ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ファヒム パリが見た奇跡

2020-08-14 23:53:32 | は行

ジェラール・ドパリュデューが、いい!

 

「ファヒム パリが見た奇跡」73点★★★★

 

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2000年代初頭

政変が続くバングラディッシュに生まれた

8歳のファヒム(アサド・アーメッド)は

チェスの才能に恵まれていた。

 

しかし、親族が反政府組織に属し、

またファヒムがちょっとした有名人になったことで

一家は脅迫を受けるはめに。

 

身の危険を感じた父は家族を守るため、

ファヒムを連れてフランスへと逃れる決意をする。

 

なんとかパリにたどり着いた父子は

難民として困窮しながらも

チェスのトップコーチ、シルヴァン(ジェラール・ドパリュデュー)に出会い

指導を受けることになる。

 

チェスのトーナメントを目指すファヒムは

さらに才能を開花させていくのだが――?!

 

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これは、想像以上によい作品でした。

 

バングラディシュから

フランスに逃れた実在のチェス天才少年の物語。

 

チェス勝負のドキドキももちろんあるけれど

しかし、単なる才能ある少年の成功譚、ではなく

難民の事情をリアルに写し、

 

光あたる彼のような人物の、その奥にいる多くの人々の

助けを求める声を確かに感じるのが、いい。

 

 

バングラディッシュを逃れて

なんとかパリに到着した、ファヒムと父。

いくあてなく、ベンチで寝る父子に

すぐに手を差し伸べるフランスの赤十字スタッフに、まずグッとくる。

 

「国」は「誰か」のものじゃない。

だからまず、目の前で困ってる人をヘルプし、受け入れるって感じで

このフランスの姿勢に、瞬間、泣けた。

 

実際にファヒムが入国したのは、2008年で

いまのフランスの最新の状況や国民感情の心根は、正直わからないですけどね。

 

 

で、「単なるチェス天才の話じゃない」というのは

父と子の「難民」としての状況がしっかり描かれているから。

 

てか、伝えたかったのは

そっちじゃないかなあ、と思う。

 

チェス教室に通いながらスルスルとフランス語をマスターし

異国に順応していく8歳のファヒムに対し、

お父さんは、なかなか言葉を憶えられない。

チェスをファヒムに教えたのはお父さんで、自国ではちゃんとした仕事についていたのに

フランスではなかなか職に就けない。

 

この世代間のギャップ、お父さんの辛さに

「ううっ」ときてしまう。

 

それでも身を賭して、子の未来のために

すべてを投げ打ってここまで来たお父さん、偉すぎる!

 

父とファヒムが難民申請の手続きをするシーンが実に印象的なんですよね。

 

フランス語を解さない彼らのために、インド人の通訳がつくんですが

その彼が、フランス語を正しく訳さないんですよ。

それゆえに、父と子は申請が通らない。

その後、ファヒムが言葉をするするとマスターしたために

そのことが判明する、という。

 

その状況にもあぜんとしたのですが

インド人通訳が、ある理由からわざとそうしたことをしている、と知り

「ああ、これが現実なのか」って。

 

難民たちの、助けを求める声が

映画から伝わってくるんです。

 

ファヒムにチェスを教える

無愛想ながら懐深いコーチ役、ジェラール・ドパリュデューがまたよくて。

彼もさまざまを経た、その思いで

この役を背負ったんじゃないかなあ、と

深読みしてしまうのでありました。

 

ま、シンプルに、ファヒムくんかわいいし、勝負もハラハラだし

楽しめますw

 

★8/14(金)から全国公開。

「ファヒム パリが見た奇跡」公式サイト


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