杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

銀河鉄道の父

2023年05月17日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年5月5日公開 128分 G

質屋を営む裕福な政次郎(役所広司)の長男に生まれた賢治(菅田将暉)は、跡取りとして大事に育てられるが、家業を「弱い者いじめ」だと断固として拒み、農業や人造宝石に夢中になって、父・政次郎と母・イチ(坂井真紀)を振り回す。さらに、宗教に身を捧げると東京へ家出してしまう。 そんな中、賢治の一番の理解者である妹のトシ(森七菜)が、当時は不治の病だった結核に倒れる。賢治はトシを励ますために、一心不乱に物語を書き続け読み聞かせる。だが、願いは叶わず、みぞれの降る日にトシは旅立ってしまう。「トシがいなければ何も書けない」と慟哭する賢治に、「私が宮沢賢治の一番の読者になる!」と、再び筆を執らせたのは政次郎だった。「物語は自分の子供だ」と打ち明ける賢治に、「それなら、お父さんの孫だ。大好きで当たり前だ」と励ます政次郎。だが、ようやく道を見つけた賢治にトシと同じ運命が降りかかる──。(公式HPより)


門井慶喜が宮沢賢治の父である政次郎を主人公に究極の家族愛を綴った「銀河鉄道の父」の映画化です。監督は「八日目の蝉」「いのちの停車場」の成島出。
宮沢賢治の作品「風の又三郎」や「注文の多い料理店」「銀河鉄道の夜」などは読んだことがあっても、その生涯については農学校を出たこと、羅須地人協会を設立して農業技術指導をし農民の生活向上を目指したこと、 妹が結核で亡くなっていることくらいしか知らなかったです。
生前刊行されたのは詩集『春と修羅』童話集『注文の多い料理店』だけなんですね😲 

映画の前半は、とにかく子煩悩な父がコロコロと目指す道を変える賢治に翻弄される姿がコミカルに描かれます。家業を告げと迫る父にきっぱり「嫌です」と突っぱねる場面では笑いを誘いますが、日蓮宗にのめり込んで周囲を唖然とさせるシーンはイタかった😖 あれでは精神に異常をきたしたと思われても仕方ないけれど、それでも父は息子を信じます。

妹のとしはとても聡明な女性で兄の一番の理解者でもありました。兄の作る話が好きで、物書きになることを応援します。祖父の喜助(田中泯)が老いて錯乱した時に、「死ぬことは怖いことではない」と抱き締め優しく語りかけるシーンがとても印象に残りました。

上京して行き詰っている賢治は、としが病に倒れたと知ると妹のために書いた物語を持って帰ってきます。つきっきりで看病しながら妹のために次々物語を書いては読んできかせるのです。としが亡くなる間際のみぞれ雪を含ませるシーンでは、鼻をすする音があちこちで聞こえました。

としの死後、彼女が療養していた祖父の別荘に移り住んだ賢治は、羅須地人協会を設立して農民のために技術指導をしたり、セロを弾いて歌(星めぐりの歌)を一緒にったりの音楽活動をしますが、志半ばで妹と同じ病に倒れます。
今なら投薬で完治する病ですが当時は療養しか術がない不治の病です。

汗をかいた賢治の身体を拭く(最後の)役目を譲らなかった母の想いにも熱いものがこみあげてきます。賢治を溺愛する父に隠れがちでしたが、母も負けず劣らず息子を愛していたことが伝わってくる一言でした。父が暗唱する「雨ニモマケズ」にまたまた涙腺を刺激されました。

賢治の家族は互いに信じ合い味方であり続けます。本来なら長兄の代わりを弟の清六(豊田裕大)が務め、賢治の死後も彼の才能を信じ続けた家族が諦めずに世に送り続けたことで高い評価を得るようになったことはこの映画で初めて知りました。
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