このビギナーズクラシックシリーズの「古事記」(角川文庫)は、解り易くて面白い。
著者は、武田友宏氏(現在、國學院大學文学部日本文学科講師)。
現代訳の後に原文の書き下し文が載っていて、そのまま読んでいくと内容が良くわかると同時に、原文の雰囲気も味わえる親切な構成になっている。
終わりには面白い資料も載っていて、初めから終わりまで気軽に読み通せる。
ところどころに挿入されているコラムには、結構興味を引く文章が載っている。
古代の日本では、「八」は最高の神聖数だったらしい。
「古事記」を読んでいると、かなりの数の八に関する言葉が出てくる。
大八島、八百万(やおよろず)、八千矛、八雲立つ、八重垣、八咫烏(やたがらす)、八尺鏡(やたかがみ)などなど・・・。
中国人も縁起の良い数字の「八」が好きらしく、北京オリンピックの開会式が2008年、8月8日、午後8時にスタートしたのも面白い。
日本武尊の東征の際、走水の海(浦賀水道)を渡る段で、荒海を鎮めようと「弟橘比売命(おとたちばなひめのみこと)」が入水するが、七日の後に御櫛が海辺に流れ着くという文章のところなど、読んでいるとぐっと胸をしめつけられる思いがする。
その書き下し文をそのまま載せてみる。
其(そこ)より入り幸(い)でまして、走水海(はしりみずのうみ)を渡ります時に、其の渡神(わたりのかみ)浪を興(た)てて、船(みふね)を廻(もとほ)して、え進み渡りまさざりき。
爾(ここ)に其の后名は弟橘比売命の白(まを)したまはく、「妾(やつこ)、御子に易(か)はりて海に入らむ、御子には遺(つか)はさえし政(まつりごと)遂げて、覆(かへりごと)奏(まを)したまはね。」とまをして、海に入らむとする時に、菅畳八重、皮畳八重、きぬ畳八重を波の上に敷きて、其の上に下り坐(ま)しき。
是(ここ)に其の暴(あら)き浪自(おのづ)から伏(な)ぎて御船え進みき、爾に其の后の歌日(よ)みしたまいく、
さねさし
相模の小野に
燃ゆる火の
火中に立ちて
問ひし君はも
故(かれ)七日(なぬか)の後に、其の后の御櫛(みくし)海辺に依りき。
乃(すなは)ち其の櫛を取りて、御陵(みはか)を作りて治(おさ)め置きき。