杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

聲の形

2020年07月31日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2016年9月17日公開 129分 G

2020年7月31日放送「金曜ロードSHOW!」

退屈することを何よりも嫌うガキ大将の少年・石田将也は、転校生の少女・西宮硝子へ好奇心を抱き、硝子の存在のおかげで退屈な日々から解放される。しかし、硝子との間に起こったある出来事をきっかけに、将也は周囲から孤立してしまう。それから5年。心を閉ざして生き、高校生になった将也(声:入野自由)は、いまは別の学校へ通う硝子(早見沙織)のもとを訪れる。(映画.comより)

 

大今良時の漫画「聲の形」のアニメーション映画化作品です。

高3になった石田将也が、バイトを辞め、持ち物を売り、口座から全財産を引き出して母の眠る枕元に置いて家を出て橋の上から飛び降りようとする場面から始まります。

将也が小6の時に転校してきたのが、聴覚障害を持つ西宮硝子です。彼女は筆談用ノートを使ってクラスメイトと交流しようとしますが、受け入れられず苛められるようになります。その先頭を切ったのが将也や植野直花です。やがてこの苛めが問題となり、将也が壊したり捨てたりした補聴器は将也の母が弁償しますが、硝子は転校してしまい、それ以後将也は逆に苛められるようになります。中学生になっても孤立が続き、彼は「自分がしたことは自分に跳ね返る。自分は罪を背負い、罰を受ける必要のある人間である。」と心を閉ざしてしまっていました。

飛び降りに失敗した将也は、硝子が通う手話サークルを訪れます。彼女と再会した将也は、思わず手話で「友達になってほしい」と話しかけます。本当はまず謝りたかったんですけどね(^^;硝子と話をしようとする将也ですが、彼女の妹の結弦(悠木碧)に阻まれます。でも、同じクラスの永束と友達になり、彼の助力で将也は硝子と会うようになるんですね。二人は小学生時代硝子と仲良くしていた佐原や硝子をいじめていた植野とも再会し、同じクラスの川井や真柴とも親しくなっていきます。周囲に心を閉ざしていた将也の視線で見る景色は、クラスメイトの顔にバッテンが付けられていて顔の見分けができないのですが、心を開くとそれが剥がれて顔が見えるようになっていました。

皆で遊園地に遊びに行って久しぶりに人との関わりを楽しいと感じた将也でしたが、昔の苛め事件を蒸し返したことで再び孤立してしまいます。

硝子の母と妹と4人で花火大会を見に行った夜、一人先に帰った硝子がベランダから飛び降りようとしているのを助けた将也が転落して意識不明になります。硝子が自殺しようとしたのは自分のせいで将也たちに迷惑をかけていたと思ってしまったから?繋がりたいのに繋がれない思いが二人をずっと苦しめてきたのですね。でもその思いを内側に溜めているだけでは事態は変わらないのです。ありのままの自分を受け入れ肯定することから始めなければなりません。意識を取り戻した将也は病院を抜け出し、橋の上で泣いている硝子を見つけ、彼女に「君に生きるのを手伝ってほしい」と言います。

退院した将也は、硝子を連れて高校の文化祭にやってきます。周囲の冷ややかな視線を避け俯く彼の周囲に佐原や植野、川井や真柴が集まってきます。原作では彼らのもっと深い人物設定がなされているのでしょうけれど、アニメでも本音を曝け出しあった後に生まれた友情を感じることができました。周囲の人物から全てのバッテンが剥がれ、将也の心が外に向かって開けられたラストシーンです。

苛めの被害者だけではなく、加害者の方も心に傷を負う姿が描かれています。小学生の将也がしたことは、度を越した振舞いでしたが、彼自身にそれほどの悪気はなかった。でも母親が詫びて大金を弁済している姿や、以後のクラスメイトの態度に、初めて自分がした事の重大さに気付きます。謝ろうにも彼女は転校して目の前から消えています。苛められる側になって、より一層彼女の苦しみを思うようになり、自分自身をも追い詰めていったのであろう姿はいっそ痛々しいくらいです。それは裏返せば彼の正直さでもあります。

硝子と仲が良かったけれど、結局何もできなかった佐原や、傍観者だったくせに非難だけはする川井より、直接苛めていた植野の方がストレートに硝子と向き合おうとしているように感じました。彼女は表面だけ取り繕って本音を見せなかった硝子に腹を立てていたのかも。

硝子の妹(最初は男の子に見えたしそう錯覚させていた)の結弦が、年下だけど一番大人な印象です。彼女なりに姉を心配し見守っている姿がけなげでもあり可愛くもあります。

飛び降りシーンが二度も登場するし、どちらかというとネガティブな感情が優位に立ってしまいますが、その中で必死に生きることを選び取った二人の姿に勇気をもらう人も絶対いるだろうなと思いました。


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赤い指

2020年07月29日 | 

東野圭吾(著) 講談社文庫

少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。(BOOKデータベースより)

 

加賀恭一郎シリーズ第七弾です。

事件そのものは初めから犯人がわかっているので、推理の楽しみとしては、加賀がいかにして犯人を割り出したかくらいしかありません。犯人捜しではなく、親と子の向き合い方に注視するお話になっていました。

前原昭夫は、妻の八重子と一人息子の直巳、母親の政恵と暮らす平凡なサラリーマンです。

結婚して息子が生まれた当初は幸せに思えた家庭も、妻と母の折り合いが悪くなってからは、どんどん居心地の悪い場所になっていきます。父が倒れ、認知症になっても妻は実家に寄り付こうとしませんでした。父の死後、独りになった母との同居を始めた時も、これでうまくいくとの期待は外れ、母までも呆けが進んできます。昭夫はそんな家に帰るのが嫌で浮気をしたり、しなくてもよい残業をして帰宅時間を遅くしていました。

ところが、ある日、妻から「早く帰って来て欲しい」と切迫した様子の電話が入ります。家に帰った昭夫が見たのは、庭でビニール袋を掛けられた幼女の遺体でした。息子が身勝手な理由で殺害したと知り、警察に通報しようとした昭夫でしたが、妻に懇願されて息子のために遺体を深夜、住宅地近くの銀杏公園に遺棄します。

もうね、ここまでの前原一家の姿に嫌悪感がこみ上げてきます。

自分のしたことに何ら罪悪感を持たない息子は論外として、息子の将来だけを心配する妻の常軌を逸した溺愛ぶり、結局は我が身可愛さで隠蔽に加担する夫。人間の弱さやエゴをこれでもかと見せつけられている気持ちになりました。

扼殺された際失禁している幼女の遺体を公園のトイレに捨てるまでの描写も息苦しいほどに生々しく伝わってきて、被害者家族の立場なら鬼とも悪魔ともとれる所業に身震いします。

さて、ここまで加賀は登場していません。冒頭で癌に冒され入院している加賀の父・隆正を隆正の妹の息子松宮脩平が見舞っています。隆正の入院生活の中で唯一の楽しみは、看護師相手の将棋でした。(ここ、ポイントです)彼にとって隆正は実の父親同然の人で、警察官になったのも隆正の影響でした。隆正の妻は20年以上前に家を出ていましたが、優秀な刑事である父が仕事にかこつけて家庭を顧みなかったせいだと考えた加賀との間はギクシャクしたものになっていました。夫を事故で亡くした妹とその息子の面倒を見たのは、妻への後悔もあったからなのでしょうか。

事件が発覚し、練馬署に捜査本部が置かれたことで、捜査一課の松宮と所轄刑事である従兄の恭一郎が組むことになります。これまで一度も隆正の見舞いに来ない従兄の心情が理解できない松宮は加賀に対して密かな反発心を覚えていますが、同時に伯父譲りの優秀な刑事である加賀に敬意も抱いています。

遺体は春日井優菜という7歳の女の子で、昭夫は帰宅前に父親が娘を探している姿を見かけていました。

現場近くの住宅街で聞き込みをする二人は前原家を訪れます。このとき、庭に出た政恵が遺体を運ぶ時に昭夫が使った手袋をはめて加賀たちの前に現れるのです。昭夫は母は認知症でと誤魔化すのですが、この手袋からわずかな異臭(尿臭)がしたことで加賀が疑念を持つきっかけになる描写です。

捜査本部では犯人は車を使ったと考えていましたが、加賀は、すぐに見つかる公園に遺体を棄てたのは遠くまで運べない=車を持たないと推理し、遺体に付着していた芝や発泡スチロールのかけらから、犯人が段ボール箱にいれ自転車で運んだと考えたのでした。

何度もやってくる加賀たちに、犯行を隠し通せないと悟った昭夫が考えたのは認知症の母を身代わりにする最悪のシナリオです。

息子に対しての愛情からではなく、自分の保身から思いついたのは容易に察することができます。これまで昭夫は妻からも母からも息子からも目を背け、面倒なことから逃げ続けていて、今回も同様に逃げようとしているのです。妻の身勝手さにも腹は立ちますが、こんな夫の態度が彼女を追い詰めたとも言えるかなぁ。その結果、息子は自分の思い通りにならないと気が済まない甘やかされた人間に育ったのだから自業自得ですけど。

昭夫は加賀たちを前に、死体を遺棄したのは自分だと告白し、殺したのは認知症の母で、息子は何も知らなかった、家にはいなかったと言いますが、警察はその矛盾点を既に掴んでいました。直巳への聞き取りを松宮にさせておいて、加賀は昭夫の妹の春美を連れてきます。

この妹は兄が逃げた父親の世話も、呆けた母親の世話もきちんとする人間で、唯一好感の持てる人物として描かれています。

加賀は春美に事件のことや政恵を留置所にいれなければならないことを話し、さらに政恵が宝物にしているアルバムを使って、昭夫の心情に訴えかけようとします。最後に登場するのが政恵の杖で、杖に付けられている札は昭夫が作って母に贈ったものでした。遂に昭夫の心が折れます。

実は加賀が事の真相に気付いたのは、政恵が口紅で塗った「赤い指」からでした。この口紅は元々政恵が持っていたものでしたが、遺体には口紅の跡はありませんでした。指は事件後に塗られていて、彼女が犯人であるというには矛盾が生じるのです。ちょっとこのあたりが良く理解できなかったのですが、後にこの母親が呆けていないと明かされて、彼女なりの息子の計画を止めさせるために考えた方法だったのです。

同居はしたものの邪魔者扱いされてきた政恵は、呆けたふりをすることで自分の殻に閉じこもってきましたが、自分が犯人に仕立て上げられると知り赤い指のことを思いついたのでした。これ以上昭夫に罪を重ねて欲しくなかった、計画を止めて欲しかったという母の愛情からだったのです。いやいや、その前(遺体遺棄前)に息子を止めろよ!とつい思ってしまいましたが、それができなかったからこそ彼女なりに考えて行動したということでしょう。ただ、そもそもが昭夫をこんな風な人間に育ててしまった政恵の罪と言ったらそれは酷すぎますかね 嫁姑のトラブルはつきものだけど、嫁の頑固なまでの

それにしても近頃の子供は親が知らないうちに勝手にパソコンいじってメールのやりとりできちゃうんだ優菜は『スーパープリンセス』というキャラが大好きで、そのキャラのキーホルダーを持っていた直巳に自分から声を掛け、他のフィギュアを見るために前原家を訪れたのですが、帰ると言い出して直巳に殺されたというわけです。取調室で親が悪いと呟く直巳、確かに親も悪いけど、やったことの責任は自分でとらなきゃならないんだぞ!!本当、腹立つキャラです

事件解決後、隆正は松宮母子に看取られ亡くなります。病院の前まで来ながら最期に立ち会わなかった加賀ですが、それは父との約束があったからでした。妻が一人アパートで亡くなる際、どんなに息子に会いたかったろうと後悔していた隆正は、自分も一人で死ぬと決めていたのです。そんな父の意志を尊重した加賀は敢えて見舞いに来なかったのでした。それでも彼らの間には暗黙の繋がりがありました。隆正の将棋の相手が看護師ではなく実は加賀だったのです う~~ん、ちょっとわかりにくいけど、確かに二人の間には通い合うものがあったのですね。

一緒に暮らしていながら心がつながっていなかった前原家と、疎遠にしてはいても奥底で互いに通じるところのあった加賀父子を対比させることで、いっそう犯人一家の空虚さが際立っていました。


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閉鎖病棟 それぞれの朝

2020年07月24日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年11月1日公開 117分 PG12

長野県のとある精神科病院にいる、それぞれの過去を背負った患者たち。母親や妻を殺害した罪で死刑判決を受けたものの、死刑執行に失敗し生きながらえた梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)。幻聴が聴こえて暴れるようになり、妹夫婦から疎まれて強制入院させられた元サラリーマンのチュウさん(綾野剛)。父親からのDVが原因で入院することになった女子高生の由紀(小松菜奈)。彼らは家族や世間から遠ざけられながらも、明るく生きようとしていた。そんなある日、秀丸が院内で殺人事件を起こしてしまう。

 

山本周五郎賞を受賞した精神科医・帚木蓬生の小説「閉鎖病棟」を、平山秀幸監督・脚本で映画化しています。

いきなり死刑執行の場面から始まって驚かされました。死刑囚の秀丸は絞首刑になるのですが、息を吹き返します。一度死んだ人間ということになるのでしょうか?二度は執行できないと聞いたことがあるような この時腰を痛めて車椅子生活になり、施設をたらい回しにされた挙句この精神病院に収容されているようです。穏やかで誰にでも優しい彼は患者からも慕われています。彼がどんな罪を犯したのかは後半の回想で明らかになるのですが。浮気した妻と相手の男を殺めたのは短絡的な犯行です。しかし寝たきりの母をも殺めたのは、彼女を残して地獄を味わわせたくはなかったのでしょう。浅はかと責めるのは簡単だけど、やりきれなさは残ります。

チュウさんは感情が混乱すると発作的に症状が出るタイプのようですが、普段は陽気で明るい人気者です。彼にも年老いて認知症が出始めている母がいますが、妹夫婦が家を処分して母を施設に入れようとしていることを知り悩むことになります。

由紀は義父からの性被害を受けて傷つき、母もその事実を知りながら娘を厄介払いのために病院に連れてきました。

他にも写真でしか気持ちを伝えられない昭八や、孤独な身の上を隠して見栄を張る女性などが登場しますが、彼らはそれぞれが傷つき苦しみながらも、この病院という場所で何とか生きていこうとしています。病院の外では、夫を裏切っていた妻、病気の兄や母を邪魔者として隔離しようとする妹夫婦、夫が娘にしたことを知りつつ娘より夫を取る母・・・患者たちの純粋で無垢な姿を見せられると、どちらが心を病んでいるんだろうと思ってしまいます。 

ところで、精神科病棟には開放と閉鎖があると思いますが、粗暴な重宗(渋川清彦)という男があまりにも自由に動き回っているのは違和感がありました。

原作では、彼が薬物中毒で狂暴過ぎるが故に職員でさえ手に負えないと描かれているようですが、それにしても管理甘すぎです。 今作では重宗の人物像の書き込みが足りないため、説明不足の感は免れません。

彼の凶行で由紀が被害に遭い、それを目撃した昭八からチュウさん、秀丸へと伝わります。秀丸が重宗を殺めたのは、由紀を守るためでもありましたが、当事者たちを除いて事の真相を知るものはいません。

由紀はあの日から姿を消し、チュウさんは退院して(任意なので本人の意思で決められる)母と暮らすことを決めます。

看護師の井波(小林聡美)が妹夫婦からチュウさんを弁護するシーンがありますが、彼女が患者一人一人をちゃんと(一人の人間として)見守っていたことがわかる良いエピソードでした。

鶴丸の弁護士と会ったチュウさんは、犯行の動機を明かさず生きる意欲を失っていると知って、せめてもと裁判の傍聴に出かけ、そこで由紀と再会します。彼女は鶴丸が自分のために罪を犯したと知り、弁護側の証人として出廷したのです。(事件後、心も体もボロボロな状態で見た朝焼けに由紀が感じたのは「負けてたまるか」という思いだったのかなぁ。逃げるだけじゃなくて踏ん張って頑張ってやろうという気力をこの朝焼けにもらった印象深いシーンです。)真実を明かし鶴丸に「生きて」と語り掛ける由紀、傍聴後、思わず駆け寄って鶴丸に声をかけるチュウさん。彼らが鶴丸に希望をもらったと感じているのと同様、鶴丸も彼らに「希望」を見出したのだと感じられるあの目の演技は、鶴瓶師匠の役者としての凄みを感じさせてくれました。

隔離された空間というのはある種避難場所でもあるのだということ、その「安全」な場所から巣立っていったチュウさんと由紀の未来が少しでも明るいものでありますようにと応援したくなりました。


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パラサイト 半地下の家族 ネタバレあり

2020年07月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年1月10日公開 韓国 132分 PG12

過去に度々事業に失敗、計画性も仕事もないが楽天的な父キム・ギテク(ソン・ガンホ)。そんな甲斐性なしの夫に強くあたる母チュンスク(チャン・ヘジン)。大学受験に落ち続け、若さも能力も持て余している息子ギウ(チェ・ウシク)。美大を目指すが上手くいかず、予備校に通うお金もない娘ギジョン(パク・ソダム)… しがない内職で日々を繋ぐ彼らは、“ 半地下住宅”で 暮らす貧しい4人家族だ。“半地下”の家は、暮らしにくい。窓を開ければ、路上で散布される消毒剤が入ってくる。電波が悪い。Wi-Fiも弱い。水圧が低いからトイレが家の一番高い位置に鎮座している。家族全員、ただただ“普通の暮らし”がしたい。
「僕の代わりに家庭教師をしないか?」受験経験は豊富だが学歴のないギウは、ある時、エリート大学生の友人(パク・ソジュン)から留学中の代打を頼まれる。“受験のプロ”のギウが向かった先は、IT企業の社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸だった——。パク一家の心を掴んだギウは、続いて妹のギジョンを家庭教師として紹介する。更に、妹のギジョンはある仕掛けをしていき…“半地下住宅”で暮らすキム一家と、“ 高台の豪邸”で暮らすパク一家。この相反する2つの家族が交差した先に、想像を遥かに超える衝撃の光景が広がっていく——。(公式HPより)

 

2019年・第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画初となるパルムドールを受賞。第92回アカデミー賞でも外国語映画として史上初となる作品賞を受賞したほか、監督賞、脚本、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)の4部門に輝くなど世界的に注目を集めた作品です。

キム一家は家族全員が失業中で、その日暮らしの貧しい生活を送っています。半地下の家自体が彼らの底辺の生活を象徴しているようです。そんなある日、友人からIT企業のCEOのパク氏の娘の家庭教師の代理を持ち掛けられたことから、彼らの運命が動きます。受験の失敗を繰り返した分だけ、コツは掴んでいるし、元々は頭も悪くはないんですね パク社長の美しく純真な妻(チョ・ヨジョン)や、高2の娘ダヘ(チョン・ジソ)にも気に入られたギウは、息子ダソン(チョン・ヒョンジュン)の美術家庭教師を探していることを知ると妹を友人の後輩と偽って紹介します。更にギジョンは計略を用いてパク家の運転手を解雇させ、父親を後釜に紹介、さらに長年仕えてきた家政婦ムングァン(イ・ジョンウン)も解雇させて母親を連れてきます。こうしてキム一家まるごと、パク家に入り込んじゃうんですね~~。しかもそれぞれ他人を装って

ここまでは、身分を偽ってはいるけれど、それぞれ果たすべき仕事はきちんとしているので、まだ笑って観ていられます。

ところが、パク一家がキャンプに出掛けて留守なのを良いことにキム一家が上がりこんで、パク家の洗練されたモダンな豪邸の居間でどんちゃん騒ぎを繰り広げていた嵐の夜、突然の来訪者が現れて事態は急変するのです。

クビになったムングァンは、豪邸の地下の隠し部屋に借金取りに追われている夫を匿っていたのです。 彼女もキム一家同様の境遇だったのね。ところが、隠れて話を聞いていたギウたちが見つかってしまったことから、ムングァンの態度が豹変し、脅してきます。つかみ合いの騒動になったあげく、最悪の事態が訪れます。何とか彼らを地下に閉じ込めたのも束の間、今度はパク一家が戻ってきちゃうんです。

この時のキム一家の慌てぶりがコミカルに描かれています。パク夫婦の営みなどPG12シーンもありますが、この時のパク氏の言葉が後の惨劇の重大な引き金になっているんですね もっとも、最初にそれに気付いたのはやんちゃ坊主のダソンでしたが 

窮地を脱して家に戻った父と息子と娘でしたが、彼らの住む地域は大雨が流れ込んで半地下も水没してしまいます。このシーン、最早他人事ではない光景です 避難先の体育館の床で一夜を過ごしながら、父親は何を考えていたのでしょう。そしてギウもまた・・・。

翌日、ダソンの誕生祝に招かれて、再びパク家にキム一家が集合します。光溢れる広い庭で開かれている祝宴と、水没した半地下の家のある地域。このギャップが凄い!ギウはある決意を固めて地下に降りていくのです。いや~~止めとけばよかったのに 前夜、突き落とされて転落した拍子に負った怪我がもとでムングァンは死亡していました。彼女の夫は復讐に燃えてキム一家を襲うのです。 祝いの宴は修羅場と化し、ギジョンは刃に倒れます。彼女の元に駆け寄ったキム夫婦を見て何やら気付いたかのようなパク氏ですが、倒れているギジョンより自分たちが逃げ出すことしか考えていない姿に父の中で何かが弾けパク氏を襲い・・・。

キム一家の臭いというのが伏線になっているんですね~~。それは彼らの貧しさからくる臭いそのものです。持てる者であるパク一家には決して理解し得ない臭いです。もちろんパク氏に非はありません。立場の違う人間の存在を知らず理解しようともしなかったことを傲慢と非難することはあっても、その代償としては大き過ぎます。

ギジョンは亡くなり、重症を負ったギウと母だけが半地下に戻ってきます。パク氏を殺めた父は消息不明になっています。しかし観客は地下の隠し部屋の存在を知っていますから、父の逃亡先は容易に想像できますね。

父がギウに自分の存在を伝える手段として、モールス信号が使われます。これは元々はムングァンの夫がしていたものです。

ギウもパク氏の息子のダソンもボーイスカウトでこれを習っているのですが、ダソンはこれに気付いても意味を理解できていませんでした。

一方ギウは父のメッセージを受け取り、いつか自分が金持ちになってあの家を買い取って父を解放しようと夢想します。現実には無理だろうと思うけれど、これは一種のファンタジーなのかもと思わせるラストでした。

前半はコミカルですが、後半は石が転がるように不幸が押し寄せてくる息苦しさがありました。


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エンド・オブ・ステイツ

2020年07月20日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年11月15日公開 アメリカ 121分 PG12

世界を未曾有のテロ事件から救ったシークレットサービスのマイク・バニング(ジェラルド・バトラー)は英雄として名を馳せ、副大統領から大統領となったトランブル(モーガン・フリーマン)からの信頼も絶大だった。しかし、歴戦の負傷によって肉体がむしばまれ、近頃は引退も考えるようになっていた。そんなある日、休暇中のトランブル大統領が大量のドローンによって襲撃される事件が発生。マイクが容疑者としてFBIに拘束されてしまう。隙をついて逃げ出したマイクは、何者かが仕組んだ陰謀を暴くため奔走するが……。(映画.comより)

 

「エンド・オブ・ホワイトハウス」「エンド・オブ・キングダム」に続くアメリカ大統領専属シークレットサービスのマイク・バニングシリーズの第3弾です。

前作ではイギリス保安局の長官が敵の協力者でしたが、今回はホワイハウス内部に裏切者がいました

冒頭に登場するのは、戦友で親友のウェイド(ダニー・ヒューストン)の民間軍事訓練場で実践さながらの訓練をするマイクです。いきなりの銃撃戦に「あれ?途中から観てしまった?」と思ったぞ こういう時は、後々敵か味方かに別れるのが定番ですが、案の定・・・

長年の任務で負った後遺症に加え、偏頭痛や不眠症にも苦しむマイクですが、妻のリア(パイパー・ペラーボ)には打ち明けられずにいます。打診を受けていた管理職(長官)も自分には合っていないと悩むマイクに、ウェイドは現場を退くことを勧めます。「俺達はライオンだ。」というウェイドの言葉はこのあとの2人の関係の重要なヒントになっていました。ウェイドの仕事はトランブル大統領の平和政策によって激減していて、マイクに口添えを頼んだりしていますが、その裏で、タカ派の副大統領(ティム・ブレイク・ネルソン)と結託して大統領を暗殺し、仕事を受注しようとしていたという。それはともかく、マイクを暗殺犯に仕立てる必要があったんかい?親友でしょ??

大統領の釣り休暇に同行したマイクたちは、突如現れたドローン軍団に襲撃されます。顔認証で特定するハイテク攻撃にはなすすべもなく、かろうじて大統領の命を守ることはできましたが、二人とも意識不明に陥ります。先に意識を取り戻したマイクですが、犯行に使われた車から彼のDNAが検出されたことからFBIに暗殺未遂犯として逮捕されてしまいます。無実を訴えても捜査官(ジェイダ・ピンケット=スミス)は聞く耳を持たず、護送される途中、再び襲撃を受けるのですが、これを撃退したマイクは敵の正体がウェイドだと気付くのです。

マイクが身を隠す場所に選んだのは、ベトナム戦争の後遺症でトラウマを抱えてマイクと母親を捨てて消えた父親クレイ(ニック・ノルティ)の隠れ住む山小屋でした。自分たちを捨てた父親に恨みつらみのあるマイクですが、今回の事件を通して雪解けムードになり、関係が修復されつつあるようです戦争が人を変えると言う父親に対し、その責任は結局は本人にあると返すマイク。どっちの言葉も重いぞ

しかし、このじーさん、ただものじゃなかった!マイクの父親だから当然か

ウェイドの送り込んだ襲撃犯たちに囲まれる中、抜け道を通って山中に出て、落ち葉の下に隠してあった仕掛けで爆薬を次々に起爆させるなんぞは、マイクじゃなくても「まじか!!」です。これがまた面白いように敵を爆殺していくんですね~~ このあとも、ウェイドが差し向けた敵からマイクの妻子を守って強力な助っ人になっていました。

ようやくマイクが犯人ではないかもと気付く捜査官ですが、事情聴取に向かったウェイドの民間軍事施設であっさり殺されてしまいます。あまりにも不甲斐ないと思っていたら、最後に副大統領の陰謀の証拠を隠し持っていたことがわかり、一矢報いた感じになってました。最低限FBIのメンツを保ったというところかしらん

計画がばれたと知り、逃亡する前に、大統領の暗殺を遂行しようとするウェイドに立ちはだかるマイク。最後は二人の一騎打ち、肉弾戦。これって喧嘩レベルに見えるんですけど~?ウェイドの最期の言葉は冒頭に出てきた「俺たちはライオンだ。ライオンはライオンとしてしか生きられない」です。マイクの父親にも言えるけれど、戦士は平時に居場所がなくて精神的に破綻してしまうんだろうか?戦いの中にしか生きている実感を得られないなんてやりきれないなあ。 戦争したくて仕方がない副大統領もかなり危ないヤツだけどね(一見ひ弱そうに見えるから最初はただのお飾りだと思ったぞ

復帰した大統領に辞職を申し出るマイクでしたが、遺留されてシークレットサービスの長官の任命を受け入れます。現場は離れるけれど、管理職として警護に関わっていくということですね。シリーズ当初からの2人の絆の強さを感じさせるシーンでした。
でもまだシリーズは続くらしいので、大人しく指示だけ出してるとは思えないけど


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嘘八百 京町ロワイヤル

2020年07月19日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年1月31日公開 106分 G

大阪・堺で幻の利休の茶器をめぐって大勝負を仕掛けた古物商の則夫(中井貴一)と陶芸家の佐輔(佐々木蔵之介)が、ひょんなことから京都で再会を果たす。そこで出会った着物美人の志野(広末涼子)にほだされた2人は、利休の茶の湯を継承し、天下一と称された武将茶人・古田織部の幻の茶器にまつわる人助けに乗り出すが……。(映画.comより)

 

幻のお宝をめぐり、中井貴一と佐々木蔵之介扮する古物商と陶芸家がだまし合いの大騒動を繰り広げるコメディのシリーズ第2作です。

父の形見を騙し取られたと訴える志野ですが、前作見てる身にはもう初めから怪しいと思ってしまう・・でもラストの船上での母子の会話に、彼女の身の上はどこまで本当なのかわからなくなってしまったぞ。 

若手育成を掲げ、修復の名目で本物を預かってはその偽物を作って海外で売り捌いている大手の古物商・嵐山(加藤雅也)が今回のターゲットなのですが、目的が(美人に目がくらんでいるとはいえ)人助けになってる時点で前回ほどの面白さはありません。佐輔の妻(友近)や則夫の娘(森川葵)をはじめ、坂田利夫、木下ほうか、塚地武雅ら前作からのメンバーも出て来て、大仕掛けな騙しの場も最初からそういう目で見てしまえばスリルは半減です。しかも報酬が一人一万ずつってあまりに低過ぎない? 嵐山のバックには鑑定家(竜雷太)や文化庁の役人に議員がいて、権力を悪用して私腹を肥やす奴らにTVの生放送を使って一泡吹かせたのは面白かったです。陶芸王子と祭り上げられて苦悩する若手と佐輔の間に流れた陶芸家としての思いが伝わるシーンも 

前作は超えられなかったけれど、単純に笑えて楽しめる作品ではありました。でもこれ本当にシリーズ化するの?


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レディ・プレイヤー1

2020年07月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年4月20日公開 アメリカ 140分 G

2020年7月3日放送 金曜ロードシネマクラブ

時は2045年、荒廃した風景が広がる世界。若者たちは希望のない現実から目を背け、VR世界「オアシス」でもう一人の自分になり、別の人生を楽しんでいた。そんなある日、「オアシス」の創設者、ジェームズ・ハリデー(マーク・ライランス)が亡くなる。彼の死と共に発信されたのは、「オアシス」に仕掛けた3つの謎を解いた者に、ハリデーの全財産56兆円と「オアシス」の後継者になれるという遺言。両親を亡くし、叔母の元で育ったウェイド(タイ・シェリダン)は、「オアシス」で出会った仲間たちと共に鍵の謎に挑むことに。最初の鍵が仕掛けられたレース場に向かったウェイドはそこでアルテミス(オリビア・クック)という美女に出会う。彼女は、ハリデーの遺産を狙う巨大企業・IOIが放つ刺客を次々に倒してきた、「オアシス」では有名な女性だった。胸を踊らせるウェイドは、キングコングの襲撃からアルテミスを救うが、アルテミスは彼に反発。しかし、彼女のひと言にヒントを得たウェイドは、ハリデーの記念館を訪れる。そこで、若き日のハリデーと相棒のモロー(サイモン・ペッグ)の会話にレースに勝つためのヒントが隠れていることに気付き、ウェイドは見事1つ目の鍵をゲットする。そんな中、IOIを率いるソレント(ベン・メンデルソーン)は、ウェイドを邪魔しようと画策し始める。一方、アルテミスと和解したウェイドは、2つ目の鍵のヒントを探るために再びハリデーの記念館へ赴くのだが…。(金曜ロードシネマクラブより)

 

スティーブン・スピルバーグ監督が、アーネスト・クラインの小説「ゲームウォーズ」を映画化したSFアクションです。

荒廃した街では、現実逃避の手段としてVRゲームの世界で自分のなりたい姿になって好きなことをして過ごす大勢の人たちがいるという設定です。それでもアイテムを手に入れるためにはゲームの通貨が必要で、そのために現実社会で借金をすることもあるし、ゲームに負けたらアイテムを失い無一文になります。これって現実とどう違うというのかしらん という突っ込みは置いといて・・。

作中のゲーム世界に登場するのは、キングコング、T-REX、デロリアン、「AKIRA」の金田バイク、メカゴジラ、ガンダム、エイリアン、キティちゃん・・・アメリカだけじゃなく日本のゲームキャラも沢山出て来てゲームファンならこれだけでも楽しめること間違いない!1980年代の名曲の数々をバックに繰り広げられる映画やアニメのキャラクター(アバターとして登場)のアクションを頭空っぽにして楽しむのが一番かな。

ゲームの世界を支配しようとするIOIのソレントから愛する「オアシス」を守るために戦うのはウェイドとその仲間たち。ヒーローは一人じゃなくて、仲間と力を合わせて敵を倒すというのは物語としては王道ですね 最後はオアシスを守りたい大勢のユーザーも彼らに協力する展開は「ドラゴンボール」の元気玉を連想しちゃいました 

ウェイドはハリデ―の記録を何度も調べて謎を解くヒントを見つけるのですが、記念館の案内人が実は・・・というオチありです。それにしても思いっきり個人ネタのヒントなんだわ これってゲームオタクじゃなくってハリデーオタクじゃなくちゃ解けないようになっているんですね。そしてそれは同時に彼の想いを共有できる者に継いでほしいという明確な意志でもありました。

技術面と運営面で協力し合って「オアシス」を発展させた二人ですが、ある時仲違いしてハリデーがモローを「オアシス」から追い出し、仲直りできないままハリデーが亡くなってしまいました。でもハリデーはそのことをずっと後悔していたのだということがウェイドを通してモローに伝わるシーンが良かったです。(ゲーム関係ないけど)二人の関係は「Apple」の創始者の2人を思わせますね。 

ところで、街の荒廃の原因って何だったんだろ?IOIってどんな会社? ウェイドのおばさんが粗暴な恋人と別れられないのはどうして?・・細かいことが気になるぞ 原作読めばわかるのかな?


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影踏み

2020年07月13日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年11月15日公開 112分 G

世間のルールを外れ、プロの窃盗犯として生きてきた真壁修一(山崎まさよし)。ただの「空き巣」とは違う。深夜に人のいる住宅に忍び込み、現金を持ち去る凄腕の「ノビ師」だ。証拠も残さず、取り調べにも決して口を割らない。高く強固な壁を思わせるそのしたたかさで、地元警察からは「ノビカベ」の異名で呼ばれていた。ある夜、真壁は偶然侵入した寝室で、就寝中の夫に火を放とうとする妻の姿を目にする。そして彼女を止めた直後に、幼なじみの刑事・吉川聡介(竹原ピストル)に逮捕されてしまう。2年後、刑期を終え出所した真壁は、彼を「修兄ィ」と慕う若者・啓二(北村匠海)と共に、気がかりだった疑問について調べ始める。なぜあの夜、自分は警察に補捉されてい たのか。そして、あのとき夫を殺そうとしていた葉子(中村ゆり)という女の行方は?恋仲の久子(尾野真千子)が懸命に止めるのを振り切り、自らの流儀で真実に迫っていく真壁。裏社会を結ぶ細い線が見えてきた矢先、新たな事件が起こって……。(公式HPより)

 

「半落ち」「64 ロクヨン」「クライマーズ・ハイ」の横山秀夫の同名小説の映画化です。警察内の人間模様に主眼を置いた作品が多い中、唯一犯罪者(泥棒)を主人公にしているそうです。

放火殺人の現場を目撃して止めたことで、心の底に押し込めていた20年前の事件の記憶が呼び覚まされた真壁が作り出したのが啓二なんですね。

2人の関係がわからないまま話が進んでいくのですが、過去の記憶のシーンを見て彼らが双子の兄弟であることが判明し、では啓二は修一の作り出した幻影なのだと気付かされることになります。

久子と修一と啓二は幼馴染ですが、彼女は修一が好きなんですね。だから、修一の出所を待つ彼女は、出入りの文具店店主・久能次朗(滝藤賢一)に見初められますが断ってしまいます。

出所した修一は、あの夜なぜ警察が自分の行動を把握していたのか、葉子はあれからどうなったのかを調べようとします。

吉川に聞いてもはぐらかされ、昔の仲間の大室誠(中尾明慶)からは、葉子にはヤバいバックがいると警告され関わらない方が良いと言われます。ところが、吉川が何者かに殺され、捜査一課の警部補・馬淵(鶴見辰吾)に疑われてしまいます。

20年前、修一の母(大竹しのぶ)は啓二が受験に失敗し、さらに盗みを働いたことで世間の非難に晒され精神的に追い詰められて、修一が久子と京都旅行に行っている間に啓二の首を絞めて放火自殺を図りました。自分が久子とつき合ったことで啓二を追いつめてしまったと罪悪感に苛まれてきた修一は自らを貶めるように泥棒に身を落とし、久子とも結ばれずに生きてきたのね。

2年前、葉子はDVを受けていた夫を殺して自分も死ぬつもりでしたが、修一に止められました。でもその事実を吉川に知られて脅されていました。それだけでなく地裁の執行官の轟や、ヤクザのシノキ、判事の栗本らが葉子を食い物にしていました。轟や修一も襲われますが、犯人は葉子に優しくされたことで勝手に好意を抱き、他の男を排除しようとしていた誠だったという。 

轟の犯罪行為を摘発しようとしていた馬淵に、修一はノビに入って手に入れた轟の通帳と手帳を渡します。修一は自分の自転車に発信機を仕掛けたのが馬淵とわかった上で行動していたのです。どちらも違法でおあいこというわけね。

久子がプロポーズを断った後でも、しつこくつきまとっていたのは、久能ではなく、彼の双子の兄でした。借金を重ね、やりたい放題に生きる兄を久能は殺してしまいます。兄が自分から全てを奪っていったと叫ぶ久能に修一は「欲しかったものが同じだっただけだ、双子の片割れではなく一人の人間だと証明すべきだ」と言います。

二組の双子を登場させ、対比させることで、どう生きるかという選択を示しているのかな。久能兄弟と関わったことで、修一もまた弟との関係を見つめなおすきっかけになっているように思えました。久能に言った言葉はそのまま彼自身に当てはまります。

双子は互いへの影響力が強く、その影を踏み合うようにして生きてきた弟を失うことは自分の影を失うことでもありました。『影踏み』とは修一の生き方そのものを表したタイトルです。亡くなった当時の若い啓二は修一の影だったのです。でも自らの影を踏むことはできません。

過去から目を背け罪悪感を抱えてきた修一ですが、自分自身を許すことができたとき、影である啓二から解放されたのですね。久子と歩いていく決心を3人の思い出の地でする二人の前から啓二は姿を消します。希望の持てる結末でした。


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派遣社員あすみの家計簿

2020年07月11日 | 

青木裕子(著) 小学館文庫

家計簿をつけながら、生活も恋も立て直し!
「結婚したら専業主婦になって、ぼくの収入は好きに使っていいよ」――飲食店の社長だと自称していた恋人の理空也に騙され、正社員として勤めていた会社を“寿退社"してしまった藤本あすみ、28歳。理空也は姿を消し、残ったのは二人で贅沢したぶんの高額なカードの支払いだった。通帳の残高は428円。ピンチに陥ったあすみは親友の仁子に説教され、家計簿をつけることに。
とりあえず派遣会社に登録したものの、なかなか仕事は決まらない。シャンプー配りや絵画展の監視員、倉庫整理の日雇いと必死の節約で食いつなぎ、日雇い仲間のミルキーやシングルマザーの深谷、仁子に支えられながら、ようやく派遣先が決定する。そんな中、あすみは合コンで出会ったイケメン商社マンの八城からアプローチを受けるが、いまだ理空也への思いを断ち切れずにいて……
家計簿とにらめっこしながら、自分を甘やかしてばかりいたルーズな生活を立て直し始めたあすみ。人生に迷子中のアラサー女子の、仕事と恋の行方は!?『これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~』シリーズが大人気の著者による新シリーズ!(内容紹介より)

 

今の仕事にやりがいを感じられずにいたあすみは、恋人の甘い言葉を信じて会社を辞めてしまうのですが、退職したその日に恋人が消えちゃいます。 客観的には結婚詐欺なんだけど、当事者としては信じたくないのね。

そもそも、支払いは全てあすみのカードって時点で十分怪しいし、そのことはあすみ自身も心の隅で引っかかってはいても、恋に舞い上がっていると、見たいものしか見えない状態です

カード払いって恐ろしいのは支払いが即時じゃないこと。それでもあすみは一回払いにしていた分だけ傷は浅いかな そして頼もしい親友の存在と彼女の忠告に従う素直さがあすみを窮地から救ってくれます。何といってもカードと手を切る勇気が素晴らしい!借金も速攻返してるしね

登場するフリーター仲間や人材派遣会社の担当者、派遣先の上司など、人にも恵まれる、少し出来過ぎな感もあるけれど、あすみ自身の人柄が引き寄せた結果ということで

何はなくとも米・もやし・卵・キャベツ。仁子の助言に従い自炊を始めたあすみは、理空也が置いて行った食材も活用して創意工夫しながら節約生活を始めます。この時のメニューの内容をもっと具体的に書いて欲しかったかも

シャンプー配りや絵画展の監視員、倉庫整理の日雇いとか、色んな仕事があるんだな~その中で頼もしい人脈ができるというラッキーな展開です。交通費まで貰える合コンって羨ましいぞ。そこそこ美人という設定だから成立するんでしょうけど

合コン相手が身分詐称してるのは今更驚きませんが、あすみが惹かれたのは彼の容姿より話していて楽しいという人柄の方なので、これはアリかな。理空也が中身のない男だということに気付いて、きっぱり気持ちを断ち切れたのは偉いね (理空也が作るお料理の描写は凄く美味しそうなんだけど、彼はきっと誰かを本当に愛することはないんじゃないかしら)

題名に家計簿と付いていても、詳細な数字が出てくるわけじゃないのでちょっと肩透かし感はありますが、素直に頑張るヒロインをいつのまにか応援したくなるようなお話でした。


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初恋

2020年07月10日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年2月28日公開 115分 PG12

欲望うずまく新宿・歌舞伎町。天涯孤独のプロボクサー・葛城レオ(窪田正孝)は稀有な才能を持ちながら、負けるはずのない格下相手との試合でまさかのKO負けを喫し、試合後に受けた診察で余命いくばくもない病に冒されていることを告げられた。
あてどなく街を彷徨うレオの目の前を、少女が駆け抜ける。「助けて」という言葉に反応し咄嗟に追っ手の男をKOする。が、倒した男は刑事! レオは懐から落ちた警察手帳を手に取ると少女に腕をひかれ現場を後にする。少女はモニカ(小西桜子)と名乗り、父親に借金を背負わされ、ヤクザの元から逃れられないことを明かす。さっきレオが倒した男は刑事の大伴(大森南朋)で、ヤクザの策士・加瀬(染谷将太)と裏で手を組み、ヤクザの資金源となる“ブツ”を横取りしようと画策中。その計画のためにモニカを利用しようとしていた。
ヤクザと大伴の双方から追われる身となったレオは、一度はモニカを置いて去ろうとするが、親に見放され頼る者もいないモニカの境遇を他人事とは思えず、どうせ先の短い命ならばと、半ばヤケクソで彼女と行動を共にする。かたや、モニカと共に資金源の“ブツ”が消え、それを管理していた下っ端組員のヤス(三浦貴大)が遺体で見つかったことを、その恋人のジュリ(ベッキー)から知らされた組員一同。組長代行(塩見三省)のもとで一触即発の空気が漂う中、刑期を終えて出所したばかりの権藤(内野聖陽)は、一連の事件を敵対するチャイニーズマフィアの仕業とにらみ、組の核弾頭・市川(村上淳)らと復讐に乗り出す。ヤスの仇を自らの手で討ちたいジュリもそれに続いた。一連の黒幕と疑われたチャイニーズマフィアのフー(段鈞豪)もまた、売られたケンカを買ってシノギを乗っ取ろうと、モニカとブツの行方を追うために、構成員のチアチー(藤岡麻美)に命じて兵力を集めにかかる。ヤクザと悪徳刑事にチャイニーズマフィア。ならず者たちの争いに巻き込まれた孤独なレオとモニカが行きつく先に待ち受けるものとは……。欲望がぶつかりあう人生で最も濃密な一夜が幕を開けた!(公式HPより)

 

三池崇史監督オリジナルストーリーで、余命わずかのボクサーが、偶然出会った少女と運命的な恋に落ちる一夜を描いています。監督お得意のバイオレンスは健在ですが、登場する人物たちはどこかコミカルで憎めないので、後味は悪くありません。

「ケータイ捜査官7」で見出し「十年後に窪田を選んだ理由がわかる」と語った通り、約十年ぶりに本格タッグを組んだ作品とあって、楽しみにしていたけれど、コロナ余波で結局劇場に行けずDVD待ちになっていた作品でした。

負のスパイラルで転落していく悪徳刑事役は「私の家政婦ナギサさん」で家事万能で穏やかなキャラを演じている大森南朋。役者って凄い。ヤクザの策士でエキセントリックな本性を剥き出しにしていくのだけれど、どこか抜けてて詰めが甘い加瀬は染谷将太が演じています。愛する恋人(三浦貴大)の復讐に燃える情婦役を鬼気迫る迫力で演じたのはベッキー、権藤役の内野聖宇陽は、昔気質の武闘派の美学をワイルドに体現していました。レオに余命を告げる医師に滝藤賢一、歌舞伎町の占い師をベンガルと、それぞれ一癖も二癖もあるキャラたちですが、どこか愛嬌もあって、ただの血なまぐさい任侠作品とは趣を異にしていました。

孤独を抱えた青年が、余命宣告されて彷徨う街で偶然助けた少女との逃走劇の中で、生きることへの渇望と希望を取り戻していく過程が、ある種のファンタジーのよう。三池しらしさもあちこち顔を出していますが、全体としてやはり異色かも。

レオの運命は・・・そういうオチですかぁぁ でもこれってハッピーエンドってことよね


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AI崩壊

2020年07月05日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年1月31日公開 131分 G

2030年、天才科学者の桐生浩介(大沢たかお)が亡き妻(松嶋菜々子)のために開発した医療AI「のぞみ」は、年齢、年収、家族構成、病歴、犯罪歴といった全国民の個人情報と健康を管理していた。いまや社会インフラとして欠かせない存在となった「のぞみ」だったが、ある時突然、暴走を開始。AIが生きる価値のない人間を選別して殺戮するという、恐るべき事態が巻き起こる。警察庁の天才捜査官・桜庭(岩田剛典)は、AIを暴走させたのは開発者である桐生と断定。身に覚えのない桐生は逃亡を開始する。桐生は「のぞみ」を管理するHOPE社の代表で、義弟でもある西村悟(賀来賢人)とひそかに連絡を取りながら、なんとか事態の収拾を目指すが……。(映画.comより)

 

入江悠監督のオリジナル脚本で、AIを題材に描いた近未来サスペンス作です。

AIが自ら考え進化した末には人類滅亡が待っているという展開はこれまでも色々な映画になっていますが、最後に阻止するのは生身の人間であるというのも共通していますね

今作では国民を監視下に置きたい政治家と警察上層部が結託した陰謀になっていて、まさしく国家テロです。何しろ法案を通すのに反対している邪魔な総理大臣を最初に殺しちゃうんですから 

2023年、妻の病気を治すために開発した医療AIですが、認可に間に合わず妻は亡くなります。妻との約束を果たそうと娘との時間を優先し海外に出た桐生ですが、2030年、義弟に頼まれ娘と共に一時帰国した桐生は事件に巻き込まれてしまいます。この時の日本は、働ける人間は国民の50%、子供は10%未満、残り40%は老人と生活保護者という構成で、地方格差も深刻になっているという状況です。

警察のサイバー犯罪捜査のために密かに準備されていた「百眼」を駆使して桐生を追い詰める図は何ともスピード感があり、実際にこんな捜査が出来たら犯人なんてあっという間に捕まるんじゃないかと思うと、安心感より恐さの方が勝ります。防犯カメラはもちろん、個人のスマホや車のドラレコまでが勝手に覗かれているのですから

そんな中を逃げおおせる桐生って凄過ぎ!現実にはあり得なさそうですが

彼を追うのは定年間近のベテラン刑事(三浦友和)と新米刑事の奥瀬(広瀬アリス)。二人のコミカルなやり取りが間に入ることで緊張感をうまくほぐしています。

テロ認定されたからといって問答無用で撃っていいなんて有り?桐生と合流した義弟が彼を庇って撃たれて死亡するなんぞはかなり非現実的に思えるけど、もしかして現実の方がもっと怖いのかもと思ってしまうくらい、変なリアル感がありました。

彼等を嵌めた真犯人は、けっこう早い段階で「あいつ」と目星がついてしまいます。(だって表情とか仕草が怪しすぎる)不要な人間は排除されるべきなんていう危ない思想を持ったヤツに権力を持たせるとロクなことになりませんね。桐生が罠を仕掛けてヤツの本音を全世界に曝したことで自滅しますが、懲りてないんだな~~

メインサーバー室に閉じ込められてしまった娘の救出というサブストーリーもありますが、暴走を始めた「のぞみ」を止めたのも桐生親子とHOPE社の技術スタッフたちでした。AIに懐疑的な社会派記者の助けもあります。「のぞみ」が自分が生まれた理由を記憶していて自らを修正した結末自体が既に人間を超えているともいえるけど

事件が解決し、妻の墓参に訪れた桐生たちに記者が再び問いかけます。「人口知能は人間を幸せにすると思いますか?」桐生は直接答えませんが、娘に再び尋ねられると「言い換えると、親は子を幸せに出来るか?とも言えるね」と答えます。う~~ん、深いぞ


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あしたの君へ

2020年07月05日 | 

柚木裕子(著) 文藝春秋(発行)

裁判所職員採用試験に合格し、家裁調査官に採用された望月大地。
だが、採用されてから任官するまでの二年間――養成課程研修のあいだ、修習生は家庭調査官補・通称“カンポちゃん”と呼ばれる。
試験に合格した二人の同期とともに、九州の県庁所在地にある福森家裁に配属された大地は、当初は関係書類の記載や整理を主に行っていたが、今回、はじめて実際の少年事件を扱うことになっていた。
窃盗を犯した少女。ストーカー事案で逮捕された高校生。一見幸せそうに見えた夫婦。親権を争う父と母のどちらに着いていっていいのかわからない少年。心を開かない相談者たちを相手に、彼は真実に辿り着き、手を差し伸べることができるのか――
彼らの未来のため、悩み、成長する「カンポちゃん」の物語。(作品紹介より)

 

カンポちゃんとは 修習中の家裁調査官補のことで、先輩から、親しみを込めてこう呼ばれるそうです。家裁を訪れる人々の助けになりたいと、不器用ながら真摯に向き合っていく主人公にこちらも思わず「頑張れ~!」とエールを送りたくなりました。

第一話「背負う者」
窃盗犯の少女は、なぜ偽りの動機を語るのか

少女の供述した遊ぶ金欲しさという動機は、世間に適応できない母親と病気を抱えた妹と暮らす生活費を得るためというのが真実でした。父親が亡くなっていて、少女の肩にのしかかっていた責任という重しを下ろすために家裁が下した審判は一見重すぎるようですが、実は少女を解き放すために必要な措置なんですね。大地は、少女の動機を探ろうと、家や母親の実家を訪ね、真実を探り当てます。普通、ここまで深く調査なんてしないんだろうなと思いつつ、逆にこんな調査官(補)がいたら良いなぁ

 

第二話「抱かれる者」
ストーカー犯の少年は優等生に見えたが……

受け答えも完璧で犯した罪を本人も深く反省しているように見えた「優等生」の本当の姿は、母親に抑圧され続けて劣等感を抱えた少年でした。名家の出という母親もまた、自らの家柄やプライドに囚われ、帰らぬ夫を取り戻すために嘘の生活を自分にも息子にも強いていたことがわかります。「Nのために」のヒロインの母親を連想してしまいました。こちらは保護観察処分になりましたが、母子でカウンセリングを受けることが条件に付きました。初めは彼等の見かけで判断していた大地が、同僚研修生の言葉に耳を傾けたことから真実の扉が開いていきます。ここでも少年の家を訪問したり、高校の担任や友人に話しを聞いたり、不在の父親と電話で話したりと、積極的に行動したからこそわかった事実です。


第三話「縋る者」
幸せそうな同級生の、意外な告白

久しぶりに帰省して同級生たちと会った大地は、中学の時に好意を抱いていた理沙と再会します。子供もいて幸せに暮らしていると周囲に思われていた彼女ですが、帰り道で仕事の悩みを吐露した大地に、彼女は夫と離婚調停中だと告白します。親権問題で家裁調査官から勇気をもらったと話す理沙は、悩んでいるのは問題を抱える当事者も同じで、調査官の言葉に救われる人もいること、そんな人たちを救うためには、知識や経験も大事だが、一番は悩みを抱えている人たちの力になりたいという気持ちだと言います。理沙の励ましに改めて仕事と向き合う気持ちを固める大地なのでした。

第四話「責める者」
理想的な夫と、離婚を望む妻。その真相は

腰が低く誠実そうに見えた夫が、実はモラハラ男だったというお話。

大地は、近所や夫の実家での調査をしますが、夫は非の打ちどころのない人物に見えます。しかし、妻が通っているクリニックの医師から彼女がモラハラを受けていることと、その証拠の録音音声を聞かされます。モラハラをする側は心に劣等感を抱えていて、その鬱憤を弱者に向けることで晴らしているのですが、外面は良いので周囲は気付きません。物事を一般常識だけで捉えては決して見えてこないこともあることを大地は学びます。

第五話「迷う者」
息子の親権を主張する母親の秘密とは

金銭的な要求はせず親権だけを要求する母親の姿に違和感を覚えて調査する大地。10歳の子供は自分の本心を語りません。

実は子供の父親は夫ではなかったという事実も衝撃ですが、それを知っていて妻子を愛してきた夫も凄いぞ (でも妻の夫への気持ちは冷めていて変わらないんですけどね~~

子供の本当の願いなど、全てが明るみに出た後、この夫婦は歩み寄りを見せます。離婚を前提にはしていますが、子供の気持ちが納得するまで猶予を持つことになるのです。

 

それにしても、色んなケースがあるものですね。調査官は書類だけではわからない当事者の気持ちを、関係者を尋ねて背景を知ることで真実を探りあて、解決への糸口を見つける、責任ある仕事です。大地みたいに足で歩いて聞き出すことは、時間と労力が限られている現実では絵空事にも思えるけれど、こんな調査官(補)がいたらいいなぁ


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キングコング: 髑髏島の巨神

2020年07月04日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2017年3月25日公開 アメリカ 118分 PG12

2020年6月27日放送 土曜プレミアム

未知生命体の存在を確認しようと、学者やカメラマン、軍人からなる調査隊が太平洋の孤島“スカル・アイランド(髑髏島)”にやって来る。そこに突如現れた島の巨大なる“守護神”キングコング。島を破壊したことで、“彼”を怒らせてしまった人間たちは究極のサバイバルを強いられる。しかし脅威はこれだけではなかった。狂暴にしてデカすぎる怪獣たちが、そこに潜んでいた!この島では、人類は虫けらに過ぎない・・・・・・そう悟った時は遅かった。なすすべもなく逃げ惑う人間たち。彼らがやがて知ることになる、島の驚くべき秘密とは!? 果たして調査隊は、島から脱出することができるのか!?(公式HPより)

 

1933年の「キング・コング」から数々の作品が作られてきましたが、今作はコングの起源・髑髏島を舞台に描いています。

冒頭シーンは、1944年、太平洋戦争中です。戦闘中に島に不時着した空軍パイロットのハンク・マーロウ(ジョン・C・ライリー)と日本兵グンペイ(MIYAVI)の前に現れたのはキングコング。31.6メートルの体長は過去のコング映画のなかでも最大級です。

次に、ベトナム戦争終結が決まった1973年に飛んで、政府の特殊研究機関モナークの科学者ビル・ランダ(ジョン・グッドマン)とヒューストン・ブルックス(コーリー・ホーキンズ)が、プレストン・パッカード大佐(サミュエル・L・ジャクソン)の戦闘ヘリ部隊の護衛の下、謎の島「髑髏島」の探索に向かいます。撤退が決まり喜んでいた部下たちと違い、戦争に生き甲斐を感じていた大佐は喜んで任務を受けています。この時点で彼の狂気が示されているんですね 軍とは別に元英軍特殊部隊でサバイバルの専門家ジェームズ・コンラッド(トム・ヒドルストン)も雇われ同行します。秘密の匂いを嗅ぎつけた反戦ジャーナリストのメイソン・ウィーバー(ブリー・ラーソン)も調査隊の船に乗り込んできました。 髑髏島は猛烈な嵐に周囲を囲まれて外界から閉ざされていましたが、パッカードは怯まずヘリで強行突破し嵐を抜けます。現れたのは人跡未踏の美しい自然に囲まれた島です。そこへ地質調査用の爆弾を投下する隊員たち。おいおい!いきなり自然破壊かよ!!全く人間ってやつは傲慢極まりない生き物です。と、次の瞬間コングが現れヘリは次々と墜落しメンバーは二手に分かれてしまうんですね。

大佐は生き残った部下を集め、別の場所に不時着した部下チャップマン(トビー・ケベル)と彼の乗っていた武器満載のヘリのところへ向かいます。この時点で彼にとってコングは復讐すべき敵になっています。途中で合流したランダを問い詰めたパッカードは、ランダの目的が地質調査ではなく巨大生物の存在確認だったと知ります。ランダは過去に巨大生物に襲われたことがあり、モナーク設立のきっかけでもあったということが明かされます

一方、コンラッド一行は古代遺跡に辿り着き、島の原住民と暮らしていたハンクと出会います。彼から島には無数の巨大生物がいて、コングが島の守り神になっていることを聞きます。飛行機を改造して作った船で島を脱出するため、コンラッドたちはエンジンを修理します。

夜の幻想的なオーロラや、ヘリの残骸の下敷きになっていた巨大水牛を助けようとしたメイソンがコングと出会い、コングの優しさを知る場面もありました。

やがて、大佐とコンラッドたちは合流しますが、ハンクや科学者の反対を押し切ってチャップマン救出に固執する大佐に引きずられる形で危険な平原へ。一人のために大勢を危険に曝すのは上官として正しい行動なのか?その時点で冷静さを欠いているのが見え見えなんですがね~~。案の定スカル・クローラーに襲われ、多数が犠牲になってしまうんですね。 そしてチャップマンはといえばとっくにスカル・クローラーの餌食になっていたという。観客は彼が襲われるシーンを見ていますが、吐き出された認識票でその事実をコンラッドが知るという演出はです。それでも武器を回収してコングを倒すという大佐は既に理性を失った狂気を宿した目をしています。演技とはいえこの目は恐ろしかったぞ 兵士は上官の命令には逆らえませんから、大佐に従うしかありませんが、コンラッドは民間人を安全な場所に案内するといって別れます。その夜、再びコングと遭遇したメイソンとコンラッドは彼が敵ではないことを確信し、コングを助けようと大佐のところに向かいますが、大佐は耳を貸しません。もはや彼の頭の中には復讐の二文字しかないのね。 ナパーム弾により瀕死の重傷を負ったコングですが、そこに現れたスカル・クローラーの親玉「スカル・デビル」との壮絶な戦いが始まります。コンラッドたちも応戦し、人間とコング共闘の末、勝利を収めるんですね。コンラッドたちを胸を叩き咆哮で見送るコングなのでした

キングコングVSスカル・デビルがメインの戦いではありますが、他にも巨大な蜘蛛や水牛、水中のタコ?イカ?、サイコ・バルチャー(怪鳥)が登場し、まさに巨大生物がうじゃうじゃいる島でした

アメリカに戻ったハンクが、残してきた妻や自分が出征した後に生まれた息子と穏やかな生活を取り戻す一方、コンラッドとメイソンはモナーク機関から島で見たものを口外しない約束を迫られます。二人の前に現れたブルックスとサンは、巨大生物がいるのは髑髏島だけではなく、モナークは彼等の脅威に備えるために設置されたことを話し、ゴジラやモスラ、キングギドラらしき生物が描かれた古代壁画の写真を見せるのでした。

ということで、シリーズの発端となる物語の位置づけであることがわかります。

コングがヒロインを助ける設定は変わりませんが、より戦いの方に主軸がある感じですね。

コンラッドとメイソンが親密になっていく他、ブルックスと生物学者サン(ジン・ティエン)もまた惹かれていくのは、まさに吊り橋効果ってヤツでしようか  アベンジャーズのロキ役では憎めない悪役だったトムですが、本作では主人公としてまた違った顔を魅せてくれていました。


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泣くな研修医

2020年07月02日 | 

中山裕次郎(著) 幻冬舎(刊)

傷ついた体、救えない命――。なんでこんなに無力なんだ、俺。
雨野隆治は、地元・鹿児島の大学医学部を卒業して上京したばかりの25歳。都内総合病院の外科で研修中の新米医師だ。
新米医師の毎日は、何もできず何もわからず、先輩医師や上司からただ怒られるばかり。だが患者さんは、待ったなしで押し寄せる。生活保護で認知症の老人、同い年で末期がんの青年、そして交通事故で瀕死の重傷を負った5歳の少年……。
「医者は、患者さんに1日でも長く生きてもらうことが仕事じゃないのか?」
「なんで俺じゃなく、彼が苦しまなきゃいけないんだ?」
新米医師の葛藤と成長を圧倒的リアリティで描く感動の医療ドラマ
現役外科医にしてベストセラー『医者の本音』著者、小説デビュー作!

 

地方から上京して総合病院で研修中の主人公は、まだオペを任されたこともないペーペーです。先輩や上司の交わす医学用語についていけず手探り状態だし、CT画像の判断も心もとなく、当直の夜の救急患者の手術(「Part1 交通事故」に登場する5歳男児拓磨君)に立ち会った時には終了直後に失神してしまうなどダメダメ君です。この時は何もできなかった自分の未熟さに涙してます

「Part2 生活保護」では、高齢の胃がん患者の手術をせずに転院させる判断を下した先輩医師たちの判断に割り切れない思いを抱きます。独り暮らしで生保、おまけに認知症も進んでいるため、手術をするリスクとQOLを総合的に考えた上で敢えての判断なのですが、手術が可能なのにしないという選択は隆治にはまだ受け入れがたいんですね。

「Part3虫垂炎(アッペ)」は、腹痛を訴えて救急外来にやってきた患者の話。中年男性の痛みの原因は結石でしたが、隆治には診断ができませんでした。14歳の女の子の痛みは虫垂炎と判断するのですが、指導医の女医・佐藤が患者に質問した内容に自分がまだまだ未熟であることを思い知らされます。大学で学んでいたはずなのに、少女の年齢でその可能性に考えが至らなかったこと、これが都会の現実であることを改めて考えるんですね。そして初めて手術を担当することになった隆治ですが、次々出される先輩医師の指示に従ってメスを握るのが精一杯で、自分の知識と経験の浅さを悔しく思いながらも、ここでまた一歩成長していくんですね。

「Part4イシイ」は隆治と同い年の大腸がん末期の患者の話です。隆治にとって初めて「死亡診断」をした患者になります。消えゆく命に対して無力な自分への歯痒さ、情けなさを噛みしめながらまた一つ成長の階段を上る隆治です。

「Part5都会」は、「Part1」の拓磨君の容態が低め安定の状態のまま来ていたのですが、同僚医師に合コンに誘われて参加した夜に急変し、指導医や上司から叱責を受けます。冷たいと思っていた上司が実はしっかり患者と向き合う人だったことを合コンに参加していた子から聞いた矢先の出来事で、自分の甘さを痛感する隆治なのでした。

「Part6おなら」は引き続き拓磨君のお話。腸の状態が良くなくて、このままでは再手術という状況になるのですが、その見極めの最終日にやっとおならが出ます。それは腸がちゃんと動くようになった証拠でもあり、危機を脱したということです。事故の時、母親も大怪我を負い入院していたためずっと会えずにいた親子がやっと再会できて喜ぶ姿を見て隆治は長年聞けなかった兄のことを両親に尋ねようと決心するのでした。

主人公が何故医者になったのかはプロローグとエピローグで書かれています。幼い頃に兄を亡くした彼は、長い間両親に兄が何故死んだのかを尋ねることができないまま医者の道を選んでいますが、エピローグでは遂にその事実に向き合う勇気を拓磨君から貰います。死因に関しては医者になったからこそ冷静に分析できているように思えましたが、親も子も目を背けてきた事に向かい合うことで一歩踏み出せた感がある終わり方でした。続編も出ているようなのでそちらも読んでみよっと

それにしても、若い研修医とはいえ、ずっと病院に泊まり込みが日常になっているのはやっぱりダメですねぇ


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