毎日が観光

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先週の読書

2008年06月09日 07時21分14秒 | 読書
奥泉光「坊ちゃん忍者幕末見聞録」     中公文庫
 現在奥泉光特集開催中。
 登場人物の寅太郎が「新・地底旅行」の丙三郎にだぶる。こういういい加減な人間の描き方がいい。
 主人公が倒れ、夢を見るあたりから時空が入り乱れ始めるところも面白い。
 暴力に対して、ヒロイックに立ち向かうことなく、逃げることに重きを置いている点もこの本のよさ。
 「おれがタオルで顔を拭いていると、黒船が来てええことがひとつだけあった、それはジャズが聴けることやと最初の男がいい、エリック・ドルフィーはやっぱりすごい、とりわけこのファイブスポットのライブは最高やと、流れていた音楽に耳を傾ける格好になって、坂本龍馬くんもそう思わへんかとおれにきくので、おれは坂本じゃないと答えた」
 それにしても、こないだ高橋源一郎の「官能小説家」で出てきたドルフィーがここにも出てくる。ちょっとした偶然、か。


奥泉光「滝」     集英社
 「その言葉を」「滝」の2編所収。
 「その言葉を」はジャズがテーマだが、そのものがジャズのアドリブのような文体で綴られていく、登場人物飛楽という存在の重さ。結構きました、これは。どーんと。いい小説だなあ。悲しくて、美しくて。
 一方「滝」はまったく趣の異なる、大変象徴性の強い作品で、厚めの文体が語っている内容と相まって独特の世界を形作っている。
 少年にこそストーリーはふさわしい。自らも含めて世界を意味づけしようとする少年はまさに神話的存在と言ってもいいだろう。


中沢新一「ミクロコスモスⅠ」   四季社
 刺激的。今まで考えていたことや感じていたことを形にしてくれるような本。ちょうど今読んでいるバルガス=リョサの「楽園への道」とつながる「文明」と「野蛮」との境界的グノーシスという考え方がとても面白い。
 まばゆい光によって陰影を失う内宮の祭神に対して、外宮にはそうしたグノーシスが存在していたという指摘はなかなかに興味深い。中世の豊饒な神話世界を支えたものの一つに外宮からの両部神道があったことを思い起こす。


奥泉光「蛇を殺す夜」   集英社
 「蛇を殺す夜」、「暴力の舟」2編所収。
 この2編はともに背景に民俗学的、あるいは宗教学的モチーフをはらみ、それが作品のすみずみに行き渡ると同時に作品の世界観ともなっている。いや、面白い。ここんとこ何冊か奥泉光の小説を読んできているが、これが今んとこ一番面白かった。
コメント
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