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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ノクターナル・アニマルズ

2017-10-30 23:58:02 | な行


よほどの怒りを内に秘めているんだろうな
トム・フォードという人は。


「ノクターナル・アニマルズ」80点★★★★


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アートギャラリーのオーナー、
スーザン(エイミー・アダムス)は
仕事で成功を収め、ハンサムな夫(アーミー・ハマー)を持つ“勝ち組”女子。

そんな彼女のもとに
何年も会っていない元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から
小包が届く。

中身は、彼が書いた小説だった。

タイトルは「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」。

読み始めたスーザンは
その圧倒的な世界に飲み込まれていく――。


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グッチ、イヴ・サンローランを経て
自身のブランドを立ち上げたデザイナーであり

初監督作品「シングルマン」(09年)で
その力量を知らしめた才人トム・フォード氏の監督2作目です。

いやあ、これは……
ノックアウトされましたよ。


すさまじい悪意、憎しみ、怒り、復讐などの
黒い表現が押し寄せてくる。

でも、おもしろい!


ストーリーを整理しますと、

まず、別れた元妻スーザン(エイミー・アダムス)に
かつて小説家を目指していた元夫(ジェイク・ギレンホール)が
長編小説を送ってくるんです。

で、スーザンがそれを読み始めると
小説世界がスタートする。

この小説が酷い話なんですわ。


主人公(これもジェイク・ギレンホールが演じてる)と
妻とティーンエイジャーの娘が
テキサス方面で、ドライブをしている。

しかし途中でおかしな若者たちの車から
執拗な嫌がらせを受け、
そして車を止めさせられた一家に
降り掛かった出来事とは――?!という展開。


映画を見たときに
「いやな話!」と思ったんだけど
先日、東名高速で似た事件が報道され
瞬時にこの映画を思い出して
背筋が凍る思いをしました。マジで。


冒頭のギョッとする映像からして
「美醜とは?」を問いかけてくるし

現在のパートのエイミー・アダムズを
かなりむくんだ感じで
悪意ある写し方をしていることも「ひいぃ」と思うし。

小説パートの悲劇の舞台となる
テキサス、という場所には
やはりどこか歪んだ“男性的なる価値観”を感じるし。

そして
トム・フォードの出身も
テキサスなんですよね……。


原作があるんですけど、
どうしたってこれを、こう表現されると
この人自身が、よほどの怒りや複雑な思いを内に秘めているのだろうな……、と
思わずにいられない。

まあとにかく
芸術の表現とは、善意や美ばかりでないと、
凄い力で見せつけられ

かつ、心に残るというなかなかすごい体験でした。

そして
復讐劇としても、最高に爽快!なんだなあ(笑)


★11/3(金・祝)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「ノクターナル・アニマルズ」公式サイト
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74歳のペリカンはパンを売る。

2017-10-09 13:54:56 | な行

このビジュアル、たまりませんな。


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「74歳のペリカンはパンを売る。」65点★★★


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東京・浅草で創業74年(2016年時点)、
食パンとロールパン、二種類だけを売る
人気のパン屋「ペリカン」に密着したドキュメンタリー。


東京では有名で
さすがにワシも知っていました。
(でも食べたことはない)


なので、興味津々。

で、
まず冒頭から
津軽三味線を奏でる外国人――!?と意表を突く展開。

さらに、スタイリスト伊藤まさこさんら、
パンのファンの声を拾っていく。

みなさん
「飽きない」「ごはんのよう」「甘い」などなど
ペリカン愛を語り、

そしてパンを焼き上げる風景も紹介され
焼き上がるパンの香りが漂ってくるようで

う~ん、どんな味?!となる。

と、なかなかワクワクさせるのですが
まず、取材の素材が少なく
同じシーンの繰り返しが多いのがちょっとつらい。


まあ企業秘密もあると思いますが
ベテラン職人さんも淡々と
「別に話すことないよ」という感じでもあり(そこがカッコイイんだけど。苦笑)
撮影に意外に苦戦したのでは?と感じてしまった。

例えば
ペリカンさんのパンを使っている喫茶店などに入り込み
サンドイッチなんかの調理風景をもっともっと見せたりすると
よりシズル感出たんじゃなかろうか?

とか、余計なおせっかいを焼いてみたりして(パンだけに。)……


店に買いにきた人が「パンの味?別にフツー」と答える
このそっけない愛が
一番おもしろかった。


★10/7からユーロスペースほか全国順次公開。

「74歳のペリカンはパンを売る。」公式サイト
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ナインイレヴン 運命を分けた日

2017-09-06 23:49:31 | な行

なぜ、いま、9.11?
その答えが、観たらなんだか、わかった気がした。


「ナインイレヴン 運命を分けた日」72点★★★★


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2001年9月11日、早朝。

ニューヨークのワールドトレードセンタービルの一室で
ある男女が離婚調停をしていた。

ウォール街の実業家ジェフリー(チャーリー・シーン)と
その妻(ジーナ・ガーション)。

彼らは一息入れるため
エレベーターで下に降りようとする。

そのエレベーターには
バイクメッセンジャーのマイケル(ウッド・ハリス)や
ビルの技術者エディ(ルイス・ガスマン)、
美人のティナ(オルガ・フォンダ)が乗り合わせいた。

そして。そのとき。

突然、エレベーターが停止する。

エディはエレベーターのインターコムで
同僚のメッツィー(ウーピー・ゴールドバーグ)に状況を聞くが――?!



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2001年9月11日のあの日。
ワールドトレードセンタービルの
エレベーターに乗り合わせた男女5人。

人種も社会的地位もバラバラな彼らの
運命を描いた作品です。


人気舞台劇が基だそうで、
派手なアクションやエフェクトは一切なし。

地味ともいえるエレベーター内のワンシュチェーション劇は、
「誰もが知る悲劇」という共有でも成り立っている。


何が起こるか、どうなるか、
もう我々、十分にわかっているから
ゆえに
ずっと心臓バクバク。全身に力が入りっ放し。


実はね
やっぱり観る前は
「いまこの題材を描くことの意味は?
憎しみを煽ったりする可能性があるのではないか?
被害者感情はどうなのか?」など
いろいろ考えてしまったんですよ。

でも、観れば強く思う。

どんなに未曾有の悲劇や事件、災害も
どんどん過去になってしまうという事実。

もう16年経ってるんですよね。ひゅううう・・・


そうやって過去になっていく「起こったこと」を
風化させてはいけないのだ、と。

そして、観てよかったと思った。


久々にスクリーンで観る
チャーリー・シーンやウーピー・ゴールドバーグの姿にも
なんだか熱いものがこみあげてきて。

ニューヨーカーである彼らは
友人や知人を多く亡くしながらも
「なぜ、この映画を、いま撮るべきか」を考え抜いて参加したそう。

その思いが、熱を帯びているのでしょうね。


そして
おなじみ『AERA』の取材で
マルティン・ギギ監督にインタビューする機会をいただきました。

ずばり
「トランプ政権下、ますますヤバイ状況下で
憎しみを煽ったりする懸念はなかったですか?9.11遺族の反応は?」と
質問をぶつけてみました。

対する答えは、正直、泣けるものだった。

かなり深いところまで聞けたと思います。

掲載は9/11発売号です。
読んでいただけると嬉しいです!


★9/9(土)から新宿武蔵野館、丸の内TOEIほか全国で公開。


「ナインイレヴン 運命を分けた日」公式サイト
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ノー・エスケープ 自由への国境

2017-05-03 23:51:29 | な行

「ゼロ・グラビティ」監督が製作。
息子が監督。


「ノー・エスケープ 自由への国境」69点★★★☆


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メキシコとアメリカの国境にある砂漠地帯。

メキシコ人のモイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)は
15人の移民たちと
アメリカに不法入国するトラックに乗っていた。

しかし、砂漠の真ん中でトラックが故障し
モイセスたちは歩いて砂漠を越えなければならなくなる。

照りつける太陽のなか歩き続けていた彼らを
突然、銃弾が襲った――!


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いや、マジこれ怖いです。
イヤです(苦笑)。

ホナス・キュアロン監督が
移民たちの体験談を取材し、
構想から8年かけて完成したという作品。

この恐怖、マジなのか・・・っていうのが
第一です。

監督の父である
「ゼロ・グラビティ」のアルファンソ・キュアロン監督が
「ゼロ~」前にこの脚本を読み

「面白い!ワシもこんな映画が作りたい!」
「ゼロ~」を作った・・・という逸話あり。

確かに、
荒涼とした砂漠の、水も空気すら少ないような極限でのサバイバル、
逃げ場なしのハラハラは

宇宙空間での恐怖にも通じていて
まるでSFのような感じもする。

しかし、これがSFじゃないってところが
余計に怖い。


移民たちを襲うのは
動物でも、暑さでもなく、“アメリカ愛国者”の狂信なんですね。
でも、本人はまったく狂信と思ってないし
言うまでもなく、トランプを支持した人たちは
こういう思考を持っていてもおかしくないわけで。

実際に、この付近では
「アメリカを移民から守るんだ!」と息巻く退役軍人たちが
「自警団」のようなものを作り、
国境で警備をしているそうなんです。

ぜんっぜん、SFじゃないですよ。

88分のコンパクトさも好きだし
すごく惹きつけられる映画なんですが

でも、やっぱり“イヤサス”=イヤ~なサスペンスなんですよね。
(イヤミスを真似てみた。笑)
ハラハラの裏にある現実のイヤ〜な感じが凄まじく
決して、見てこころよいものではないのですわ。

でも、けっこう、残ります。


★5/5(金・祝)から全国で公開。

「ノー・エスケープ 自由への国境」公式サイト
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ねこあつめの家

2017-04-08 22:45:52 | な行

あのアプリを
よくお話にしたなあと。


「ねこあつめの家」70点★★★★


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佐久本(伊藤淳史)は
スランプ中の小説家。

担当編集者ミチル(忽那汐里)は
佐久本をやる気にさせようとするが
なかなかうまく行かない。

あるとき
佐久本は田舎の一軒家を借りて、創作活動に励むことにする。

すると、家の庭に
猫がやってきて――?!


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まずは
ねこ、てんこ盛り!(笑)

「先生と迷い猫」のドロップさんとか
「世界から猫が消えたなら」の子猫役をしたキャベツさんとか
CHOYA梅酒のCMのシナモンさんとか

総勢18匹が見られる!ってことで
★も加点ですがな(笑)


伊藤淳史氏演じる小説家のスランプ描写が
やや長い気もするんですが、
猫によって人が何かに気づき、再生するストーリーに無理がなく
よく、あのアプリをこんなお話にしたなあと思う。


猫映画は、猫好きにとって
「どれだけ猫が出てくるか」も大事だけど
やはり「それが猫でなきゃならなかった」必然性の自然さが大事ですからね。

その点、猫ビギナーの佐久本と猫との共演は
なかなかうまい感じでした。


さらに、随所に“猫好き”を納得させる
細かい配慮がされている点がスゴイ。


まずは忽那汐里氏演じる編集者が
鏡を使って、猫を光で遊ばせるという
なかなか高度な技を披露したり(笑)、

近所のペットショップ店員(木村多江)のアドバイスが、また的確で
「ああ、よくわかってらっしゃる・・・」と、うなずくことしきり。

佐久本が彼女のアドバイスで
「猫のきもち」わかり度をあげていくにつれ、
どんどん庭に猫が集まってくる・・・という。

庭に集まってくるのは、つまり外猫なわけですから
近所の苦情が出ないように
食べ終わったごはんは出しっ放しにしないとか
庭はいつでも、きれいにしてあるし
(夢がない?いや、実写化というのはそういうものですよ。笑

猫度を上げていく佐久本がペットショップでアルバイトをし
「あ、子猫にミルクはあげちゃだめですよ」とか
お客さんにアドバイスするのもハハハ(笑)。


昨年末に発売されたAERA別冊「ニャエラ」で
この映画について取材をさせていただきましたが
一番驚いたのが、制作側の「猫好きを納得させるための気遣い」。

猫好きならすぐに
「え~。こんなことないよ」「ダメだよ」と気づいてしまうようなことを
絶対にしない、が大事なんだそうです。

さらに
「絶対に“かわいそう”なことにしないこと」。

ほらほら
ワシが常日頃言ってるじゃないですか(笑)
そういうのは見たくないんですよ、って。

そんな苦心と配慮で作られた映画なので
猫好きに安心して進められる「猫映画」ですな。


★4/8(土)から新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「ねこあつめの家」公式サイト
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