経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

俯瞰する目

2009-09-26 | 書籍を読む
 以前に少し紹介させていただいた韓国の呉秉錫弁理士の著作「特許価値戦略」が発売されました(アマゾンではまだ取扱っていないようです)。以下、寄稿させていただた「推薦のことば」の抜粋です。

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「価値の高い特許とは何か」
本書は、特許に関わる者にとって最も本質的ともいえるテーマに正面から取り組み、特許戦略のあり方を示した意欲作である。企業活動において、知的財産、特に特許に対する取り組みが注目されるようになり、特許戦略というテーマに関する著作や論文を目にする機会が多くなっているが、その中でも本書は次の2つの点において秀逸である。
第1に、本書が目の前に起こっている現実と、ストレートに向き合っているという点である。
(中略)
実際の市場の競争環境は特許だけによって規定されるものではなく、「特許に頼らなくても事業はうまくいった」「特許があっても事業はうまくいかなかった」という事例は多々存在している。市場の現実、事業の実態を離れた観念的な特許戦略論は、現実の事業、それを支える特許戦略を担う者の要求に応え得るものではない。
これに対して本書では、「問題の提起」の項で「これといった特許なしでも市場に参入してビジネスに成功した事例も簡単に見つけることができる」と述べられているように、市場の現実を直視し、その上で「価値の高い特許」の真の意味と特許戦略のあり方が考察されている。本書は現実に基づいた特許戦略論として、企業の現場で特許戦略に携わる方々の共感を得られるものであり、特許事務所等の実務家にはクライアントである企業の問題意識に沿った視点を提示してくれるものであると思う。
第2に、本書では分析者の視点、実務家の視点がバランスよくミックスされ、マクロとミクロの両面からのアプローチによって、「価値の高い特許」を創出するための特許戦略論が展開されている点である。
(中略)
そうした中で、市場の競争要因に関する分析から個別特許のあり方まで視野に入れた本書で展開される戦略論は、その一貫性、現実性において、群を抜くものである。著者が特許法律事務所で実務家の立場にあって、特許実務に関する考察のみでなく事業戦略に即した視点との両立を実現していることは、率直なところいささか驚きであるが、著者の企業での特許戦略の責任者としての経験と高い問題意識が、それを可能にしていることが推測される。我が国においても、特許実務に関するサービスの質的向上に取り組むためには、こうした幅広い視点と問題意識こそが求められているところであろう。
(中略)
さらなる研究が求められることについては、本書のはしがきで著者自身も打ち明けているところであるが、著者の今後の研究に期待するだけではなく、知的財産、中でも特許に関する業務に携わる我々自身に課された課題として認識すべきであろう。
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 特に第2のポイントについて思うのですが、全体を俯瞰する目と、実際に現場で物事を動かす力(現場力とでも言いましょうか)、この2つをどうやってバランスよく身につけていくかが、知財人に限ったことではありませんが、使えるビジネスパーソンたるためには重要なところです。実務家である呉弁理士がどうやって前者を身につけたのか、最初に本書の原稿を読ませていただいたときはそこが一番知りたいところだったのですが、20代で特許グループ長として、現在のハイニックス半導体の特許部門を一から立ち上げる経験をされたとのこと。そこで‘俯瞰して視る’ことを身につけられたのかなぁ、などと勝手に想像してしまいました。
 そうすると、「最近、知財の世界に入ってくる若者は、実務もできないくせに『戦略がやりたい』とかフワフワしたことを言ってけしからん」みたいな話を耳にすることがありますが、こうした若者の意見も実は半分は正しかったりするのかなぁ、などと思ったりします。フワフワばっかりでも困るのですが、小さなプロジェクトでもいいからどこかで「やってみなはれ」って経験も積まないと、明細書ばかり睨んでいるとどんどんヨリ目になってきて、俯瞰する目なんて養われない。これは勉強すれば補えるってような話ではなくて、セミナーや本で俯瞰したつもりになっても、気をつけないと講師や本に向かって目はヨッてきてます。たぶん。事務所人は企業人以上に深刻ですね。しんどいですが、自ら機会を作っていかないと。