中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

ナチス略奪名画1400億円の行方

2014年09月16日 | 音楽&美術
 先週の新聞に、驚く記事が載っていた。ナチスに略奪された美術品1000点以上(時価およそ1400億円)が、いまだ宙に浮いているというのだ。

 ヒトラーは総統美術館を建設すべく、ナポレオンを真似てヨーロッパ中で絵画略奪をおこない、その数およそ60万点。うち10万点がまだ行方不明だという。

 今回の場合、2年前に脱税容疑でドイツ警察が家宅捜索したグルリットなる男の自宅マンションから、シャガール、マチス、ピカソ、ルノワールなどがわんさか出てきた分。いまだ返還されていないのだという。

 グルリットの父親は、案の定と言うべきか、ナチス宣伝相ゲッベルスと親しかった画商で、ユダヤ人らから没収した作品を扱っていたのだった。

 戦後、息子のグルリットは絵画を隠し、時折りそれらを売却して生活していたようだ。逮捕されたとき、「私は人を愛したことがない。生涯でもっとも愛したのは絵画だ」と言っていたというから、盗っ人たけだけしいとはこのこと。おまけに脱税もしていたわけで。

 そしてこの御仁、今年81歳で独身のまま死に、絵はベルン美術館へ寄贈すると遺言を書いているそうだ。ところが美術館側としてみれば、受け入れたとしてももし本来の持ち主の遺族が出てくれば「ワシントン条約」で返還せねばならない。そうなるとなかなか厄介な事態だということで、まだ結論はだしていない。

 でもたぶん受け入れることになるのではないかしらん。それが最良の道だろう。そしてそうなると地味だったベルン美術館へは、世界中から絵画好きたちが殺到するはず。


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6 コメント

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Unknown (mimi)
2014-09-16 23:44:10
興味深い記事・・・で、思い出した映画
ミケランジェロ・プロジェクト(The Monuments men) 
何故、公開中止になったのでしょう。
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Unknown (mimiさん(kyoko))
2014-09-17 09:32:54
 ほんとですね~ 豪華キャストだし(久々のジョン・グットマン!)、実話だし、めちゃくちゃ面白そうなのに、どこかで虎の尾を踏んだということでしょうか。。。DVDで出ればいいなあ。

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Unknown (carpediem)
2014-09-18 16:33:23
ミケランジェロ・プロジェクトを私は機内で観ましたが、なかなか面白かったですよ。あれを観てから、ブルージュのミケランジェロの聖母子像を感慨深くシミジミと見るようになりました。

ベルン美術館に寄贈されるということは、グルリットという人はスイス人かスイスに潜伏(?)生活をしていたということかしら…?スイスはイロイロな意味で永世中立している国だから、お金持ちなら誰でもかくまうようなところがありますものね…まさに‘黒いスイス’を見る気がします…最近聞いた話にバチカンの衛兵の話があります。昔は何の産業も無かった山間部の多いヴァレー州(言語境界の州なのでドイツ語ではヴァリス州)の若者は傭兵として出稼ぎに出るしかなかったので、バチカンの衛兵は伝統的にヴァレー州出身者が多いとのこと。でも最近は衛兵の中にスイス銀行の頭取の息子などがチラチラ入ってきており、何年かのお勤めの後バチカンの内部事情を知りつくし、バチカン内部とコネを築き上げスイスに帰り銀行の重役のポストに就くとのこと。その後のお金の流れはご想像の通り…スイスで洗濯が行われます…ヨーロッパで麻薬患者が一番多く、公衆トイレの電気が青いのも、中で麻薬を打たないように静脈が見えなくするためというスイスですが、クリーンななイメージを持ってスイスに来られるお客様にはこんな話はしませんが、大自然オンチの私はこんな話の方が大好きです!(笑)
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Unknown (carpediemさん(kyoko))
2014-09-18 17:04:08
 新聞によれば、彼とベルン美術館には何の接点も無いそうです。ただし父親がベルンで絵画取引をした経験があるとか。銀行がらみかも!
 スイス人傭兵の件、びっくりです。そんなことになっていたとは。。。「ゴッドファザー3」では、マフィアの息子も神父になってヴァチカン入りしていましたっけね。「オデッサファイル」にも驚きましたが、いやはや。。。
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ヒトラーと絵画 (棟梁)
2014-11-02 17:03:13
お久しぶりです。中野先生のこの記事を拝読した際に、思い出したことがあります。
それは、大学時代、芸術史の授業を受けた際に、ヒトラーによる退廃芸術政策について学んだことです。その時まで僕は、ヒトラーが当初画家を目指そうとしていたことを知りませんでした。彼が、そのときに、自信をもって出品した絵画が全く評価されずに、ずっとコンプレックスを抱えていたことを知ったときに、僕は、ヒトラーのあらたな一面を垣間見ることができました。ヒトラーは、ミケランジェロ等のイタリアルネサンス期の絵画を特に好んでいたりしていて、ゴッホ等の印象派やシャガール等のユダヤ系画家が描いた絵画を劣った芸術として、キャプションに説明書きを書かせたということも聞き、同じく芸術を愛するものとして耳を疑ってしまいました。どうして、こんなことをしたのかと考えたときに、若かりし時のコンプレックスが少なからず関係しているのではと思いました。

歴史にIFは持ち込めませんが、もし、ヒトラーが、純粋に芸術を愛した青年としてひたむきに画家業とむきあっていれば、もしかしたら退廃芸術政策は、もちろんナチスによる一連の独裁政策(ユダヤ人の大虐殺等)はなかったかもしれません。そう考えるだけで、いたたまれない気持ちがすると同時に、歴史の皮肉さを感じます。
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Unknown (棟梁さん(kyoko))
2014-11-04 09:54:01
 20年以上も前ですが、ベルリンで「頽廃芸術展」が開かれました。ナチスが「頽廃」の烙印を押した、グロス、ココシュカ、クレー、ノルデ、コルヴィッツなどなど。。。
 ついでながらヒトラーは絵葉書を描く仕事をしていたことがあって、当時の作品がオークションにかけられたというニュースもありました。評価は一致していて、「凡庸」。まあ、彼がほんとうにやりたかったのは建築だったのですけど。
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