2013年11月16日公開 113分
長崎で生まれ育った団塊世代のサラリーマン、ゆういち(岩松了)は、「ペコロス」(小さな玉葱の意)のようなハゲ頭の持ち主。漫画を描いたり、音楽活動をしながら、父さとる(加瀬亮)の死を契機に認知症を発症した母みつえ(赤木春恵)の面倒を見ていました。迷子になったり、汚れた下着をタンスにしまったりするようになった母を、ゆういちは断腸の思いで介護施設に預けることにしますが・・・。
漫画家・岡野雄一が、自分が経験したことをヒントに描いたエッセイコミック「ペコロスの母に会いに行く」「ペコロスの玉手箱」が原作のヒューマンドラマです。親の認知症という重いテーマに向き合いながらも、全編ほのぼのした笑いに溢れていました。
ゆういちの息子のまさきも祖母を気にかけ、優しく面倒を見ていましたが、次第にみつえの症状は悪化していきます。
もう亡くなっている夫のためにお酒を買いに行こうとしたり、駐車場でずっとゆういちの帰りを待っていたり(近所で砂かけ婆と子泣き爺と噂されているのに爆笑)、果てはタンスの引き出しに汚れた下着を山のように詰め込んでいるのを発見して、ケアマネージャーに施設に入れることを勧められるの。施設=姥捨て山的な気持ちが捨てきれないゆういちですが、このままでは共倒れと悩んだあげくに決断します。
入所の日、不安げなみつえを振り切るように置いて車を出すゆういちとまさきの表情が何とも切ないです。
このグループホームの入所者の面々はなかなか明るく個性的です。女学生に戻ってしまったまつは息子の本田(竹中直人)のことを忘れてしまっています。洋二郎は若い職員の胸を隙あらばお触りそんな癖のある老人たちに常に明るく優しく接する職員たちには観ていて頭が下がります。こんなアットホームな施設なら入ってもいいかな~~なんて思ってしまう。
他人事と笑っていたゆういちですが、やがてみつえが彼のことを忘れる日がやってきたとき、彼は本田の気持ちを我が事として初めて理解し、本田に謝罪します。これをきっかけに二人の間に友情(連帯感?)が生まれます。同じような境遇の同志がいるってそれだけで心強いんじゃないかな
徐々に施設に慣れていくみつえの頭の中は、幼い頃の日々(体の弱かった妹のたかよや幼馴染のちえこ)や、夫との結婚生活の思い出に戻っていきます。昨日今日の出来事は忘れるけれど、昔の事は不思議と覚えているものなんだそうですね。(若き日のみつえは原田貴和子、その夫を加瀬亮が演じています。)原爆や幼馴染の不幸な境遇、夫の酒乱など決して穏やかとは言えない人生を歩んできた彼女の過去が映し出されます。苦しい事も沢山あったけれど、幸せだったあの遠い日の思い出は、みつえにとって大切な忘れられない記憶なのでしょう。
ある日、ゆういちの提案でランタンまつりを見に出かけた際、みつえが迷子になってしまいます。懸命に探すゆういちにまさきから眼鏡橋の上で見つけたと連絡が入ります。そこは幼なかったゆういちがかつて迷子になった場所でした。みつえの横には夫とちえこ、たかよが寄り添っています。(彼女の頭の中の情景)嬉しそうに微笑む母の姿を見て、ゆういちは「ぼけるのも悪いことばかりじゃない」と思うのですが、見ているこちらもうんうんと思わずうなずいてしまいました