経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

ちゃぶ台をひっくり返せるか。

2011-04-01 | 知財一般
 今日から新年度入りです。個人的な記録ということになりますが、昨年度(2010年度)に力を入れて取り組んだ活動(代理業務を除く)を振り返っておきたいと思います。

 一昨年度(2009年度)は特許庁の地域中小企業知財経営基盤定着支援事業で、中小企業が知財活動に取り組むための基本的な考え方として‘定着モデル’なる理論(?)をとりまとめました。しなしながら、理論だけで現実に何かが動くわけではなく、これをメソッドに落とし込んでいかければならない。というわけで、(1)中小企業支援者向けの‘知的財産経営プラニングブック’の作成(昨年度の地域中小企業知財経営基盤定着支援事業)、(2)‘横浜価値組企業’をリニューアルする‘横浜知財みらい企業’の制度設計、(3)愛媛県西条市で実施した‘西条知財塾’、といったプロジェクトに関わる機会をいただけたため、これらを通して‘定着モデル’のメソッド化に取り組んできました。

 (1)については、近日中に特許庁のホームページで公開されると思いますが、‘定着モデル’の考え方に沿って支援先企業の
 「知財活動の目的・位置づけを明確にする」 ⇒ 「知財活動を実践する仕組みを構築する」
プロセスとその留意点を、地域中小企業知財経営基盤定着支援事業のワーキンググループのメンバーで取りまとめました。中小企業の知財支援というと、後段の「知財活動を実践する仕組みを構築する」に目がいきがちですが、「知財活動の目的・位置づけを明確にする」部分を厚く書いているのが‘知的財産経営プラニングブック’の特徴です。「知財活動の目的・位置づけを明確にする」ためには、その企業の経営の課題、事業の課題を的確に把握し、それらの課題に対して知財活動がどのように貢献し得るのかを検討しなければならない。そのときには、知財=排他権、という典型的な効果だけに囚われず、知財活動が現実の事業においてどのようなはたらきをし得るのかをよく理解しておくことが求められる。そのはたらきを知財活動で成果を上げている中小企業の経営者へのヒアリングから抽出し、8つのパターン(「7つの知財力+1」となりました)に整理しています。また、支援先企業の現状や意識を把握するためのツールとして‘問診セット’なるものを作成しましたが、まだまだ工夫の余地があると思うので、今後ブラッシュアップしていければと思っています。

 (2)については、先週予定されていたセミナーでお披露目となる予定でしたが、震災の影響で中止となったため、粛々とスタートすることになりそうです(横浜市の23年度予算概要24ページにちょっとばかり紹介されています)。この制度設計のお手伝いをさせていただいたのですが、要するに、知財活動が経営に貢献するまでの段階を、
 「事業計画の作成」⇒「知財活動の目的・位置づけの設定」⇒「知財活動を実践する仕組みの構築」⇒「経営上の成果」
という順序で整理し、対象企業の知財活動がどの段階にあるかを評価して、各々の段階に適した支援メニューを提供しよう、というものです。例えば、事業計画もないままに知財権の取得を支援(例えば出願費用の助成)したところで、その知財を事業に活かせるかどうかわからない。その段階で必要なことは、事業計画作成の支援であるはずです。また、事業計画があったとしても、事業計画との関連で知財活動の目的が明確になっていないと、取得した知財権が事業計画にプラスになるとは限らない。その段階で必要な支援は、知財活動の目的を考えることから始める知財コンサル的なものになるでしょう。中小企業支援というと、とにかく知財権の取得を支援しようというところからスタートしてしまいがちですが、その前段階として知財が活かせる状態にあるかどうかのの評価から入るという仕組みは、結構画期的なのではないかと思っています。とはいいながら、実際に動き始めるといろいろ課題が見えてくることかと思いますので、‘メソッド’としては運用しながら磨きをかけていくべきものかと思います。

 (3)については、‘知財塾’というとIPDLの使い方とか明細書の書き方といった内容をイメージしやすいですが、事業計画書の作成を最終目標にして全6回のプログラムを組みました。第1回は、参加者の皆様に知財に限らず自社の経営課題を書き出してもらった後に、知財活動の多様なはたらき(=7つの知財力)を解説しました。第2回は、様々なケースを紹介しながら、自社の経営課題に役立ちそうな知財活動のはたらきを紐付けて、自社の経営に役立ち得る知財活動の目的を検討していただきました。第3回が知財制度の基礎知識の解説、第4回が事例も交えた知財活動の仕組み作りの解説です(この2回は木戸弁理士にご担当いただきました)。第5回は、事業計画の簡単なフォーム(会社概要、製品・サービス概要、自社の強みや市場環境等の説明、収支計画etc.)を用意して、事業計画の作成に取り組んでいただきましたが、事業計画を実現するための知財活動への取組み方針を記載する項目も設けてあります。最終回の第6回は、各社の事業計画の発表会です。何しろ初めての取組みだったので試行錯誤しながらという状態でしたが、経営と知財を結びつけるメソッドとして、一つの可能性を見出だせたのではないかと感じており、ご参加いただいた西条市の企業と関係者の皆様には大変感謝しております。

 こうした活動を通じてですが、昨年度の後半頃から「企業の競争力における知財の真のはたらき」みたいなものが、おぼろげながら見えてきた気がしており、これはまた日を改めて書いてみたいと思います。


 さて、今年度。どんなチャンスを戴けるかまだわかりませんが、抽象論をあれこれ言うだけでなく知財のスキルを事業に、経営に実際に役立てるように、メソッド化を進め、そのメソッドを実践していきたいと考えています。そして、できれば「知財⇒経営」という今のアプローチを「経営⇒知財」にひっくり返したい。星一徹がちゃぶ台をひっくり返すように。