ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

2分の1の魔法

2020-08-20 20:47:20 | な行

はっはっは

2分の1、がこういう意味だとは!(笑)

 

「2分の1の魔法」73点★★★★

 

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かつて世界には「魔法」があった。でも、いまそれはもう消えかけている――

 

そんな現代に暮らすイアンは

優しいけれど、自分に自信がない内気な少年。

 

生まれる前に父を亡くした彼は

「一目、父に会いたい」という願いを持ちながら

母と、ちょっと変わった兄バーリーと暮らしている。

 

そんなイアンは16歳の誕生日に

かつて父が母に託したプレゼントを贈られる。

それは、なんと魔法の杖。

イアンの父は、才能ある魔法使いだったのだ!

 

父に一目会いたい一心で

魔法の杖を握ったイアンだったが――?!

 

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ディズニー&ピクサーの最新作。

開始早々、

「2分の1、がこういう意味だとは!」と

爆笑してしまいました(笑)

 

監督は

「カーズ」(06年)の脚本や「トイ・ストーリー3」(10年)のストーリー・アーティストを務め

「モンスターズ・ユニバーシティ」(13年)で長編監督デビューをした

ダン・スキャンロン。

 

監督自身が1歳のときに父親を亡くしていて

そのパーソナルな体験に基づいたストーリーだそう。

 

「もし、一日だけ父に会えたら、どんな体験だろう!

――そんな発想を展開させ、

気弱な少年と、超キャラ立ちな兄を対比させ、

 

ハラハラの冒険を通して

少年の成長、そして大切な存在への気づきへと昇華させていく。

 

知恵とテクを極めたエンターテインメントの最高峰

ピクサーの才力の集結に

やっぱり感嘆してしまうのでありました。

 

なんといっても

いまや陰謀説のごとく怪しい「魔法の時代」を信じ、

「呪文」や「スポット」に詳しい魔法ヲタで、

いわゆる”痛車”を乗り回し

それでも、内気な弟を見守る

兄貴バーニーがいいんですよねえ。

 

ちょっと

「デッドデッドデーモンズデデデデストラクション」(by浅野いにお)の

凰蘭の兄貴みたいで(笑)

 

こんな時代、こんな夏休みにこそ

ぜひ家族で楽しんでいただければと思います。

 

★8/21(金)から全国で公開。

「2分の1の魔法」公式サイト

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ファヒム パリが見た奇跡

2020-08-14 23:53:32 | は行

ジェラール・ドパリュデューが、いい!

 

「ファヒム パリが見た奇跡」73点★★★★

 

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2000年代初頭

政変が続くバングラディッシュに生まれた

8歳のファヒム(アサド・アーメッド)は

チェスの才能に恵まれていた。

 

しかし、親族が反政府組織に属し、

またファヒムがちょっとした有名人になったことで

一家は脅迫を受けるはめに。

 

身の危険を感じた父は家族を守るため、

ファヒムを連れてフランスへと逃れる決意をする。

 

なんとかパリにたどり着いた父子は

難民として困窮しながらも

チェスのトップコーチ、シルヴァン(ジェラール・ドパリュデュー)に出会い

指導を受けることになる。

 

チェスのトーナメントを目指すファヒムは

さらに才能を開花させていくのだが――?!

 

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これは、想像以上によい作品でした。

 

バングラディシュから

フランスに逃れた実在のチェス天才少年の物語。

 

チェス勝負のドキドキももちろんあるけれど

しかし、単なる才能ある少年の成功譚、ではなく

難民の事情をリアルに写し、

 

光あたる彼のような人物の、その奥にいる多くの人々の

助けを求める声を確かに感じるのが、いい。

 

 

バングラディッシュを逃れて

なんとかパリに到着した、ファヒムと父。

いくあてなく、ベンチで寝る父子に

すぐに手を差し伸べるフランスの赤十字スタッフに、まずグッとくる。

 

「国」は「誰か」のものじゃない。

だからまず、目の前で困ってる人をヘルプし、受け入れるって感じで

このフランスの姿勢に、瞬間、泣けた。

 

実際にファヒムが入国したのは、2008年で

いまのフランスの最新の状況や国民感情の心根は、正直わからないですけどね。

 

 

で、「単なるチェス天才の話じゃない」というのは

父と子の「難民」としての状況がしっかり描かれているから。

 

てか、伝えたかったのは

そっちじゃないかなあ、と思う。

 

チェス教室に通いながらスルスルとフランス語をマスターし

異国に順応していく8歳のファヒムに対し、

お父さんは、なかなか言葉を憶えられない。

チェスをファヒムに教えたのはお父さんで、自国ではちゃんとした仕事についていたのに

フランスではなかなか職に就けない。

 

この世代間のギャップ、お父さんの辛さに

「ううっ」ときてしまう。

 

それでも身を賭して、子の未来のために

すべてを投げ打ってここまで来たお父さん、偉すぎる!

 

父とファヒムが難民申請の手続きをするシーンが実に印象的なんですよね。

 

フランス語を解さない彼らのために、インド人の通訳がつくんですが

その彼が、フランス語を正しく訳さないんですよ。

それゆえに、父と子は申請が通らない。

その後、ファヒムが言葉をするするとマスターしたために

そのことが判明する、という。

 

その状況にもあぜんとしたのですが

インド人通訳が、ある理由からわざとそうしたことをしている、と知り

「ああ、これが現実なのか」って。

 

難民たちの、助けを求める声が

映画から伝わってくるんです。

 

ファヒムにチェスを教える

無愛想ながら懐深いコーチ役、ジェラール・ドパリュデューがまたよくて。

彼もさまざまを経た、その思いで

この役を背負ったんじゃないかなあ、と

深読みしてしまうのでありました。

 

ま、シンプルに、ファヒムくんかわいいし、勝負もハラハラだし

楽しめますw

 

★8/14(金)から全国公開。

「ファヒム パリが見た奇跡」公式サイト

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もったいないキッチン

2020-08-08 15:19:57 | ま行

ほんわか優しく、明るいタッチがいいね!

 

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「もったいないキッチン」71点★★★★

 

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捨てられる運命の食材を救済し

美味しい料理にする試みを追ったドキュメンタリー「0円キッチン」(15年)

オーストリア人監督ダーヴィッド。

 

公開時の日本プロモーションで通訳をした

ニキさんとパートナーとなり、

このたび二人で

日本の「もったいない」事情を探る旅に出た、のが本作です。

 

ほんわか&よっこら、なムードで

問題提起!改革!とか怖い感じはまるでなく

明るく楽しみつつ、何かを得られるドキュメンタリーです。

 

 

まだまだ食べられる食品が

消費期限切れなどで大量に廃棄されている、という現実は

多くの人が知っていると思う。

だから

「スーパーで買い物をするとき、奥にあるパンや牛乳から取るのはダサい」と思うし

できるだけロス削減を実践しようと、

ワシも含め多数が意識してるんじゃないかな、と感じている。

 

なのでまず、この映画を観て

数年前と比べると、廃棄食品事情はかなり周知され、

アクションを起こしている人もかなり多いんだ、ということに、

希望と喜び、驚きがありました。

 

家庭の冷蔵庫の抜き打ちチェックでも、けっこう無駄がなかったり

食材を無駄にしない農家レストランや

住職の作る驚きの精進料理などなど

福島から鹿児島まで、さまざまな人が、がんばっている。

意識は変わりつつあるんじゃないかなと。

 

が、それでも

日本人全員が1日おにぎり一個を捨てている計算になるそうで、

まだまだできることはあるなと考えさせられた。

 

一番感じたのはやはり

いち消費者の意識だけではなかなか改革できない

「売る側」の廃棄事情。

 

企業は「お客さまが要望するから」と、

安全性を考えて消費期限を設定するし、

 

コンビニも「安全のため」、期限切れの食品をどんどん捨てる。

さらに「欠品恐怖症」ゆえ、どんどん補充され

またどんどん捨てる、というロスの悪循環。

 

作ってる人、売る人、買う人

当事者一人一人は決して悪人じゃないし

食べ物を捨てたいなんて思っている人はまずいないんですよね。

 

それでも企業は

クレーム恐怖症、事故恐怖症、欠品恐怖症に陥ち入りすぎてないかと。

で、それをさせたのは、まぎれもなく消費者である我々なんだと

観ながら思いました。

 

しかし我々はもう、変化を受け入れる準備はできているのではないか。

「食べものを捨てることに、罪悪感がない人はいない」というナレーションのとおり

この精神を失くさず次へ行こう!と

明るく、思えるのでありました。

 

まずはパンも牛乳も手前から買おう・・・買わねば・・・

 

★8/8(土)からシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

「もったいないキッチン」公式サイト

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ジョーンの秘密

2020-08-07 21:19:18 | さ行

実話なのか!と驚くほど

エキサイティングなミステリー。

 

「ジョーンの秘密」74点★★★★

 

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2000年のイギリス郊外。

 

夫に先立たれたジョーン(ジュディ・デンチ)は

ガーデニングをしながら、日々穏やかに暮らしている。

 

が、ある日

ジョーンは突然やってきたMI5に逮捕されてしまう。

容疑はかつてソ連に機密情報を流した

スパイ容疑だという。

 

弁護士の息子(ベン・マイルズ)も

「何かの間違いだろ?」と唖然とするなか

MI5による取り調べは、1938年に遡っていく。

 

当時、物理学を学ぶ優秀な学生だったジョーン(ソフィー・クックソン)は

ある人物との出会いで、思わぬ職場に就くことになる。

 

それは、イギリス国内で核兵器開発をする極秘機関での

事務員の仕事だったが――――?!

 

******************************

 

2000年、イギリスで過去のスパイ容疑で逮捕された老女。

夫亡き後、ガーデニングをしながら

ごく普通の暮らしをしている彼女にかけられた容疑とは――――?!

 

と、ミステリー小説顔負けの、実話がもとです。

 

もちろん主演・ジュディ・デンチの風格あってこそ、の映画ですが

映画の3分の2は若きジョーンを演じる

ソフィー・クックソンが担当してる感じ。

で、彼女がまた、いいんです。

 

意志の強さを感じさせる眉毛と瞳が

高潔な正義感を漂わせ、デンチの面影を写している。

 

で、驚きのストーリーはというと

1940年代、男性社会の「陰」にされていた女性が

実は世界を動かすほどの、ものすごい事を成していた――――というもの。

 

男性の陰に隠れてきた凄い女性、の話は

アートや文学の分野では、多く聞いてきたけど

理系ものでは

「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(14年)

キーラ・ナイトレイが演じた暗号解読者とか

(観てたときは実在の人物だと知らなかった・・・)

 

NASA開発に携わった実在女性たちの物語

「ドリーム」(16年)

で改めて「そうだったんだ・・・」と、知った気がする。

 

で、本作の主人公ジョーンは、スパイというより

理系才能の持ち主で

 

1938年から原爆の製造に関わり

さらに、その製造法をソ連に流した罪で

2000年に逮捕された、という人物なんですね。

 

そして本作は

彼女がそれをした理由を明かしながら

 

突出した頭脳を持ちつつも

男性の陰にならざるを得なかった女性のモヤモヤや人間としての正義感に加え、

彼女の愛の苦悩と葛藤がふんだんに盛り込まれている――という構成。

 

かなりラブストーリーに傾いているけど

でも、それが逆にうまくいっている、という

絶妙なバランスの映画なんです。

 

80代のジョーン演じるデンチが

「いまある平和は、自分のおかげ」と語るシーン。

その矜持をおもわず口にするシーンは重く深く

 

最高の頭脳を封じ込めざるを得なかった苦痛が

複雑にのしかかってきて、しびれました。

 

そして若き日の賢いジョーンの立ち振る舞いは

(ゆすりのネタも含めて。苦笑)

うむ、やるな、と思うのでありました。

 

★8/7(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「ジョーンの秘密」公式サイト

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ハニーボーイ

2020-08-06 23:47:31 | は行

ノア・ジュプ、やっぱいいすねえ!

 

「ハニーボーイ」74点★★★★

 

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若くしてハリウッドスターとなった

22歳のオーティス(ルーカス・ヘッジズ)は

ストレスからかアルコールに溺れ、自動車事故を起こしてしまう。

 

逮捕された彼は、更生施設でリハビリを受けることに。

 

カウンセラーから

「自分の想い出をノートに書いて」と言われた彼は

封印していた過去の記憶を遡り始める。

 

まっ先に思い出すのは、父のことだ。

1995年。12歳のオーティス(ノア・ジュプ)は子役として働き、

そのギャラで父(シャイア・ラブーフ)を養っていた。

 

過去を思い出すうち

22歳のオーティスは自身の問題の根っこに

父との関係があると気づく。

 

が、いっぽうで父との日々は、

光に溢れ、輝くものでもあったのだ――――。

 

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ハリウッドの子役として生計を支える

聡い12歳の少年と

アルコールに溺れるダメなステージパパの物語。

 

というと、ままありそうな感じなんですが

まず、絵がすごくいい。

 

触感を大事にするような、繊細な光と

エモーショナルを盛り上げる絶妙な音楽。

 

ドキュメンタリー分野で活躍してきた

アルマ・ハレル監督の、独特の映像美が光ってます。

(監督の短編「jellywolf」、YouTubeでも観られるので、ぜひ)

 

その映像に収められた主演ノア・ジュプの

切なく、無垢な愛おしさがたまりません。

「ワンダー 君は太陽」(18年)で主演ジェイコブ君の向こうを張って

超・印象的だった彼。

 

「フォードVSフェラーリ」(20年)でも

クリスチャン・ベイルの息子役で、印象深かった彼が

瑞々しく、主演をはっております。

 

さらに、成長した彼をルーカス・ヘッジズが演じるなど

実に旬。

 

と、映画的にも光ってるんですが

さらにこの話が劇中で、ダメ親父役を演じるシャイア・ラブーフの

自伝的な物語なのだ、と知ると

より胸がギュッと絞られるんですよ。

 

「トランスフォーマー」シリーズでも知られ

子役からスターとなった彼ですが

しかし問題行動を多発し、逮捕されたりと

いろいろお騒がせ人物だった。

 

その彼が、リハビリのために「自身のPTSDを探る」目的で

セラピストに言われて書いたのが、本作の脚本なんですね。

こんな過去があったなんて知らなかった。。。

 

自ら、自分を苦しめた父親を演じるって、

どんだけの精神力なんだろう。

その意欲に、敬意を感じてしまう。

ラストに写る、実父の写真と、ひたいをはげ上がらせた自身が

そっくりなのも、泣けた・・・。

 

シャイア・ラブーフって

「ウォール・ストリート」(2011年)とかでも演技派だなあとは知ってたけど

最近の彼の「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」(20年)

めちゃくちゃよくて

いろいろふっきれたのか、いい俳優になったなあ!と

感動してたのですが

 

まさに「ザ・ピーナッツ~」撮影中に何度目かの事件を起こし、

公開が延期されてしまったことで

そこに大いなる反省があったんだそうです。

 

一念発起しての、この作品、ということを知ると

またまたジーンとくるのでありました。

 

発売中のAERA「いま観るシネマ」で

アルマ・ハレル監督にインタビューさせていただいております。

獄中ならぬ、リハビリ施設中のシャイアから

「監督してほしい」と連絡を受けたそうで

その信頼関係が、どこに起因するのか。

伺ってますので、ぜひ映画と併せてご一読くださいませ~!

 

★8/7(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「ハニーボーイ」公式サイト

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