杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

マイ・ブロークン・マリコ

2023年05月28日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年9月30日公開 85分 G

ある日、ブラック企業勤めのシイノトモヨ(永野芽郁)を襲った衝撃的な事件。それは、親友のイカガワマリコ(奈緒)がマンションから転落死したという報せだった――。彼女の死を受け入れられないまま茫然自失するシイノだったが、大切なダチの遺骨が毒親(尾美としのり)の手に渡ったと知り、居ても立っても居られず行動を開始。包丁を片手に単身“敵地”へと乗り込み、マリコの遺骨を奪取する。幼い頃から父親や恋人に暴力を振るわれ、人生を奪われ続けた親友に自分ができることはないのか…。シイノがたどり着いた答えは、学生時代にマリコが行きたがっていた海へと彼女の遺骨を連れていくことだった。道中で出会った男・マキオ(窪田正孝)も巻き込み、最初で最後の“二人旅”がいま、始まる。(公式HPより)


平庫ワカの同名コミックを「ふがいない僕は空を見た」のタナダユキ監督で映画化しています。共演者に窪田君がいたけれど、出番少ないだろうなと劇場鑑賞を見送ったけれど、意外に沢山出てたのでちょっと後悔😅 

定食屋で昼食をとっていた時、TVから流れるニュースで親友の死を知ったシイノは、マリコのスマホにメッセージを入れますが既読はつきません。翌日、マリコの部屋を訪ねると、大家から遺品は両親が引き取り、遺体は直葬になったと聞きます。
マリコが幼い頃から実父にひどい虐待(父親に殴られ、性的虐待も受けていた)を受けていたことを思い出したシイノは、 親友の遺骨がそんな父親のもとにあると知って居ても立ってもいられず包丁を手にマリコの実家へ突撃し、遺骨を奪い取ってベランダから飛び降り逃走します。父親の再婚相手のキョウコ(吉田羊)は優しそうな女性で、シイノはもっと早く彼女と再婚していればマリコは死ななくても済んだかもと思ってしまいます。川に転がり落ちそのまま川を渡って裸足のまま自分の部屋に帰ったシイノ。それにしてもエキセントリックな性格だこと😓 マリコの遺灰と、昔マリコからもらった沢山の手紙を持って外に出たシイノは、マリコが行きたがっていた「まりがおか岬」のことを思い出して深夜バスに乗り込みます。

深夜バスと電車、バスを乗り継いで「まりがおか岬」に辿り着いたシイノでしたが、ひったくりに遭ってスマホや財布やマリコからの手紙が入った鞄を盗られます。思わず道路に遺灰を置いたままひったくりを追いかけたシイノが捕まえられずに戻って来ると、通りかかった釣り帰りの男が遺灰の番をしてくれていました。彼はシイノが一文無しだと知ると金を渡して去って行きます。連絡先を尋ねたシイノに「名乗るほどの者ではありません」と言うのですが、思わず「七人の秘書かよ!」と突っ込んでしまいました😁 おまけに去って行く彼のアイスボックスには“ナリタ商店 マキオ”と書いてあるし。ここ、笑うとこよね😅 

 もらった金で酒を飲んだシイノはマリコの幻覚に思いを爆発させます。港に置かれていた舟で一夜を過ごした彼女を見つけたマキオから「ご自分を大事にして下さい」と言われ、シイノはかつて自分がマリコにそう言ったことを思い出します。恋人に殴られていたマリコを助けて追い払ったのに、呼び出されて会いに行って腕を骨折して帰ってきたマリコに激怒したシイノに、彼女は「私はシイちゃんが本気で怒って心配してくれるのがうれしいだけ」と言いました。

マキオと別れ、岬に立ったシイノは、マリコが自分に黙って自殺したことに腹を立てて衝動的に海に飛び込もうとします。心配して後を追ってきたマキオに止められ揉み合っていると、ヘルメットを被った男に襲われ逃げている女性の叫び声に気付きます。彼女にマリコを重ねたシイノは思わず遺骨の入った箱で男を殴ります。割れた骨壷から海に飛び散った遺灰を掴もうとしたシイノは崖から転落。意識を取り戻した彼女のもとにマキオがやってきて話しかけます。「ここ意外と死ねないんですよね」
彼も大事な人を失って自殺を試みたことがありました。マキオは死んだ人間が思い出の中に生き続けるなら、シイノが死んだらマリコも永遠に消えてしまうと語ります。 

ヘルメット男はひったくり犯と同一人物で、マリコの手紙を取り戻すことができたシイノは自宅へ帰り日常に戻ります。駅に見送りにきたマキオから貰った弁当を、まだ電車が動き出す前からバクバク食べだすシイノ。動物的な生の活力ってとこかしら。
辞表を出すシイノに「辞められると思うなよ、迷惑かけたと思ったら死ぬ気で働け」と返すクソ上司。ほんとブラックな会社だこと。乾いた笑いのエピソードです。

ある日、部屋に帰ったシイノは、ドアノブにマリコの実家に脱ぎ捨ててきた靴が入った紙袋が掛けられているのに気付きます。「って、家ばれてるじゃん」という呟きが笑える!袋の中にはマリコがシイノに宛てた最後の手紙も入っていました。その手紙を読み微笑むシイノ。何が書かれていたのかは明かされないけれど、きっといつものように他愛のない、マリコらしい内容だったのでしょう。😊 

マリコは実父から身体的・精神的・性的に虐待されながら育ったため、自己肯定感が低く、親元を離れてからも、父に似た男性と付き合い虐待され続けてきました。リストカットするなどいつ死んでもおかしくない不安定な精神状態の彼女を繋ぎとめていたのがシイノという存在ですが、シイノもまた自分がいなければマリコは生きていけないと思っています。だからこそ独りで死んでしまったマリコに怒ったのでしょう。
シイノは中学生の頃にはもう喫煙していて、かなり周囲からは浮いていたと思われます。彼女の家庭環境は一切触れられていませんが、暴力こそなくても所謂普通の環境ではなさそう。お互いが必要で共依存的関係に陥っていたと思われますが、マリコの死を乗り越えシイノも変わっていくのかな。否、変わらない気もするな😌 

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ウツボカズラの甘い息

2023年05月28日 | 
柚木裕子(著)幻冬舎文庫

家事と育児に追われる高村文絵はある日、中学時代の同級生、加奈子に再会。彼女から化粧品販売ビジネスに誘われ、大金と生き甲斐を手にしたが、鎌倉で起きた殺人事件の容疑者として突然逮捕されてしまう。無実を訴える文絵だが、鍵を握る加奈子が姿を消し、更に詐欺容疑まで重なって…。全ては文絵の虚言か企みか?戦慄の犯罪小説。(「BOOK」データベースより)


容疑者となる文絵と事件を追う刑事、交互にそれぞれの視点で進んでいきます。
冒頭で登場する心療内科の患者が文絵であること、彼女が解離性離人症 を患っていることから、容疑者としての要素を匂わせますが、後半で見事にひっくり返されるんですね。

高村文絵は夫の敏行との間に2人の娘がいる専業主婦ですが、結婚してからの育児や夫婦関係のストレスから過食症を再発し更に解離性離人症を発症しました。彼女の唯一の趣味は懸賞応募で、ある日、人気タレントのディナーショーが当たります。束の間の贅沢を味わい帰途につこうとした彼女を旧姓の「牟田さん」と言って呼び止めたのは、杉浦加奈子という中学の同級生でした。昔、文絵にかけられた言葉に救われたのでお礼がしたいと言う加奈子から強引に誘われ、彼女の別荘を訪れた文絵は、サングラスの下に隠されていた酷い痣に驚きます。その理由と、今準備している仕事(セレブ向けの「リュミエール」という化粧品の日本委託販売)のことを話し、痣のある自分は人前に出られないので会員向けのセミナーの講師をして欲しいと依頼します。月50万という破格な報酬に心を動かされたものの逡巡する文絵に、加奈子はこの化粧品を使ってみて欲しいと言います。

すると、たった一夜で肌は潤いを取り戻し、目に見える効果を実感した文絵は、ダイエットにも取り組みます。元々の素地がある彼女は一か月半で10kgの減量に成功し、美貌を取り戻した文絵は、自分の病気のことを加奈子に正直に話しますが、彼女は心配ないと言い、ビジネスパートナーの飯田章吾を紹介し、彼の後押しもあってこの話を了承します。この頃には更に4kg痩せていました。(ダイエット食品を利用したとはいえ、かなり強い意志が必要なわけで、この点だけは称賛に価しますね)

初めてのセミナー当日、渡された名刺には『リュミエール化粧品代表』の肩書があり戸惑った文絵ですが、章吾の説明にそんなものかと納得してプレゼンに臨み大成功を収めます。回を重ねるごとに会員数が増え、高額な報酬で文絵は充実した毎日を送るようになります。

鎌倉・七里ガ浜の貸別荘で、田崎実という男性の死体が発見されます。
周辺の聞き込みからサングラスをかけた女が浮かび上がり、刑事の秦は鎌倉署の女性刑事・中川と組んで捜査に当たります。
田崎が美容関係の会社「コンパニエーロ」の経営者と判明し、会社のある住所を訪ねた二人は、田崎が二週間前に賃貸契約を解約していたことを知ります。
次に田崎の母親セツが入居している介護施設で、重度の認知症のセツの言葉の断片から「ノガミのおじちゃん=彼女の兄の新岡正平」を訪ねますが、そこでも大した情報は得られませんでした。次にコンパニエーロで働いていた二人の女性派遣社員から話を聞いたところ、代表の高村文絵の存在が浮上し、警察は文絵に照準を合わせます。

九月。加奈子からフランス行きのため仕事は一時中断すると告げられた文絵は束の間の休息を得ますが、ある日突然知らない番号からの電話が携帯に頻繁にかかってくるようになります。内容はどれも同じで、会社が上場すると言われて株を買ったという顧客からのクレームで、文絵は全く身に覚えがなく、慌てて加奈子と章吾に電話をしますが、繋がりません。名刺に書かれているコンパニエーロの住所を訪ねますがもぬけの殻です。混乱する文絵のもとに現れた秦と中川から見せられた写真には章吾が写っていて、文絵は彼が偽名を使っていたと知りショックのあまり倒れてしまいます。警察で田崎殺害事件について聞かれた文絵は身に覚えがないことを訴えますが、警察は彼女を容疑者としてマークします。

極度のストレスで解離性離人症を発症した文絵の言動に疑問を抱き、夫の敏行にも事情を聞くと、彼女の本当の病名は解離性同一性障害であることがわかります。文絵は三年前の事故で亡くした二人の娘がまだ生きていると信じていました。事件の日のアリバイがなく、病気のこともあって、警察は加奈子は文絵の幻覚で、犯人は文絵だという見方が強まります。

しかし、文絵の言葉に本当を感じた秦と中川は、加奈子について調べ始めます。すると加奈子は五年前にマルチ商法に引っかかって多額の借金を抱え自殺していたことが判明します。加奈子の同級生から、彼女と接触したサングラスの女の存在を聞き、それが加奈子の小学校の同級生の園部敦子とわかりますが、彼女もまた七年前に自殺していました。敦子は、両親の遺産を『神光の恵み』という新興宗教につぎ込み、そこにもサングラスの女の存在が浮かびます。
敦子の父親の知人から聞いた、サングラスの女が落としたATMの明細書から『真野知世』という名前と振込先がわかり、介護ホーム『白鳩の園』に向かった二人は、加奈子の似顔絵を見せ、それが入居者の真野修の娘の知世だと判明します。知世は修を入居費の2300万円を20代で支払っていました。
知世の振り込み記録と三つの自殺・殺人事件現場が一致することから、彼女の関与を突き止め、オーストラリアに出国していた知世を追い詰めます。

秦は知世を甘い蜜で虫を誘い出し、中に落ちた虫を食べて生きるウツボカズラのようだと感じます。(これが題名になった由縁ですね)

オーストラリアで知世の回想という形で真実が語られるのはちょっと物足りなかったかな。秦たちの調査で徐々に追い詰めていく形の方がスリルがあったのにな。

本田亮子という偽名で滞在する知世は、日本のニュースを調べて自分の犯罪が完璧だと満足しながら半生を振り返ります。(彼女の犯行の動機編ですね。)

父の会社を守ろうと懸命に働いたものの、資金繰りに苦しんだ父は練炭自殺を図った挙句植物状態になります。多額の医療費を捻出するため水商売を始めて愛人となった知世は贅沢に慣れ、関係が終わった後も元の生活に戻れず、次の男に騙されて衝動的に殺してしまいます。死体を埋めた彼女はお金を稼ぐ手段として『神光の恵み』の教祖をたぶらかして敦子から三億円を巻き上げると、教祖を事故に見せかけて殺害し海外に逃れます。
金がなくなると次の金づるとして敦子を装い加奈子と接触し、マルチ商法で加三千万円を巻き上げた挙句に彼女をビルの屋上から突き落として殺害します。
警察が借金苦による自殺だと判断したことでさらにエスカレートした知世の次のターゲットが加奈子の中学時代の同級生の文絵だったのです。知世のターゲットたちはいずれも友人というほど近い距離感が無く、かといって全く知らない人ではないという微妙さが狙われていました。ディナーショーのチケットも懸賞に当たったのではなく、偽装されたものだったのです。

彼女の生来の美しさと疾病を利用した今回の計画に、パリに滞在中に知り合った田崎を利用し、まんまと詐欺を成功させた後で田崎を殺してその罪を文絵にかぶせた知世は、完璧な計画に酔いしれますが、次の瞬間、捨てた筈の真野知世という名前の逮捕状を持って秦や中川たちがやってきます。日本への機内でも本名で呼ばれたのはいつ以来だろうといつまでも考え続ける知世でした。
知世も田崎も治る見込みのない親を抱え終の棲家として老人ホームに入れていますが、それは親孝行というより高額な費用を払っても厄介払いしたいという動機に見えてなんだかな~~でした。秦刑事も妻が脳梗塞から植物状態となり、その介護を義母に任せていますが、彼はそのことに負い目と罪悪感を感じているのとは対照的です。

文絵が娘たちが生きていると思い込んでいるのが判明したあたりから、事件は急展開を迎えます。サングラスの女が加奈子から敦子になり、二人とも既に亡くなっていると知る場面は刑事でなくとも唖然呆然です。最後に知世が実在していると知り彼女がホンボシだと判明する頃には文絵が純然たる被害者であることがわかってきます。でも文絵の辛い経験には同情を覚えますが、元々あった美への執着や周囲からの羨望や賛辞への陶酔にはあまり共感できなかったのは、そもそも自分がそこに賛同する素地がないからかも。

お金はあればあるほど人は貪欲になっていくもので、一度覚えた贅沢は手放せないのも人の性だと思うと何だかやりきれない気持ちになります。

秦刑事とコンビを組む女性刑事の中川は場を読んで次にしなければならないことを的確に判断できる、優秀な女性として描かれていて、登場する女性の中で唯一好感が持てるキャラでした。

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