私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

蕃山の最晩年

2010-02-20 12:12:33 | Weblog
 貞享4年幕府から蟄居を命じら、蕃山先生は人とは交らず、ただ、琴と笙と笛を友とした孤独で寡黙な生活であったと言われます。そしてもう一つの楽しみが和歌を詠むことだったのです。
 春まちえてや かへる雁がねの歌と一緒に作ったのが

   ゆく雁に 関はなくとも おほやけの
             いましめあれば ふみもつたへじ

 の歌です。

 この歌は、匈奴に囚われの身になっても何時も望郷の念を持ち続けた漢の蘇武の故事から作った先生の、いつかは、必ず、故郷へという思いが強く現われた歌です。
 この2首があって初めて、その場に居合わせた先生の総ての思いが伝わる歌だと思います。

 その年の12月には、妻イチにも先立たれ、益々孤独な生活を強いられたのです。
 なお、山田貞芳という人が選んだ江戸期における吉備の歌、百首の中にある蕃山先生の和歌です。

  芝の戸を 折りたてもせて 出るあとに
            心もおかす すめる月影

 何時詠んだのかは記録にはありませんが、多分、最晩年の妻イチとも死別した元禄二,三年の作ではないかと思いますが。

 
 なお、寶泥氏からのメールで、昨日の蕃山先生の歌は、伊勢の
     “春霞たつを見すててゆく雁は
                 花なき里に住みやならへる”
 の本歌取りではないのかと、あったのですが、私は「それはない。政弘侯の歌こそ本歌取りだと確信しています」と、返事をしておきました。どう思われますか。