中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

オペラ「オテロ」in 新国立劇場

2009年10月06日 | 音楽&美術
 先日、「オテロ」を観に行ってきました。新国立劇場2009/2010シーズンのオープニング公演かつ新制作です。

 すばらしい美術で、舞台にヴェニスの町がそっくり再現されていました。ほんとうの水も張ってあり、オテロの心の動きにしたがって静かだったり漣立ったりするのです。

 たまたま休憩時間に他の取材が入っていたもので、劇場の広報部の方ともお話しする機会がありました。水はなんと50トンも使われていた由。でも問題は水量より、わずかの洩れでその下にある電気の配線をダメにしたら大変だということで、毎回の徹底的なチェックに神経を使うのだとか。

 この水は運河らしい色を出すため、特別に彩色されていたのですが、それも排水を考えて環境にやさしい材料を使ったのだそうです(なんというこまやかな心遣い!)

 それとこの日はお相撲の黒海関が観客席(と言っても特別製の大きな椅子)にいらしたそうです。デズデーモナ役のソプラノ、タマール・イヴェーリさんが大の相撲ファンで、同じグルジア出身の黒海関をご招待したとのこと。

 演出も明快でした。
 ヴェニスの複雑な蜘蛛の巣のごとき小路はイヤーゴそのもので、オテロはそこにはまり込んだ異物なのだ、と。

 それにしてもわたしはいつも思うのですが、どうしてヴェルディはシェークスピアのこの戯曲を、全幕音楽化しなかったのでしょう?第一幕をカットしたために、伏線がひとつなくなってしまい、オテロがともするとただのDV亭主に見えてしまう。

 シェークスピアは第一幕で、デズデーモナの父親にこんなふうに言わせているのです。「気をつけろよ、オテロ、彼女は父親を騙すような女だ、おまえもいつか騙される」

 父親が絶対で、結婚は父親の命じるままだった家父長制時代、その父親の目を盗んでオテロと秘密結婚したデズデーモナの一途さは、別の光を当てれば確かにそんなふうにも見えなくもない。オテロの心に、本人すら気づかない毒がまわった瞬間です。

 この伏線があればこそ、たかがハンカチ一枚でイヤーゴの嘘を信じ込む不自然さが納得されるのに。。。

 でも逆にデズデーモナの哀れさは募ったともいえるかな。4幕目、死を予感して歌うアリア<柳のうた>に思わず涙がこぼれそうになりました。


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コメント (6)
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