ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

修道士は沈黙する

2018-03-15 23:53:23 | さ行

 

白状しますと

見てすぐは、よくわかんなかったんです!(笑)

それでも、けっこうハマった。

 

「修道士は沈黙する」70点★★★★

 

 ******************************

 

ドイツ、バルト海に面した高級リゾートホテルで開かれる

G8の財務相会議。

 

その場に

イタリア人修道士ロベルト(トニ・セルヴィッロ)は

ゲストとして招かれた。

 

会議の前夜、ロベルトは

会議のホストで国際通貨基金(IMF)の理事(ダニエル・オートゥィユ)から

「告解がしたい」と部屋に呼び出される。

 

そして翌朝、理事は死体で見つかった――。

 

自殺か事故か、殺人か?!

警察はカギを握る修道士に話を聞こうとするのだが……?!

 

 ******************************

 

「ローマに消えた男」

ロベルト・アンドー監督の新作です。

 

優美でミステリアスなカメラワーク。

高級ホテルという舞台もサスペンスフルな雰囲気満点。

 

すごく魅せられるんですけど

しかし、これけっこう一度では理解するのが難しい……。

すごく高度なんですよ、次元が!(苦笑)

 

ドイツの高級ホテルに集まったのが

世界の経済を牛耳るエコノミストたちで

重要な決断のための会議をしている、というのはわかるんだけど

 

経済とか自分にあまりにも縁の無い世界なので

まず、状況そのものが、よくわかってない(苦笑)

 

そこに神学や数学が絡み、

問答のようなセリフの応酬があり

どうにも悩ましい。

 

…のですが、

プレス資料を読んで、そうだったのか!、的なところも多々あったので(笑)

今回は資料を紐解きつつ、ワシの(浅はかな)考えを入れつつ

映画読解の助けになるように、書いてみますと

 

まず

高級ホテルに集まったのは

G8=先進国首脳会議に参加する各国の財務大臣たち。

で、そのホストの国際通貨基金(IMF)の理事ロシェが

修道士ロベルトを、会議のゲストに呼ぶ。

 

ロシェは、世界経済を操る主としての行動を取る一方で

そのことが世界に大きな影響を与えている現実に

ものすごい懺悔の気持ちを持っている。

 

で、会議の前夜、修道士を呼んで告解をするわけですね。

しかし翌朝、彼は死体で発見される。

 

自殺か?他殺か?

どっちにしても主要人物を欠いた会議は混乱し、

警察は修道士から話を聞こうとする。

 

しかし。修道士は告解の「秘密」を守らなければいけないので

絶対に、それを漏らさない。

「いったい、“告解”の中身はなんだったの?

すごーくじらされるんですが

 

結局のところ、本作は

清貧を貫き、厳格な規律の中に生きる修道士と

世界経済を動かす人々の

「物質主義」VS「精神主義」の対立の様相を見せ

そこが大きなポイントなんだと思います。

 

我々が

人として“在る”ためには、どうすればよいのか。

 

それはすなわち

いまの世界の状況に

「ちょっと待った!」の視点を与える意味を持っている。

 

2014年に公開され

ヒットした「大いなる沈黙へーグランド・シャルトルーズ修道院」の世界が

理解に役立つかなあとも思います。

 

とりあえず

もう一度、見よ(笑)。

 

★3/17(土)からBukamura ル・シネマほか全国順次公開。

「修道士は沈黙する」公式サイト

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馬を放つ

2018-03-13 23:41:53 | あ行

 


「明りを灯す人」など日本でも人気の高い

アクタン・アリム・クバト監督の新作です。

 

「馬を放つ」74点★★★★

 

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中央アジアの美しい国、キルギスに暮らす

ケンタウロス(アクタン・アリム・クバト)。

 

日々、真面目に働き、妻と幼い息子を養う彼は

深夜、人の厩舎に忍び込み

一頭の馬を逃がし、野に放つ。

 

彼はなぜ、そんなことをするのか――?

 

************************************


さまざまな問題が86分に凝縮され、

かつ、余韻がその先まで果てしなく美しく広がっていく――。

そんな気持ちになる映画でした。

 


91年、ソビエト連邦の解体により、新しく共和国としてスタートしたキルギス。

美しい自然のなかにありつつ、近代化による生活の変化は大きく

スマホを手にする人も少なくない。

 

映画の舞台となる村も「素朴な村」の風情を残してはいるけれど

確実に変化は起きている。

 

そんな村で、夜な夜な、馬を野に放つケンタウロス。

いったい彼はなぜ、そんなことをするのか――?!

 

その理由は彼が幼い息子に語って聞かせる

伝承に現れているんですね。

 

またケンタウロスというキャラクターが

演じる監督自身がスッと同化したような

文化と知性を感じさせる静かな佇まいで

すごくいいんです。

 

 

クバト監督はインタビューで

「自分が描く出来事はすべて実際にあったことです」と話していて

この馬を放つ男も、実際に監督の村で起きたことなんだそうです。

 

で、今回監督は

馬を放った男の行動を、いまの世のさまざまに「ちょっと待てよ」と考えさせる

フックとして描いている。

 

いまの世のさまざま、というのは
ケンタウロスが気にかけてやる女性が

アフガニスタン戦争で夫を亡くしていたり

寄る辺なき彼女が、いま一緒に暮らす男からのDVに逆らえなかったりすることであり、

 

しかし小さな村では

既婚者のケンタウロスが彼女と歩くだけで

あっという間に噂になってしまうことであり

 

さらに素朴なイスラムが根付く土地に
メッカ巡礼のための“お布施”を強要し、

映画館をモスクにしてしまう伝道師たちがいたりすることであり。

 

結局、便利で豊かになったはずの

この世界はどこか閉塞している。

そんななかで主人公は、野に、馬を放つわけです。

 

その行為には

閉塞からの解放や発散と同時に、

昔ながらの人と自然、人と馬、人と人とのつながりを渇望する思いが

複雑に入り交じっている様子が感じ取れて

うん、本当にいろいろ深い。

 

ラスト、息子にともる光に、救いと希望がありました。

 

そしてそして

おなじみ「AERA」3/19発売号で

クバト監督にインタビューさせていただいています。

 

ワシ、けっこう監督のファンなので素直に嬉しかった(笑)

映画に込められた想い、そして

結末に込められた思いまで伺ったので

 

ぜひ映画と併せてご一読くださいませ~。

 

★3/17(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「馬を放つ」公式サイト

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ラッキー

2018-03-12 23:37:33 | ら行

 

思いがけず、クッ、泣けた。

 

「ラッキー」73点★★★★

 

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サボテンに囲まれた

アメリカ南西部の街で一人暮らす

90歳のラッキー(ハリー・ディーン・スタントン)。

 

毎朝、たばこを一服しつつ、体操をし、

馴染みのダイナーでコーヒーを飲む。

 

夜は馴染みのバーで一杯。

 

哲学と美学を持って

日々を黙々と、凜として生きるラッキーだが

 

彼はある日ふと

人生が終わりに近づいていることに気づき――。

 

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「パリ、テキサス」「ツイン・ピークス The Return」などに出演し

2017年に91歳で亡くなった

名優ハリー・ディーン・スタントンの

90歳にして最後の主演作。

 

まるで本人のドキュメンタリーのように日常が淡々と描かれ、

でもちゃんとストーリーになっているおもしろさ。

 

サボテンと照りつける陽射しに囲まれた

砂漠の一軒家で一人暮らす90歳のラッキー。

 

毎朝、たばことともに目覚め、黙々と日課をこなし、

馴染みのダイナーで店主と挨拶する。

繰り返される日々の、様式美。

 

90歳になってもきりりとした彼だけど

さすがに迫り来る「死」を感じ始めてもいる。

 

ダイナーのウエートレスに

迫り来る死に向き合う怖さを

ホロリと漏らすシーンにグッときますねえ。

 

人は誰も最後は一人。死と向き合い、どう受け入れるのか。

行く先は無。そのとき、どうするのか。

 

そんな彼は

思いがけず、ある人から大きなことを教わったりもする。

 

そしてラスト、思わぬ光が射す、歌のシーンに思わずウルッときた。

 

老カウボーイの哲学と美学。その先にみえる光。

淡々と繰り返される日常のなかに潜む真実。

 

これらが

ジム・ジャームッシュ好きには絶対ハマると思うので

強くおすすめしたいです。

 

けっこう大きく登場するデヴィッド・リンチも

いい役者っぷりでした。

 

★3/17(土)から新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「ラッキー」公式サイト

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リメンバー・ミー

2018-03-11 23:48:06 | ら行

 

さすが、話、よく練ってあります。

 

「リメンバー・ミー」70点★★★★

 

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メキシコのある街で

代々靴屋を営む一家に生まれた少年ミゲル。

 

音楽が大好きでミュージシャンを夢見ているが

ミゲルの家は、ある事情により「音楽は絶対禁止!」だった。

 

1年に1度、祖先を迎える「死者の日」に

ミゲルは古い家族写真から

伝説のミュージシャン・デラクルスが自分の祖先ではないか?と考える。

 

そしてその夜、

ミゲルは偶然「死者の国」に迷い込んでしまい――?!

 

*******************************

 

祝・アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞!

「トイ・ストーリー3」スタッフによる最新作です。

 

メキシコの伝統的な祭礼「死者の日」をベースにしていて

エキゾチックを背景にストーリーを膨らませる方法としても

かなりの成功例だと思う。

 

とにかく話がよく練ってあるんですよね。

で、つまるところ

「亡くなった人を忘れないで」と、伝えるお話になっている。

 

そもそも死者の日、とは

日本でも「お盆」や「お彼岸」があるように

祖先や死者を迎え、その想い出を語り、またその世界に帰ってもらう行事で

 

 

死んでから「死者の国」にいる人々は

「死者の日」だけ現世に戻ってこられる。

 

でも戻るためには条件があって

誰かが「遺影」=写真を飾っていてくれないとダメ、とか。

 

そして、現世で誰も自分のことを憶えていなくなると

死者の国からも消えてしまうとか。

なるほどねえ、な設定にうなずいてしまう。

 

「大事な人(人に限らず、動物もね)を、ずっと忘れない」ことが

最大の供養だ、という思いを新たに出来る映画でもありました。

 

まあ、あの人物の運命は身から出たさびとはいえ、ちょっと気の毒かなとも思ったけど(苦笑)

 

 

そして「モアナ」に続き

またしても気づかずに吹き替え版を見てしまい(どんだけボケ?笑)

一瞬、日本語であちゃ!と思ったんですが

ミゲルの吹き替えを担当している

石橋陽彩(ひいろ)くん、とても上手でした。

 

★3/16(金)から全国で公開。

「リメンバー・ミー」公式サイト

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第90回アカデミー賞の関連作、続々公開!

2018-03-05 23:27:11 | ぽつったー(ぽつおのつぶやき)

アカデミー賞、今年も盛り上がりましたね~。

今年、嬉しかったのは
なんといっても、日本でいま見られる&もうすぐ公開!の作品が多かったこと。

公開がまだまだ先……だったりすると寂しいもんね。

今後も
3月~4月に公開が目白押し。

これから公開され
ワシ的におすすめ!なものを
公開日とともに羅列しておきます~


惜しくも受賞を逃していても
高クオリティは絶対担保。

ぜひ、ご覧になってくださいませ。


「君の名前で僕を呼んで」(4/27公開)


祝・脚色賞受賞!

いま現在、もっとも心掴まれてるのはこの映画!(笑)
胸キュン!賞決定。


さらに外国語映画賞にノミネートのこの2作。
「ザ・スクエア 思いやりの領域」(4/28公開)

「フレンチアルプスで起きたこと」監督による強烈な“現代風刺”!


「ラブレス」(4/7公開)

ロシアの奇才による、やはり強烈な現代への視線。


「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」(3/30公開)


主演女優賞をゆずったのは妥当だけど
ジャーナリストかくあるべき、と力もらえる作品。


「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」(5/4公開)



祝・助演女優賞!
でも主演のマーゴット・ロビーも、すごいですよ。


「モーリーズ・ゲーム」(5月公開)

アーロン・ソーキン、脚色賞ノミネート。

「女神の見えざる手」
また違く超えてくるジェシカ・チャスティン、見応えあり!



「ファントム・スレッド」(5/26公開)


祝・衣装デザイン賞!

もちろん衣装も
ダニエル・デイ=ルイスもいいけど
“素朴娘”ヴィッキー・クリープスの存在感が要でしょう

 

「レディ・バード」(6月公開)

 

受賞は逃したけど、フレッシュなこと間違いなしの作品。

それに今年のベストドレッサーは

間違いなくシアーシャ・ローナンちゃんでしょ! ピンクのドレス、超かわいかった!


そして
祝・主演男優賞&メイクアップ&スタイリング賞!
ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(3/30公開)


歴史モノのお堅い系?と思いきや
裏で動いているのは「ダンケルクの戦い」でもあり
予想外にドラマチック。

ということで
この春~初夏の映画は、
ますます楽しみマシマシですよ~

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