パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

「虚実」こもごも……

2005-11-11 15:34:17 | Weblog
 前に、「実数」を英語でリアルナンバーと言うことを書いたけれど、じゃあ、「虚数」は英語でなんと言うのかというと、「イマジナリーナンバー」と言うのだそうだ。すなわち「想像された数」だ。今、立ち読みした本に書いてあった。そして、その著者は、「イマジナリー」を「虚」と訳したのは適切ではなく、昔の数学者の翻訳力不足によるものだろうと書いていた。
 たしかに、「虚」というと、まったく「存在しないもの」「不在」を意味するから、「虚数」というと、まったくナンセンスな存在と思われかねない。しかりしこうして、みんな「虚数」について学ぼうなんて思わなくなる。実は、極めて大事な概念なのに……。と、著者は言っているわけだ。

 もちろん、私も「虚数」という表現に数学への熱意を拒まれた一人だ。高校時代、数学教師が、虚数概念の大切さ、有効さをしきりに強調しても、「虚」という文字の持つマイナスの価値概念が頭から離れず、まともに考えようとしなかった。もっとも、これを「想像上の数」と説明されても、それこそ五十歩百歩かもしれないが……。

 思いきり数学から離れるが、たとえば、「写真うつりが良い」とか、「悪い」とか言うけれど、なんでこんな現象が生じるかというと、写真が「リアル」で、われわれが現実に見、認識している「人」のほうが「イマジナリー」だからである。逆だろ、と思われるかもしれないが、そうじゃない。たとえば、我々は、昨日見たAさんを、今日見ても同じAさんとわかるけれど、それは我々が、Aさんを「Aさんという概念」として認識しているからであって、そのような「概念化機能」を持たないカメラによって写し止められた「写真にうつされたAさん」は、しばしば、「概念としてのAさん」を――良しにつけ悪きにつけ――裏切る。それが、「写真うつりの良し悪し」なのだ。

 あるいは、アインシュタインの一般相対性理論で説明してみる。
 一般相対性理論を一言で言うと、「重力の秘密」を解いたもので、答えは空間の曲率、つまり曲がり具合である。空間の曲がり具合が大きいほど、重力は大きく、小さいほど、重力も小さい。そして、その「空間の曲がり」を作っているものは、「物質の質量」である。
 さて、この一般相対性理論は、「落下する人は(実際は浮遊しているので)、重力を感じていない」ことに気づいたことがきっかけになったが、この「発見」を物理教科書的に表現すると、「重力と加速度は等しい」ということになり、これを「等価原理」と称する。
 物理の得意な優等生は、この定義で満足かもしれない。しかし、「アインシュタインのおもちゃ」という本には、こう書いてある。
 「等価原理は、重力と加速度は等しいと考えられがちである。しかし、等価原理は錯覚(イマジナリー)と現実(リアル)について述べたものである。」と。
 
 数学の虚数/実数と、写真うつりの良し/悪しと、一般相対性理論の基礎理論としての等価原理がすべて同じ現象であるとは、いくらなんでも言えないと思うけれど、類似はしていると思う。

 Sさん本からすっかり解放された……と思いきや、出版記念パーティーの準備をやらされている。主に動いているのはMさんで、こっちはMさんの指示にしたがって文書を作ったり、シールをイラストレーターで作ったりしてるのだが、そのデザイン指示が、依然、極端に細かい。シールなどは、ついに徹夜になってしまった。
 それだけならまだしも、困るのは、Mさんの時間感覚だ。
 一昨日の昼過ぎ、1時頃――
 「これからいくね」
 「何時頃になりますか」
 「うーん、3時までにはいくよ」
 「じゃあ、4時……5時くらいっすかね」
 「そんなことはないよ。今日は必ず3時にはいく。じゃあねー」
 で、実際に現れたのは、夜8時過ぎ。(まあ、指示が細かい上に、時間も厳守だったら、そっちのほうが耐え難いかもしれないが)
  
 Mさんの奥さんのお母さんが、昔、Mさんを評してこう言ったそうだ。
 「Mさんは、上げ潮の下駄だね」
 その心は、「上げ潮に流された下駄はいつ戻ってくるかわからない」。
 昔の人は、面白いこと言うね。

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