度こそ4一角~3三香が有効になって、先手が勝てる。
 7八歩に、7六とでも、先手玉がすこし安全になるので、やはり6三とが利いて先手良しになる。
 7八歩に、後手の最善手は8六銀である。以下、7七歩に、8五桂と進む。
 そこで4一角、3二歩、3三香でどうなるか(次の図)

変化9八玉図07
 後手3一銀に、そこで「8七金」と受ける。
 「8七金」には、同銀成もあるが、できるだけ中段玉にはしたくないので、「7七銀不成」とする(次の図)

変化9八玉図08(7七銀不成図)
 「7七銀不成」(図)として、次の後手の狙いの手は8六桂である。
 なので、ここで先手は 8六歩 と打つのが自然であろう。(他に候補手として 3七飛 があり後述する)
 対して、後手は「7五桂」と桂を打つ(次の図)

変化9八玉図09
 ここで、7六金 と、8五歩 がある。
 まず、7六金 には、後手4二金とし、6三角成に、6六銀成。
 以下8五金、7七成銀(次の図)

変化9八玉図10
 8五金の質駒もあり、後手の攻めは切れない。後手勝勢。

変化9八玉図11
 8五歩 の場合。
 8七桂成、同玉、8六金、9八玉、6六銀上、8九桂、7六歩(次の図)

変化9八玉図12
 5一竜、7八銀不成、8八飛、8七銀成、同飛、同金、同玉、5七飛、9八玉、7七歩成(次の図)

変化9八玉図13
 先手玉に受けがなく、後手玉に詰みはない。 後手勝勢。

変化9八玉図14
 後手「7七銀不成」の局面まで戻って、3七飛(図)
 これは、先手に金か銀が一枚入れば、後手玉への“詰めろ”になる。
 後手は予定の“8六桂”。 以下、同金、同銀成、8四馬(この瞬間後手玉に“詰めろ”がかかった)、9七桂成(次の図)

変化9八玉図15
 9七同飛、8四歩、3七飛、4二金(詰めろを受けた)、3二香成、同銀、2五桂(3三歩成以下の詰めろ)、7六角、8九玉、1一玉(次の図)

変化9八玉図16
 1一玉(図)で、後手は“詰めろ”を解除した。先手はこれで、困った。後手玉に迫るにはどうしても何か駒を渡すことになる。そうすると先手玉が即詰みに打ち取られてしまう。
 どうやら「後手勝ち」で決したようである。
 たとえばここから、3三歩成、同銀、同桂成は、同金と取られ、5一竜に、8七香、8八歩、6七角成(次の図)

変化9八玉図17
 6七同飛に、8八香成、同玉、7六桂から、きれいな詰みである。

 〔c〕9八玉 には、(3)7七と で後手良し、とわかった。


7五銀基本図(再掲)
 よって、この図は「後手良し」が結論となる。


≪指始図≫(再掲) 7三歩成まで
 つまり、▲7三歩成とした図は、すでに先手が悪いことが確定した。
 ▲7三歩成は「悪手」だったと、はっきりと証明されたわけである。(その一手前の図では先手に勝ち筋があったのだから)

 ところで、この図からまず「6六と」として、「8七玉」に、そこで「7五桂」とする後手の攻め方もある。
 これについても調査したので、簡単に結果を示しておく。

7五桂基本図
 以下、「9七玉」とするが、そこで 「7六と」 と、「7七と」 とがある。(この場合、どちらが良いか選択が難しい判断になる)

7五桂図01
 「7七と」(図)には、8九香と受け、以下6五銀、9八金、7六銀と進め、そこで先手7四と(=好手、7三歩成でつくったと金が働くのは先手としてはうれしい)がある。
 以下、7四同金に、7二飛(次の図)

7五桂図02
 この図は、「形勢不明」の図になっている。
 以下、6二桂、6三歩、7三香、6二歩成、同銀、4一角の展開が予想される。

7五桂図03
 いまの進行を後手が不満と見れば、「7六と」(図)を選ぶことになる。
 8八香、6六銀、7八歩(次の図)

7五桂図04
 ここで後手に3つの攻め手が考えられる。我々の戦後研究では、次のような結果になっている。
  〔イ〕7七歩 → 先手良し
  〔ロ〕8七桂成 → 後手良し
  〔ハ〕6七銀不成 → 互角(形勢不明)

 以下、〔ロ〕8七桂成 を見ていく。
 〔ロ〕8七桂成、同香、7五桂、7九桂、6九金(次の図)

7五桂図05
 我々は、ここで“7四と”があって、この変化は「先手良し」と考えていた。すなわち、7四と、同金、4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、7九金、7五馬(先手玉の詰みを解除した)、同金、5一竜――――この変化はギリギリだが先手が勝ちとなる。
 ところが、この手順中、4一角に対して、「3一歩」が有効とわかり、結論が逆になった(次の図)

7五桂図06
 「3一歩」(図)は、先手の3三歩成、同銀、5二角成に対応しており、この場合5二同歩で後手良しになる(さらに3二歩には4二銀右)
 その代わり、「3一歩」だと、「2三」に角の利きが直射しているので、2五飛などが気になるところ。すなわち、2五飛、3二歩、7五馬、同銀上、1五桂の攻め筋だが、8七と、同桂、2四香、同飛、7九角、8八金、2四角成で、後手が良いようだ。
 また、この図で、3三歩成、同銀、3二歩の攻めもあるが、7九金で、これも後手良し。

 ということで、「7三歩成図」(指始図)から、「6六と、8七玉、7五桂」も、後手良しという結論となっている。


≪指始図≫(再掲) 7三歩成まで
 ▲8七玉~9七玉で戦おうという考えは間違っていなかった。それを貫くべきだった。
 それなのに、▲7三歩成(図)と指して、「負け」の局面にしてしまった。なんということだ。

 ここで、思った。 「後手(=≪ぬし≫)が、7三同銀と応じてくれればいいのに。それならチャンスがあるのだが」と。
 しかし、そんな手を―――こちらにとって都合の良いそんな手を期待するのは無駄だろう。
 我々は、不利を自覚して、どう頑張るか、どう逆転するかを考え始めていた。



 ≪最終一番勝負 第26譜 指了図≫ 7三同銀まで

 ところが、≪ぬし≫は、△7三同銀 と指したのである。 



第27譜につづく
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