第7話
『いざという時そばにいられない男だけどそれでもいいか?』
広報室では次の企画のことで
空井と比嘉、片山が揉めている。
その様子を一応カメラに収めていたリカ。
「プロモーションビデオまで作ってると思いませんでした。」
「ビデオといっても30秒の短いコマーシャル。
毎年、陸・海・空の三幕それぞれが
イメージアップと隊員募集のために作ってんの。」
防空の話を広く広めたい空井だが、今は広報の話。
もめてる様子を見ていたリカが鷺坂に聞いた。
「考えてみれば広報活動すること自体が
不謹慎だっていう批判はないんですか?
何か商品を売るような企業とは違って、
皆さんの場合売り上げとか関係ないし、
例え世間からのイメージが悪かったとしても
職務には直接関係ありませんよね。」
「俺らの仕事、全否定・・・」
「身も蓋もない。」
「あえて聞いてるんですよ。」
「なかなかいい目のつけどころだと思うよ。
もし嫌われたくないっていう気持ちだけの問題なら、
そこまで広報に力を入れる必要はないのかもしれない。」
「ならどうして。」
「有事の際、例えば災害派遣ひとつとっても、
全国の皆様のご理解があればこそ、
我々は迅速に有効に働くことが出来る。
より多くの命を救えることにも繋がる。
ということを、以前痛感しました。」
「災害派遣に出られたことが?」
「平成7年、岐阜基地にいた時にね。」
その時、比嘉がレスキューはどうかと言い出した。
空自が誇るレスキュー部隊、航空救難団。
「警察、消防、海上保安庁といったあらゆるレスキューが
対応出来ない状況において、
出動を要請されるのが我が航空救難団。
はるか遠洋から雪山まで、夜間や悪天候下においても、
出動要請さえあらば出来うる限りの救助を行う。
日本唯一の・・・全天候型レスキュー部隊。
その救難員を通称・・・」
「メディック!!」
「・・・と呼ぶ。」
広報室のメンバーが声をそろえて言った。
早速メディックの取材に行くリカと空井。
救難ヘリのUH-60Jと、
捜索機U-125Aの説明を受けるリカ。
空井はPV撮影の説明をする。
その側では隊員がしごかれていた。
訓練生の手前の志願者とのこと。
「養成課程に入るにも選抜試験を通らなきゃいけないんで、
年間7~8人の狭き門です。」
「それに受かればメディックに?」
「いえ。 その後1年間、
空挺課程、潜水訓練、雪山訓練といった
訓練課程をクリアした者のみがメディックになれます。」
「厳しいんですね。」
「じゃないと現場に出た時 死んじゃうんで。」
そういう厳しさをPVでアピールするかと思いきや、
何故かダーツバーに。
厳しいとこだけアピールしても暑苦しいだけ。
コンセプトは親しみやすさだと。
その現場には藤枝と珠輝も来ていた。
はしゃぐ珠輝を注意するリカ。
「何やってんの! あんたはなんでいる訳?」
「お前が頑張ってる姿を見に来たんじゃん。」
「休みをもっと有効に使いなさいよ。」
「有効的に使ってますけど?」
「イチャイチャしないで下さい。」
リカたちの様子を見ていた空井、片山、比嘉。
「あいつか? 稲ぴょんの男は。」
「あの人か?」
「あっ、はい。 あの・・・帝都テレビのアナウンサーです。」
「チャラチャラしやがって・・・任しとけ!」
藤枝の元へ行き話しかける片山。
「ああ、どうも、初めまして。 空井の上官の片山です。
ホントにね、いつもお世話してます。 うちの空井が。
ホンットに、いいやつですからね、うちの空井は。」
「それにしても男前ですよね、片山さんも。」
「えっ?」
「スラッとしてるし、俳優みたいで。」
「ああ・・・そうね、よく言われる。
お前は自衛官になってなかったら俳優になってたな、なんてね。」
簡単に乗せられてしまった片山は空井と比嘉の元へ。
「手強いな、あいつ。」
「片山一尉、完敗でしたね。」
そこへ槙もやって来た。
槙を見た珠輝が「ポメラニアンの人」と。
リカがその話は色々複雑だからやめようねとたしなめる。
槙もエキストラ要因とのこと。
その時、スカート姿で柚木が現れ、みんなビックリ!!
「あんた達がスカートで来いって言ったんだろうが!!」
「髪下ろした方が良くないですか?」
リカは柚木の髪を解く。
その姿を見た広報室メンバーが声を上げた。
「お~!女に見える。」
「見えますね。」
「見えますよ。」
「うるさい!!」
槙を蹴る柚木。
「その服、高かったから破かないで下さいね。」
「ごめん。 足が勝手に・・・」
「その服、稲ぴょんの?」
「稲ぴょん?」
今度はテレビ局のメンバーが声を揃えて言った。
「稲ぴょん禁止で。」
「えっ、空井も陰で言ってるよ。」
「えっ! いやいや、言ってないですよ。」
慌てて否定する空井。
そして撮影が始まった。
撮影が進む中、誰かど真ん中に当てられる人はいないのかとなり、
得意そうと言われた空井と、
得意じゃなかった?と言われたリカが何故か賭けをやることに。
空井が先に真ん中に当てたらリカが空井にお酒を奢り、
リカが先に当てたら空井がリカにお酒を奢るよう言う片山。
が、珠輝がどっちにしろ2人で飲みに行くことになると。
そしてリカが勝ったら空井と珠輝がデートすることになった。
結果、リカが勝つ。
その頃、槙は柚木にデートを申し込む。
ポメラニアンとはとっくに別れたと告げた槙。
リカと柚木が2人で飲んでいた。
その頃、空井は珠輝と一緒。
リカは柚木に槙は防衛大の時から好きだったんだと。
それにキモイと言ってしまう柚木。
オッサンとオッサンがデートとか・・・と。
そんな柚木に一度オッサンを忘れようとリカ。
「柚木さんの心の片隅の乙女心の引き出しを、
ほんのちょこっと開けてみませんか?」
「オトメゴコロ?」
「イエス。」
「稲葉はあんの? 乙女心。」
「最近少し引き出しから顔を出してたんですけど。」
「けど?」
「飲みに誘ったら2人では嫌だと断られ、
好みのタイプは私とは真逆だと言われ心が折れました。」
「そりゃ~折れるわ。」
「なので、ダーツを決めて後輩にフライパスしました。」
「恋愛にはガツガツいけないか。」
空井と珠輝は原宿に。
空井は原宿に初めて来たよう。
東京勤務自体も初めてだと。
「空井さんも3年たったら異動しちゃうってことですか?」
「そうなりますね。」
「てことは、遠距離恋愛するか結婚するしかないってことか。」
「仕事している女性にとっては選びにくいですよね。」
リカと柚木。
「稲葉は仕事辞める気ないんでしょ?」
「ないですけど。」
「うちら転勤ばっかだし、いざという時いないしね。」
「いない?」
「自衛官は有事の時は現場に駆けつけなきゃならない。
つまり自分の大切な人のところには行けないってこと。
室長の奥さんの話 聞いた?」
「亡くなったんですよね。」
「うん。 ずっと入院してて病気で亡くなったんだけど、
死に目には会えなかったって。
危篤の時、室長は災害対応で身動き取れなかった。」
「災害・・・」
「1995年、阪神淡路大震災。」
あるお店を訪ねていた鷺坂。
手には奥さんが書いていたスケッチブックが。
槇を意識してぎこちない柚木。
「あっ、ごめんごめんごめん。 私がおかしい。
長いこと引き出しぴったり閉じたままだったから
どうしていいのか・・・」
「引き出し?」
その時、片山が出勤し、空井に絡む。
「どうだったんだよ、昨日のおデートは。
据え膳食ったか? 踊り食ったのか?」
「そんなことしてないですよ!」
デートの報告をさせられる空井。
しかも広報室中が聞いている。
「食事をしたんです。」
「はい、食事きた~。」
「お続け下さい。」
「はい。 何か聞きたいことありませんかって
言われたんですけど・・・」
「はい、質問きた~。」
「はい、お続け下さい。」
「驚くほど何も思い浮かばなくて。」
『あの、好きな・・・飛行機は?』
聞いてた全員が残念そうな顔をする。
「いや、分かってますよ。 残念な会話だってことは。」
「その後は?」
『この前、浜松でT-4飛ばしたんですよ。
あれは楽しかったな~。
カウントダウンに合わせてフライパスって。』
『はあ・・・』
「盛り上がりましたよ、少しは。」
「ホントかよ。」
「盛り上がるだけが全てじゃありませんから。」
「あっ、既婚者!」
鷺坂もやって来た。
「一緒にいて落ち着くだとか、安らぐだとか―」
「或いは自分に力を与えてくれる・・・とかね。」
その頃、阪神大震災のことを阿久津に聞いていたリカ。
あの頃は自衛隊に対する風当たりは、
今よりもっと強かったんじゃないかと阿久津。
「戦後のイデオロギーの対立もあって、
災害時すぐに自衛隊を派遣するという法整備がなされていなかった。
結果自衛隊はなかなか出動出来ず、初動の遅れが問題になった。」
「今は震度5弱以上の地震が発生した場合、自主派遣出来ますね。」
「阪神の件をきっかけに法改正されたんだ。
鷺坂さんに直接聞いてみたらどうだ。 当時のこと。」
「そうですよね・・・」
報道局で阪神大震災の映像を見ていたリカに気づいたともみが、
リカに嫌味をかますが、ヘッドホンをしていて聞こえていなかった。
ともみに気づきヘッドホンを外すリカ。
「リカって報道好きだよなって。」
「これは今やってる空自の密着取材の関係。
当時の報道のされ方覚えてなくって。」
「半分バラエティーみたいな情報番組で
そこまでやる必要ないんじゃないの。」
「うん。 ないのかも。
でもやれることは全部やろうと思ってさ。
あっ、これUH-60J。
昔は黄色と白だったってこれか。
このヘリ、今は紺色の洋上迷彩に変わってんの。」
「あっそう。」
PVが出来上がり、みんな満足そうだったが、
幕長たちに見せるとイマイチな反応。
バーという設定から、お酒のイメージのある場所から
出動するのは如何なものかと・・・とのことで結局却下に。
救難団のところへ謝りに来た空井。
リカも取材のため一緒に行動。
表には出ないけど焼いてきたとDVDを渡す空井。
「佐伯さんたちはもっとも過酷な状況に
送り出されることが多いんですよね。」
「そうですね。」
「ご自身の命が危険にさらされることも。」
「多いと思います。」
「大切な家族を残して、自分が死んでしまうかもしれない。
その可能性は考えませんか?」
「死なないために、厳しい訓練を重ねています。
どうやったら要救助者を助けられるか。
どうやったら生き抜けるか。 それだけを考えます。」
リカと空井。
「自分、パイロットだった時、
自分たちが表に出ないなんて当然だと思ってました。
前に稲葉さんが言ってたみたいに、
広報なんかしなくても任務は任務だし、
一般の人にどう思われてようが関係ないと思ってた。
でも今、広報官である自分は、凄く、凄く伝えたい。
現場で働いている隊員たちの思いをもっともっと知って欲しい。」
「迷ってたけど決めました。
鷺坂さんにインタビューお願いしようと思います。
1995年1月17日。 奥様が亡くなった日のこと。
どんな思いで任務についていたのか、知りたいんです。」
鷺坂は少年野球のコーチをしていた。
その後、スーパーに寄り買い物。
そして自宅に行き料理をし、リカと空井に振る舞う。
食後にインタビュー開始。
当時は岐阜基地の高射隊の隊長で、
近くに奥さんと家を借りていた。
奥さんは前の年の秋に心臓の手術をしたが、
経過があまりよくなく、
それからずっと岐阜市内の大学病院で入院したきりと。
地震の時、鷺坂は自宅にいたが、
岐阜はそれほど激しい揺れではなかった。
でも神戸が震度6と聞いてすぐに基地に向かったが、
実際はなかなか出動出来なかった。
待機中に奥さんの危篤を知ったが、災害派遣は一刻を争う。
待機中とはいえ勝手な行動はとれない。
「奥様を1人で死なせても?」
「妻には、結婚前から話してありました。
何かあった時、そばにいられない男だけどそれでもいいか。」
奥さんと最後に会ったのは地震の前日。
出勤前に病院に立ち寄った時だと。
いちご大福が食べたいと言っていた。
買ってくる約束をし、笑顔で挨拶をする。
「最後に、ちゃんと 笑ってあげられて良かった。」
「奥様はその日のうちに?」
「はい。 会いに行けたのはそれから5日後でした。」
「後悔はされませんでしたか?」
「いちご大福を供えてやろうと思って探したんだけど、
どこにもなくて、どうしてもなくて。
その時、ふと妻は1人で、たった1人で死んでいく覚悟。
その覚悟はしていたと思います。
でも、ホントに幸せだったのかなって。
妻よりも、言ってしまえば
見ず知らずの人を助けることを選んだ自分は
自衛官としては、自衛官としては正しい選択です。
でも、夫として正しかったのかどうか。」
「答えは出ましたか?」
「以前、インタビューで話したと思うんですけど、
雪子は転勤のたびにスケッチブックを持って散策に。
で、私が休みの日に散策の成果を話してくれる。
私1人では気づかない、
その土地のちょっとした素敵なことを沢山教えてくれた。
雪子はみんな大好きでした。 みんな愛してました。
人も自然もみんな見ず知らずなんかじゃない。
みんな守るべきものなんだってことを教えてくれました。
雪子は今も、応援してくれていると信じています。」
リカは阿久津にインタビューを見せていた。
「私の取材は正当だったんでしょうか。
鷺坂さんの傷をえぐっただけなんじゃないでしょうか。
知りたいって気持ちはただのヤジ馬根性と一緒で、
私が聞き出すことで、傷つく人いるんじゃないでしょうか。
怖くなりました。」
「このインタビューが実際番組に使えるかどうかは分からん。
だが、お前が誰かの物語を知ることで、
違う形でもいい、その思いを伝えられるのなら
意味はあるんじゃないのか。」
「広報活動自体が不謹慎といわれることがあっても、
それでもね、理解してもらうことで
自衛隊が出来ることが増えるなら。
そう信じて、我々は手を振り続けるしかないと、そう思ってます。」
番組中、中継場所にいたともみからリカに電話が。
何かあったのかもと電話に出るよう言う阿久津。
「はい。」
「紺色のヘリ。」
「ヘリ?」
「この前言ってたでしょ。
紺色のヘリって航空自衛隊?」
「UHのこと?」
「機種なんて分かんない。 筑穂山の中腹。
ディレクターは山岳救助ヘリだって言うんだけど。」
「機体に書いてない?」
「下からで見えない。 これから中継入る。」
モニターを見るリカ。
この後、予定を変更して現場から緊急生中継とのこと。
ヘリが映らず苛立つリカは阿久津に聞く。
「紺色って全国でUHだけですか?」
「知らん。」
「・・・・・∪-125A。
ヘリの他に飛行機見なかった? 水色で先の尖った。」
「いる。 飛んでる。」
「捜索機とペアで飛ぶ救難ヘリは
日本で航空救難団しか存在しない。
間違いない。 航空自衛隊。」
テレビ中継を広報室でも見ていた。
航空救難団が救助していたのだが、
山岳救助ヘリと言われ、全員から残念そうな声が・・・
「海上だと海上保安庁。 山の上だと山岳救助ヘリ。
うちの救難が海にも山にも出動するってことは
案外知られてないからね。」
テレビはともみの中継映像が。
「たった今、遭難者を乗せたヘリが飛び立ちました。
なお、山岳救助ヘリとお伝えしていましたが、
正しくは航空自衛隊所属の航空救難団が
遭難者の救助にあたっていました。」
広報室全員がTVに振り向いた。
「今日17時40分頃、滑落したと思われる遭難者の救出に
百里救難隊があたりました。
救難員、通称メディックが救助用ホイストで降下。
捜索機が発見した遭難ポイントまで下り、
担架に遭難者を乗せて岩場を登って戻るという
凄まじい救助風景が見られました。
航空救難団の―」
「えらい詳しいな。」
「稲葉さん・・・じゃないですか?」
ボソッと呟く空井。
「他を生かすために、彼らは日夜、
過酷な訓練に励んでいるとのことです。
現場からは以上です。」
「絶対稲葉さんですよ!!
すいません。 お先に失礼します。」
「稲ぴょんか。」
リカと阿久津。
「少しは、返せましたかね。」
「充分だ。 あまり深入りすると見失うからな。」
空井から電話があり、局を出るリカ。
リカの姿を見て呼ぶ空井。
「稲葉さん! 稲葉さん!」
「何処?」
「稲葉さん! 稲ぴょん、稲ぴょ~ん!」
「ちょっと・・・やめて下さい。」
「ニュース、稲葉さんですよね。」
「ああ・・・」
リカの手を握る空井。
「ありがとう! 本当にありがとうございました!!
飲みに行きましょう。」
「えっ?」
「今から2人で。」
「私と飲むの嫌なんじゃ・・・」
「まさか。」
「えっ?」
「グダグダ考えんのやめにしました。
僕が稲葉さんと飲みたいから誘います。 ダメですか?」
「いえ全然・・・」
「じゃあ行きましょう。」
空井はリカの手を引っ張る。
2人で飲み屋に。
楽しそうに話をするリカと空井。
それを目撃した藤枝。
「なんだよ、うまくやってんじゃん。」
「あっ、藤枝。」
リカも藤枝に気づき手を振り、藤枝も手を振る。
空井はビックリして立ち上がる。
「あの・・・自分と一緒にいて大丈夫ですか?」
「あっ! また違う女の子連れてる。」
藤枝もデートのよう。
「友達としてはいいやつなんですけどね。」
空井は呆然となり、座って顔を覆う。
「あれ、どうかしました?」
「えっ? あ~・・・いや、あの・・・
稲葉さん、乾杯しましょう乾杯。」
空井の誤解が解けて良かったよ~。
分かった途端の空井のハイテンションときたら(笑)
あとは珠輝の邪魔が入らないことを祈る。
鷺坂の話は泣けたね・・・
悲しいけど致し方のないことなんだろうな・・・
早く空井とリカの関係が進展するといいなぁ~。
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