なんとものどかな路地の風景だ。この路地が両側の長屋風建物の共通の縁側なのである。洗濯場になり、催事の場になり、日光浴の場になり、子供達の遊び場になるといった具合にである。それは近所のマンションなどにはみられない大変豊かな空間だ。そうした空間が六本木界隈の真ん中にある。いや、あったと書くべきか・・・。
遠くに見えるマンションと路地長屋とどちらが豊かだろうかといえば、当然こちらの路地長屋である。
路地というマージナルな空間が、公私を明確に分類するマンションの空間にはないからだ。本来私達の生活は、公私といったカテゴリーで明快に分けられる暮らし方ではない。公私がわけられているから、仕方なくこれにつきあっているにすぎない。公私からはみ出す生活というものも多々あり、それを受け入れられる空間が必要なのだ。それがこの路地だろう。
不動産屋的にみると、マンションよりはこちらの路地の方が資産価値が高い。マンションの土地共有で世帯当たり1坪の土地ぐらいしかない不動産に比べれば、こちらは平屋の住まいの生活機能分の敷地を保有していることになる。木造平屋建てであるというのは好都合であり、建築の外部や内部はいつでも簡単に最新型の設備に入れ替えられる。そうすればマンションと一緒の快適さが実現できる。つまりこうした木造建築の方がフレキシブルに対応できるわけだ。
1997年東京都港区元麻布
MinoltaCLE,Leitz Elmarit28mm/F2.8,トライX