これも1997年に東京都港区元麻布で撮影した画像だ。とても都心には見えないけれど右下の看板にも港区とあるように、ここは六本木界隈の街の中にある。こうした空間に入り込んでしまうと、都心にいるという空気は皆無であり、どこかの田舎にいるような気分になる。そんな地形的にくぼんだこの土地をみていると安部公房の小説「砂の女」を思い出していた。
私の仕事場は西麻布だったから元麻布は隣町であり、ほどなく六本木の交差点にゆきあたる。六本木の街を歩いていると、昔からの酒屋さんなどの古店がビル群に埋もれて散見する。本来はこうした店がこの街の住民達の生活を支えていた。
それに空間は、どんなに都心であっても建築や樹木や植栽などで囲んでしまうと別世界をつくりだすことができる。そのあたりは空間づくりの技なのだ。そんな技を持ち出すまでもなく、昔から棲んでいるからこのような風景のまま時間が止まっていた。たからそのまま触らずにそっとしておいてほしいのだが、多分お節介な部外者がこの街には多いだろうな。
こうした都心にありながら、そこだけ異質な空間が存在するという構造は、京都市内では結構みかける。例えば四条烏丸の交差点のすぐ近くにありながら、路地をゆくと静かな場所にたどりつく。それは芝居の舞台を裏返したような不思議さもあるが、私達が暮らしている空間とは、そんなふうにどうにでも作り替えることができる。大体は良好な環境を壊して新しくつまらなくなるのだが・・・。
このころのネガをデジタル・デュープをしていると、MinoltaCLEとLeitzM4-P、それにトライXを持って東京の街を走り回っていた事が多い。そのデュープの作業もようやく終わりに近づいてきた。約15,000枚の画像をデジタル化したが、ブログなどにチョイスするのが大変そうだ。それ以前に何が面白いんだ、という問いもある。まあ書架が少し整理されたのが一番大きいのだろう。
1997年6月東京都港区元麻布
MinoltaCLE,Elmarit28mm/F2.8,トライX