朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の世界史レッスン第92回目の今日は「名門一族の不出来な息子」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/12/post_41b3.html
ウェッジウッド家とダーウィン家の結びつきについてなど、書きました。
でも今日はそれとは全く関係なく、以前、時事通信社系新聞に連載していた「まなざしの瞬間(とき)」という美術エッセーから、再録いたします。
ラ・トゥールの「ポンパドゥール夫人肖像画」(ルーブル美術館)です。
<宮廷のキャリアウーマン>
絢爛たる衣装、匂いたつような胸もと、楽譜を持つしなやかな指先ーー。ルイ15世の愛妾たるにふさわしい美しさだが、しかし道具立てを変えれば、これは紛れもなく有能なキャリアウーマンの顔である。高層ビル内のオフィス、仕立ての良いスーツ、机上のパソコン、手に携帯電話・・・そのまま彼女を現代ビジネス界へ連れてきても、違和感はないだろう。
ラ・トゥール(1704~88)がパステルで大画面に描いたこの人物は、どんな時代のどんな国にも必ずいる、美貌と才覚でのし上がってゆく女性の典型だ。
自己演出力にたけた彼女は、どういうポーズがふさわしいか熟知し、テーブルに並べた書物(「百科全書」や「法の精神」など)の選択も抜かりない。媚びたところのない落ち着いた態度は、王の愛人として、また片腕として、宮廷文化ばかりかフランスの政治経済までうごかしているとの確固たる自信に裏打ちされていよう。
そもそも貴族ではなかった。父は高利貸し。才色兼備の娘ジャンヌ・アントワネット・ポワソンは20歳で裁判官と結婚し、デティオール夫人となる。裕福な夫人はサロンを開き、ヴォルテールら名士と交流してさらに上を目指す。
ルイ15世とは、仮面舞踏会で知り合ったらしい。周到に準備して接近したのは間違いなさそうだ(ハンサムで遊び人だった王の歓心を買いたがる女性はいくらでもいた)。
彼女には「平民の主婦」という自らの不利な立場をものともしない根性があった。だからチャンスをつかめた。つかむだけでなく、それを持続させる能力もあった。ためらうことなく離婚し、ポンパドゥールの地を授与してもらい、貴族に叙せられる。24歳で侯爵夫人、31歳で公爵夫人と、階段を上り続ける。
こうして彼女は芸術文化の偉大なるパトロンになり、大臣並みの公務を抱える立場にもなったわけだが、成り上がりの女性に対する風当たりは当時も今も変わらず強い。七年戦争の敗北も、宮廷の財政悪化も、全て彼女のせいにされている。
放蕩者の王を叱咤激励し続けたのは、他ならぬポンパドゥール夫人だったというのに・・・
☆☆『怖い絵』5刷中です。
これまで書評や紹介が載った新聞は20紙。
雑誌で把握したのは、「クロワッサン」「エクラ」「婦人公論」「ミセス」「イラストレーション」「編集会議」「茶の間」「母の友」「ダ・ヴィンチ」「Coyote」「FINE BOYS 」「Job Diadim」。他にもあるのかもしれませんが、出版社からの連絡がないのでわからないのです。もしこれ以外に見かけましたら、ご一報おねがいします♪
☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)
ウェッジウッド家とダーウィン家の結びつきについてなど、書きました。
でも今日はそれとは全く関係なく、以前、時事通信社系新聞に連載していた「まなざしの瞬間(とき)」という美術エッセーから、再録いたします。
ラ・トゥールの「ポンパドゥール夫人肖像画」(ルーブル美術館)です。
<宮廷のキャリアウーマン>
絢爛たる衣装、匂いたつような胸もと、楽譜を持つしなやかな指先ーー。ルイ15世の愛妾たるにふさわしい美しさだが、しかし道具立てを変えれば、これは紛れもなく有能なキャリアウーマンの顔である。高層ビル内のオフィス、仕立ての良いスーツ、机上のパソコン、手に携帯電話・・・そのまま彼女を現代ビジネス界へ連れてきても、違和感はないだろう。
ラ・トゥール(1704~88)がパステルで大画面に描いたこの人物は、どんな時代のどんな国にも必ずいる、美貌と才覚でのし上がってゆく女性の典型だ。
自己演出力にたけた彼女は、どういうポーズがふさわしいか熟知し、テーブルに並べた書物(「百科全書」や「法の精神」など)の選択も抜かりない。媚びたところのない落ち着いた態度は、王の愛人として、また片腕として、宮廷文化ばかりかフランスの政治経済までうごかしているとの確固たる自信に裏打ちされていよう。
そもそも貴族ではなかった。父は高利貸し。才色兼備の娘ジャンヌ・アントワネット・ポワソンは20歳で裁判官と結婚し、デティオール夫人となる。裕福な夫人はサロンを開き、ヴォルテールら名士と交流してさらに上を目指す。
ルイ15世とは、仮面舞踏会で知り合ったらしい。周到に準備して接近したのは間違いなさそうだ(ハンサムで遊び人だった王の歓心を買いたがる女性はいくらでもいた)。
彼女には「平民の主婦」という自らの不利な立場をものともしない根性があった。だからチャンスをつかめた。つかむだけでなく、それを持続させる能力もあった。ためらうことなく離婚し、ポンパドゥールの地を授与してもらい、貴族に叙せられる。24歳で侯爵夫人、31歳で公爵夫人と、階段を上り続ける。
こうして彼女は芸術文化の偉大なるパトロンになり、大臣並みの公務を抱える立場にもなったわけだが、成り上がりの女性に対する風当たりは当時も今も変わらず強い。七年戦争の敗北も、宮廷の財政悪化も、全て彼女のせいにされている。
放蕩者の王を叱咤激励し続けたのは、他ならぬポンパドゥール夫人だったというのに・・・
☆☆『怖い絵』5刷中です。
これまで書評や紹介が載った新聞は20紙。
雑誌で把握したのは、「クロワッサン」「エクラ」「婦人公論」「ミセス」「イラストレーション」「編集会議」「茶の間」「母の友」「ダ・ヴィンチ」「Coyote」「FINE BOYS 」「Job Diadim」。他にもあるのかもしれませんが、出版社からの連絡がないのでわからないのです。もしこれ以外に見かけましたら、ご一報おねがいします♪
☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)
確かに美貌を輝かせ保つには知性が必要ですよね。知性がなければ美を才能に変換できないかも。
アントワネットがフランス宮廷に入ったとき、まだポンパドゥール夫人が存命だったらどうなっていただろう、と考えてしまいます。