ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

谷川さん、詩をひとつ作ってください。

2014-11-14 20:31:33 | た行

谷川俊太郎さんは、カッコイイ。

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「谷川さん、詩をひとつ作ってください。」47点★★★


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詩人・谷川俊太郎さんの
ドキュメンタリー・・・かと思うと、違う。

監督は谷川さんに迫ろうとするも
「詩は内面から出るもの。パソコン前で唸ってる絵しか取れないよ」と
あっさり言われて方向転換。

全国のいろんな人たちを取材し、
そこに谷川さんの詩の朗読を入れた、という形で出来上がった映画。

佐野洋子さんの絵本を軸にした
ドキュメンタリー映画「100万回いきたねこ」に作りはちょっと似てるかも。


取材される人々というのは
福島の高校生に諫早湾の漁師、イタコ、
日雇い労働者に有機栽培農家。

セレクトもわからないではないのですが、
どうも“ニュースな現場”の人々を撮って繋げた感は否めない。

谷川さん自身が劇中で言うように、
「詩はどんな場面にも、人にも、当てはまるような仕組みで出来ている」わけで、
まあしっくりくるのも当然といえばそうだし。

それでも、尺としてはわずかだけど
谷川さん自身が語り、その生活ぶりが写るパートはやはり興味深かった。

「詩なんて信用しない」と自ら語るシーンや、
緑に囲まれた素敵な山荘で
Macの画面に向かって詩を書き、iPadで詩を読む
ハイテクな姿には驚きました。
かっこよすぎる82歳。

DVD「詩人谷川俊太郎」(紀伊國屋書店2012)というものが
この映画のベースになっているそうですが
そっちのほう見たくなりました。


★11/15(土)から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

「谷川さん、詩をひとつ作ってください。」公式サイト
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天才スピヴェット

2014-11-13 22:51:30 | た行

映画そのものが、可愛らしいアート。
かつ、話もしっかりしてます。


「天才スピヴェット」3D版 72点★★★★


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米・モンタナ州の田舎に住む
10歳のT.S.スピヴェット(カイル・キャトレット)は
純正カウボーイの父と
昆虫博士の母(ヘレナ・ボナム=カーター)と姉と3人暮らし。

スピヴェットは天才的な頭脳の持ち主なのだが、
周囲にはイマイチ理解されていない。

そんなある日、
スピヴェットが発明した機械が
スミソニアン博物館で賞を受賞したという知らせが届く。

スピヴェットは家族に黙って
一人、授賞式に行こうと考えるが――。

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「アメリ」のジャン・=ピエール・ジュネ監督の新作。

美術に定評ある監督だけに
期待通り、
飛び出すアート絵本のごとき、素晴らしい世界観に
まずは拍手。

加えて
見た目のおもしろさや可愛らしさだけでなく、
天才少年の冒険と成長ストーリーを
しっかり芯にしてあり、

予想以上に楽しめました。


スピヴェット少年の聡明なキュートさが
ときにユーモラスに、生き生きと描写される。

彼の冒険の動機には、
一家に起きたある悲しい出来事があるんですが

彼もまた、それを心の傷にしながらも、
なんとかブレイクスルーしようとして、行動を起こす。

その
子どもならではの前向きな力が
とても素直に描かれていて
見る人を惹き付けると思います。


かなり風変わりだけど、しかし包容力ある
ヘレナ・ボナム=カーターのお母さんぶりも素敵でしたねえ。


★11/15(土)からシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「天才スピヴェット」公式サイト
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紙の月

2014-11-12 20:45:09 | か行

特筆すべきは
小林聡美さんですな。


「紙の月」72点★★★★


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1994年、東京。

平凡な主婦・梨花(宮沢りえ)は
夫(田辺誠一)と二人暮らし。

梨花は「わかば銀行」の契約社員として
顧客の家に行って金融商品を紹介するなどし、
客からも信頼されていた。

そんなある日、
梨花は大学生の光太(池松壮亮)と出会い
彼と逢瀬を重ねるようになる――。

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「桐島、部活やめるってよ」吉田大八監督×角田光代原作。

原作は未読ですが
NHKのドラマでたまたま見ていた話で、
内容も「寂しい女が起こした横領事件」と、割と「ふ~ん」な題材。

なので、期待度そこそこだったんですが・・・
魅せますねえ、やっぱり。


吉田監督の、活字を映像化することに対する
意欲と果敢さは相当だなと感じました。



この映画では
一歩を踏み出してしまう主人公・梨花(宮沢りえ)の
その「一歩の瞬間」を、クールに鮮やかに描きとっている。
彼女がホームで振り返る、あのシーンにはグッとくる。

また、アラフォー女が20歳そこそこの大学生にときめく瞬間に
メランコリックでガーリーな音楽が流れたりして
うわあ、やってくれますねえ、と。


大島優子氏も“チャッカリ”な若い行員役として
魅力をうまく引き出されているし、

なにより主人公を追い詰めることになる
ベテラン行員・小林聡美氏の
静かな存在感が、すごすぎる。

この女と女の対立には
既成の悪役対立と違う、おもしろさがあります。

最後に
ちゃんと決着を着ける姿勢も、ありがたいですねえ。


★11/15(土)から全国で公開。

「紙の月」公式サイト
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6才のボクが、大人になるまで。

2014-11-11 23:16:44 | ら行

映画に無関心な人に、この作品の成り立ちを話したら
「それ『北の国から』じゃね?」と言われて
膝を打ってしまった(笑)


「6才のボクが、大人になるまで」73点★★★★


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米・テキサス州に住む6才のメイソン(エラー・コルトレーン)は
ママと姉と三人暮らし。

ママと離婚した
パパ(イーサン・ホーク)と1年半ぶりに再開したけど
すぐにママとパパはまた口論を始めてしまう。

しばらくしてママは再婚し、
メイソンは新しいパパと暮らすが、問題が発生し・・・?!

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「ビフォア~」シリーズの
リチャード・リンクレイター監督作。

6才の少年を主人公に、
12年間、同じキャストで時々集合して撮影したもの。

まずは手法の斬新さに拍手。

マイケル・ウィンターボトム監督の
「いとしきエブリディ」
思わせるけど
あれは5年間、こちらは12年と長さでは勝ってる(笑)。


ギターサウンドをバックにした青空のオープニングから
終始、爽やかな印象で過ぎていき、
期待通りではあるけど、やっぱり気持ちよかった。

なんといっても
時間の経過を自然に「スッ」とつなげる
編集が見事でしたねえ。


主演の少年も
なんか、山Pに似てる気がするんですが(笑)
どう成長するかどっちに転ぶかわからず。

なにより全体に
思ったより子どもの世界には
大事件はさほど起こらないのだ、というところがいい。

親は離婚したり、再婚したりいろいろあって
まあ子どもには大事件なのかもしれないけど

傍から見る分には
誰も事件や事故にも巻き込まれないし。

だからこそ
「子どもが成長していく以上に、アメージングなことなんて、そうそうないんだ」と
子ナシでも実感できました。

その時代の流行やカルチャーが映っているのもおもしろく
けっこう、貴重な記録だと思う。


特に男子は必見でしょう。

父親役のイーサン・ホークが息子に伝授する
「女の子をモノにする方法」はマジ鉄板だもんね。


★11/14(土)から全国で公開。

「6才のボクが、大人になるまで。」公式サイト
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ショート・ターム

2014-11-10 22:58:23 | さ行

このポスターの“抜け感”にはやられた。


「ショート・ターム」71点★★★★


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現代のアメリカ。

親による虐待など
さまざまな問題を抱えるティーンエイジャーを
短期間預かり、ケアする施設“ショート・ターム12”。

その施設で働くグレイス(ブリー・ラーソン)のもとに
少女ジェイデン(ケイトリン・デヴァー)が入所してくる。

どこか過去の自分に重なるようなジェイデンを
グレイスは気にかけ、つながりを深めようとするのだが――。

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ロッテン・トマトで満足度99%。

ジェニファー・ローレンスにも注目され、
世界中の映画祭で受賞中・・・という話題作。


ラフでザックリ感あるカメラワーク。
施設内の様子も、行き場のない青少年たちのもがきも、みんなリアルで

好きなタイプの映画。
悪くはない。

けど、正直
期待したほどの新しさや、衝撃はなかったかな。


施設の子どもたちの若き母親のようなスタッフのグレイスもまた、
彼女自身が問題を抱えていて、
それが
虐待によるトラウマだろうなとか、
割と容易に想像できてしまうところとかはちょっと物足りない。


でも、そうした作品の“細さ”を補強するだけの
「いまここ」なリアリティがあるんですね。
それがすべてですね。


施設の建物や壁などを
真正面から写すショットが印象的で
あれは外界と、子どもたちやグレイスたちとの
距離感のようなものを表してるのではと思う。

施設内での彼らとカメラの距離はそれとは対照的に近くて、
そのへんが
切なくもありました。


★11/15(土)から全国で公開。

「ショート・ターム」公式サイト
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