ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

判決、ふたつの希望

2018-08-26 23:55:04 | は行

 

 

タランティーノ組、ベイルート出身監督による社会派ドラマ。

重く、深く、でも、わかりやすいと感じる。←これ、大事!

 

「判決、ふたつの希望」73点★★★★

 

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レバノン・ベイルートの住宅街。

一帯の工事をしていたパレスチナ人の現場監督ヤーセル(カメル・エル=パシャ)は

あるバルコニーからの水漏れを発見し、それを直す配管を取り付ける。

 

だが、その部屋に住むレバノン人のトニー(アデル・カラム)が

「勝手になにやってんだ!」と怒り、

せっかく取り付けた配管をぶっ壊して、投げつけてきた。

 

これにムカッとしたヤーセルが「クズめ」と吐き捨てると、

かねてからパレスチナ人をよく思っていないトニーはさらに激怒。

身重の妻に「やめなさいよ」といさめられても、聞く耳持たず

ヤーセルを雇う会社に「謝罪しろ!」と殴り込む。

 

だが、その後、トニーが放った暴言で

ヤーセルの怒りは頂点に。

 

こじれた問題は、法廷へと持ち込まれ、

レバノン人VSパレスチナ人、

ひいてはレバノン社会全体を巻き込む大騒動へと発展していく――?!

 

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タランティーノ監督の「パルプ・フィクション」(94)にもアシスタントとして参加した

レバノン出身の監督による社会派ドラマ。

 

このところ

イスラエルやレバノン周辺のおもしろ映画が多すぎて

必死に中東情勢を頭にたたき込んでいるワシ(笑)

映画って、こういう力があるからすごいよねえ。

 

とはいえ、本作は「誰と誰が、対立する立場なのか」「なぜか」を

説明調ではなく、でも、かなりわかりやすく描いているので

おおよそ、状況知識なくとも楽しめると思います。

 

しかも法廷劇としても見応えあり、

ヒューマンドラマとしても胸を突いてくるあたりがうまい。

 

 

主人公のトニーはキリスト教系政党支持者のレバノン人で

かねてからパレスチナ人に敵対意識を持っている。

 

ある日、トニーは配管工のパレスチナ人、ヤーセルの行動に怒り、

ヤーセルに決定的な暴言を吐く。

「お前らなんて、シャロンに抹殺されていればよかった!」

 

それを聞いたヤーセルは激高し、トニーに殴りかかり、ケガを負わせてしまう。

 

この騒動が、法廷へ持ち込まれ、

国を挙げての「大問題」に発展していくわけです。

 

 

シャロンとは、レバノン内戦下で

サブラ・シャティーラの大虐殺(イスラエル映画「戦場でワルツを」に詳しいですね)で

パレスチナ人たちを虐殺した指揮をとっていた

後のイスラエル大統領のこと。

そりゃ、いくらなんでもまずいでしょうということなんですが

 

なぜ、トニーがここまでパレスチナ人を忌み嫌うのか。

実はその理由もあって

その背景も、この映画ではなんと法廷シーンで「映像でわかりやすく」伝えられる。

 

 

国の中に異なる民族、宗教が混在する状況、

かつて殺し合いをした者同士が隣合う日常の

根深さ、難しさを感じつつ

 

そんななかでも

憎しみを乗り越えて、人間は互いを理解し、歩み寄ることが、できるのだろうか――という

大きな問いと、未来を我々に投げてくるんです。

 

 

本作はヴェネチア国際映画祭最優秀男優賞、

さらにアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされてる。

うむ、やっぱりみんな、このあたりを、複雑だと思っているんだと思う。

 

その状況のリアルを、わかりやすく落とし込んだ監督は

やっぱり一度、アメリカに渡ったことで

自国を外から見る、視線を身につけたんでしょうね。そこが勝因ですね。

 

 

このあと、イスラエル映画「運命は踊る」(9/29公開)

という作品もありまして

こちらにはレバノン内戦を経験したイスラエル社会のリアルが描かれています。

併せて観ると、おもしろさ倍増だと思います。

 

★8/31(金)からTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開。

「判決、ふたつの希望」公式サイト

コメント
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