花屋さん
家の近くに小さな花屋さんが開店した。以前、そこにはおばあちゃんが経営していた婦人用の小物の店があり、しばらくの間、閉店セールの紙が貼られていたが、ついに店内の小物が一掃され、ショーウインドウの向こうに、花籠がチラホラと並び始めていた。
そう若くはないお姉さんが二人、忙しそうに狭い店の中で仕分けした花束を、桶に並び替えている。花鋏を片手に水切りしていた年上に見えるショートカットの女性に話しかける、
―花束を造ってもらいたいのですが、小さな籠に入れて、三千円ぐらいで形になりますか?
―大丈夫ですよ、その値段なら、十分できますよ、どのような使い方をなさいます?
―喜寿のお祝いの花束なのですがー
―どのような雰囲気の方でしょう、なにか好みがおありですか?
難しい質問だが、それに反応し、こちらの口が勝手に喋り始めてしまった。
―奥様はきれいな方で、ブルーの洋服を着せたら、この辺りでは群を抜いているかも・・・
―は??? とこちらの顏を覗き込みながら、機嫌を損ねないよう、笑いをこらえるようにして、
―その喜寿の方は奥様ですか?
と念を押してくるので、すかさず返答する、
―いやー、先輩は男ですー
―はーい、わかりました、では、その先輩の好きそうな花は何かありますか?
―よくわかりませんが、バラなどいいと思いますが・・・、
―わかりました、好きな色はどうでしょうか?
―深い赤がいいと思います、品があり好きですが、サーモンピンクも好きです、ホワイトクリスマスも・・、どうしたことか父が庭で育てていたバラの名前ばかり浮かんでくる
ここで、さっきから尋ねてみたかったことを急に口走る、
―店の名前は、英語でhananatu、面白い名前ですが、何か謂れがあります?
―私の名前が夏子で、花屋にくっつけました、
ここで、これから頑張っていくわよ、と言わんばかりの気合の入った表情になった。
手渡された予約票を見てみると、
=はっきりした色のバラ、メイン= とボールペンで注意書きされている。
ダラダラとしゃべったが、患者さんの主訴を聴く医者のカルテのように、お客様の言いたいところを的確にキャッチして、その気持ちを花束にするのだろう。
予約された日、こちらが描いていた通りの豪華な花籠ができていた。
なかなかいいじゃないか、と満足しつつ、店を出ようとする背に向けて、サービスしておきましたから、と期待を込めた可愛い声が飛んできた。こんどは、家内の古希のお祝いかな、と艶やかな花籠に幸せをもらう。
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