パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

お金(銭や、銭!)の話

2013-03-16 15:54:45 | Weblog
 「グラフィケーション」誌における、ドイツ文学の研究者で翻訳家のI氏とエッセイストのO氏の対談の写真担当として同席。

 I先生が、最近の小説は全く読んでいないし、読む気も起こらないと言っていたが、対談のテーマが「お金」なので「苦役列車」なんかはお読みになったことありますか?と脇から聞いた。

 本人が「読んでない」というのだから、返事はわかりきったものだが、一応念のためと思ったのだが、じゃあ、私が「苦役列車」を読んだことがあるかというと、実は「ない」。

 そんな立場で、「読んだ感想を聞く」なんて、インチキでありました。

 反省。

 ただ、「苦役列車」というタイトルがちょっとかっこよくて、好きだったので。

 で、そのときのI先生の言っていたことで、印象的に覚えていることは、というか、それしか言わなかったとも言えるのだが、貨幣(金)の威力に歴史上初めて気づいたのは、日本人。日本人は、ひたすらお金が第一という観念を持っている。私はずいぶん各国の本を沢山訳しているが、お金が第一というテーマの小説、論文は見たことがない。桃太郎も、花咲か爺いも、お金をぶんどってくる話だ。もちろん、外国の昔話、たとえばグリム童話にも、そういう、最後にお金持ちになって幸福になりましたメデタシメデタシという話は沢山あるけれど、一方でお金も名誉も何もかも捨て去って、ああ気持ちいい!という話もある。日本には、そういう思考に基づいた話はない。「金色夜叉」の間貫一もお宮を高利貸しに奪われて、時分も高利貸しになっちゃうし、最高の文学、たとえば樋口一葉の「おおつごもり」なども〈お金が第一〉という世間に抗して貧乏人がどう生きたかを描いたもので、金銭を「原理的」に考察した結果ではない。(これは私の解釈だが)

 大阪の堂島で、米の先物取り引きが行われたのは、欧米より200年早いが、それも日本人の「お金」に対する伝統的感性から考えれば、当然の話だが、一方、貧乏人が貧乏人として生きていく手だても様々にあった。

 しかしそれは戦後20年間くらいまでで、今は、どういうわけか、貧乏人が貧乏人として生きてく手だてはほとんどなくなってしまった、これはよくない!という話だった。

 もっとも最後の「原理的云々」は端で聞いていた私の解釈だけれど、私は「日本人のようにお金を肯定する民族は珍しい」というI氏の話には、「なるほど」と思った。

 私が思うに、日本の最大の問題点は、無原理である故に、自己批判の契機をスタビライザーのように、内蔵していないところにあると思う。

 さらに言えば、そういう状態、つまり、「お金が第一」という自然主義的態度において、「お金」をどう批判することができるか、という問題。

 日本人はアメリカが「格差社会だ」と言い、富のすべてを金持ちに奪われていると批判するが、日本が新幹線をアメリカに売り込みにいったとき、アメリカの地方政治家は、「運賃が高すぎる」と言って、導入を否定した。

 私は、これを聞いて、新幹線システムの根本的欠点に気づいたのだったが、アメリカ、というか諸外国は、格差社会であればこそ、貧乏人をケアする姿勢が為政者にスタビライザーのように内在しているのだが、日本は格差社会では、本質的に「ない」ため、そういう構造を内在化していない。

 TPP交渉参加について、日本医師会が全面ページ広告を各紙に載せていたみたいだが、それに「日本は高額医療でも貧乏人が受けることができるが、アメリカは高額治療を受けることができるのは、高額の民間保険に入っている金持ちだけだ」と書いてあった。

 これまでの医師会の「アメリカ批判」とは若干ニュアンスが異なっている。

 実際、アメリカでは、各種のワクチンを接種していない児童は小学校の授業に出られないという。もちろん、ワクチン接種がすべて無料だということから、こういう対応ができるわけだが、日本では麻疹のワクチン単体ですら4、5万円かかる。

 アメリカみたいに数多くのワクチンを接種したら、おそらく20万円はかかるだろう。

 それで医師会は、日本はワクチン接種の基準に先進国から20年、世界基準で10年遅れていると言っているわけで、そういうこともあって、「低額で高額治療を受けることができる」という表現にしたのだと思われるが、「低額で高額治療を受けることができる」メリットと「無料でワクチン接種を受けることができる」メリットが二者択一であるとしたらどちらを選ぶか。

 「高額治療は金持ちの特権」と割り切るリアリズムと、「貧乏でも高額治療は受けたい」というエゴイズムの相剋というか、ジェラシーとの戦いというか。

 「まくら」のつもりで書き始めたのが、長くなってしまったので、本題の「パソコン苦役列車」の話(まだ続くのだ)は、また後で。

 と思ったが、一つだけ困っていることがあるので、対処方法を教えてください。

 それは、ブックマークの「お気に入り」が全然反応しなくなってしまったのだ。

 どこをどうすればいいのか、わかる人がいたらお教えを。

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