杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

明日に向かって笑え!

2022年01月31日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2021年8月6日公開 アルゼンチン 116分 G

2001年、アルゼンチンの寂れた田舎町。元サッカー選手のフェルミン(リカルド・ダリン)ら住民たちは、放置されていた農業施設を復活させるため、貯金を出し合うことに。しかしその金を銀行に預けた翌日、金融危機で預金が凍結されてしまう。しかもこの状況を悪用した銀行と弁護士に預金を騙し取られ、住民たちは一文無しに。奪われた夢と財産を取り戻すべく、驚きの作戦を練る彼らだったが……。(映画.comより)

 

金融危機のおかげで夢も財産も奪われた小さな町の人々の奇想天外な復讐計画を描いた痛快ヒューマンドラマで、リカルド・ダリンと息子のチノ・ダリンが父子共演しています。

フェルミンと妻のリディア(ベロニカ・ジナス)は、農協を作って町起こしをしようと考え、出資者を募ります。集まったのは、タイヤ修理店のアントニオ(ルイス・ブランド―ニ)、列車が止まらなくなってしまった駅の駅長ロロ(ダニエル・アラオス)、運送会社の社長カルメン(リタ・コルテセ)と息子のエルナン(マルコ・アントニオ・カポニ)、元工兵のアタナシオ(カルロス・ベロッソ)、金属加工場が倒産し畜産業に手を出すも失敗したエラディオ(アレハンドロ・ヒヘナ)とホセ(ギルレモ・ヤクボウィッツ)兄弟です。

それぞれがなけなしの金を持ち寄ったお金を銀行の貸し金庫に預けたところ、今すぐ預金すれば融資をすぐに受けられると支店長のアルバラド(ルシアーノ・カゾー)に言われ、仲間の了解を取る時間もないままフェルミンは全額預金してしまいます。ところが翌日、国による金融封鎖が発動します。全てを失った彼らは、弁護士のマンシー(アンドレス・パラ)が支店長と組んでドルを引き出していたことを知ります。

フェルミンはアルバラドに抗議に出かけた帰りに動揺のあまり運転を誤って事故を起こし、同乗していた最愛の妻まで失ってしまいます。息子のロドリゴ(チノ・ダリン)も大学を続けられなくなって帰ってきました。一年後、失意のあまり無気力になったフェルミンに、マンシーがドルを地下に掘った金庫に隠しているらしいという情報を持ってアントニオがやってきます。

ロドリゴの賛成もあって、フェルミンは再び仲間たちと一緒に隠し金を奪って自分たちの失ったお金を取り戻そうと計画します。

マンシーの秘書のフロレンシア(アイリン・サニノビッチ)に近づいたロドリゴが持ってきた情報で、地下室の警備体制を調べた彼らは、バッテリーに繋がる電源を操作してマンシー自らがバッテリーを切るように仕向けます。一致団結して計画に当たる様子や、右往左往するマンシーの慌てぶりが面白くて笑えました。

ロドリゴがフロレンシアに疑われた(植物の世話のボランティアを口実にマンシーの事務所に入り込んだのに植物の知識ゼロなんだから当たり前)と知ったフェルミンは計画を中止しようとします。事がばれたら妻だけでなく息子まで失ってしまうと心配したからです。しかし仲間たちはフェルミン抜きでも計画を実行しようとし、ロドリゴも加わります(彼は母親の農協を作るという夢を叶えたかったのね)最後にはフェルミンも覚悟を決め、嵐の夜に計画は実行されることになります。

計画通りなら落雷の影響で停電していると疑われずに済んだのですが、大胆かつコミカルなハプニングが起こり、発電施設が破壊される事態になります。急いで金庫を開け隠し金を盗み出し、地下室に火をつけて逃げる彼ら。事態に気付いて駆け付けてくるマンシー。スリリングな展開ですが、彼らは無事やり遂げました。

日本の警察ならすぐに犯人を割り出し検挙しそうですが、アルゼンチンだからか映画だからか、逃げおおせたみたいです。もっとも表に出せない金なのだから警察に訴えることも出来なかったのでしょうね

自分たちのお金(フロレンシアの家族が失った分もあるのでしょう)を取り戻し、残りは慈善団体に寄付して、彼らはそれぞれの夢を叶えます。農協を作り町の人を大勢雇って、孫(ロドリゴとフロレンシアの子供かな)とのんびり釣り糸を垂れるフェルミンは満足そうです。

国を相手にしては勝ち目はないけれど、せめて目先の悪人を成敗して溜飲を下げるのもありかもね


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J:COM presents さだまさしスペシャルコンサート2022

2022年01月29日 | ライブ・コンサート他

東京国際フォーラム ホールA

16時開場 17時開演

17:05開演

・北の国から

・案山子

・道化師のソネット   ホタルと蛍原(ほとちゃん)、韓国で北の国からの放送がないのはタイトルが問題オチ

・無縁坂

・精霊流し

・にゃんぱく宣言

・関白宣言

・雨宿り 小臼歯=小休止ネタ

・秋桜  

披露宴のエレクトーンハイ事件&新郎のお色直しがピンクのスーツで筋斗雲に乗った猪八戒ネタからの倉田さん前奏から「はい」声かけのお約束

メンバー紹介 さだ工務店

・主人公

・柊の花

・風に立つライオン   19:02

Ac いのちの理由 19:10

規制退場もスムーズに行われ10分くらいで出られました

Jコム側からは1時間45分と言われていたようですが、いつも通りトークに熱が入り、二時間越え。それでも通常コンサートに比べたらかなり短いけれど 

さだ初心者が多いだろうという設定のため「柊の花」以外はまさに初心者コースのド定番メニューでしたが、往年のファンにも懐かしい&嬉しい選曲でもありました。「さだ工務店」の演奏を聴きながら頭の中では「亀山社中」の演奏がリンクしてました


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鳩の撃退法

2022年01月29日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2021年8月27日公開 119分 G

一年前、閏年の二月二十九日。雪の降る夜。かつては直木賞も受賞したが今は富山の小さな街でドライバーとして働いている津田伸一(藤原竜也)は行きつけのコーヒーショップで偶然、幸地秀吉(風間俊介)と出会い、「今度会ったらピーターパンの本を貸そう」と約束をして別れる。しかし、その夜を境に幸地秀吉は愛する家族と共に突然、姿を消してしまう。それから一か月後、津田の元に三千万円を超える大金が転がりこむ。ところが喜びも束の間、思いもよらない事実が判明した。
「あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ」ニセ札の動向には、家族三人が失踪した事件をはじめ、この街で起きる騒ぎに必ず関わっている裏社会のドン・倉田健次郎(豊川悦司)も目を光らせているという。倉田はすでにニセ札の行方と共に、津田の居場所を捜し始めていた……。

神隠しにあったとされる幸地秀吉一家、津田の元に舞い込んだ大量のニセ札、囲いを出た鳩の行方、津田の命を狙う裏社会のドン、そして多くの人の運命を狂わせたあの雪の一夜の邂逅……。富山の小さな街で経験した出来事を元に書かれた津田の新作に心を躍らせる鳥飼(土屋太鳳)だったが、読めば読むほど、どうにも小説の中だけの話とは思えない。過去の暗い記憶がよぎる鳥飼。小説と現実、そして過去と現在が交差しながら進む物語。彼の話は嘘? 本当?
鳥飼は津田の話を頼りに、コーヒーショップ店員・沼本(西野七瀬)の協力も得て、小説が本当にフィクションなのか【検証】を始めるが、そこには【驚愕の真実】が待ち受けていた―。(公式HPより)

 

直木賞作家・佐藤正午の同名小説の映画化で、監督は「ホテル ビーナス」のタカハタ秀太です。

小説と現実、過去と現在が交差しながら物語が進むので、慣れるまで混乱しました。繰り返される小さなエピソードがやがて一つの流れを形作るという感じです。リリー・フランキー、坂井真紀、岩松了、浜野謙太、駿河太郎他出演。

津田は過去に発表した作品が事実の暴露となり訴訟を起こされて文壇から姿を消しています。再び書き始めたその物語に惹かれながらも、以前の二の舞になることを恐れる鳥飼(この苗字にも深い意味があるのかなと思ってしまった)は、小説に登場する町や人物の検証を始めるのですが、書かれていたのはほぼ事実であると判明するんですね。

秀吉一家の失踪事件、大量の偽札、裏社会のドン・倉田の存在。沢山のエピソードは一つ一つは見逃してしまうような些細な出来事ですが、やがて重なり合い真実に繋がっていくという流れです。

津田が古本屋店主の房州(ミッキー・カーチス)から贈られたスーツケースの中身は3000万円の札束と3万円。この3万が偽札だったわけですが、これが房州の手元に来るまでに紆余曲折があります。バーのオーナーの倉田に届く筈だった偽札が、従業員の女性から彼女が貢いでいる恋人に渡り、その金で彼はデリヘル「女優倶楽部」のまりこを買います。受け取った金でまりこは津田に借金を返しますが、金を挟んだ「ピーターパン」の小説をシングルマザーの奥平の娘が持ってきてしまい、奥平が房州に預けるんですね。あ~~ややこしい!更にまりこの恋人の春山の新しい彼女が秀吉の妻の奈々美(佐津川愛美)ということで、二つの事件が結びついていきます。

ところで、津田は残り2枚も偽札だとATMで確かめると、3000万円も全てが偽物だと思い込みます。しかしそちらは房州老人が妻の死亡保険金を彼に遺したものだったんですね。後難を恐れた津田は、そうとは知らず3002万を倉田に返します。倉田はその3000万を津田の名前で施設に寄付してしまうのですが、そこは彼と秀吉が育った所だったという

更に、秀吉は子供が出来ない体質(無精子症か)なのに、妊娠した奈々美は秀吉の子だと言って騙そうとしました。それを知りショックを受けた秀吉が店を休んだことで、偽札が津田の手に渡ってしまったというわけです。ここで、失踪事件の他に、ダムから見つかった男女の死体という事実が意味を持ってきます。その男女が誰かは明らかにされません。

津田はせめてハッピーエンドにしようと想像を巡らせて結末を書きあげます。

はじめに、秀吉に津田が読んでいた「ピーターパン」を貸す約束をしていたエピソードがありましたが、「今出て行った客から預かった」と渡されたのは、倉田が持っているはずのその小説です。(その客が会計を頼んだ声がまさに秀吉=風間でしたもんね)急いで追いかけた津田と後を追った鳥飼が見たのは、車に乗り込んだ秀吉とその隣には倉田が・・・。

津田は鳥飼に「小説の名前が思い浮かんだ」と言いエンドロールに。

そもそも、何故偽札が倉田の元に届けられることになったのか?奈々美は生きているのか?子供はどうなったのか?細かい疑問も残りますが、あくまでフィクションってことで観る側の想像に委ねられる結末でした


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ハリー・ポッターと呪いの子 第一部、第二部 特別リハーサル版

2022年01月24日 | 

J.K.ローリング(著)、ジョン・ティファニー(著)、ジャック・ソーン(著)、松岡佑子(翻訳)

8番目の物語。19年後。『ハリー・ポッターと死の秘宝』での戦いから19年が経ち、父親となったハリーが2人目の子どもをホグワーツ魔法学校へと送り出したその後の物語です。ハリー・ポッターとして生きるのはもちろんたいへんなことだったのですが、その後のハリーも決して楽ではありません。今やハリーは、夫として、また3人の子を持つ父親として、魔法省の激務に押しつぶされそうな日々をすごしています。ハリーがすでにけりをつけたはずの過去と取り組まなければならない一方、次男のアルバスは、望んでもいない“ハリー一家の伝説”という重圧と戦わなければなりません。過去と現実は不吉にからみあい、父も子も痛い真実を知ることになります。(「BOOK」データベースより)

 

J・K・ローリングの原作をもとに作られたイギリスの2部作劇の脚本です。児童書の感覚で読むと期待外れになりますが、迷える思春期の親子の話としてはかなり切実な内容かもしれません。その分夢は・・・

大人(というより中年ですね)になったハリーの物語というより、彼の息子のアルバス・セブルス・ポッターが、人生に苦悩しながら自分の運命と向き合う姿に主眼が置かれているように感じました。

「ハリー・ポッターと死の秘宝」のラストシーンから始まります。スリザリンに組み分けされたらどうしようと不安なアルバスが、汽車の中でドラコの息子のスコーピウスと出会って友情を育んでいくんですね。偉大な父に似ていない落ちこぼれと悩むアルバスとヴォルデモートの息子ではないかと噂されるスコーピウス、まさに共通点は孤独です。不安が的中してスリザリンに組み分けられたアルバスでしたが、同じくスリザリンになったスコーピウスと唯一無二の親友となっていきます。ハリーの時もグリフィンドールかスリザリンかで帽子は悩んだのですから、アルバスがスリザリンだってちっとも構わない筈なのに、周りは「あのハリー・ポッターの息子がスリザリン」と言う目で見ますものね いじめも受けます。

数年経ったある日、亡きセドリックの父エイモス・ディゴリーがハリーを訪ねてきて、神秘部の戦いで破壊された筈の「逆転時計」が見つかったという情報をもとに、セドリックを生き返らせて欲しいと頼みます。ハリーは断りますが、立ち聞きしていたアルバスは、自分が代わりに過去に戻ってセドリックを救おうと考えます。これには親子喧嘩の際にハリーが思わず口にした「お前が息子でなかったら」という言葉にショックを受けたことも大いに関係していました。偉大な父親への尊敬の裏にある劣等感と子供らしい正義感がごちゃ混ぜになっているんですね。

ホグワーツ行きの汽車から脱走したアルバスとスコーピウスはエイモスに会いに行き、彼の姪のデルフィーニと一緒に魔法省大臣室のハーマイオニーの部屋から逆転時計を盗み出します。ここで使われるのが変身薬です。

彼らが手に入れた逆転時計は、時間の制限があり(5分だったかな)、過ぎると強制的に戻らされます。三校対抗試合の最初の試合でセドリックが勝ち進まないよう邪魔をした結果、現在が変わってしまいます。アルバスはグリフィンドール生になっていましたがロンとハーマイオニーは友達のままで結婚していないので娘のローズは存在していません。(実はスコーピウスはローズが好きなの)セドリックも生き返っていません。

焦った二人は今度は第二試合を邪魔しますが、今度はアルバスが消えてしまうの。 過去をいじれば現在が変わるのはタイムトラベルのお約束ですが、結果どんどん悪い方に変わっていくのです。

アルバスが消えた世界ではヴォルデモートが勝ってハリーは死んでいます。(だからアルバスも存在しないのね)セドリックは死喰い人になっていて(二人の魔法で辱められたのがきっかけです)彼がネビルを殺したことで、ナギニを倒す者がいなくなり、ヴォルデモードが生き残ることになったのでした。スコーピウスは「サソリ王」と呼ばれ周囲の畏怖を集めていましたがそれは彼の望むことではなかったのです。アルバスよりよほど賢くて冷静なんだよね

困った彼はスネイプ先生に助けを求めますが、初めは信じて貰えません。当然よねでもスネイプが本当はダンブルドアのために働いていたことやリリーを愛していたことを言い当てたことで、協力してくれることになります。この世界のロンとハーマイオニーも合流して何とか過去を修正しますが、戻ってきた彼らをディメンターが襲ってきます。スネイプ、ロン、ハーマイオニーはスコーピウスを庇って死んでしまいます。

もう一度、スコーピウスは、最初にアルバスと二人でセドリックを妨害した過去へ戻って自分達を阻止します。ここで全ての過去が修復されます。

実は二人を唆し操っていたのはデルフィーニで、彼女の正体は(ベラトリックスとの間に出来た)ヴォルデモートの娘だったのです。ヴォルデモートを敬愛し復活を望む彼女は、アルバスとスコーピウスが逆転時計を破壊しようとしていると知ると、時計を奪って二人を別の過去に連れ去ったうえで時計を破壊します。現在に戻れなくなった二人は、そこがハリーの両親がヴォルデモートに殺された1981年10月30日のゴドリックだと知って、何とか親に居場所を知らせようと考え、ハリーが両親の命日に唯一の形見のブランケットを眺めることを思い出してメッセージを残します。

現在では、マルフォイがハリーにセオドール・ノットが作った違法の逆転時計を見せ、協力を申し出ます。この時計は時間の制約無しで過去に戻れる優れものなのね マルフォイは妻をとても愛していました。何代か前の呪いを受けて虚弱だった妻との結婚も出産も反対されながらも愛を貫き通しスコーピウスが生まれたのです。息子を守るための行動が息子を孤独に追いやっていた・・これはハリーも同じです。ダンブルドアがかつてハリーを愛するあまりに遠ざけた時、あれほど傷ついたのに、大人になった今息子に同じことをしていたんですね

ドラコはまた、ハリーとロン・ハーマイオニーの友情が羨ましかったと告白します。そりゃ~クラッブとゴイルじゃ手下であっても友人にはなれないわな~。そもそも最初にハリーと友達になろうとしたのがドラコだった気が・・・。ダンブルドアを殺せなかったように、ハリーを庇った時のように、ドラコの心は悪に染まってはいなかったのですね。

この劇ではハリーや彼の息子たちより、ドラコたちの方が実は良い奴な印象を持ちました。

さて、ハリーたちは無事メッセージを受け取って、二人を救出し、デルフィーニを捕えます。

彼らは敢えて立ち去らずに、ジェームズとリリーが殺されるその場面を耐えます。アルバスは父親の悲しみを共有することで父子の関係性が一歩近づいたようでした。

これは大人向けの劇だなぁと改めて感じた次第です。


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後宮の烏5

2022年01月24日 | 

白川紺子(著) 集英社文庫

高峻は寿雪を救い出すため、もっとも険しい道を選び、進んでいく。この秋、宮中は慶事に沸いた。同じ頃、先の騒動の影響で夜明宮は、ひっそりと静まり返っていた……。烏妃はひとりで在るもの。先代、烏妃の戒めが、寿雪の胸を刺す。だが寿雪は、抱えたものを守り通すため、突きつけられた烏妃としての切ない運命に対峙することを決めて――。

 

第一話 笑う女

夜明宮を訪れた飛燕宮の古株侍女に頼みを押し付けられた寿雪が、へき邪を施すためにやってきた鵲巣宮で、長勺松娘(ちょうしゃくしょうじょう)という侍女にうっかり声を掛けてしまったことから、彼女の夢に夜毎現れる赤い顔の女と化粧箱の関係を調べることになります。蟄居中の寿雪は表立っては動けないので、温螢の機転で冬官の千里の名を借りて共に調査を進めると、長勺氏の祖先に起きた哀しい出来事が判明します。赤い顔の女は子孫である松娘に危険が迫っていることを教えているのではと推測した寿雪が、急いで松娘を呼び出し会いにいったたその時、飛燕宮の屋根が崩落します。寿雪は松娘の命の恩人なのに、この恩知らず娘は、寿雪が屋根を落としたのだと誤解して怖がり逃げてしまうのです。全くもう! 少し前まで崇拝の対象だったのが、一転恐ろしい存在に変わっていくきっかけの出来事になったようです。

「4」で晩霞の懐妊が明かされましたが、同時期に燕夫人黄英も・・まさかのW懐妊って 外戚の勢力のバランスまで考えての同時懐妊を目論む高峻の政治力というか、皇帝業への真面目過ぎる責任感とか、色々見えてきますね。生まれてくる子たちの性別はこの段階ではわかりませんが、ひとまず「お勤め」を終えてホッとしているなどは、妃たちへの愛情からの行為ではないとこの時点では、妃たちの懐妊について何ら嫉妬の感情は起きない寿雪。むしろ高峻と負の感情を共有する令狐之季に嫉妬しています。

 

第二話 黒い塩

高峻は前王朝の遺臣の羊舌慈恵(ようぜつじけい)を宮中に取り立てることを決めます。使者に立った令狐之季(れいこしき)ですが、初めはきっぱり断られてしまいます。ところが慈恵は、高峻から贈られた燕の木彫りを見て考えを変え、寿雪が彼の娘の瑛(えい)が何故死んだのか解き明かしてくれたら出仕すると条件を出します。高峻は寿雪の出生の秘密を敢えて慈恵にだけわかる謎掛けをしたのでした。羊舌氏は杼王朝よりも前から宮中に出仕をしている一族で、欒王朝とも深い繋がりがありました。高峻は慈恵を政治的な面だけではなく、寿雪を守る後ろ盾にしたかったようです。

瑛のことを調べる中で、恋人を殺された瑛が命と引き換えに殺した相手を呪詛して死んだことがわかります。黒い塩とは藻塩のことで、神儀や呪詛に用いられるらしい。 もちろん慈恵は真相を知っていて寿雪を試したのね。出仕した慈恵に、高峻は寿雪を烏漣娘娘から解放して自由にし後宮から出して国外に亡命させようとしていると打ち明け、寿雪を守って欲しいと言います。既に友情以上の感情を抱いていると思える彼ですが、寿雪のためにと辛い選択を敢えてするのね。

 

第三話 烏妃の首飾り

寿雪を烏漣娘娘から解放するための調べを進める中で、過去に香薔の結界を破ろうとした烏妃・序寧(じょねい)がいたことが判明します。しかし失敗して彼女は死んでいました。彼女の遺品の序氏に伝わる首飾りから、解決の手がかりが見えてくるお話です。新月の苦しみに耐えきれず烏妃は総じて早死にしているということで、これまで136人の烏妃がいたという 彼女たちの墓の話がチラッと出ますが、第四話への伏線にもなっていたとは 序寧の招魂が何故か出来なかったため、手助けをしたという巫術師・五生を招魂した寿雪は、彼の裏切りにより計画が失敗したのだと知ります。しかし、序寧が烏漣娘娘の半身のありかを首飾りの伝説をもとに推測していたのではないかということもわかったのでした。

高峻は寿雪に、自由になったら霄を出て阿開(あけ)の国に行けと言います。「罪人でもないのに国を出ろというなら、それは檻が変わっただけではないか」と怒る寿雪を前に、苛立ちを見せる高峻。怒りや苛立ちの理由も心の底で気付いている二人なのね

 

第四話 破界

白雷が協力を申し出てきます。でも彼は隠娘を喰わない代わりに杼の血をひく寿雪を巫女に欲しい、烏を欺き殺したいと目論む鼈の神の命で動いていたのですが

何も知らない花娘が、寿雪のために後宮の妃たちを集めて催したお茶会の場面は、色とりどりの着物と美味しそうなスイーツの描写が楽しいです。束の間の安らぎですね 

夜明宮を訪れた高峻は「そなたは私の半身なのだ」と告げます。寿雪が自由に生きるためには国を出なければなりませんが、それは高峻との別離を意味します。頭ではわかっていても、心が受け入れ難いのです。でも、高峻の言葉に、寿雪のわだかまりが溶けていきます。

ともあれ、役者が揃い、香薔の封印を解く儀式が行われます。順調に進み、寿雪の手で封印が破られたかと思った次の瞬間、更なる香薔の禁術が襲い掛かります。塚から甦った夥しい歴代の烏妃たちが寿雪に迫ってきたのです。禁術により囚われていたため三話で序寧の招魂が出来なかったのですね。大量のゾンビの群れの中に麗娘を見つけ絶望を覚える寿雪でしたが、麗娘は寿雪が封印を解くことを予期していて、この禁術の呪詛返しをしていました。麗娘は死ぬより苦しい新月の夜を長年にわたって耐えながら生き延び、寿雪を慈しみ惜しみない愛情を注いだ女性です。二人の間の強い絆が寿雪を守ったと言える感動シーンです。寿雪は骨となった麗娘をかき抱いて地に伏せ泣き叫びます。

ところが、全て終わったように見えたあと、雷鳴が響き豪雨となります。それが止んだ時、寿雪の髪は雨に洗い流され銀色に輝き、その瞳は・・・烏 解放されたのは烏妃ではなく烏??「烏妃は何も望んではならぬ。望みは苦しみを生み、苦しみは烏妃の中に眠る化け物を呼び覚ましてしまう」と言った麗娘の言葉がここに現実となったのでしょうか?

隠娘と衣斯哈が出会うのももうすぐかな?霄国の中だけで進んできた物語の世界もまたまた広がっていきそうですね。


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後宮の烏 4

2022年01月23日 | 

白川紺子(著) 集英社文庫

今宵も、夜明宮には訪いが絶えない。泊鶴宮の蚕室で、大切な繭がなくなったという宮女……。一方、花娘を通じ城内での謎多き失せ物探しも舞いこむ。烏妃を頼る者は日に日に増え、守るもののできた寿雪の変化に、言いようのない感情を抱く高峻。やがて二人は、真実眠る歴史の深部へ。鍵を握るのは名もなき幽鬼か、あるいは――。

 

第一話 蚕神

鶴妃・晩霞は、父朝暘から烏妃と距離を取るよう指示されます。一方、侍女の九九から泊鶴宮の蚕室に宮女の幽鬼が出るという噂を聞いた矢先、寿雪はそこで働く宮女、年秋児(ねん しゅうじ)から件の幽鬼が蚕の繭を盗んだと聞かされます。繭は貴重かつ皇帝への献上物であり、事が発覚すれば重い罰を受けるため、寿雪に事件の解決を願いに来たのです。

調査に向かった寿雪は、犯人は幽鬼ではなく宦官であることを突き止め、繭は無事に戻ります。

この話には晩霞の登場はないのですが、以前主を救い、今回は自分たちを救ってくれた寿雪への泊鶴宮の官女たちの崇拝の度合いが増しています。

第二話 金の杯

夜明宮に淡海を捕縛する為、勒房子(ろくぼうし)がやってきます。寿雪が理由を問うと、内侍省の宦官・牧憲(ぼくけん)殺害の容疑だと答えます。牧憲はかつて淡海の家の知家事(召使い頭)で、淡家が没落した際に家宝の金の杯を盗んで逃げていました。淡海は過去に殺人を犯しており、牧憲が内侍省にいる事を知って復讐したのだろうと言われた寿雪は、あり得ないと断じて、彼の引き渡しを拒否します。今目の前にいる彼を信じる守ると言い切る寿雪に、淡海も自らの過去を打ち明けるのです。淡家が没落し、人買いに売られて逃げ出し盗賊の仲間になったこと、盗みに入った家で奴隷として囚われていた従姉と出会い、助けようとした刀で自害されたこと・・殺人の罪を甘んじて受けたのは、愛していた従姉を救えなかった後悔と自らへの罰だったのです。「助けて欲しい」と言えずにいた寿雪が高峻の言葉で救われた。その言葉を今度は寿雪が淡海へかけます。「願ってよいのだ」と 言葉は繋がっていく・・良いエピソードです。淡海、完落ちですね

寿雪は、牧憲が隠し持っていた金の杯の行方を追い、犯人を突き止めます。実は淡海を捕えに来た勒房子の弟だったのです。弟に罪を打ち明けられた兄が、いったんは淡海に罪を着せようとしたのですが、元々真面目な性格だったために弟を殺して自らも死を選んでしまいます。寿雪は彼らを憐み楽土へ送る儀式をしてあげます。宦官は死ねば弔いもなくそこらに棄てられる存在のため、寿雪の情け深い行いは宦官たちに崇拝の感情を抱かせます。寿雪は淡海に金の杯を渡しますが、彼はそれを砕いてしまいます。人を惑わす存在は無くしてしまうのが一番だものね。

第三話 墨は告げる

何明充の部下の令孤之季は、白雷への恨みを捨てられず、今も袂を妹の小明に引かれながら学士として働いています。

ある日、洪濤殿書院の史館を訪れた鴦妃・雲花娘は、之季と共に自らの書いた書物を探す幽鬼を見て、寿雪に相談します。幽鬼の正体は、前王朝の時代に、紙を盗んで処刑された古文書の写本を行う経生でした。調べると、彼は無実の罪で処刑されたとわかります。当人はそうと知らずに処分する筈の古文書の写本をしていたのを時の皇帝がたまたま見つけたことが彼の不運だったのです。しかしこの幽鬼は無実の罪で処刑されたことより自分が書いたものが焼かれてしまったことに拘っていて、それがまだあるはずだと探していました。寿雪は之季や千里の助けも借りて、それが屏風の下に塗りこめられていると推理します。高峻が命じて取り出されたそれには、烏漣娘娘と鼇の神に関わる重大な秘密が書かれていたのです。 そこには、二人の神の戦いとその結果が記され、寿雪の身の内に封じられているのは烏漣娘娘の半身で、残り半身は海に沈んでいるとい書かれていたのです。失われた半身を探して烏漣娘娘は寿雪に苦痛を与えながら体を抜けて飛んでいたのですね。鼇の神が再び力を取り戻してきた今、新しい展開が予想されます。

第四話 禁色

人との関りを持たず生きるという先代烏妃・麗嬢の言いつけを破って後宮や内廷での問題を解決してきた寿雪ですが、彼女の知らない間に緇衣娘娘と呼んで崇める者が増え、偽の護符まで出回っていました。烏妃が人心を集める事は災いの種になると恐れた寿雪は、夜明宮への訪問者を入れぬよう温螢と淡海に命じますが、花娘が心配してやってきます。信仰の根が泊鶴宮にあると推測した花娘は、鶴妃に注意を促しに行きますが、逆に騒動を引き起こしてしまいます。実は朝暘に命じられた白雷が官女頭の吉鹿女を使って裏で画策していたんですね。騒ぎを鎮めた高峻は、寿雪の責任を問わざるを得なくなるのです。朝暘の狙いはまさにそこにあったわけです。それにしても、ひと声で場を鎮める描写は、まさに皇帝のオーラ全開でした 衛青が身を挺して寿雪を守ったのは高峻の命もあるでしょうけれど、彼自身無意識に肉親としての感情が芽生えているのかも。

朝陽は一族の存続と安寧が何より大事で、娘の晩霞や吉鹿女も道具でしかないようです。大事のための犠牲は仕方ないことという考えは、今の政治にも通じるものがあるような 彼は、烏妃の存在が国の揺らぎの元になることを危惧し、できれば排除したいと考えています。危険を冒して白雷を都に呼び寄せたのもそのため。白雷と寿雪が対決する場面(相変わらず寿雪はやるときはやる!強い力を魅せてくれます)では、彼の出自と烏漣娘娘を憎む理由が明かされます。隠娘が白雷を凌ぐ強い力を見せたり、晩霞の兄たちが今後何かしら関わってきそうでもあります。

高峻は、探し出した巫術師・封一行の話と、三話で登場し一部復元できた古代伝承神話から、東海に沈んでいる烏漣娘娘の半身を見つければ、烏妃=寿雪を解放できるのではないかという希望を見出します。そのためには9つの封印を一斉に解かなければならず、その力を持つ者があと一人必要です。寿雪は白雷を思い浮かべますが・・・

白雷は、子供には案外優しい おそらく根は善を持つ人物に書かれているので、梟がそうだったように、寿雪の味方になってくれるかもという期待を持たせて終わります。

しかし、一番驚いたのは、晩霞の懐妊だわ 高峻ってば、帝としての責任はしっかり果たしているわけで・・・そういえば、これまでにもまめに妃たちを訪れていると書かれてたっけね でもよりによって寿雪と同じ年頃の晩霞だもんな~~

そして晩霞も新しい命を宿したことで、父の命令に盲目的に従うことを止め、自分の意志を持つようになっていきそうです。


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くれなずめ

2022年01月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2021年5月12日公開 96分 G

優柔不断だが心優しい吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)と役者の明石(若葉竜也)、既婚者となったソース(浜野謙太)、会社員で後輩気質の大成(藤原季節)、唯一地元に残ってネジ工場で働くネジ(目次立樹)、高校時代の帰宅部仲間がアラサーを迎えた今、久しぶりに友人の結婚式で再会した! 満を辞して用意した余興はかつて文化祭で披露した赤フンダンス。赤いフンドシ一丁で踊る。恥ずかしい。でも新郎新婦のために一世一代のダンスを踊ってみせよう!!
そして迎えた披露宴。…終わった…だだスベりで終わった。こんな気持ちのまま、二次会までは3時間。長い、長すぎる。そして誰からともなく、学生時代に思いをはせる。でも思い出すのは、しょーもないことばかり。

「それにしても吉尾、お前ほんとに変わってねーよな なんでそんなに変わらねーんだ?まいっか、どうでも。」
そう、僕らは認めなかった、ある日突然、友人が死んだことを─。(公式HPより)

 

松居大悟監督が、自身の体験を基に描いたオリジナルの舞台劇の映画化だそうですが、あのグダグダ感はなんだ!!

高校時代につるんでいた仲間という設定ですが、男子高校生のしょうもない生態とか、女子高だったので、あの感覚は全くわからない、理解できない。でも12年経っても当時の感覚を忘れていないというのは何となくわかります。友人関係なんてそんなもんですよね。

突然の仲間の死をある意味受け入れることができないまま来てしまった5人が、5年後に一堂に集まったことで、その死を現実として受け入れて前に進むためのある種の儀式のような印象を受けました。

とはいえ、真っ赤な心臓や死後の世界を表現しているお花畑とか、意図はわかるけれどいきなり設定がぶっ飛んでついていけません

タイトルの「くれなずめ」は、日が暮れそうでなかなか暮れないでいる状態を表す「暮れなずむ」を変化させ、命令形にした造語で、形容できない時間、なんとも言えない愛おしい瞬間を意味しているそうです。

他に城田優、前田敦子、飯豊まりえ、滝藤賢一、近藤芳正、パパイヤ鈴木等々も出演していました。


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後宮の烏3

2022年01月22日 | 

白川紺子(著) 集英社文庫

「梟」が残した羽根に、自らの行く末を重ねる寿雪。先代の戒めに反し夜明宮は孤独から遠ざかるも、寿雪自身は虚しさから逃れることが出来ずにいた。烏妃の元には、今宵も訪問者が絶えない。泊鶴宮での怪異は、やがて烏蓮娘娘への信仰を脅かす『八真教』へと通じて? 他方、高峻は烏妃を「烏」から解放する一筋の光明を見出し、半信半疑ながらも寿雪と共にあることを決め!?

 

冒頭に「世界図」「霄国地図」「宮城内地図」が追加されました。『後宮の烏』がシリーズ化されどんどん広がっていく感じですね。

第一話 雨夜の訪い

泊鶴宮の侍女・紀泉女が訴えたのは雨の晩になると現れる幽鬼のこと。その正体は、参詣に向かう途中で駕籠かきに襲われた時に、紀泉女を逃がすため犠牲になり無念の死を遂げた彼女の許嫁・索巴秀でした。寿雪は彼女に呪詛がかけられていることに気付き祓います。呪詛を依頼したのが索巴秀の両親だったという事実が判明します。息子が身代わりとなって死んだことへの恨みがあったのでしょう。泉女自身、我が身可愛さで逃げたことへの後悔とうしろめたさを抱えていました。寿雪は、泉女を護るために死んだ索巴秀の姿に、寿雪を護るために死んだ母親を重ねます。母を見殺しにしたという後悔、一緒に死んでいたら良かったという恨みを抱えて生きてきた寿雪でしたが、「思いは移ろいやすく、判じにくいが、とった行動はどれだけ時がたとうと変わらぬ」と泉女に語り掛けながら、自分も同様に許されて良いのだと思うようになっていきます。自分を肯定することで寿雪はまた一歩踏み出したのね。

泊鶴宮の鶴后である晩霞が、賀州の旧家沙那賣(さなめ)出身であることや、新たに興っている八真教の教主白雷という名前や、卡卡密(かかみ)、伊喀菲(いかひ)島、賀州など新たな地域が登場し、物語の世界が広がっていることを窺わせます。

 

第二話 亀の王

内廷に現れる老僕の幽鬼の話に興味を惹かれた寿雪は、高峻と共に内廷へ向かいます。足を引きずり、石鼈合子(せきごうのごうす)を捧げながら、深い後悔を胸に秘めて彷徨う老僕は、1800年も前の古代杼(ひ)王朝時代の人でした。何故今になって現れたのか?調べるうち、宝物庫の番人・羽衣が使い部であることに気付く寿雪は、杼王朝時代に祀られていた鼈(ごう)の神の力が弱まり烏漣娘娘が取って代わった因縁を知ります。また、寿雪は薛魚泳が自死したという事を知ります。いえ、前々から気付いていて、高峻に確認したんですね。孤高のまま生き、死んでいった麗娘を慕う魚泳が、烏妃の領分を超えて人との交わりを増やしていく寿雪を許せなかった、その思いを受け止めながら、それでも今の繋がりを無かったものには出来ないと思う寿雪なのでした。

高峻側からは、後ろ盾である中書令・雲永徳との関わり方に悩む描写や、永徳の娘婿である何明允との親交が書かれます。更に明允の紹介で令狐之季(れいこしき)が登場してきます。面白かったのは、衛青が新たに寿雪の護衛に淡海を推薦した理由です。自分より寿雪に忠誠を尽くす温けいへの嫌がらせの意も含んでいるというのが、彼(衛青)のキャラを人間味あるものにしていました

 

第三話 袖を引く手

令狐之季(れいこしき)が袖を引く女の手が見えると言います。他の人には見えないけれど寿雪には見えるのね。それは令狐之季が妹のように慈しんできた女性の手で、彼女は八真教の信者となった婚家の人たちに「悪いものを追い出す」という名目で殴殺されていました。令狐之季は彼女の気持ちに気付きながらもそれに応えることができなかった自分を悔やみ、八真教への憎しみを捨てることができません。彼が憎しみを捨てることが成仏に繋がると寿雪は諭しますが、できないようです。

高峻は献上品の巻貝から宵月(梟)の声を聴きます。彼に負わされた梟の羽のような傷跡は、彼の命を削るためのものではなく、意思疎通の「しるし」みたいなもののようです。梟は高峻に、自分は今牢に繋がれているので何もできないが、烏と寿雪の両方を助けたいから力を貸せというのね。以前は殺そうとしたのになぁ

衛青が、寿雪を嫌うのは、彼が崇拝する高峻を危うくするのではないかと思っているのと、高峻が「友」と呼ぶ寿雪への嫉妬があるからです。だって自分は僕であり決して同等並ぶことがないのですものね。高峻の前では抑えていても、寿雪と二人になると大人げなく口論で泣かせてしまうほどで、お互いに「嫌いだ」と言い合う二人はどこか似ている・・それが次の話で明らかになるのですが・・・。

 

第四話 黄昏宝珠

第一話で登場した鶴后・晩霞が寿雪を招いて打ち明けたのは、沙那賣家に伝わる家宝の話です。黄昏宝珠は、一族の祖がかつて神を殺して奪ったものでしたが、以来、沙那賣家の末娘は十五歳になると高熱を出して死んでしまうという呪いを受けます。養女を身代わりに立てることで晩霞は命ながら得たのですが、身代わりにした「妹」への罪悪感と苦悩が彼女を虚ろにしていました。

ところが、晩霞が高熱で苦しんでいると泉女が駆け込んできます。彼女は寿雪にと贈られた腕輪を嵌めた途端に倒れたのですが、それには強い呪詛がかかっていました。つまり呪いは寿雪に向けられていたのです。宵月の時のように星烏の羽でなければ呪詛を破れないと気付いた寿雪は斯馬盧(すまる)を呼びます。(金鶏でないのは飛んでこれないから?)寿雪の一声で飛んでくる星烏は今回は味方ですね。呪詛は破られると相手に返るので、白雷は左目を失います。彼の後ろにいたのは沙那賣家当主・朝陽の叔父でした。この叔父は再び自らに権力を取り戻して私腹を肥やし、悲願である故郷卡卡密への凱旋を目論んでいましたが、朝陽に知られ斬殺されます。

高峻と雲永徳の関係が悪化かと思わせて、実は二人の間には共通の認識があって動いていたとか、高度な政治力も垣間見える展開です。

また、互いに大切な者を亡くし復讐心という形で通じ合っている高峻と之季に対して、寿雪は自分でもわからない感情を持て余しています。それは寿雪が知らなかった(前に淡海が口にした)嫉妬と呼ばれる感情なのですが・・。もし彼女が嫉妬するとすれば高峻の妃たちにではないかと思っていたのでこれはちょっと意外でした。

さて、では朝陽は事件に無関係だったのかといえば、否!彼こそが白雷の黒幕のようです。そもそも叔父は斬ったのに白雷は追放だけってオカシイと思ったのよね。目の上のたんこぶだった叔父を排するために、朝廷をも利用する朝陽は、なかなかの曲者です。白雷が連れている隠娘(いんじょう)という少女は衣斯哈の幼馴染で本名は阿兪拉(あゆら)と言います。彼女は憑代のようです。

これまでは他人の悩みを解決してきた寿雪ですが、今回は未然ではありますが、自分の身に受けることになります。「苦しんで死ね」と誰かに思われているという辛さに「助けてほしい」と言いたくても言えない彼女の苦悩が描かれます。しかし、周囲に関わりがある者が増えていき、自分自身を肯定することができるようになってきた彼女は確かに変わっていったのです。高峻は「麗娘が慈しんだそなたを、そなた自身が救ってやれ」と寿雪に言います。「助けて」という寿雪の心の叫びが伝わったかのような・・二人の間の距離がまた一歩縮まっていきます。

そして、重大な事実判明!どうやら衛青と寿雪は異母兄妹です!!知らずに反目し合っていたのも血がなせる業だったのかも


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明日の食卓

2022年01月21日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2021年5月28日公開 124分 G

2人の息子を育てる43歳のフリーライター・石橋留美子(菅野美穂)、アルバイトを掛け持ちする30歳のシングルマザー・石橋加奈(高畑充希)、年下の夫と優等生の息子に囲まれて暮らす36歳の専業主婦・石橋あすみ(尾野真千子)。年齢も住む場所も家庭環境も異なる彼女たちには、“石橋ユウ”という名前の小学5年生の息子がいるという共通点があった。それぞれ忙しくも幸せな毎日を送る彼女たちだったが、些細な出来事をきっかけにその生活が崩れ、苛立ちと怒りの矛先はいつしか子どもへと向けられていく。(映画.comより)

 

椰月美智子の同名小説の映画化で、“石橋ユウ”という同じ名前の息子を育てる3人の母親たちの物語です。監督は「楽園」「糸」の瀬々敬久。

冒頭で、子供を振り回し壁に打ち付けるシーンが出て来て「え?」となりました。タイトルだけ見て美味しいご飯がメインかと思ってた

最初に登場する石橋あすみは専業主婦で、いわゆる「良い子」の息子・優と優しい夫・太一がいます。義母宅の隣の敷地に家を建ててもらっていますが、互いに干渉せず距離感のある生活です。芳名帳に記帳する際に綺麗な文字で書きたいと、書道教室に通ううち、同年代で私立小に通う息子のいる菜々と親しくなり、ランチやティータイムを楽しむようになりました。優も私立に通わせたかったという思いがあります。

あすみの気がかりは、優の友達付き合い。光一という子は多動傾向があり、獅子(レオン)は体が大きいので苛められていないか心配していたのです。彼女のような心配は多かれ少なかれ経験することがありますねぇ ある日、レオンの母から優がレオンを苛めていると苦情の電話がありましたが、後日光一の間違いだったと聞いてホッとするあすみでした。

留美子は、小学3年生の悠宇と1年生の巧巳の息子二人に翻弄される毎日です。夫の豊はフリーカメラマンで忙しく、家事や育児への協力は期待できません。フリーライターの留美子は育児のドタバタをブログに書いていて、それが人気になり少しずつライターの仕事も増えていきますが、逆に夫は仕事が無くなり家で無気力に過ごすようになります。次第に互いにストレスが蓄積していきました。

加奈はシングルマザーです。夫の浮気が原因で離婚しましたが、慰謝料も養育費も貰わず、借金を返済しながら、朝と夜はコンビニ、日中はクリーニング工場で働きながら息子の勇を一人で育てています。加奈の弟は仕事を辞めていて時々金の無心に訪ねてきます。ある日、勇の担任から呼び出された加奈は、クラスメイトの西山が勇を陥れようとしたことを知らされます。彼の母もデリヘルで働くシングルマザーで、加奈は勤務先のコンビニで若い男と買い物をしているのを見たことがありました。

何不自由ない暮らしと良い子の息子を持つあすみ、元気いっぱいな兄弟に振り回されながらも自分の仕事が順調な留美子、貧しいけれど勇に精一杯の愛情を注ぐ加奈。でも子供はそんな母親をどう思っているのか?ここから物語は暗転します。

レオンへの苛めを仕組んだのは優だったことが暴露され、優は他人を操る実験をしていたと言います。夫に相談してもお前の教育が悪いと逆切れされます。夫に対しても不遜な態度を取る優を思わず叩いた彼に、優は虐待だと叫びます。そんな時、あすみに宗教の勧誘をする菜々。思わず席を立ったあすみですが、心は揺れます。更に状況は悪化、失禁した義母を「汚い」と罵りながら蹴る優を目撃したあすみは止めようとしてもやめない優の首を力一杯締め上げていきます。

失業した夫は家事もせず育児もおざなりで留美子の不満はエスカレートしていきます。遂には息子に暴力を振るい、留美子にも手を挙げた夫に「出て行け!」と言い放ち仕事部屋に入った留美子は、そこも息子たちに荒らされているのを見て激昂し、悠宇に馬乗りになり彼の頭を打ちつけます。

不景気でクリーニング工場をリストラされ帰宅した加奈は、通帳が消えているのに気付きます。彼女の留守中に借金取りに追われた弟が来て持っていったのです。弟は母に無心して拒否されたことに腹を立て、暴力を振るって出て行き、加奈の家にやってきたのでした。思わず勇を問い詰めると「僕なんか嫌いなんだろ」と言われ、加奈の中で何かが切れて、勇に馬乗りになります。

翌日母がやってきて加奈に生前贈与だと言って自分の通帳を渡しながら、ひとりで立派に勇を育てている加奈を労います。それを聞いた加奈は勇をきつく抱きしめるのでした。

コンビニで働いていると、西山の母がやってきて嫌がらせをします。後日彼女は加奈にデリヘルの仕事を持ち掛けますが、加奈はきっぱり断ります。西山の母は、同じようにシングルマザーで貧しい暮らしなのに前を向いて生きている加奈に羨望と嫉妬の感情を持ち、貶めようとしているように見えました。

場面が刑務所の面会室に変わります。そこには留美子の姿が!一瞬、悠宇を殺しちゃったのかと思ってしまいましたが違いました。小学5年生の「ユウ」という息子を、母親の石橋耀子(大島優子)という女性が殺してしまった事件があり、獄中から書いた耀子の手紙を受け取った留美子が面会に訪れたのです。留美子のコラムやブログのファンだったという耀子の手紙には、自分が殺してしまった「ユウ」への愛と後悔が綴られていました。自分かもしれなかった耀子と悠宇かもしれなかった「ユウ」の人生を丁寧に書きたいと強く決心する留美子。夫と離婚した留美子ですが、息子たちと夫は月に一度会う約束をしています。

「石橋ユウ」の虐待死は、ニュースで取り上げられてあすみも加奈も知っていました。お腹に新たな命を宿したあすみは、菜々の車から下校途中の優を見かけて慌てて車から降りて追いかけます。転んで怪我しながらも追いかけるあすみに手を差し伸べた優に、「実験してみてどうだった?」と聞くあすみ。優は泣き出し、あすみは彼を抱きしめます。

夫と会っている悠宇から電話を受けた留美子は「飛行機雲だ!」という声に空を見上げます。

初めての旅行で海に来ていた加奈と勇、あすみと優もそれぞれ空を見上げています。そしてエンドロール・・

優は、母親の理想の良い子でいることであすみを操っていた、父が母にしていることをしていたのだと言います。不満を抱えながらも夫に従順な母親が自分を操ることで満足を得ようとしていることを鋭く気付いていたのです。

悠宇は、二歳下の弟がすぐに泣くことで留美子の注意を引くことが許せなかった。母親を独占したい、自分も構ってもらいたい、甘えたい気持ちが根底にあるようです。「お兄ちゃんあるある!」ですね。

勇は加奈が自分のために昼夜問わず働いていることに子供ながらに負い目を感じています。自分がいなかったら母はもっと楽に暮らせたのではと思っていて、我儘も言えず我慢していたのね。

どこにでもいる母と息子が三組。息子に手をかけてしまった母のニュースに三人の母親はそれぞれ我が身を振り返ります。もしかしてそれは自分の身に起こっていたかもしれない、その境界線はとても危ういものなのですから。


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追憶の烏

2022年01月19日 | 

阿部智里(著)文藝春秋(出版)

若き日に誓った忠誠、悲しきその行方はー山内で一体何が起こっていたのか!?衝撃の真実がついに明かされる。(「BOOK」データベースより)

 

『楽園の烏』でキャラ激変に驚いた雪哉君。彼が冷徹な「博陸侯」になった経緯が語られます。

時系列として『弥栄の烏』から数年後。金鳥を継いだ奈月彦は、滅びゆく山内の将来を思い、娘の紫苑の宮を後継者に立てようと考えていました。新年の儀で紫苑の宮をお披露目し、東領から誘いを受けた花祭りに雪哉と行かせます。紫苑の宮は愛らしいだけでなく、聡明さと思慮深さも備えた小さな淑女として描かれます。雪哉はこの時、東家の新当主である青嗣と酒を酌み交わすのですが、青嗣が「父親とは違う道を行く」と雪哉に話した真意が明らかになる衝撃の展開を、この時は予想だに出来ませんでした 健気に留守番をしていた紫苑の宮を連れて満開の桜を眺める雪哉。この夜が彼の運命の分かれ道だったのね。

山内の崩壊に備えて人間界での共存の可能性を考えた奈月彦は、一足先に留学から戻った千早と交代で雪哉を外界に留学させます。しかし一年後、この留学は突然打ち切られることになるのです。

一報を受けて戻った雪哉が目にしたのは、人形に戻る途中で息絶えた奈月彦の遺体です。「なんで死んでやがんだ、コイツは。」は彼の偽らざる本音ですね。親友を喪った時同様、あまりにも深い衝撃を受けると彼は「感情」を無意識に封じ込めてしまうようです。奈月彦を守って明留も斬殺されますが、その酷い死に方が犯人特定に繋がっていくんですね。

暗殺の黒幕ははっきりしています。長年奈月彦の命を狙っていた紫雲の院(大紫の御前)です。彼女は自分に足がつかないよう周到に計画を練っていましたが、他人の感情まではコントロールできないのが世の常。しかし、まさか奈月彦を刺したのが実妹の藤浪の宮とは!!彼女は『烏に単は似合わない』で登場して以降、出番無かったのに・・・。

藤波の宮が何故?という疑問は、大紫の御前の配下の藤宮連だった瀧本の回想で解かれていきます。藤波の宮という女性の資質が問われるところではあるけれど、彼女の教育係として瀧本がもっと心を砕き受け入れ愛してあげられていたら悲劇は起こらなかったのかもと思わされます。いや、愛しいと思うからこそ、彼女が十六夜やあせびに懐いて自分を拒絶していると思い込み突き放してしまったのかも。それでも最後は愛する主を抱いて離れようとしなかった、そこに瀧本の本当の想いが現れていました。彼女は黒幕が紫雲の院だと証言し、遂にかの悪女の運も尽き果てます。

奈月彦の死で紫苑の宮の世継ぎ問題は暗礁に乗り上げます。元々女金烏を周囲に認めさせるには長い時間と回しが必要だたから。何だか今の皇室の状況を連想させるんですが

奈月彦の(凡庸な)父が代打で金烏代を務め、日嗣の御子は長束で決まりかと思っていたら、彼が指名したのが、あせびとの間に出来たまだ幼い息子(長束や奈月彦にとっては弟になる存在)でした。確かに『烏に単は似合わない』で彼は十六夜に似た(娘なのだから当然ですが)あせびにご執心だったけど、まさかこんな形で再登場するとは!

終わってみれば、奈月彦や雪哉が気付かなかったその裏で、貴族たちの政権闘争が着々をなされていたわけです。

あせびを先帝に近づけ、新たな金烏となる子をもうける・・・大紫の御前の「息子を金烏に」という執着を隠れ蓑にした東家と南家の陰謀だったという何ともドロドロした、まさにお貴族様が考えそうな筋書きです。

そういえば、大紫の御前は実弟の融を愛していて、彼女が初めの頃藤波の宮に優しくしていたのは、彼女が奈月彦を想う気持ちに気付いていたからなんですね。叶わぬ想いを持つ者同士だったのですが、藤波の宮が他の男に心を移しそうになった途端、彼女を突き放し、果ては利用しようとしたのです。ところが、その大紫の御前自身が、融からは嫌われ見離されていたのね それに気づいた時、彼女の心もまた折れたのです。

雪哉は、奈月彦と頑張ってきた政策が失敗したことを悟ります。4大貴族たちは、『弥栄の烏』で猿対策のために犠牲を払ったことや、その後のやり方に不満を募らせていたのです。「山内の危機を共に乗り越えよう」と言われても、莫大な資金や人材を提供することを強いられて先が見えなければ、彼らが不満を持つのも当然ですね。 遅まきながら事態を把握した雪哉は、西家と手を結んで戦をしようと逸る北家当主を言葉巧みに抑えます。

奈月彦の遺言の内容も雪哉の心に変化を生じさせたのは間違いありません。自分ではなく皇后(浜木綿)の方を信じていた主の本心を知り、また浜木綿からも雪哉が見ていたのは金烏としての奈月彦だと言われ、その瞬間、彼の心が決まったのかな。

浜木綿と紫苑の宮は逃亡し行方知らずに。また『黄金の烏』で出てきた小梅が東家の下女として再登場しますが、彼女も今後のキーポイントになるのかな?真赭の薄は登場しないのですが、彼女と元山内衆の澄尾との間に生まれた双子の葵と茜がいて、茜の方は紫苑の宮の遊び相手として出てきました。しかしラストで、成長した葵が雪哉=博陸侯の前に現れるのです。しかしその容貌は亡き奈月彦に瓜二つ・・・果たして彼女の正体は?続編が楽しみです。


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後宮の烏2

2022年01月17日 | 

白川紺子(著) 集英社文庫

後宮で生きながら帝のお渡りがなく、また、けして帝にひざまずくことのない特別な妃・烏妃。当代の烏妃として生きる寿雪は、先代の言いつけに背き、侍女を傍に置いたことに深く戸惑っていた。ある夜、後宮で起きた凄惨な事件は、寿雪が知る由もなかった驚愕の真実をもたらす、が--。烏妃をしばる烏漣娘娘とは何か? 烏漣娘娘がおそれる「梟」とは一体誰なのか?

 

第一話 青燕
飛燕宮の庭に宦官の幽鬼を見たという見習い宦官の衣斯哈(イシハ)の訴えを聞いた寿雪が調査に向かいます。指導役の宦官から酷い杖罰を受けている現場を見た寿雪が庇ったことで、彼は指導役から追い出されてしまい、行き場のない彼を結局夜明宮に引き取ることになり、ますます彼女の周りに人が増えるという。

この幽鬼(衣斯哈と同族の少年だったため彼にだけは見えているんですね)は、主の妃に喜んで貰いたい一心で青燕の羽を取ろうとして鳥を過って殺してしまったため斬首されましたが、鳥への後悔が彼をこの世にとどめていたのでした。寿雪は、同僚だった宦官が棄てられずに持っていた羽を使って彼を救い楽土に送ってやります。

衣斯哈を助けようとしてくれた寿雪を見て、宦官の温螢は心を動かされ、自分の出自を語って感謝の言葉を伝えます。

一件落着した後の新月の夜。寿雪の中の烏漣娘娘が抜け出して暴走し、激しい苦痛を寿雪にもたらします。ところがある青年(宵月)の姿を見た途端、怯え逃げ帰るのです。目覚めた寿雪にはそれが誰か記憶にないのですが「梟」と認識していました。
後宮に現れた星烏は女神の眷属だそうですが、何やら重要な役割がありそうです。

 

第二話 水の聲

ある夜訪ねて来たのは亡くなったばかりの元官女の幽鬼で、帝のお渡りを前に入水した主の妃を救って欲しいと頼みます。でも彼女が本当に救って欲しいのは自分だったのです。言葉の端々に自分の不幸を並べるこの幽鬼は読んでいても不快な存在です。彼女は子を産めずに婚家を出され、分家筋の娘の侍女として仕える我が身に不満を持っていたんですね。自分が教育したからこそ後宮に入り帝のお渡りもセッティングしたのにという気持ちが底にあり、遂には鬼となり果てるのですが、彼女に聞こえていた水底からの主の声は、自らの恐怖が作りだした幻聴なのでした。救ってやれず池に封印した寿雪でしたが、その後、結界を破られたことに気付くのです。

一方、高峻は冬官を統べる薛魚泳が、先代烏妃の麗娘の幼馴染だったことを知ります。麗娘は14歳で烏妃に選ばれ22歳で烏妃を継いだのですが、寿雪は6歳で選ばれ14歳で烏妃になっていてどちらも8年で代替わりしています。薛魚泳は8は聖数だと煙に巻くのですが何か意味あり気です。高峻は魚泳と寿雪を引き合わせ、二人は麗娘の思い出を語ります。でも後で判明するのですが、薛魚泳は生涯他者と交わることなく孤独に生きた麗娘に深い同情(恋愛感情)を寄せていて、寿雪が麗娘の言いつけに背いて周りに人(官女や宦官)が増え帝にまで気遣いされていることにわだかまりを持っていくんですね。

 

第三話 仮面の男

高峻の配下の明允(めいいん)から聞いて手に入れた被ると怪しい男の影が見えるという布作面を持って高峻がやってきます。五弦の琵琶の音に反応していることから、男の正体が自分の音楽に執着して死んだ楽師とわかり、寿雪は五弦の琵琶を使って男を楽土に送ってやります。男の死に関わった同僚の楽師の心の負担を「鬼になる前に死んで良かったのだ」と軽くしてあげる優しさに、彼女の心の一端が垣間見える話になっています。

寿雪は、夜明宮に囚われたまま一生を送る宿命を背負っている自分を顧みて、せめて幽鬼だけでも救ってやりたいのだと高峻に語ります。高峻じゃなくてもこんなに健気な女性なら守ってあげたくなりますよね

 

第四話 想夫香

「青燕」の冒頭で登場した女性は、寿雪に「死者を蘇られて欲しい」と頼んだのですが、彼女は出来ないと帰しています。ところがこの女性は,鵲妃で、亡き兄を慕うあまり禁忌の領域に踏み込んでしまったのね。いや、宵月に付け入られてしまったというのが正しいかも。

後宮で喉を食い破られた官女の死体が見つかり、犯人捜しが始まります。寿雪は鵲妃を怪しみ温螢に探りを入れて貰うのですが、彼が帰って来ず、不安になった寿雪は高峻に頼んで鵲妃の宮に向かいます。鵲妃は宵月が作った泥人形を兄と信じ匿っていましたが、こいつが吸血鬼のように人の血を求め官女を喰い殺したんですね。捕まっていた温螢は危ういところを助けられますが、このゾンビ、突然鵲妃に襲い掛かり血を吸うの。形代を抜いて倒したものの鵲妃は救えませんでした。

夜明宮に戻る途中で宵月が現れます。宵月は、神の住む国である幽宮(かくれのみや)の 葬者部(はぶりべ)で烏(烏漣娘娘)の兄だと名乗ります。自分の役目は烏を殺すことだと言い、そのためには器である寿雪を殺す必要があると言って襲い掛かってきます。実は彼も借り物の体なのです。彼が斯馬盧(スマル)と呼ぶ星烏は烏漣娘娘の眷属の筈なのに、何故か宵月が従えています 温螢と高峻は寿雪を庇い守ろうとしますが、歯が立ちません。彼女の窮地を救ったのは、宵月が哈拉拉(はらら)と呼ぶ金鶏の星星でした。

宵月を手引きしたのは薛魚泳でした。寿雪が殺されても構わないと思ったという魚泳は、麗娘のためには誰も動かなかったのに寿雪は皆から慕われていることが憎らしかったのです。しかし高峻は麗娘は寿雪がいたから孤独ではなかったと言い、彼女が愛し慈しんだ寿雪をお前は殺そうとしたのだと言います。これには魚泳も感じるところがあったようで、隠居を許され後宮を出た後すぐ自殺しているの。真相を知らない寿雪は、魚泳は隠居先で幸せに暮らしていると思っていて、高峻も魚泳の後を継いだ千里も、話を合わせます。

高峻は鵲妃を死なせてしまったことを後悔する気持ちの中に、後宮の勢力争いを憂えている自分を意識して嫌な気持ちになりますが、鵲妃の父・琴孝敬が帝を恨むことなく感謝を示した裏に、寿雪が鵲妃の父親に手紙を送って慰めていたことを知り、彼女が自分のために働いてくれたことに慰められ泣きます。

孤独に生きる宿命を受け入れていた寿雪が、周囲に愛し守りたい者が増えていく中で、迷いながらも共に生きようと思うようになるんですね。

夏の王と冬の王の話には更に秘密があり、烏妃は烏漣娘娘を内包しているということが判明して、ますます混迷を深めていきました


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嘘つき女さくらちゃんの告白

2022年01月16日 | 

青木 祐子 (著) 集英社文庫

盗作疑惑が持ち上がる中、美人イラストレーターsacraが失踪した。彼女の幼馴染みでライターの朝倉は、クラスメイトや恩人、恋人などsacraに関わってきた人々にインタビューすることで彼女の真実に迫ろうと考える。盗作、経歴詐称、結婚詐欺など、息をするように繰り返した嘘の果てに姿を消したsacraは今、どこで何をしているのか。そして、彼女が本当に欲しかったものとは―?(「BOOKデータベースより)

 

嘘をついたことがないという人はまずいないと思うけれど、息をするように嘘がつける「さくら」のような人物には幸いにして今まで出会ったことはない。それはとても幸運なことかもしれないと思わされるお話です。

ライターのインタビュー形式で進んでいくのですが、その中でも女性たちは自分の作品を模倣されたり、恋人を盗られたりの被害者として描かれます。他方、男性たちはさくらにいいように利用されていると気付きながらも彼女に愛されていたと信じ込んでいるのです。これは女性の方が恋愛感情がない分冷静で、男性たちは騙されたという現実を受け入れるのにはプライドが邪魔をしているということでしょうか。

一通りインタビューが終わると、さくらの盗作、経歴詐称、結婚詐欺等々の「嘘」と「実像」が見えてきます。彼女に関わった人たちは一様に被害者ですが、特に声を上げた女性たちの方が加害者のように世間に見られるのが、納得できないモヤモヤが残りました。

さくらが、初めから人を騙そうとしている悪女であったなら、もう少し受け入れられたかもしれませんが、彼女自身、嘘を付いているという自覚があるのか甚だ疑わしいのだから、余計にやりきれないと言うか、気持ち悪いというか・・・。

自分が中学生の時、状況はまるで違いますが、同じような理不尽な目に遭ったことを思い出してしまいました。儚げな美人は得だよな~と思ったものです。

ライターの朝倉はさくらの幼馴染で、兄や恋人もさくらの犠牲者です。彼女の目的はインタビューすることで失踪したさくらの真実を追求して本を出版することでしたが、詰めが甘かったことがわかる驚愕のラストで、ますます気持ちが落ちてしまいました。もしかしてさくらは天然じゃなくてものすごく計算高い悪女だったのかも。 まさに天使の顔をした悪魔で、純粋な悪というのは彼女のような人かもしれないな。

少しだけさくらをフォローするとすれば、彼女は自分が顔と体だけの女だと自覚していたからこそ、他者の才能を自分自身に取り込むという行為に没頭したのかも。プロデュースの才に長けていたのが彼女の不幸であったのかもしれません。

それでもやっぱりこのさくらという女は大嫌い!絶対関わり合いになりたくない人です。


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元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件

2022年01月15日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2021年8月6日公開 スウェーデン=アメリカ 92分 G

友人の結婚式に出席するため、小型セスナ機でインド洋に浮かぶ孤島に向かうことになったサラ(アリソン・ウィリアムズ)は、これから始まる空の旅に心が弾む。しかし、セスナ機にはかつての恋人で今は気まずい関係にあるジャクソン(アレクサンダー・ドレイマン)が乗り合わせていた。さらに離陸してほどなくして、地上から6000メートルの上空でパイロットが心臓発作を起こして急死するというアクシデントが発生。自動操縦は機能せず、GPSや通信機器も故障し、前方には巨大乱気流が迫っているという絶体絶命の状況下で、サラとジャクソンは生き残るためある行動に出る。(映画.comより)

 

邦題から連想してお気楽コメディだと思っていたら、違いました。飛行中にパイロットを失い絶体絶命の状況に陥った小型セスナ機を舞台に、同乗していたヒロインと元恋人が生き残りをかけて奮闘するサバイバルパニック作品です。 原題:Horizon Line

二人が別れることになったのは、どちらも自分の夢を優先させたから。それでも未練たっぷりな二人は、友人の結婚式の前夜にベッドインして寝過ごしてしまいます。慌てて飛び出しフレディ(キース・デヴィッド)の飛行機に乗せてもらえることになって安心したのも束の間、ジャクソンも一緒で気まずい雰囲気。

サラは島で暮らしていた時フレディから何度か操縦を教わったことがあるとか、結婚式用に「飛行機の燃料にもなる」くらいの強いラム酒を積んでいるなどの伏線も用意され、極めつけにフレディの心臓発作です。あっけなく死体となってしまったぞ

発作時に計器に頭を打ち付けて故障したのが手始めで、自動操縦が効かず進路を逸れた機体は巨大乱気流の中に突入せざるを得なくなります。ここで管制の指示を聞かず雲を抜けようと高度を上げ過ぎたことでまたまたトラブル発生。燃料が漏れてこのままではガス欠ということでジャクソンが機外に出て燃料パイプの穴を塞ぐのですが、この時腕に大怪我を負います。

燃料をもたせるため、機体を軽くしようと椅子などを捨てるまでは良かったけれど、次に棄てたのがフレディの遺体・・・おいおい!!これが「生き残るためのある行動」ですか

最後にラム酒を捨てようとしてジャクソンが燃料になることを思い出しますが(遺体棄てる前に思い出せよ!)、今度はサラが機外に出て燃料タンクにラム酒を入れるという行動に!それ絶対無理でしょ!!な展開です。

その間、島らしきものを見つけたジャクソンの言葉を信じて引き返すも見当たらず遂に燃料切れ!というところで砂州が見えてくるあたりはハラハラ感ありました。着陸寸前、海中に沈んだ機体から脱出したサラは気をったままま機体に挟まっているジャクソンを助け出します。

これで助かったと思ったら満潮になり砂州は海中に沈んでいきます。身に着けていた救命具をサラに渡そうとするジャクソン・・「タイタニック」か! サメらしき魚影も見えて今度こそ絶体絶命?というところで漁船が現れ救出された二人。思わせぶりな海中からの撮影とか要らないから!! サメ出てこなかったし。

死を前にした二人の仲は再燃してハッピーエンドの形ですが、落ち着いたらどっちがどっちで暮らすかでまたまた喧嘩するんじゃなかろうか


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後宮の烏

2022年01月13日 | 

白川紺子(著) 集英社オレンジ文庫

後宮の奥深く、妃でありながら夜伽をしない特別な妃・烏妃。その姿を見た者は、老婆であると言う者もいれば、少女だったと言う者もいた。彼女は不思議な術を使い、呪殺から失せ物さがしまで、何でも引き受けてくれるという――。時の皇帝・高峻は、ある依頼のため烏妃の元を訪れる。この巡り合わせが、歴史を覆す禁忌になると知らずに。

中華ファンタジーというジャンルらしい 

舞台は古代中国風の架空の国・霄(しょう)で、若き帝・高峻と烏妃・寿雪が織りなす恋物語・・・ではなく謎解きのお話?

第一話:翡翠の耳飾り

寿雪のところへやってきた高峻は、拾った翡翠の耳飾りの持ち主が知りたいと頼みます。耳飾りに術をかけると絞殺された妃が浮かび上がりますが、名前がわからないので楽土へ送ることができません。高峻が不憫だと漏らした言葉に寿雪も心を動かされ調査を始めます。

官女に変装した寿雪は、後宮の官女たちから先代の皇后に殺された妃の話を聞き、その際知り合った内膳司の九九(じうじう)を口実に、名簿を手に入れてその幽霊の正体が班鶯女と判明します。(現皇太后は高峻の母を毒殺し、息子の高峻を一時廃太子にした張本人でもあります。)班鶯女の官女だった蘇紅翹(そこうぎょう)に確かめに行く途中、何者かに襲われた寿雪と九九を助けたのは郭皓(かくこう)という男で、後に彼は班鶯女の許嫁で、真実を探るため後宮に潜り込んでいたことが判明します。蘇紅翹は舌を切られていましたが、筆談で真相を伝えます。実は高峻が拾ったのは蘇紅翹が郭皓に渡していたもので、蘇紅翹が持っていた耳飾りは、昔泣いていた高峻に彼女があげていました。二つの耳飾りが揃ったことで班鶯女は成仏することができ、同時に皇太后の罪も暴かれて処刑され、高峻は彼女に毒殺された実母の復讐も成就しました。

寿雪は前王朝の皇族の証の銀髪をしていて、それを隠しています。皆殺しになった一族殺戮の難を逃れた母親が生んだ娘でしたが、正体がばれて逃げる途中に母は殺され、彼女自身は人買いに売られて奴婢となっていたところを、烏連娘娘の使いの金鶏・星星(しんしん)に選ばれて烏妃となっていました。先代の烏妃・麗娘(れいじょう)から愛情深く育てられ、烏妃としての生き方を教えられてきたことが書かれています。

 

第二話 花笛 

烏漣娘娘を祀る寿雪。かの神は海の向こうからやって来た夜と万物の生命を司る女神で、大きな黒い化鳥の姿をしていて、艶をおびた羽根は四枚、胴は猪、足は大蜥蜴だが、顔は美しい女の姿をしています。
そこへ、花娘(かじょう)が頼み事をしにやってきます。彼女は高峻の妃ですが、彼の幼馴染でもあり姉のような存在(男女の仲ではないようです)で、高峻が度々寿雪の元を訪れていることを気にして確認に来たようでしたが、その本当の目的は、彼女の持つ花笛が鳴らない理由を探って欲しいというものでした。花笛は、悼む相手が還って来たことを知らせるものであり、それが鳴らないという事は魂が還って来ていないという事なのね。 花娘の許嫁だった、欧玄有(おう げんゆう)の魂を探すため寿雪は調査を始めます。

かつて流行していた月真教の教祖の月下翁が関わっているのではないかと推察するものの、彼は既に死亡していました。ところが後宮で花娘が高俊から下賜された壺が消え、その影に欒冰月(らんひょうげつ)という前王朝の欒家の美形の巫術師がいたことがわかります。この欒冰月は月下翁に取り憑いていた人物でもありますが。彼もまた亡き人で、寿雪に何か頼み事があって現れたのです。彼が壺に閉じ込めていた魂の中に欧玄有もいて、寿雪が解放し、花笛が鳴って彼は楽土へと成仏することができました。

 

第三話 雲雀公主 

殿舎にやってくる雲雀の中の一匹は生きたものではありませんでした。雲雀は烏漣娘娘の眷属で、人の魂を楽土に導く手伝いをする鳥なのですが、楽土へも行かず迷っているのはどうしてか気になった寿雪が九九に話すと、雲雀公主(ひばりひめ)の雲雀かもしれないと言います。彼女は高峻の異母妹で、母が身分の低い宮女だったため後ろ盾も無く、後宮の隅で一人で暮らしていたが、ある時池に落ちて亡くなっていました。
雲雀を楽土に送って欲しいと頼まれ、寿雪は雲雀公主について調べます。

高峻の母の鶴妃の侍女だった羊十娘(ようじゅうじょう)が、雲雀公主のために池に花を手向けているのを見た寿雪が、彼女から話を聞く中で、公主が池に落ちたのは、羊十娘の咳を鎮める薬草を取ろうと足を滑らせたのだと知るのでした。寿雪がかけた言葉で羊十娘も救われ、高峻が作った燕の木像を使って雲雀も楽土へ送られます。

優しさと悲しみの入り混じったお話でした。

 

第四話 玻璃に祈る

皇太后を処刑した頃から、高峻の寝所の外に、亡き母と高峻の親友で腹心の宦官・丁藍(ていらん)の幽鬼が現れるようになります。日増しにやつれて行く高峻を心配する側近の宦官・衛青(えいせい)の進言を聞き入れない彼は、別件で寿雪に相談を持ち掛けます。

それは後宮に出る銀髪の幽鬼のことで、柳の花が咲く時期だけ現れるのです。欒冰月かもと思った寿雪は高峻たちと柳のところへ出向きます。
(現王朝の初代皇帝の炎帝は前王朝の一族を根絶やしにしましたが、彼の寝所に前王朝の幽鬼たちが現れ悩ませていたのを先代の烏妃が追い払ったのですが、寿雪はそのことを麗娘から聞かされていませんでした。)

幽鬼が身に着けていた装飾品を宝物庫で確認した寿雪は、その正体が欒王朝最後の帝の二番目の公主で、後宮に禁軍が押し寄せた際に柳の下で自害した明珠公主(めいじゅこうしゅ)であることを知ります。欒冰月は彼女と恋仲になり、皇族の身分を捨てることで婚約が成就していたのですが、王朝交代の乱で二人とも命を落としていたのです。明珠公主は自害する前に欒冰月から贈られた櫛を柳の木の根元に埋めていて、それが心残りで幽鬼になっていて、公主の魂を探して欒冰月もまた幽鬼になっていたのです。それに気づいた寿雪が櫛を掘り出し、二人はめでたく楽土へと成仏します。

一件落着の後、衛青から高峻のことを相談されていた寿雪は、高峻の寝所に向かい術を使います。実は皇太后は処刑される前に高峻への呪いを残していて、母と丁藍の幽鬼は高峻を守ろうとしていたのでした。

 

物語が進むにつれ、寿雪と高峻の絆が深まっていきますが、同時に彼らの置かれた状況が、歴史に隠された真実と共に明らかになっていきます。

烏妃の誕生に隠されていたのは夏の王と冬の王の歴史であり、国の乱れの原因が二人の王の愛憎だったことから、同じ轍は踏むまいとする二人の意志が感じられる終わり方でした。とはいえ恋する気持ちは誰にも止められないものですから、今後が楽しみでもあります。


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決戦は日曜日

2022年01月12日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2022年1月7日公開 105分 G

とある地方都市。谷村勉(窪田正孝)はこの地に強い地盤を持ち当選を続ける衆議院議員・川島昌平の私設秘書。秘書として経験も積み中堅となり、仕事に特別熱い思いはないが暮らしていくには満足な仕事と思っていた。ところがある日、川島が病に倒れてしまう。そんなタイミングで衆議院が解散。後継候補として白羽の矢が立ったのは、川島の娘・有美(宮沢りえ)。谷村は有美の補佐役として業務にあたることになったが、自由奔放世間知らず、だけど謎の熱意だけはある有美に振り回される日々…。でもまあ、父・川島の地盤は盤石。よほどのことがない限り当選は確実…だったのだが、政界に蔓延る古くからの慣習に納得できない有美はある行動を起こす――それは選挙に落ちること!前代未聞の選挙戦の行方は?(公式HPより)

 

ことなかれ主義の議員秘書と熱意が空回りしてばかりの新人候補者による選挙活動の行方をシニカルに描いた社会派コメディ。

冒頭に登場するのは、衆議院議員・川島昌平を背負って講演会の会場に連れて行く私設秘書谷村の姿です。ぬかるみを避けずに進む彼の靴は泥水に漬かり靴下もびしょびしょなんじゃないかと思ってしまうほど 秘書として川島との信頼関係も築いて中堅となった彼には、私立小を受験する娘がいて、もし受かったら議員が何でも一つ頼みを聞いてくれると約束してくれます。

ところがある日突然、川島が病に倒れて入院してしまい、衆議院の解散と重なってしまいました。後継者を誰にするかで揉めた挙句、御しやすいと踏んで川島の娘の有美に白羽の矢が立ちます。本人には父の希望と伝えられていました。

しかし有美は世間知らずのお嬢さんで、選挙や政治についてはど素人なのに熱意だけはあるという困ったちゃん。初日から欧米か!な気合い入りまくりの挨拶で、秘書やスタッフに失笑されますが、本人は全く気づかないという

谷村が補佐役に就くことになりますが、彼女は「各々」を「かくかく」と読んで記者たちに失笑されたり、炎上系動画配信者のぶしつけな直撃に激怒して炎上させてしまったりで、問題行動に手を焼くことになります。他の秘書もスタッフも関わり合いを避けて谷村に押し付けているのが面白いような歯痒いような・・・。噛んで含めるような忍耐の谷村の姿が可哀そうなのにちょっと面白い・・・いえ、やっぱり可哀相でした。

困った谷村が、それとなく皆の意見を有美に伝えますが、初めは快く聞いていた彼女も「今のままでは不愉快な素人」「相槌が適当すぎて聞いていないのがバレバレ」「やる気はあるが、やり方を履き違えている」「スマホのカバーがださい」などの辛辣意見に険悪な表情になり「もうけっこう!」と部屋を出ていく始末。この件は後半アドリブなんじゃないかと思うくらい可笑しかったです。有美が珈琲を頼むのですが、ホットじゃなくアイスにして!、ミルクをつけて!、これじゃなくいつものよ!など、どんどんエスカレートしていく様は議員現実あるあるなんじゃないかと思ってしまいました。

とうとうある日、有美は事務所の屋上からスタッフに向かって「改善を要求します!」と叫びますが、女性スタッフ(内田慈)は「ああいう吐き出し方しかできない人いるよね」と冷静な一言。他のスタッフたちも平然と眺めているの。改善しないなら飛び降りると言い出す彼女にスタッフの対応は「どうぞ」とばかりにマットを運んできます。屋上に上がった谷村も有美に「早く」とばかりに背中を押す始末。まぁ、建物の高さ的にもマットの上に落ちたら問題無しってことなのでしょうけど、これはちょっとやり過ぎな気もしますが、有美に現実をわからせるための荒療治ということなのでしょう。余談ですが、有美に続いて飛び降りる谷村=窪田がかっこよかった

それでも、「日本の政治は間違っている!」とはっきり自分の意見を言い続ける彼女の姿が、事なかれ主義の谷村の心に徐々に影響を及ぼしていきます。

地盤は盤石で、余程のことがない限り当選確実でしたが、父の賄賂に関する記事が週刊誌に出ます。後援会とスタッフの間で次善策が協議され、

秘書の一人(音尾琢真)が身代わりになって事を納めようとすることに有美は驚きますが、そういうものだと言われてしまいます。どうしても納得できない彼女は、もう辞めたいと言い出し、記者に連絡して記事にして欲しいと頼みます。でもこの記者はスタッフとなぁなぁな関係にあり、記事になることはなかったのです。更に有美は自分を担ぎ上げた本当の理由を知ってしまいます。

有美を見かねた谷村は、スタッフの生活もかかっていて、もう辞めるという選択肢は誰にも残されていないのだと諭します。それでも有美は引き下がらず、それなら落選するよう協力して欲しいと持ち掛けます。

病床の川島(父)を見舞った際、谷村は「もし娘が私立小に通うのが嫌だと言ったらそうするのか」と問われて考え込んでしまいます。川島は今の自分にとって娘が一番可愛く、苦しませたくないと話しました。このシーンが谷村の転機ですね

悩んだ末に谷村は、有美の落選に協力することにします。後援会や地方議員たちとの調整役をしているスタッフ(小市慢太郎)のPCからデータを盗み出して外部に流したのです。

週刊誌に載って、大慌てで会見を準備するスタッフでしたが、そこへ北朝鮮がミサイル射撃の予告をしてきたというニュースが飛び込みます。大きなニュースに搔き消されると大喜びするスタッフの様子を盗撮してSNSに投稿し、不謹慎さをアピールして炎上を狙いますが、逆に好感度を上げる結果になるなど、対策が悉く裏目にでて、二人の奮闘虚しく有美は当選してしまうのです。一連の行動はまさにコメディ

計画は失敗だった、自分は誰かの操り人形になるしかないのかと諦めかける有美に谷村は書類を差し出し「今あるのはこれだけですが、これから政治を変えていきませんか」と提案します。ここからがスタートというわけですね

父親が議員の若手秘書(赤楚衛二)の方が政治の現状にドライに対応しているのも妙に「あるある」感がありました。もう初めから何も期待していない若者の姿を見せられるのはちょっと哀しかったです。でもきっと有美&谷村が彼にも良い影響を与えていきそうですね。


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