私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

口に世事を絶つ

2010-02-18 18:15:04 | Weblog
 貞享4年12月幕府の命で禁錮の刑を言い渡された蕃山先生は、結局、蟄居の処分を受けられます。
 それから以後の蕃山先生の生活について、永山卯一郎は、「是より口に世事を絶つ、人と語りて隅々世事に及べば黙然として答えず」だったと、お書きになっておられます。
 そして笙と琵琶を友として、和歌を詠ずる毎日のようでした。
 その翌年の春、元禄元年です。帰雁をみて読んだ歌が残っています。

  老の身の 見んことかたき ふるさとに
            はるをまちえてや かへる雁かね

 「ふるさと」ですから、やっぱり蕃山先生が生まれた京あたりでしょうか、岡山ではないと思います。誰とも気軽に世間話もできないような環境に置かれ、しかも老い先短いこの身です。思い出すのは、何に付けても、やっぱりあの故郷の事です。事あるごとに自然とその故郷の自然や友の事が、まなかいに去来してきます。そんな時、ふと目にしたのが、大空を羽ばたくように、待ちに待ったのでしょうか、そんな故郷の春を見に、あの雁がねは自分の故郷目指して勢いよく帰っていることだ。自分の身に引き換えてみて、雁がねたちの何と自由であることかや、本当にうらやましい限りだ。と、いう思いが詰まった歌っだと思います。

 鳥たちの限りない自由な行動に比べて、人間の世の、なんて儚いことだろうかと、69歳の今になって初めて味わった自分に対するどうしようのない悔恨の念が込められている好い歌だと思います