< 第4話 > 飛行機の話
私の住まいは、首都であるポートモリスビーという文明が少し感じられる田舎町にあるが、現場は西側に約500kmほど離れている。途中、道路はなく、ジャングルのみ。物理的には、人食い土人の村から村を経由して行けないことはないが、現実的に現場への生存者は保障しかねる。そこで、頻繁に軽飛行機をチャーターすることになる。
このチャーターが少し問題。ご存知のようにニューギニアはオーストラリアの田舎的。気候・風土はオーストラリア本土に近いので、若いパイロットは腕を磨きに集まってくる。墜落しても、広がるのは密林・青い大海原、被害はパイロットと中古の愛機のみで、飛行訓練にはもってこいの場所である。ここで、オーストラリアの国営航空カンタスは、パイロット養成1年目の若者を、どしどし、このニューギニア上空に派遣してくる。彼らの練熟飛行訓練は、我々のような開発地区の調査隊のチャーター専用飛行。殆ど中古の単発、たまに、双発機もある。
彼らに言わせると、単発のセスナの操縦は難しく、ジャンボなんて簡単と豪語していたが、将来、ジャンボ飛行機のキャプテンになる優秀な見習い生が、我々についてくれるのを祈るのみ。乗客にとって、パイロットはやはり安心感を与える風貌が大切であるが、最初のパイロットは、見た感じは高校生ぐらい、運転免許取立ての坊やで、これからどうなるのか運を天に任せる。多分、オーストラリアでの日常感覚では、セスナは、日本でモーターバイクに乗る感じではないのかなー。我々の現地調査の成果は、本当に、彼らの腕にかかっているわけ。
調査地区は未開発地区で、当然、飛行場は無いが、近くには草原はある。この中でできる限り平らな場所を探し降りるだけ。草原ゆえに、離陸時は愛機は右に左に蛇行しながら懸命に地面をける。通常、早朝に出発し、日没前に予定し滑走路に着陸する計画を立てるが、時たま、仕事の都合上、日没すれすれになる。
どのようにして着陸するか。勿論、管制塔・侵入灯は無い。これに代わるものは、焚き火と自動車のヘッドライトである。目標地点に着陸予定時刻に、ラジオ無線で、滑走路に目印の焚き火を依頼する。この焚き火を目印に上空より高度を下げる。そして、予定滑走路端のトラックのヘッドライトをアッパービームにして点灯させ、草原を照らさせる。航空母艦に着艦する技術と比べると至極簡単かもしれないが、この反復練習は、パイロットの腕を上げるのに役立つだろうが、我々乗客はいつもジェットコースターの恐怖を味わい続けるのだ。
(日没近くなるとパイロットは焦る)
このセスナ機は人員の輸送には有効であるが、重量物運搬・定点観測等の作業は不向きであるため、別途、ジェットヘリをチャーターしてダムサイト、港湾サイトの調査を続けた。陸上の測量は、航空写真用の専用機を別途チャーターしたが、測量基準点の設置等にはヘリコプターで人員をジャングルに降下させなければならず、密林にローターが当たらないように、十分には高度を下げず、ロープを使っての着地も経験し、自衛隊顔負けの本格的演習であった。
(ヘリコプターの降下地点を探す。 中央右側に村落が見える)
でも、本当に怖い思いをするのは、ジャングルの迎え地点で何十分もヘリの到着を待っている時間帯。こちらは、通常、測量道具以外は空手(首借り族地区に入る時はライフルを持つ)。時々、獣・猿・鳥等々のけたたましい鳴き声、草木のざわめきが続くと、本当に、心臓がドキドキする。ターザン映画の中に入り込んだ気持ち。遠くに、ローターのエンジン音がとっと、とっとと聞こえてくると、救援隊が到着したとのような安堵感しきり。このような経験は、何回も続くと麻痺して、怖さを感じなくなるが、毎週、安全管理会議で事故を未然に防ぐ努力を重ねた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます