環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

なぜ、先駆的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう⑨   省益に左右されない「意思決定システム」

2007-08-26 06:36:22 | 政治/行政/地方分権


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック


スウェーデンでさまざまな先駆的試みが実現する背景には、行政府がつねにビジョンを打ち出していること、そのビジョンのもとで、方向のはっきりした政策を立案し、ビジョンが現実のものとなるための制度を用意していること、があります。今日からその主な社会システム(制度)の一端を紹介していきます。


★エコロジー的視点に欠ける日本の環境法体系

日本の環境行政の最大の欠陥は環境関連の法体系の中にエコロジーの視点が入っていないことです。 “エコ”という言葉がマスメディアで安易に使われるために、「エコロジー」という環境問題を考える際の根本をなす「自然の法則あるいは概念」空洞化させてしまっているのが現状です。もし私たち人間に“英知”があるなら、今すぐにでもその英知を出し合って、協力しなければなりません。

エコロジー的な考えの根本はたくさんの異なったものがそれぞれに影響しあいながら共存するという前提ですから、エコロジー的発想があれば、分野の異なる研究者や省庁の枠を越えた行政官が共通の目的のために協力することが可能になります。このような体制が社会の中になければ環境問題の解決はほとんど不可能でしょう。そう考えた時に、日本の現行の行政システムはそれからかなり離れた方向を向いているのではないかと思います。
 
スウェーデンの環境問題に対する取組みは決して高価な最新の公害防止設備の設置を誇示するのではなく、「足元の一般の生活意識」にその基礎があります。国の政策に国民の要望を汲み上げ、様々な現象を総合的に考え、それらの整合性をはかり行動に移すとき、その構成要素の一つ一つは最高のものではなくてもその行動は大きな力となることは、これまでのブログでも繰り返し書いてきました。。

ですから、政治、行政、司法、企業、科学者、国民など社会を構成する各主体の調和のとれた協力が重要となるのです。その具体的な試みとして、国の政策を左右する政府の政策案がまとまる前に「国民各主体の声を反映できる仕組み」「『利害の異なる国民の合意形成を助ける仕組み』が国の意思決定プロセスの中に組み込まれています。


★環境政策策定のプロセス(レミス手続き)

国の基本的な環境政策の決定までのプロセスを日本のプロセスと比較しながら簡単に説明しましょう。次の図をご覧下さい。


日本では、 「環境問題」は原則的に環境省の所管事項ですから、環境大臣は、必要に応じて、その諮問機関である「中央環境審議会(1993年11月に環境基本法が成立するまでは中央公害対策審議会)など」に諮問し、その答申を受けます。答申に基づいて、環境省は政策を立案し、実行に移します。 「エネルギー問題」の場合には、経済産業省が所管官庁ですから、図の環境大臣が経済産業大臣に、中央環境審議会が総合エネルギー調査会に、環境省が経済産業省に変わります。これが、悪名高い、しかし、容易に変えられない「縦割り行政」です。税金の問題であれば、財務省となります。

これに対して、スウェーデンの場合は、日本のように所管事項によって諮問の関係官庁が変わるということはなく、基本的には、各省の長である大臣の集合体である内閣主導型の「政府」が諮問機関(様々な調査委員会)に案件を諮問し、その答申(報告書)を受けます。調査委員会の報告書はあくまで政府の立場で作った報告書であるという認識です。

平たく言えば、調査委員会の報告書は社会の構成員である国民各主体を代表する各団体からコメントを求めるためのたたき台となる共通資料です。政府は政府の政策案を策定する前に、調査委員会の答申を政府の公式な報告書(SOU)として公表すると共に、この報告書の同一コピーを利害関係の異なる関係機関・団体(具体的には行政機関、産業界、労働組合、消費者団体、環境保護団体およびその他の諸団体)に送付して、それぞれの機関・団体の立場からの文書による意見を求めます。場合によっては、この報告書を隣接諸国に送り、相手国の意見を求めることもあります。

調査委員会の報告書に対するそれぞれの関係機関・団体から送られてきた意見を参考にしながら、政府は法案だけでなく、重要な政策案(政府が国会に出す法案や政策案を英語ではBillと言います)を策定し、国会に提出して国会の審議に付し、国会の承認を得るという手順を踏みます。

この一連の手順を「レミス手続き」と言います。レミス手続きは国の基本的な政策を策定する際に取られる一般的な合意形成のための手順です。「レミス=Remiss」とはスウェーデン語で「照会する、問い合わせる」という意味で、英語のReferenceに相当します。国の政策を左右する政府の政策案がまとまる前に国民各主体の声を反映できる仕組みが国の意思決定プロセスの中に組み込まれているわけです。

行政、学者、市民、産業界、政治家など社会を構成する国民各主体が国の政策決定に参加する仕組みです。この手続きは国民のコンセンサス(合意)を基礎としていますので、時間がかかりますが、一たん政策が決まれば国民の協力が得やすいと言えるでしょう。

スウェーデンには、日本と違って、基本的に「省の決定」というのはありませんので、「省益」はないと言ってよいでしよう。この政策決定プロセスを支えるのは「国民各主体の参加」「情報公開」および「チェック機能」です。

一方、省庁主導型(官僚主導型)の日本では、各省庁の大臣の諮問機関である「審議会」は所管の分野で日本の政策を方向づけたり、あるいは決定する際に重要な役割を担っています。日本とスウェーデンの政策決定のプロセスの相違を意識しながら新聞やテレビを見ておりますと、ことあるごとに「審議会はいつも政府の言いなりになっている。審議会は行政の隠れ蓑になっている。今までのようなやり方ではこれからの問題に対応できないのではなかろうか? もっと幅広い対応が必要である」という趣旨の記事や主張に出会います。日本の構造改革でまず最初にしなければいけないのが「縦割り行政」だ、というのが私の以前からの主張なのですが・・・・・

このような記事を見るにつけ、スウェーデンの国の意思決定システムには、日本の参考になりそうなヒントがいくつかあるような気がします。


それぞれのマークをクリックすると、リアルタイムのランキングが表示されます。お楽しみください。

      

最新の画像もっと見る

コメントを投稿