ダウンワード・パラダイス

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「これは面白い。」と思った小説100and more パート2 その③ 企業・経済小説

2023-08-11 | 物語(ロマン)の愉楽
 前回の山崎豊子『不毛地帯』(新潮文庫)から、偉大な女性作家の流れで繋ぐか、企業小説の流れでつないでいくか、二者択一で迷ったのだが、今回は後者のほうにしましょう。






☆☆☆☆☆☆☆




 企業小説といえば、岩波新書の近刊で、『企業と経済を読み解く小説50』なるブックガイドが出ている。著者は佐高信さん。






「高度経済成長期に登場した経済小説は、疑獄事件や巨大企業の不正など、多種多様なテーマを描き続けてきた。城山三郎『小説日本銀行』、石川達三『金環蝕』、松本清張『空の城』など、戦後日本社会の深層を描いた古典的名作から、二〇一〇年代に刊行されたものまで、著者ならではの幅広い選書によるブックガイド。」
 とのこと。


 以下、取り上げられた作品のリスト。


Ⅰ 巨悪の実態
原発利権
1 「原子力マフィア」の形成──『原子力戦争』田原総一朗
2 なぜ東電は潰れないのか──『ザ・原発所長』黒木亮
3 現役官僚による告発──『原発ホワイトアウト』若杉冽
4 電力の鬼と呼ばれた男──『まかり通る』小島直記
政財界の裏側
5 戦後最大級の疑獄事件──『小説佐川疑獄』大下英治
6 ロッキード事件の利益構造──『金色の翼』本所次郎
7 財界の総本山に迫る──『小説経団連』秋元秀雄
8 銀行に銀行を食わせる──『戦略合併』広瀬仁紀
9 使途不明金の明細書──『小説談合』清岡久司
10 汚職事件の曼荼羅図──『金環蝕』石川達三
11 インドネシア賠償需要の闇──『生贄』梶山季之
12 新興財閥と軍部の利権──『戦争と人間』五味川純平




Ⅱ 増大する資本と欲望
巨大資本をめぐる
13 外資系投資銀行の内幕──『小説ヘッジファンド』幸田真音
14 イケニエを決めたのは誰か──『ハゲタカ』真山仁
15 大口融資規制の暗闘──『頭取敗れたり』笹子勝哉
16 「物価の番人」の挫折──『小説日本銀行』城山三郎
17 予算編成の駆け引き──『小説大蔵省』江波戸哲夫
18 旧財閥に残る気風──『果つる底なき』池井戸潤
19 金融帝国のルーツ──『ザ・ロスチャイルド』渋井真帆
20 日本人発行のルーブル札──『ピコラエヴィッチ紙幣』熊谷敬太郎
欲望のゆくえ
21 触れてはいけない魔法のランプ──『小説総会屋』三好徹
22 「狙って潰せない会社はない」──『虚業集団』清水一行
23 ある闇金融の挫折──『白昼の死角』高木彬光
24 ローン破産という公害──『火車』宮部みゆき




Ⅲ 会社国家ニッポンのゆがみ
企業のモラルを問う
25 会社は誰のものか──『トヨトミの野望』梶山三郎
26 消費者vs経営者──『大阪立身』邦光史郎
27 経済大国の原罪──『19階日本横丁』堀田善衞
28 未知の商戦と孤独──『忘れられたオフィス』植田草介
29 日本人であること──『炎熱商人』深田祐介
30 取引先の破綻と回収──『商社審査部25時』高任和夫
31 安宅産業の消滅──『空の城』松本清張
32 「水潟病」の原因究明──『海の牙』水上勉
業界の深奥
33 金融資本としての生保──『遠い約束』夏樹静子
34 ホテルは社会の裏方──『銀の虚城(ホテル)』森村誠一
35 患者ファーストは可能か──『M R』久坂部羊
36 証券界と地下経済──『マネー・ハンター』安田二郎
37 量販よりも鮮度の保持──『小説スーパーマーケット』安土敏
38 食品加工業の暗部──『震える牛』相場英雄




Ⅳ 組織と人間
会社を告発する個人
39 自分の生き方を通す──『沈まぬ太陽』山崎豊子
40 現役記者の社長解任請求──『日経新聞の黒い霧』大塚将司
41 新聞は生き残れるか──『紙の城』本城雅人
42 研ぎ澄まされた感覚を保つ──『いつも月夜とは限らない』広瀬隆
43 ワンマン体制への叛旗──『管理職の叛旗』杉田望
44 組織内の不正を糺す──『会社を喰う』渡辺一雄
45 地位保全の訴え──『懲戒解雇』高杉良
社員という人生
46 死ぬくらいなら辞めていい──『風は西から』村山由佳
47 その人なりの価値基準──『ふぞろいの林檎たち』山田太一
48 社宅という残酷な制度──『夕陽ヵ丘三号館』有吉佐和子
49 「世間」に立ち向かう──『食卓のない家』円地文子
50 企業ぐるみ選挙の悲哀──『わが社のつむじ風』浅川純






☆☆☆☆☆☆☆






 錚々たるメンツではあるが、すでに新刊では入手できないものも多い。それに、経済・企業小説というのも裾野の広いジャンルだから、とうていこれで尽くせるものではない。そしてもちろん、仮にこういったフィクションを精読しても、それですべてがわかったことにはならない。現実ってものはさらにいっそう複雑怪奇で、生臭く、おぞましいものだ。
 ぼくはこのジャンルに手を出すのが遅かったため、あまり詳しくないのだが、それでも、このたび取り上げようと思っていた作品のなかで、何本かこのリストと被っているのがあった。
 すなわち、




15 炎熱商人 上 下 深田祐介 文春文庫
16 ハゲタカ 上 下 真山仁 講談社文庫
17 空の城 松本清張 講談社文庫




 『炎熱商人』は深田氏の直木賞受賞作。舞台はフィリピン。海外で奮闘する日本の商社マンを描いた古典として誰しもが名をあげる名作だ。氏の「※※商人」ものとしては、ほかに、若き日のデヴィ夫人を描いた『神鷲(ガルーダ)商人』、南米はチリが舞台の『革命商人』、北朝鮮の拉致問題をいち早く取り上げた『暗闇商人』がある。
 『ハゲタカ』は2度もテレビドラマ化されているのでご存じの方も多かろう。初めのドラマ化は2007(平成19)年で、まだライブドア事件の記憶が生々しい頃だった。
 『空の城』は、いわゆる安宅産業事件を描いたもの。清張さんの数多い作品の中からこれを選ぶのもどうだろう……とも思ったのだが、これも高校時代にみた山崎努・夏目雅子主演のNHKドラマ『ザ・商社』の印象が忘れがたいのだった。当時のNHKドラマ班は、原作・松本清張、演出・和田勉、主演・山崎努のトリオで社会の暗部を抉る問題作をいくつも送り出していた。




 あと、マネーの流れに興味があるので、黒木亮さんからは、『ザ・原発所長』でも、世評高い『エネルギー』でもなく、


18 巨大投資銀行 上 下 黒木亮 角川文庫


 を選ばせてもらった。


 佐高さんのリストにはないが、


19 マネーロンダリング 橘 玲 幻冬舎文庫


 も、情報量のきわめて多い金融サスペンスだ。


 そして、池井戸潤さんからはやはり、


20 オレたち花のバブル組 池井戸潤 文春文庫


 を。いわずと知れた『半沢直樹』の原作である。



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