栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (161) ”料理”(Okubo_Kiyokuni)

2023年03月03日 | 大久保(清)

料理の本

年の瀬になると、我が家の台所に必ず現れる本がある。それは『主婦の友』が発行した料理の本。家人の嫁入り道具で持ち込まれてから50年も経過しているためか、黄ばんだページはめくれ上がり、背表紙は消え失せ、装丁は崩れ、セロハンで何重にもとめられてかろうじて形をとどめている。表紙の色も飛鳥古墳の壁画なみに色褪せてきているが、家人はお正月料理をする際に、物覚えが悪くなったのか、今でも、必ず、お正月のページを開き復習をしてから料理にとりかかる。律儀というか、まだ覚えられないのか、よくわからない。使い込まれた料理本を眺めていると、まだ結婚してから日の浅いころを思い出してきた。帰宅して、夕飯のテーブルにつくと、なぜか茶碗蒸しがのっていた。嫁入り道具の食器セットには、茶わん蒸しの碗がついていたためなのか、母親に教えられたのか、旅館ではないのだから、そこまですることはないけどな、と思いつつも、美味しそうな顔をして、黙ってスプーンですくっていた。これは、おそらく、父親が欠かさなかった習慣であったのだろう、それに見慣れていた家人は、男というものは晩酌を嗜むものだと頭に刻みこまれたのかもしれない、毎晩、お燗をした酒が食膳に並べられた。歳をとると、小さな食堂で味わった懐かしい光景が蘇ってくる。結婚五十年、このくすんだ料理本には、彼女の想いがしみ込んでいるかもしれない。子供たちの誕生会、会社仲間を招待した夕食、夏の暑い日、冬の寒い、雪の降る日、こちらと喧嘩をして口をきかなかった日、・・・風邪を引き熱のある日、・・・・。彼女の胸の内を一手に引き受けて、黙って一緒についてきた、思い出がいっぱい詰まった本だろう。本のページの間には、様々なレシピが挟み込まれ、たくさんメモが書かれている。この本は彼女の人生そのものかもしれない、と思いつつ、指の動くままにページをめくっていると、巻末にあるはずのページが突然、姿を現した。

『主婦の友社』定価590円

献立とおかずの365日

昭和44年11月発行

そうなんだ、この本で今まで食わせてもらったのか、と、本に鼻を近づけて、昭和のかおりをあらためてかがせてもらった。

コメント
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