杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ベネデッタ

2023年07月30日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年2月17日公開 フランス 131分 R18+

17世紀イタリア。幼い頃から聖母マリアと対話し奇蹟を起こす少女とされていたベネデッタは6歳で修道院に入る。純粋無垢なまま成人したベネデッタ(ヴィルジニー・エフィラ)は、ある日修道院に逃げ込んできた若い女性を助ける。様々な心情が絡み合い2人は秘密の関係を深めるが、同時期にベネデッタが聖痕を受け、イエスに娶られたとみなされ新しい修道院長に就任したことで周囲に波紋が広がる。民衆には聖女と崇められ権力を手にしたベネデッタだったが、彼女に疑惑と嫉妬の目を向けた修道女の身に耐えがたい悲劇が起こる。そして、ペスト流行にベネデッタを糾弾する教皇大使の来訪が重なり、町全体に更なる混乱と騒動が降りかかろうとしていた…。(公式HPより)


幼い頃からキリストのビジョンを見続け、聖痕や奇蹟を起こして民衆から崇められた一方、同性愛の罪で裁判にかけられた修道女ベネデッタ・カルリーニ。男性が支配する時代に権力を手にした彼女がおこした奇蹟は本物か、それとも狂言か。彼女に翻弄される人々を描いたセクシュアル・サスペンス(公式HPより)な本作の監督が「氷の微笑」のポール・バーホーベンと知って思っていた内容と違うのも妙に納得😓 

両親とペシアの町の修道院へ行く途中、聖母マリアに祈りを捧げている途中に傭兵崩れの盗賊たちに襲われた6歳のベネデッタは、奪われた母のネックレスを返さないと聖母が罰を与えると叫びます。次の瞬間、鳥の落とした糞が盗賊の1人の顔に命中。笑い出した男たちは少女の勇敢さに感心しネックレスを返して去って行きました。

テアティン修道院に到着し、修道院長のフェリシタ(シャーロット・ランプリング)と、イエスの花嫁となる娘の「持参金」を巡って交渉した父ですが、したたかな院長の前に彼女の望む額の寄進を約束します。
修道院って誰でも受け入れるんじゃないのね😮 しかも金次第って・・。

ベネデッタは粗末な衣服を与えられ、母から貰い大切にしていた木製のマリア像は引き出しに仕舞われてしまいます。深夜、寝床を抜け出し廊下にあるマリア像に祈りを捧げていたベネデッタに、突然マリア像が倒れかかってきます。下敷きになったベネデッタは思わずマリア像の胸にキスをします。物音を聞いて集まってきた修道女たちは、ベネデッタが怪我一つしていないのを奇蹟だと騒ぎましたが、院長は奇蹟は簡単に起きないと否定します。

18年後。美しく成長したベネデッタは、宗教劇を演じている中でイエスの姿を見ます。劇の後、両親ら賓客とフェリシタ院長、ペシアの主席司祭アルフォンソ(オリヴィエ・ラブルダン)や修道女たちと食事を共にする中で、最近ペストで亡くなったミラノ司教の話題が出ます。(これが後の騒動の伏線となっているんですね)院長と主席司祭の会話は高度な政治的駆け引きです。😕 聖職者の顔の裏には生々しい出世欲が隠れています。

宴の後、修道院に貧しい身なりのバルトロメア(ダフネ・パタキア)が逃げ込んで来ます。連れ戻そうとする父親に抵抗して修道女にして欲しいと懇願する彼女を院長は持参金を払えないからと冷たく拒否します。しかしバルトロメアを気の毒に思ったベネデッタへの贈り物として父親が持参金を払い、バルトロメアは修道院に引き取られ、指導係にベネデッタがなります。

バルトロメアに沐浴させたベネデッタは、バルトロメアの肉体に残る父からの虐待の痕に気付きます。深夜、トイレに案内し並んで用を足したベネデッタに身の上(亡くなった妻の代わりをさせられ体を求められ、兄たちにまで同様にされて耐えきれず逃げ出した)を語るバルトロメアに、ベネデッタは「美しさには税がかかるもの」と説きます。美しさの自覚の無いバルトロメアに、ベネデッタは自分の瞳に映る姿を見なさいと言い二人は顔を寄せ合いますが、気配に気づいた院長の娘のクリスティナ(ルイーズ・シュビヨット)が現れ慌てて身を離します。彼女が去った後、バルトロメアにキスされたベネデッタは神に祈りを捧げます。

この頃からベネデッタにはイエスが度々見えるようになりますが、これまでとは違い性と暴力を伴う光景になります。そのことを神父に告解した彼女にそれは神の啓示ではない、神の意志は痛みや苦しみから知るしかないと諭された彼女は、バルトロメアに厳しく接し、火傷を負わせてしまいます。院長はベネデッタを注意し、罰として、病に苦しむ老いた修道女の世話を命じます。痛みと罪の意識に苦しむ老女に触発されたのか、ベネデッタは高熱にうなされ「イエスを見て」暴れるようになります。バルトロメアは院長から世話を命じられ同室となった二人が親しく接するようになったある夜、ベネデッタの異変に気付いた修道女たちが目にしたのは両掌と足の甲から血を流す彼女の姿でした。「聖痕」だと騒ぐ修道女たちに、院長は「聖痕」なら茨の冠を被せられた額からも出血があるはずと冷静に指摘します。しかしその後マリア像の前で倒れたベネデッタの額から血が流れているのを見て、多くの修道女たちは間違いなく「聖痕」だと信じます。「聖女」の評判が流れれば巡礼者が押しかけて教会に富が集まり、自らの地位も高まると考えた主席司祭も真の「奇蹟」と認めます。彼にとって真偽より出世が大事なんですね。😔 

しかしベネデッタの傍らに、鋭利な陶器片がある事に気付いたクリスティナは疑いの目を向けます。「聖痕」は自傷行為だと母である院長に訴えますが、実際に目撃してはいない娘に自重を説きながらも院長も「奇蹟」には懐疑的でした。

主席司祭はベネデッタを新たな修道院長に任じ、フェリシタはこれを受け入れ修道女に降格させられます。しかしクリスティナには耐え難く、ベネデッタの「奇蹟」は偽りで皆を騙していると訴えますが、実際に自傷行為を目撃していないため逆に虚偽の告発をしていると追求され、衆人の前で自らの背を鞭打たされます。

ベネデッタには院長室が与えられ、広い個室の中、バルトロメアと親密で濃密な時間を過ごす2人。バルトロメアはベネデッタのマリア像に手を加えて作った性具で彼女を絶頂に導きます。それってかなりヤバイし神を冒涜してると思うんだけどな~~😱 その様子を秘密の覗き穴からフェリシタが見ていました。

修道院の上空に彗星が現れた夜、絶望したクリスティナが修道院の屋根から身を投げます。悲嘆にくれるフェリシタは、クリスティナの遺体に触れて魂を救おうとした(教義で自殺は地獄に堕ちるとされています)ベネデッタを拒絶し、修道院を抜け出してフィレンツェ(既にペストが蔓延しています)に向かい、教皇大使のジリオーリ(ランベール・ウィルソン)にベネデッタの行為を訴え出ます。彼は妻子持ちの世俗にまみれた人物でしたが、それゆえ(アルフォンソの出世欲を察したのかベネデッタを危険視したのか)真偽を確かめると約束します。

権力を手にし始めたベネデッタに、「聖痕」の真偽を尋ねたバルトロメアは「神が私を通じて意志を表明している」と言われ戸惑いを覚えます。

フェリシタの意図を察したベネデッタは、お告げだと言って町の封鎖を命じます。彗星は不吉の印ではなく神が町をペストから守ってくれる証だと演説した彼女は突然倒れます。彼女が死んだと知って動揺する人々は、町に到着したフェリシタと教皇大使を町に入れようとしませんでしたが、2人は強引に町に入ります。(首席司祭より教皇大使の方が上席だものね。)
大使が安置されたベネデッタと対面した途端、彼女は目を開け生き返り人々は復活の奇蹟が起きたと驚きます。天国で疫病と地獄の業火から人々を救えと地上に送り返されたと告げる彼女に教皇大使は疑いの目を向け審議が始まります。

フェリシタは、ベネデッタとバルトロメアの淫らな行為を目撃したと証言します。バルトロメアは怯えますがベネデッタは動じません。審議後に自ら大使の足を洗うと申し出たベネデッタをジリオーリは追求しますが、言葉巧みに否定しながら、彼女は大使の体の黒い斑点に気付きます。

捕らえられ拷問を受けたバルトロメアは苦痛に耐えきれずに罪を告白し隠していた性具を示します。逮捕されて地位と名誉を奪われ火刑が決まってなおベネデッタは罪を認めず、自分を貶めた者を批判し、ジリオーリには恐ろしい天罰が下ると予言します。

バルトロメアは、粗末な衣服を与えられ追放されます。その際、元売春婦だった修道女(「持参金」が出せたの?)は、「屈辱は傷跡を残さない」と言って耐え忍ぶよう諭しました。

フェリシタがペストを発症し、ジリオーリ自身もペストの兆候に気付きます。民衆の反応を恐れた彼は、ベネデッタの火刑を急がせます。
彼女を「聖女」と崇め抗議の声をあげる群衆の中には許しを乞うバルトロメアの姿もありました。騒然とする様子に恐れを抱いたジリオーリは、罪を認め告白すれば火刑より楽な絞首刑にすると持ち掛けます。ベネデッタは掌の出血を「聖痕」だと示しながら、ペシアの人々を救えなかったと神に詫び、神の意志を信じない教皇大使がペシアに疫病をもたらすと非難します。
それを聞いた群衆は騒ぎ始め、火刑台のベネデッタを救おうと押しかけます。そこへ症状が悪化したフェリシタが現れて、教皇大使が私を感染させた、ペシアに疫病をもたらしたのは大使だと非難します。ベネデッタは捕まる前にフェリシタと面会しているのですが、この時何やら耳元で囁いたのは取引だったのかしら?

彼女を救いに駆け寄ったバルトロメアは、傍らにあった陶器片(それが意味することは明白に思われます)で彼女を縛るロープを切ります。ベネデッタは群衆に襲われ瀕死の大使に最期の祝福を与えようとします。あくまで「聖女」を装うのね。😧 
「お前は死んでいた時にあの世を見たのか、私は天国と地獄のどちらに行くのか」と問うジリオーリに「あなたは天国に行きます」と告げたベネデッタに彼は「お前は最期まで嘘をつくのか」と言って息を引き取ります。

フェリシタは、火刑台で燃え盛る炎の中に身を投げ、群衆が騒然とする中をベネデッタとバルトロメアは姿を消します。

ペシアの町の郊外。一夜を過ごした2人は全裸です。服を着て修道院に戻ると言うベネデッタにバルトロメアは「戻れば火刑にされる、私たちは自由だ」と訴え「聖痕」は自傷だと認めろと迫りますが、彼女は認めずに町へ歩き出します。

ペシアの町は、ペストの災厄から逃れました。
修道女ベネデッタ・カルリーニは、火刑を免れますが生涯を修道院の牢獄で過ごします。ミサへの参加と、時折は修道女たちと食事を共にする事も許されましたが、その際には床に座らされたそうです。

神を否定する気はありませんが、それを利用する人間の浅ましさには閉口します。
映画ではベネデッタという女性の並外れた野心に焦点を当てていますが、彼女自身が「神がかり」になった精神状態は、最初のマリア像の胸のエピソードからバルトロメアの沐浴シーン、そして積極的なアプローチがきっかけとなって抑圧されていた欲望が解放された結果なのかもしれないと思いました。

元院長のフェリシタは、とても現実的な女性として描かれています。神に仕える身なのに本当の意味で神を信じていないから、奇跡や聖痕も素直に受け入れられないのよね。娘を救えなかったことが彼女に行動を起こさせますが、自身を滅ぼしてしまう結果になるのも悲劇的です。ベネデッタから死後は娘と一緒で天国に行くと言われるシーンは、結局最期は神に縋る弱さもとても人間らしいと感じました。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

キングダム 運命の炎

2023年07月28日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年7月28日公開 129分 G

500年にわたり、七つの国が争い続ける中国春秋戦国時代。戦災孤児として育った信(山崎賢人)は、亡き親友と瓜二つの秦の国王・嬴政(吉沢亮)と出会う。運命に導かれるように若き王と共に中華統一を目指すことになった信は、「天下の大将軍になる」という夢に向けて突き進んでいた。
そんな彼らを脅威が襲う。秦国への積年の恨みを抱く隣国・趙の大軍勢が、突如、秦への侵攻を開始。残忍な趙軍に対抗すべく、嬴政は、長らく戦から離れていた伝説の大将軍・王騎(大沢たかお)を総大将に任命する。決戦の地は馬陽。これは奇しくも王騎にとって因縁の地だった…。
出撃を前に、王騎から王としての覚悟を問われた嬴政が明かしたのは、かつて趙の人質として深い闇の中にいた自分に、光をもたらしてくれた恩人・紫夏(杏)との記憶。その壮絶な過去を知り、信は想いを新たに戦地に向かう。100人の兵士を率いる隊長になった信に、王騎は『飛信隊』という名を授け、彼らに2万の軍勢を率いる敵将を討てという無謀な特殊任務を言い渡す。 失敗は許されない。秦国滅亡の危機を救うため、立ち上がれ飛信隊!
運命に導かれ、時は来た。炎の如き戦いがいま始まるー。


原泰久の漫画を実写映画化した「キングダム」シリーズの第3作は、原作の中でも特に人気が高いという「馬陽の戦い」と「紫夏編」が描かれています。

王騎将軍の元に修行に行った信は、無法地帯の平定を課されて見事成し遂げます。その頃、秦の国境の町・ 関水が隣国の趙に攻められて、副将の万極(山田裕貴)により皆殺しに遭います。
報を受けた嬴政は、丞相 ・呂不韋(佐藤浩市)に実権を握られるのを覚悟の上で呂氏の腹心の昌平君(玉木宏)を総司令官に任命します。(彼は軍師学校を開いて次世代育成もしている天才軍師なのね)
呂不韋が推す蒙武(平山祐介)を昌文君は攻に強いだけと反対し険悪な雰囲気になりますが、意外なことに昌平君は王騎将軍を総大将に任命します。

改めて嬴政の考えを問うため2人だけでの会談を要求した王騎に、政は7年前に自分を助けてくれた闇商人・紫夏との約束だと答えます。

父が趙に人質として囚われていた時に政が生まれたのですが、父だけが秦に逃げた後、残された政は酷い虐待を受けながら育ちました。その父が秦の昭王となり状況が変わります。趙から命を狙われるであろう政を逃し嫡男として迎えるために、闇商人である紫夏に依頼がきます。紫夏が依頼を引き受けたのは、政の状況に同情したのか、彼の中に王の素質を見出したのか・・逃避行の中で、自分の影(『ゲド戦記』のアレンみたい)に怯え、痛みも食物の味も感じなくなったと告白する政を受け止め癒してくれたのが紫夏でした。そして追手が迫る中、身を犠牲にして政を昌文君に送り届け、最期に「立派な王になり、受けた恩は誰かに返して下さい。」と言い残します。
政の「戦乱のない国を作るため中華統一を目指す」という意志を確認した王騎は総大将を拝命し戦地・馬陽に向かいます。

百人将となった信は、荒くれ者たちに号令をかけると副将に渕と羌瘣(清野菜名)を任命します。は王騎の作戦により山間部で開戦となります。王騎将軍直属の遊撃隊となった信隊は「飛信隊」と名付けられます。

趙荘(山本耕史)率いる趙の本陣と王騎の中央軍の睨み合いの中、秦の左翼・壁(満島真之介)たち1万の軍が進軍命令を受け動きます。王騎の右側面を趙の左翼の副将・万極(山田裕貴)が狙い、趙の右翼は馮忌が2万の軍勢で守ります。

この戦いを河了貂(橋本環奈)と軍師見習いの仲間が軍師の勉強のため崖上から見下ろしていました。

信は王騎から「100人で側面から奇襲して敵の副将・馮忌(片岡愛之助)の首を取れるか」と問われると、「やってやる」と答えます。動き易さと一つに固まれば石のように固くなれる小隊の強みを活かして敵将を討つと皆を鼓舞し、百人隊を率いて密かに険しい崖を登ります。敵に発見されて弱気になった隊に「俺たちが負ければ、いずれ自分たちが守りたい人も皆命を落とすことになる。だからこそ一つにならなければならない」と言う信に勇気を得た皆は、隊を二分して信、羌瘣、沛浪ら精鋭は敵陣へ切り込み、残りは後ろを守ると決めます。

この状況に、馮忌は「ここまで敵に近づかれるのは初めて」と言いながらも動じず、自軍の両翼を動かして壁たち1万人を取り囲みますが、ふとこれは王騎の作戦ではないのかと気付きます。急いで撤退を命じますが、既に遅く、羌瘣と連携して敵を倒しながら一直線に突破してきた信に首を斬られて絶命します。これを受けて趙荘は本陣を後方の山岳地帯に移します。王騎はまず敵の知将である馮忌を討つために、長距離戦は得意だが接近戦は苦手な馮忌の弱点を突いたのでした。

飛信隊は1/3以上の仲間を失いますが、馮忌の首を取り大きな武功をあげました。
その様子を眺めていた貂は「信がやった!」と喜びますが、そこへ「一緒に見てもいいですか」と現れたのは見慣れぬ青い軍服の李牧(小栗旬)です。彼は趙の三大天の1人で天才軍師 です。

その夜、敵将を討って祝いモードの飛信隊を、龐煖(吉川晃司)が襲います。彼も趙の三大天の1人でその戦いは武神と称されています。(残る三大天は誰?)彼の顔の傷は王騎につけられたものですね。

政の元には趙軍の総大将は龐煖(吉川晃司)との報告が届きます。実は秦の六大将軍・摎(きょう)は病死ではなく当時無名だった龐煖に殺されていて、王騎が仇をとった筈だったことが昌文君の口から語られます。(王騎が総大将を拝命した後の昌文君との意味深な会話はこれだったのね)

山の民の王 楊端和(長澤まさみ)は、勇猛な騎馬民族が何者かに全滅させられた光景を目にします。

前半は政の過去に焦点を当て涙を誘いますが、月の逸話はオープニングとリンクさせたかったのでしょうけれど全体の尺的には長い気もします。後半は信の活躍と王騎たち将軍の采配が光るバトルアクションでスピーディーに進みます。特に崖上から見る戦場の俯瞰図は圧巻です。信が敵兵を飛び越えて躍り出るシーンは毎回のように登場しますが、遂に今作では敵の副将の首をあげるまでになったのね。😌 
「馬陽の戦い」の続編が今から楽しみです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Dr.コトー診療所

2023年07月25日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年12月16日公開 134分 G

日本の西の端にぽつんと在る美しい島・志木那島。本土からフェリーで6時間かかるこの絶海の孤島に、19年前東京からやってきた五島健助=コトー(吉岡秀隆)。以来、島に“たったひとりの医師”として、島民すべての命を背負ってきた。長い年月をかけ、島民はコトーに、コトーは島民に信頼をよせ、今や彼は、島にとってかけがえのない存在であり、家族となった。数年前、長年コトーを支えてきた看護師の星野彩佳(柴咲コウ)と結婚し、彩佳は現在妊娠7ヶ月。もうすぐ、コトーは父親になる。
コトーは、彩佳、和田(筧利夫)、そして新米医師の織田判斗、そして数年前から診療所に勤める島出身の看護師・西野那美(生田絵梨花)と共に診療所を切り盛りしていた。しかし、2022年現在、日本の多くの地方がそうであるように、志木那島もまた過疎高齢化が進んでいる。財政難にあえぐ近隣諸島との医療統合の話が持ち上がりコトーに島を出て拠点病院で働かないかとの提案が。そうなればコトーは長年暮らした島を出て行くことになる。それが島の未来のためになると理解しながらも、コトーは返事を出来ずにいた。
そんな折、島に近づく台風。毎年多くの台風の通り道となっている志木那島だが、想像を超える被害がもたらされているという話が役場に入ってくる。
次々と診療所に運び込まれる急患。限られた医療体制で対応を強いられる診療所は野戦病院と化す。そして再び、コトーたちは“家族”である島民たちの優しさと人の命の尊さに向き合い葛藤することになる。
時として残酷な自然、時を経て宿った新たな命、失われゆくもの、立ちはだかる現実。島はすべてを包み込んで、人々は、そこに生きている。(公式HPより)


山田貴敏の同名漫画を原作に、2003年と2006年に連続TVドラマとして放送された「Dr.コトー診療所」の16年ぶりの続編となる劇場版です。スタッフも中江功監督や、脚本の吉田紀子らドラマ版を手がけた顔ぶれが揃っています。

冒頭の青い海と美しい島の風景の中を進むコト―先生の自転車が電動になっているのにまず時の流れを感じました。うんうん、若い頃と比べたら明らかに体力は落ちてるだろうし、坂道は絶対電動だよな~😁 

東京の大病院の跡取り息子の織田判斗(高橋海人)が父親から「修行しろ」と言われて二か月の研修にやってきたその日、漁師の剛利(時任三郎)が、邦夫を庇って足に重傷を負い診療所に運びこまれます。ここで手術するのかと驚く判斗ですが、コトーの助手を務め足は切断せずに済みます。剛利は、医者になるべく東京の大学で勉強を続けている息子の剛洋(芸能界を引退していた富岡涼が本作のために復帰しています)には連絡しないよう頼みますが、彼が心配な茉莉子(大塚寧々)は東京で働いている息子の竜一(神木隆之介)に剛洋の様子を見に行って欲しいと頼みます。

ある日、正一に代わり島の支所長を務める坂野(大森南朋)から、 過疎化・高齢化に伴う診療所の統廃合の話と統廃合後の拠点病院での指導役の話がコトーに持ち込まれます。島を離れることと離島医療の未来への想いに揺れるコト―は返事を保留します。彼にはもう一つの不安があったのです。

コトーは判斗に骨髄液採取を頼み、鳴海医師(堺雅人)に検査を依頼します。しばらく前から続く体の不調や内出血の痣はある病気の可能性を示唆していました。検査の結果「急性骨髄性白血病」と判明しすぐに治療を始めるよう鳴海医師は警告します。(相変わらずクールな鳴海先生💛)

剛洋が島に帰省し、重雄(泉谷しげる)たち島民に大歓迎されますが、何故か浮かない顔でいつのまにか姿を消します。やがて本土から刑事がやってきて剛洋を探しているとの情報がもたらされます。茉莉子も竜一からの電話で、剛洋があるクリニックで起きた事件に関わっていると伝えられます。

診療所を訪れた剛洋は、医大に入ったものの成績不振で奨学金を打ち切られ、バイト収入では追い付かずに中退したこと、クリニックで事務として働いていたものの、手術中に医療事故が起きて自分では何も出来ずに目の前で患者が死んでいくのを見て「コトー先生のような医師になりたい」との思いが打ち砕かれたことを告白します。コト―は彼に「医者でないから何もできないと思ったなら医者にならなくて良かった」と言います。資格の有無に関わらず「助けたい」という思いこそが医療者にはなくてはならないものだから・・。
剛洋は父・剛利に謝罪し駐在所へ出頭します。(参考人扱いなので罪には問われないのよね。)

その夜、コトーは剛洋への期待が身勝手で傲慢な願望だったと彩佳に語り、自身の検査結果を見せようとして倒れてしまいます。専門家の診断のもとで対症療法を続けてでも島で働くと言う彼に、彩佳は「自分のこと、私とお腹の子のことを考えて」と涙ながらに訴えます。コト―はこれまで患者の気持ちをわかったつもりになっていたが自分が病を得て本当は何もわかっていなかったことに気付いたと言い「生きたい」と
言います。それでも彼は医者として人を助けることを選ぶんですね。

コトーの病を知らされた坂野 は、判斗にコトーが回復するまでいて欲しいと頼みますが、「自分にはコト―先生のようにはできない。この島の医療はコト―先生の良心と自己犠牲で成り立っている、皆が頼り過ぎたから先生は疲れ果ててしまったのではないか、《病気》って、そういうものじゃないのか」と答えます。

島に台風が接近し、土砂崩れが発生すると、コト―も彩佳と駆けつけ、災害現場には判斗と那美が向かいます。剛洋も邦夫と消防団の活動を手伝い、診療所には次々と負傷者が運ばれ治療が追い付かない状態に。
建物の倒壊に巻き込まれた末期の膵臓がんを患うノブおじの心臓マッサージ、那美の祖母で狭心症の持病を持つ助産師の美登里の心筋梗塞、どちらも一刻を争う中、彩佳も切迫早産の危機に陥ります。「全員助けます」と懸命に治療に臨むコト―でしたが遂に倒れてしまいます。コトーに代わりノブおじの心臓マッサージを続けた判斗ですが脈は戻らず「やっぱ無理だよ」とマッサージの手を止め「これが《現実》ですよ」と叫びます。その時、倒れたコト―を「俺は諦めねえぞ」と叱咤したのは松葉杖で駆けつけた剛利 でした。(重病人にその呼びかけはどうかと思うけど)父の言葉を聞いた剛洋はノブおじに駆け寄って心臓マッサージを再開し、島民たちも必死に呼びかけます。するとノブおじの脈が再開し、コト―も立ち上がります。
判斗と和田の介助のもと、遠のく意識を奮い立たせて美登里の手術を無事終了(この怒涛の展開はちょっとあり得ない。そもそも気力だけで緻密さが要求される長時間の手術なんてできないでしょ😓 )したコトーは、診察室のベッドで眠る彩佳のそばで力尽きました。

場面は代わり
剛利は大学に戻り再び医者になるために学んでいます。剛利も「剛宝丸」に乗り続けていました。診療所では、彩佳の子が立ち上がり歩き出す様子を那美や判斗、島民たちが見守っています。その子が差し出してきた小さな手にコトーの大きな手がそっと触れ抱き上げます。とても印象的なラストです。

このラストにはコト―が最期に見た希望の未来図という解釈もあるようですが、個人的にはハッピーエンドで良いかなと思います😀 
そういえば、本作では「手」の他に「背中」のシーンが大事な場面で登場します。コト―の背中は、彼が背負っている「命」の重さを、剛利 の背中は父親の責任を伝えているように感じました。その背中に深く頭を下げる判斗や剛洋は、その想いを確かに受け止めたのだと思います。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RRR

2023年07月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年10月21日公開 インド 179分 G

1920年、英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた幼い少女を救うため立ち上がったビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr.)と、大義のため英国政府の警察となったラーマ(ラーム・チャラン) 。それぞれに熱い思いを胸に秘めた2人は敵対する立場にあったが、互いの素性を知らずに、運命に導かれるように出会い、無二の親友となる。しかし、ある事件をきっかけに、2人は友情か使命かの選択を迫られることになる。(映画.comより)


S・S・ラージャマウリ監督が、英国植民地時代のインドを舞台に、2人の男の友情と使命がぶつかり合う様を描いた作品で、タイトルの「RRR」は、「Rise(蜂起)」「Roar(咆哮)」「Revolt(反乱)」の頭文字に由来するそうです。劇中の「ナートゥ・ナートゥ」は第95回アカデミー賞歌曲賞受賞しています。

ゴーンド族の村を訪れたインド総督スコット(レイ・スティーヴンソン)の一行は、少女マッリ(トゥインクル・シャルマ )の才能を気に入ったキャサリン総督夫人(アリソン・ドゥーディ)により強引にデリーの総督府に連れ去られます。ニザーム藩王国の特使は、マッリを帰すよう勧め「帰さなければ、彼らの守護者が災いをもたらす」と忠告しますが、スコットの側近エドワード(エドワード・ソネンブリック)に一蹴されます。その同じ頃、部族の守護者ビームは、仲間(ジャング、ペッダイヤ、ラッチュ)とデリーに潜伏し、ムスリムの「アクタル」と名乗ってマッリを捜していました。

デリー近郊の警察署に押し寄せたデモ隊の首謀者を単身飛び込んで逮捕したラーマ。(大群衆に囲まれ押しつぶされながらも一歩も引けを取らない活躍はまさに超人)しかし、功績が認められて昇進したのは白人ばかりでした。

総督府で「守護者」への対策が協議されると、ラーマが担当捜査官に名乗りを挙げます。デリー市内の独立運動家の集会に潜入したラーマに、ラッチュ (ラーフル・ラーマクリシュナ) が同志と思って声をかけますが、ラーマが警官だと気付いて逃げ出し、ラーマは彼を追いかけますが見失ってしまいます。
その時、列車事故に遭遇したラーマは、居合わせたアクタルと協力して事故に巻き込まれた少年を助け出します。(公開前の予告映像シーンはこのエピソードだったのね)

これがきっかけでお互いの正体を知らないまま交流を重ねた2人は親友になります。アクタルがスコットの姪のジェニー(オリヴィア・モリス )に想いを寄せていることを知ったラーマの後押しで、ジェニーから総督公邸に招待されたアクタルは、邸内でマッリと再会して必ず助け出すと約束します。

ラッチュを探し出したラーマは拷問を加えて尋問しますが、彼は口を割らず、隙をついてラーマに毒蛇を投げつけます。イギリス人でも解毒できないと言われたラーマはラッチェを解放しその場を立ち去ります。
瀕死のラーマを見つけたアクタル(仲間と総督公邸に乗り込む準備をしていました)は、解毒処置をして介抱しながら、ラーマが警官とは知らずに自分の本当の名はビームだと正体を明かし、マッリを助け出すために総督公邸に乗り込むことを話します。

スコットのナイト叙任祝いのパーティーが催されていた公邸に、虎などの猛獣を満載したトラックが突入し会場はパニックに。(このシーンも予告で何度も見たっけ😁 )マッリを捜すビームの前に立ち塞がったのはラーマでした。(回復早過ぎだろ!と一応突っ込んでおきます😁 )警官であることを明かしたラーマは、激しい格闘の末にビームを逮捕します。

ビーム逮捕の功績で目的だった武器庫の管理権限を持つ特別捜査官に昇進したラーマでしたが、親友を裏切った罪悪感に苛まれます。
彼の父ヴェンカタ(アジャイ・デーヴガン)は警察官でしたが、スコットの非道な圧政に耐えかねて脱走した後、独立運動家として村人たちに戦闘訓練を施していましたが、イギリス軍に襲撃されて母と弟が殺され、ヴェンカタも重傷を負います。ヴェンカタはラーマに狙撃させてイギリス軍を巻き込んで爆死します。成長したラーマは父との約束を果たすために、独立闘争に必要な武器を手に入れるため警察官になり出世を目指していたのでした。

見せしめのため、スコット夫妻や民衆の前でラーマの手で鞭打ちの刑に処せられたビームでしたが、彼は決して屈せず民衆を鼓舞する彼の歌に触発された民衆の暴動で、刑の執行が中止されます。(棘の付いた鞭をラーマに投げてそれを使えと指示するキャサリンの残虐非道ぶりが際立っていました。)

自分の行動が間違っていたと悟ったラーマはビームを助け出すため、スコットにビームをデリー郊外に連れ出してマッリの目前で処刑することを提案します。しかし思惑をスコットに察知されて銃撃されたラーマは木の枝で重傷を負い、マッリは救出したものの事情を知らないビームに殴られながらも、2人を逃がすためイギリス兵の追跡を妨害します。

数か月後。潜伏先で警察に発見されそうになったビームたちは、居合わせたラーマの婚約者シータ(アーリヤー・バット)の機転に助けられ難を逃れます。(シータという名前についつい「ラピュタ」を連想してしまいます)
彼女はラーマの反逆罪での処刑通知を受け取ってデリーに向かう途中で、ラーマが反英闘争のために活動していたこと、親友を裏切り苦しんでいたことを話します。それを聞いたビームは自分の行動を恥じてラーマを救出することをシータに誓います。

ジェニーの協力で邸内に侵入しラーマの独房を突き止めたビームは、彼を救出して森の中に逃げ込みます。膝を折られて歩けないラーマを肩に乗せ、二人が一体となって戦うシーンも見応え抜群です。

森の中のラーマ神の祠でビームはラーマの手当てをします。
エドワードが率いる特殊部隊に囲まれたビームを、ラーマ神の長弓を手に復活したラーマ(蛇毒といい、拷問負傷といい、あんた不死身か!)の矢が炸裂、部隊はエドワード共々全滅します。
2人は総督府の武器庫に火をつけたバイクを突入させ総督府は崩壊、キャサリンも崩壊に巻き込まれて死亡します。無残な最期ですが彼女だけには同情する気がしませんね。スコットもビームに射殺されます。ヴェンカタの「3つの教え」そのままにラーマはビームに伝え、銃弾は見事に心臓を貫きます。

総督府の武器を持ち出しデリーを後にした2人はシータ、ジェニーと合流します。「お礼に、君の願いを叶えさせて欲しい」と言ったラーマにビームは「読み書きを教えて欲しい」と答えました。
エンドロールの中で、マッリは村に戻って母(頭部を殴打されたのでてっきり死んだのかと思ってましたが無事だったのね)と再会し、ラーマは故郷の人々に武器を送り届けました。)

殖民地時代の話とはいえ、統治国であるイギリス人の植民地の民衆を人間とも思わない傲岸さに怒りが湧きます。その象徴が総督夫妻なんですね。唯一ジェニーの分け隔てない優しさを挿入して緩和作用を働かせているように感じました。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE ネタバレあり

2023年07月21日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年7月21日公開 アメリカ 164分 G

IMFエージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)に課せられた究極のミッション—全人類を脅かす新兵器が悪の手に渡る前に見つけ出すこと。
しかし、IMF所属前のイーサンの“逃れられない過去”を知る“ある男”が迫るなか、世界各地でイーサンたちは命を懸けた攻防を繰り広げる。やがて、今回のミッションはどんな犠牲を払っても絶対に達成させなければならないことを知る。その時、守るのは、ミッションか、それとも仲間か。
イーサンに、史上最大の決断が迫る—(公式HPより)


「ミッション:インポッシブル」シリーズの第7作は、イーサン・ハントの過去から現在までの旅路の果てに待ち受ける運命を描いたシリーズ初の2部作のpart1です。監督・脚本はクリストファー・マッカリー。
タイトルの「デッドレコニング(Dead Reckoning)」は「推測航法」の意味で、航行した経路や進んだ距離、起点、偏流などから過去や現在の位置を推定し、その位置情報をもとにして行う航法のことを指すんだそう。(映画.comより抜粋)
このシリーズは殆ど劇場鑑賞しているので迷わず選択。でも公開日が夏休み初日とかぶるからチケット先にネットで購入しようとして気付いた・・・Part1
ですと?やられた!!これも『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』と同じかよ😖 でもやっぱり観たいのでポチっとな。予想通り、朝イチなのにほぼ満席でした。買っておいてよかったぞ!
3時間近い長さは感じさせず、ローマの市街地での激しいカーチェイスに断崖絶壁からの大ジャンプ、TV予告CMでお馴染みになった爆走する列車上での格闘シーンと、どれもドキドキのスリル満点で楽しめました。でも続くのよね~~😓 後編の『 PART TWO』は2024年6月28日に公開予定だそうです。 

イルサ(レベッカ・ファーガソン )はMI6の元スパイで 5作目「ローグネイション 」から登場したキャラ。6作目「フォールアウト 」の武器仲介人ホワイトウィドウ はCIA協力者 でした。

冒頭、ロシアの原子力潜水艦セヴァストポリがアリューシャン列島で最新鋭の「デッドレコニング=推測航法/自律航法」のテスト航行中に敵潜水艦と交戦するも、実はAIが見せた幻で、自艦の魚雷を受けて2本の鍵とともに沈みます。

オランダ・アムステルダムで、イーサンは新たな任務を受けます。イエメン国境近くの砂漠で砂嵐の中、暗殺団を倒してイルサが持っていた1本の鍵を入手した彼は、その鍵の秘密を知るため情報局に潜入。そこで暴走した「自律型AIエンティティ」を制御するためには2本の鍵が必要と知ります。

 IMFのキトリッジ(ヘンリー・ツェニー )に変装して脱出したイーサンは、もう1本の鍵を持つ人物を追ってUAEのアブダビ空港へ。ベンジー(サイモン・ペッグ )とルーサー(ヴィング・レイムス )が誘導しますが、ベンジーは偽核爆弾に苦戦し、鍵をスったグレース(ヘイリー・アトウェル)に翻弄されて逃げられてしまいます。

空港の監視カメラからリアルタイムで消されていた男は、イーサンがIMFに入るきっかけになったガブリエル(イーサイ・モラレス )でした。ローマで逮捕されたグレース(彼女は国際指名手配犯)でしたが、イーサンが助け出します。しかし、二人はガブリエル配下のパリス(ポム・クレメンティエフ )やCIA、イタリア警察からも追われ、ローマの市街地をカーチェイスするはめに。グレースを手錠でつなぎとめていたイーサンでしたが、またしても逃げられてしまいます。合流したイルサは、これまでのことは全てAIの思惑通りに動かされていると言います。

イタリア・ベニスのドゥカーレ宮殿で開かれたパーティに潜入したイーサンとイルサは、グレースにイーサンの鍵を奪えと命じたのがホワイトウィドウ=アラナ(ヴァネッサ・カービー)で、彼女がもう1つの鍵を持っていることに気付きます。ガブリエルとパリスも現れ、ガブリエルは鍵の意味を知っているのは自分だけだとアラナに交渉し、イーサンが抗うならグレースかイルサのどちらかが死ぬことになると嗤います。
アラナはガブリエル側につき、イーサンたちは敵と戦いながら逃げますが、AIに誤情報を与えられ、引き離された挙句、グレースを守ろうとしたイルサがガブリエルに殺されてしまいます。(イーサンはパリスとの戦いに勝利しますが、彼女を殺しませんでした。)

グレースは逮捕かIMFに入るかの選択を迫られます。
鍵の取引が行われる列車に乗り込んだグレースは、アラナを気絶させると鍵を奪って取引に向かいますが、アラナはIMFのキトリッジとも取り引きをしようとしていたようで、迷ったものの思い留まったグレースは、キトリッジから鍵を奪って2つの鍵を手に入れます。
一方、ガブリエルは政府の上級職員のデンリンジャーから鍵の持つ意味とセヴァストポリ号のことを聞き出した後彼を殺害し、裏切ろうとしていたパリスに致命傷を与えます。

ガブリエルが列車を暴走させたため、予定が狂ったイーサンはノルウェーの山々の頂きからバイクごとジャンプしてパラシュートで下り、列車の窓を突き破り突入。そこに絶対T絶命のグレースがいるのは出来過ぎですが😅 
鍵を奪ったガブリエルを追って列車の上での対決シーンは、これも予告CMの通り。憎しみが勝りガブリエルを殺そうとしますが、キトリッジたちに止められます。その隙をついてガブリエルは列車から飛び降りトラックの荷台に着地(AIの計算通り)し逃亡するのですが、イーサンに鍵を盗まれていたのに気付いて怒りの咆哮をします。ガブリエルの、というよりAIの計画に綻びの発端がみえるシーンですね。

列車を止めるよう言われ、機関室に入ったグレースでしたが、なす術がありません。イーサンと共に機関部を外しますが、橋が爆発され先頭車両は墜落。続く車両も次々落下していく中、2人は後部車両に向かって走ります。ここで予告CMのあのシーンに繋がってたんだ~!😝 
イーサンの指が離れる寸前、パリスの手が!いやいや、重傷の彼女のどこにそんな力が!って話なんですが。😓 最後の力を振り絞り、鍵を使う場所が潜水艦・セヴァストポリ号だと伝えます。

脱出用のパラグライダーは一人用で、グレースはイーサンを逃がしてジャスパー(シェー・ウィガム )に捕まりますが、キトリッジにIMFに入ると言います。

続編ではグレースも仲間に加わり、氷の海の下に横たわる潜水艦に乗り込んでのアクションでしょうかね~~。敵は最早人ではなく学習し進化する人工知能ですが、最後には人間の情愛が勝つような気がしますが・・・。
それにしてもイーサンとガブリエルの因縁って何だろ?シリーズの中でそんなエピソードあったかな?😥 そっちも気になる。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フラッグ・デイ 父を想う日

2023年07月20日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年12月23日公開 アメリカ 108分 PG12

1992年、全米にショッキングなニュースが流れる。アメリカ最大級の贋札事件の犯人であるジョン(ショーン・ペン)が、裁判を前にして逃亡したのだ。彼にはジェニファー(ディラン・ペン)という娘がいた。父の犯罪の顛末を聞いたジェニファーは、こうつぶやく──「私は父が大好き」。史上最高額の贋札を非常に高度な技術で偽造したジョンとは、いったいどんな男だったのか?父の素顔を知っても愛情は変わらなかった娘との関係とは?ジェニファーが幼い頃から「平凡な日々を見違えるほど驚きの瞬間に変えた」父との思い出を宝物のように貴い、だからこそ切ない日々がひも解かれていく──。(公式HPより)


ジャーナリストのジェニファー・ボーゲルが2005年に発表した回顧録を原作に、愛する父が実は犯罪者だったと知った娘の葛藤と家族の絆を、実話を基に描き出いた人間ドラマです。ショーン・ペンが構想15年をかけて監督・主演を果たし実娘ディラン・ペンと父娘役を演じています。

タイトルの『フラッグ・デイ』は、6月14日のアメリカ国旗制定記念日です。
この日に生まれたジョンは、自分は生まれながらにして祝福されているのだから、特別な存在として成功する当然の権利があると信じていました。傍から見たら全く根拠のない思い込みですが😅 

幼かったジェニファーにとって父はヒーローで憧れの存在でしたが、彼は家族の前に現れては消える生活を繰り返していました。
1975年夏。突然戻ってきたジョンは農場を購入し荒れ果てた家を修復します。しかし妻パティ(キャサリン・ウィニック )と4人の幸せな暮らしは長く続かず、借金が膨らんだジョンは再び姿を消します。借金を押し付けられたパティは酒浸りとなり、見兼ねた伯父のベック(ジョシュ・ブローリン) がジェニファーと弟のニックをジョンに預けます。
ジョンの新しい恋人と4人で毎日楽しく過ごしますが、また借金に追われ再び母に引き取られることに。祖母(デイル・ディッキー)は「フラッグ・デイに生まれた男はクソだ」と自分の息子を罵倒します。
1981年。高校生になったジェニファーは母の再婚相手に襲われそうになり、家を出てジョンを頼ります。借金を抱えていたジョンでしたが、最愛の娘のために真面目に働き始めます。フラッグ・デイ(父の誕生日)に、ケーキとメッセージを添えて子供の頃に父が描いてくれた絵を入れたペンダントををプレゼントしたジェニファーに、ジョンは感激の涙を流しながら「ずっとお前の傍にいる」と娘を抱きしめました。
でも、ジョンは仕事なぞしておらず、強盗で捕まってしまいます。面会に行ったジェニファーは、本当のことを言ってと懇願しますが、ジョンはただ「信じてほしい」と繰り返すだけでした。

ジェニファーは独りで旅に出ます。ジョンは刑務所からジェニファーへ手紙を書き続けますが、彼女はあちこち放浪していたので手紙を読むことはありませんでした。
ジャーナリストを志し大学を優秀な成績で卒業し新聞社で働き始めたジェニファーの前に出所したジョンが突然現れ、週末を一緒に過ごそうと誘います。
でも父に裏切られたと感じていた彼女は仕事を理由に断ります。その後も何度もかかってくる電話に根負けし、一緒に週末を過ごしたジェニファーに、ジョンは仕事が見つかったと話し、これまでのお詫びだと言って高級車のジャガーをプレゼントすると言い出しました。それが全部嘘だと察したジェニファーは、全く変わらない父に絶望して去っていきました。

1992年6月。父の存在を振り払うかのように仕事に邁進していたジェニファーの目に、店のテレビから流れるニュース速報が飛び込んできます。2200万ドルの贋札を印刷しアメリカ最大級の贋札事件の犯人ジョンが、裁判を前に逃亡しカーチェイスの末に警察に追い詰められピストル自殺する姿をじっと見つめていた彼女の頬をゆっくりと涙が伝います。そして冒頭のシーンに戻り「私は父が大好き」と静かにつぶやくのでした。

ジョンはどうしようもない人間ですが、娘への愛情だけは本物で、それを一番わかっていたのもジェニファー自身だったのね。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グリーン・ナイト

2023年07月19日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年11月25日公開 アメリカ=カナダ=アイルランド 130分 G

アーサー王(ショーン・ハリス)の甥であるサー・ガウェイン(デブ・パテル)は、まだ正式な騎士ではなかった。彼には人々に語られる英雄譚もなく、ただ空虚で怠惰な日々を送っていた。クリスマスの日。アーサー王の宮殿では、円卓の騎士たちが集う宴が開かれていた。その最中、まるで全身が草木に包まれたような異様な風貌の緑の騎士(ラルフ・アイネソン)が現れ、“クリスマスの遊び事”と称した、恐ろしい首切りゲームを提案する。その挑発に乗ったガウェインは、彼の首を一振りで斬り落とす。しかし、緑の騎士は転がる首を堂々と自身で拾い上げると、「1年後のクリスマスに私を捜し出し、ひざまずいて、私からの一撃を受けるのだ」と言い残し、馬で走り去るのだった。それは、ガウェインにとって、呪いと厳しい試練の始まりだった。1年後、ガウェインは約束を果たすべく、未知なる世界へと旅立ってゆく。気が触れた盗賊、彷徨う巨人、言葉を話すキツネ・・・生きている者、死んでいる者、そして人間ですらない者たちが次々に現れ、彼を緑の騎士のもとへと導いてゆく。(公式HPより)


J・R・R・トールキンが現代英語訳した14世紀の叙事詩「サー・ガウェインと緑の騎士」を映画化したダークファンタジーで、幻想的で奇妙な冒険の旅を通して自分の内面と向き合う青年の成長を描いています。
原典の “人格の完成された高潔な騎士が面目を失う”物話を映画では“未熟な若者が通過儀礼を経て成長する”物話にしています。
“緑”は“自然”であり、自然の力と深くつながる“魔法”を表していて、本作はガウェインと“緑の騎士”の試練を巡る物語であると同時にキリスト教の《文明》Vと異教徒の《自然》を巡る対立の物語でもあるそうです。

クリスマスの朝。ガヴェイン(アリシア・ヴィキャンデル)は 恋人の娼婦エセル と自堕落な一夜を過ごして帰り、母モーガン(サリタ・チョウドリー)に咎められながら伯父であるアーサー王の宴に出かけます。
母は、ガウェインが出かけたあとで姉妹たちとともに召喚の魔術を使い、手紙に封をして燃やします。 

アーサー王に呼ばれ武勇伝を話すよう請われたガヴェインでしたが、まだ騎士ですらない彼に話すことなど一つもありません。そこへ突然、緑の騎士が現れ手紙を渡します。王妃が読み上げた内容は「武器をとり名誉をもってわしに一撃を加えろ。傷を与える者にこの戦斧おのを進呈しよう。栄誉と力はその者の手に……だが、その者は誓わねばならぬ。わしを倒したなら1年後のクリスマスにわしを捜し出せ。北へ6夜行った緑の礼拝堂で、ひざまずいてわしの一撃を受けろ。顔への傷、喉の切り裂き……やられたままやり返し、信頼と友情と共に別れよう」というものです。
名乗りを上げたガウェインは、王から聖剣を受け取り騎士と対峙し、彼の首を一撃で斬り落とします。(戦意を見せず切りやすいよう姿勢を低くして小首を傾げる騎士の目的は明らかに首を斬り落とせということであり、その挑発にまんまとガウェインは乗ってしまったわけね😅 )騎士は自ら首を拾い上げ「1年後のクリスマスに待つ」と言い残して去ります。

都で人形劇になるほど有名になったガウェイン。酒場で酔客に絡まれ喧嘩して泥だらけで帰宅した彼を待っていた王は、「もうすぐ1年だ」と旅に出るよう促します。
母から守護の魔術を施した緑色の帯を渡され「腰につけて決して手放さないように」と言われたガウェインは、エセル(結婚を望んでいたエセルは彼の旅に反対していました。)に渡された鈴を握りながら馬で独り都を出ます。

盗賊(バリー・コーガン)に大事な緑の帯や斧や愛馬を奪われ、縛られて下着姿で転がされたガウェインは、懸命に這って残されていた剣で縛めを解くと再び北を目指して歩き出します。小屋を見つけてベッドで眠り込んだガウェインは、ウィニフレッドに起こされ、斬首された首を泉から探し出して欲しいと頼まれます。見返りを尋ねると何故聞くのと叱られ、そのまま泉に入って頭蓋骨を見つけて小屋に戻るとそれは生首になり「命のかぎり守ってあげます」と言うと再び頭蓋骨に戻ります。ベッドに横たわるウィニフレッドの骸に頭蓋骨を置き、気付くと部屋には盗られた筈の斧がありました。

旅を続けるガウェインの前に一匹のキツネが現れ、ずっとついてきます。
山の上に登ると巨人たちが歩いてくるのが見え「肩に乗せて運んでくれ」と巨人に声をかけたものの、手を伸ばされると怖気づいて逃げてしまいます。
雨の夜、疲れきったガウェインはキツネに導かれて城の扉を叩き、城の主人(ジョエル・エドガートン)にあたたかく迎えられます。ゆっくり休養するよう言われ、紹介された奥方がエセルにそっくりでガウェインは驚きます。そこには、目隠しをした老婆もいました。

城に滞在するガウェインに奥方は何故か盗賊に盗られた緑の帯を持ち誘惑の手を伸ばしてきます。慌てて身支度をして城を出たガウェインは森の中で城の主人に出くわし
「私によこすものはないのかね?」と尋ねます。そして答えられずにいるガウェインにいきなり口づけします。(このエピソードの解釈は難しくてお手上げ~)

川にやってきたガウェインは「もう旅は終わりにしたほうがいい」と忠告するキツネを追い払い小舟に乗りこみます。
礼拝堂に辿り着いたガウェインが目にしたのは、石像のように動かない玉座に座る緑の騎士です。翌朝になると緑の騎士は「来たのか。クリスマスか?」と言い斧を持つとガウェインに振り下ろそうとします。

怖くなったガウェインは何度も「待って」を繰り返した挙句、愛馬に乗り都へ逃げ帰ります。生還した彼を王は騎士と認め、やがて王が亡くなるとガウェインが王位を継ぎます。エセルが産んだ男子を取り上げ彼女を捨てたガウェインは、別の国の姫と結婚しますが、やがて戦争が起こると成長した息子を喪います。敗走し都に戻ったガウェイン王は群衆に物を投げつけられますが、その様子をエセルは冷ややかに見つめていました。敵国に攻め込まれたガウェイン王は王冠を置き帯を解いて斬首されます。

気が付くと、彼は緑の礼拝堂にいました。先ほどまでの出来事は、ここを逃げ帰った場合に待ちうける未来だったと気付いたガウェインは、今度こそ覚悟を決めて緑の帯を外し首を垂れます。それを見た緑の騎士は「よくやった」とガウェインの成長を認め「首とともに去れ」と告げました。

娼館に入り浸って自堕落に日々を過ごしていた息子への試練として母が考えたのが緑の騎士の召還でした。息子を一人前の騎士にするために冒険の旅に送り出し、次々と試練を与えるのですが、それは即ち五つの徳(寛容・友愛・純潔・礼節・同情心)を試すものでした。母はキツネの姿を借りて息子を見守っていたのね。城にいた目隠しをした老婆も彼女でしょう。😀 

にしても・・・抒情詩だけあって解釈も難解。もっと気楽に楽しめる作品が好き😵



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お探し物は図書室まで

2023年07月18日 | 
青山 美智子(著) 

お探し物は、本ですか? 仕事ですか? 人生ですか?人生に悩む人々が、ふとしたきっかけで訪れた小さな図書室。彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。
仕事や人生に行き詰まりを感じている5人が訪れた、町の小さな図書室。「本を探している」と申し出ると「レファレンスは司書さんにどうぞ」と案内してくれます。
狭いレファレンスカウンターの中に体を埋めこみ、ちまちまと毛糸に針を刺して何かを作っている司書さん。本の相談をすると司書さんはレファレンスを始めます。不愛想なのにどうしてだか聞き上手で、相談者は誰にも言えなかった本音や願望を司書さんに話してしまいます。
話を聞いた司書さんは、一風変わった選書をしてくれます。図鑑、絵本、詩集......。そして選書が終わると、カウンターの下にたくさんある引き出しの中から、小さな毛糸玉のようなものをひとつだけ取り出します。本のリストを印刷した紙と一緒に渡されたのは、羊毛フェルト。「これはなんですか」と相談者が訊ねると、司書さんはぶっきらぼうに答えます。 「本の付録」と――。
自分が本当に「探している物」に気がつき、明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。(ポプラ社HPより)


一章 朋香 二十一歳 婦人服販売店
総合スーパー「エデン」の婦人服売り場でレジ打ちや接客をしている朋香は、ベテランパートの沼内さんの厳しさが苦手。田舎が嫌で勉強を頑張って東京の短大に入り、そのまま東京で就職したものの、今の仕事内容も好きになれず、悶々とした日々を過ごしていました。転職して今の眼鏡売り場で働く、朋香が唯一フランクに話せる桐山君に、自分も転職を考えていることを明かすと、パソコンのスキルを得ることを勧められます。地域コミュニティで個人のパソコン教室が開催されていることを知り申し込んだ朋香は、教室の先生に薦められた本を探しに同じ建物の中にある図書室へ寄って、司書の小町さんに出会うのです。
朋香から見た小町さんは「とにかく大きな女性」で「穴で冬籠りしている白熊」のよう。(印象は物語の主人公によって様々なのが面白い)
小町さんはパソコン関連の本と、なぜか『ぐりとぐら』を勧め、フライパンの形をした羊毛フェルトを本の付録と言って渡します。
帰宅して『ぐりとぐら』を読んだ朋香は、子供の頃にホットケーキだと思っていた卵料理がカステラだったことに驚きます。
東京にいる朋香を羨ましがる田舎の友人・沙耶からの「すごい」と言う称賛が短大の頃は心地よかったけれど、最近はその言葉を素直に受け止められなくなっている朋香は、女性客のクレームも上手く処理できずに落ち込みます。
桐山君から、転職理由(仕事に忙殺されて「食うために仕事しているのに、仕事しているせいで食えないなんておかしい」と思った)を聞き、「今の自分にできることを今やってる」と言う彼の言葉に目からうろこの思いになった朋香は、先ほどのクレーマー客の訴えを真摯に受け止めた後で的確なアドバイスをして返品どころか新たにもう一品購入させる素晴らしい対応をしている沼内さんを見て、これまでの自分(正社員であることでパートの沼内さんを見下す思いがあった)を恥じ、逆に彼女に尊敬の念を抱きます。
『ぐりとぐら』のカステラを作ろうと思い立った朋香ですが、失敗が続きます。でも練習するうちに遂に美味しいカステラが出来上がります。カステラだけでなく料理もするようになった朋香は、沼内さんの「続けているうちに分かることがある」という言葉の意味がわかった気がしました。
沼内さんにカステラを渡し『ぐりとぐら』の話をすると、2人で相談して協力しあう場面が好きだと言った沼内さんは「ね、仕事は協力しあってやっていけばいいのよ」と言いました。
今はまだわからないけれど、焦らず背伸びせずやれることをやりながら、手に届くことから身につけ備えていくことを朋香は決意します。

二章 諒 三十五歳 家具メーカー経理部
高校時代に訪れたアンティークショップ「煙木屋」で出会ったアンティークの世界が忘れられず、自分の店を持つことを夢見ている35歳の諒ですが、現実は仕事を押し付けられても文句も言えない気弱なサラリーマン生活を送っています。
恋人の比奈に連れられ出かけた講習会の後で立ち寄った図書室で、小町さん(彼の小町さんの印象はゴーストバスターズのマシュマロマン)から薦められたのは転職関係の本と『植物のふしぎ』と羊毛フェルトの猫でした。偶然目に留まった「コミハ通信」で本屋「キャッツ・ナウ・ブックス」のオーナーの安原さんが「パラレルキャリア」であると知って興味を持ちます。
やる気のない後輩の吉高さんの適当な仕事ぶりを指摘した諒は、彼女からパワハラだと人事に訴えられ、更に彼女が社長の姪だとわかって落ち込みながら帰宅すると、ネットショップ(シーグラスのアクセサリーを作って売っている)で目標額を達成したことを嬉しそうに報告する比奈に苛立って思わず本音を投げつけて傷つけてしまい更に落ち込みます。
安原さんに会いに行った諒は、「お金も時間も勇気もない」と起業を迷っていることを告白します。すると安原さんは「『ない』を目標にしたら」「大事なのは運命のタイミングを見逃さないこと」とアドバイスします。本の返却に行った諒は小町さんからも「すでに始まってる」と起業への後押しの言葉をもらい、意を決して比奈に先日のことを謝罪し、起業したい旨を明かします。会話の中で、諒は何故店を開きたいと思ったのか自分の本当の気持ちに気付くのです。悠久の時を経て受け継がれていくものを「誰か」に渡す介在がしたい、そのための空間としての店が欲しいのだと。
比奈は彼の思いに共感し、「手伝う」ではなく「一緒に」やりたいと言ってくれました。
社長に呼ばれた諒は叱責を覚悟しますが、社長は諒の上司の田淵の諒への評価を聞いて姪に問い質し、彼女の非を認めて謝罪してくれました。
信用といういつのまにか繋がっていた見えない糸が彼を新しい世界に誘っていました。「ない」ではなく「今ある」ことから始めていこうと彼は決めます。

 
三章 夏美 四十歳 元雑誌編集者
出版社「万有社」の雑誌編集部で15年頑張ってきた崎谷夏美は、妊娠出産後僅か4ヶ月で職場に復帰します。ところが待っていたのは資料部への異動でした。作家の彼方みづえの連載の企画など、編集部に貢献しているとの思いが裏切られた気がし、育児に積極的に協力してくれない夫にもイラつきます。
ある日、娘の双葉とコミュニティハウスの図書室を訪れた夏美は、小町さんから数冊の絵本の他に『月のとびら』という本と地球の羊毛フェルトを渡されます。
夏美が担当していたみずえ先生は副編集長に抜擢された独身の木澤さんが引き継いでいて、羨む気持ちがありました。その木澤さんから先生のトークイベントの出席を頼まれ、先生からはお茶の誘いも受けて嬉しい気持ちを抑えきれない夏美でしたが、当日双葉が熱を出したと保育園から連絡が入り、イベント出席もお茶の予定もキャンセルになり落ち込んで夫に苛立ちをぶつけてしまいます。
後日、先生から改めてランチに誘われた夏美は、先生から感謝の気持ちを伝えられ感動し、思わず思うようにいかない現状を打ち明けます。
独身女性は既婚女性を、既婚女性は子供のいる女性を、子供のいる女性は独身女性を羨ましく思うという嫉妬の感情の堂々巡りを遊園地のメリーゴーランドに例えて、先生は夏美にアドバイスをくれました。
『月のとびら』の中の「変容」についての内容が先生の「遊園地は広い」とのアドバイスと重なり、自分が本当にやりたいことは「小説の編集」だと気付いた夏美は、検索して見つけた大手出版社の中途採用に応募します。
夫に車を出してもらって家族で出かけたエデンで編集部にいた頃の知人の桐山君に出会った夏美は、彼が転職したことを知って自分も転職活動を始めたことを話します。(一章で登場した店と眼鏡店の桐山君ですね。狭い地域の中の登場人物だからどこかで繋がってもおかしくないけど、そういう「人の縁」は書き手の特徴でもあるようです)
不採用の通知を受け取って「やはり子育て中の自分には無理なのか」と諦めかけた夏美に追い打ちをかけるように、木澤さんが編集長に昇進します。でもその発表の場で見せた彼女のふとした表情から、それまでの苦労を感じ取った捺美は、「嫉妬のメリーゴーランド」が止まったことを実感します。
桐山君から絵本を主に扱う出版社の中途採用の話が持ち込まれます。
子育て中の女性も働きやすい職場で夏美は新たな一歩を踏み出したのでした。
出産前に思い描いていた理想と現実のギャップ、育児に後ろ向きではないけれどどこか他人事な夫、したいこととしなければならないことの間で揺れる心。
働くママ共通の悩みや苛々が伝わってきます。でも視点を変えれば見える世界も変わるんだね。
ちなみに夏美の小町さんの印象は「ベイマックス」でした😁 

四章 浩弥 三十歳 ニート
小学生の頃に通った叔父夫婦の経営する漫画喫茶で漫画を友達として育った浩弥は、絵を描くことが大好きになりイラストの専門学校を出ましたが就職で躓き、バイトも続かずにニート生活をしています。母に頼まれて出かけたコミュニティーハウスのマルシェで、「モンガー(21エモンのキャラ)」のぬいぐるみを見つけ、それを作った人が気になり図書室を訪れ、小町さんから『ビジュアル 進化の記録 ダーウィンたちの見た世界』を勧められ、飛行機の羊毛フェルトを付録に貰います。彼の小町さんの印象は早乙女玄馬(「らんま1/2」のキャラ)でした。
小町さんとの会話の中で「うる星やつら」「めぞん一刻」「MASTERキートン」「日出処の天子」などなど懐かしい漫画の題名が沢山出てきて何だか嬉しくなりました。
極めつけは小町さんが彼に言った「北斗の拳」の中のセリフをもじった「おまえは今、生きている」という言葉です。😀 

お薦めの本は分厚く重いので図書室で読むことにした浩弥は、翌日、同窓会に参加します。目的はタイムカプセルに入れた紙を回収することです。記憶では「歴史に名を残すようなイラストレーター」と書いた筈で、恥ずかしくて誰にも見られたくなかったのです。浩弥は水道局で働きながら夢を追いかけ小説を書き続けている征太郎 と再会し、自分を動かす何かを持っている彼が少し羨ましくなります。

『進化の記録』を読むため図書室に通ううち、『種の起源』を書いたダーウィンの陰にウォレスという自然学者がいたことを知って彼の不遇を憤りますが、小町さんの言葉で、誰かが誰かを想う事が居場所を作るということなのかと思います。自分が欲しかったのは「居場所」なんだと気付くのです。

浩弥は、司書ののぞみちゃんから自分が描いた一見気持ち悪そうな絵を褒められて嬉しくなりますが、一方で出来の良い兄と自分を比べ自分に居場所はないと考えていて、『進化の記録』の中の「好ましい変異は保存され、好ましくない変異は消滅させられる」に自身を重ねて落ち込みます。

のぞみちゃんの過去(皆と馴染めずに保健室登校をしていた時期があった)や、司書を目指す理由(当時養護教諭だった小町さんが彼女の読書感想文を読んで褒めてくれたことがきっかけ)も浩弥との会話の中で書かれていました。

LINE交換した征太郎から電話がかかってきて、作家デビューが決まったと報告を受けます。彼は高校時代に浩弥だけが自分の小説は面白いから書き続ろと言ってくれたと言い、それが書き続ける原動力でお守りだったと言いました。デビューの陰には三章 の主人公・夏美がいます。ラストでちゃんと伏線になってたっけ。

ポケットに入れたままだったタイムカプセルに入れた紙を開くと、そこには「人の心に残るイラストを描く」と書かれていました。誰かの人生の中で心に残るような絵が一枚でも描けたらそれが自分の居場所になると浩弥は思います。

コミュニティーハウスの事務室の手伝いの仕事を始めた浩弥は、コミハ通信に描いたイラストが小さい子に好評と知り嬉しくなります。母がこれまで温かく見守っていてくれたことにも感謝する浩弥は、「俺は今、生きている」と実感するのでした。

五章 正雄 六十五歳 定年退職
定年退職となって、何をしたらよいか分からなくなり、趣味もない正雄は社会からはじかれたような心持になります。妻の依子から、囲碁教室を勧められてコミハに出かけたものの、囲碁は初めてで戸惑うばかり。教室の先生は妻がインストラクターをしているパソコン教室の生徒の矢北さんで、熟年離婚している彼から「お宅もそろそろ気をつけたがいい」と言われます。

囲碁の教本でもと立ち寄った図書室で出会った小町さんが裁縫箱として使っていた菓子箱は正雄が勤めていたメーカーのものだったので、嬉しくなって会話が弾みます。小町さんが薦めてくれたのは囲碁の本と『げんげと蛙』という詩集、付録は羊毛フェルトのカニです。ちなみに正雄の小町さんの第一印象は巨大な鏡餅😁 

早速詩集を読んだ正雄は『カジカ』という詩が気になります。
翌日、依子と出かけたエデンで、婦人服売り場の店員の朋香(彼女も妻の生徒で一章の主人公ですね)との会話の中で「おにぎりを作ってあげたら喜ばれる」とアドバイスされます。食品売り場のサワガニに思わず自身の会社員時代を重ね合わせてたまらない気持ちにもなります。娘の千恵が働いている書店に立ち寄った正雄は蛙、娘からカジカは蛙のことだと教えられ「詩は好きなようにイメージをして読めばいい」と言われます。改めて『カジカ』を読んだ正雄はその面白さに気が付きます。

『窓』という詩にも強く引き寄せられた正雄は、詩の中では波という言葉が繰り返されるのにどうしてタイトルが「窓」なのか気になります。
後日妻に頼まれてマンションの管理人の海老川さんにお裾分けを持っていった正雄は、会話の中で彼が以前に様々な職を渡り歩いたことを知って驚きます。
「人と人が関わるならそれは全て社会だと思う」という海老川さんに、『窓』の内容を重ねた正雄は、彼と一緒に生きたという感覚を味わいます。(この海老川さんは二章に出てくる「煙木屋」のオーナーさんですね。😮
また千恵とも『窓』の感想を語り合った正雄は、かつて自分が何気なく口にした言葉を大切に解釈して自分のものにした娘の成長した姿に強く心を揺さぶられます。

本の返却の際、正雄は小町さんに本の付録はどのように選んでいるのか尋ねます。
すると彼女はインスピレーションだと答え「皆さん、私が差し上げた付録の意味をご自身で探し当てるんです。本も読んだ人が自分自身に紐づけてその人だけの何かを得るんです」と話します。(へぇぇ~~そうだったのか😲

依子とピクニックに出かけた正雄はサプライズでおにぎりを作って喜ばれます。依子は自分がリストラに遭った時にドライブに誘ってくれた正雄に救われたことを明かします。千恵から聞いた妻の好きな「野沢菜」の具は、ドライブ先の長野で食べたことで好きになったのでした。
目に映る日々を豊かに味わい、好きな物を大切に集めていこうと決めた正雄は、思いつくままこぼれてくる言葉を口にします。依子に「なあに、それ?」と聞かれ「正雄のうた」と答えると、依子は「悪くないセンスね」と頷いてくれました。
定年後の熟年離婚はこの夫婦には訪れないな~~😊 

それぞれが持つ小町さんの第一印象が愉快です!本当に感じ方は人それぞれだと伝わってきます。そして彼女が作る羊毛フェルト(本の表紙にも使われていますね)の温かな雰囲気も良いな💛ちょっと作ってみたくなるかも。

『ただいま神様当番』では「坂下」のバス停が、本作ではコミハの図書室が登場人物たちの共通点になっていますが、さらに彼らがどこかで交錯しているのが興味深いです。人生は一直線ではなく、様々な人との関わりの中で編まれているという視点が温かくて好きです。
また自分の中の先入観とか思い込みがその人の世界を狭めていて、登場人物たちがそれに気づくことで前が拓ける展開も共通しています。
物事の本質を見る目を持つこと、それに気づくことが大切なんだと伝えている気がしました。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ただいま神様当番

2023年07月16日 | 
青山 美智子 (著) 宝島社(刊)

ある朝、目を覚ますと腕に大きく「神様当番」という文字が!突如目の前に現れた「神様」のお願いを叶えないと、その文字は消えないようで…?「お当番さん、わしを楽しませて」幸せになる順番を待つのに疲れたOL、理解不能な弟にうんざりしている小学生の女の子、SNSでつながった女子にリア充と思われたい男子高校生、学生の乱れた日本語に悩まされる外国人教師、部下が気に入らないワンマン社長。小さな不満をやり過ごしていた彼らに起こった、わがままな神様の奇跡は、むちゃぶりなお願いから始まって―。ムフフと笑ってほろりと泣けて、最後は前向きな気持ちになれる。5つのあたたかい物語。(「BOOK」データベースより)


5つのお話の主人公たちは、毎朝同じ時間に「坂下」バス停を利用する5人の乗客です。顔見知り程度の彼らですが、ある朝急に「神様当番」に任命されるんですね。バス停に一番乗りした日に「おとしもの」と書かれた付箋が付けられた品物を思わず持って来てしまった翌朝に神様は現れます。それは、限定版のCDだったり、憧れの腕時計だったり、最新型のワイヤレスホンだったり、急に雨が降り出した時の傘だったり、一万円札だったり、それぞれが一番欲しがっていたものです。

朝目覚めると、左腕に大きく「神様当番」と書かれ、「神様」を名乗るお爺さんの願いを叶えないと腕の文字が消えないと言われます。小さな勾玉となったお爺さんは左腕に出入り自由で、その左手は持ち主の思いとは無関係に勝手な行動をし始めます。でもその行動は本人が心の中で本当はそうしたいと考えていたこと。つまり神様とは自身の本心なんですね。神様は本人の体験を通じてそのことに気付かせようとしていたのです。

物語が進んでいくにつれ、単に同じ時間に同じバスに乗る顔見知りというだけでなく、それぞれに会話が生まれ次第にその輪が広がっていきます。咲良の勇気ある行動を見て尊敬の念を抱く千帆、直樹が菊子の誕生祝いの花束を作ってもらった花屋の店員はリチャードの住むアパートの大家の娘で、咲良が作った指輪を買ったカップルの彼氏は直樹の同級生だったり、咲良が友だちになったのが喜多川葵だったりなどなど、それぞれがとても自然な形で繋がっていました。

1 水原咲良(OL)
印刷会社の事務員で、人気アイドルグループ「キュービック」のファンの咲良は、自分に自信が持てずに、いつかは自分にも楽しいことが来ることを夢見て楽しくない日々を過ごしていました。楽しいことが自分に起きるのを待っていた咲良ですが、バスの中で、妊婦に席を譲らない男性を自分の左腕がむんずと掴んで立たせてしまい咲良を驚かせますが、バスを降りた時その男性が「気が付かなかった、ありがとう」と礼を言って立ち去るエピソードがきっかけとなり、待つだけでなく自分から行動しようという気持ちになっていきます。 素直に相手の言葉を受け止めて自分の行動を見つめ直し始めた咲良は、喜多川葵という友人と新たな趣味を得るのでした。

2 松坂千帆(小学生6年生)
出来の悪い弟の勝(スグル)に始終苛々させられている千帆は、出来の良い弟が欲しいと思っていました。ある日ピアノ教室にスグルと同い年の男の子が入ってきます。礼儀正しく上品な服装の彼が弟だったら良いのにと思ってしまった千帆でしたが、先生が大切にしているリアドロ人形を触って壊してしまった彼が千帆に罪を被せたことに衝撃を受けます。夕食で大好きな唐揚げも少ししか食べられなかった千帆に気付いて心配してくれたのはスグルでした。スグルは学校で飼っているウサギの一匹が元気がないことにも気付いていました。ウサギのことも姉のことも大好きだからこそよく見ていたのです。そのことを用務員さんに指摘されて気付いた千帆が一緒の当番の男の子(ガタイが良くて強そう)の前で思わず泣いてしまった時、姉が虐められていると誤解したスグルが決死の形相で上級生である男の子に立ち向かおうと駆け付けてきます。その姿を見て改めて千帆スグルルのことを最低だけど最高の弟だと思ったのでした。
千帆に濡れ衣を着せた男の子がそのまましらばっくれずに母親に話して謝ってくれます。そのことをお母さんから聞かされた千帆は自分の正直な気持ち(お姉ちゃんではなく千帆って呼んで欲しい)を話すことができました。お姉ちゃんだから弟の面倒を見なくてはという自他の圧力がちょっと重かったんだよね。でもスグルが生まれた時「これからはお姉ちゃんって呼んで」といったのは千帆だったみたいだけど😁 

3 新島直樹(高校生)
リア充に憧れるナオキですが、実際は友だちも出来ず、高校生になってやっと買ってもらったスマホで始めた飼い猫の「オクラ」の写真をツイートしているフォロワーもたった一人。いつもツイートに「いいね」をくれるアザミのことが気になりながらも、リアルで会う勇気もなく、バーチャルだから良いのだと自分を誤魔化していました。同級生の中田君は成績も良くクラスの人気者で綺麗な彼女もいてまさにリア充に見えて羨ましく思っていました。そんなナオキが拾ったのは最新式のワイヤレスホン。ところが翌朝現れた神様から「リア充」のお願いをされてしまいます。(ちなみにこれまでも神様の出現で拾った品物は消えちゃうんですけどね。)
左手の勝手な行動でアザミとリアルで会うことができたナオキでしたが、自分のことを良くみせたくてバスケ部のレギュラーだと嘘を付いたため、試合を見に行きたいと言われて困惑し、話を逸らしてしまいます。そんなナオキを見てアザミは自撮り画像を「盛って」いたことで嫌われたのだと勘違いしてしまいます。振られたと落ち込むナオキにリア充だと思っていた中田君は、必死に努力して今の自分があり、それで彼女と付き合うことができたと話し、ナオキを励まします。努力もせずにただリア充を願っていたナオキは、完全な人なんていない、不完全だからこそ自然なんだと気付きます。アカウントも消してしまった彼女にもう一度会いたくてナオキは二人だけに通じるツイートをします。正直に自分がついた嘘を告白して謝ったナオキの腕からあの4文字は消えていました。

4 リチャード・ブランソン(大学非常勤講師)
昔隣に住んでいた日本人夫婦がきっかけで日本が好きになり、イギリスからやってきたリチャードは、大学で英語の非常勤講師をしていますが、授業に耳を傾けるどころか乱れた日本語が飛び交う学生たちの姿に失望します。学食で、学生たちが自分の授業はつまらないと話しているのを聞いてますます意欲を失った彼は、一年の契約が切れたらイギリスに帰ろうと考えます。そんな彼の前に現れた神様の願いは「美しい言葉で話をしたいでした。
太文字の「神様当番」をクールと思ったり、神様とのどこかずれた会話にクスっと笑わされ、異国で感じる戸惑いにはっとさせられたり・・・リチャードはとても真面目な人で、だからこそ自分の感情を出せずにモヤモヤを溜め込んでしまったのね。
面倒見の良い大家の娘から「怒っているとか悲しいとか、そういう気持ちは一番しっかり伝えなくちゃだめだよ。その後にちゃんと笑うためにもね」と言われたリチャードは、左手の助けもあり、不真面目な態度の学生たちを前に自分の気持ちをはっきり言葉に出して伝えます。翌日、反抗的な態度だったハヤトから、思わぬ告白と謝罪を受けたリチャードは、自分こそが彼らを思い込みで見ていたのだと気付くのです。相手と心のこもった言葉を交わすこと、「スピーク」ではなく「トーク」がしたかったリチャードの願いはこの日叶ったのね。

5 福永武志(零細企業社長)
小さな会社の社長をしている「俺」に神様は「偉くなりたい」とお願いします。これまで必死に働いて自分の会社を立ち上げ人を使うようになった彼は、作業服を脱いでスーツを着る人生=偉くなることを望み、神様が左腕に入ったことで自分が神になったと勘違いするのですが、従業員に離反されると疫病神扱いするのが可笑しかったです。憤慨し途方に暮れる彼を妻は鷹揚に励まします。ただ一人残った女性事務員の喜多川葵から誘われたストリップショーで愛和ネネのステージを見たことで、彼の心境に変化が生じます。
自分独りで築いてきたと思っていたのは間違いで、周囲が支えてくれたからこそ今があるのだと気付いたのです。左手が勝手に受注した仕事をするため、葵を伴い久しぶりに作業服を着てエアコンの取り付けに向かった家で、仕事を始めた頃の気持ちを思い出した彼は、その家の主婦が天井の電球を取り替えたくても自分でするのが怖かったことを知り、いつもトイレを借りに来るお婆さんの本当の理由に思い至ります。
初心に還った彼は、ストリップバーで知り合った大企業の社長の正社員の誘いを断り、妻(経理担当)と葵と共に裸一貫から始めようと話し合います。
果たしてお婆さんは家のトイレの電球が切れたのを替えることができず暗いトイレに入れずに我慢していました。電球を取り替えて灯りがついた時の嬉しそうな顔を脚立の上から見た彼は、自分が既に「高いところからの景色」を見ていたことに気付くのです。

神様が宿った左手は、その持ち主が本当はやりたかったことをします。
憧れて真似して学んで自分を生きながら自分のものにしていくうち、自分も誰かの前に何かを落としていくと語る神様、深いです😳 だからこそ神様なんだね。5人の願いを叶えた神様は今度はどこに現れるのかな😀 





  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラーゲリより愛を込めて

2023年07月15日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年12月9日公開 133分 G

第二次大戦後の1945年。そこは零下40度の厳冬の世界・シベリア…。わずかな食料での過酷な労働が続く日々。死に逝く者が続出する地獄の強制収容所(ラーゲリ)に、その男・山本幡男(二宮和也)は居た。「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます。」絶望する抑留者たちに、彼は訴え続けた――
身に覚えのないスパイ容疑でラーゲリに収容された山本は、日本にいる妻・モジミ(北川景子)や4人の子どもと一緒に過ごす日々が訪れることを信じ、耐えた。劣悪な環境下では、誰もが心を閉ざしていた。戦争で心に傷を負い傍観者と決め込む松田(松坂桃李)。旧日本軍の階級を振りかざす軍曹の相沢(桐谷健太)。クロという子犬をかわいがる純朴な青年・新谷(中島健人)。過酷な状況で変わり果ててしまった同郷の先輩・原(安田顕)。山本は分け隔てなく皆を励まし続けた。そんな彼の仲間想いの行動と信念は、凍っていた抑留者たちの心を次第に溶かしていく。
終戦から8年が経ち、山本に妻からの葉書が届く。厳しい検閲をくぐり抜けたその葉書には「あなたの帰りを待っています」と。たった一人で子どもたちを育てている妻を想い、山本は涙を流さずにはいられなかった。誰もがダモイの日が近づいていると感じていたが、その頃には、彼の体は病魔に侵されていた…。
松田は、危険を顧みず山本を病院に連れて行って欲しいと決死の覚悟でストライキを始める。その輪はラーゲリ全体に広がり、ついに山本は病院で診断を受けることになった。しかし、そこで告げられたのは、余命3ヶ月― 山本により生きる希望を取り戻した仲間たちに反して、山本の症状は重くなるばかりだった。それでも妻との再会を決してあきらめない山本だったが、彼を慕うラーゲリの仲間たちは、苦心の末、遺書を書くように進言する。
山本はその言葉を真摯に受け止め、震える手で家族への想いを込めた遺書を書き上げる。仲間に託されたその遺書は、帰国の時まで大切に保管されるはずだった…。ところが、ラーゲリ内では、文字を残すことはスパイ行為とみなされ、山本の遺書は無残にも没収されてしまう。山本の想いはこのままシベリアに閉ざされてしまうのか!?死が迫る山本の願いをかなえようと、仲間たちは驚くべき行動に出る――
戦後のラーゲリで人々が起こした奇跡―― これは感動の実話である。(公式HPより)


辺見じゅんの「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」を基に、「護られなかった者たちへ」「糸」の瀬々敬久監督がメガホンをとったシベリアの強制収容所に抑留された実在の日本人捕虜・山本幡男の伝記ドラマです。

冒頭、中国・ハルビンで身内の結婚を祝い、丸テーブルを囲む山本幡男一家の姿が映し出されます。幸せな時間はしかし、ソ連の爆撃により終わりを告げます。駅に向かった一家でしたが、山本が崩れた石塀の下敷きになってしまいます。山本は妻に子供たちを託し日本へ帰るよう言います。「大丈夫、必ず日本で会える」との言葉に背中を押され、妻は子供たちを連れて駅に向かい家族は離れ離れになりました。

捕虜となった山本旗男はシベリアに送られる汽車の中にいました。絶望の漂うすし詰め状態の中、アメリカの歌を歌う山本を見た松田研三は、彼は正気ではないと思います。
彼らが到着した強制収容所(ラーゲリ)は、零下40度にもなる過酷な環境の中、僅かな食料で重労働を強いられ死者が続出する場所でした。
眼の前で友人を亡くし戦線離脱した松田は心に傷を負い「傍観者」に徹すると決めていました。軍曹の相沢光男は山本たちを「一等兵」と呼び階級を嵩に来て威張り散らしていました。
そんな中、山本は「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます」と仲間たちを励まし続けます。ロシア文学が好きでロシア語が堪能だったため通訳をさせられていた山本は、ソ連軍の将校に抑留者の苦境を訴えますが、逆に反乱分子と見なされ営倉に入れられます。

終戦から暫く経って、日本への帰国が許され、希望を胸に汽車に乗り込んだ抑留者たちですが、帰国船の待つ港まであと少しというところで汽車が止まります。
山本は1冊の名簿を渡され名前を読み上げさせられます。名前を呼ばれた者は下車を命じられました。名簿には、松田や相沢、そして山本自身の名前も載っていました。
彼らはソ連の軍法会議にかけられ、山本は身に覚えのないスパイ容疑で15年の強制労働を言い渡されて再びラーゲリに収容されました。そこで山本は変わり果ててしまった同郷の先輩の原幸彦と再会します。

山本は日本で妻子と過ごす日々が訪れることを信じ、劣悪な環境と重労働に耐えます。山本は、彼に懐く黒い仔犬を通して、軍人でもなく足の悪い新谷健雄までがスパイ容疑で捕まったことを知り驚き呆れます。

苦しい作業が続く毎日の中でも分け隔てなく皆を励まし続ける山本の行動と信念は、凍っていた抑留者たちの心を徐徐に溶かしていきました。
終戦から8年が経った頃、手紙のやり取りが認められ、それぞれ家族へ葉書を書きました。ようやく届いた妻からの葉書には「あなたの帰りを待っています」と綴られていました。妻のモジミは4人の子どもを連れて無事に帰国しており、教師として復職し、幼い子どもたちを育てていました。妻の苦労を思い涙する山本でしたが、この頃から咳をするようになります。

一方、松田は母の、相沢は妻の死を知らせる葉書を受け取ります。
身重の妻が空襲で亡くなったと知った相沢は、生きる意味を失い射殺されようと収容所の鉄格子を越えようとします。「それでも生きるんだ」と山本は必死に止めますが、突然痛みに見舞われ気を失ってしまいます。

山本の容態は悪化を辿り、傍観者の鎧を脱ぎ捨てた松田は、決死の覚悟でストライキを始め、彼の思いを聞いた仲間たちも加わってラーゲリ全体に広がります。ただ一つの要求、それは山本を大きな病院に連れて行って検査を受けさせて欲しいということでした。遂に彼らの要求が通りますが、検査の結果告げられたのは「喉の癌で余命三か月」の診断でした。希望を捨てそうになる山本を、相沢が鼓舞します。(この病棟の会話はまさにニノ迫真の演技です。)
どんどん悪化する病状の中、それでも妻との再開を諦めない山本に、原や彼を慕う仲間たちは断腸の思いで遺書を書くよう進言します。その言葉を真摯に受け止めた山本は、震える手で家族への想いを込めた遺書を書き上げると、その生涯を閉じました。仲間に託されたその遺書さえ、没収されてしまいます。文字を残すことはスパイ行為とみなされたからです。

遂に最後の引揚げ船でラーゲリの仲間たちの帰国が決まります。山本の死後行方不明になっていたクロが港に姿を現して船の後を追いかける姿に、山本や収容所で無念の死を遂げた仲間たちがクロとなってやってきたと思った松田たちは、クロを船に引き上げて日本に連れて帰りました。
同じ頃、日本では夫の死亡通知書が届き泣き崩れるモジミの姿がありました。

1~2年後、原たちが山本家を次々と訪ねてきます。山本の遺書を届けにきたのです。彼が書いた遺書は没収されてしまっていましたが、原、松田、新谷、相沢は山本の遺書を4つに分け、それぞれ分担して記憶し、暗記した遺書を清書して家族に渡しました。原は家族に宛てた遺書を、松田は母への遺書を、新谷は、4人の子どもたちへの遺書を 、そして相沢はモジミへの遺書を担当していました。
 文字は消えても記憶は消えないと言った山本の言葉を思い出した新谷の提案で、苦しい作業の合間にも4人は必死に暗記し続けていたのでした。夫の優しさと仲間たちの友情を知り、モジミは夫が帰ってきたように感じました。この時、幸せの象徴のような海岸での求婚シーンが流れます。
 
2022年。山本の長男・顕一(寺尾聰)は孫娘の結婚式に出席しています。孫娘の晴れ姿を前にした彼は、ハルピンで父と一緒に丸テーブルを囲んだ日のことを思い出していました。

山本は、家族に病気や怪我をせず健康に過ごして欲しいと願い、子どもたちには道義や誠やまごころについて書き残しています。平和な時にはごく普通のことに思われますが、ラーゲリの極限まで追い込まれた状況でも人としての尊厳と慈愛を持ち続けた山本の姿は仲間たちに希望と勇気を与えました。

終戦から今年で78年、既に半世紀を軽く超え、戦争の記憶は遥か遠くになりつつあり、終戦記念日のセレモニーも形式的な感が否めないけれど、世界に目を移せば、ロシアとウクライナの戦争は現実に起きています。
殺さなければ殺されるという極限状況は人の心を確実に壊していきます。
愛する人のために戦うということは、同じ思いを持つ誰かを殺すことです。
その結果が勝利であれ敗北であれ、心に負った傷が癒えることはないのです。
実在する人物に基づいて作られた本作ですが、彼が伝えたかった平和への願い、何気ない日常の穏やかな暮らしは今叶っているといえるのでしょうか・・・。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ひみつのなっちゃん。

2023年07月14日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年1月13日公開 97分 G

ある夏の夜、なっちゃん(カンニング竹山)が死んだ。つまらない冗談を言っては「笑いなさいよ!」と一人でツッコミを入れていたなっちゃんは、新宿二丁目で食事処を営むママ。その店で働くモリリンはドラァグクイーン仲間のバージン(滝藤賢一)とズブ子(前野朋哉)を呼び出す。彼らがまず考えたのはなっちゃんが家族にオネエであることをカミングアウトしていなかったこと。証拠を隠すためなっちゃんの自宅に侵入した3人は、なっちゃんの母・恵子(松原智恵子)と出くわしてしまう。何とかその場を取り繕った彼らだが、恵子から岐阜県郡上市の実家で行われる葬儀に誘われてしまい、なっちゃんの“ひみつ”を隠し通すため”普通のおじさん”に扮し、一路郡上八幡へ向かうことになる……。(公式HPより)


友人の死をきっかけに集まった3人のドラァグクイーンが織りなす珍道中を描いたヒューマンコメディです。

現役から退き、会社員として働いているバージンですが、家で衣装を着て昔の映像を観る姿はダンスへの未練を感じさせます。そんなある夜、モリリンからなっちゃんの死を知らせる電話がかかってきます。なっちゃんは、バージンが師匠と思っている伝説のオネエでした。ズブ子(TVレポーターとして活躍しスッピンでも顔バレする人気者になっている)にも知らせて病院に駆け付けた3人は、なっちゃんの思い出話で盛り上がりますが、ふと、なっちゃんの素性を何も知らず、生前オネエであることを家族に話していないことに気付きます。

慌てて、店からオネエと気付かれそうなものを持ち出しバージンの部屋に運んだ3人は、次になっちゃんの家を新宿二丁目の伝説的人物の下田信之介 (本田博太郎)から聞いて、オネエグッズを隠そうとしますが、そこになっちゃんの母親がやってきたから大変!ルームシェアをしていると関係を誤魔化したものの、行きがかり上、なっちゃんの最期の舞台だと割り切って郡上八幡での葬式に参列することになります。

車での珍道中はモリリンがトラックの運ちゃん(岩永洋昭 )に迫られたり、彼氏に振られたズブ子がスーパーの店員(永田 薫 )に胸キュンしたりとコメディタッチで進みます。
東京から5時間の筈が何故か途中で一泊することになり、でも宿が取れなくて野宿した挙句にズブ子が熊と間違われたことで郡上八幡の旅館の主人・坪井 仁(菅原大吉 )に世話になる件はちょっとこじつけ感がありますが・・・。
坪井の娘の博子(市ノ瀬アオ)にせがまれ、モリリンが隠し持ってきた衣装を着てズブ子と二人で踊るのですが、バージンは頑なに固辞します。年齢も外見も若くはないと自分に線引きをしてしまっているのが伝わってきます。

葬式に参列する3人はオネエを隠し黒のスーツをビシっと決めていますが、焼香の際にモリリンがオネエっぽい声を出してしまったりの小ネタを挟みつつ、別れの時に感極まった3人が棺に取り縋ったせいで、なっちゃんが棺から飛び出してしまいます。スカート姿のなっちゃんに参列者は呆然。なっちゃんのお母さんは息子がオネエだと知っていたのです。ありのままの自分で生きて良いんだと、バージンは気付かされます。

美しい街並みや郡上踊りなど情緒たっぷりな観光案内のような郡上八幡は目の保養になりましたが、バージンってば、最後まで踊らないじゃん😔 エンドロールまで観てから思わず冒頭シーンを二度見しちゃいましたが、あれは滝藤さん本人だった?・・よね??
最早なっちゃんの秘密は秘密でなくなっているのだから、3人で踊って見送ってあげてもいいんじゃないの?むしろ、ここで踊らない方が不自然な気がしました。
坪井宅で大勢集まってダンスを楽しむエピソードは土地の人が偏見なく受け入れてくれる素地があるってことじゃなかったのかぃ?と。なんか消化不良な感ありでした。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

連続殺人鬼 カエル男 ネタバレあり

2023年07月12日 | 
中山七里(著) 宝島社文庫

口にフックをかけられ、マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。街を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の犯行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに…。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の目的とは?正体とは?警察は犯人をとめることができるのか。
著者について(「BOOK」データベースより)


第8回『このミステリーがすごい!』大賞の最終選考に『さよならドビュッシー』と共にダブルエントリーされたことで話題を呼んだ今作は、刑法39条(心神喪失者の行為は罰せず、心神耗弱者の行為はその刑を減軽する) の是非を問う社会派ミステリーです。

ヒポクラテスシリーズや犬養隼人シリーズ に登場する埼玉県警捜査一課の古手川和也 と上司の渡瀬 の初登場作品のようですが、ヒポクラテス~の法医学研究室のメンバーとのどこかコミカルなやり取りの温かさと違い、今作の古手川刑事は、ひりつく痛みを全身から発しています。
彼が警察官になった理由や内に抱えている自責の念が赤裸々に描かれていて、先にこちらを読んでいたら良かったかな😅 

いきなり全裸で吊るされた若い女性の遺体が発見されるという、かなりショッキングな幕開けです。通報者の新聞配達員が、遺体をスマホで撮影した画像をネットに挙げるという愚行がまさに現代を象徴しているようで寒々とします。

遺体の傍にはひらがなで書かれた稚拙な犯行声明が残されていました。監察医の光崎教授や、犯罪心理学の権威・御前崎宗孝らは犯行の異常性を指摘します。警察は猟奇殺人として捜査を始めますが、第二、第三と犯行が重ねられていきます。
二番目は老人が圧し潰され、三番目は子供がバラバラにされ・・まるでカエルを弄んで殺すようなやり口から、犯人はカエル男と呼ばれて世間を恐怖と混乱に陥れていきます。

埼玉県警に寄せられた2000を超えるタレ込みの中から、過去に性犯罪や殺傷事件を起こし、飯能市に土地勘がある者をピックアップした容疑者リストの中から、古手川は幼女暴行殺害で捕まったものの、カナー症候群と診断され不起訴となり医療少年院に送られ、現在は社会復帰して保護司・有働さゆりの保護観察下にある当真勝雄を訪ねます。

さゆりの音楽療法を受け、歯科医院で雑用をしながら穏やかに暮らす当真を知り、さゆりの奏でる音(楽)に心の深奥を揺すぶられ、また彼女の息子の真人にも好感を抱き始めた古手川でしたが、そのわずか数日後、真人がカエル男の第三の犠牲者となります。
真人が苛められていた現場を目撃して我を忘れて相手(小学生)を脅した古手川には、かつて親友が苛めを受けていたのを見て見ぬ振りをした結果、親友に傷つけられ、彼に自殺されるという過去がありました。

渡瀬は、3件とも飯能市内で名前の五十音順に殺人が行われていると気付きますが、記者会見の席で埼玉日報の尾上記者もこれに気付いて指摘したため、市民の間で恐慌が広がります。更に第四の殺人が起きるに至って、次は自分や家族が狙われるかもしれないという恐怖から、異常犯罪虞犯者リストを求めた市民が飯能警察署に押し寄せ暴徒化していきます。窮鼠猫を噛むとばかりの自己防衛本能がやがて破壊と暴力のための行動に変っていく恐ろしさを、過激な暴力描写でこれでもかと見せつけてくるのには引いてしまいますが、平和ボケの日本では絶対あり得ないと言い切れないところにうすら寒さを感じてしまいます。
暴徒を鎮めるために渡瀬が行ったのは偽の火災発生を知らせるアナウンスとスプリンクラーの発動です。まさに頭を冷やせ!です😁 もっと早くやって欲しかったぞ

当真の務める歯科医院にも市民が押し寄せているとさゆりから連絡を受け、彼の保護に向かった古手川でしたが、そこで被害者たちの共通点に気付きます。そうなると犯人は彼しかいないわけです。自分の推理が間違いであって欲しいと祈るような気持ちで当真の部屋に入った古手川はそこで決定的な証拠を発見しますが、戻ってきた彼に徹底的に痛めつけられます。日頃の気弱そうな姿はなく、どこにそんな力がと思うほどの怪力と獣性を顕にする彼に、既に暴徒化した市民相手に怪我を負っていた古手川は追い詰められていきます。間一髪で救出された古手川でしたが、この場面も思わず飛ばし読みしたくなりました。😱 

事件解決の報告をするためにさゆりを訪れた古手川でしたが、リクエストした曲を弾く彼女の演奏に違和感を覚えます、その正体が当真が犯人とした時の違和感と気付いた時、さゆりの様子が一変。完全防音な密室の暗闇の中で更なる暴力シーンが繰り広げられるに至って、これはバイオレンス作品だったのか?と😞 普通、短期間にこれだけの暴力を受けたら常人なら再起不能ですぞ。今度こそ絶体絶命な古手川君ですが、またまた渡瀬に助けられて九死に一生を得ます。

さゆりの動機が、家のローン費用返済のために息子の生命保険金狙いであり、無差別猟奇殺人を装って犯罪被害者給付金をも騙し取ろうとしていたというのは何だかな~~。更に真人の体の痣は母親であるさゆりが虐待していたというのだから唖然とします。

渡瀬が古手川を伴って訪れたのは御前崎教授です。さゆりは府中の少年院=関東医療少年院に収容された過去があり、その時の矯正スタッフのリーダーが御前崎で、彼から薦められたピアノで才能を開花して社会復帰しており、更に当真も御前崎が担当していたことから、さゆりが当真の保護司として推薦されていたのです。

以上の理由からの報告かと思いきや、渡瀬は自分の妄想と断り、さゆりもまたある人物に操られていたと語ります。それは3年前に一人娘と孫を(後に)精神障害と診断された17歳の少年に殺された御前崎だと。 彼の本当の目的は、犯人の少年を無罪にした4人目の被害者の人権派を名乗る弁護士を殺すことだったのです。そのためにさゆりを再び虐待してナツオ(カエル男本人の独白として折々に登場する名前がさゆりを指していたとは!!)の人格を呼び戻すという残酷な仕打ちをしていました。

我が子を愛せず借金返済のために殺すことを厭わないさゆりも、身内の復讐のために何の罪もない者まで犠牲にする御前崎も常人の感性からかけ離れています。

では無罪となった当真は純粋な被害者なのでしょうか?
小説の最後の一文でその思いは打ち砕かれます。そして渡瀬が古手川に語った「因果応報」が間違いなく(現状、法で罰することのできない)御前崎の身に降りかかるだろうことに救われる気がすることに、少し引いてしまうのです。
それにしても、最後は渡瀬の一人舞台となるのは、作者の手抜きな感が否めないんですが😵 

犯人が二転三転するどんでん返しの手法はこの作者の特徴でもあるようですが、わかってみれば、確かに伏線は随所に散らばっていました。
ナツオというカナ名から男だと思い込まされていたり、診察券や銀歯などの歯科受診に繋がる共通点、鍵盤を叩く力強い指、息子への苛めに対して客観的過ぎる対応などなど、巧妙に仕込まれているんですね。
だからこそ、種明かしになると展開に強引さが目立つのが残念な気がしたかなぁ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファミリア

2023年07月09日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年1月6日公開 121分 PG12

山里でひとり孤独に暮らす陶器職人・神谷誠治(役所広司)のもとに、一流企業のプラントエンジニアとしてアルジェリアに赴任中の息子・学(吉沢亮)が婚約者ナディアを連れてやって来る。学は結婚を機に退職して焼き物を継ぎたいと話すが、誠治は反対する。一方、隣町の団地に住む在日ブラジル人の青年マルコス(サガエルカス)は、半グレ集団に追われていたところを助けてくれた誠治に亡き父の姿を重ね、焼き物の仕事に興味を持つように。そんな中、アルジェリアに戻った学とナディアを悲劇が襲う。(映画.comより)


「八日目の蝉」「いのちの停車場」の成島出監督による、国籍・文化・境遇を超えて家族を作ろうとする人々の姿を描いたヒューマンドラマです。実際に起きた事件などをヒントにした、いながききよたかのオリジナル脚本で、フィクションとノンフィクションの境界線上のリアリティーを鮮やかに描いています。(公式HPより)

学が連れて来た難民出身で紛争孤児のナディアを誠治や彼の義兄夫婦(中原丈雄、室井滋)は暖かく迎え入れます。しかし、後を継ぎたいという学を、誠治は先細りの仕事だと諫め、ナディアに苦労させず幸せにしてやれと言います。工房の仕事では満足な収入が得られず、代わりに妻が働き過ぎて早死にしていたからです。それでも二人は今の仕事を終えたら戻ってくると言って赴任先に戻っていきました。

場面は隣町の在日ブラジル人たちが住む団地へ。
ブラジル人青年マルコスは、仲間を助けたことから半グレに追われ、誠治の工房に逃げ込んだところを助けられます。日本に夢を抱いてやってきたマルコスの父親は、バブルが弾けた途端職を失い、一緒に連れて来た仲間に顔向けできずに自殺していました。マルコスは日本や日本人への敵愾心を隠そうともしていませんでしたが、どこか父親に似ている誠治に次第に好意を抱くようになり陶芸にも興味を持つようになります。

半グレの頭であるエノモトカイト(MIYAVI)は、かつて愛する家族を飲酒運転のブラジル人に殺されたことでブラジル人全体に復讐心を抱いています。(彼の愛用するピンクの水筒は亡くなった娘のものですね。)坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって…ちょっと無理繰りな気がするけど・・。😔 

半グレの金を盗んだマルコスの友達は殺されてしまいます。それだけでは終わらず、マルコスや友人のルイに「ヤク」を売るよう強要し、ヤクザと取引しようとしたら逆に奪われて窮地に陥ります。(ヤクザの親分役は松重豊さんですが、実は裏でカイトと繋がっているという😔 カイトの親が裏社会の実力者)結局ルイも殺されてしまうのですが、警察は半グレを逮捕できません。証拠がない?

学たちのいる完成間近のナイジェリアのプラントが襲われたというニュースが流れます。犯人たちが身代金目的だと聞いた誠治は金をかき集めて外務省に直談判に行きますが、丁重に追い返されてしまいます。テロリストの要求には応じないという国の姿勢は毅然としているけれど、当事者にはとても受け入れ難いですよね。
数日後、最悪な結果が届きます。検死前のために棺に横たわるからだに触れることさえ制される場面は誠治の無念さが滲み出ていました。後日、学の同僚が訪ねてきて、彼らが殺害された状況(仲間を逃がして銃弾に倒れ犠牲になった)を話していきます。う~~ん・・・ナディアのお腹には新しい命が宿っていたのだからまずは彼女を逃がすのが最優先だったのではとも思ってしまったぞ。学の遺したタブレットに残っていたナディアの妊娠を喜ぶ動画に慟哭する誠治の姿が痛ましい。

マルコスが恋人のエリカ(ワケドファジ)を守ろうと半殺しにされたことを知り、誠治は友人の刑事(佐藤浩市)に協力を頼んでカイトの元へ乗り込みます。自分を犠牲にしてカイトの犯罪を立証しようとする誠治は鬼気迫る気迫がありました。それにしても警察は日本人に被害が及ばないとまともな捜査もしないんかい!と勘繰りたくなりますね。佐藤浩市の使い方が何だかもったいなかったな。

カイトは捕まり(現行犯だものね)長期刑になりそうだけど、彼が消えても一時的に状況が好転するだけで根本的な解決にはならなそうなのが気がかりです。
それでも、マルコスが誠治の新しい「家族」となっていきそうなラストは救いがありました。
国籍や環境、言葉の違いを超えて家族を作ろうとする想いや、大切な人と共に生きていくという気持ちは、憎しみを超えて無償の愛に昇華していくという一種の希望であり願いとなっているように感じ取れました。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

灯台からの響き

2023年07月08日 | 
宮本輝(著) 集英社発行

板橋の商店街で、父の代から続く中華そば店を営む康平は、一緒に店を切り盛りしてきた妻を急病で失って、長い間休業していた。ある日、分厚い本の間から、妻宛ての古いはがきを見つける。30年前の日付が記されたはがきには、海辺の地図らしい線画と数行の文章が添えられていた。差出人は大学生の小坂真砂雄。記憶をたどるうちに、当時30歳だった妻が「見知らぬ人からはがきが届いた」と言っていたことを思い出す。
なぜ妻はこれを大事にとっていたのか、そしてなぜ康平の蔵書に挟んでおいたのか。妻の知られざる過去を探して、康平は旅に出る――。
市井の人々の姿を通じて、人生の尊さを伝える傑作長編。(あらすじより)


板橋区にある仲宿商店街は、年に数度訪れる場所であり、主人公の年齢にも親近感を感じて手に取りました。

妻の突然の死で店を続ける自信がなくなり2年の間引き籠っていた康平が、ある日開いた本から落ちて来た一枚の葉書から物語が動き出します。
差出人に心当たりがないと言っていた妻がなぜそのはがきをとっていたのか、なぜ自分の蔵書に挟んでいたのか、康平は気になります。

康平は、高校2年の時に友人関係に躓き中退して逃げるように家業の中華そば店を継いだのですが、店の事しか知らない康平に、幼馴染のカンちゃん(倉木寛治)から「お前と話しててもつまらないのはお前に雑学がないからだ。とにかく本を読め、優れた書物を読み続ける以外に人間が成長する方法はないぞ」と言われ、猛烈に読書するようになります。
店の常連客だった清瀬老人から薦められた「渋江抽斎」は以後彼の愛読書となり、蔵書は800冊を超えるまでになりました。その中で未読だった「神の歴史」の中からそのはがきは出てきたのです。そこに康平はなにがしかの蘭子の意図を感じ取ります。

夕食を買いに出た友人のトシオ(登志夫)が営む山下惣菜店で灯台のカレンダーに惹かれた康平はそれを貰い受けます。ところがその夜、カンちゃんが心筋梗塞で亡くなります。

この日がきっかけとなり、灯台めぐりの旅を思いついた康平は、レンタカーを借りてまずは房総半島へ出かけます。犬吠埼灯台から野島埼灯台、洲崎灯台を巡る途中で大学生の次男の賢策が合流します。店が忙しく殆ど親子の会話もしてこなかったことに気付いた康平は息子がしっかり将来を見据えていることに嬉しくなります。

娘の朱美と焼肉店で酒を飲みながら夕食をとった康平は、賢策の大学院進学のためにも店を開けようと決意します。その前に、灯台巡りを口実に長男の雄太ともじっくり話をしたいと彼の赴任先の名古屋に出かけた康平は、小料理屋で話しながら息子の成長を感じて誇らしく思います。
ところが、伊良湖岬灯台で転倒し右手薬指にひびが入る怪我をした康平は、店の再開を延期せざるを得なくなります。

カンちゃんの死後、トシオからカンちゃん自身も知らなかった息子(福岡の単身赴任時代に出会った多岐川という女性が、カンちゃんには中絶したと偽って産んだ新之助という青年です。)がいることを知らされていた康平の前に、実の父のことを知り、妻子を連れて父親の住んでいた場所を一目見ようとやってきた新之助が現れたことがきっかけで、一緒に青森の灯台巡りをすることになります。半グレ状態で母親が心配していた新之助は18歳で既に二児の父親ですが、実の父親のことや自分が生まれた事情を母から知らされたことで、それまでの生き方をすっかり変えるのです。実は賢くて心根の真っ直ぐな好青年なんですね。新之助にはがきを見せたところ、彼は描かれていた絵から検索してそこが出雲の日御碕灯台だと教えます。

それまでの子供たちとの何気ない会話から、蘭子が出雲市で暮らしていたことがあることを知った康平は、少しの間一緒に暮らしていたという、今は函館に住む蘭子の叔母の石川杏子に思い切って電話をかけて会いたいと言います。夫の実家のある出雲に来ていると言う杏子に会いに出雲に飛んだ康平は、杏子から近所に住んでいた小坂真砂雄のことを聞きます。蘭子が誰にも話さず抱えてきた秘密を知った康平は、家に戻るとはがきの差出人である小坂真砂雄にトシオに代筆してもらって手紙を書きます。

返事は来ませんでしたが、年の瀬が迫ったある日、小坂真砂雄本人が現れます。
彼は康平を出雲へ誘い日御碕灯台で、かつて彼の子供の頃の「癖」を心配した蘭子に灯台に連れて行かれて誓わされたあることを告白します。
彼は、自分の秘密を守ってくれた蘭子に無事に大学を卒業できることを伝えたくて、二人の秘密の象徴の灯台の絵を描いて送ったのです。それに対する蘭子の返事を読んで、「もうあの事は過去なのだから忘れなさい、私は今後も誰にも言わないから安心して」と言われている気がしたのだと康平に話しました。

「まきの」のラーメンの出し汁の取り方や澄んだスープに入れた麺や具材の描写を読むだけで、思わず食べたくなってきます。そういえば、「環八ラーメン戦争」ブームって確かにあったなぁと思い出しました。車で通ると人気店には長い行列が出来ていたけど、いつのまにか殆ど消えてたっけ。

灯台巡りの途中で立ち寄る海鮮料理や、とんかつ、宿の食事、娘や息子と行った焼肉店や居酒屋、小料理屋の料理の数々などもとても美味しそう。

人情溢れる商店街の人々、旅先での何気ない会話もほっこりします。

中でも心に響いたのは「目をみはるほどの幸福」についての文章です。
何気ない日常の中にあるものこそがそれであり、そのことに気付かない人には目をみはるほどの幸福には生涯出逢えないのだという一文は、まさに自分が日々感じていることです。

康平は蘭子を喪って、それを実感します。
灯台巡りの旅の中で康平は度々蘭子と心で会話しますが、彼女の秘密を知ることで、自分の中の蘭子をより近く引き寄せるのです。

小説に登場する「渋江抽斎」は森鷗外の長編小説で、江戸時代、弘前藩で侍医・考証学者を務めた渋江抽斎の伝記で、素性だけでなく、その妻五百を始めとした周辺人物や抽斎没後の子孫の行く末までが描かれています。(ウィキより)一人の人間の生涯においてかくも多くの人との関わりがあることを康平はこの本から学びとりますが、本作も康平という主人公が妻や子供たち、夫婦の関わりのある人達との関係を描くことで平凡に見える人にも奥深い人生があるのだということを伝えているように感じました。

赤・白・黄・緑の光りや組み合わせでどこの灯台かわかるとか、 灯台の形や作り、海面からの高さなど、灯台についての蘊蓄も語られます。灯台下暗しと言いますが、必ずしも真近で見るのがベストではなく、時には離れた場所や海上から見る方が良いなどの情報もあって、何だか灯台を見に行きたくなってしまいました。灯台守が消えて久しい(2006年に無人化となった)ことも初めて知りました。GPSにより灯台そのものが無くなってしまうかもしれないと聞くと、とても寂しい気がします。航行する船にとって、灯台の灯りはまさに行き先を照らす道標であり、その灯りに安堵する存在なのではないかと思うから。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

凪の島

2023年07月07日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年8月19日公開 107分 G

両親が離婚し、母の故郷である山口県の瀬戸内にある小さな島で暮らすことになった小学4年生の凪(新津ちせ)。母・真央(加藤ローサ)と、祖母・佳子(木野花)と一緒に、佳子が医師をしている島唯一の診療所で暮らしている。普段は明るく振る舞う凪だが、母へ暴力を振るうアルコール依存症の父・島尾(徳井義実)の姿が目に焼き付き、心に傷を負い、時々過呼吸になって倒れてしまう。そんな凪を、事情をすべて知った上で何も言わず温かく受け入れてくれる島の住民たち。凪が通う小学校の同級生の雷太や健吾、担任教師の瑞樹(島崎遥香)、用務員の山村(嶋田久作)、漁師の浩平(結木滉星)。彼らもまたそれぞれ悩みを抱えながらも前向きに生きていた。その悩みを知った凪もまた、彼らを支えようと奔走し、一歩ずつ笑顔を取り戻していく。だが、島での平穏な日々はそんなに長くは続かなかった。島に突然父がやって来て、再び家族に戻りたいと言い出した。その願いを聞いた凪は…(公式HPより)


瀬戸内の小さな島で暮らす少女が周囲の人々との交流を通して成長していく姿をつづったヒューマンドラマです。主題歌はKitri(キトリ) の「透明な」

凪の両親の離婚の理由は、父親のアルコール依存症による暴力ですが、両親の諍いが絶えない環境が凪の過呼吸の原因になりPTSDとなっています。凪にとって海の中は外界の騒音から逃避できる場所なんですね。
漁師たちの喧嘩や、凪の父親が島にやってきた時に始まった両親の口喧嘩に反応して過呼吸を起こしてしまう凪。
子供の頃に過呼吸を経験している漁師の浩平は凪の痛みに寄り添います。
彼は吃音症ですが、海の上では普通に話せます。瑞樹先生に好意を持っていることは子供たちや周囲の大人たちにもバレバレですが、当の先生とお節介な仲人おばさんだけは気付いていないのです。

凪の通う小学校には笑じいと呼ばれる用務員がいます。彼が笑わなくなったのは娘を亡くしてからです。凪の祖母が診察机の上に飾っている写真の一つには彼の娘が写っていて、救えなかった命に対する罪悪感を抱えて生きてきたことが伝わります。設備の整わない島の診療所でできることには限りがあり、彼女の死の責任は誰にもないとわかっていても心がそれを許さない。共に傷を負い立ち止まった時間が、終盤の「結婚式」を機に動き出します。二人が会話の中で、ゆっくりとでも確かに過去を乗り越えていく姿に救われる思いがします。写真が祖母から笑じいの手に渡り、共に笑顔になるシーンが印象的でした。

雷太は漁師の祖父と暮らしていますが、病気療養中の母に会うことを祖父から禁じられています。納得できずどうしても母に会いたくて、彼は凪を誘って母の入院先の病院を訪ねていくんですね。浩平と瑞樹の仲を取り持つ代わりに船で送らせるなど、なかなかの策士です😁 でも母親の入院先を調べた時に診療机の上にお小遣いやお年玉を貯めた旅費の入った袋(小銭ばかりなのがまたいじらしい)を置き忘れるあたりはやっぱり子供ですが。😅 子供たちの行動を不審に思った瑞樹は浩平を伴って後を追い(デート気分でついてきた浩平の呑気さが笑いを誘う場面もありましたが)、一緒に辛い真実を聞くことになります。
実は雷太の母は夫の浮気が原因で精神不安定となり幼い雷太を虐待するようになり、記憶障害を起こして入院していました。真実を知った雷太に祖父は「勉強して偉くなって母ちゃんのことを頼むぞ」と諭します。

1年後。この事件がきっかけで康平と瑞樹は結ばれることになり、島で30年ぶりの結婚式が行われます。島民あげてのお祝いムードの中、父親が凪を通じて母親に復縁をTV電話で訴える電話をかけてくる場面では、両親の会話をワイヤレスイヤホンで聴いた凪が嬉しさで海に飛び込む姿が微笑ましいです。

父親が前に島を訪れた時にはけんもほろろだった母親ですが、彼の真剣な訴えにほだされたというか、本来は真面目で優しい人だったのでしょうから、愛情も残っていたということかも😁 今すぐにということではなく、依存症から完全に立ち直ったらという約束ですしね。
暴力を振るっていたという父親ですが、凪にそれが向かうことはなかったのでしょう。そうでなければ父親とLINEのやり取りを続けていたり、父の姿に怯えずにいられるわけはないでしょうから・・・。何より子供にとってはどんな親でも愛されたいのです。

離島の現実はもっと厳しいのかもしれませんが、前向きなハッピーエンドにホッとします。美しい瀬戸内の島の風景や海の綺麗さ、瑞樹が歌う「瀬戸の花嫁」の歌声 に癒されました。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする