一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『アラバマ物語』

2008-08-10 | 乱読日記
休みを利用してようやくハーパー・リー『アラバマ物語』を読みました。

映画『カポーティ』→カポーティの小説『冷血』の流れで購入したものです。
ハーパー・リーはカポーティの幼馴染で『冷血』の取材旅行にも同行し、また上の映画では本作の大ヒット(と出来のすばらしさ)にカポーティがショックを受ける様子が描かれています。

原題は"To Kill a Mockingbird"。
1960年の作品で、ベストセラーとなり、1961年度のピューリツァー賞(フィクション部門)を受賞し、アメリカ文学の名作として今でも読み継がれているそうです。
また、グレゴリー・ペック主演で映画化もされています。

Amazonから届いたら、本の版型・装丁がペーパーバックと同じでちょっと驚き、出版社が暮らしの手帳社というのも意外でした。
また、400ページの二段組というボリュームにも恐れをなして、今まで後送りにしていたのですが読み始めたら一気に読了。
「いいものを厳選する」という暮らしの手帳社の選択眼はここでも健在でした(平成18年4月24日で35刷を重ねています)。


夏休みにオジサンの心の洗濯になるような良書でした。
正直言って、もっと早く、それも中学生か高校生の頃に読んでいてもよかった、と思いました。


物語は1930年前後のアラバマの田舎町を舞台にしています。
婦女暴行の罪に問われた黒人の弁護士の9歳の娘の視点から、黒人差別、大恐慌の影響、白人の貧困層、田舎の人々の因習などが描かれています。

テーマの普遍性やストーリー展開の見事さもさることながら、1960年の時点の常識や正義感から30年代のDeep Southを断罪することなく、あくまでも主人公である娘で語っているところがこの作品の魅力です。
「黒人差別はいけない」という大上段の構えでなく、また、「純粋な子供の視点」というようなステレオタイプな描き方でもなく、しばしば大人の言うことに反発したり素朴に疑問に思ったり、そもそも言うことを聞かなかったりする、好奇心旺盛で、意地っ張りで、でも気分が変わりやすく、そしてちょっと覚めていたりずるがしこいところもある9歳の女の子の視点から、ぶれずに一貫して描いているところです。

それが、本書を単なる昔話や道徳の本(あらすじだけ読むとそう思えます)でなく、時代を超えてリアリティを持って迫ってくるロングセラーにしていると思います。



コメント
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