ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方

2020-03-12 23:59:02 | は行

慌てず、一呼吸、おいてみる。

この映画から学んだことで、いま、ものすごく精神が安定している。

ぜひ、観てほしい!

 

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「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」74点★★★★

 

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大都会ロサンゼルスに住む若夫婦ジョンとモリー。

ジョンは動物写真家で、モリーはカラダにいい料理を紹介する料理家。

 

二人はある事情から「自然のままの農場」を作ろうと

郊外に移住することを決意する。

 

だが、夫婦がたどり着いたのは

東京ドーム17個分もの面積のある、しかし荒れ果てた土地だった――。

 

草木も生えないような土地を開墾し、

理想の農場を作るべく奮闘する夫婦の8年間を

夫が撮ったドキュメンタリーです。

 

まず

8年の奮闘を91分に凝縮し、

素晴らしくまとめたことに拍手したい!

 

それに

自然に囲まれたステキな田舎暮らし・・・・・・

とかを想像すると、まったく甘くないんです。

 

その苦難の道のりはあまりにも奇跡で、ドラマチックで

生も死も生々しく、だからこそ美しい。

これは動物写真家である夫ジョンでならではの

公平で、冷静な視線ゆえだと思う。

 

 

最初、荒れ地を前に、観客も夫婦も呆然とするけれど

 

妻モリーが「自然農法の伝道者」ともいうべき師匠を見つけたことで

1年目は驚くほど開墾が進むんです。

 

「あの荒れ地を、よくぞここまで!」と思いきや、

驚きの出来事が起こり、農場は少しずつコントロールを失っていく。

 

度重なるコヨーテの襲撃で

ニワトリが惨殺され

自然のままにたわわになった果実は

ムクドリの襲来で売り物にならない。

 

さらにカタツムリの大量発生、アブラムシの発生・・・・・・

夫婦を襲う試練の連続はあまりに酷く

見ているこちらが「もう、やめませんか?」と、投げ出したくなるほどなんです。

 

 

しかし、夫婦は諦めない。

そして夫婦が気づき、実践していく「解決法」と、それがもたらす結果はまさにアメージング!

それはいま、ウィルスの脅威にさらされる世界にとっても

実に示唆的だと思う。

ぜひ、観てほしいんです。

 

 

それにしても。

23歳のころから、ずっと田舎暮らしに憧れ続けているワシ。

正直「いつかは。。。」と

ドリーミングな理想を描いていましたが

やはり無理かもしれない・・・・・・と、この映画で思わされた。

 

だって自然に近いことはすなわち

生と死を直視することなんだものね。

獣害とかに、対応できないよ、とても(泣)。

 

現実を知り、いまできることを見せてくれる、という意味でも

重要な映画でした。

 

★3/14(土)からシネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN PLACEほか全国順次公開。

「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」公式サイト

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酔うと化け物になる父がつらい

2020-03-08 17:07:08 | や行

思い出したのは

「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」(10年)です。

 

「酔うと化け物になる父がつらい」70点★★★★

 

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ある地方都市に暮らす、田所一家。

サラリーマンの父(渋川清彦)と専業主婦の母(ともさかりえ)、

小学生のサキと妹の4人家族は

一見、ごく普通の一家・・・・・・だった。

 

父がいつも酔っ払っていることと、

母が新興宗教にのめり込んでいることを除けば。

 

やがて高校生になったサキ(松本穂香)は

相変わらず日々、酔っ払っている父にうんざりしていた。

 

そんななか、シャレにならない父の話をマンガに書いてみたところ

親友やクラスメートに好評。

そして

サキはマンガを描くことを、心のより所にしはじめるが――。

 

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いや~、これはタイトルを聞いただけで

尻込みしちゃいそうですが

でも、それではもったいない気がする。

 

普通ならシャレにならない話、しかも実話を

電球色のタッチで

よく描き切ったなあ、というのが率直な感想です。

 

いや、決して「いい話」や、あったかい家族話じゃないし

実際、シビアですが

 

ところどころにコミカルさをもたせ

目を背けずに、観られる風合いを持ち続けたことによって

この映画は

ダメな人間を断罪するだけでは得られない、

何かを伝えてくれるかも、と思えたんですよね。

 

それに酔っ払って正体をなくしても

このお父さんは、家族に暴力を基本、振るわない。

そこが救いだった。

(原作コミックも拝見しましたが、実際「1度きりだった」そうでホッとした)

 

主役の松本穂香さんもすごくよいですが

父親役の渋川清彦氏が

ダメでしょうがないけれど、憎みきれないお父さんを、まあ見事に演じていて

 

娘たちに服を脱がされて

「おいはぎ~!」と抵抗する様子とか笑ってしまうし

 

「いっとき、いろいろを忘れるために、

(酒に)頼っちゃうんだよねえ・・・・・・」というつぶやきは

わかる・・・・・・と身に染みすぎた。

 

人間は弱いもの。

自分だって足を踏み外す可能性は大いにあるし

酒に限らず、ギャンブル、薬物――家族の問題を抱える人はたくさんいる。

 

でも、自分のことも家族のことも

そういう「負」の部分を人に話すことって

なかなかできるもんじゃない。

 

そうした人たちに

「ああ、おんなじだ」と思ってもらえるように

原作も、この映画も、作られたのかなと思うのでした。

 

というようなことを

パンフレットにも寄稿させていただきました。

映画館でお手にとっていただければ幸いです。

 

それにしても。

原作コミックを探しに、本屋さんに行ったのですが

「コミックエッセイ」の棚が、あまりに壮絶なタイトルだらけで

かなりびっくりしてしまった。

虐待、毒親、病気に依存・・・・・・

 

そういえば「母さんがどんなに僕を嫌いでも」(18年)もコミックエッセイが原作だった。

多くの人がつらい経験をし、

それを、こういうかたちで外に出しているのだ・・・と

改めて考えさせられました。

 

こうしたコミックエッセイ、って

日本独特のものなのでしょうかね。

 

★3/6(金)から全国で公開。

「酔うと化け物になる父がつらい」公式サイト

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ジュディ 虹の彼方に

2020-03-05 23:52:53 | さ行

祝・アカデミー賞主演女優賞受賞!

レネー・ゼルウィガー、いろいろ乗り越えたんだろうなあ・・・・・・(感慨)

 

「ジュディ 虹の彼方に」72点★★★★

 

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1938年、17歳で「オズの魔法使い」の主演ドロシー役に抜擢され

スターになったジュディ・ガーランド。

 

しかし、1968年、

46歳のジュディ(レネー・ゼルヴィガー)は

映画出演もなくなり、幼い息子と娘を連れてステージでショーをこなし

生計を立てていた。

 

しかし

借金がかさみ、滞在先のホテルも追い出され

行く場所すらなくなってしまう。

 

そんな彼女にイギリスのクラブから

ショーの依頼が舞い込む。

 

生活と人生を立て直すため

単身、イギリスに向かったジョディだったが――?!

 

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とにかく、レネー・ゼルウィガーが魂の熱演!

彼女といえば、「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズのイメージが強いですが

いや~、今回30キロくらい痩せたんではないだろうか?!

 

それに、確かに彼女は声が可愛いいから

この役はピッタリだったかもしれない。

さらに、スターの悲哀、という点でも

自身を重ねたのかな・・・・・・とか思ってしまう。

 

彼女自身、けっこう休養期間もあったり、紆余曲折あったようだから。

 

ということで

内容はちょと地味ではありますが

その熱演に圧されました。

 

誰もが知ってるあの「オーバー・ザ・レインボー」の歌でおなじみ

「オズの魔法使い」のドロシー役、ジュデイ・ガーランド。

17歳にしてスターとなった彼女は

しかし子役として消費され、すり減っていた。

 

映画は

そんな疲弊し切った40代の彼女が、亡くなる半年前に行った

ロンドン公演の期間にスポットを当て、

ショーの華やかさではなく、

自我に蓋をし、自分を押し殺してきたスターの悲哀を、

これまた押し殺した演出で描いている。

 

睡眠時間もない過密スケジュールや

厳しいダイエット・・・・・・あたりは、まあ想定内ではあるんですが

当然のごとく行われていたセクハラ、さらに

気つけ薬、と称して、薬漬けにされている様子は予想外にすさまじく、

こうやってスターが成り立っているんだ・・・・・・と

恐ろしさと悲しさに、ゾクッとしてしまう。

 

そんな世界を生き抜いてきたジョディの

どこにいても、どこか居心地の悪い、

大事にされていてもぶち壊したくなる所在のなさ、居場所のなさ、が

すごくうまく表現されていたと思う。

 

ロンドン公演でマネージャー(世話係)となる

若い女の子にとってしまう、微妙な距離感なども

同じく、ちゅうちゅう中年であるワシからみても

ものすごく細やかだなあと思うんですよ。

 

彼女の「一杯飲みませんか」を断り、

いちファンであるゲイカップルと

ささやかな交流をするシークエンスが非常に効いているなあと感じました。

 

華やかなステージシーンがなかなか出てこなくて

ややモヤるんですが

大丈夫、最後に盛り上がりますよ!!

 

★3/6(金)から全国で公開。

「ジュディ 虹の彼方に」公式サイト

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