▼福島第一原発の事故から、まもなく5年を迎えようとしている。あの事故の時、国民は、ヒロシマ・ナガサキの原爆投下を思い起こしたに違いない。それが終戦への決断となったので、原発は全面廃止の方向に行くことを、望んだ国民が多かったに違いない。だが、国連の常任理事国入りをめざす我が国にとって、世界と同等の発言が出来るため、国防軍と原子爆弾の保有は必須アイテムだ。もちろん、常任理事国入りには「戦争の放棄」など、場違いの思想なのだ。原爆の製造のためには、原発の再稼働は、国家の最重要課題なのだ。
▼「戦後も70年が過ぎた。“喉元過ぎれば熱さ忘れる作戦”の開始です。まずは“安保関連法案”を強行採決し、憲法改正の足がかりを作らなければなりません。・・・遠くから聞こえてくるのは誰の声だろうか。私はどうやら夢の中にいるらしい。その発言の主が、軍服姿で白馬に乗って遠くに見える。「大日本帝国の復活こそ、私に与えられた、使命でございます」と叫んだ騎乗の主をズームしたら、やはりアベ総理だった。
▼昨日、元福島県知事、佐藤栄佐久著「福島原発の真実」を読み終えた。読後の感想に上記した内容の夢を見てしまったのだ。アベ総理の祖父は、日米安保の立役者で、元総理の岸信介だ。その弟も、沖縄を本土復帰させたという功績で、ノーベル平和賞を受賞した総理の佐藤栄作だ。後に、返還に際し、莫大な裏金の密約があったことが暴露され、ノーべル賞の権威に傷つけた人物として、国民は記憶している人も少なくないのではないかと思う。その名前と、呼び名が同じ福島県知事の佐藤えいさくさん。地元で弟の経営する会社の土地売買に、便宜を図ったということで裁判にかけられ、辞職に追い込まれた人物だ。
▼「さとうえいさく」という名に偏見を持っていた私だが、補助金に釣られ、原発依存体質になっていく福島県。さらに、東電や経産省の隠蔽体質や書類の改ざんなどに疑問を持ち始めた佐藤知事は、国や電力会社に任せっきりではない、県独自の調査チームを結成する。点検記録の改ざんがとくに悪質だった福島第一1号機が原子力安全・保安院により、初の1年間営業停止命令が出された。次々改ざんが明るみに出た東電は、東電が所有する全原発を停止した。これについて、福島県知事が「止めろ」といったと、知事一人を悪者扱いにしたという。そこに国と東電がマスコミまで巻き込んだ、逆襲撃が始まる。
▼福島県に佐藤知事の弟の会社がある。この土地の売買を巡り、知事が口利きをし、賄賂をもらっていたというでっち上げを、検察特捜部が仕掛けたのだ。この特捜部の前田恒彦検事は、厚生省の村木厚子局長に無実の罪を着せ、失脚させようとした人物で、後に解雇されている。知事への賄賂だったと証言した建設会社の会長は、その後検事から「こちらの望むとおりの供述をすれば、お前の法人税違反に執行猶予をつけてやる」と言われ、嘘の供述をしたと白状した。その会長の証人喚問申請を行なったが、東京高裁は却下した。判決は、知事が懲役2年、執行猶予4年で、知事の弟にも同程度の判決が下る。だが賄賂を受け取ったとした裁判で、有罪だが賄賂による追徴金はゼロ円という判決だ。「無罪だが有罪」という判決なのだ。だが「知事は有罪」という事実で、辞職を余儀なくされる。恐るべし特捜部だ。そこには国や東電もマスコミまでも一蓮托生の動きを見せている。
▼読後感じたのは、我が国は大日本帝国の影が、いまだに色濃く残っているのではないかということだ。一知事が、国に反旗を翻したら「非国民」として抹殺するという国家主義だ。既に40トンを超えるという、我が国のプルトニウムの保有量。処理できなければ常任理事国入りなど出来ない。プルトニウムの処理にはまずはプルサーマル原発の再稼働だ。そして、世界初のフルMOX燃料を使用する大間原発は、国の威信にかけても稼働させなければならないのだ。
▼下北半島の地元自治体は賛成だ。青森県知事も県議会も賛成している。大間原発建設には何らの法的支障はない。後は、原発事故など二度と起こさない、世界最高規準をクリアーすればいいだけだ。2020年のオリンピックで国がお祭り騒ぎのほとぼりが覚めない直後に、運転にこぎつければいいというのが国の判断だろう。と想像すれば、30キロも離れた県外の函館市が、国を訴えるなんてチャンチャラおかしい話だ。裁判も弁護士だけに任せっきりだというのも、国に楯突いても無駄だということを知っていての、単なる政治的パフォーマンスに過ぎないのではないかと、国は歯牙にもかけていないに違いない。
▼世界一厳しいといわれる原子力規制委員会の規準。我が国の裁判所は、その規準をクリアーしたものに、それを認めないという科学的理由を証明できるであろうか。事故が起きそうだという想像で、裁判官が差止めを容認することなど、常識的にはありえないからだ。福島県も既存の軽水炉原発に、MOX燃料を使用するプルサーマル計画に対し、様々な不信感から『凍結』を宣言した。しかし、国家総動員法が生き続けているような原子力ムラは、福島県を取り囲んで、凍結を解除させてしまった。結果が、ヒロシマ・ナガサキそしてフクシマへの道につながったのだ。
▼フクシマの次にもう一つ事故が起きなければ、日本人は目が覚めない体質だといわれる。全原発を停止しても電力を補えることが実証された。にもかかわらず再稼働を始めた我が国は、大日本帝国の絶対降参はしないという精神が、脈々と生き続けていることを、私はこの本を読み終えて感じた。
▼今後再稼働させようとする原発は、プルトニウムの処理のため、プルサーマル方式に転換するかもしれない。北海道泊原発3号機はプルサーマル方式だ。経産省は、次に泊を再稼働させるに違いない。だが、我が函館市長は、大間原発建設は凍結を主張しているが、他の原発は関係ないと公言する。市民としてないやら説得の欠く存在になってきそうな感じもする。というように市民が考えること自体が、原子力ムラの策略かもしれないけど。
▼来月に開業する北海道新幹線。開業イベントに出席したはるみ知事。日本中に向い、こんなコメントを発する。「待ちに待った新幹線がやって来ました。北海道経済はますます発展します。その発展を支える原動力として、私は泊原発3号機の再稼働をここに高らかに宣言します」という、元通産省出身のはるみ知事の夢が,今夜の私の夢のようだ。