外苑茶房

神宮外苑エリアの空気を共有し、早稲田スポーツを勝手に応援するブログです。

人文科学と社会科学

2010-07-08 18:46:02 | 社会全般
『ローマ人の物語』など、ヨーロッパの歴史を題材にした本を数多く書かれている塩野七生さん。
彼女のファンだという人が、私の職場にも数多くいます。

私は堪え性がないので、十巻以上にも及ぶ彼女の大作をきちんと読み続けることは難しいのですが、それでも塩野さんの本には魅力的だと感じます。

ある時、塩野さんが面白いことを書かれていました。
塩野さんの仕事部屋には、高校の世界史の教科書が何冊もあると。

それは、一般読者の大半が高校の世界史で学ぶ程度の知識しか持ち合わせていないので、そのような読者でも知的満足感を抱きながら楽しめるような作品を書くための物差しとして、高校の世界史の教科書を常に身近に置いておくのだそうです。

確かに私も、高校で世界史を学んだ後には、西洋の歴史を深掘りして学んだことはありません。
ですから、塩野さんの緻密な計算に、してやられていることになります。

もう一つ、私が塩野さんの本で面白いと思うのは、常に歴史に登場する『人間』を観察する目です。

法律学や経済学など、多少なりとも社会科学をかじった者は、個々の人間を観察するよりも、社会を科学する、すなわち社会や組織の仕組みを分析・検討し、その問題点・あるべき姿を論じることを好む傾向があると思います。

そういう意味では、いわゆる文科系とひと括りにされがちですけれど、大学で人文科学を学ぶ場合と社会科学を学ぶ場合とでは、結果的に、かなり異なる思考回路が卒業生の頭の中に形成される気がします。
文学部哲学科出身の塩野七生さんの文章が私に新鮮に感じられるのには、そんな理由もあるのでしょう。

ところで、大学時代、私は外国法として中国法を選択していました。
これは、英文の原書を教科書とする英米法などは、原書を訳しながらの勉強となるため、期末試験を乗り切るための詰め込み勉強に苦労するためです。
一方、中国法の教科書は日本語で書かれていて、一夜漬けに適していました。
(;^_^A

そんな低次元の理由で中国法をかじった私ですが、実は30年以上経った今でも印象に残る内容でありました。
中国では戸籍法と民法の物権法が密接に関連していて、どこにどんな戸籍を有するかによって不動産を所有権する権利が制限されるという、現代の日本では考えられない法律だったからです。

今回の上海への出張で、その経済の素晴らしい繁栄を改めて実感しました。

しかし、現在の中国でも、まだ農村出身者と都会人との間に、大きな所得格差と教育格差があります。

同じ中国に生まれても、戸籍の違いによって同じ権利を享受できないのです。

この話を聞いて、私は、大学でかじった中国法の講義内容を思い出しました。

上海の高層ビル街をベンツに乗ってバリバリ仕事する人がいる一方、農村では自転車の荷台にレンガを積んで運び、僅かな収入を得て慎ましく生活する人もいます。

彼らの生活の格差は、個人の能力や努力の結果もあるのでしょうが、中国独特の戸籍法によって生じている部分も小さくないと考えられます。

中国の工場は、数多くの農村出身者、あるいは都市で生まれても戸籍が農村にある若者たちにより支えられています。

そんな工場労働者達に、ストライキが多発しています。
そんな行動に労働者達を駆り立てるのは、単に賃金水準の問題だけでなく、戸籍法に象徴される中国の社会の仕組み、様々な形で彼らの権利を制限する昔からの決まりごとに対する憤りなのかもしれません。

上海のリニアモーターカー画像、携帯用

上海のリニアモーターカー画像,パソコン用




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