経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

効果的な知財支援制度のあり方を考える

2009-09-13 | 知財一般
 先日来、公的機関の知財支援制度(中小企業向け)のあり方について何度か議論する機会があったのですが、話の大枠を次のように整理すべきではないかと考えています。尚、外国出願費用の助成のようにお金を直接支援する制度は、ちょっと質の違う話なのでここでは対象から外して整理してみます。

 知財支援に対する中小企業のニーズですが、大きく次の3つの段階に分けることができると思います。
(1) 知財制度(特許の対象になるもの、出願の仕方etc.)がよくわからないので教えて欲しい。
(2) 制度のことは大体わかったので、有効な権利の取り方や取った後の活かし方など具体的な運用のノウハウ(パテントマップの作り方、ライセンスの手順etc.)を教えて欲しい。
(3) そもそも我が社の強みを活かすのに、知財制度をどのように利用すれば効果が上がるかを教えて欲しい(というか、相談に乗って欲しい)。
 これに対して、これまでに提供されている様々な支援制度は、(1)(2)に属するものが多く、(3)の‘知財戦略支援’みたいな制度は、まだ一部でスタートしたばかりといったのが現状かと思います(‘知財戦略’と銘打ちながらも、実際の内容は(2)だったりすることも)。
 ここで注意しなければいけないのは、制度の満足度を測ろうとすると、(1)のニーズに対して「特許とはこういうふうに取るんですよ」という説明を的確に行えれば、満足度は高い(=ニーズを満たしている)という結果が得られる。(2)も同様で、パテントマップの書き方や流通の成功事例なんかを聞くと、これは凄い、いい話を聞いた、という結果になるのでしょう。問題は、そうした制度の知識やノウハウが、果たして(3)に結び付いているだろうかという部分です。この点について、(1)から順にボトムアップで積上げていくと、
(1)→「特許、出せました。」(2)→「マップの穴を突いたのでうまく権利が取れました。」となった次に、では(3)をどうしましょうかということで、「取った特許でライセンス料を得ましょう」、みたいな話になりがちです(最近ではこんな記事もあり)。だけど、これってやはり企業活動、事業の実態から考えると、順番がひっくり返ってしまっているのではないでしょうか。
 特許があろうがなかろうが、企業はそれぞれが持っている何らかの特徴・強みを活かして事業を続けていくわけであり、その特徴や強みをどうやって高め、他との違いとして活かしていくかが重要になるわけです。そのために効果的であれば知財制度を活用していくべきだけれども、事業の実態を考えると知財云々の前にスピード重視で顧客開拓を進めていったほうがいい場合なんかもある。そういう意味で、(3)に対する何らかの解(これが正解、という解があるわけではないですが)を得たうえで、(1)(2)のニーズに応えていくというのが、本来の順序であろうと思います。企業の側で先に(3)の問題が整理できていればいいのですが、知財制度のことがわからずにその効果や位置付けが整理できるはずもなく、やっぱり先に来るのは(3)になるのだと思います(自ら(3)の問題を考えられる企業であれば、公的制度に期待するのは助成金みたいな現物の支援になってくるでしょう)。

 そこで問題になるのは、支援機関の側で(3)のニーズに適切に応えられるか、というところなのですが、これは知財の知識からボトムアップで考えていくような問題ではないので、(1)(2)の支援ノウハウとは違う資質が求められることになってきます。かといって、知財活動によって期待できる実質的な効果というところがわかっていないと、経営、事業の知識だけでは知財活動の出番がわからない。なかなか難しいところです。
 そもそも論として、(3)について考えていけば、そこから得られる結論が‘知財’ではないことも多々あるわけで、そうするとこうしたニーズに応えることを‘知財’として仕切ること自体が問題なのかもしれません。そうすると、中小企業のこうした問題を常時フォローしているような窓口との連携が効果的なはずであり、そうなると地域金融機関なんかにやっぱり期待したくなってくるところですが。