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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

田園の守り人たち

2019-07-05 23:49:03 | た行

ミレー絵画のような世界。

そして、すくっと立つ少女の登場シーンに、

なぜか宮崎駿世界を想起しました。

 

「田園の守り人たち」80点★★★★

 

*************************************

 

1915年、第一次世界大戦下の

フランスの田園地帯。

 

男たちは戦地へと赴き、

残された女たちが、家や畑を守っていた。

 

そんななか

農園の夫人オルタンス(ナタリー・バイ)は

長女(ローラ・スメット)と二人で馬で畑をすき、種をまき、収穫に備えている。

 

あるときオルタンスは孤児院出身のフランシーヌ(イリス・ブリー)を

手伝いに雇い入れる。

若く溌剌とし、なにより労を惜しまずに働く彼女は

みんなの人気者になる。

だが、ある出来事が起こり――?!

 

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「神々と男たち」(11年)の監督作品。

これもまた、名作になりにけり。

 

1915年から1920年のフランスの田舎が舞台。

男たちは戦地に行き、残された女たちが、畑と家を守っている。

 

彼女らは一様に、戦地にいる夫や息子を案じながら

不安のなか移りゆく季節を、凛と前を向き、1日1日、生きている。

畑仕事をする彼女らの姿は

まさにミレーの絵画「落ち穂拾い」「種をまく人」のように静謐で

 

繰り返される人の営みの尊さ、美しさが

胸に刻まれる。

 

そんな映像のなか

ヒロインの一人である、まっすぐな若き娘が、

農家に働きにやってくる。

 

その最初のシーンで、なぜか宮崎駿作品を強烈に想起しました。

フランスの田舎の話なのに(笑)。

 

映画は格別な起伏を作ることなく進むんですが

しかし戦地に行った男たちの訃報が舞い込み

女たちは静かに泣き崩れる。

 

そして農園の女主人オルタンスも

長男を失う、悲劇に見舞われる。

農園には、味方として闘うアメリカ兵が物資をもらいにやってくる。

 

そんななかで、少しずつ、なにかが変化し

ある出来事から

働き者の少女は農園を追われてしまうんですね。

 

「正しく、公平な人だと思っていたのに。あなたは怪物よ」

 

――振り絞るように少女が投げた言葉がつぶてのように、

女主人の大地に染みこんでいく。

 

少女はどうなるのだろう?

農園の行く末は?

 

真っ暗、ではなく未来がほんのり輝くラストもいいです。

 

農園の女主人と、その娘役は

実際の親子なんです。いいキャスティングですねえ。

 

それにしてもこの時代から、

もう100年の時が経っているのか!

ふと気付いてびっくりしました。

 

チラシにコメントを寄せさせていただきました。

畏れ多くも

加藤登紀子さん、池内紀先生に挟まれるという配置におののきましたが

ぜひお手にとって、劇場へGO!してくださいませ。

 

★7/6(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「田園の守り人たち」公式サイト

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旅のおわり世界のはじまり

2019-06-13 23:27:25 | た行

前田敦子氏は

「途上にある人」の役がハマる。そして、うまい。

 

「旅のおわり世界のはじまり」74点★★★★

 

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中央アジアのウズベキスタン。

葉子(前田敦子)は、バラエティ番組のレポ―ターとして

この地にやってきた。

 

葉子はテレビクルーのカメラマン(加瀬亮)、ディレクター(染谷将太)、

通訳兼コーディネーター(アディズ・ジャポフ)、

そしてアシスタント(柄本時生)の4人と撮影に挑むが

カメラマンをはじめ

クルーはビミョーに低体温で、なんだかなー、な感じ。

撮影もなかなか段取りどおり進まない。

 

そんななか、葉子は必死で

レポートを務めようとするのだが――?!

 

************************************

 

黒沢清監督の新作です。

 

ウズベキスタンに撮影に来たリポーター(前田敦子)と

クルー(加瀬亮×染谷将太×柄本時生)たち。

 

異国での孤独、さまざまな「え?」のなか、

クルーたちの低体温を感じつつも

黙々と仕事をこなす前田敦子氏がおかしみを併せ持ち、

 

「ロスト・イン・トランスレーション」ウズベキスタン版&前田敦子編、という感じもして

なかなかおもしろす!な作品でした。

 

前田敦子氏の

ある意味、オーラのない希薄な存在感がうまくて

ヒロインの異国での孤独を浮き立たせている。

 

人生に悩むヒロインを描きつつ、

自分と違う何かに関わろうとしなければ

他者とわかり合うことはできない

そして、結局、自分をわかることもできないんだ、と

 

そんな人間の極意をスッと教えてる感じ。

 

 

プラス、他国の事情を自分の尺度で測ることの偽善、も考えさせる。

黒沢監督の手腕はすごいなと感じました。

 

 

撮影クルーにとにかくぞんざいに扱われ、

苦行のようなレポートを与えられながらも

黙々とそれをこなす

前田敦っちゃんの姿がけなげで、気の毒であり、おかしみがある。

 

彼女は満足度や幸福度の低そうな役、途上にある人、の役が

とにかくハマるし、うまいなと再確認しました。

 

おなじみ「AERA」の来週6/17発売号にて

黒沢清監督×前田敦子氏の対談取材をさせていただきました。

 

撮影後に結婚&出産をされた前田さんが

その決意を決めた「意外な」理由に迫り、

かつ、黒澤監督がタジタジ……というおもしろ内容だと思います!

映画と併せてぜひ、ご一読くださいませ~!

 

★6/14(金)テアトル新宿、渋谷ユーロスペースほか全国で公開。

「旅のおわり世界のはじまり」公式サイト

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ドント・ウォーリー

2019-05-03 13:39:08 | た行

ガス・ヴァン・サント監督が

亡きロビン・ウィリアムズの意志を継いだ作品。

そうか、もうあなたはいないのか(泣)

 

「ドント・ウォーリー」71点★★★★

 

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1980年代、米ポートランド。

金髪をなびかせながら、道路を車椅子で猛スピードでかけていく男がいる。

乗っているのはジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)。

段差でつまづき、道路に投げ出された彼は

ヘコたれもせずに、大声で叫ぶ――「誰か~!」。

 

キャラハンは1972年、酒浸りだった21歳のとき

交通事故に逢い、首から下が麻痺してしまった。

自暴自棄になり、再びアルコール漬けの日々を送っていた彼だが

 

あることをきっかけに

自分にしか描けない「風刺漫画家」としての道を歩むことになる――。

 

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実在の風刺漫画家ジョン・キャラハンの人生を描いた作品。

ガス・ヴァン・サント監督も実際、80年代のポートランドで彼をよく見かけたそうで

車椅子で暴走してるのも本当なんだそうです。

 

で、映画の序盤は

酒浸りなダメ男・キャラハンのキャラが掴みにくく、ちょっとノリにくいんですが

彼がある瞬間に目覚め、

「問題」の根っこに向き合い、依存を自覚し、

マンガを描き始めてからはスルスルとおもしろくなる。

 

震える手で生み出されるマンガは

彼にしか描けないユーモアに溢れていて

例えば、投げ出された車椅子を前に、馬に乗った保安官たちが

「大丈夫、遠くへは行けまい」――と言い合ってる、とかね。(これが、タイトルの元になってる。笑)

もともと皮肉屋な彼の性格や、世間への観察眼も

風刺漫画に向いていたんですねえ。

 

で、彼の「問題」とは

幼くして母親に捨てられた、という経験。

養子に出された家でも疎外感を持ち続けた彼は

「誰からも必要とされてない、愛されていない」と思い、

その寂しさをごまかすために、酒を飲んでいたんですね。

そのせいで事故にも遭い、ますます自暴自棄になり、酒に溺れていく。

 

そんなループから、どうやって脱出するか。

実話なだけに、その過程はとても興味深い。

 

リハビリ施設でのある女性(ルーニー・マーラ)との出会いや(彼女にもモデルがいるそう)

禁酒会での出会いが大きいけど、

やっぱり、本人自身が「何かに気づく瞬間」「変われるタイミング」って、あるんだろうなあと思う。

ティモシー・シャラメ主演の

「ビューティフル・ボーイ」(公開中)もだけど

こういう実話は苦しいときにありがたいし、心の助けになる。

 

その後、キャラハンが

「人を許す」というステップへと進むくだりはウルっとしますねえ。

ベタに甘くはないけれど、フッとした「やさしさ」がある。

ガス・ヴァン・サント監督らしいと思います。

ラストに出るキャラハン本人の写真にもびっくり。

ホントにハンサムだわ(笑)

 

そして

発売中の「AERA」(4/29-5/6合併号)にて

ガス・ヴァン・サント監督にインタビューさせていただきました。

会えただけでもマジ、感激!(笑)

監督の映画は、なぜここまで多くの人の琴線に触れるのか?

壮大なクエスチョンに「う~ん」と悩みつつ

真摯に答えてくださって、マジ感激!

 

本作と「マイ・プライベート・アイダホ」のある類似点にも

ハッといたしました。

お、ちょうどAERAdot.にもアップされました!

映画と併せてぜひご一読ください~

 

★5/3(金)からヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「ドント・ウォーリー」公式サイト

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誰がために憲法はある

2019-05-01 14:05:43 | た行

令和の最初に。

大事なことですからね。

 

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「誰がために憲法はある」70点★★★★

 

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87歳になられる名優・渡辺美佐子さんが

憲法を擬人化した、松元ヒロ作の一人芝居「憲法くん」を演じる、という映画。

 

ただ「憲法くん」の舞台は12分なので、

そこに渡辺さん自身が33年間上演してきた「原爆朗読劇」の舞台を重ねた

ドキュメンタリーになってる。

 

「憲法くん」というのは

性は日本国、名は憲法、というキャラ。

自分がどういうふうに生まれたのか、

そして、いままで70年以上もがんばってきたのに

いま改正案とか出されて「リストラされるかも!」と

ちょっとのユーモアも交えて、わかりやすく語りかけてくれる。

 

さらに

「憲法の前文」が朗読されることで

「ああ、憲法ってそういうものなのか」を改めて知る、という劇なんですね。

 

「憲法」のなんたるかを知ってるか

と問われればどうも心許ないワシとしては

大変に勉強になった。

 

字面を追うのと、人の声で語りかけられるのって

全然違うんだなあと。

渡辺美佐子さん、凜としてお美しいし。

 

 

なにより憲法というのは

戦争の悲劇の責任が「政府」にあったとしっかり明記し、

再び権力を持った者が好き勝手をしないように

“国民が「国」を縛るためにあるもの”なんだ、と語りかけられて

 

そうか!とハッとしました。

 

なんか「国に従うためにあるもの」って思ってません?って。

そこが大きなポイントなんだと

知るだけでも、大事な意味がある。

 

そして上映と合わせて、プレス資料にあった

馬奈木厳太郎弁護士による「改憲についてQ&A」を

配布するといいんじゃないかなあと思う。配布されてるといいな。

 

 

さらに後半、渡辺さんと「原爆朗読劇」を続けてきた

名女優さんたちのインタビューもすごく響く。

そのなかで

「日本では、こういう活動をしていると

『あ、そういう人ね』という目で見られる。おかしいですよね」

という言葉があって、ホントにそうだと思った。

 

政治について、歴史について

知らないほうが恥ずかしいことなのに

そうじゃない空気が作られてることが、ヤバいんですよね。

 

昨年の米中間選挙のときに

初めて政治的なメッセージをツイートして注目された

テイラー・スウィフトもELLEのインタビューで言ってましたよ。

「政治についてはたくさん勉強した。これからはどんどん発言していく」って。

テイラー・スウィフト関係ねえじゃん?って?失礼しましたー。

 

★4/27(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「誰がために憲法はある」公式サイト

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魂のゆくえ

2019-04-14 23:37:11 | た行

本年度アカデミー賞脚本賞ノミネート。

 

「魂のゆくえ」68点★★★☆

 

*****************************

 

ニューヨークにある小さな教会で

牧師を務めるトラー(イーサン・ホーク)。

 

信者に真摯に対応するトラーだが

実際、小さな教会は存続が難しく、

この教会も母体である大規模な教会団体と、

大口寄付をしてくれる企業ありきで成り立っていた。

 

そんなあるとき、トラーは礼拝にきていた

若く美しい女性メアリー(アマンダ・セイフライド)から

相談を持ちかけられる。

 

環境活動家の夫が、現状を憂い、

ふさぎこんでいるというのだ。

 

トラーは彼女の夫に会い、

相談にのってやるのだが――。

 

*****************************

 

 

「タクシードライバー」(76年)の脚本家として知られる

ポール・シュレイダー監督作品。

 

描かれるのは大きく「神の沈黙」であり

現代アメリカにおける、宗教の現状。

監督自身が、禁欲的な信者の両親のもとで育ったそうで

このテーマを50年近くも温めてきたんだって。

 

クラシカルなタイトルバックをはじめ

映像を構成する美術も茶や白、黒でミニマルに計算されつくしていて

内容も含めて

壁に品よくおさまり、しかし非常に印象的な絵画のような

「高潔」の美学を感じました。

 

 

初っぱな。主人公の牧師トラー(イーサン・ホーク)が

「1年間限定で」日記を書き始めるというところから始まり

どうやら、彼が病にかかり、

人生の終結を決断しているらしい、っていうのがわかる。

 

それにはさまざまな理由があった。

 

まず、彼の過去。

彼の家は代々「従軍牧師」であり、自分もそうだったし

息子も「従軍牧師」になった。

だが、そのことで悲劇が起こるんですね。

 

次に、相談を受けていた美人信者の夫で、

環境活動家である人物が

「変わらない世界」を憂えて自殺する。

 

さらに彼は自分の教会が

まさにその「環境破壊を引き起こしているブラック企業」の寄付に頼らなければ

存続できない、という現実にぶちあたる――。

 

「神はなぜ、苦しめる?」の問いのなか、

さまよう主人公の様子は

答えのない問いにハマるしんどさ、虚無さをよく表している。

 

イーサン・ホークも、なにか一歩抜けた!という感じの演技。

 

なのですが

やはり宗教内容なので、ちょっと取っつきにくいことと

さらに

最後、たまさか、のように起こる救いが

すごーくシンプルで、根源的で

「結局、それかい!」と拍子抜けだった・・・・・・かな。

まあ、たしかに

「愛がすべて」ですけどね。

 

そうそう、プレス資料によると監督は

「イーダ」(14年)の監督と食事したときに

「この映画を作らねば!」と思ったそうです。

「イーダ」、いい映画だったもんね~

 

★4/12(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国で公開。

「魂のゆくえ」公式サイト

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