教育のヒント by 本間勇人

身近な葛藤から世界の紛争まで、問題解決する創造的才能者が生まれる学びを探して

学校現場の法化現象強まる

2007-11-01 03:17:44 | 文化・芸術
10月31日22時13分配信の毎日新聞によると、

<江戸川学園取手中学・高校(茨城県取手市)の在校生らの父母が「特色ある教育を一方的に変更され苦痛を受けた」として、学校法人江戸川学園に約2460万円の賠償などを求めた訴訟で、東京高裁は31日、請求を棄却した1審判決を変更し、480万円の支払いを命じた。柳田幸三裁判長は「入学後の教育内容変更は、親の学校選択の自由を違法に侵害している」と述べた。同校は論語の講話を速記させ感想文を書かせる道徳授業など独自の教育をしていたが、校長が04年7月に解任され、廃止された。これに対し、在校生や卒業生、教育方針変更で転校した生徒計24人の父母が提訴していた。・・・また、原告側は学校との在学契約を根拠に授業復活も求めていたが、判決はこの点については1審同様「契約当事者は生徒で、親ではない」と退けた。>という。

★かつて、「私学の危機管理戦略【1】」で、「私学の危機管理戦略は、学びの戦略、経済の戦略、リーガルマインド戦略の3側面から構築されねばならない時代を迎えているのだ。」と書いたが、今回のケースは3つ目のリーガルマインド戦略の1つ。

★具体的には、次の7つがあげられる。

①教育基本法改正に象徴されるように、私学は国から圧力がかかる危機がある。

②未履修問題のように、本来管轄外の文部科学省や教育委員会からの圧力がかかる危機がある。

③マスコミによる私学のスキャンダルを記事にしようという圧力がかかる危機がある。

④少子高齢化に伴うリストラに直面している教員から経営陣に対する労働争議の危機がある。

⑤教師と生徒間の学校事故の危機がある。

⑥生徒間の学校事故の危機がある。

⑦保護者による教育内容不履行という損害賠償請求の危機がある。

★今回の江戸川取手の法的問題は、7つめの問題である。同紙で、<木内英仁・江戸川学園理事長の話 承服できず上告する。学校の教育の自由にかかわり、憲法問題として最高裁に判断してもらう必要がある。 >と語っているようだ。

★この問題は難しい。新聞だけの情報では、全く判断がつかない。とにかく、校長の授業といえども、学校の1教師の授業だから、その教師の教育活動がなくなったからといって、教育内容の変更が起きたと判断するかどうかは難しいだろう。私立学校は教育理念に基づき、基本的にはそれにしたがって、授業を創意工夫するのは教師の自由裁量である。今回教育理念の変更があったわけではない。道徳教育をしっかりとベースにしている教育活動は不易流行なはず。教育内容の変更があったと判断してよいのかどうか・・・。

★また契約当事者は確かに生徒であるが、日用品を買っているわけではないから、未成年である生徒のみが当事者だろうか。後見人としての保護者の位置づけはどうなのだろうか。

★今回の江戸川取手の訴訟は、争点は本当は別の所にあったのではないか。教育内容の変更というのは訴えの利益を構成するための方便だったのではないか。本来はコミュニケーションの問題だったものが、何かの行き違いでこじれたのではないだろうか。

★訴訟という段階になってしまったから、これはこれで双方があくまで法的にだが納得いくまで議論するしかないだろう。

★しかし、学校選択の自由と教育の自由のジレンマ問題であり、教育に関して保護者が真剣に考え、モンスターペアレントではなく、法的技術を駆使できる時代を日本も迎えたことは確かで、私立学校の教師にとって、法化現象に対する危機管理の見識ももたねばならぬ時代なのである。