2020年2月21日公開 アナダ=アメリカ 109分
アメリカで視聴率ナンバーワンを誇るテレビ局FOXニュースの元・人気キャスターのグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)が、CEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)を提訴した。人気キャスターによるテレビ界の帝王へのスキャンダラスなニュースに、全世界のメディア界に激震が走った。FOXニュースの看板番組を担当するキャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)は、自身がその地位に上り詰めるまでの過去を思い返し、平静ではいられなくなっていた。そんな中、メインキャスターの座のチャンスを虎視眈々と狙う若手のケイラ(マーゴット・ロビー)に、ロジャーと直接対面するチャンスがめぐってくるが……。(映画.comより)
2016年にアメリカで実際に起こった女性キャスターへのセクハラ騒動を映画化したもので、それぞれ立場も年代も違う女たちの、華麗なる戦いと逆転劇が描かれています。
といっても、三人のキャスターが協力して訴訟を起こしたわけじゃないところに、複雑な局内パワーバランスが覗きます
FOXニュースは、ケイラが語ったように、一日中つけっ放しにして観ている家庭も多い保守層に圧倒的な人気があるチャンネルだそう。ケイラの同僚のジェス(ケイト・マッキノン)はレズビアンで民主党支持者であることを隠しています。
興味深かったのは、FOXチャンネルが最初からトランプ氏を支持していたわけではなかったというエピソードです。共和党の大統領候補者討論会の進行係を務めたメーガンが、ドナルド・トランプの女性問題に踏み込むことができたのは、ロジャーの了解のもとだったというから面白いしかしその代償は大きく、怒ったトランプはツイッターでメーガンを批判し続け、彼の狂信的支持者からの憎悪にも悩まされることになります。結局彼女は一年以上続いたトランプとの確執に終止符を打つため、手打ちせざるを得なくなるんですね。
ロジャーは忠誠心という言葉を使って女性たちを自分の欲望の対象にしましたが、女性たちも自分の利益のために甘んじて受けて出世の足掛かりにしていた点は否めません。拒否すればグレッチェンのように日陰に追いやられクビにされるのだから、これはもうパワハラ以外の何者でもないけれど、抗えない事情も汲み取れます。
グレッチェンが提訴したと知っても、メーガンは初めは静観というか状況を窺っていました。FOXニュースのアンカーウーマンで、人気実力共にトップに君臨していた彼女にとって、セクハラ被害を公表することはキャリアに傷がつくことでもあったからです。過去に被害を受けた女性が数名名乗りをあげますが、FOX内では誰も声を上げずにいました。そんな状況がメーガンが名乗りを上げたことで変わります。
きっかけとして出てくるのは、ケイラとの会話かな。ロジャーからセクハラを受けているのではないかとメーガンから指摘されたケイラは、なぜわかったのかと訊ねます。かつて自分もそうだったからと答えたメーガンに対して、その後も被害を受ける人がいるとわかっていて何故その時声をあげなかったのかと責めるんですね。これは効くな~~ あと、ロジャーは自分の取り巻きたちにも女性たちに奉仕をさせていたと知ったことも大きいかも。
ロジャーは事実無根と言い張りますが、グレッチェンはロジャーとの会話を録音するなど周到な準備をして訴訟に臨んでいたため、解雇を言い渡されました。この時彼は自分は女たちに仕事を与え、世に出した貢献者だと主張しますが、メディア王ルパート・マードックは聞く耳を持ちませんでした。ま、当然だぁな。解せないのは、ロジャーの妻のベスがあくまで夫を庇って戦おうとしたことです。こんな卑劣なパワハラ亭主、愛想を尽かして当然な気がしますが・・・。彼女は本当に夫が無実だと信じていたのか、それとも目を背けていたのか、心情が伝わって来ませんでした。
双方の弁護士同士の話し合いの結果、グレッチェンとロジャーは和解し、グレッチェンは賠償金を得る代わりに、過去の詳細については口を閉ざすという契約を結びます。あくまで処罰を求めるということではないあたりがアメリカ的?
メーガンはその後もFOXで活躍を続けますが、マードックがFOXニュースはこれまで通りと宣言するのを横目に、ケイラは退社を決意してその場を去ります。個人的には彼女の判断に拍手を送りたいかな。
ロジャーに対する局内の女性たちの反応も一律ではなく、彼を擁護しようとする人もいるところに、根深い問題があるように感じられました。