杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

かがみの孤城

2023年05月12日 | 
辻村深月(著) ポプラ社

どこにも行けず部屋に閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然、鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先の世界には、似た境遇の7人が集められていた。9時から17時まで。時間厳守のその城で、胸に秘めた願いを叶えるため、7人は隠された鍵を探す―(あらすじ紹介より)

映画公開時に興味を持ったものの都合つかず見送った作品なので、原作の方をまず読むことにしました。迷宮脱出系かと思っていたけど全然違った!
大人にもイジメはあるけれど、それが自分の全てではないと思うことができます。けれど学齢期の子供にとっては学校と家が世界の全てで、一旦拒絶された(理解されない)と感じると逃げ場がなくなってしまうのです。その辛さ、苦しさがひしひしと伝わってきて居たたまれない気持ちにさせられますが、登場する7人は互いを知ることで「仲間」ができ、俯いていた顔を上げて前に進む勇気を得ていくにつれ、逆に希望を感じることができました。

こころは、中学生になってすぐ、いわれのない理不尽な理由で同級生から酷いイジメを受けて不登校になります。母が勧める子供育成支援教室(フリースクール)にも通うことができず、部屋に引き籠もる生活を続けていた5月のある日、自室の鏡が光って中に吸い込まれるところから始まるのですが、そこに建つ孤城には自分の他に狼面の謎の少女「オオカミさま」により6人の似た境遇の中学生リオン、フウカ、スバル、マサムネ、ウレシノ、アキが集められていました。

オオカミさまは「願いの鍵」を見つけた1人だけが願いの部屋へ入ることができ、どんな願いでも叶えられると言います。孤城に来て良いのは日本時間の(ここ、大事)午前9時から午後5時までで、5時以降に残っている者が1人でもいると、その日いた全員が連帯責任で狼に喰われてしまう。さらに誰かが願いを叶えて城から出た時点で全員の記憶が消えるというのです。

この時間に孤城に来られるということは学校に行っていないということと、こころたちは暗黙のうちに互いに深く干渉しないよう振舞います。

中学3年生のアキは明るいくお姉さん的な存在ですが、気が強くて思ったことは遠慮なく口にして険悪になる時もあります。こころとフウカをお茶に誘って、紅茶と可愛いナプキンを用意する気遣いをする一方で、彼氏ができたと自慢してこころたちを引かせたりもします。アキは部活の後輩に厳しく接したことで陰口を叩かれるようになり不登校になっていました。祖母の葬儀で制服を着ていた時に義父から逃げ出して城に現れたことでメンバーの共通点(同じ中学だった)が判明します。

スバルも中学3年生。背の高い色白そばかす顔で、こころは密かに『ハリポタ』のロンに似ていると思います。ずっと城に来ていなかったこころに最初に声をかけ温かく迎えてくれます。マサムネと仲が良くて彼が持ち込んだゲームでよく一緒に遊んでいる彼は紳士的で優しい男の子ですが、中盤で髪を金髪にして皆を驚かせます。
スバルは両親が離婚し祖父母に引き取られていました。
「イケメン」の意味がわからないというエピソードも伏線になっていました。

マサムネは中学2年生。生意気で理屈っぽいため他人と衝突しやすい男の子。ゲームおたくで頭は良いけれど噓つきのため、学校でホラマサと呼ばれていじめられ、不登校になりますが、両親の方針(公立中学には通わせない)で学校には行かず塾に通っています。こころがゲームをやると知って喜んだものの、RPGをしない理由を聞いて怒り出します。根っからのゲームおたくなんですね。

フウカも中学2年生。眼鏡の声優声の女の子です。母に連れられて行ったピアノの体験教室で才能があると言われたことからピアノ漬けの小学校時代を送りますが、そのため友だちもできず、学校の勉強にもついて行けなくなり、さらにコンクールでランキング圏外になるなど伸び悩んで不登校になります。

リオンはこころと同じ中学1年生。イケメンで明るく気さくで穏やかな性格です。
サッカーが好きでハワイへ留学しているのですが、本人は日本の公立中学へ行きたかったと思っています。ルール説明の時に「日本時間で」と言ったのは彼のためですね。姉のミオは彼が6歳の時に病死していて、姉にかかりっきりだった母との関係が微妙なようですが、クリスマスには母の手作りケーキを持参します。彼だけが城の秘密に薄々気付くのですが、メンバーには言わずに胸に秘めていました。

ウレシノも中学1年生。小太りで食べることが大好き。恋愛気質で惚れっぽい彼はアキ、こころ、フウカと次々に告白しては振られます。女子からは内心呆れられ、男子からはからかわれ、内心傷ついています。初めはどうしようもない奴に見えた彼も、実は優しい子だとわかってきます。

最後にこころ。
大人しい彼女は内気な性格で、特に取り柄もない自分に自信が持てずにいます。物事をネガティブに考えてしまうこころですが、城のメンバーと交流するうちに徐々に変わっていきます。転校生で家が近所の東条 萌と友だちになったのも束の間、真田美織から彼氏に色目を使ったと言いがかりをつけられイジメが始まります。トイレを覗かれたり家まで押しかけてきたりの描写は大人の自分が読んでも恐い!!ストレスから腹痛を起こし不登校になったこころですが、両親に本当のことを言えずにいました。
娘を心配しながらも理由がわからず悩む母の気持ちもわかるな~~。担任の伊田先生 は、真田美織の言い分を鵜呑みにするばかり・・こういう事なかれ主義の奴、いるよな!!😡 フリースクールの喜多嶋先生 だけはこころに「学校に行けないのはあなたのせいじゃない」と声をかけ優しく見守ってくれます。

城で過ごす日々が過ぎて行くうち、鍵を見つけたら皆で願いを話し合ってからくじ引きかジャンケンで願いを叶える者を決めようということになります。

夏休みの終わりに、ウレシノは二学期から登校すると宣言して城に来なくなりますが、中頃に怪我をした姿で再び現れます。そんな彼に何事もなかったかのように接するメンバー。この時、彼の名前がハルカであること、フリースクールに通っていることが明かされます。ウレシノは友だちが自分を尊敬したり機嫌を取ったりしてくれるのが嬉しくてお菓子やジュースを驕っていたのですが、それが親にバレたことで友だちが離れていきイジメが始まったのでした。始業式の日、友だちと思っていたのは自分だけだったと気付いた彼が思わず手を出して逆に怪我をさせられたわけ。

11月。アキが着て来た制服を見たメンバーは、リオン以外の全員が同じ雪科第五中
の生徒だったと知ります。仲間が同じ中学にいると知った彼らは自分は独りじゃないんだと勇気づけられます。
親から私立中への転校の話を聞いたマサムネは、せめて3月までメンバーといたくて(同じ中学という括りから外れたら城に来れなくなると考えた)1月の始業式一日だけ登校して欲しいとリオン以外の皆に頼みます。しかし、当日こころが登校すると全員と会えず、さらにそのような生徒は在籍していないと言われます。それは他の皆も同じだったのです。マサムネは自分たちがパラレルワールドの住人同士なのではと推測します。それでは城が消えても互いに会う事は叶わないと皆落胆します。

城が閉じる前日。学校に心がいじめられていたことを話したのは萌だったと聞いて、こころは東条萌の家に誘われ話す機会を得ます。彼女は助けてあげられなかったことを謝罪し、自分もイジメの標的になったことを告白します。でも転校の多かった彼女はクラスの関係だけが全てではないと割り切っていました。そんな萌ともっと早くわかりあえたかったと思うこころが家に戻ろうとすると部屋から異様な光と音が。鏡が割れていました。生きる意味を見出せなくなったアキが5時を過ぎて城に残ったため、城に来ていた6人が連帯責任で狼に食べられてしまいます。アキ以外の5人からのSOSとヒントを受け取った心は、急いで萌から『7匹の子山羊』の絵本を借りると残っていた鏡を通って孤城へ入ります。以前メンバーが見つけていた✖印に触れたこころはそれぞれの記憶の断片を見ます。(『ハリポタ』の憂いの篩みたい)これにより、パラレルワールドではなく時間軸が違っていたことに気付くのね。自分が7匹目の子山羊だと自覚し、大時計の中の「願いの鍵」を手にしたこころは、皆が戻ってくるよう願い、他の5人と願いの部屋の中のアキを引っ張り出します。

願いが叶うと城を出た後の記憶は消されますが、彼らはそれぞれの時代を確認し合い、フルネームを伝えて城を出ていきます。
リオンはオオカミさまが死んだ姉ミオだと薄々感じていました。最後にオオカミさまに感謝の言葉を伝えたリオンは、自分だけは孤城で過ごした記憶を残して欲しいと頼み、オオカミさまは善処すると言って仮面を外してリオンに微笑みかけます。

4月。こころは学校へ行く決心をして登校します。別の中学に移るのではなく雪科第五中学の2年生になったのです。門の前で転校生のリオン(水守理音)に声をかけられたこころは彼を知っている気がしました。

子供育成支援教室の喜多嶋先生は成長したアキでした。彼女は後の夫となった喜多嶋医師の患者のミオに勉強を教えていたのです。初めてこころに会った時、「とうとうその時が来た」と思います。願いの部屋からアキを引っ張りながら「私たちは助け合える!会えるよ!だから頑張って、大人になって!」と叫んだこころとリンクするラストです。

オオカミさまの正体がわかると、リオンとミオの病室での会話や窓辺に置かれていたドールハウス、「赤ずきんちゃんたち」という言葉のフェイクなど、あちこちに伏線が張り巡らされていたことに気付きます。ただしパラレルワールドではなく時間軸が異なっていることは、マックの位置や施設の名前やクラス数などわかりやすいヒントがあったので割と早い段階で気付いてしまいましたが(^^; 

敵に囲まれて身動きが取れなくなっている城を意味する「孤城」に心に傷を抱えて不登校になっている7人を重ねています。独りじゃないよ、仲間がいるよ、助けてくれる大人がいるよ、と今苦しんでいる誰かにも伝えてあげたくなる物語でした。

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