杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

後宮の烏6

2023年05月29日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
第十一話 布石
寿雪が星烏廟を訪ねると、薛魚泳と高峻が碁を打っていた。寿雪が魚泳と代わり、高峻と勝負をする。碁を終えた後、二人はしばし庭で話をすることにした。その姿を見ていた魚泳は高峻が帰った後、寿雪に忠告をする。情けは愛とは違う。高峻とこれ以上親しくするべきではない。烏妃は何も望んではならないのだから——と。それは寿雪が麗娘から教えられた烏妃としてのあるべき姿だった。

魚泳が麗娘に寄せる想いが色濃く出て来る回。
鵲巣宮の宮女の惨たらしい死に、梟が関与していると気付く寿雪は温螢に探らせるのですが・・・

第十二話 兄妹
戻らない温螢を探して、寿雪は鵲巣宮に乗り込んだ。そこで寿雪はやつれはてた鵲妃・琴恵瑤(きんけいよう)に会う。大切な兄を亡くした後、長らく床に臥せっていると思われていた恵瑤だったが、彼女は鵲巣宮の中で、あるものと過ごしていた。それは亡くしたはずの兄。髪の毛と泥を使って蘇らせてもらったのだと恵瑤は語る。

鵲妃に起きた悲劇を互いに自分の責任と感じる寿雪と高峻。守るべき者を持って弱くなったと寿雪は初めて心情を吐露します。

梟の傀儡である封宵月は寿雪の呼び出しに応じて姿を現し、烏と梟の関係(兄妹)を告げ、寿雪を殺そうとしますが、 高峻らが駆けつけ応戦します。
封宵月は鳥部である斯馬盧(すまる)を呼びますが、もともとは烏(烏漣娘娘)に仕えていたのであまり梟のいう事を聞かかない様子。同じく鳥部である金鶏の星星(しんしん)の力を使って寿雪は宵月を倒しますが、それは実体ではないのよね。

第十三話 想夫香
鵲妃・恵瑤の迎えた悲劇は寿雪、高峻の胸に重く残っていた。その一件から数日後、高峻の命で調べを進めていた衛青は、封宵月を後宮に招き入れた協力者が宮廷内にいることを突き止めた。衛青は温螢、淡海とともにその者を追うが、一足違いで逃げられてしまう。同じ頃、ある人物が夜明宮を訪ねてきた。寿雪は驚く。その人物は重大な禁忌を犯していた。

薛魚泳が禁を破り寿雪を訪ねてきます。彼こそが封宵月を後宮に引き入れ寿雪を殺そうとした人物でした。寿雪に刀を振り下ろす薛魚泳を駆けつけた高峻が取り押さえます。麗娘の孤独な運命に比べ寿雪は恵まれていると話す魚泳に、高峻は「麗娘には寿雪がいた。彼女を見れば麗娘がどれほど慈しんで育てたかわかる筈」と言います。
鵲妃の死により政治バランスが崩れることに悩む高峻のもとを鵲妃の父・琴 孝敬が訪れ、娘の死を悼んでくれていることを寿雪からの手紙で知ったと感謝を述べます。寿雪の心遣いに思わず涙する高峻です。

いよいよ烏漣娘娘が烏妃の内に閉じ込められた過去が解き明かされてきました。彼女の失われた半身についても少しだけ登場し、盛り上がってきました😁  物語はまだまだ序盤戦、続きが早くも待たれます。


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マイ・ブロークン・マリコ

2023年05月28日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年9月30日公開 85分 G

ある日、ブラック企業勤めのシイノトモヨ(永野芽郁)を襲った衝撃的な事件。それは、親友のイカガワマリコ(奈緒)がマンションから転落死したという報せだった――。彼女の死を受け入れられないまま茫然自失するシイノだったが、大切なダチの遺骨が毒親(尾美としのり)の手に渡ったと知り、居ても立っても居られず行動を開始。包丁を片手に単身“敵地”へと乗り込み、マリコの遺骨を奪取する。幼い頃から父親や恋人に暴力を振るわれ、人生を奪われ続けた親友に自分ができることはないのか…。シイノがたどり着いた答えは、学生時代にマリコが行きたがっていた海へと彼女の遺骨を連れていくことだった。道中で出会った男・マキオ(窪田正孝)も巻き込み、最初で最後の“二人旅”がいま、始まる。(公式HPより)


平庫ワカの同名コミックを「ふがいない僕は空を見た」のタナダユキ監督で映画化しています。共演者に窪田君がいたけれど、出番少ないだろうなと劇場鑑賞を見送ったけれど、意外に沢山出てたのでちょっと後悔😅 

定食屋で昼食をとっていた時、TVから流れるニュースで親友の死を知ったシイノは、マリコのスマホにメッセージを入れますが既読はつきません。翌日、マリコの部屋を訪ねると、大家から遺品は両親が引き取り、遺体は直葬になったと聞きます。
マリコが幼い頃から実父にひどい虐待(父親に殴られ、性的虐待も受けていた)を受けていたことを思い出したシイノは、 親友の遺骨がそんな父親のもとにあると知って居ても立ってもいられず包丁を手にマリコの実家へ突撃し、遺骨を奪い取ってベランダから飛び降り逃走します。父親の再婚相手のキョウコ(吉田羊)は優しそうな女性で、シイノはもっと早く彼女と再婚していればマリコは死ななくても済んだかもと思ってしまいます。川に転がり落ちそのまま川を渡って裸足のまま自分の部屋に帰ったシイノ。それにしてもエキセントリックな性格だこと😓 マリコの遺灰と、昔マリコからもらった沢山の手紙を持って外に出たシイノは、マリコが行きたがっていた「まりがおか岬」のことを思い出して深夜バスに乗り込みます。

深夜バスと電車、バスを乗り継いで「まりがおか岬」に辿り着いたシイノでしたが、ひったくりに遭ってスマホや財布やマリコからの手紙が入った鞄を盗られます。思わず道路に遺灰を置いたままひったくりを追いかけたシイノが捕まえられずに戻って来ると、通りかかった釣り帰りの男が遺灰の番をしてくれていました。彼はシイノが一文無しだと知ると金を渡して去って行きます。連絡先を尋ねたシイノに「名乗るほどの者ではありません」と言うのですが、思わず「七人の秘書かよ!」と突っ込んでしまいました😁 おまけに去って行く彼のアイスボックスには“ナリタ商店 マキオ”と書いてあるし。ここ、笑うとこよね😅 

 もらった金で酒を飲んだシイノはマリコの幻覚に思いを爆発させます。港に置かれていた舟で一夜を過ごした彼女を見つけたマキオから「ご自分を大事にして下さい」と言われ、シイノはかつて自分がマリコにそう言ったことを思い出します。恋人に殴られていたマリコを助けて追い払ったのに、呼び出されて会いに行って腕を骨折して帰ってきたマリコに激怒したシイノに、彼女は「私はシイちゃんが本気で怒って心配してくれるのがうれしいだけ」と言いました。

マキオと別れ、岬に立ったシイノは、マリコが自分に黙って自殺したことに腹を立てて衝動的に海に飛び込もうとします。心配して後を追ってきたマキオに止められ揉み合っていると、ヘルメットを被った男に襲われ逃げている女性の叫び声に気付きます。彼女にマリコを重ねたシイノは思わず遺骨の入った箱で男を殴ります。割れた骨壷から海に飛び散った遺灰を掴もうとしたシイノは崖から転落。意識を取り戻した彼女のもとにマキオがやってきて話しかけます。「ここ意外と死ねないんですよね」
彼も大事な人を失って自殺を試みたことがありました。マキオは死んだ人間が思い出の中に生き続けるなら、シイノが死んだらマリコも永遠に消えてしまうと語ります。 

ヘルメット男はひったくり犯と同一人物で、マリコの手紙を取り戻すことができたシイノは自宅へ帰り日常に戻ります。駅に見送りにきたマキオから貰った弁当を、まだ電車が動き出す前からバクバク食べだすシイノ。動物的な生の活力ってとこかしら。
辞表を出すシイノに「辞められると思うなよ、迷惑かけたと思ったら死ぬ気で働け」と返すクソ上司。ほんとブラックな会社だこと。乾いた笑いのエピソードです。

ある日、部屋に帰ったシイノは、ドアノブにマリコの実家に脱ぎ捨ててきた靴が入った紙袋が掛けられているのに気付きます。「って、家ばれてるじゃん」という呟きが笑える!袋の中にはマリコがシイノに宛てた最後の手紙も入っていました。その手紙を読み微笑むシイノ。何が書かれていたのかは明かされないけれど、きっといつものように他愛のない、マリコらしい内容だったのでしょう。😊 

マリコは実父から身体的・精神的・性的に虐待されながら育ったため、自己肯定感が低く、親元を離れてからも、父に似た男性と付き合い虐待され続けてきました。リストカットするなどいつ死んでもおかしくない不安定な精神状態の彼女を繋ぎとめていたのがシイノという存在ですが、シイノもまた自分がいなければマリコは生きていけないと思っています。だからこそ独りで死んでしまったマリコに怒ったのでしょう。
シイノは中学生の頃にはもう喫煙していて、かなり周囲からは浮いていたと思われます。彼女の家庭環境は一切触れられていませんが、暴力こそなくても所謂普通の環境ではなさそう。お互いが必要で共依存的関係に陥っていたと思われますが、マリコの死を乗り越えシイノも変わっていくのかな。否、変わらない気もするな😌 

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ウツボカズラの甘い息

2023年05月28日 | 
柚木裕子(著)幻冬舎文庫

家事と育児に追われる高村文絵はある日、中学時代の同級生、加奈子に再会。彼女から化粧品販売ビジネスに誘われ、大金と生き甲斐を手にしたが、鎌倉で起きた殺人事件の容疑者として突然逮捕されてしまう。無実を訴える文絵だが、鍵を握る加奈子が姿を消し、更に詐欺容疑まで重なって…。全ては文絵の虚言か企みか?戦慄の犯罪小説。(「BOOK」データベースより)


容疑者となる文絵と事件を追う刑事、交互にそれぞれの視点で進んでいきます。
冒頭で登場する心療内科の患者が文絵であること、彼女が解離性離人症 を患っていることから、容疑者としての要素を匂わせますが、後半で見事にひっくり返されるんですね。

高村文絵は夫の敏行との間に2人の娘がいる専業主婦ですが、結婚してからの育児や夫婦関係のストレスから過食症を再発し更に解離性離人症を発症しました。彼女の唯一の趣味は懸賞応募で、ある日、人気タレントのディナーショーが当たります。束の間の贅沢を味わい帰途につこうとした彼女を旧姓の「牟田さん」と言って呼び止めたのは、杉浦加奈子という中学の同級生でした。昔、文絵にかけられた言葉に救われたのでお礼がしたいと言う加奈子から強引に誘われ、彼女の別荘を訪れた文絵は、サングラスの下に隠されていた酷い痣に驚きます。その理由と、今準備している仕事(セレブ向けの「リュミエール」という化粧品の日本委託販売)のことを話し、痣のある自分は人前に出られないので会員向けのセミナーの講師をして欲しいと依頼します。月50万という破格な報酬に心を動かされたものの逡巡する文絵に、加奈子はこの化粧品を使ってみて欲しいと言います。

すると、たった一夜で肌は潤いを取り戻し、目に見える効果を実感した文絵は、ダイエットにも取り組みます。元々の素地がある彼女は一か月半で10kgの減量に成功し、美貌を取り戻した文絵は、自分の病気のことを加奈子に正直に話しますが、彼女は心配ないと言い、ビジネスパートナーの飯田章吾を紹介し、彼の後押しもあってこの話を了承します。この頃には更に4kg痩せていました。(ダイエット食品を利用したとはいえ、かなり強い意志が必要なわけで、この点だけは称賛に価しますね)

初めてのセミナー当日、渡された名刺には『リュミエール化粧品代表』の肩書があり戸惑った文絵ですが、章吾の説明にそんなものかと納得してプレゼンに臨み大成功を収めます。回を重ねるごとに会員数が増え、高額な報酬で文絵は充実した毎日を送るようになります。

鎌倉・七里ガ浜の貸別荘で、田崎実という男性の死体が発見されます。
周辺の聞き込みからサングラスをかけた女が浮かび上がり、刑事の秦は鎌倉署の女性刑事・中川と組んで捜査に当たります。
田崎が美容関係の会社「コンパニエーロ」の経営者と判明し、会社のある住所を訪ねた二人は、田崎が二週間前に賃貸契約を解約していたことを知ります。
次に田崎の母親セツが入居している介護施設で、重度の認知症のセツの言葉の断片から「ノガミのおじちゃん=彼女の兄の新岡正平」を訪ねますが、そこでも大した情報は得られませんでした。次にコンパニエーロで働いていた二人の女性派遣社員から話を聞いたところ、代表の高村文絵の存在が浮上し、警察は文絵に照準を合わせます。

九月。加奈子からフランス行きのため仕事は一時中断すると告げられた文絵は束の間の休息を得ますが、ある日突然知らない番号からの電話が携帯に頻繁にかかってくるようになります。内容はどれも同じで、会社が上場すると言われて株を買ったという顧客からのクレームで、文絵は全く身に覚えがなく、慌てて加奈子と章吾に電話をしますが、繋がりません。名刺に書かれているコンパニエーロの住所を訪ねますがもぬけの殻です。混乱する文絵のもとに現れた秦と中川から見せられた写真には章吾が写っていて、文絵は彼が偽名を使っていたと知りショックのあまり倒れてしまいます。警察で田崎殺害事件について聞かれた文絵は身に覚えがないことを訴えますが、警察は彼女を容疑者としてマークします。

極度のストレスで解離性離人症を発症した文絵の言動に疑問を抱き、夫の敏行にも事情を聞くと、彼女の本当の病名は解離性同一性障害であることがわかります。文絵は三年前の事故で亡くした二人の娘がまだ生きていると信じていました。事件の日のアリバイがなく、病気のこともあって、警察は加奈子は文絵の幻覚で、犯人は文絵だという見方が強まります。

しかし、文絵の言葉に本当を感じた秦と中川は、加奈子について調べ始めます。すると加奈子は五年前にマルチ商法に引っかかって多額の借金を抱え自殺していたことが判明します。加奈子の同級生から、彼女と接触したサングラスの女の存在を聞き、それが加奈子の小学校の同級生の園部敦子とわかりますが、彼女もまた七年前に自殺していました。敦子は、両親の遺産を『神光の恵み』という新興宗教につぎ込み、そこにもサングラスの女の存在が浮かびます。
敦子の父親の知人から聞いた、サングラスの女が落としたATMの明細書から『真野知世』という名前と振込先がわかり、介護ホーム『白鳩の園』に向かった二人は、加奈子の似顔絵を見せ、それが入居者の真野修の娘の知世だと判明します。知世は修を入居費の2300万円を20代で支払っていました。
知世の振り込み記録と三つの自殺・殺人事件現場が一致することから、彼女の関与を突き止め、オーストラリアに出国していた知世を追い詰めます。

秦は知世を甘い蜜で虫を誘い出し、中に落ちた虫を食べて生きるウツボカズラのようだと感じます。(これが題名になった由縁ですね)

オーストラリアで知世の回想という形で真実が語られるのはちょっと物足りなかったかな。秦たちの調査で徐々に追い詰めていく形の方がスリルがあったのにな。

本田亮子という偽名で滞在する知世は、日本のニュースを調べて自分の犯罪が完璧だと満足しながら半生を振り返ります。(彼女の犯行の動機編ですね。)

父の会社を守ろうと懸命に働いたものの、資金繰りに苦しんだ父は練炭自殺を図った挙句植物状態になります。多額の医療費を捻出するため水商売を始めて愛人となった知世は贅沢に慣れ、関係が終わった後も元の生活に戻れず、次の男に騙されて衝動的に殺してしまいます。死体を埋めた彼女はお金を稼ぐ手段として『神光の恵み』の教祖をたぶらかして敦子から三億円を巻き上げると、教祖を事故に見せかけて殺害し海外に逃れます。
金がなくなると次の金づるとして敦子を装い加奈子と接触し、マルチ商法で加三千万円を巻き上げた挙句に彼女をビルの屋上から突き落として殺害します。
警察が借金苦による自殺だと判断したことでさらにエスカレートした知世の次のターゲットが加奈子の中学時代の同級生の文絵だったのです。知世のターゲットたちはいずれも友人というほど近い距離感が無く、かといって全く知らない人ではないという微妙さが狙われていました。ディナーショーのチケットも懸賞に当たったのではなく、偽装されたものだったのです。

彼女の生来の美しさと疾病を利用した今回の計画に、パリに滞在中に知り合った田崎を利用し、まんまと詐欺を成功させた後で田崎を殺してその罪を文絵にかぶせた知世は、完璧な計画に酔いしれますが、次の瞬間、捨てた筈の真野知世という名前の逮捕状を持って秦や中川たちがやってきます。日本への機内でも本名で呼ばれたのはいつ以来だろうといつまでも考え続ける知世でした。
知世も田崎も治る見込みのない親を抱え終の棲家として老人ホームに入れていますが、それは親孝行というより高額な費用を払っても厄介払いしたいという動機に見えてなんだかな~~でした。秦刑事も妻が脳梗塞から植物状態となり、その介護を義母に任せていますが、彼はそのことに負い目と罪悪感を感じているのとは対照的です。

文絵が娘たちが生きていると思い込んでいるのが判明したあたりから、事件は急展開を迎えます。サングラスの女が加奈子から敦子になり、二人とも既に亡くなっていると知る場面は刑事でなくとも唖然呆然です。最後に知世が実在していると知り彼女がホンボシだと判明する頃には文絵が純然たる被害者であることがわかってきます。でも文絵の辛い経験には同情を覚えますが、元々あった美への執着や周囲からの羨望や賛辞への陶酔にはあまり共感できなかったのは、そもそも自分がそこに賛同する素地がないからかも。

お金はあればあるほど人は貪欲になっていくもので、一度覚えた贅沢は手放せないのも人の性だと思うと何だかやりきれない気持ちになります。

秦刑事とコンビを組む女性刑事の中川は場を読んで次にしなければならないことを的確に判断できる、優秀な女性として描かれていて、登場する女性の中で唯一好感が持てるキャラでした。

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嵐の孤児/見えざる敵

2023年05月25日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年11月25日 DVD発売 165分(150分+15分)

18世紀末のフランスで我が子を捨てようとしたジラールは孤児ルイーズを見て思い止まり、彼女を養子にして二人を姉妹のように育てる。しかし、ジラールの死によって事態は一変する。ジラールの娘アンリエットは誘拐され、ルイーズは物乞いの老婆に虐待される。二人の引き裂かれた運命が、やがて感動の結末を呼ぶ。(嵐の孤児)


1921年のアメリカ製作のサイレント映画です。ルイ16世の治世の終わりの騒然としたパリの状況や、ダントン、ロペスピエールといった歴史的人物が登場して好奇心をそそられます。ロペスピエールは日和見で陰険な男として描かれている一方、ダントンは好印象です。 

ド・ヴォードレ家(貴族)の娘が平民の男と結婚したことに怒った娘の一族が男を殺害し、生まれたばかりの娘を取り上げてノートル・ダム寺院の前に捨てます。少し遅れてジラールが貧しさから自分の娘アンリエットを捨てに来ますが、先に捨てられていた赤ん坊を見て可哀相になり二人とも連れ帰ります。
拾った赤ん坊が着けていたペンダントには「名前はルイーズ」と書かれた紙が隠されていて、大金も一緒にありました。ジラール夫妻はルイーズをアンリエットと一緒に育てます。

時は流れ、ルイーズの母は過去を隠して、警視総監ド・リニエール伯爵と再婚しています。貴族と平民の格差に心を痛める法律家ダントン(モンティ・ブルー )は、貧民にパンを配る若い貴族、ド・リニエール伯爵夫人の甥ド・ヴォードレ(ジョセフ・シルドクラウト )に好感を持ちます。

疫病によりジラール夫妻は亡くなり、ルイーズ(ドロシー・ギッシュ )も視力を失ってしまいます。アンリエット(リリアン・ギッシュ )はルイーズをパリの医者に診せようと考えます。パリへの途中、立ち往生した馬車から降りた姉妹を見たド・ブラーユ侯爵は美しいアンリエットを自分のものにしようと考え、家来に命じて攫います。侯爵の屋敷で意識を取り戻したアンリエットの助けを求める声に、ド・ヴォードレだけが応えて彼女を連れて屋敷を出て法律家ロベスピエール(シドニー・ハーバート )の営む下宿に連れて行きます。思わずアンリエットにキスしてしまったド・ヴォードレは、無礼を詫びて帰ります。
一方、ルイーズは姉を探して川に落ちそうになり、ピエールに助けられますが、彼女の盲目に目を付けた彼の強欲な母(フロシャール婆さん)によって強引に歌を歌わされ物乞いをさせられるようになります。

ダントンは王政打倒を呼びかける演説で民衆の支持を受けるようになり、彼の人気を恐れた王党派の襲撃を受けます。ダントンは友人ロベスピエールの下宿に逃げ込み、アンリエットに助けられます。彼女はダントンを兄のように慕うようになります。

ド・ヴォードレの頼みでアンリエットを訪ねた伯爵夫人は、ルイーズが身に着けていたペンダントを見せられて、ルイーズが自分の娘だと知ります。
そのときフロシャール婆さんに連れられたルイーズが通りかかり、その歌声で妹だと気付いたアンリエットは、二階の自室から呼びかけますが、そこへ甥との仲を裂こうとド・リニエール伯爵が警官を率いて現れアンリエットを捕まえバスティーユ監獄に入れます。また、国王の決めた縁談を拒否したド・ヴォードレは地方の監獄に送られます。

やがてダントンの演説に勇気づけられた民衆が蜂起し、バスティーユは陥落し、アンリエットも解放されます。監獄で情報を得たアンリエットは、フロシャール 婆さんを訪ねますが、ルイーズは死んだと嘘をつかれます。
兄がルイーズを襲おうとするのを見たピエールは、勇気を振り絞って兄からルイーズを守り、二人で逃げ出します。

伯爵夫人は夫に娘の存在を告白して夫に受け入れられますが、革命により亡命を余儀なくされます。ロベスピエールは貴族とその味方を次々とギロチンにかけていきます。

アンリエットに会うため命の危険を冒してパリに潜入したド・ヴォードレですが、ド・ヴォードレ家を恨むジャン・スタンに気付かれ、アンリエットとの再会の場で二人とも逮捕されてしまいます。

法廷に引き出されたアンリエットは、傍聴人の中にピエールといるルイーズを見つけます。ジャン・スタン判事により死刑判決が下され、すぐさま刑場へ運ばれるアンリエットとド・ヴォードレ。これを知ったダントンは二人を助けるために熱弁をふるい、心を動かされた民衆により赦免を勝ち取ります。
二人を救うため刑場に馬を走らせるダントン。刑場と交互に映し出される緊張感溢れるシーンです。
ギロチンに首を乗せられたルイーズの姉を救おうと、ピエールが処刑人をナイフで刺して時間稼ぎをする間にダントンが到着。アンリエットとド・ヴォードレは解放され、ピエールも罪を見逃されます。

やがてロベスピエールの恐怖政治が終わり、世は落ち着きを取り戻します。
ド・リニエール伯爵夫妻は屋敷に戻り、ルイーズとピエールを祝福します。再び目が見えるようになったルイーズに、アンリエットはド・ヴォードレとの結婚を認めてくれるか尋ねるのでした。


1912年製作の15分の短編「見えざる敵」は姉妹が強盗に遭う話。
リリアン&ドロシー・ギッシュ姉妹のグリフィス監督映画初出演作。
金庫に仕舞われた大金を邪なメイドが盗もうとして昔の仲間を引き込みます。銃で脅されながらも電話で助けを求める姉妹と助け出そうと駆け付ける男たち。穴から飛び出た銃に怯える姉妹 の表情がなかなかです😊

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ブラックナイトパレード

2023年05月24日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年12月23日公開 108分 G

【受験失敗・就活失敗・彼女無し】コンビニ・ポーソン練間北口店で3年間アルバイトをしている冴えない男・日野三春(吉沢亮)。世間がクリスマスムード一色で盛り上がる中、突如、黒いサンタ服を着た男に「内定だ!今日から正社員!よろしく頼む!」と、無理やり連れ去られてしまう。目覚めるとそこは、なんと北極!そして三春が働くことになった会社は、「サンタクロースハウス」!!!世界中から届く子供たちの手紙、山積みのプレゼント、そして黒いサンタ服を着た大勢のブラックサンタたち。悪い子を発見するためならハッキングもいとわない、北条志乃(橋本環奈)DQNのチャラ男、田中皇帝(中川大志)まったく笑わないイケメン料理長、古平鉄平(渡邊圭祐)ら、強すぎる個性の同僚たちと共に、世界中の子供たちにプレゼントを配るという超激務の“ブラックサンタ”として働き始めるが、この会社にはある秘密があった―。“赤い”サンタクロースは、もういない—クリスマス滅亡を目論む怪しい影。そして、突如として訪れるクリスマス存続の危機!!三春たちはクリスマスの夜に、世界中の子どもたちへ幸せを届けることができるのか!?(公式HPより)

中村光の漫画「ブラックナイトパレード」の実写映画化です。(中村光って「聖☆おにいさん」の作者なんですね😅
世界中にプレゼントを配るサンタクロースたちの知らざる姿を描くクリスマスコメディなのですが・・・正直劇場鑑賞しなくて良かったと思ってしまった。
ポーソンの店長が佐藤二郎の時点で気付くべきでしたが、監督が福田雄一ですから、独特の世界観で味付けされていて、好き嫌いが出ますね。

ちなみに社長の声は玉木宏で、帽子の着ぐるみの中の人はムロツヨシでした。この帽子さんてば、三春に頭突きはするわ、小さい帽子の妖精のおならから悪い子に配る変なプレゼントを生み出すわで、子供受けはするかもだけど、個人的にはあまり笑えなかった。

サンタの工場で働く大勢のブラックサンタ(社員)の部署も手紙の仕分けから、悪い子を見つける部署(プライバシー保護などあったもんじゃない)に、悪い子に与える「がっかり」を測る部署など様々あって、これは面白かった。

実はポーソン練間北口店はサンタの養成所だったと知った三春は、1000万の報酬がもらえるトナカイの試験を志乃や鉄平と受けます。1次試験の講師が何故か皇帝(カイザー)で、腕相撲で瞬殺で負けたのに、何故か合格とクネヒトから言われます。負ける方が赤いサンタの素質があること、赤いサンタは19年前にネズミたちに食べられて死んだことを聞かされます。カイザーが自分の身代わりとされたと知り彼を助けに行った三春はネズミに襲われ気絶。このネズミが数も見た目も気持ち悪いのよね~~😝 

3年前。三春の大学受験の日。
大量のイチゴ大福が並ぶポーソン。バイトの赤井稲穂(若月佑美)が誤発注したせいでしたが、店長に叱られたカイザーが、腹立ちまぎれに三春の袋に10個の大福を入れます。ところがそれを試験監督のバイトをしていた稲穂が見つけて写真を投稿したことで、たくさんの客が店に押しかけます。大福を返しにきた三春がレジの手伝いをしたことが、彼のバイトのきっかけになりました。

現在に戻り・・・荷物の中にブラックカードを見つけた三春は志乃に相談しようと部屋を訪ねます。(素の彼女がスキンヘッドとか、ベッドに仏像とかはもうどうでも良いんだけど。😔 )カードを調べてもらうと4歳頃に大量のおもちゃの購入履歴がありましたが全く記憶にありません。

トナカイの実技試験では、三春、志乃、鉄平、カイザーが1組となって、(サンタが配り忘れた)沢山のプレゼントを朝までに配ることになります。良い子たちへのプレゼントを次々配るシーンは何だか微笑ましいのですが、最後の1件で、ネズミたちに襲われます。オートロックのマンションの壁を這い上るシーンはわざとでしょうけれど稚拙なセットで噴き出したくなる出来。
転落して車の上に落ちた三春は、カードのことを思い出します。

父の冬馬(山田裕貴)は宅配ドライバーでしたが、三春が3歳のときに事故で亡くなっています。クリスマスの夜、クネヒトと赤いサンタがやってきて、ブラックカードを貰った三春は、母(藤井美菜)の入院中に、カードで玩具を沢山買いました。退院してきた母は、彼の思い(父が配達員として帰ってくることを期待していた)に気付いて抱きしめますが、また倒れてしまいます。カードの裏の電話番号にかけた三春は、クネヒトに玩具は返すから母を助けてと頼みますが、逆に玩具をプレゼントとして配るように言われて一生懸命ラッピングします。それを引きずって外に出ると、クネヒトとトナカイたちが配達してくれました。

一度戻ろうとするカイザーたちに、三春は、最後の1個を楽しみに待つ子の元に届けたいと言います。しかし、またネズミが襲ってきて屋上から落ちた三春をトナカイのリーダーのルドルフが助け、何とか無事に届けることができました。

ハウスに戻った三春は呼び出されたクネヒトの部屋で、父の顔をした赤いサンタの絵を見つけます。絵の謎を知りたければ赤いサンタになれと言われ、三春は赤いサンタになることを宣言します。

って・・そこで終わりか~~い!悪い子に届けるプレゼントじゃなかったんかい!と二郎さんなら突っ込みそうですが😓 
色々無茶苦茶な設定なので、深く考えずに笑う方が良いかも。

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ワイルド・スピード ファイヤーブースト

2023年05月22日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年5月19日公開 アメリカ 141分 G

ドミニク(ビン・ディーゼル)はレティ(ミシェル・ロドリゲス)と息子ブライアンの3人で静かに暮らしていたが、彼らの前に未だかつてないほどの破壊的な敵が現れる。ダンテ(ジェイソン・モモア)は昔ドミニクたちがブラジルで倒した麻薬王レイエスの息子であり、家族も未来も奪われた代償を払わせるため、復讐の炎を10年間燃やし続けていたのだった。ダンテの陰謀により散り散りに仲を引き裂かれる“ファミリー”たち。そしてドミニクが愛する全ての者を奪おうとするダンテが最後に向けた矛先は・・・果たしてファミリーの運命は⁈(公式HPより)

「ワイルド・スピード」のシリーズ第10作は最終章という宣伝文句に釣られましたが、完結編じゃないのね~・・・次作で本当の完結らしい😓 
それなら最初から前編と言って欲しかったぞ。

最終章は、ドムが「ファミリー」を守ることに尽きます。
今回の敵ダンテは、2011年の第5作目「ワイルド・スピード MEGA MAX」で登場したブラジルの麻薬王エルナン・レイエスの息子。父と父から受け継ぐはずだった財産を失い、自らも死に瀕した彼は、復讐に燃える悪魔となって帰ってきました。彼はサイコパスな面があり、嬉々として計画を実行していく姿は悪戯を楽しむ子供のようにも見えます。だからこそ危ない奴なんだけど。
あの時の巨大金庫の強奪シーンの迫力も凄まじかったですが、今回は金庫じゃなくて巨大爆弾がローマの街を破壊していきます。

 ドムが息子のリトルBにドリフトを教えながら、恐怖を受け入れて成長するようアドバイスします。これが後半のリトルBの勇気ある行動に繋がっていく前振りでした。
ファミリーの食事会で、リトルノーバディ からのローマでのチップ奪還任務の話が出ます。ドムからリーダーを任され張り切ったローマン(タイリース・ギブソン)は、テズ(クリス・“リュダクリス”・ブリッジス)、ラムジー(ナタリー・エマニュエル)、ハン(サン・カン)とローマへ向かいます。

その夜、第8作目「ワイルド・スピード ICE BREAK」と第9作目「ワイルド・スピード ジェットブレイク」でドムたちを苦しめたサイファー(シャーリーズ・セロン)が傷だらけでドムの家にやってきます。ダンテに自分と同じ手口で追い込まれた彼女は、ドムにダンテの恐ろしさを警告しにきたのです。翌朝リトルノーバディにサイファーを渡したドムは、ローマの任務が嘘でダンテの罠だと察知します。リトルBをミア(ジョーダナ・ブリュースター)に預けたドムはローマへ急行します。
 
ローマンたちはチップを運ぶトラックを首尾よく強奪しますが、突然オートリモートになり閉じ込められてしまいます。そしてトラックの中には巨大な中性子爆弾が。
ドムたちは車を使って暴走するトラックを止めようとしますが、バイクに乗ったダンテが邪魔します。ローマの街中を疾走するトラック・車・バイク。何とかトラックを止めますが、中の爆弾が転がり出て暴走を始めます。燃え盛る火の玉と化した爆弾は教皇街 めがけて突き進みますが、チームプレーで川に落下させ、威力を1/10に抑えたことで街の全壊を防ぎますが、ドムたちはテロリストと見なされ指名手配になり、レティは捕まってしまいます。
 
秘密組織の現リーダーのエイムス(アラン・リッチソン)は、ドムたちを危険人物と認定しますが、Mr.ノーバディの娘テス(ブリー・ラーソン)はドムたちを助けるために秘密裏に動きます。ドムはデッカード・ショー(ジェイソン・ステイサム)の母クイーニー(ヘレン・ミレン)にノーバディと会えるよう依頼しますが、ナポリに現れたのはテスでした。彼女は、今回の黒幕がレイエスの息子であること、組織がドムたちを追っていること、レティが秘密刑務所にいることを話します。ドムはダンテのいるリオへ向かいます。

一方リトルBとミアは、エイムスらの組織に襲われますが、ドムの弟のジェイコブ(ジョン・シナ)が助けにきて難を逃れます。ジェイコブはリトルBを預かってドムの元へ連れて行くことになります。
 
リオのストリートレース場に現れたドムは、かつての仲間と再会。そこへダンテが登場し、イザベル(ダニエラ・メルヒオール)を含めた4人でのゼロヨンレースが始まります。ダンテの挑発で、仲間とイザベルの車に爆弾が仕掛けられていると察知した
ドムは、レースを諦めイザベルを助けます。実はイザベルはエレナの妹でした。彼女からエレナの遺した捜査資料を渡され、ダンテのアジトと思われる場所へ向かったドムを待っていたのはダンテの宣戦布告映像でした。そこへエイムスらが現れドムは捕まってしまいます。

刑務所のレティをドムに頼まれたテスが面会に訪れ脱獄の手引きをします。(組織への裏切りを悟られぬよう敢えてレティに怪我を負わせたの。)医療室で意識を取り戻したレティの隣にはサイファーが横たわっていました。😁 一瞬、協力しかけた二人ですが、レティの怒りが爆発し殴り合いの大立ち回りに😓 いやいや、そんなことしてる場合じゃないってば!(そもそもこのシーン必要?)

ローマンたちはロンドンへ到着しますが、ダンテに預金口座をハッキングされ無一文になります。でもローマンが体に隠していた現ナマを出して物資調達に走ることに。(何だかAチームのコングを連想させますね😁 )今作ではテズとローマンの掛け合いはそれほど多くはありませんでしたが、二人のシーンは癒しになりますね。ラムジーの知り合いの店に行ったは良いけれど、裏切られ逃げ出した一行は、ハンに連れられある場所へ。そこはデッカードの隠れ家で、単身入ったハンは、途端に襲い掛かってきたデッカードと格闘する羽目になりますが、エイムスの組織が襲来すると一転協力して戦います。もうね~キャラそれぞれの見せ場をしっかり用意してるんですよね😁 

ラムジーからダンテの標的はドムだけでなく彼が関わった全ての人物だと聞かされたデッカードはその中に彼の母も含まれていると知り怒りを露わにして、ローマンたちに車や武器、移動手段を用意してくれます。そういえば、極度のマザコンだったっけ。私的にデッカードはお気に入りのキャラです。そもそも弟を殺された復讐で登場してたもんね~家族愛半端ない男です。😄 
 
さて、連行中にダンテに襲撃(「MEGAMAX」でレイエスを殺した橋)されたドム。テスから神の目を奪いヘリで逃亡するダンテにエイムスがドムへの疑いを晴らして協力し、ドムはポルトガルへ向かいます。

ポルトガルの隠れ家に到着したジェイコブとリトルBですが、敵に襲われキャノン砲を積んだ車で敵を倒しながらのカーチェイスが始まります。ジェイコブはリトルBに助言したり、道中を楽しませようとしたりでしっかり叔父さんになりきってます。ダンテに攫われたリトルBですが、ドムが助けに来て取り戻します。飛行機から車ごと降下し敵車の上に落下とか、ヘリに持ち上げられても逆に振り子状態で敵にぶつけるなど、とにかくぶっ飛んでます。これまで兄の影でしかなかったジェイコブがファミリーとして自分の役割を果たす姿が切なくもカッコイイ!

ダムの上で追い詰められたドム父子が、炎に追われながら堤体を疾走し水中に逃れたのも束の間、ダムが爆破され・・・というところでエンドロールが。

ローマンたちが乗った機体は爆破されるし、ジェイコブもアレだし、ファミリーどうなっちゃうの?な展開ですが、過去のシリーズでも死んだ筈のキャラが生き返るのはほぼお約束状態なんで、きっと次作ではピンピンして復活すると期待しております😁 

サイファーとレティが脱出したのは北極(南極だっけ?)で、原子力潜水艦で彼女たちの救出にきたのは死んだはずのジゼル(ガル・ガドット) 、デッカードの活躍もまだだし、ホブスまで登場するわで、本当にキャラ大集合状態。
本当に次が完結編になるのかも怪しいぞ。観るけど😅 


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政と源

2023年05月21日 | 
三浦しを(著) 集英社オレンジ文庫

東京都墨田区Y町。
つまみ簪職人・源二郎の弟子である徹平(元ヤン)の様子がおかしい。原因は昔の不良仲間が足抜けすることを理由に強請られたためらしい。それを知った源二郎は、幼なじみの国政とともにひと肌脱ぐことにするが――。
弟子の徹平と賑やかに暮らす源。妻子と別居しひとり寂しく暮らす国政。ソリが合わないはずなのに、なぜか良いコンビ。
そんなふたりが巻き起こす、ハチャメチャで痛快だけど、どこか心温まる人情譚!

一、政と源
二、幼馴染無線
三、象を見た日
四、花も嵐も
五、平成無責任男
六、Y町の永遠

『政』こと有田国政は銀行員として仕事一筋真面目に働いてきたのに妻にも娘にも愛想を尽かされ、妻は数年前に家を出ていき長女一家と暮らし、二人の娘も孫も殆ど顔を出さず一人寂しく過ごしています。
つまみ簪職人の『源』こと堀源二郎は、政とは正反対の破天荒でやんちゃな性格。妻に先立たれて独り身ですが、弟子に慕われ、周囲の人にも不思議と愛される魅力ある人物です。
二人は東京下町に住む73歳の幼馴染みで子供の頃に戦争を経験しています。焼け野原から復興していくなかで必死に生きてきた世代です。

政は、娘たちの養育も親の介護も全て妻の清子に任せきりで、家にお金を入れることが一番の愛情であり責任だと信じてきた仕事一筋のTHE昭和の男です。姑に言われたこと(男の子ができない)で傷ついたことを夫に訴えても受け流されて何もしてくれなかったことなど不満が積もり重なり、夫に愛想を尽かして出て行った妻の気持ちを全くわかっていなかったのですよね~。

自分と同じく独り身の源が、若い弟子に慕われ賑やかに暮らしているのを、政は羨ましく思っています。真面目に生きてきた自分がどうして寂しい老後を送ることになったのか、理不尽に感じてしまうのです。そのくせ、気が付くと源の家に足が向いていて、一緒に飯を食べています。
徹平が昔のワル仲間に脅されていると知れば、二人で押っ取り刀で駆けつけて蹴散らしたり、問題が起こる度にその解決に奔走しますが、理性的に穏便に済まそうとする政と突拍子もない解決策を持ち出す源の対比が面白かったです。二人は互いに違うからこそ長く付き合って来られたのかもしれませんね。

後半は、徹平と彼女の恋人のマミの仲人を頼まれ、別居中の妻に引き受けてくれるようあの手この手で頼む政が描かれます。昔、源と彼の恋女房の花枝のために尽力した政は、その後見合いで妻の清子と結婚しましたが、自分には源のような情熱があったのだろうかと自問します。その上で、彼は自分なりに妻や娘を愛していたことを再認識するのです。
政は毎日清子に葉書や手紙を送ります。もう半ば日記みたいなものになっていて、その末尾に決まって書かれる「仲人の件云々」に笑ってしまいました。今の気持ちを素直に書いた手紙に清子が折れて仲人を引き受けてくれることになった時の政の様子がまたいじらしいというか微笑ましいというか。結果的に元鞘とはいかなかったけれど、夫婦の距離は少しだけ近付いたのではないかな。

自由奔放に見える源の方も、彼なりの人生に対する達観した思いがありました。もしかしたら政よりずっと「大人」なのかもしれません。日本一(世界一)と表現される源の作るつまみ簪を見てみたくなりました。もちろん徹平の現代風にアレンジされた作品も。😍 

政の「心の声」には思わず噴き出してしまいながら、「そうそう」「あるある」と相槌を打ちたくなることが沢山ありました。それにしてもめまぐるしく変わる源の頭髪の色には、政じゃなくても目が点になりそうです。 

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母性

2023年05月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年11月23日公開 115分 G

女子高生が自宅の庭で死亡する事件が起きた。発見したのは少女の母で、事故なのか自殺なのか真相は不明なまま。物語は、悲劇に至るまでの過去を母と娘のそれぞれの視点から振り返っていくが、同じ時間・同じ出来事を回想しているはずなのに、その内容は次第に食い違っていく。(映画.comより)


湊かなえの同名小説の映画化ですが、あらすじ紹介だけ読むと死んだ女子高生とその母の物語と誤解してしまいます。

ニュースになった事件をきっかけに、教師の清佳(永野芽郁)が自身の過去を振り返ります。彼女の母親のルミ子(戸田恵梨香)は、娘よりも自身の母(大地真央)を愛していました。

一方、教会の懺悔室でルミ子は神父(吹越満)に娘との関係を告白しています。ルミ子は、母から受けた無償の愛を、そのまま清佳に注いできたのだと言います。

“娘を愛せない母”と“母に愛されたい娘”のそれぞれの視点で綴られる回想は、徐々に食い違っていきます。ルミ子の母の死の状況がそれぞれの視点で語られますが、壮絶な真相にはちょっと引いてしまうし、それを知った清佳が自殺を図った時も、ルミ子の中では母から受け継いだ命を消さないことの方が重要だったのではと思ってしまいました。

母性から想像するのは母の子供への無償の愛や、母親が持つ本能的な我が子を大切に想い守りたいと思う感情です。でもそれは母親の一方的な想いであり、受け手である子供の側からみたら束縛であり呪いであるかもしれないということをこの作品は伝えているように感じました。

ルミ子の母親が注いだ娘への無償の愛が、娘を歪ませてしまったというのが何とも皮肉です。ルミ子の中に母性は芽生えることはなく、どうしたら母を喜ばせることができるかを常に考え、結婚も我が子でさえもそのための手段でしかなかったのです。
当然、夫の妻への愛情は醒め、ルミ子の友人と不倫をする有様。それに気付いて抗議する清佳にも平然としています。母に愛されていないと感じていながらも、その母を弁護する清佳の心情の奥にはやはり愛されたいという願望があるのだと示されるこのシーンが切ないです。

母といえば、もう一人、ルミ子の夫の母=義母が登場しますが、嫁に辛くあたる意地悪な姑の反面、自分の娘を溺愛していました。娘が駆け落ちして家を出て行ったことで余計に辛く当たるようになりますが、終盤、認知症を患った義母の世話を甲斐甲斐しくするルミ子を娘と認識しています。ルミ子の方も義母を実母の代わりとして愛されたいと思っているのが透けて見えます。どこまで行っても彼女は「娘」にしかなれないのですね。

清佳は「女性は母と娘の二種類だ」と考えています。物語の最後で、妊娠した清佳が選ぶのは果たしてどちらなのでしょう。母の愛を受けられずに育った彼女が母となった時、我が子に母性を感じることができるのか、ルミ子を反面教師とできるなら良いのですが、母親と同じ道を辿るなら救われないかなぁ。あまり希望を感じさせない結末です。

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銀河鉄道の父

2023年05月17日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年5月5日公開 128分 G

質屋を営む裕福な政次郎(役所広司)の長男に生まれた賢治(菅田将暉)は、跡取りとして大事に育てられるが、家業を「弱い者いじめ」だと断固として拒み、農業や人造宝石に夢中になって、父・政次郎と母・イチ(坂井真紀)を振り回す。さらに、宗教に身を捧げると東京へ家出してしまう。 そんな中、賢治の一番の理解者である妹のトシ(森七菜)が、当時は不治の病だった結核に倒れる。賢治はトシを励ますために、一心不乱に物語を書き続け読み聞かせる。だが、願いは叶わず、みぞれの降る日にトシは旅立ってしまう。「トシがいなければ何も書けない」と慟哭する賢治に、「私が宮沢賢治の一番の読者になる!」と、再び筆を執らせたのは政次郎だった。「物語は自分の子供だ」と打ち明ける賢治に、「それなら、お父さんの孫だ。大好きで当たり前だ」と励ます政次郎。だが、ようやく道を見つけた賢治にトシと同じ運命が降りかかる──。(公式HPより)


門井慶喜が宮沢賢治の父である政次郎を主人公に究極の家族愛を綴った「銀河鉄道の父」の映画化です。監督は「八日目の蝉」「いのちの停車場」の成島出。
宮沢賢治の作品「風の又三郎」や「注文の多い料理店」「銀河鉄道の夜」などは読んだことがあっても、その生涯については農学校を出たこと、羅須地人協会を設立して農業技術指導をし農民の生活向上を目指したこと、 妹が結核で亡くなっていることくらいしか知らなかったです。
生前刊行されたのは詩集『春と修羅』童話集『注文の多い料理店』だけなんですね😲 

映画の前半は、とにかく子煩悩な父がコロコロと目指す道を変える賢治に翻弄される姿がコミカルに描かれます。家業を告げと迫る父にきっぱり「嫌です」と突っぱねる場面では笑いを誘いますが、日蓮宗にのめり込んで周囲を唖然とさせるシーンはイタかった😖 あれでは精神に異常をきたしたと思われても仕方ないけれど、それでも父は息子を信じます。

妹のとしはとても聡明な女性で兄の一番の理解者でもありました。兄の作る話が好きで、物書きになることを応援します。祖父の喜助(田中泯)が老いて錯乱した時に、「死ぬことは怖いことではない」と抱き締め優しく語りかけるシーンがとても印象に残りました。

上京して行き詰っている賢治は、としが病に倒れたと知ると妹のために書いた物語を持って帰ってきます。つきっきりで看病しながら妹のために次々物語を書いては読んできかせるのです。としが亡くなる間際のみぞれ雪を含ませるシーンでは、鼻をすする音があちこちで聞こえました。

としの死後、彼女が療養していた祖父の別荘に移り住んだ賢治は、羅須地人協会を設立して農民のために技術指導をしたり、セロを弾いて歌(星めぐりの歌)を一緒にったりの音楽活動をしますが、志半ばで妹と同じ病に倒れます。
今なら投薬で完治する病ですが当時は療養しか術がない不治の病です。

汗をかいた賢治の身体を拭く(最後の)役目を譲らなかった母の想いにも熱いものがこみあげてきます。賢治を溺愛する父に隠れがちでしたが、母も負けず劣らず息子を愛していたことが伝わってくる一言でした。父が暗唱する「雨ニモマケズ」にまたまた涙腺を刺激されました。

賢治の家族は互いに信じ合い味方であり続けます。本来なら長兄の代わりを弟の清六(豊田裕大)が務め、賢治の死後も彼の才能を信じ続けた家族が諦めずに世に送り続けたことで高い評価を得るようになったことはこの映画で初めて知りました。

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後宮の烏5

2023年05月16日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
第九話 水の聲 (こえ)
宮女・安蕙蘭(あんけいらん)が頼み事にやってくる。蕙蘭は水の中から死んだはずの妃の声が聞こえると訴える。炎帝が統治していた時代、鵲妃として迎えられた西婉琳(さいえんりん)は、帝のお渡りがある日、池に飛び込み亡くなった。水の中からする声はその妃のものだという。蕙蘭は婉琳を救ってほしいと頼み込むが、寿雪はその訴えの裏にある蕙蘭の真意を見抜いていた。 

第十話 仮面の男
高峻が珍しく寂しそうな顔をみせた。そのことがどうも気にかかるが、寿雪はその理由を問うことができない。数日後、高峻が幽鬼の取り憑いた面を持って夜明宮に顔を出す。幽鬼は異国渡りの琵琶の音に反応するらしい。その琵琶を高峻が用意することで話がまとまる。話を終えた高峻は帰ろうとするが、寿雪はつい引き止めてしまう。 


今回はどちらも妄執やプライドが招いた悲劇で後味は良くないものの、そのどちらにも誠実に向かい合う寿雪の姿が描かれます。衣斯哈の無邪気な愛らしさに癒されるなぁ😊 

水の中から自死した主・婉琳の声がすると訴えてきた蕙蘭に、寿雪は、それは己の声だと言います。蕙蘭にとっては、婉琳が帝の寵妃として後宮で権力を得ることが全てで、主は彼女の自尊心を満足させるための道具でしかなかったということですね。主を楽土にというのは口実で、自分が救われたかった・・・幽鬼となった蕙蘭を寿雪は池に封じます。

琵琶に執着するあまりに常軌を逸し幽鬼となった男の魂を送るために寿雪は宝物庫の5弦の琵琶を男の同僚だった者に弾かせます。男の身を案じて琵琶を取り上げたことが彼の死に繋がったと話す同僚は、彼の才能を妬んでいたことを吐露しますが、寿雪は「人」として死なせることが救いになっただろうと言います。

冬官の薛魚泳は高峻の命で寿雪に会います。彼は先代烏妃・麗娘 の戒めを破っていることを非難しますが、同時に彼と麗娘 との関係も示唆されます。
皇太子時代から支えてくれている側近で外戚の雲永徳(花娘の祖父 )との政治的バランスの配慮に神経を使う高峻の憂慮も垣間見られます。

封宵月が 鵲妃に近づくエピソードも盛り込まれています。

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カリフォルニア・ダウン

2023年05月16日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2015年9月12日公開 アメリカ 114分 G
2023年5月2日  午後エンタ 午後ロード 放送

米カリフォルニア州の太平洋岸に1300キロにわたってのびるサン・アンドレアス断層が横ずれし、巨大地震を引き起こした。ロサンゼルス、サンフランシスコ、ラスベガスと大都市が相次いで壊滅するなか、ヘリコプターを使った高度上空での任務を専門とするレスキュー隊員(ドウェイン・ジョンソン)が、愛する娘(アレクサンドラ・ダダリオ)と被害にあった人々を救うため駆けめぐる。(映画.comより)


所謂ディザスターパニック作品ですが、結局主人公が助けたのは自分の家族(と娘を守ってくれた兄弟)だけというのがなぁ。

ロス消防局のレスキュー隊員のレイがヘリコプターを駆使して救助活動をしますが、彼が他の人を救ったのはこのシーンだけでした。

地震予知を研究するカリフォルニア工科大学のヘイズ教授(ポール・ジアマッティ)はパートナーであり親友でもあるキム・パク博士 (ウィル・ユン・リー)とフーバー・ダムの調査中に大地震に遭い、キム博士が犠牲になります。
ヘイズ教授は更なる巨大地震の発生を予知し、学生やインタヴューに訪れていたニュースリポーターのセレーナ(アーチー・パンジャビ)の協力を得て警告を発します。

一方、離婚協議中の妻エマ(カーラ・グギノ)から恋人の大手建設会社を経営するダニエル(ヨアン・グリフィズ)と同居することを告げられ、地震発生のため娘のブレイクを大学に送っていけなくなり、凹みながら仕事へ向かっていました。

代わりにブレイクはダニエルに送られてサンフランシスコのダニエルの会社に立ち寄り、そこで面接に来たベン(ヒューゴ・ジョンストーン=バート)と少年オリー(アート・パーキンソン)の兄弟と知り合います。

ダニエルの姉のスーザン(カイリー・ミノーグ)とビルの高層階で食事していたエマは、レイとの電話中に大地震に襲われます。屋上へ逃げるよう指示したレイはヘリで急行して妻を救助します。倒壊するビル、吹き上がる炎の中での脱出劇はまさにデザスター。でもこれは序章に過ぎません😓 

サンフランシスコではブレイクが地下駐車場で同じ地震に遭遇していました。足を挟まれ動けないブレイクに、助けを呼んでくるといいながら結局逃げてしまったダニエル。ベンとオリーに助けられたブレイクはレイにSOS。

ダニエルが娘を置いて逃げたと知ったエマは怒り心頭。夫婦は娘を助けるためサンフランシスコへ向かいますが、途中ヘリは墜落、車やセスナを乗り継いで
着いたサンフランシスコですが、そこへ津波が襲ってきます。小型船に乗り浸水した街を娘を探して走る二人・・・要救助者大勢いそうなんですが😓 

ブレイクやベンたちはダニエルの建設途中のビルに避難し、レイたちが気付いた直後、ビルが倒壊し、ダニエルが水中に取り残されます。

レイにはもう一人娘がいましたが、水難事故で亡くなっていて、助けられなかった後悔から妻とうまくいかなくなっていました。ダニエルを救助したことでそのトラウマから解消される展開ですね。

主人公たちだけが助かるご都合主義はアメリカ映画の定番ですが、それにしても凄すぎる巨大地震の被害です。高層ビルが次々と倒壊するさまはいっそ見事で、現実感がない分娯楽として観られた気もします。

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ミセス・ハリス、パリへ行く

2023年05月13日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年11月18日公開 イギリス 116分 G

1950年代、第2次世界大戦後のロンドン。夫を戦争で亡くした家政婦ミセス・ハリス(レスリー・マンビル)は、勤め先でディオールのドレスに出会う。その美しさに魅せられた彼女は、フランスへドレスを買いに行くことを決意。どうにか資金を集めてパリのディオール本店を訪れたものの、威圧的な支配人コルベール(イザベル・ユペール)に追い出されそうになってしまう。しかし夢を決して諦めないハリスの姿は会計士アンドレ(リュカ・ブラヴォー )やモデルのナターシャ(アルバ・バチスタ )、シャサーニュ公爵(ランベール・ウィルソン )ら、出会った人々の心を動かしていく。(映画.comより)

小説家ポール・ギャリコの原作「ハリスおばさんパリへ行く」の映画化です。

戦地から帰って来ない夫のエディを待ちながら、家政婦として働いているハリスの元に届いたのは夫の死の知らせでした。彼女は女優のパメラ(ローズ・ウィリアムズ)とダントの家で働いていますが、パメラはだらしなく、ダント夫人は給与をなかなか払ってくれません。そのくせ高価なクリスチャン・ディオールのドレスを夫に内緒で買ったりしています。そのドレスに魅せられたハリスは、サッカーくじに当選したことをきっかけに、同僚で親友のヴィにディオールのドレスを買う決意を話します。友人のアーチー(ジェイソン・アイザックス)が働くドッグレース場に招待されたハリスは、オートクチュールと言う名前の犬をラッキーネームと思い込み、アーチーの反対を押し切って大金を掛け、全て失ってしまいます。失意の帰り道、高価そうな指輪を拾ったハリスは警察に届けます。
全財産を無くしたハリスの前に、英国空軍の担当者が訪れ、戦争未亡人に多額の未払い金を払うと言われます。更に警官から指輪の落とし主から謝礼が貰えると言われ、無謀な賭けを見兼ねてこっそり別の犬に賭けていたアーチーからも、高額の配当金を受け取ります。
ここまでも十分にシーソーゲームのような展開ですが、彼女の人柄や度胸の良さも窺える導入部となっていました。

パリ行きの機内でのハリスは、離陸の際に隣の席の紳士にしがみついたり、寄りかかって寝てしまったりと年齢を経た女性特有の無意識の図々しさが逆に可愛く見えます。運行が遅れて夜に着いたため、駅で夜明かしするハリスですが、ホームレスの男性たちにも気後れせず振る舞い、朝になるとその中の一人がディオールの店まで案内してくれます。
店の前でモデルが落とした鞄を渡した後、受付でショーに参加して服を買いたいと言いますが、相手にされません。追い返そうとするクロディーヌと口論になり「お金ならある」と札束を取り出したハリスを見て、資金難に悩む会計士のアンドレは現金払いの彼女をショーに入れようとします。この様子を見ていたシャサーヌ侯爵はハリスに好意をもち、連れとして入れてくれます。
侯爵の隣の席でショーを楽しんだハリス。その隣に座ったディオールの上客であるアバロンは労働階級の見知らぬ女性であるハリスに不快感を持ち意地悪して、ハリスが気に入ったドレスを横取りします。

このメゾンでのファッションショーに登場する数々のドレスのデザインは、『クルエラ』のジェニー・ビーヴァンにより、ディオールが手がけたデザインを緻密に再現しているそう、まさにため息がでる美しさ・豪華さでした。

2番目に気に入ったドレスではとアンドレに提案されますが、採寸・仮縫いなどで完成まで2週間かかると言われ宿泊先もないと諦めようとしたハリスを、彼は自宅に泊まるよう言います。
(当時、パリは労働待遇を巡るストの真っ最中。ディオールの従業員たちは尊大な顧客より自分たちと同じ労働階級のハリスを気に入り親近感を持ったようです。)

早速採寸し、ナターシャ(鞄を届けてもらった女性)が車でアンドレの家に案内します。この時パリの名所をぐるっと回ってくれています。散らかった部屋を掃除し料理を作って二人を喜ばせるハリス。まさに本領発揮ですね。
ハリスはアンドレがナターシャに好意を抱いているのに気付きます。
シャサーヌ侯爵は、ハリスを花市場や食事、夜のキャバレーに連れて行きます。妻を亡くしている侯爵にロマンスの期待をしてしまうハリスの気持ちもわかるな~~。シャンパンとダンスを楽しんだハリスは翌日寝坊してディオールの約束の時間に遅れてしまいます。怒った担当者に製作を拒否されたハリスに同情した社員の一人が、職場を案内してくれます。偶然立ち寄ったクロディーヌはハリスがボタン付けをしているのを見て驚きます。クロディーヌは「ドレスを買ってもどこで着るの?あなたはディオールに相応しくない」と馬鹿にしますが、他の社員達はハリスを気に入って、彼女のドレスを仕上げることにします。

アンドレはハリスにディオールが財政困難な状況にあることを説明し、クロディーヌが彼のアドバイスを受け付けないことを話します。
ナターシャが有名俳優と一緒にいるのを目撃しショックを受けるアンドレに「彼女はそれが仕事だから→恋しているわけではない」と励ますハリス。

シャサーヌの家に招待されたハリスは、ロンドンの寄宿学校時代の写真を見せられ、子供の頃に優しく接してくれた家政婦に似ていると言われます。侯爵が自分に興味を持ったのは恋愛感情ではないと気付いたハリスはショックを受けます。侯爵に悪気はないとわかっているだけに傷つくよな~~。

ディオールから私物を抱えた社員たちが大勢出て来ます。解雇に抗議する社員たちがクロディーヌに詰め寄る中、ハリスはアンドレと従業員を引き連れて、オフィスに行き、ディオール自身に面会を申し込みます。アンドレから資金問題解決のための考えを聞いたでディオールは解雇を撤回します。自分は必要とされていないと社を辞めようとしていたクロディーヌをハリスが説得する場面での機知とウィットに富んだ会話は二人の大女優の見せ場でした。

ナターシャがディオールを辞めたことを聞いたアンドレとハリスはナターシャを探して駅に行きます。(駅には件のホームレスたちがいました。)ハリスの応援もあって、アンドレはナターシャに告白し二人は無事恋人同士に💛

完成したドレスを持って家に帰ってきたハリスを、パメラが訪ねてきます。
パーティに着て行くドレスが無いと泣きだす彼女にハリスは自分のドレスを貸してあげます(身長もボディサイズも違うのにオートクチュールのドレスがパメラの身体に合ったというのは無理クリな気もしますが)が、翌日パメラの家を訪れたハリスが目にしたのは焼けたドレスと置き手紙。(だらしないパメラの性格は冒頭でも映し出されましたが、恩を仇で返すクソ女でした😡
あまりのことにドレスを川に捨て家に閉じこもっていたハリスを心配したヴィとアーチーが訪ねてきて、パメラがパーティーでドレスを焼いた事件がニュースになり新聞に載っていることを教えます。

ダントの家を訪れ仕事をしていると彼女は焼けたドレスの記事を興味本位で話題にします。腹に据えかねたハリスはこれまでの未払い賃金を請求し辞めます。

その夜。ハリスの元に届けられたのは大きな包みと花束です。出てきたのはディオールの名前の入った箱。クロディーヌとアンドレからの手紙が同封されています。手紙にはニュースでドレスが焼けたことを知ってこと、アバロンの夫が逮捕され夫人のドレスは採寸もまだで未払いなことから、ハリスが一番気に入っていたあのドレスを彼女のサイズで作ったこと、ディオールの売り上げが(記事になったことで?改革が功を奏したことで?)上がったことへの感謝が書かれていました。

軍人会のパーティーにドレス姿のハリスが登場するシーンはまるで王族のような気品がありました。アーチーと踊るハリスと彼女を幸せそうに見るヴィ。幸せは身近にあるのよね。😍 

夢を追いかけるハリスは輝いています。そんな彼女に訪れる素敵な奇跡を素直に喜びたい気持ちになりました。

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アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター

2023年05月13日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2009年製作 インド 127分 

清らかな心を持つ青年・アラジン(リテーシュ・デーシュムク)は、交換留学生のジャスミン(ジャクリーン・フェルナンデス)にひと目惚れ。誕生日にジャスミンからランプをもらったアラジンがランプを擦ると、中から魔人・ジーニアス(アミターブ・バッチャン)が現れて…。(映画.comより)

 
「アラジンと魔法のランプ」をボリウッドが映画化したらこうなりました😁 
子供向けのファンタジーアドベンチャーですが、もちろんインド映画ですから歌とダンスも随所に登場し、豪華な衣装も楽しめます。

魔法のランプの存在を信じていた両親(ジョイ・セーングプタ、ソヒニ・ゴーシュ)は、息子にアラジンと名付けますが、魔法のランプを探しに出かけた先で亡くなってしまいます。遺されたアラジンを育ててくれたのは祖父(ヴィクター・バナルジー)でしたが、その祖父も亡くなり、アラジンはその名前のせいで同級生のカシム (サヒル・カーン)たちにイジメられる毎日を送っていました。彼らはランプをアラジンに擦らせては何も起こらないとからかうのです。
ある日、クラスに転入してきた 交換留学生のジャスミンに一目惚れしたアラジンでしたが、カシムは何も知らないジャスミンにアラジンの誕生祝に骨董品店で買ったランプを プレゼントさせます。しかしそのランプこそ本物の魔法のランプでした。魔人ジーニアスはロマンスグレーの陽気なおじ様で、「3つの願い」を叶えてやろうと言います。

その頃、魔法のランプの力で世界征服を企むリングマスター(サンジャイ・ダット)率いる一団がサーカスを装い街に向かっていました。彼こそが、アラジンの両親を死に追いやった男でした。

アラジンの一つ目の願いはジャスミンとの交際でしたが、魔法で惚れさせるやり方に戸惑いこれを取り消します。ここまでで二つ願いを使ってしまうのね。魔法抜きで彼女を振り向かせたいと望むアラジンに協力することになるジーニアス。ウィル・スミスが演じたディズニー版とも共通するユーモアとコメディ要素にダンディなカッコ良さも加わり、時に見せるシリアスな表情も惹きつけられます。💛
「アラジン」は主人公だけど、映画化されると何故か魔人の方が圧倒的な存在感があって魅力的です。

歌やダンスをふんだんに取り込んで明るい前半と比べ、アラジンの両親の死の真相や、ジーニアスとリングマスターとの過去の因縁が明かされ、リングマスターと対決する後半はガラッと雰囲気が変わります。
ジャスミンも加わり、リングマスターの手下たちとのバトルも繰り広げられ、ダメダメだったアラジンがジーニアスの命を救います。
ジーニアスはリングマスターを鏡に閉じ込めた上でその鏡を破壊してやっつけめでたしめでたし。

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かがみの孤城

2023年05月12日 | 
辻村深月(著) ポプラ社

どこにも行けず部屋に閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然、鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先の世界には、似た境遇の7人が集められていた。9時から17時まで。時間厳守のその城で、胸に秘めた願いを叶えるため、7人は隠された鍵を探す―(あらすじ紹介より)

映画公開時に興味を持ったものの都合つかず見送った作品なので、原作の方をまず読むことにしました。迷宮脱出系かと思っていたけど全然違った!
大人にもイジメはあるけれど、それが自分の全てではないと思うことができます。けれど学齢期の子供にとっては学校と家が世界の全てで、一旦拒絶された(理解されない)と感じると逃げ場がなくなってしまうのです。その辛さ、苦しさがひしひしと伝わってきて居たたまれない気持ちにさせられますが、登場する7人は互いを知ることで「仲間」ができ、俯いていた顔を上げて前に進む勇気を得ていくにつれ、逆に希望を感じることができました。

こころは、中学生になってすぐ、いわれのない理不尽な理由で同級生から酷いイジメを受けて不登校になります。母が勧める子供育成支援教室(フリースクール)にも通うことができず、部屋に引き籠もる生活を続けていた5月のある日、自室の鏡が光って中に吸い込まれるところから始まるのですが、そこに建つ孤城には自分の他に狼面の謎の少女「オオカミさま」により6人の似た境遇の中学生リオン、フウカ、スバル、マサムネ、ウレシノ、アキが集められていました。

オオカミさまは「願いの鍵」を見つけた1人だけが願いの部屋へ入ることができ、どんな願いでも叶えられると言います。孤城に来て良いのは日本時間の(ここ、大事)午前9時から午後5時までで、5時以降に残っている者が1人でもいると、その日いた全員が連帯責任で狼に喰われてしまう。さらに誰かが願いを叶えて城から出た時点で全員の記憶が消えるというのです。

この時間に孤城に来られるということは学校に行っていないということと、こころたちは暗黙のうちに互いに深く干渉しないよう振舞います。

中学3年生のアキは明るいくお姉さん的な存在ですが、気が強くて思ったことは遠慮なく口にして険悪になる時もあります。こころとフウカをお茶に誘って、紅茶と可愛いナプキンを用意する気遣いをする一方で、彼氏ができたと自慢してこころたちを引かせたりもします。アキは部活の後輩に厳しく接したことで陰口を叩かれるようになり不登校になっていました。祖母の葬儀で制服を着ていた時に義父から逃げ出して城に現れたことでメンバーの共通点(同じ中学だった)が判明します。

スバルも中学3年生。背の高い色白そばかす顔で、こころは密かに『ハリポタ』のロンに似ていると思います。ずっと城に来ていなかったこころに最初に声をかけ温かく迎えてくれます。マサムネと仲が良くて彼が持ち込んだゲームでよく一緒に遊んでいる彼は紳士的で優しい男の子ですが、中盤で髪を金髪にして皆を驚かせます。
スバルは両親が離婚し祖父母に引き取られていました。
「イケメン」の意味がわからないというエピソードも伏線になっていました。

マサムネは中学2年生。生意気で理屈っぽいため他人と衝突しやすい男の子。ゲームおたくで頭は良いけれど噓つきのため、学校でホラマサと呼ばれていじめられ、不登校になりますが、両親の方針(公立中学には通わせない)で学校には行かず塾に通っています。こころがゲームをやると知って喜んだものの、RPGをしない理由を聞いて怒り出します。根っからのゲームおたくなんですね。

フウカも中学2年生。眼鏡の声優声の女の子です。母に連れられて行ったピアノの体験教室で才能があると言われたことからピアノ漬けの小学校時代を送りますが、そのため友だちもできず、学校の勉強にもついて行けなくなり、さらにコンクールでランキング圏外になるなど伸び悩んで不登校になります。

リオンはこころと同じ中学1年生。イケメンで明るく気さくで穏やかな性格です。
サッカーが好きでハワイへ留学しているのですが、本人は日本の公立中学へ行きたかったと思っています。ルール説明の時に「日本時間で」と言ったのは彼のためですね。姉のミオは彼が6歳の時に病死していて、姉にかかりっきりだった母との関係が微妙なようですが、クリスマスには母の手作りケーキを持参します。彼だけが城の秘密に薄々気付くのですが、メンバーには言わずに胸に秘めていました。

ウレシノも中学1年生。小太りで食べることが大好き。恋愛気質で惚れっぽい彼はアキ、こころ、フウカと次々に告白しては振られます。女子からは内心呆れられ、男子からはからかわれ、内心傷ついています。初めはどうしようもない奴に見えた彼も、実は優しい子だとわかってきます。

最後にこころ。
大人しい彼女は内気な性格で、特に取り柄もない自分に自信が持てずにいます。物事をネガティブに考えてしまうこころですが、城のメンバーと交流するうちに徐々に変わっていきます。転校生で家が近所の東条 萌と友だちになったのも束の間、真田美織から彼氏に色目を使ったと言いがかりをつけられイジメが始まります。トイレを覗かれたり家まで押しかけてきたりの描写は大人の自分が読んでも恐い!!ストレスから腹痛を起こし不登校になったこころですが、両親に本当のことを言えずにいました。
娘を心配しながらも理由がわからず悩む母の気持ちもわかるな~~。担任の伊田先生 は、真田美織の言い分を鵜呑みにするばかり・・こういう事なかれ主義の奴、いるよな!!😡 フリースクールの喜多嶋先生 だけはこころに「学校に行けないのはあなたのせいじゃない」と声をかけ優しく見守ってくれます。

城で過ごす日々が過ぎて行くうち、鍵を見つけたら皆で願いを話し合ってからくじ引きかジャンケンで願いを叶える者を決めようということになります。

夏休みの終わりに、ウレシノは二学期から登校すると宣言して城に来なくなりますが、中頃に怪我をした姿で再び現れます。そんな彼に何事もなかったかのように接するメンバー。この時、彼の名前がハルカであること、フリースクールに通っていることが明かされます。ウレシノは友だちが自分を尊敬したり機嫌を取ったりしてくれるのが嬉しくてお菓子やジュースを驕っていたのですが、それが親にバレたことで友だちが離れていきイジメが始まったのでした。始業式の日、友だちと思っていたのは自分だけだったと気付いた彼が思わず手を出して逆に怪我をさせられたわけ。

11月。アキが着て来た制服を見たメンバーは、リオン以外の全員が同じ雪科第五中
の生徒だったと知ります。仲間が同じ中学にいると知った彼らは自分は独りじゃないんだと勇気づけられます。
親から私立中への転校の話を聞いたマサムネは、せめて3月までメンバーといたくて(同じ中学という括りから外れたら城に来れなくなると考えた)1月の始業式一日だけ登校して欲しいとリオン以外の皆に頼みます。しかし、当日こころが登校すると全員と会えず、さらにそのような生徒は在籍していないと言われます。それは他の皆も同じだったのです。マサムネは自分たちがパラレルワールドの住人同士なのではと推測します。それでは城が消えても互いに会う事は叶わないと皆落胆します。

城が閉じる前日。学校に心がいじめられていたことを話したのは萌だったと聞いて、こころは東条萌の家に誘われ話す機会を得ます。彼女は助けてあげられなかったことを謝罪し、自分もイジメの標的になったことを告白します。でも転校の多かった彼女はクラスの関係だけが全てではないと割り切っていました。そんな萌ともっと早くわかりあえたかったと思うこころが家に戻ろうとすると部屋から異様な光と音が。鏡が割れていました。生きる意味を見出せなくなったアキが5時を過ぎて城に残ったため、城に来ていた6人が連帯責任で狼に食べられてしまいます。アキ以外の5人からのSOSとヒントを受け取った心は、急いで萌から『7匹の子山羊』の絵本を借りると残っていた鏡を通って孤城へ入ります。以前メンバーが見つけていた✖印に触れたこころはそれぞれの記憶の断片を見ます。(『ハリポタ』の憂いの篩みたい)これにより、パラレルワールドではなく時間軸が違っていたことに気付くのね。自分が7匹目の子山羊だと自覚し、大時計の中の「願いの鍵」を手にしたこころは、皆が戻ってくるよう願い、他の5人と願いの部屋の中のアキを引っ張り出します。

願いが叶うと城を出た後の記憶は消されますが、彼らはそれぞれの時代を確認し合い、フルネームを伝えて城を出ていきます。
リオンはオオカミさまが死んだ姉ミオだと薄々感じていました。最後にオオカミさまに感謝の言葉を伝えたリオンは、自分だけは孤城で過ごした記憶を残して欲しいと頼み、オオカミさまは善処すると言って仮面を外してリオンに微笑みかけます。

4月。こころは学校へ行く決心をして登校します。別の中学に移るのではなく雪科第五中学の2年生になったのです。門の前で転校生のリオン(水守理音)に声をかけられたこころは彼を知っている気がしました。

子供育成支援教室の喜多嶋先生は成長したアキでした。彼女は後の夫となった喜多嶋医師の患者のミオに勉強を教えていたのです。初めてこころに会った時、「とうとうその時が来た」と思います。願いの部屋からアキを引っ張りながら「私たちは助け合える!会えるよ!だから頑張って、大人になって!」と叫んだこころとリンクするラストです。

オオカミさまの正体がわかると、リオンとミオの病室での会話や窓辺に置かれていたドールハウス、「赤ずきんちゃんたち」という言葉のフェイクなど、あちこちに伏線が張り巡らされていたことに気付きます。ただしパラレルワールドではなく時間軸が異なっていることは、マックの位置や施設の名前やクラス数などわかりやすいヒントがあったので割と早い段階で気付いてしまいましたが(^^; 

敵に囲まれて身動きが取れなくなっている城を意味する「孤城」に心に傷を抱えて不登校になっている7人を重ねています。独りじゃないよ、仲間がいるよ、助けてくれる大人がいるよ、と今苦しんでいる誰かにも伝えてあげたくなる物語でした。

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烏の緑羽

2023年05月11日 | 
阿部 智里 (著) 文藝春秋

「なぜ、私の配下になった?」 生まれながらに山内を守ることを宿命づけられた皇子。葛藤と成長、彼らのその先には(あらすじ紹介より)


第一章 長束
長束は側近の路近の忠誠に疑問を感じて金烏であり弟でもある奈月彦に相談します。通常の人の感情からかけ離れた振る舞いをする路近への怖れを長束はずっと抱いていたのです。奈月彦から勁草院の清賢院士を訪ねるよう言われ、その清賢から側近にと推薦されたのが、かつて勁草院で院士で、猿との大戦の折に雪哉との確執で左遷された翠寛でした。
弟の懐刀の雪哉と敵対していた者を側近に迎えることに気乗りしない長束でしたが、断固として拒絶する翠寛に清賢から預かった手紙を渡すと、事態は一転します。手紙を読んだかと問う翠寛に長束は読んでいないと答え「それが私の誠意だから」と言い切ります。何が書いてあったのか大いに気になる長束でしたが、何と翠寛は申し出を受諾するのです。

第二章 清賢
清賢は中央城下の大店の次男として生まれ何不自由なく育ちます。家と関係ない世界で自分の力を試したいと勁草院に入り山内衆になりますが、日嗣の皇子となった捺美彦に失望します。山内衆を辞めた後は大貴族の南橘家のお抱えにでもなれないかと挨拶に行った際に路近と出会い、彼に勁草院で学んだことについて何気ない会話を交わすのですが、それをすっかり忘れていた頃、当主に呼び出されて、路近の行状に困り果てていることを聞かされます。親の責任を棚に上げた物言いに腹を立てた彼は、院士となって路近の教育をすることを引き受けます。優秀だが人格が破綻していると評価されている路近の同室の後輩・翠は南橘家の意を受けて路近の身の回りの世話をさせられていましたが、酷い虐待を受けていました。それを知った清賢は翠を守ろうとします。

第三章 羽緑
翠寛は『空棺の烏』に登場し当代髄一の戦術家と評されています。「兵術」「盤上訓練」で 雪哉を執拗に名指し徹底的にやり込める様は、ハリポタのスネイプ先生を連想させましたね。
そんな彼の出自と過去が明かされる章になっています。
彼は谷間で生まれ、ミドリと呼ばれていました。10歳になった頃、突然父親が現れて商家に引き取られます。父は愛人だった緑艶なす黒髪の母と同じ 羽緑という名を息子に付けていました。しかし、正妻に虐め抜かれた彼は寺に行くことになります。商家では奉公人としてこき使われましたが、文字を覚えることができました。神官見習いというのは名目で、神官のお稚児としてお手付きになることと悟った羽緑は抵抗し事件を起こします。その強情さを買われて南橘家の安近に引き取られた羽緑は翠と名を改めます。

第四章 翠
南橘家で峰入りの支度に励む翠に、路近の弟の国近が「殺すか殺されるかならば前者を選べ」と言い、不穏なものを感じながら入峰した翠は、路近からの「何のためにここへ来た」との質問に「貴族の身分が欲しいから」と正直に答えたことで気に入られますが、ひと月が過ぎた頃から酷い虐待が始まります。
翠から何としても殺意を引き出そうとする路近に対し、「人を殺したくない」「やろうとしても不可能」「路近の思い通りに動くのが癪」という3つの理由で頑なに拒む翠を救ったのが清賢院士でした。路近の問いにとことん付き合い彼から引き離してくれた上、清賢の部屋での自習を認め(路近からの逃げ場所になる)兵法研究会に誘ってくれました。ようやく同輩とも付き合えるようになり、花街にも出かけるようになった翠は鞠里という遊女と親しくなります。男女の関係ではなく兄妹のようなものでしたが、これを知った路近は鞠里を身請けした上で翠の反応を見て楽しみます。南橘家に唆された鞠里が路近に毒を盛ろうとしたことを察知した路近はその毒(の入った豆餅)を翠に与え、何もしらずに口にしたのを見ると「お前じゃないのか」と解毒剤を与えます。

第五章 路近
もうね~~ほんと外道な路近!でも彼なりの論理で動いていることは伝わってきます。問答に対して嘘や誤魔化しのない答えを求め、それが受け入れられないと暴力を振るう彼の、それが最善だと思っているところが問題なんですけどね。
母から「情が育っていない」と言われ、父から叱責されても、周りが自分より愚かなのだと考える彼は、父が自分を殺そうとしている理由がわからず「人はどういった時に人を殺したいと思うのか」悩み、その答えを翠に求めたのです。まっすぐに殺意を向けてきながらも決して殺そうとしない翠が路近には不思議でならなかったのです。

意識を取り戻した翠は南橘家に鞠里の保護を頼みます。その毒は貴族が使う毒で彼女が用意できるはずもないものでした。毒を渡したのは当主ではなく、温厚な性質と思っていた次男の国近でした。似ていないようでやはり酷薄さでは共通する部分がありますね。

逃げ出した鞠里を追って谷間にやってきた路近は大暴れをして捕らえられます。鞠里を案じて後を追ってきた翠は、彼女は胎に卵を抱えていると知ると自分の子として谷間で育てて欲しいとトビ親分に願い出ますが、そんな翠を鞠里は「勝手がことを言わないで」と突き放します。彼女は既に国近と取引していて例え騙されているとしても構わない覚悟をしていました。

路近は南橘家からの要請もあり、朔王から死を宣告されますが、それに異を唱えたのが勁草院の使いとして来ていた清賢と翠でした。
路近を殺すに相応しい資格を持つ翠(路近に受けた折檻の残る傷を見せています)に短剣が渡されますが、彼は拒否します。何故と問う路近に「殺せないんじゃない、殺さないんだ!貴様にはこの違いは一生わからないだろう」と言います。
清賢は死ななければならない者などこの世に存在しないと言って自分の腕を差し出します。自分を助けることで利益があるのかと問う路近に道楽だと答える清賢。翠が殺さない理由、自分が腕を差し出す理由考え続けなさいと。世界は広く人の心は深遠で簡単にわかるものじゃないから面白いのだと言う清賢の言葉が路近の何かを変えた瞬間でした。

以後、路近の乱暴は止み、下級生に慕われながら主席で卒業していきます。
山内衆になった翠は、幼い頃に自ら起こした事故で痛めた目を路近に突かれたことで更に悪化し、山内衆を辞めて勁草院院士になり、その際翠寛と名を改めました。
 
第六章 翠寛
「長束は赤ん坊です。あなたが育てて差し上げなさい」手紙にはそう書かれていました。態度を改めたとはいえ翠寛は路近が大嫌いで、その路近を側近にしている長束も同類だと思っていたのですが、彼が赤ん坊のように純粋無垢で理想論を信じていることを知り、考えを変えたのです。

翠寛は、金烏に「凌雲山を囮にしたのは、本意だったのか」と尋ねます。
真の金鳥とは八咫烏全ての親ですから、同胞を傷つける選択はあり得ません。雪哉は金烏ができないことを代わりにしたけれど、その責任は自分にあると答えた奈月彦に、現実を直視し目指す山内の在り方を見据える覚悟を見ます。
長束は古き善き美しき山内のための皇子だが、これからの山内を導くためには、変わらずにいてもらっては困るのだと語る真の金鳥奈月彦が、滅びゆく山内にそれでも絶望はしていないのだと感じた翠寛は、初めて尊敬の念を覚えます。

長束の教育は瓜を育てさせること、羽重を編むことから始まります。豪華な衣装をまとう貴族は一生編むこともない羽重に四苦八苦する姿を想像すると思わず笑みが😁 
小銭を与えて筍を買わせればろくに状態も見ずに言い値で有り金全部渡したり、谷間の賭場で身ぐるみ剝がされて皿洗いをしたりのエピソードも微笑ましい。庶民の暮らしを知らずにいた長束が初めて経験することばかりなのね。
明鏡院で民からの陳情書が手元に来るまでの実情を知った長束が訳知り顔で「運が良い」と口にした時、翠寛は貴族の怠慢を戒め、長束に「都合の良い大人」になるよう説きます。利用し利用される関係にあっても誠実であり続けるにはまずそれを受け入れることが必要なのだと。

突然の奈月彦の死で、事態は急変します。
彼を刺したのは藤波の宮で、その裏には長束の母がいました。彼女は「烏に単衣は~」で登場したきり表舞台から姿を消しますが、兄たちの無関心が彼女を壊したともいえるのかも。少なくとも長束は自責します。
しかし、日嗣の皇子となったのは長束ではなく、父の隠し子・凪彦でした。しかもその母は藤波が尼寺に行くきっかけを作った東家のあせびの君なの!
招陽宮へ立て籠った雪哉と皇后・浜木綿の間で意見の対立が起こります。そこに「全て皇后の思うように」と書かれた遺言が開封され、雪哉は出て行ってしまいます。

誰もが遺言を受け入れられずにいる中、路近が楽しそうに長束に決断を促します。彼は血筋や育ち、人格、人望の全てを持ち合わせ権力に一番近いところにいながらそれを避けてきた長束が、この局面で何を選択しどう行動するのかが知りたくて、それによって自分を楽しませてくれることを期待して、その一心で長束に仕えてきたのです。それこそが彼の忠誠であり即ち道楽なのですね。

ワクワク顔の彼をぶん殴って気絶させたのは翠寛でした。金属の台座で力任せに叩いても死なないのね~~😓 「あながが守りたいものは何か」と問われた長束は皇后に引くことを説き、紫苑の宮を翠寛に託します。

政変から6年後。明鏡院に貧しい身なりの父娘がやってきます。それは翠寛と美しく成長した紫苑の宮でした。明鏡院の手伝いをしたいという彼女に具体的に何をしたいのかと問うと「戦うこと以外に何がありましょう」と返ってきます。

 「楽園の烏」「追憶の烏」に続く本作は「空棺の烏」と対をなすようでもあります。これまでのシリーズで疑問に思ったことへの答えにもなっている気がしました。
雪哉と翠寛は頭脳明晰で早くから大人の思惑を読み取っていますが、その生まれや環境の違いが考え方に決定的な相違をもたらしています。翠寛の根底にあるのは優しさですが、雪哉のそれは冷徹さであり、誰も信じない点ではむしろ路近に近いのかもしれません。
この先、紫苑の宮とその陣営がどう戦いに挑んでいくのか、楽しみが増えました。

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