杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

2021年02月28日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年8月21日公開 130分 G

平成元年生まれの高橋漣と園田葵。北海道で育った二人は13歳の時に出会い、初めての恋をする。
そんなある日、葵が突然姿を消した。養父からの虐待に耐えかねて、町から逃げ出したのだった。
真相を知った漣は、必死の思いで葵を探し出し、駆け落ちを決行する。

しかし幼い二人の逃避行は行く当てもなく、すぐに警察に保護されてしまう。その後、葵は、母親に連れられて北海道から移ることになった。
漣は葵を見送ることすらできないまま、二人は遠く引き離された…。
それから8年後。地元のチーズ工房で働いていた漣は、友人の結婚式に訪れた東京で、葵との再会を果たす。
北海道で生きていくことを決意した漣と、世界中を飛び回って自分を試したい葵。
もうすでに二人は、それぞれ別の人生を歩み始めていたのだった。
そして10年後、平成最後の年となる2019年。
運命は、もう一度だけ、二人をめぐり逢わせようとしていた…(公式HPより)

 

「めぐり逢い」をテーマに、中島みゆきの「糸」から着想を得て、平成元年生まれの男女の18年間の人生を平成史の変遷と重ねて描いたラブストーリーです。物語の舞台となるのは北海道・東京・沖縄・シンガポール。それぞれのロケーションも見所になっています。

葵の母親(山口紗弥加)は男にだらしのない女性で、娘が男に暴力を受けても黙認していました。それを知った漣は衝動的に葵を連れ出し逃げようとしますが、すぐに見つかって引き離されてしまいます。

それから8年後。漣は地元のチーズ工場で師匠(松重豊)や同僚たちと働いていましたが、東京で行われた親友の竹原直樹(成田凌)と弓(馬場ふみか)の結婚式に出席して葵と再会します。大学生になっていた葵は、お金を稼ぐためキャバクラで働いて知り合ったファンドマネージャーの水島(斎藤工)に援助を受けていました。地元で生きていくと話す漣に、葵は自分は世界を飛び回って生きようかなと言います。

漣は職場の先輩だった桐野香(榮倉奈々)との結婚を決め、入籍の手続きをしに行った役場で母親の消息を訪ねてやってきた葵に出会い、一緒に函館にいる葵の伯父(竹原ピストル)を訪ね、母親が亡くなっていたことを知ります。葵はただ母親に一言謝って欲しかったのだと言います。

さらに10年後。娘の結が生まれていましたが、香は癌で亡くなっていました。漣はチーズコンテスト入賞を目標に新商品の開発に挑戦し続ける中で、ヒット商品が生まれます。直樹は弓と離婚して利子(二階堂ふみ)と再婚しています。葵は事業に失敗して沖縄に逃げた水島と暮らしていましたが、彼は突然姿を消してしまいます。キャバクラ時代の同僚だった玲子(山本美月)の誘いでシンガポールに行った葵は、冴島(高杉真宙)と三人でネイル事業を起こしますが、順調だったのも束の間、事業を拡大しようとした玲子の失敗で全てを失い日本に戻っていました。

子供の頃にお世話になった子ども食堂の村田節子(倍賞美津子)に会いに来た葵が結と出会ったことで、運命が再び交差することになります。漣と香のエピソードの中で印象的だったのが、どんぐり。漣の背中を押す小道具として登場するのですが、その行動は彼女の父、そして娘の結にも共通しています。香はまた、結に「泣いている人や悲しんでる人がいたら、抱きしめてあげられる人になってね」と言い残していて、それがまた二人の再会に一役買っていました。

函館のフェリー乗り場で漣は葵と再会します。香の両親も、仲間たちからも祝福され幸せな結婚をする様子が、エンドロールに映し出され、18年越しのハッピーエンドを迎えたのでした。


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コンフィデンスマンJP プリンセス編

2021年02月27日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年7月23日公開 124分 G

世界有数の大富豪フウ家の当主レイモンド・フウ(北大路欣也)が亡くなった。
遺産を巡り火花を散らしていたブリジット(ビビアン・スー)、クリストファー(古川雄大)、アンドリュー(白濱亜嵐)の3姉弟の前で執事トニー(柴田恭兵)が発表した相続人は、誰もその存在を知らない隠し子“ミシェル・フウ”だった。
ミシェル捜しが続く中、10兆円とも言われる遺産を狙い、我こそはミシェルと世界中から詐欺師たちが“伝説の島”ランカウイ島に大集合!
そして、ダー子(長澤まさみ)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)の3人も、フウ家に入り込み、華麗に超絶大胆にコンゲームを仕掛け始める…はずが、百戦錬磨のコンフィデンスマン・ダー子たちに訪れる最大の危機!
誰がフウ家の当主の座を射止めるのか!?世界を巻き込む史上最大の騙し合いが始まる!!(公式HPより)

 

テレビドラマ「コンフィデンスマンJP」の劇場版第2弾。

ダー子、ボクちゃん、リチャード、五十嵐(小手伸也)はもちろん、劇場版「ロマンス編」のスタア(竹内結子)、ジェシー(三浦春馬)や、テレビドラマ版のハニートラッパー(広末涼子)、赤星(江口洋介)らお馴染みのキャストも登場しています。他にも石黒賢、生瀬勝久、鈴木さん(前田敦子)、ホテルの支配人(滝藤賢一)、謎の画家(濱田岳)などなど

コンゲームの舞台となったランカウイ島は、アジアセレブの世界を描いたハリウッド映画『クレイジー・リッチ!』のロケ地としても有名な場所だそう。高級リゾートホテルのザ セント レジス ランカウイ、フォーシーズンズ リゾート ランカウイなどでパーティーやフウ家のシーンが撮影されています。クアラルンプールでは、スルタン・アブドゥル・サマド・ビルや、パサール・スニのマーケットなどで、シンガポールの繁華街のシーンを撮影、フウ家のミシェル(関水渚)の部屋も同地の瀟洒な住宅・ベランダハウスでロケしたそう。(公式HPより)

キャストの衣装も大富豪に相応しい豪華さ。ダー子の衣裳は、普段着や変装、豪華なパーティードレスなど合わせて29変化してます。

デヴィ夫人や、ジャッキー・チェンまで出てきたのにはびっくり!まさにサプライズゲストですね。

ヤマンバ(濱田マリ)に虐待されているコックリ(関水渚)を見かけ、彼女をコンゲームに引き入れプリンセス役にしてランカウイ島に乗り込んだダー子一行。トニーから次期当主としてのスパルタ教育を受けつつ、フウ姉弟の嫌がらせをかわしつつ、お披露目パーティの日がやってきます。

そこで起きたアクシデント(冒頭に伏線が張られていました)に対応するコックリを見て、彼女が偽物と気付いていたトニーですが、後継者として認めるんですね

アンドリューと繫がっていた赤星が殺し屋を使ってダー子たちを追い詰めるエピソードは、初めから胡散臭いというか騙しの匂いプンプン

あまり考えないで楽しめるという点ではまさに娯楽作品です。

でも何といってもラストの種明かし部分がこの作品の醍醐味。ダー子の仕込みがそこまで遡っていたのか~という驚きより、そもそもレイモンド自身が壮大なコンゲームを仕掛けていたとは しかもそのヒントはダー子にあったという

今は亡き竹内結子、三浦春馬の笑顔がちょっと切なかったな~


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我らがパラダイス ネタバレあり

2021年02月23日 | 

林真理子(著) 集英社文庫

入居時8600万円!介護付き高級マンションに勤める三人の女性たち。受付係の邦子はぼけが始まった父を、看護師の朝子は寝たきりになった母を、ダイニング係のさつきは父の死後、急激に老いはじめた母を抱え困窮していた。次第に追い詰められていく三人は、ついにその格差に敢然と立ち向かうー。富める者しか安らかな老後は過ごせないのか!?現代を映すリアルでブラックな介護コメディ。(「BOOK」データベースより)

 

東京・広尾の高級介護付きマンション「セブンスター・タウン」で働く三人の女性が主人公です。

細川邦子(48歳)は、父の滋(82歳)と同居している兄の三樹男(53歳)に、兄嫁の登喜子(56歳)が家出したと連絡を受けます。兄夫婦が父の世話をするという約束で相続を放棄したのに、父にセクハラされたという理由で兄嫁は世話を放棄。兄一人に任せておけず、邦子は予期せぬ介護生活をすることになります。受付係として働き出しますが、夫も子供も協力してくれず追い詰められていく邦子は過労で貧血を起こします。

看護師の田代朝子(54歳)は、仕事を辞めて母チヅの介護をしていましたが、会社をリストラされた弟の慎一(53歳)が転がり込んできたため、人生設計が狂います。仕事も探さず家でダラダラしている弟に愛想を尽かし、自分が働くことにします。この弟がまた、女に騙され利用されるバカな奴で、読んでいるだけでも「しっかりしろよ!」と蹴とばしたくなってしまうという

ダイニングで働く丹羽さつき(52歳)は、80歳近い父の貢と母のヨシ子と暮らしていましたが、父が癌になり亡くなってしまいます。さつきは大好きな父親のために治療に大金をつぎ込むんですね~。父親は治癒の見込みの殆どない自分のために使ってくれるなと言うのだけど、さつきは譲りませんでした。彼女の父親への愛情の深さが現れるエピソードです。でも父の死後、母も体力が衰えてしまい、家は借地だったため、出て行かなくてはならなくなるんですね。

「セブンスター・タウン」のホテル並みの贅沢な設備やサービスを謳歌する裕福な老人たちの姿と対照的に、まともな老人施設を見つけることさえ難しい自分たちの親の現実の差を身をもって知ることになる三人の心に忍び込んだのは途方もない計画です。

最初のきっかけは、痴呆が始まった父の処遇に困った邦子が、「セブンスター・タウン」の使われていない部屋に父を入れたことです。もちろんすぐにばれて、総支配人の福田は激怒して罵倒し、手引きしたさつき共々クビを通告するのですが、ここでさつきが反撃に転じるんですね~~。彼女はある居住者の規則違反を承知で黙認している福田の弱みを握っていたという。ただの気の良いおばさんに見えていたさつきが豹変します。

ここまでは、まぁ、嫌な上司に一矢報いた感があって許せるのですが、この後彼女たちは暴走していくの。

朝子は、母親を施設に入れようとあちこち探し回りますが、どこも満足できるところがありませんでした。あやうく犯罪者まがいの職員もいるような施設に入れそうになるくだりは考えさせられます そんな時、入居者と自分の親をすり替えるという考えを思いつき実行しちゃうの。冷静に考えたら絶対ばれるでしょってことですが、協力者もいてうまくいっちゃうんですね

邦子は父をウィークリーマンションに住まわせ、夜は一緒に寝泊まりしていたのですが、父親の徘徊が始まり追い詰められていきます。こうなったのも全部兄嫁のせいと、彼女を殺すための薬を盗もうとして朝子に見つかり、これがきっかけで、邦子も父を同じような状況の入居者とすりかえてしまうんですね。

さつきは、遠藤というアルツハイマーの入居者と結婚して、自分の母親は別のちゃんとした施設に入れ、自分は遠藤と一緒に「セブンスター・タウン」の住人になります。従業員だった彼女に周囲は冷たい目を向けますが、入居者の岡田&倉田夫人、山口&純子の4人だけは祝福してくれました。

うまく苦境を乗り越えたようにみえましたが、世の中そんな甘くなのよね!

さつきを憎んでいる福田は、遠藤の弁護士と結託して遠藤の親族を探し出してきて、タウンから追い出そうとします。これに怒ったさつきは、病状の進行した遠藤を連れ「上」(介護が必要になった入居者が行く階)の空き部屋に住みつきます

そこに、朝子の母とすり替えた入居者が亡くなったと連絡が入り状況は一変します。

弟を巻き込んで遺体を連れ帰ったものの、福田にばれてしまい、邦子やさつきのこともばれちゃいます。ここでも口汚く彼女たちだけではなくその親のことまでののしる福田には、人間性の下劣さを感じてしまいます。彼女たちが切れるのは当然と思えるほどに

もはやこれまでの彼女たちは、警察沙汰を覚悟して福田たちを監禁・籠城します。他にも協力者たちや、4人の入居者と、元学生運動の闘士だった立川も加わり、火炎瓶まで登場するに至っては、どう収拾つけるのかと思いましたが、さつきたちは、これまで一生懸命生きてきた自分たちの親がないがしろにされる世の中に対して一矢報いたいだけなんですね。もちろん彼女たちも、協力した者たちも罪に問われることになりますが、それでもタウンの中で秘密裏に無かったことにされるより世間に訴えたい気持ちが勝ったわけです。

機動隊が突入してくる前に、入居者である老人たちは、呑気なほど前向きで元気です。金持ちである岡田は大きな屋敷を持っているので、そこを改装して皆で住もうか、さつきたちも入れてあげようかなどと話しています。

彼らはさつきたちの本当の意味での窮状も格差に対する不公平感も理解することはないんだろうなと思ってしまいました。

ブラックコメディとして割り切って読めば楽しいけれど、現実には自分はさつきたちと同じ「持たざるもの」の側だと思うとやるせないなぁ。

最早親はないのですが、次は我が身として身につまされる思いになりました。

もちろん、邦子や朝子の行為は許せないし犯罪そのものです。すり替えられた老人たちだって、何も感じないわけではないでしょうし、彼らが自分のお金で買った介護される権利を奪ったことに何の罪悪感もないとしたら、朝子たちの方が狂っているものね。


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エジソンズ・ゲーム

2021年02月21日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年6月19日公開 アメリカ 108分 G

19世紀、アメリカは電気の誕生による新時代を迎えようとしていた。白熱電球の事業化を成功させたトーマス・エジソン(ベネディクト・カンバーバッチ)は天才発明家と崇められ、大統領からの仕事も平気で断る傲慢な男だった。裕福な実業家ジョージ・ウェスティングハウス(マイケル・シャノン)は、大量の発電機が必要なエジソンの"直流"による送電方式より、遠くまで電気を送れて安価である"交流"による送電方式の方が優れていると考えていた。若手発明家のテスラ(ニコラス・ホルト)も、効率的な"交流"の活用を提案するが、エジソンに一蹴されてしまう。そんな中、ウェスティングハウスは"交流"での実演会を成功させ、話題をさらう。そのニュースにエジソンは激怒、"交流"による送電方式は危険で人を殺すと、ネガティブキャンペーンで世論を誘導していく・・・こうして世紀の"電流戦争"が幕を開けた!訴訟や駆け引き、裏工作が横行する中、ウェスティングハウスはエジソンと決裂したテスラに近づく──果たしてこのビジネスバトルを制するのはどちらか──!?(公式HPより)

 

発明王エジソンとライバルたちがアメリカ初の電力送電システムを巡って繰り広げたビジネスバトルを映画化した作品です。〈頭脳で世界のトップに立つ世紀の発明王〉エジソンと、〈戦略で支配を広げるカリスマ実業家〉ウェスティングハウスが繰り広げる〈電流戦争〉は、わかりやすくいえば"直流"か“交流”かの戦い。

(ところで、コンセントに送られてきている電気は「交流」ですが、電池は直流だって知ってた?

映画で描かれるのは、莫大な金が動く特許の争奪戦や、名誉をかけた裁判とその影で横行するスキャンダラスなネガティブキャンペーンや裏取引の数々です。でも映画を観ていると、エジソンよりウェスティングハウスの方が人間が出来てるように見えてしまうのだけど

エジソンと言えば、発明王!その子供時代のエピソードは偉人伝にも必ずと言っていいほど登場する有名人です。でも大人になってからの人柄は語られて来なかったような・・・。少なくとも映画の中では自分が採用した直流送電に固執して、交流送電の優位性を認めない偏屈で傲慢な男です。対するウェスティングハウスは、相手への敬意と包容力を持つ「大人」な人間として描かれていて、どっちが主人公なんだろう?と首をひねるくらいの扱い・・・あ、どっちも主役だったっけ

2人に共通していたのは、妻への愛情かなエジソンの妻メアリー(タペンス・ミドルトン)も、ウェスティングハウスの妻(キャサリン・ウォーターストン)もまた夫の良き理解者でした。 不幸なことに、メアリーは病気で早逝してしまうのですが、もし彼女が存命だったらエジソンの頑なな心にも変化が生じたかしら?

エジソンは発明家としては天才だけど、詰めが甘いのか、性格のせいか、成功の甘い果実は他者に横取りされてしまうことが多かったようで、それが彼の性格に影を落としていたのかもしれないなぁとも思ってしまいました

ウェスティングハウスにはポープ(スタンリー・タウンゼント)、エジソンには秘書のサミュエル(トム・ホランド)という良き理解者もいますが、ポープは送電事故で亡くなってしまい、エジソンはその事故をネガティブキャンペーンに利用します。それってちょっと酷っ

エジソンは人を殺す発明は断固拒否する人でしたが、両者の確執を利用されて死刑用の電気椅子の発明に助言を与えることになります。これを知ったウェスティングハウスは証拠の手紙を盗ませ新聞社に公表。いや・・どっちもどっちな泥沼戦争だわ。

シカゴの博覧会に使用する送電の売り込みに負けたエジソンは結局送電戦争に敗れるのですが、彼はその後映画製作に力を発揮するんですね。

博覧会で顔を合わせた二人が、確執を超えてファーストネームで呼び合うシーンが好きです


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神様のカルテ2

2021年02月20日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2014年3月21日公開 116分 G

妻・榛名(宮﨑あおい)の出産を心待ちに、本庄病院での仕事にいつも以上に邁進する栗原一止(櫻井翔)。一止達の住まいである御嶽荘にも新たな住人・屋久杉(濱田岳)が来て、男爵(原田泰造)ともども新たな生活を満喫している。そんな一止の前に大学時代の同期・進藤辰也(藤原竜也)が現れる。かつて「医学部の良心」と言われていたエリートが血液内科医として、同じ病院に赴任してきたのだった。親友との再会を喜ぶ一止だったが、辰也は勤務時間が終わるとすぐに帰ってしまい、時間外の呼び出しにも応じない。自分の生活を犠牲にしてでも患者のためにつくそうとする一止は、辰也のそんな姿勢に疑問を感じ、かつての親友と衝突してしまう。ある日、看護師の説得にも応ぜず家に帰ろうとする辰也に一止はついにコーヒーを浴びせてしまう。だが、熱くなった一止は逆に辰也から問われてしまう――。
「立派な医者ってなんだ?お前がいつも病院にいるってことは、その間ずっと家族のそばにはいられないってことだ夫婦って何なんだ?」
一止にそう言い放った辰也にも実は妻・千夏(吹石一恵)とのある事情が隠されていたのだった…。そんな折、一止の恩師である貫田内科部長(柄本明)が院内で倒れてしまう。皮肉にも病の床に伏して初めて妻・千代(市毛良枝)との夫婦の時間を持つことが出来た貫田だったが、残された時間は既にわずかなものになっていた…。
仕事を取るか“家族”を取るかですれ違ってしまう辰也と千夏――
“家族”を犠牲にして医療に従事してきた貫田とそれを支えてきた千代――
そして、新たな命を授かり“家族”を築こうとしている一止と榛名――
人の命を扱う医療の現場でも、夫婦はぞれぞれの事情を抱えながら、それぞれのドラマを展開していく。一止は「医師という仕事の難しさ」とともに「家族の意義」という壁に突き当たり、激しく葛藤する。かつては志を同じくした友を失いかけ、尊敬していた師が最期を迎えようとしており、出産を控えた妻とは満足な時間が持てないでいる。医師として人間として心が揺れ動き、拠り所を見出せずにいる一止に、貫田は自分の命を削って作った「神様のカルテ」を継承して言葉をかける。「それでも希望はある。――それは君たちだ」
師から望みを託された一止たちが最後に出来ることはあるのだろうか…?(東宝オフィシャルサイトより)

 

夏川草介の小説を映画化した医療ヒューマンドラマ「神様のカルテ」続編です。TVドラマが再び作られたのをきっかけに、そういえば続編もあったっけ、と思い出して借りてみました。

前作でも気になった一止のあの口調、やっぱりダメだ~~ 小説や漫画でならだけど、実写でセリフとして聞くと何だか棒読みされているような落ち着かない気持ちにさせられるのよね 

 

前作では、一止が一人前の医者になるまでが描かれましたが、今作は一人前の医者になりつつある彼が、医者という仕事の元来の難しさと家族の意義を問われる物語になっています。更に、辰也と千夏、貫田と千代夫婦の物語を絡ませることで、「友情とは?」「愛情とは?」「仕事とは?」「家族とは?」「人間らしく生きるとは?」という問いかける命と希望の物語です。

医者である前に人間。自分や家族を犠牲にして患者に尽くすというのは個人的に間違っていると思うけど。でも医療現場でそれは理想論で、現実に苦しんでいる患者を捨て置けないだろうことも理解できます。医は仁術ではなく算術と化す現代事情と、使命感のはざまで揺れながらも、それでも志を高く掲げて歩くのは、医師本人もその家族もいばらの道なんだろうなぁ 

そういえば、SPドラマも録画したまままだ見てないんだった。キャストを比べてみるのも悪くないかも

 


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サファイア

2021年02月19日 | 
湊かなえ(著) 角川春樹事務所(発行)
 
あなたの「恩」は、一度も忘れたことがなかったー「二十歳の誕生日プレゼントには、指輪が欲しいな」。わたしは恋人に人生初のおねだりをした…(「サファイア」より)。林田万砂子(五十歳・主婦)は子ども用歯磨き粉の「ムーンラビットイチゴ味」がいかに素晴らしいかを、わたしに得々と話し始めたが…(「真珠」より)。人間の摩訶不思議で切ない出逢いと別れを、己の罪悪と愛と夢を描いた傑作短篇集。(「BOOK」データベースより)
 
 
・真珠
主人公は平井篤志という男性。
林田万砂子という50歳のたぬき顔&体型の女性に呼び出されて彼女の話を聞くという展開です。
厳しい母親からお菓子を食べることを禁止されていたが、唯一許されていたムーンスター社のムーンラビットいちご味の歯磨き粉で満足感を得ていたこと。昔は美人で、モテていたこと。寮で知り合ったM子も愛用者で、気が合っていたが、彼女は失火で亡くなったこと。彼女の話の合間に平井は中学の同級生のシャンプーの香りにまつわる自らの体験を思い出します。その娘は今は彼の妻になっていました。
実は彼らが会っている場所は拘置所の面会室。万砂子は、小中学校5校の体育館を放火した罪で逮捕されましたが、ムーンスター社がW&Bに吸収合併されて発売中止となっていたムーンラビットを復活させたいためにこの事件を起こしたのだと主張しています。
平井は、ムーンスターのお客様相談室長だったため、白羽の矢が立ったのでした。
話しを聞き終えた平井はでも、本当は可愛い顔だった彼女がM子を殺して、整形手術して成り替わったのではと指摘します。
ちょっと飛躍し過ぎな感もあるけれど、平井の妻が整形していたという伏線も用意されていたので、まぁ、ありかな
彼女の本名は倫子(だからリンゴちゃんなのね)で、母親にムーンラビットいちご味を捨てられたことに絶望し、使い続けるためにM子(万砂子)になるしかないと犯行に及んでいたことを告白します。たぬき顔のブサイクでも構わないまでに渇望するって、まさに精神依存状態。放火に対する罪悪感もムーンラビットいちご味が消してくれたというのですから・・・。
平井は会社のイメージダウンを避けるために彼女を説得しなければならない役目ですが、彼はそれが絶望的であることを悟ります。平井の頭の中には、最近整形した瞼がたるんできた妻の姿が浮かび、彼女を愛し続ける自信が崩れていきます。彼もまた妻との接点になったムーンスター社のシャンプーが安定剤だったという
 
たぬき顔とか不細工とか、かなり失礼な表現に少々不快感を覚えつつ、「ムーンラビットいちご味」の連呼に頭の中が子供用歯磨き粉でいっぱいになってしまったぞ 真珠はたぬき顔の彼女が持つ真珠のように輝く白い歯を意味していました。
 

・ルビー
出版社に勤める姉が三年ぶりに実家に帰ると、隣に建った老人福祉施設「かがやき」に入所している老人の話を聞きます。庭先で畑作業をしている母親に施設の6階の窓から「おーい、おーい」と声をかける彼を母親は「おいちゃん」と名付け、次第に家族ぐるみで交流が生まれたこと。庭で採れた野菜や料理を母親が差し入れると、おいちゃんは高価な和菓子などを届けてくれ、食事に招かれた際には大きなブローチをプレゼントされたこと。
姉の携わっている雑誌は廃刊が決まっていて、読者でもあった妹に乞われて、掲載予定だった事件について語ることになります。「情熱の薔薇事件」と銘打ったその殺人事件は、昭和30年代後半に「関西の鉄将軍」と呼ばれた鉄工業で一財産を築いた男が、妻の不倫に激怒して浮気相手もろとも、日本刀で切りつけたというもので、彼は妻に時価1億円のルビーとダイヤを散りばめたペンダントを贈っていましたが、事件後ペンダントは行方不明になっていました。
「かがやき」は、刑務所出所者専用の老人福祉施設のため、姉はおいちゃんがその鉄将軍なのではないかと推察しましたが、母親がもらったペンダントが高価なものだとわかると騒動になると思い、敢えてはぐらかします。しかし妹は施設の職員と交際していておいちゃんの本名を知っているので、姉が語った事件が実際にあったことやペンダントの価値もわかったうえで、姉がどう思っているのか探ってきました。
姉妹の両親は、誰でも分け隔てなく親切に接する人たちで、「かがやき」が、刑務所出所者専用の施設だと知った上で建設を了承しています。おいちゃんはそんな一家を気に入って高価なペンダントを母親に贈ったのでした。姉妹もまた、両親の善意が歪まぬよう敢えて知らぬ振りを続けることを暗黙のうちに確認するのでした。 基本的に悪感情を抱く人物が登場しない点が気に入りました
                                          
母親が昔シャーリー・ワトソンという女優に似ていたと自慢していたことや、「約束の丘」という映画やその中のセリフなどが登場し、おいちゃんが、姉妹の母親に自分が殺めた妻の面影を投影した心情を連想させますが、そんな女優も映画も作者のそれこそ作り話だよね
 
 
・ダイヤモンド
古谷治は、お見合いパーティーで知り合った山城美和にダイヤの婚約指輪を贈ります。その後、レストランの入り口のガラス扉に激突した雀を助けた治の前に、数日後、女性の姿になった雀が恩返しをしたいと現れます。誕生祝を贈ろうとしていた治は「美和が望んでいるものを調べて欲しい」と頼みますが、雀がもってきたのは「美和さんは、不倫相手の鈴木崇史さんと一緒にいたいと望んでいた」という「事実」でした。驚きながらもさらに治は雀に二人のことを調査させ、美和が最初から彼を騙していた証拠を手に入れます。治は最後に、雀に美和からダイヤモンドの指輪を奪い返して欲しいと頼み、雀は、指輪を持ち帰りますが、扉に激突し死んでしまいます。治は雀にダイヤの指輪を着けてやって埋めてあげます。美和と鈴木が車のタイヤがパンクして事故死したことを治はニュースで知りますが、タイヤに細工がされていたことから、警察は治を疑います。隠し撮り写真や、ボイスレコーダーのファイルを証拠に押収されている治は、雀の話をすべきかどうか悩んでいました・・・おしまい。
 
お見合いパーティーの話が出てくるあたりから、怪しさがプンプン臭いだし、「これって結婚詐欺じゃん!気付けよ」と思いながら読み進めていくうち、そもそも治自身がどうしようもない勘違い野郎だと気付かされ、うんざりさせられます。いや、もしかして彼は本当は気付いていたのに見たくない現実に蓋をしようとしていたのかも。
雀の恩返しというのも彼の妄想で、実は手を下したのはやっぱり治だったりして・・・と考えるとなかなかスリリングな結末かも。
 
 
・猫目石
主婦の大槻真由子は、飼い猫のエリを探している隣人の坂口に遭遇し、一緒に猫探しをする。中学生の娘・果穂、夫・靖史も協力し、木の上にいたエリを靖史が保護して感謝される。ところが後日、坂口は感謝の気持ちからだと言って、それぞれに告げ口を始める。靖史は妻がツナ缶をスーパーで万引きしていると言われ、半信半疑で妻の後をつけたところ事実と分かり愕然とする。果穂には父が平日日中隣町の図書館にいるのを見たと言い、リストラを匂わす。図書館に向かった果穂は、父が本当にいて、彼女が良く知る男性から金銭を強請っているところを目撃する。真由子は、娘が駅前で待ち合わせした中年男性と歓楽街に行くのを見かけたと言われ調べると事実だった。果穂は、父親が強請っている相手と援助交際をしていて、「うちは親も犯罪者だ」と言っているのを聞いて真由子は自分の万引きのことをどうして知っているのかと驚く。
ある朝、新聞に坂口の交通事故死の記事が載り、警察の聞き込みに真由子は「ネコを探していたのでは」と答える。窓の外からじっと覗き見ているエリに気付いた真由子は「こそこそ人の後をつけるのが悪いんじゃない。ペラペラ喋るのが悪いのよ」とつぶやきそっとカーテンを閉めた。
 
どこにでもいる平凡な普通の家族に見えた三人が三人とも、他の家族に言えない秘密を抱えているという、日常に潜む不気味さがありました。
ラストで、彼らの悩みの種の坂口が消えますが、それは彼らの誰かが、または全員で「消し」たのかと考えると、より一層恐さが出るし、そのことで家族の絆が強くなっているようなのもやっぱり不気味でした。ネコがキーワードですね
 

・ムーンストーン
市議会議員の妻で一児の母の"わたし"は、夫が国政選挙に出馬して落選するまでは幸せなに暮らしていたが、夫のDVが始まり、娘を守ろうとして夫を殺してしまう。過剰防衛とみなされ逮捕された"わたし"の元へ、敏腕有名弁護士となった中学時代の女友達が訪れ「あなたを弁護したい」と申し出る。

"わたし"は、小学校時代、教師の心ない言葉であがり症となり、中学でも教科書の朗読が上手くできずいじめに遭っていた。孤立する"わたし"に、同級生の高坂小百合が優しく接してくれて、読書感想文の朗読コンクールに出るように強く勧められる。小百合は練習に付き合い、同級生を巻き込んで盛り上げ、"わたし"は2位入賞を果たす。これが自信となり、あがり症は少しずつ解消していった。

"わたし"は途中で主客が入れ替わります。というか、この話には主人公が二人いるんですね。弁護士になったのがあがり症でいじめられていた久美で、夫を殺したのが小百合でした。

小百合は、久美の無償での弁護を断ろうとしますが、久美の読書感想文の一節「友人を信じ、ともに戦おう」を思い出して弁護を依頼します。
離れていた時間があっても、二人の間には真の友情が育まれていたんですね。 
ムーンストーンは中学時代に二人が片方ずつ分け合った友達の土産のピアスの宝石を意味していました。
 
 
・サファイア
紺野真美は、幼い頃から何かをねだったり奢ってもらうことが苦手でした。そんな彼女が、旅先で中瀬修一と出会い少しずつ変わっていきます。
修一から口紅を贈られたことがきっかけで、メイクや服装にも気を遣うようになり、贈り物をする楽しみもわかってきて、修一の誕生祝いにオーダーメイドのカバンをプレゼントするのでした。自分の20歳の誕生日には、「指輪(誕生石のサファイア)が欲しい」と初めてのおねだりをした真美ですが、待ち合わせ当日修一は現れず、翌日彼が電車のホームに転落して死亡したことを修一の姉から知らされ、無傷だったカバンの中にあったというカードとサファイアの指輪を渡されます。何故転落したのか疑問を抱えたままの真美に、アパートの隣人のタナカがある事実を告げます。
それは、彼と修一は指輪を女性に売りつける悪徳商法のバイトをしていたというものでした。後日、売りつけた女性にばったり遭ったタナカは恨まれ文句を言われたというのです。もしかしたら修一もそうした女性に恨まれて背中を押されてしまったのかもと考えた真美は、警察にその話を伝えようとするが、修一の姉に止められます。弟の死を不運な事故死として悲しみを乗り越えようとしている両親を傷つけたくない、弟が悪徳商法に関わっていたと思いたくないというのが理由でした。真美自身が、誰かのせいにして恨んだ方が楽だからではないのかと言われると、自分がねだったことがバイトをするきっかけになっているので否定できません。死んだ人は帰って来ないし、故人の名誉を傷つけても誰も得をしませんから、その通りだと思います。姉にそう言われて引き下がるしかなかった真美ですが、喪失感と悲しみに打ちひしがれた彼女は「もう二度と欲しいなんて口にしない」と誓うのでした。

初めてねだったことが、恋人の死に繋がったという何とも重い話でした


 
・ガーネット
真美は、作家になっています。
恋人の死から立ち直れず自殺を図った真美ですが、タナカに救われます。しかし彼女は心配するタナカに「彼を返してくれないなら、私に二度と関わらないで」と拒絶し、タナカは姿を消してしまいました。
食品会社に就職した真美は、文章に気持ちを吐き出し小説家としてデビューしますが、会社で目立ってしまった彼女はイジメを受けるようになります。一人の先輩から大切な指輪を盗られた真美は抗議して返してもらったものの、階段から突き落とされ、諸々の恨みや復讐心で張り裂けそうな気持を小説に籠めて編集者に送りつけたところ、出版が決まります。それは復讐をテーマにした『墓標』という小説で、評価は二分されましたがヒットして映画化されることになりました。主演の麻生雪美との対談が設定され、彼女から、悪徳商法で、59万円の指輪(ガーネット)を購入させられたが、デザインも値打ちも低いものだったというエピソードを聞かされ動揺します。でも麻生は「こんな指輪が似合わないような自分になってやる」と奮起した結果今の人気を得たのだというのです。彼女はその指輪を売りつけた人物を恨むどころか感謝していると言います。どうもその相手というのはタナカのようで、二人は互いに惹かれ合いながらも距離を縮められずにいるようです。
その対談が掲載された後、1人の読者から手紙が届きます。内容から修一が売りつけた女性だということがわかりますが、相手を恨んではいないと書かれていて、更に修一の真美への気持ちにも触れられていました。商談中、交際している彼女はどんな存在かと訊かれた修一は、「彼女を通してみる世界が好きなのだ。自分の目に映る世界にまだ向こう側があることを教えてくれる存在かな。」と答えたのだと。
た。もう彼のことを夢見ることはないが、新しい本をカバンの中に入れておけば、読んでくれるのではないか、と真美は思っていた。
 
一話完結だと思っていたら、こちらは「サファイア」の続編になるんですね
恋人を突然奪われ、負のスパイラルに陥っていた真美は、作家として本に気持ちをぶつけることで何とか生きてきましたが、麻生や読者の言葉によって、頑なだった心がほぐされていきます。
夢の中で修一は、彼女が何か前向きになった時に限って現れます。彼は真美自身が作り上げた自分への励ましやご褒美なんですね。手紙を読んだその晩で、もう彼のことを夢見ることはないと思いながら、新しい本をカバンの中に入れておけば、彼は読んでくれるのではないかと真美は思います。後味はこの作品が一番良かったかも

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TENETテネット ネタバレあり

2021年02月17日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年9月18日公開 アメリカ 150分 G

満席の観客で賑わうウクライナのオペラハウスで、テロ事件が勃発した。罪もない人々の大量虐殺を阻止するべく、特殊部隊が館内に突入する。部隊に参加していた名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)は、仲間を救うため身代わりとなって捕らえられてしまう。昏睡状態から目覚めた男は、フェイ(マーティン・ドノヴァン)と名乗る男から“あるミッション”を命じられる。それは、未来からやってきた敵と戦い、世界を救うというものだった。未来では、〈時間の逆行〉と呼ばれる装置が開発され、人や物が文字通り、未来から過去へと進められるようになっていた。ミッションのキーワードは「TENET(テネット)」。このキーワードを使って、男は第三次世界大戦を防がねばならない。「その言葉の使い方次第で、未来が決まる」──。突如として巨大な任務に巻き込まれた男は、無事に任務を遂行することが出来るのか。

 

クリストファー・ノーラン監督オリジナル脚本の「現在から未来に進む“時間のルール”から脱出する」というミッションを課せられた主人公が、第3次世界大戦に伴う人類滅亡の危機に立ち向かう姿を描いたアクションサスペンス作品です。

彼は相棒となるニール(ロバート・パティンソン)と合流して、「時間を逆行する弾丸」の出どころが、ロシアの武器商人セイター(ケネス・ブラナー)だと突き止め、セイタ―の妻キャット(エリザベス・デビッキ)に接触します。彼女は贋作の絵をセイタ―に売ったことを脅され自由を奪われていました。彼女の信頼を得るため、オスロの空港の倉庫に保管されている絵を処分しようとしますが、正体不明の何者かと乱闘になり、失敗してしまいます。顔が見えない正体不明者の登場時点で、何となくその正体が察せられるんだよな~~

セイターの目的は時間逆行装置「アルゴリズム」を使い、地球全体の時間を逆行させること。「アルゴリズム」を開発した未来の科学者たちは、その危険性に気付き9つに分解して過去の様々な場所に隠していましたが、 セイターは8つまで手に入れていました。最後の1つ「プルトニウム241」をエストニアで手に入れますが、時間を逆行してきたセイターに奪われ、その際キャットが「逆行する弾丸」で撃たれてしまいます。彼女を治療回復時間を稼ぐため、二人は逆行してオスロの空港の倉庫に戻りますが、そこで過去の自分と鉢合わせして、正体不明の人物が自分自身だったと気付きます。>やっぱりね

 自分の死で「アルゴリズム」が起動するよう設定したセイターは、過去“14日”に戻り、自らの出身地スタルスク12で「アルゴリズム」を起動させようとしていました。それを知り、時間を順行する赤チームと逆行する青チームに分かれて、「アルゴリズム」の全てのピース奪還を試みる作戦が立てられます。

キャットはセイターとベトナムにバカンスに行った“14日”に戻って、セイターが自ら命を絶たないよう見張る役目につきますが、我慢が限界を超え、作戦成功の連絡が入る前にセイターを殺してしまいます。ん?そうするとどうなるの??

スタルスク12では、赤チームから独立して「アルゴリズム」を奪いに行った名もなき男とTENETの実働部隊指揮官アイブス(アーロン・テイラー=ジョンソン)がトンネルのなかに閉じ込められてしまいます。 彼らを救ったのは、バックパックにオレンジ色のコードを付けた青チームの誰かでした。しかし彼はセイターの部下に頭を撃たれてしまいます。「アルゴリズム」を奪うことに成功した彼らを青チームのニールが救出し、「アルゴリズム」は再びバラバラにされて過去に隠されることになります。別れ際、男がニールに彼らを過去に差し向けたのは誰かと尋ねると、ニールは未来の「名もなき男」本人だと告げて「また会おう」と去っていきますが、その背負ったバックパックにオレンジ色のコードが付いていることに気付くの。つまりニールが名もなき男の窮地を救った「誰か」なのですが、その後殺されてしまうことも男にはわかってしまうんですね。そしてニール自身も気付いている・・・いや~~複雑。

実は“14日”は冒頭のオペラハウスの事件の当日でもあります。いや~ややこしいぞ

事情を知りすぎたキャットは始末されると考えた男は、キャットが襲われる前に、彼女の命を狙うプリヤ(ディンプル・カパディア)を自らの手で殺します。

「無知こそ最強の武器」の意味は、 “知らない”ことでそれ以外の選択肢をとる可能性や自分の行動に制約をなくして新たな未来を築けるという考え方なんだそう。要は行き当たりばったりが良い結果を生むってことかしらん

タイムトラベルと異なり、時間を逆行しながら同時間に存在しているという点では新しい試みですが、難しく考えずに見ることが展開についていくコツなのかもしれないなぁ。

で、ニールの正体ってもしかしてキャットの息子?物語の中で一度も息子の名が出てこなかったし、デイバッグのオレンジ色のコード、息子にもなかったっけ?


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酔うと化け物になる父がつらい

2021年02月16日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年3月6日公開 95分 G

田所サキ(松本穂香)は、父のトシフミ(渋川清彦)、母のサエコ(ともさかりえ)、妹のフミ(今泉佑唯)と4人で暮らしている。どこにでもある、至って普通の家庭。よその家庭と違っていたのは、父がアルコールに溺れていることと、母が新興宗教の信者であること。田所家毎晩の一家団欒は、酔った“化け物”の介抱。毎朝家を出て仕事に行く時とは別人になって帰ってくる父を迎える日は、壁に掛けたカレンダーに赤いマジックで×印をつける精一杯のいやがらせをするのがサキの習慣だった。週末や夏休みも、記憶にあるのは酔った父の姿。プールに行く約束をしても、飲み仲間たちが家に押し寄せ、リビングはたちまち雀荘になってしまう。そんな中母はというと、せっせとお酒を作りながら、祭壇に向かって勤行。翌日、父は二日酔いでプールに行く約束はもちろん果たせず、酔っ払って床でクロールをしていた。クリスマスにサンタさんがやってくることを期待しても、2階のベランダから入ってきたのは酔って化け物になった父だった。高校生になったサキ。相変わらずお酒に溺れる父だったが、母はそんな生活に限界を迎え、父の誕生日に家族の前から消えてしまう。母がいなくなってしまったことで自分を責め、自分の気持ちに蓋をしていくサキ。お酒を飲むことをやめた父は、サキとフミのために晩御飯も作るようになる。しかしそんな日々も長くは続かない。新作ワインの解禁とともにお酒も解禁してしまう父。綺麗だったカレンダーにも赤い×印がだんだんと増えていき、再び毎日のように酔っ払って帰ってくるようになる。再び訪れる“化け物”との日常の中、サキが唯一楽しめたのは漫画を描いている時間。酔っ払った父のエピソードを描いた漫画は、親友のジュン(恒松祐里)やその友達にも好評で、サキにとって心の拠り所になっていた。高校を卒業したものの、自分の進路を見つけられないサキ。父の飲酒はエスカレートし、毎日記憶をなくすほどアルコールに溺れていた。いくらお酒をやめてと訴えてもまるで聞かない父に対して無関心になろうと決め、寂しさを恋愛で埋めるサキ。しかし、付き合った彼氏(濱正悟)はとんでもないDV男だった。「こんな自分でも好きって言ってくれる」と、自分の感情に蓋をして全てを受け入れ続けるサキ。ついにはプロポーズを受けてしまうが、自分は愛されていないということに気がつき、別れを決断する。恋愛や漫画に没頭し、父のことは考えまいと無視して過ごしていた数年の間に、病が父を蝕んでいた。医者が言い渡した余命は半年。突然でありながら、あっけない病気の発覚に何も考えられないサキ。そんな彼女に妹と親友が寄り添い、支えるが、父が借金を作っていたことを知り、今まで抱えていた気持ちをぶつけてしまうー。(公式HPより)

 

アルコールにおぼれる父を持った菊池真理子の実体験に基づいたコミックエッセイの実写映画化です。とはいえ、「うちの常識はいつだってよその非常識だった」が当てはまり過ぎて、とっても居心地の悪い時間になりました。

当事者にとっては、日常だけど、傍からみたらまさしく異常な世界で、周囲の人間も(もしかして薄々は気付いていながら見ない振りをしていた?)それが異常だと感じていないところが根の深さを思います。

母親は宗教に縋り、それでも救われないと気付いて自ら命を絶つ。そこには夫への愛も子供への愛もない。サキが生まれる前から酒乱の夫に愛想を尽かしていたのに何故別れない!と責めるのは簡単だけど、できないからこそ泥沼にはまっていくんですよね

そんな両親を見ていたら、心に蓋をするのも無理はない気がします。サキの恋愛相手もまた種類は違えど「化け物」。暴力を振るった後で優しくされずるずる関係を続けてしまうのも典型的なパターンですが、サキは直前で踏みとどまることができました。それって逆に家庭環境が彼女を止めたと言えるのかな?

妹はサキと正反対で明るく活発に育っているようで、姉妹でも思考回路が違うのかな~。人間的に唯一共感できるキャラです。

それでもサキには親友がいて、支え合える妹がいて、絵が上手くて家族をネタに漫画にして笑いに昇華することができただけ幸せなのかも。

父親は、根は善人ですが、ストレスを発散するすべがアルコールだったことが悲劇です。自業自得な死に方に同情はしないけれど、一つでも酒びたりの生き方を変える何かがあったら違っていたのかな~とも思いました。

いずれにせよ、やっぱりこの話は他人事の遠い世界だな。


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ジョジョ・ラビット

2021年02月12日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年1月17日公開 アメリカ 109分 G

第二次世界大戦下のドイツ。10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、空想上の友達であるアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)の助けを借りながら、青少年集団「ヒトラーユーゲント」で、立派な兵士になろうと奮闘していた。しかし、心優しい彼は訓練でウサギを殺すことができず、“ジョジョ・ラビット”という不名誉なあだ名をつけられ、仲間たちからもからかいの対象となってしまう。そんな中、母親(スカーレット・ヨハンソン)と2人で暮らす家の隠し部屋に、ユダヤ人少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)が匿われていることに気づく。やがて、ジョジョは皮肉屋のアドルフの目を気にしながらも、強く勇敢なエルサに惹かれていく。

 

タイカ・ワイティティ監督が第2次世界大戦時のドイツに生きる人びとの姿を、ユーモアを交えて描いた人間ドラマです。

ジョジョはこの時代のドイツの少年らしい潔癖さと純粋さでヒトラーを心酔しています。彼の父はイタリアに行っていて、姉のインゲは亡くなっているようです。母のロージーは息子を愛していますが、ナチスに傾倒していくジョジョに戸惑いを持っています。物語が進んでいくと、彼女は反ナチ運動に加わっていること、夫もそうであることがわかってくるのね。エルサを匿っているのもその一環なんですね。

ヒトラーユーゲントのキャンプで大怪我を負ったジョジョは顔に醜い傷(という割にはそれほどには見えなかったけど)が残り足を引きずるようになります。ロージーはジョジョをヒトラーユーゲントの事務所に連れて行き、事故のせいで降格されて事務局担当になっていたキャプテンK(サム・ロックウェル)に、自分が仕事の間ジョジョに仕事を与えて欲しいと頼みます。(頼むと言うより問答無用な勢いで、子供の怪我を学校のせいにするモンペみたいな迫力だったけど)キャプテンKはジョジョにヒトラーのスローガンのポスター貼りを頼みました。

この、キャプテンKことクレツェンドルフ大尉のキャラも、なかなかユニークです。戦場で負傷して片目を失っていますが、現実を冷静に把握していてドイツの敗戦の気配を察しながら諦めているように見えます。

エルサの存在を知ったジョジョは、通報しようとしますが、エルサに脅され口をつぐむことを強要されます。彼はアドルフに相談し、逆襲に出ます。「ユダヤ人の秘密を全部教えてくれたら、君を知っていることをママには言わない」と交換条件を出すの エルサは同意しますが、口から出まかせにユダヤ人の秘密を話します。頭には角が生えている。洞窟に住んでいる。夜にはコウモリのように天井からぶら下がって寝る。などなど、大人ならすぐに嘘とわかるでしょうけれど、ジョジョはすっかり信じちゃうんですね~~10歳の子供だもんね それからもロージーが不在の時に、エルサからユダヤ人の話を聞いては、熱心にメモを取って「本」を書くジョジョ。そういえば、日中いつも母親は不在で夜遅く帰ってくることも度々。これは反ナチ活動してるからなんですが、ジョジョは全く気付いていません

ロージーと散歩中、ジョジョは恋について聞かされます。お腹の中を蝶が飛び回る感覚というロージーの言葉が言い得て妙

鉄くず回収の途中で兵士になっていた親友のヨーキー(アーチー・イェーツ)と再会したジョジョは、家にユダヤ人がいたんだと明かします。密告される心配など露ほどもしてないところも子供だね。 ヨーキーは「僕も捕まえられたユダヤ人を何人も見たけど、思ってた感じと違かってみんないい人だったよ」と言いました。ユダヤ人は悪い人たちでは無いかもとジョジョは思い始めます。

エルサに色鉛筆をあげて、埃で汚れている彼女にお風呂を提供し姉の服を着せて食事を作っているところにゲシュタポが入ってきます。キャプテンKもやってきました。家の中を散々調べる彼らの前にエルサが現れジョジョの姉だと名乗ります。何とか事なきを得たのはキャプテンkの口添えがあったからです。(身分証の写真が別人であると知った上で庇ったんですね)

ところがある日、ジョジョは吊るされた人々(反ナチス運動で絞首刑)の中に母親を見つけます。ジョジョは靴紐が上手く結べずいつも母親に結び直してもらっていましたが、この場面で、母親の靴紐がほどけていることに気付いて結んであげるの。足元に縋って泣く姿が切なく印象に残ります。帰宅したジョジョはエルサに向かってナイフを振り上げます。やり場のない怒りと悲しみを彼女に寸の間ぶつけたのね

軍部が子供まで罰しようとしなかったのか、戦局がいよいよ危なくなっていたのか、ジョジョにお咎めはなかったようですが、生活は困窮していきます。やがて連合軍が街にやってきます。

戦いの最中、ヨーキーを見つけたジョジョは状況を聞かされヒトラーが死んだことを知ります。「知らないの?自殺だよ。ヒトラーは裏で色々と悪いことをやってたんだ。僕ら間違えてたかも」とヨーキーは言うんですね。彼もまた子供ながらに事の良し悪しを感じ取っているんですね。

混乱の中、軍服を着せられたジョジョはアメリカ軍の兵士に捕まってしまいます。つれていかれた場所には傷ついたキャプテンKがいました。彼は「お母さんは残念だったな。良い人だったよ」と優しく語り掛け、「お前は大丈夫だ。家に帰って姉さんの世話をしろ」と言って軍服を脱がせジョジョをユダヤ人呼ばわりして逃がしてくれました。めっちゃ良い奴じゃん! 

家に帰ったジョジョはエルサにドイツが勝ったと嘘をつきます。彼女の恋人のネイサンのふりをして書いた手紙も、本当はジョジョの恋心の現れでした。「一緒にパリに住もう」と書いた手紙を読むジョジョに、エルサは「ネイサンは去年結核で死んだ」と真実を話します。手紙が嘘だとわかっていて、お礼を言う彼女にジョジョは「実はさ、君を愛してるんだ」と告白します。「年の離れた弟でもいいよと誤魔化す徐々に「私も愛してるわ。弟としてね」とエルサ。

外へ出る準備をしていると(空想の)アドルフが入ってきて詰ります。そんな彼を思いっきり外へ蹴り飛ばすジョジョ。ヒトラー=ナチスとの決別です 二人が外に出るとアメリカ兵が大勢いて、アメリカ国旗もありました。ジョジョの嘘に気付いたエルサが、彼の頬を叩きますが、「それで、何がしたい?」と訊かれると、遠くから聞こえてくる音楽に合わせて体を動かし始めます。「自由になったらダンスがしたい」と以前話していたのよね~~。

エルサのほどけた靴紐をジョジョが結んであげるシーンは彼の成長を示すエピソードだし、以前ロージーと散歩した時に彼女が踊っていたこともこの時のエピソードの伏線になっていました。

ラストは二人で笑いながら踊る姿です。

戦争という異常な状況の中で、周囲から操作された思想や環境をそのままに受け入れていた少年が、やがて自分の頭で何が正しいのかを感じとり選択していく成長物語でもあり、淡い恋の話でもあります。時にユーモラスに時に切なく心に沁みる作品でした。


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パレートの誤算 ネタバレあり

2021年02月11日 | 

柚月 裕子 (著) 祥伝社(出版)

ベテランケースワーカーの山川が殺された。新人職員の牧野聡美は彼のあとを継ぎ、生活保護受給世帯を訪問し支援を行うことに。仕事熱心で人望も厚い山川だったが、訪問先のアパートが燃え、焼け跡から撲殺死体で発見されていた。聡美は、受給者を訪ねるうちに山川がヤクザと不適切な関係を持っていた可能性に気付くが…。生活保護の闇に迫る、渾身の社会派ミステリー!(「BOOK」データベースより)

 

山川亨は仕事熱心で物腰も柔らかな「あの人に限って悪いことをするはずがない」と誰もが思う人物でした。誰かに恨まれていたとか金銭や女性関係のトラブルの噂もありません。そんな彼が何故殺されたのか?山川の死の直前に一緒に昼食を取り、励まされていた聡美は、彼の仕事を引き継ぐことになります。

事件現場のアパートは入居者全員が生活保護受給者で、山川が担当していました。後任のケースワーカーとして焼け出されたアパートの住民に会いに行った聡美と同僚の小野寺は、安西佳子というアルコールで肝臓を壊して生活保護を受けている元水商売の女性の態度に不審を抱きます。山川は受給者たちの経歴を詳細に報告書に記入していましたが、内縁の夫の立木の存在については全く触れていませんでした。(もし受給者にパートナーがいる場合は生活保護が取り消される場合がある)さらに立木が暴力団「道和会」の構成員であることが判明します。

それ以外にも、行方不明になっている元住民の金田良太もまた道和会と繋がりがあり、アパートでヤクザらしき男と度々会っている姿が目撃されていました。なのに山川の報告書には何も書かれていませんでした。

さらに、山川がいつもしていた腕時計がかなり値の張る高級品であること、彼の趣味が高級腕時計のコレクションであることがわかり、彼が道和会の貧困ビジネスに加担していたのではないかと疑いを強める聡美と小野寺。状況証拠だけみれば当然の疑惑ですね。

ちなみに貧困ビジネスとは、低所得者の弱みにつけ込んで利益を得るあくどいビジネスのことで、例えば住むところのない生保受給者に場所を用意してやる代わりに、受給者が手にする生活保護費から大半の金を搾取していくなど。実際には狭い一室に何人も詰め込むような劣悪な環境なのだとか、調べを進めると、道和会の縄張りに住む受給者の多くが菅野病院で受診していました。居住場所から離れた個人病院にわざわざ受診するのは極めて不自然で、道和会が医療費を不正受給している証拠でもあります。山川がそのことに気付かぬ筈はなく、彼への疑いはますます濃くなります。

そんな時、金田から聡美に「これ以上、首を突っ込まないほうがいい」という忠告の電話がかかってきます。金田は聡美の兄の同級生で、昔からワルだったけれど、意外に優しいところがあり、不良に絡まれていた聡美を助けてくれたことがありました。(電話の直後に金田は殺されてしまいます

刑事の若林にも止められ、課長の猪又からは生保担当を外れるよう言われますが、聡美は諦めません。(いやいや、マジやばいでしょ

後任への引継ぎのため山川の作成したデータを整理していた聡美は、パスワードつきのフォルダを見つけて、データをUSBにコピーして若林に届けようとしますが、駐車場で何者かに拉致されてしまいます。

あまりにも早い「敵」の行動に彼女は小野寺を疑うんですね。これもまた流れ的には自然。

でも本当に道和会と繋がっていたのは課長だったという

山川の人物像を二転三転させておいて、実は一番悪い奴は日和見の事なかれ主義者に見えた人物だったわけね

絶体絶命な聡美ですが、そこからの生命力というか粘りの描写が凄い!自分だったら無理~~

同じころ、若林も、殺された金田が役所に何度も電話をかけていたことを知り、それが猪俣であることを突き止め、彼と道和会の繋がりに気付きます。若林たち警察の捜査は、スピードに乗り切れてない歯痒さも感じましたが、とりあえずギリギリ救出できたんだから、まいっか!!

猪俣は夜の店で女(安西佳子)に入れあげたことをネタに道和会に脅され不正受給に手を貸していたのです。山川にそのことを知られ、思い余って道和会に泣きついたところ、山川が殺されてしまったんですね。もはやここまでくると保身しか頭にない、狂ってます。しまいには聡美まで消してしまおうとしたんですから 

山川のコレクションは彼がネットオークションの売り買いでコツコツと集めたものであり、報告書に道和会の事を書かなかったのは猪俣の目に触れないようにという配慮だったのですって。

事件は解決し、初めはいやいやだったケースワーカーという仕事に対していつしか意欲と誇りを持って臨んでいく聡美と小野寺の成長物語にもなっていました。「生保は自分の力で生きていけない人の、社会的弱者と言われている人たちの最後の命綱だ。その命綱を、悪用する奴らを俺は許せない」という小野寺の言葉にもそれは現れていました。 まさしくその通り!!


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水曜日が消えた

2021年02月10日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年6月19日公開 104分 G

幼い頃の交通事故をきっかけに、ひとつの身体の中で曜日ごとに入れ替わる“7人の僕”(中村倫也)。性格も個性も異なる7人は、不便ではあるが、平穏に暮らしていた。各曜日の名前で呼び合う彼らの中でも、“火曜日”は一番地味で退屈な存在。家の掃除、荷物の受け取り、通院、、、他の曜日に何かと押し付けられて、いつも損な役回り。今日も“火曜日”はいつも通り単調な一日を終えると、また一週間後に備えて、ベッドに入る。
それは突然やってきた。“火曜日”が朝目を覚ますと、周囲の様子がいつもと違うことに気付く。見慣れないTV番組、初めて聞く緑道の音楽…そう、“水曜日”が消えたのだ。
水曜日を謳歌する“火曜日”だったが、その日常は徐々に驚きと恐怖に変わっていく。残された“火曜日”はどうなってしまうのか―。(公式HPより)

 

中村倫也が7つの人格を演じ分ける作品と思っていましたが、実際には火曜日の僕がメインで、後半に月曜日の僕が登場し、あとの曜日は最後の方でちょっとだけでした。映画を一度観ただけでは、細部がわからなかったので小説のネタバレを拾い読みして納得!小説を先に読んでおけば良かったかな~~。

一週間に一日しか記憶がないって、どう考えても生活に支障が出てしまうと思うけれど、彼らは何とか折り合って生きています。唯一の友達はなぜかやたら構ってくる一ノ瀬(石橋菜津美)だけ。

ところが突然「水曜日」が消えてしまいます。火曜日にとって、飲食店が定休日で図書館も閉館日で、通院日でもある自分の曜日以外の曜日を経験することは新鮮な驚きと喜びに満ちていました。そこで彼は図書館司書の瑞野(深川麻衣)の笑顔に恋をします。

翌週の水曜日の朝も目覚めたのは火曜日でした。一ノ瀬に背中を押され、勇気を振り絞ってデートに誘い、翌週のデートが実現します。映画を観た後で瑞野さんに「初めて会った時のことを覚えていますか?」と聞かれます。話を聞くうちに、彼女が好きになったのは水曜日の「僕」だったと気付くのです。「僕」の意識は正体不明の異常に襲われます。何とか家までたどり着いて薬を飲んでベッドに倒れ込み・・

目覚めたのは翌週の火曜日です。先週の異変を報告しに主治医の安藤先(きたろう)の研究室を訪れたら、先生はいなくて、教え子の新木(中島歩)から、先生がこれまでデータに手を加えて「僕」が治らないようにしていたと聞かされます。

驚きながらも、自分の異変について話すと、新木は人格の自然淘汰が起きているのだと言います。でも手術をすれば7つの人格が統合され、それぞれの記憶も受け継がれると。でも人格が一つになるってことは、全く別の「僕」が生まれる可能性もあるのです。

悩む僕に決意をさせたのは水曜日が引き出しに入れていた図書館の掲示物の飾り切りでした。不器用な水曜日が一生懸命作ったそれを目にして、「僕」は水曜日の気持ちをこのまま消し去ってはいけないと思ったのです。

ところが「僕」の前に月曜日がスマホの画面から語り掛けてきます。酒やたばこ、ベッドに見知らぬ女や男まで連れ込み、やりたい放題な月曜日は既に金曜・土曜・日曜を乗り越えていたのです。(釣り好きな日曜日がスーパーのアジを魚拓にしていたり、土曜日のボードゲームが止まっていたりといった細かいところで伏線が張られていたりします。)

手術に反対する月曜日でしたが、「僕」が16年前の事故の記憶を思い出したことで事態が変わります。

引っ越しの日、車の中で同級生から貰った防犯ブザーを鳴らしたことが事故のきっかけとなったこと、事故の原因を作ったのは自分であり、そのブザーをくれた子が一ノ瀬だったこと。事故の原因が自分が贈ったブザーだと知った彼女が、自分のせいで僕らがこんな身体になったと罪悪感を持っていること・・・。

彼女は他の曜日にも同じように訪れて世話を焼いていたのです。もちろん月曜日にも

たったひとりの大切な友人、自分のせいで罪悪感に囚われている、小学生の時に好きだった女の子・・・彼女を助けるため、全ての曜日の同意をとって手術を受けた「僕」の意識の中で、それぞれの曜日が断片的に登場します。 ジョギングをしてシャワーで汗を流す水曜日。絵を描く木曜日。植物に水をやる金曜日。ゲームをする土曜日。車で釣りに行く日曜日。仲間と野外演奏会を開き、コントラバスを弾く月曜日。

二週間ぶりに尋ねてきた一ノ瀬に火曜日は「あれからずっと一人」と答えます。でもね、実は彼らは7人のままなのね。

エンドクレジットでは各曜日の付箋が登場します。 火曜日が車を買い、各曜日が傷をつける。虫歯ができ、火曜日が歯医者に行く事になる。各曜日が一ノ瀬との関係を聞くけれど、火曜日の付箋は白紙です。 

現実的にはありえない結末だけど、ファンタジーとしては許せるかな


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君がくれたグッドライフ

2021年02月06日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2016年5月21日公開 ドイツ 95分 PG12

ハンネス(フロリアン・ダービト・フィッツ)と妻キキ(ユリア・コーシッツ)は、昔からの仲間たちと毎年恒例の自転車での旅に出ます。行き先を決める当番の彼らが選んだのはベルギー。仲間たちはベルギーには見どころがないと不満を漏らしつつ出発します。旅の途中でハンネスの実家に寄り食事を共にしている時、ハンネスの母(ハンネローレ・エルスナー)が急に涙ぐみます。訝る仲間たちにハンネスは今回の旅の目的を明かします。実はハンネスは亡き実父と同じ筋委縮性側索硬化症(ALS)を発症して余命わずかであり、尊厳死が法的に認められているベルギーで死を迎えることを決めていました。突然の告白に仲間たちは激しく動揺しますが、彼の思いを受け入れて旅を続けます。旅の間にもハンネスの容体は悪化していきますが、それでも子供のようにはしゃいで楽しい時間を過ごしますが・・・

 

不治の病を宣告された男性が妻や仲間とともに旅を通じて命と向き合う姿を描いたドイツ映画です。

夫婦が一緒に旅する仲間は、ハンネスの親友のミヒャエル(ユルゲン・フォーゲル)、ドミ(ヨハネス・アルマイヤー)とマライケ(ヴィクトリア・マイヤー)夫婦、ハンネスの弟のフィン(フォルカー・ブルッフ)です。途中でミヒャエルが出会った若い女性ザビーネ(ミリアム・シュタイン)も合流します。

旅の始まりに立ち寄ったレストランで恒例の「課題」を出し合うのですが、これがとんでもない内容だったりするの 高所からのダイビングなんて可愛いもんで、女装するだの職権乱用で法を犯すだの、エホバの証人の信者を殴るとか、挙句に乱交って しかもそれぞれちゃんとクリアするあたりも凄い

本人が決めた事を尊重し、残りの時間を悔いなく過ごせるよう、普段通りに振る舞い、時には子供に返ったようにはしゃいでもみる仲間たち。

ハンネスの父親の闘病生活で家族や周囲の人たちの苦労も知っているからこそ、軽々しく反対もできず、かといって大切な人との別れの日が確実に迫っていることへの怖さや何もしてやれない無力さに揺れる心を抱えながら遂にベルギーの国境まできます。

ザビーネとはここで別れ、一行は約束の医師を訪ねますが、何と彼は全日に事故に遭っていました。代わりの医師が翌日対応することになり、ハンネスは最後の夜をキキと二人で過ごします。雨の中、ハンネスへの「課題」であるダンスを踊るシーンが切なく美しいです。

翌日、家族や仲間たちに見守られながら、キキの腕の中で安らかに息を引き取ったハンネス。1年後、ベルギーの浜辺に集まった仲間たちがハンネスを偲びます。浜辺に書かれた文字「HANNES WAS HERE(ハンネスはここにいた)」が映し出され・・・END

尊厳死が認められている国で、自らの意志で死を選んだハンネス。自分が同じ立場なら、まして父親が同じ病で亡くなっているなら、やはり同じ選択をするかも。自分の身近な人たちに苦労をかけたくない気持ちは痛いほどわかります。

でも逆の立場だったら・・・少しでも長く一緒にいたいと思うんじゃないかな~~。納得して「どうぞお逝きなさい」なんて言えないなぁ

それでも、あのラストシーンは、見送った側の人たちが彼の意志を受け止めた上で、自分たちの生を生きていることの証になっているのかも。


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駅までの道をおしえて

2021年02月05日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年10月18日公開 125分 G

ヤカ(新津ちせ)は、赤い電車が通る湾岸の街に両親(坂井真紀、滝藤賢一)と暮らす8歳の少女。臨海学校に出かけた数日の間に愛犬のルーがいなくなったことが受け入れられず、ルーと一緒に過ごした場所を訪れては、その姿を探している。る日、サヤカはかつてルーに導かれて見つけた、線路の跡が残る原っぱで一匹の犬と出会う。犬はすぐに姿を消すが、数日後、近所の喫茶店の前につながれていた。サヤカは、見るからに頑固そうなマスターのフセ老人(笈田ヨシ)に、犬の名前はルースで、ルースの方から店にやってきたのだと聞かされる。時の止まったようなジャズ喫茶を営むフセ老人もまた、数十年前に幼くして亡くなった息子の死を受け入れられずにいた。がてサヤカは喫茶店に通うようになり、ルーの思い出話をしたり、フセ老人の息子コウイチロー(佐藤優太郎)の話を聞いたりするうちに、フセ老人と打ち解けていく。サヤカは、フセ老人が待っているという大切な「何か」を、ただ待ち続けるのではなく、一緒に探しに行こうと提案する。末。サヤカとフセ老人とルースは海に向かった。「何か」とは一体なんなのか?そして二人は「何か」を見つけることができるのだろうか?(公式HPより)

 

少女と老人の出会いと友情を描いた伊集院静の同名短編小説の映画化です。有村架純が10年後のサヤカとしてモノローグで出演しています。

人生で避けて通れない、死=愛する者との永遠の別れを少女の視点で綴っていて、誰かと悲しみを分かち合い、正面から向き合ってまた新しい何かを築く姿が描かれます。映画で描かれている赤い電車は京急ですね 

サヤカを演じている子がとにかく可愛いかった 

でも細部の設定は特に現代においてはちょっと危なげで、本編とは無関係ながら気になる~~

少女が一人だけで誰もいない場所に出かけたり、暗くなるまで外にいるのって絶対危ないよね フセさんと出かけた時も両親には何も断っていないし、出かけた後も「秘密」のままで両親もそれ以上突っ込まないしなぁ。

病院での若い看護師のサヤカへの接し方も問題ありです。看護師長(余貴美子)の対応が正しいよね。

ペットを飼ったことがある人、ペットの死を経験した人の方がより一層共感できると思うけれど、個人的にはルーやルースが少女の顔をペロペロなめ回すのが気になってしまいました。 

一種のファンタジーなので、コウイチローが現れる海辺のシーンがとても良かった

フセさんが亡くなって、秘密の場所に出現したプラットホームでサヤカが「私も連れて行って」と叫ぶシーンも彼女の哀切が伝わってきました。

喪失を肌身に感じた後に、いなくなっていたルースが現れて、サヤカが再び前を向いて歩きだす姿が印象的でした。

それにしてもサヤカの言葉遣いの丁寧さ、礼儀正しさは、際立っていますね。

彼女は背中に大きな痣(火傷痕?)があり、友人が出来ない一因になっているようです。映画では愛犬との突然の別れを受け入れられずにいた少女の心の整理が主眼のため、そこにはさらっとしか触れていないけれど、原作はもう少し掘り下げているのかな?

サヤカはルースと再び二人だけの世界に籠ってしまうのか、それとも友人を受け入れようとするのか、ちょっと気になりました。


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『罪と罰』を読まない

2021年02月03日 | 

著者:岸本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美 

文藝春秋(出版)

「読む」とは、どういうことか。何をもって、「読んだ」と言えるのか。ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことがない四人が、果敢かつ無謀に挑んだ「読まない」読書会。(「BOOK」データベースより)

 

罪と罰を読んだことがない作家4名が集まって、それぞれの曖昧な記憶と拾い読みしたわずかなページからの情報で、物語を推理していくという、居酒屋雑談感満載の座談会の様子を書いています。

全員が作家ですから、物書きの視点での推理と、それぞれの作風の個性が出ていて楽しめました。とはいえ、私は彼らの作品を全く読んでいないのですが 一人でも作品を知っていてその作家の読者であれば、より一層面白く感じたかも

ドフトエフスキーの「罪と罰」・・・遠い昔に児童文学全集で読んだような記憶がかすかに残っている・・かな

金貸しの老婆を身勝手な理由で殺した青年が、次第に罪の意識に囚われていったような・・・なんか大地にキスして最後は自らの罪を告白したような・・・おぼろげな記憶しかありません。この時点では4人の作家さんと同程度の知識です。

作家たちが作者である偉大なロシアの作家をドストと略して読んでたり、登場人物たちのこともラスコ(ーリニコフ)、スベ(スヴィドリガイロフ)と略した挙句、マメや猿や(松岡)修造なんて呼び始めてしまいます。これが妙にはまっていて可笑しいの

散々推理した後で、本編を読むんです、この4人。え?読まないんじゃなかったのかい でも、読まなければ推理が当たっているか外れているかわからないから、やっぱり読むのは必然なんですよね。

中盤に小説のあらすじが載っているのですが、噛み砕いた文章が面白くて、こっちだけでもいいやと思ってしまったぞ

後半は、それぞれが読んだ感想と自分の推理を考察したり、推しキャラを熱く語っています。

特に三浦しをんさんの初めの推理(というか妄想)がぶっ飛んでて、読後もテンション高く語っています。

これを読んだ後のラスコーリニコフ像は、中二病のすぐぶっ倒れて、すぐ逃げ出す頭でっかちなニートになっちゃったぞ

全く覚えていなかった登場人物、例えばソーニャの義母のカテリーナを絶賛推してたり、スベの人物像を上方修正してたり、ラスコの妹のドーニャがモテモテだったり、金貸しの老婆の義妹がしょっちゅう妊娠していると描写されてたり・・・これだけでも本編ちゃんと読んで見ようかなと思わされるのですが、ポルフィーリ=片岡愛之助、ルージン=スティーブ・ブシュミ、スベ=ヴィゴ・モーテンセンを当てて語っている場面で、あ~この配役で映画で観たい!と いや、ありえませんが

現代の犯罪摘発能力とは比べようもないけれど、結局ラスコの自白がなければ冤罪が生まれてたようだし、2人も殺しておいて8年の実刑で済むのも何だかな~。シベリアは過酷な地なので、そこでの重労働はただ刑務所に収監されるより遥に辛いのでしょうけれど、ソーニャも、後に母や妹たちもついていくってどうよ?なわけで・・・う~~ん、やっぱり一度はちゃんと読み通すべきかも。

小説でも映画でも、仲間と直接向き合って感想を寄せ合い話し合うというのは最高の楽しみ方だよねって改めて思います。コロナ禍、憎し!


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SHADOW 影武者

2021年02月01日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年9月6日公開 中国 116分 PG12

残虐な戦や権力抗争で、命を脅かされていた王や貴族は、密かに身代わりを仕立て、それを“影”と呼んだ。

弱小の沛〈ペイ〉国は、領土の境州を奪った強大な炎国と休戦同盟を結んだが、それから20年、国民はいつまた攻めてこられるかと脅える日々を送っていた。沛国は若き王(チェン・カイ)を筆頭とする平和派と、重臣の都督〈トトク〉(ダン・チャオ)に従う開戦派に分かれていた。
ある時、都督は王の許しを得ず、炎国の楊蒼〈ヤン・ツァン〉将軍に境州での対決を申し込む。王は激怒するが、高貴で知略に富み、国民からも尊敬される都督を前にすると、責める言葉もなくなっていく。先王が早死にし、妹と二人の自分が王位に就けたのも都督のお陰だった。王は矛先を変えて、琴の名手と称えられる都督と妻の小艾〈シャオアイ〉(スン・リー)に合奏を命じるが、小艾は「境州が戻るまで琴は弾かないと天に誓った」と頑なに拒むのだった。
それもそのはず、王の前にいるのは都督の影武者だった。母と生き別れになり、飢えて行き倒れていた8歳の彼を都督の叔父が拾ってきて、影武者へと育て上げたのだ。1年前、都督が刀傷から病になったことを隠すために、いよいよ影武者の登場となったのだが、顔が瓜二つの彼に王さえ騙されていた。境州の奪還計画を進める都督は、影武者に「楊蒼を殺せば、自由の身だ」と約束する。
翌日、影武者は都督の筋書き通り、楊蒼に宣戦した己に厳罰を下すよう王に求める。王は彼を無官にすると、「今後、境州奪還を口にする者は斬首だ」と宣告する。それに対して影武者は、「私はもう一介の民。境州に行き、楊蒼と対決しても、殿とは無関係」と返す。都督の待つ館へ帰った影武者は、どんな相手も三太刀で必殺と言われる最強の楊蒼との対決に向けて、傘を武器にした技を磨くのだった。
王は和平のために、妹の青萍〈チンピン〉を楊蒼の息子に嫁がせようとする。だが、その返事は「姫を側室に迎えたい」だった。「それも一つの手立てだな」と答える王に、我慢も限界となった家臣の田戦〈ティエン・チャン〉(ワン・チエンユエン)が、「殺してやる! 楊父子の野郎め!」と叫び、王に「屈辱に甘んじるなら、殿の代で国は滅びます」と注進する。だが、王の心は変わらず、田戦は官職を解かれるのだった。
「私にも案が」と、特訓に行き詰った夫と影武者に申し出る小艾。女性の身体のように柔らかく傘を使ってみてはどうかというのだ。まさに柔をもって剛を制す、小艾のしなやかな動きが、都督の豪壮な攻撃をかわすことに成功、小艾はその技を影武者に叩きこむ。
約束の日が近付き、各々の思惑が交差していく。小艾は同情が愛へと変わっていった影武者の身を案じ、都督は忠実な家臣である田戦を呼び寄せ、“本当の作戦”を打ち明けて参戦を命じる。王は傷ついた青萍に「捨て石は誰だ?」と意味深な言葉をつぶやく。そして影武者は、都督の館での最後の夜に、小艾にある重大な告白をする。
遂に対決の時が来た。今、影武者は一人で、大軍の待つ敵地へと向かう──。(公式HPより)

 

チャン・イーモウ監督が「HERO」「LOVERS」の主要スタッフと再び組み、「三国志」のエピソード「荊州争奪戦」を大胆にアレンジして描いた武侠アクションです。脚本もチャン・イーモウとリー・ウェイの二人で書き上げています。中国の水墨画からインスパイアされた光と影のグラデーションが織りなす映像も美しく、視覚効果とCGをほとんど使わずに作り上げたというリアリティ溢れる生身の戦闘シーンも圧巻でした。

都督とその影武者の一人二役を演じたダン・チャオは、初めに筋骨隆々の肉体美を作り上げて過酷な特訓と激しい格闘シーンの続く影武者パートを演じ、次にそこから20kgの減量をして刀傷に病み瘦せ衰えた都督役を演じています。都督の王位への野心と妻と影武者の関係を疑い嫉妬する様は鬼気迫っていて圧倒されました。プライベートでもダン・チャオと夫婦なスン・リーも、夫への変わらぬ敬愛と、若々しく強靭だった頃の夫と瓜二つの姿で自分は何者かと苦悩する影武者への想いと、二人の男の間で揺れる小艾の切なくも悲しい女心を演じているのも見応えがありました。

沛王は軟弱で意気地なしなようで、実は狡猾さを持ち権力を巡る駆け引きの黒幕だったりと、最後のどんでん返しまで目が離せません。

小艾が女性のしなやかさを利用した傘の使い方を提案して、影武者に教えるシーンはまるで舞を踊っているかのように美しく、田戦と共に敵地に侵入した青萍たちが武器とした武器と化した傘を使った布陣にも圧倒されました。こういう戦いのスタイルは西洋にも日本にも真似できない様式美がありますね

それにしても、刀で斬られ、刺されて満身創痍で立ち上がることさえままならない筈なのに、お前は不死身か!!な影武者でした 

最後の勝者は彼なのか?目の前で夫を殺された小艾は影武者を受け入れることができたのか?気になるぞ


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