栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (162) ”カモメ”(Okubo_Kiyokuni)

2023年03月15日 | 大久保(清)

 カモメ

田園都市線の田奈駅近くの橋にさしかかるや、視野全体が白い鳥の乱舞に埋まってしまった。朝陽を浴びて白く輝く鳩の群れが中空を楽しげに飛びまわり、川面に降りたった仲間たちはクルッ、クルッと向きを変えながらゼンマイ仕掛けの鳥のように忙しく泳ぎまわる。この華やかな鳩の動きに目を奪われていたが、なんだか少し違和感を覚え始めた。鳩は水に浮かんで泳ぐだろうか・・・

目の前のフェンスにとまった灰白色の鳩をじっくりと観察し始めた。少し離れたとこでヒョコヒョコと歩く鳩と少し違う気もする。この鳩は赤いくちばしに赤い足、可愛らしいというよりも、どこか、剽軽な、とぼけた小さな目、この目の傍に、もうひとつ小さな目があるような黒っぽい羽模様がある、尾羽は黒や白や鼠色とそれぞれ色は違う。鳩たちに餌をやっているお婆ちゃんが得意げに教えてくれた。「今日のように晴れた日にはね、いつもやってきてここで遊ぶのよ、陸カモメという種類よ」 それから数週間たったころ、川のフェンス際に三脚をすえ、シャッターを切っているおじいさんに問うてみた。これは俗にいう陸カモメなのでしょうか? カメラのレンズから目を離した爺さんは、親しみのこもった顔でゆっくりと話し始める。これはねーユリカモメと言って、冬場に海の方から川に沿って上がってくるんだよ」ユリカモメはよく知っている名前である。まだ仕事をしていた頃、この名前の電車に乗り港湾局の現場事務所に何度も足を運んでいた。夢の島の護岸設計を担当していたが、東京湾の柔らかい土層の上に建設するため滑りやすく、頭を悩ませていた時のことが目の前に蘇ってきた。陸にいるので陸カモメとの名称で十分満足していたのだが、博学のおじさんに教えられたばかりに、散歩の心地よさが消えかけてきたのだが、パソコンで検索してみると、面白い発見をした。この鳥の和名はあの日本文学に登場する由緒ある『都鳥』と書かれている。和泉式部も詠みあげた、あの鳥とおなじらしい。十二単の絵巻物の世界で貴族たちが愛でた、その鳥の末裔が我が町の恩田川で平成の老人の目を楽しませている。そう想像するや、ユリカモメの可愛らしさがにわかに増してきた。今日もいつもの陽だまりでお婆さんがパン屑を投げ与えている。海でもまれて育った都鳥の動きはとても敏捷だ。鳩は豆鉄砲をくらったかのようにぱちくりして、カラスの軍団は川には近づけず電線にとまり、永年棲みつく鯉たちも口をパクパクしたまま餌をとられっぱなし。おっとりした川育ちの住人には少し迷惑かもしれないが、冬の一時、この白い軍団の乱舞は恩田川の散歩人にとって楽しみの一つになってきた。

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