2014年6月30日(月) 糸の太さに関する話題 2
今般、世界文化遺産として登録された、富岡製糸場と絹産業遺産群について、当ブログでは、主要事項について、下記記事
富岡製糸場と絹産業遺産群 1 (2014/6/22)
富岡製糸場と絹産業遺産群 2 (2014/6/25)
で述べている。
これらに続いて、前稿の
糸の太さに関連する話題 1 (2014/6/28)
では、絹糸等で、糸の太さの単位として使われている、デニールに関して取り上げた。
本稿では、糸の太さのその他の単位や、商取引との関係、太さの計測・計算法等について述べ、一連の記事を締めくくることとしたい。
◎ テックス/デシテックスという単位
デニールという単位では、9000mという、切れの悪い長さが基本になっているが、原材料の重量gはそのままで、長さの基準を、10進数の1000mにしたものが、
テックス(tex:語源は、textile 英)
という単位で、表示は、tex、Tとなり、ISOで標準化されたもののようだ。これを受けて、JISでも規定されている。
このテックス単位を、1/10にした、
デシテックス(decitex ) 単位の表示:dtex
という単位(補助単位)もある。deciーは、1/10を意味する接頭語で、デシリットル(1/10リットル=100cc)なども同じ用例だ。(糸の太さ(繊維径)の単位(1)(長繊維の場合 恒長式番手)デシテックスdtex・デニールd)
デシテックスの単位の表示を、Tとするサイトも見受けられるが、本稿では、混乱を避けるために、dtexにしている。
定義から、
1デシテックス=1/10テックス=0.1テックス
1テックス=10デシテックス
となり、デシテックスは、重量gはそのままで、基本の長さが、テックスの10倍の、10000mとなる。
従って、デニールdと、dtexとの間は、以下の関係となる。
1 d=1.111 dtex
1 dtex=9/10 d
デシテックスをデニールと比べると、基準長が100m長くなった分だけ、やや細い数値となる。 texよりも、dtexの方が、むしろ、一般的に使われているようだ。
このISOの動きを受け、日本化学繊維協会が、1999年10月より、繊維の太さの単位として、デニールの使用から、デシテックスに統一することにしたようだ。 このことから、デシテックス dtexは、主に、化繊の分野で使われている単位と言う。 でも、従来のデニールも、当分は使われるようだ。
一方、絹糸などでは、伝統業界の慣習もあるだろうか、デニールが主で、デシテックスは、殆ど使われていないという。
糸類の太さについては、他に、恒重式表示の「番手」など、色々な単位や表現があるようだが、本稿ではここまでとしたい。
◎ 糸の太さの計測
前稿では、
“生糸や化繊などでは、繊維が極めて細く柔らかで、断面が不均一で、直径を、直接、計測するのは難しいので、糸の太さを表すのに、デニールといった単位が使われている“
と、一般に言われていることを引用したのだが、果たしてどうなのだろうか。
ところで、現在、隣国中国で深刻な公害問題となっているpm2.5だが、日本国内でも、常時、計測監視されている、その悪玉微粒子pmは、2.5μm程の大きさと言われる。
このマイクロメートル(μm)という単位は、周知のように、
1μm=10-6m 100万分の1 m
=10-3mm 1000分の1 mm
である。
極めて細い大元となる糸の太さも、μmオーダーと考えられる。上記の、pm2.5に見られるように、粒子と繊維の違いはあるものの、この糸の直径を計測するのは、現在は、かなり正確にできると思われる。
極細の糸の太さ(繊径)を、直接、計測する方法について、ネットで、色々調べたら、レーザスキャン法というのが紹介されているサイトがあった。 残念ながら、このサイトの参照リンクを本稿に挿入することはできないのだが、この方法の概念図を、ページを印刷したものを再度取り込む方法で、以下に、引用させて頂く。
このような仕組みを、製造工程の中に組み込んで、糸の太さを計測することができれば、理想的だろうが、でも、そのための設備や手間等が、結構、大変になるだろうか。
◎ 商取引と糸の重量と太さ
直接、糸の太さを測定するのでなく、これに替えて、一定長の糸の重量を計測して、デニールや、デシテックスを用いて間接的に糸の太さを表現し、取引する、という現行のやり方には、当初は、やや驚いたことだ。
でも、ゆっくり考えると、筆者の私見だが、このやり方には、むしろ、糸の特性を捉えた、それなりの合理性がある、と言えるように思える。
なぜなら、製糸工場では、糸や繊維の製造工程の中で、取引上の客観性を持たせながら、長さを計測・表示するのは、いとも容易だろうし、又、糸の太さの多少のバラツキは許容した上で、取引での主要事項である使った材料の重量が、製品として、正確に分る事が重要と思われるからである。
これら、長さと重量の計測には、特別な設備は、殆ど要らないだろうか。
間接的に太さを表す、デニールなどの単位を使う合理性はなんとなく分ったのだが、目の前にある、糸の太さがはっきりしない、と言うのは、やはり、気になるものだ。
このためには、実際に計測する代わりに、計算で求めてチェックする方法がある。前述の、レーザスキャン法の記事中に、デニール数と、繊維の密度から、繊維の太さ(直径)を計算する、以下の公式が示されていた。
D=11.9√(d/ρ)
D(μm) :繊維の直径
d (g) :デニール
ρ (g/cm3):繊維の密度
◎ 計算式の導出
上記の式を見つけた当初は、どうしてこのような公式になるのか、見当が付かなかったのだが、デニールの定義などを調べながら検討して行くうちに、どうやら分って来た。 やや詳細に亘るが、以下に示す。
糸(繊維)の直径をD(半径rの2倍)、繊維材料の密度をρとすると、糸の重量は、
重量=体積×密度
=断面積×長さ×ρ (断面は円と仮定)
=πr2×長さ×ρ
=π(D/2)2×長さ×ρ
と表せる。
ここで、長さ9000mの糸の重量が1gの場合が、1デニールなので、一般に、dデニールの場合、前式は、以下のようになる。
d=π(D/2)2×9000×ρ
これから、繊維の直径Dを求めると
(D/2)2=d/(π×9000×ρ)
従って
D/2=√d/√(π×9000×ρ)
D=2√d/√(π×9000×ρ)
=2/√(π×9000)×√(d/ρ)-------①
=2/√(π×32×102×10)×√(d/ρ)
=2/(30√10π×√(d/ρ)
此処で、π=3.141とすると、デニールd、比重ρを変数とする、以下の式となる。
D=0.0119 √(d/ρ)
この式での単位は、長さはm、デニールはg、密度はg/m3となっている。
この式で、密度をg/cm3 にし、繊維の直径Dを、μmで求めると、定義により
Dμm =106Dm
ρg/cm3 =106g/m3
両辺の√を求めると √ρg/cm3 =√106ρg/m3
=103√ρg/m3
なので、前式で、この変換を行うと、以下のようになる。
Dμm=106×0.0119 ×√d/103√ρ)
=11.9√(d/ρ) d:デニール、ρ:g/cm3
得られたこの式は、ネットに出ている、前記の公式と同じである。
◎ 実際の糸の太さの計算
この式で、糸の太さを計算して見る。
ネットのあるサイトの情報では、材料は不明だが、糸の密度ρ=1.30g/cm3とあり、仮に、これを用いると、1デニールの糸の太さ(直径)Dは、
D=11.9×/√(1/ρ)=11.9/√1.3=10.4μm
同じ様に、2デニールの糸では
D=10.4×√2=14.7μm
となる。
前稿にあるように、繭糸の太さは、平均2.8デニールと言われ、密度が上記と同じと仮定すれば、実際の糸の太さは、
D=10.4×√2.8=17.4μm
となる。
又、前稿の例にある、60デニールのストッキングでは、同じ密度とすれば、糸の太さは、
D=10.4×√60=80.5μm
となる。
ネットでたまたま見つかった他のサイトでの計算では、糸の太さは、
1d→11.0μm
2d→15.55μm
1dtex→ 9.9μm
と、やや、太い数値となったが、計算式は確認していない。
取引等では、必要により、実際の糸の太さを、計算上で確認することが出来る訳である。