パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

同情するなら金をくれ

2007-12-09 22:39:45 | Weblog
 書き込んでいる途中、小指の先がちょっとキーに触れただけで全部パーになってしまった。何度目だろう。本当にgooブログやめようかなあ…。
 書いていたことは、前日に続いて、「寝たきり老人」ネタで、日本人は、マイケルムーアの『シッコ』なんかの尻馬に乗って、公的健康保険のないアメリカを非難し、「日本人でよかった~」とか言っているが、寝たきり老人がアメリカ人一人につき、10人以上もいるのに、何を能天気なことを言っているのだ、と、そんなことを。

 以前、寺山修司が、アメリカ人が禁煙だとかダイエットに夢中なことを、「健康マニア」と揶揄して、みんなそれを、「よく言った」と喝采したことがあったが、アメリカ人が健康に気を使うのは、公的保険がないからで、できるだけ、病に倒れるリスクを小さくしようとしているだけなのだ。そして、その結果、寝たきり老人が少なくなり、一方、日本の場合は、(厚生省の役人に言わせれば)「世界に冠」たる健康保険制度があるから、たとえば、月に百万近くかかる人工透析も2万円で済むから、みんな安心(?)して糖尿病にかかることができる。
 もちろん、日本の寝たきり老人の数がアメリカの10倍以上もいることは、こんな単純な説明で済むことではないだろうが……いや、単純な話かもしれない。人間の身体は要するに、食べたものの結果なのだから、グルメに狂えば、その結果はてきめんに身体に出る。

 以前、みのり書房にいた頃、生命保険のおばちゃんが定期的にやってきては勧誘するのだが、その時に必ず言う台詞が、「保険に入って安心されると皆さん、病気にもなりません。入らない人に限って、突然病気になったり、思わぬ事故にあわれたりするのですよ、オホホホ」だった。
 根拠のないこと言いやがって。

 もちろん、保険が不用というわけではない。しかし、保険とはそもそも例外的事態に対処するものだ。さもなければ、「事業」として成り立たない。例えば、癌保険というのがあるが、加入者がみな癌になったら、保険として成り立たない。癌保険においては、癌発生は例外(要するに、少数)でなければならないのだ。その点では、公的保険も私的保険も同じであって、だから厚生省はメタボリック撲滅に躍起となっているわけだが、透析患者、寝たきり老人が、百万を越え(確実にそうなるだろうが)ても、なお、保険事業は成り立つだろうか。そもそも、人間はみな例外なく、老いて、死ぬことになっている。そして、公的保険(年金も含む)は、そのすべてにつきあわねばならない。

 ということは、要するに(まわりくどくなったが)、「公的保険」という発想にそもそも無理、矛盾があったのだ。

 ではどうしたらよいかというと、ずっと前からの持論になってしまうが、「税」によるしかない。

 この「税」による救済のもっとも徹底したものとして、ベーシック・インカムという考えがある。これは、読んだ通り、ベーシック・インカム=基礎収入、すなわち、人間が生きていく上に必要な最小限の「お金」を政府が、無条件で全国民に例外なく保障する制度で、左寄りの論客はあまり認めたがらないようだが、レーガン大統領の経済顧問だったミルトン・フリードマンという(前回、長寿の学者として名前を挙げたが)保守派の経済学者が言い出しっぺで、彼の場合は、「負の所得税」という。つまり、ある基準収入を決め、それがたとえば年に200万だとすると、それに達しない人は達しない分を「負の所得税」として国からもらえる、という制度だ。仮に収入がゼロだったら、200万円まるまるもらえるわけで、初めて聞く人は皆仰天する(私もそうだった)が、この「負の所得税」に、従来のすべての社会保障制度を含む。つまり、負の所得税を導入する代わりに、年金、健康保険をはじめ、すべての社会保障制度は廃止されることになる。フリードマンによると、「このほうが合理的」だから、導入すべきなのだ。

 一方、左寄りの論客が主張するベーシックインカム制度とは何かというと、先日、これを特集した雑誌を買ってみたのだが、「寝返り打つのも労働」とか、わけわからんことを言うだけで、具体的にどうするつもりなのかはよくわからなかった。
 この、「左寄りのベーシックインカム制度」には、社会主義的ユートピアのイメージが根底にありそうだ。フリードマン先生なら、「わしはイメージなど語らんぞ」と言うところだろうが、まあ、それもおいおい勉強するとして、そもそも、資本主義とは、ケインズが言ったように、「緩やかなインフレ」を前提に成り立っている。ところが、近年、日本のデフレを筆頭に、それが怪しくなってきた。アメリカのサブプライム問題なんかも、要するに、住宅価格が値上がりすることを前提にした融資プランが、値下がりしたために計算が狂ったということだし。インフレを前提にするなんて、不徳なことだという人もいるかもしれないが(与謝野馨とか)、もし、「緩やかなインフレ」が望み得ないとしたら、資本主義は将来やばいことになる。

 というわけで、世界中の学者が、このベーシックインカム制度を真剣に検討しだしているのだが、実は日本政府も、研究をはじめたと、半年くらい前に、新聞の片隅だったけれど、報道されている。実際、日本ほどこの制度を必然としている社会はないはずなので、ある日、突然、何かが始まるということもなきにしもあらずだ。(安倍前首相が、教育クーポン制度を言っていたが、実はこれもフリードマンのアイデアだし)

 まあ、要するに、「同情するなら金をくれ」ってことなのだけどね。

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