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「北方文学」創刊80号記念号発刊(2)

2020年01月02日 | 玄文社

「北方文学」創刊80号記念号編集後記 

七月十六日に同人のさとうのぶひと氏が亡くなった。長い闘病生活の末の最期だった。故人の人徳を偲ばせるように同人外の方からも多く追悼文が寄せられ、追悼特集とすることができた。小説再録は全作家文学賞佳作の「遅れてきた、出家者たちでさえ」にしたかったのだが、紙幅の関係で第四十号掲載の「スバル・サンバートライホテル」にさせていただいた。略歴は夫人と友人の協力を得て編集部の責任で作成したが、もとより不十分なものと承知している。誤り等があればご指摘願いたい。

 八月二十日には本誌とも縁のあった長谷川龍生氏が亡くなった。「現代詩手帖」十一月号で小さな特集を組んでいるが、それだけの扱いに留めておけるような詩人ではない。本誌も小さな特集で供養としたい。

 十月十九日に東京池坊会館で開かれた、第三回全国同人誌会議に参加してきた。主催は二〇〇五年創刊の総合文芸誌「文芸思潮」と、愛知県を中心に十二の同人雑誌を糾合する「中部ペンクラブ」、後援は日本文藝家協会・中日新聞・東京新聞・三田文学・季刊文科である。テーマは「新たな創造エネルギーの発露へ――文芸復興をめざして」で、全国の同人雑誌に拠る表現者たちに対して結集を呼びかけるものだった。

〝文学の死〟が言われて久しいが、文学が死んだのは文芸ジャーナリズムの世界においてであって、同人雑誌においてではないという共通認識のもと、全国から約百五十人の参加があった。会場に展示された同人雑誌の数も五十誌をはるかに超えていた。ただし小説を主体としたものが多く、詩誌は含まれていない。

 三田誠広氏の講演や基調スピーチ、シンポジウムなど多彩な内容であったが、まずは主催者の方々の熱意に打たれた。文芸ジャーナリズムから同人雑誌の方向へと〝文学〟を奪還しようとする熱意にである。そればかりではなく、〝活字離れ〟やIT文化の蔓延など、抗うべき多くの障害を乗り越えていこうという熱意にも。

 小説を主体とした雑誌が多い中、評論に特化した東京の「群系」という同人誌の代表、永野悟氏とお話しした。「北方文学」も評論のウエイトが高く、方向性に近いものを感じたからだ。「群系」は日本の近代文学にターゲットを絞り、毎号特集を組む充実ぶりで、一般誌に負けない内容を誇っている。今後の交流を約束し、早速今号に紹介文を書いていただいた。

「文芸思潮」は第七十三号で、「北方文学」前号を取り上げ、「流行や当世の浮薄な傾向や形にとらわれず、自由に奔放に書き紡いでいるところに、文学の真の翼を保持した矜持が窺われる」と編集長の五十嵐勉氏が評してくださった。光栄である。また前号の柳沢さうび「かわのほとり」について氏は、「当今これだけの描写力を持った作家がいるかと思われるほどの卓抜した筆である。このような書き手がいることは大きな喜びである」と評価し、優秀作として「文芸思潮」に転載されることが決まった。今後の展開を楽しみにしたい。

 ほとんどの同人が顔を揃えた今号は、「創刊八十号記念」の名に恥じないものになったと思う。これからも文学の死骸を乗り越えて先に進んでいきたい。(柴野毅実)

「文芸思潮」73号での評価