杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

つくもがみ笑います

2024年11月03日 | 
畠中恵(著) 角川書店

人から百年以上大事にされた品物は、人ならぬ、つくもがみになるという。
江戸は深川で損料屋を営む出雲屋では、主人の清次と妻のお紅、跡取りの十夜とともに、そんなつくもがみたちが仲良く賑やかに暮らしていた。ひょんなことから、大江戸屏風に迷い込み、二百年前にタイムスリップしたり、旗本屋敷の幽霊退治にかり出されたり。退屈しらずのつくもがみたちが、今日も大奮闘!(内容紹介より)


「つくもがみ貸します」「つくもがみ、遊ぼうよ」に続く第三弾。
野鉄(.蝙蝠の根付け)・月夜見(.掛け軸)・お姫(姫さま人形)・うさぎ(櫛)・猫神(.猫の根付け)ら付喪神 (長い年月を経た道具などに魂が宿ったもの )と人である古道具屋兼損料屋の出雲屋清次とお紅 の息子・十夜らの交流と彼らが巻き起こす騒動を描いた物語です。今回は.両国の口入屋の主人・阿久徳屋(久徳屋阿喜夜)と養子の春夜、旗本の篠崎、山白伊勢守ら侍たちも絡んできます。
付喪神たちは他にそう六(絵双六)、 黄君(琥珀の帯留)、唐草(金唐革の紙入れ)、
青海波(守袋)など。

語り手は野鉄
・つくもがみ戦います
語り手は野鉄
出雲屋のつくもがみたちは、かどわかされた先で久徳屋のつくもがみの安真刀(脇差)、文字茶(茶碗)、青馬(陶器)と知り合います。出雲屋の付喪神の噂を聞いた悪徳屋が、もっと付喪神を増やそうと彼らを攫ったのですが、大人しく言う事を聞く彼らではありませんから、逃げ出そうとして騒ぎになるんですね😁 彼らを探しにきた出雲屋清次と十夜の前に現れた春夜は十夜に「兄さん」と呼びかけます。

・二百年前
語り手は猫神
付喪神となっていた”大江戸屏風”の中に阿久徳屋と出雲屋の付喪神たちが入り込んで騒ぎとなります。 屏風の持ち主の飼い猫に追いかけられた利休鼠.(鼠の根付け)を助けようと屏風に入り込んだ出雲屋の付喪神たちは、200年前と今の違いを調べるよう言われた阿久徳屋の付喪神たちと再会します。月夜見に教えられ、阿久徳屋の付喪神たちは、相棒だった加羅刀(大刀)と寿々女(扇子)を取り戻すことができました。

・悪の親玉
語り手は再び野鉄
阿久徳屋が春夜を伴って出雲屋を訪ねてきます。十夜の名の由来を話し、本当の親の手掛かりを餌に頼み事をしようとしてきっぱり断られますが、その後行方知れずとなってしまった彼を探す羽目になるんですね。旗本・山白家の幽霊騒ぎを解決したのは当の阿久徳屋と付喪神たちでした。自らを悪徳屋と称する阿久徳屋ですが、実はけっこう善い人のようです。

・見つかった
語り手は五位(煙管)
付喪神たちが屏風から持ち出した大判の噂が広まったことでまたまた騒ぎとなります。捨て子だった十夜や春夜の親と名乗る者が続々現れるのですが、出雲屋が大判を持っているという噂が武家に広まったのが理由でした。また阿久徳屋自身も加羅刀、安真刀と共に捨てられていたことがわかります。自分も飛べるのに仲間たちがいつも野鉄を頼るのが面白くない五位でしたが、徐々に彼の活躍の場も増えてきました。😀 

・つくもがみ笑います
阿久徳屋親子と春夜が武家に襲われ、その後阿久徳屋が殺されかけたのは、彼の出自に関係があるのではと、縁のあった伊勢守を訪ねます。そこで”百年君”の噂の事を知った彼らは自分たちの身の安全を守るため、その行方を探すことになります。九曜紋の殿様も巻き込んだ末に大江戸屏風と家紋の難儀にけりをつけた後、百年君が上野・寛永寺にあると推測した十夜たちは殿様を通じて寺に参拝に出かけ、堂宇の部屋全体に描かれた絵が全て付喪神になっていることを知ります。

語り手は五位
今回殆ど出番がなかった十夜の幼馴染みの小間物屋・すおう屋の三男・市助と、料理屋鶴屋のこゆりですが、こゆりに縁談がきたことで関係が微妙に変化しそうです。十夜と市助はこゆりが好きなようですが、そこに阿久徳屋がこゆりは他に好きな男がいると言ったものだから二人は落ち込んでしまいます。そこで二人を慰めようと宴会が始まり付喪神たちもわいわいと・・・😁 

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八犬伝

2024年10月25日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年10月25日公開 149分 G

江戸時代の人気作家・滝沢馬琴(役所広司)は、友人の絵師・葛飾北斎(内野聖陽)に、構想中の物語「八犬伝」を語り始める。
里見家にかけられた呪いを解くため、八つの珠を持つ八人の剣士が、運命に導かれるように集結し、壮絶な戦いに挑むという壮大にして奇怪な物語だ。北斎はたちまち夢中になる。そして、続きが気になり、度々訪れては馬琴の創作の刺激となる下絵を描いた。北斎も魅了した物語は人気を集め、異例の長期連載へと突入していくが、クライマックスに差しかかった時、馬琴は失明してしまう。完成が絶望的な中、息子(磯村勇斗)の妻・お路(黒木華)から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける──。失明してもなお28年の歳月をかけて書き続けた馬琴が「八犬伝」に込めた想いとはー。(公式HPより)


山田風太郎の小説「八犬伝」の映画化。里見家の呪いを解くため運命に引き寄せられた8人の剣士たちの戦いをダイナミックに活写する“虚構”パートと、その作者である江戸時代の作家・滝沢馬琴の創作の真髄に迫る“実話”パートを交錯させて描かれています。物語を生み出す苦悩と葛藤と共に作者の目線で描かれる『八犬伝』 です。



昔、「新八犬伝」という人形劇が放送されてましたっけ。人形美術を担当 した辻村ジュサブロー さんの人形が印象的でした。曲亭馬琴 の『南総里見八犬伝』自体は未読ですが、おおまかなあらすじは知っていました。
そういえば、朝ドラ「らんまん」のヒロインの愛読書になっていましたね。

この映画の中で描かれる「八犬伝」の物語はVFX効果もあってまさに「虚」の世界に引き込まれます。
馬琴の「悪が蔓延る世の中だからこそ物語の中だけは勧善懲悪に拘りたい」という信念のもとに書かれたまさに正義が勝つお話は、読む人々の心に小さな勇気を運んだのではないでしょうか。

「八犬伝パート」と馬琴と北斎の奇妙な友情を通じて描かれる「創作パート」が交錯して進みます。北斎に誘われ、巷で人気となっていた歌舞伎芝居を観に行った馬琴が、戯作者の鶴屋南北(立川談春)と繰り広げた問答が深い😀 
忠臣蔵と四谷怪談を巧みに織り交ぜた内容の芝居なのですが、シニカルな南北と頑固で頭の硬い馬琴ではその「虚と実」の捉え方が真逆なのです。(個人的には南北の考えを支持しますね😁 )歌舞伎芝居の方は中村獅童(民谷伊右衛門)や尾上右近(お岩)が演じていました😋 

破天荒な芸術家である北斎と堅物な馬琴とのやりとりがユーモラスに描かれているのも面白かったです。物語の筋を語った後、挿絵をせがむ馬琴に、気軽に数枚描いて渡す北斎ですが、すぐにそれを破って捨ててしまいます。この毎度のやりとりが笑えます。
挿絵ももちろんですが、旅に出て描き上げた「富嶽三十六景」を馬琴に土産代わりに渡すシーンではその見事な絵も披露されていて眼福でした。

馬琴の息子の鎮五郎/宗伯の父を尊敬し尽くす姿はまさに孝行息子そのもの。父の期待と願いを一身に受け医者となり武家に召し抱えられながらも病を得て早逝してしまうのですが、その臨終のシーンが涙を誘います。

妻のお百(寺島しのぶ)は学のない女性です。馬琴に振り回される人生に愚痴が絶えないのですが、根は悪い人ではないようです。
学がないのは息子の嫁もですが、彼女は夫亡き後、馬琴が失明した折には、彼の代わりに物語の口述筆記を申し出て、いろはしか読めなかった彼女が漢字を覚えて物語の完成に重要な役割を果たしたのでした。

「八犬伝」パートでは、玉梓(栗山千明)の呪いを解くために八犬士が活躍します。
里美義実(小木茂)が飼い犬の八房にかけた戯言と、捕らえた玉梓を一度は放免すると言っておきながら斬首したことで彼女の恨みを買ったことが因果の元となり、伏姫が自らの命と引き換えに呪いを解くために八犬士を生み出すことになります。
20年後。玉に導かれるように、それぞれ犬の名を持つ八犬士が会することとなります。
初めに登場するのが犬塚信乃(渡邊圭祐)と犬川荘介(鈴木仁)。信乃の幼馴染の浜路(河合優美)が非業の死を遂げたように見えましたが実は彼女は鷹に攫われた義実の姫だったということが後に明かされます。
その後、次々と不思議な巡り会わせにより集まった8人は玉梓を倒し里見家の呪いを解くのです。悪霊となった玉梓の実体はVFXで表現され、信乃の持つ名刀村雨から放たれる水と悪霊の炎の戦いがダイナミックに描かれます。悪役玉梓を演じる栗山千明の鬼女姿も凄みがありました。
本家「南総里見八犬伝」の内容はかなり端折っているようですが、ダイジェストとしてみればスピーディで楽しめました。
特筆すべきは毛野役の板垣李光人の女装姿。舞姿は本当に女性かと思ってしまったぞ。😓 

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薬屋のひとりごと13

2024年10月24日 | 
日向夏(著)しのとうこ(イラスト) ヒーロー文庫

西都に残る人たちと別れ、一年ぶりに中央に帰ってきた猫猫たちは、 また以前の仕事に戻る。蝗害、西都のお家騒動からようやく離れることができて、平穏な日々が戻ってくるかに思えたが――。
猫猫が帰って来てもまだその友人たちに居候されて困る羅半。
上司のげんこつを食らいながら、毎日面白そうなものを探す天祐。
面倒くさい客の相手をしながら、どのように技女を引退するか考える女華。弟の恋についてあれこれ画策する麻美。お嬢さまの心境に不安しかない燕燕。言動と心境にずれが生じ、ちぐはぐな行動ばかりしてしまう姚。蝗害の災禍にたった一人立ち向かい、生きて西都に戻った羅半兄。西都でも中央でもそれぞれ違う人生があり、皆が皆、自分なりの悩みを抱えて生きていた。猫猫といえば、壬氏の思いに対して素直になる道を選ぶ。ただ、そこに大きな問題が存在することも理解していた。官僚の中には玉葉后の息子が東宮にふさわしくないからと、他の皇族を立てようと考える者たちがいた。壬氏はもとより、梨花妃の皇子や、数代前の皇族の血筋までたどろうとしている様子。国の頂きに近い者には平穏な日々など望むべくもない。今巻は猫猫のゆかりの人々の視点からも、人生を見ていく。彼ら、彼女らはどう考え、どう生きていくのか。また、猫猫は壬氏をどう受け止めていくのか。都の人々のそれぞれの思いが大きく動いていく。(内容紹介より)

一話 羅半と三番
中央に帰ってきた羅半を迎えに来たのは三番。羅漢が拾ってきた者たちは名前ではなく番号が付けられているのよね😁 で、どうやら三番は羅半に好意を持っていて、居候を続ける姚や燕燕 に敵意を持っているようです。

二~四話 羅半と首吊り死体 前中後編
羅漢の執務室で首吊り死体が発見されます。他殺と見抜いた羅半は野次馬の中に犯人がいるか羅漢に尋ねますが、顔を認識できない羅漢は「白い碁石」と答えます。
検死には劉医官と一緒に猫猫と天祐もついてきました。猫猫は複数人による他殺と見抜きその方法を解きます。この殺された男が何か重要な鍵を握っていそうです。

五話 壬氏と報告
壬氏は主上や皇太后、玉葉后に挨拶回り。
部屋に戻ると水蓮や麻美が留守中に置かれた呪いの札や人形などをせっせと見つけ出しています。麻美からは他の男系皇族の噂の報告を受けます。

六話 天祐の医務室日記
遺体の解体を熱望する天祐は相変わらず。猫猫と姚たちの会話にも興味津々。一緒に西都にいった李医官の様変わりように同僚たちが驚いている描写も面白い。医官たちは事件の背景の可能性を考慮に入れて調べを進めるようです。

七話 麻美と不器用な弟
家鴨連れの馬閃に呆れながらも、せっかく異性に興味を持った弟のために姉として何かできないだろうかと考える麻美です。「絡みつく蔓植物に似ている」と言われたことがあるという麻美は旦那を執念で根負けさせて捕まえたというのも納得😁 

八話 阿兄正伝
西都に置いて行かれた羅半兄の日記は彼が船を待つ港の宿場に置き忘れたことから、中央の連中(猫猫と羅班兄)に散々庭をいじられた庭師たちがささやかな復讐として日記を回し読みしたのが偶然どこぞの学者に目を留められ農業書として編集されますが、作者不明とされます。どこまでいっても名前がない羅半兄ですが、すでに本名は12巻で判明していますね。彼は小姓として中央に連れて来られた少年・漢俊ジェと同姓同名です。
個人的にはこの日記が一番面白かった!!

九話 燕燕の休日
十話 燕燕と恋話
姚お嬢様が羅半に気持ちがあるようだと燕燕は気が気ではありません。猫猫を相手に愚痴っていたところに三番がやってきて良い物件を見つけたと追い出そうとします。
お嬢様命の燕燕の悩みは暫く解決しそうにもありません。

十一話 女華という花
皇族のご落胤という売りの女華は学問に秀で四書五経を暗記していて科挙の受験者に人気があります。常連の老師に連れられて来た男の評価も辛口です。次の客である柳野郎が連れて来た丸太野郎は、女華に皇族の血筋かと問います。母の形見の割れた翡翠の玉牌を売って欲しいと言われ断りますが・・これ、絶対後で重要なポイントになりそう。

十二話 女華と妹分
緑青館にやってきた猫猫と久しぶりに会話する白鈴と女華。
妓女の子として生まれながら進んだ道が違っていく妹分を見ながら、少しの羨ましさを感じてしまう女華です。梅梅が身請けされたことを知らされ驚く猫猫。相手は羅漢が連れてきた棋聖ですって。えっと・・かなりの老人だったような😅 碁の相手としてということかしらん。
先日の遺体が丸太野郎だったかもと話した女華は、父親は皇族というより獣臭い節くれだった手をしていたと母から聞いたと言い玉牌を見せたところ、猫猫が反応します。

十三話 姚と、羅半兄の帰還
燕燕の言う「理想の旦那さま」しっかりした大人の男性で身元もはっきりして家柄も見合う、健康で困難な状況にも諦めず行動でき希望を忘れず云々・・は羅半兄にぴったりな気がしますね~~。そしてついに羅半兄が帰ってきました。お約束のように門番に門前払いを食いそうになるのがやはり羅半兄というキャラですね。面食いの彼が姚と燕燕を見て動揺するのも可愛いというか😊 

十四話 阿多の真実
雀が阿多に仕えていることや、壬氏が阿多が産んだ子だとはっきり明かされます。
猫猫を呼んだ阿多は逃げたければ手助けをすると申し出ますが、猫猫はきっぱり断ります。自由を封じられてきた彼女は猫猫に自分と同じ運命を押し付けたくないと思っていましたが、猫猫は彼女が考えているより柔軟で自由な女性だと示される場面でした。

十五話 壬氏の動揺、猫猫の決意
壬氏の求めに応じてやってきた猫猫が抱えていた荷物は避妊のあれこれでした。
水蓮が整えた香や花びらを散らせた寝室や滋養強壮の食事にやり過ぎと言いながらもどこか照れと期待に膨らんでいた壬氏の心は、彼女の本気を前に自分が置かれた立場と現実を改めて思い知らされます。
最高に盛り上がるロマンチックシーンが一気に冷水を浴びせられ現実にという「初夜失敗」の展開でした😞 

十六話 猫猫の遅い夕餉
猫猫なりに覚悟を決めて臨んだのに何もないという、嬉しいような残念なような気持ちのまま部屋に戻ってきます。強いお酒が徐々に回ってきて、梅梅のことや羅半兄のこと、皇族のご落胤の噂から天祐と女華は親戚かもと考えを巡らせながら睡魔に襲われる猫猫なのでした。

いつもとは少し趣が異なり、壬氏や猫猫の周囲の人物の視点で構成される短編形式で、1年ぶりに中央へ帰ってきた猫猫たちの様子が描かれています。次の話への伏線もいくつか忍ばせてあるようで、続きが楽しみです。

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今夜は、鍋。―温かな食卓を囲む7つの物語―

2024年10月17日 | 
角田光代/著 、青木祐子/著 、清水朔/著 、友井羊/著 、額賀澪/著 、織守きょうや/著 
新潮文庫

今夜は、鍋にしよう。外は冷える。スーパーで好きな具材を買いこんで、飲みものも忘れずに。少しのわだかまりを抱える恋人たちも、久しぶりに会う友人たちも、人生の節目を迎える家族も……温かな湯気立つ食卓を囲めば、今宵は特別な夜。どんな食材も鍋に入れば絶品に。美味しい鍋と、楽しいおしゃべり、至福の時間のはじまり。人気作家たちによる“鍋を囲むひととき”を描く、七篇。(内容紹介より)

「合作、冬の餃子鍋」角田光代
食へのこだわりが強いすみ子が好きになった望は、逆にこだわりが低過ぎ。お互いの家で食事をするようになってそのことに気付いたすみ子は交際を続けるか悩み始めますが、二人で作った餃子鍋の意外な美味しさにもう少し違いを楽しんでみようかと思い直します。

 「四人いるから火鍋にしましょう」青木祐子
女性だけのシェアハウスには、さより、留花、結が住んでいました。それぞれお金に困っていたところをオーナーの奈々子に拾われた女性たちでしたが、奈々子の決めたルールに従い平和に暮らしていたところに、翔太という青年が加わったことから関係がきしみ始めます。翔太はルールを守らず結が彼の代わりに掃除や朝起こしてあげたりするようになります。しかし翔太の本音を知った3人は・・・。
翔太は自分勝手な奴で平気で人を傷つけ、しかもそのことに気付いてもいない最低男なので、同情の余地はなく、逆に彼自身にとっても結果的に良かったのではないかとさえ思ってしまいます。

 「初鍋ジンクス」清水朔
土鍋(花三島)の「俺」は初鍋を楽しみに夢見ていましたが、やがて3組の持ち主に巡り合うことになります。最初の持ち主は一度も使うことなく離婚、二組目のは猫鍋にされますが、三組目で本格的な水炊き鍋の夢が実現します。
ちょっと宮部みゆきの付喪神の話に似ていて、どこかほんわかした温かさを感じました。

 「両想い鍋パーティー事件」友井羊
周囲からベストカップルと思われていた幼馴染の浩太郎と果歩。果歩の誕生祝に浩太郎が作ったアクセサリーケースが何者かに壊される事件が起こり、友人の蓮司と雛も憤慨しますが・・・
実は浩太郎の彼女は雛で、果歩の彼が蓮司という意外な展開があり、犯人の動機も「そりゃそうだよね~」と納得。当人同士は感じていなくても相手もそうとは限らないということでした。

「できない君と牡蠣を食べる」額賀澪
アニメーターの桂都と雪路。久しぶりに激務から解放された二人は雪路の希望で「牡蠣鍋」を食べに行きます。
桂都が女性であることに暫く気が付かなかった(^^;
どうやら二人は交際していたけれどあることから関係が自然消滅していたらしい。
タイトルの「できない君」が雪路のEDを指していて、牡蠣鍋に今夜こそ「立ち上がる」という決意が込められているって知ると何だか彼が可愛く思えてきたのは桂都も同じらしい。デリケートな内容なのに何だか微笑ましい。

「やみ鍋」織守きょうや
新宿駅西口のロータリーで鍋をする男を見かけつい立ち止まってしまった渡辺。男は突然鍋を彼に押し付けて姿を消してしまい、途方に暮れる渡辺に声をかけたのは同僚の片山だった・・。
渡辺はその鍋は最初から自分が持ってきたと錯覚していきます。学生時代のやみ鍋がトラウマになっていた渡辺でしたが、同僚と囲んだやみ鍋は楽しく満足して帰宅したものの、その鍋はやはり自分の持ち物ではないと気付きます。鍋の中から音が聞こえた彼は眠れなくなります。何だかSFっぽい話だな。

「鍋セット」角田光代
大学進学のために上京した「私」。母と一緒に見つけたのは予算の都合で古い木造アパートです。みすぼらしい部屋に膨らんでいた希望は一気にしぼんでいきます。引っ越しを終えて駅前で引っ越し蕎麦を食べた後、母が買ってくれたのは大中小の鍋セットでした。
地方から出てきた女の子が一人暮らしの夢や希望を出鼻でくじかれ、つい母に当たってしまう様が前半に描かれますが、後半ではそのアパートで過ごした数々の思い出が語られます。辛いこと、悲しいこともあったけれど、多くは楽しい思い出が母のくれた鍋と共にあり、フードプロデューサーという職に結びついていました。

6人の作家の「鍋」がテーマの短編です。
それぞれの作家の個性が出ていて面白かったです。
自分的には「初鍋ジンクス」が好みかな。

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メイド・イン京都

2024年10月14日 | 
藤岡陽子(著) 毎日新聞(出版)

婚約したばかりの美咲が、彼の実家のある京都に移住した途端に浴びる数々の洗礼。また実家で豹変する彼に幻滅し、美咲は昔からの趣味であるTシャツ作りにのめり込む。徐々に美咲は京都の地で個人ブランドの独立・起業への道を歩き始める。自分らしい生き方を模索する一人の女性の物語。(内容紹介より)


著者は京都・洛西生まれで現在も京都府在住。美咲のモデルは、著者の友人でアパレルを起業して制作している方だそうです。
表紙は河原でジャンプする女性の写真。鴨川の河原と推察され遠くにはは三条大橋のようです。裏表紙では作中に登場する美咲が作った白と黒のTシャツを半分ずつ繋げて刺繍した服を連想させ印象に残りました。

美大を卒業し、家具の輸入販売の会社で働いていた十川美咲(32歳)は、先輩の紹介で知り合った4歳年下の都銀に勤める古池和範と結婚することになります。
父親・功が亡くなったことで銀行を辞め家に戻ることになった彼と一緒に京都の実家を訪れた美咲は、そこで初めて彼の実家が京都で飲食店や旅館を営む商家だと知ります。
実家は大邸宅で、和範の母・真知子と姉・知佳と姪・乃亜と、しばらく同居することになりますが、和範は継いだばかりの会社の仕事に忙殺され、会話もままならない日が続きます。

手持ち無沙汰な美咲はふと何か作ってみようと思いつき手持ちのTシャツにミシンで刺繍をしてみます。元々美大で何かを創ることが好きな彼女は、自分の才能に見切りをつけて就職したのですが、心の奥底に消えずに残っていた創作意欲が蘇ってきます。

京都人は本音を言わないとよくいわれますが、美咲もその洗礼を浴びまくることになります。
和範も東京での姿とは全く異なる面を見せ始めます。家業を意のままに動かそうとする叔父の修との関係に疲弊する和範の苦労には同情しますが、父の旧友である茂木の土産物屋を切ろうとする古池家の態度はとても冷たく感じました。

親友の桜子に愚痴を聞いてもらったことがきっかけで、同じく同級生だった陶芸家の仁野 桂太と再会した美咲は、 イベント会社「MOON」の社長でバイヤーの月橋瑠衣に刺繍を認められ嬉しくなります。しかしTシャツ作りに没頭する彼女と桂太の関係を和範が疑い諍いになります。彼が美咲に求めていたのは自分にとっての安らぎであり、美咲を縛り付けようとする彼との間溝にができた美咲は暫く別居しようと提案します。

瑠衣は次々と仕事を紹介してきます。彼女の姪の結婚式会場での展示即売でお客第一号となったインフルエンサーの大原茉莉江が紹介した効果もあり、京都のギャラリー「KITA」での展示や東京での展示即売会の参加で、作品に目を留めてくれる人や援助してくれる人も増えてどんどん発表の場が広がっていくんですね。反省した?和範も何かと援助してくれました。

「KITA」のオーナー由井さんから「瑠衣さんには気を付けなさい」と忠告された美咲ですが、その時は深く気に留めませんでした。ところが、大阪の百貨店のバイヤーの木下の依頼を受けて出品した最終日に、親しくなったジュエリーブランド「KATORI」の香取絵音から服を売らないよう警告され、翌日「MOON」が不渡りを出したことを知らされます。

実咲は瑠衣と圭太が恋人同士だと思い込み、彼に傾いていく気持ちを抑えようとしていました。実は瑠衣には経理を担当していた夫がいたのですが、夫婦仲は冷え切っており、妻の浮気を疑った夫が美咲にも接触し、不渡りを出したあとはお金を持ち逃げしたことがわかります。その意味では瑠衣も被害者なわけね。

契約上、美咲の手元には売上金が戻って来ず、連絡がつかなくなった瑠衣と圭太を通じて会った彼女に、瑠衣は「本当はあなたが嫌いだった」と言います。純粋で一生懸命で思い遣りがあって誰もが好感を持つような人が嫌いだと。婚約者とのことも含め中途半端な美咲に対してなにをやりたいのか伝わってこない、あなたはプライドが高いのだと指摘する瑠衣の言葉は美咲に鋭く突きささりますが、同時に自分を見つめ直すきっかけにもなるのです。

和範の謝罪を受け容れ、よりを戻した美咲でしたが、彼と叔父の会話を偶然聞いてしまったことで決別します。圭太との仲を疑った古池家は美咲の素行調査をしていました。自分は信じられていなかったとわかり、やはりこの人とは一緒になれないと美咲は感じたのです。

圭太が美大の時から自分に好意を持っていたと桜子に指摘された美咲でしたが、和範と別れたことを言えず東京に戻ります。一年後、圭太と再会した美咲は・・・

結婚のために京都にやってきた美咲でしたが、彼と破局してしまいます。古池家の人たちも根は悪い人ではなさそうですが、京都の老舗の旧家ということもあり、一筋縄ではいかなそうで、この結婚が破談になったのは当人たちにとっても自然な成り行きだったかもね~。でも悪いことばかりではなく、自分の中に眠っていた創作意欲が芽を出して才能と人柄が運を呼び込んで新たな道が拓けるというストーリーは、立ち止まっている人の背を押してくれるような勇気と元気を与えてくれました。


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室井慎次 敗れざる者

2024年10月11日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年10月11日公開 115分

「あの男との約束を果たせなかったーー 。」 現場の捜査員のために粉骨し、警察の組織改革に挑むなど、波乱に満ちた警察人生を歩んできた室井慎次(柳葉敏郎)。27年前の“青島との約束”を果たせなかったことを悔やみ、警察を辞めて故郷・秋田に帰る。そこには、かつての想いで、少年たちと一緒に穏やかに暮らす室井の姿がーー 。そんな中、室井の前に突如現れた謎の少女(福本莉子)。彼女の来訪とともに、他殺と思われる死体が発見される。そして明かされる、少女の名前は…日向杏。シリーズ最悪の犯人と言われた猟奇殺人犯・日向真奈美(小泉今日子)の娘だという、衝撃の事実が判明する。「とんでもない死体を見つけましたね、室井さんーー 。」東北の山奥には似つかわしくない、おびただしい数の警察官、ヘリや警察車両ーー 。「最悪」は何故室井慎次を狙うのか。穏やかな暮らしを求めた室井のまわりに、再び、事件の影が迫りくるーー 。(公式HPより)


「踊る大捜査線」シリーズの人気キャラ、室井慎次を主人公に描いた映画2部作の前編です。プロデュースの亀山千広、脚本の君塚良一、監督の本広克行らシリーズを支えてきたメンバーが再結集しています。

物語は『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』から十数年後。定年を前に警察を辞めて故郷の秋田に帰った室井は、犯罪被害者・加害者の子ども達タカ(齋藤潤)とリク(前山くうが・こうが)の里親になり穏やかに暮らしていました。無口だけど子どもたちに注ぐ視線はとても優しくみえます。

そんな平和な日々が家の近くで死体が発見されたことで打ち砕かれていきます。(乃木巡査(矢本悠馬)のキャラ設定がウザいぞ)埋められていたのは、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』で逮捕され服役を終え釈放されていた瀬川吉雄で、一緒に埋められていた「洋梨=用なし」は犯人グループがかつて残したメッセージと一致します。当時、本庁で捜査に当たっていた室井は、この事件の捜査への協力を要請されます。

そんな折、一人の少女が室井の前に。素行を持て余され、元の里親から室井に送られた彼女は日向杏。日向真奈美(『踊る大捜査線 THE MOVIE』や『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』で登場)の娘です。杏は『THE MOVIE3』の2年前に生まれており、父親は不明とされていますが刑務所で真奈美のカウンセリングを担当していた『THE MOVIE3』の実行犯の須川圭一と考えられます。杏はタカとリクの二人の心が室井から離れていくよう仕向けます。幼いリクはともかくタカはそんな杏を怖いと室井に訴えます。
 
母(佐々木希 )を殺されたタカの前に、加害者の弁護士の奈良育美(生駒里奈 )が現れ、容疑者に有利な証言をするよう依頼してきます。一度も開封しなかった加害者が送ってくる手紙を読むことを強要してくる奈良の傲慢さが鼻につきますが、タカは敢えて手紙を読んだうえで室井の付き添いの元、加害者と面会します。加害者の前に恋人だった男も暴力団関係者で、男が酔って口にする言葉から彼らの人間性を学んでいたタカは、自分がなりたいのはあんたのような人間ではないと告げます。室井のような大人になりたいと。このシーンはなかなか感動的です。奈良は新人で初めて任された事件に気負っていたことが後にわかります。室井は昔自分を助けてくれた若い女性弁護士(「容疑者室井慎二」で登場していましたね)を思い出し奈良のことも温かい目で見ていました。

突然秋田県警から呼び出しを受けた室井が連れて行かれたのが秋田市の老舗料亭「濱乃家」。懐かしい~!!
待っていたのは秋田県警本部長になっていた新城(筧利夫)です。
『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』のラストで組織改革推進委員会の委員長に任命された室井でしたが志叶わず左遷され、沖田(真矢ミキ)が用意した秋田県警本部長の花道を断り退職していました。空いたそのポストに就いたのが新城だったという・・・かつて警察庁長官官房審議官だった室井・新城・沖田の三人は、時を経て退職・支店・本庁と立場を違えているわけです。

何故警察を辞めたと尋ねる新城を、室井は家に誘います。囲炉裏端でウィスキーを飲みながら、室井は青島との約束(現場の刑事が信念を曲げずに捜査ができるようにする)を果たせなかったからだと明かします。 青島は警視庁捜査支援分析センターにいるようです。おそらくは彼も左遷なのでしょうが、警察に残っているのね。
警察という組織が一体になれると信じ、理想に向かって突っ走った彼の「あの頃は信じていた」という言葉が痛い。リクの「組織って何?」という疑問に新城が答えた「一緒にいること」にリクは「それは家族でしょ」と返します。リクにとって血がつながらなくてもタカ(杏も)や室井はまさしく家族なのです。室井さんは孤独じゃないよ~!!

翌日秋田県警に出向いた室井が目にしたのは、警視庁捜査一課管理官の高圧的な仕切りです。「わざわざこんなところまで」というセリフが警察という組織が何も変わっていないことを示しています。そうそう、緒方(甲本雅裕)が警視庁捜査1課の刑事に出世していました。

同じく一課の桜章太郎(松下洸平)はハイテンションで室井に接し、レインボーブリッジ事件で逮捕された犯人グループが再び大きな事件を起こそうとして特殊詐欺に手を出したのではないかと自説を披露します。
村中に監視カメラが取り付けられる状況の中、石津夫婦(小沢仁志・飯島直子)や地区長の長部(木場勝己 )ら東京から来た室井を疎ましく思う者たちは彼に村から出ていけと迫ります。室井に親切にしてくれた市毛商店のきぬ(いしだあゆみ)も複雑な表情を浮かべます。

進路に悩むタカは、高校を出て働くことになってもここに残っていいかと室井に尋ね、「いたければいろ」といわれて笑顔を見せます。彼は本当は大学行きたいんだよ~~!と思わず室井に突っ込みたくなりますが、とりあえず二人の関係は良好ですね。

リクとも、レコードを通じて関係改善が。Sano ibukiがカバーした「WITHOUT YOU」の原曲はイギリスのバンド・バッドフィンガーの楽曲だそう。父(事件加害者)はよく自分を怒っていたのに室井はなぜ自分を怒らないのかと聞くリクに、室井は親としてまだ一年生の自分はどうやって教えるかを迷っていると明かすのです。「室井さんはあったかいね」と頬寄せるリクは彼に心を開いていました。しかしラストの前に、リクの父親らしい人物(加藤浩次)が釈放されるシーンがあり、後編での波乱を予感させます。この父子が負った火傷の意味も後編で明かされるのかな。

退職して秋田に帰ってきた室井が、廃屋をDIYでリノベーションしていく様子がダイジェストで流れ、野良犬だったシンペイと一から新しい生活を作り出していったこと、子供たちを引き取ったいきさつも描かれています。

リクと家に戻ってきた室井は隣接する小屋が燃えているのを目にします。小屋の前には杏とタカが立ちすくんでいました。消火を試みますが火の勢い止まりません。室井のコートが焼けていくシーンで幕を閉じる前編です。

エンドロールでは過去シリーズの名場面が流れ、ポストクレジットでは後編の予告が挿入されています。

いかにも怪しそうな杏は犯人?いやいや、ミスリードじゃないかな?
リクの父親の存在も気になるしな~~ということで後編楽しみ。

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妻の終活

2024年10月09日 | 
坂井希久子 (著) 祥伝社(刊)

「お前、死ぬのか」「ええ、そのようです」
まもなく七十歳になる一之瀬廉太郎は定年まで勤めあげた製菓会社で嘱託として働いている。家事や子育ては二歳下の妻杏子に任せきり、仕事一筋で生きてきた。ある日、妻から病院の付き添いを頼まれるがにべもなく断ってしまう。妻の頼みごとなど、四十二年の結婚生活で初めてに等しかったのに。帰宅後、妻は末期がんで余命一年と宣告されたと告げる。呆然とする廉太郎に長女は「お願い、もうお母さんを解放してあげて」と泣きながら訴えるのだった――。夫はいつも気づくのが遅すぎる。妻は一人、準備を始めていた。(内容紹介より)


この物語の主人公の廉太郎はザ・昭和!な男性です。子育ても家事も全て妻に任せて仕事に邁進してきた彼は、娘たちが巣立ち、定年を迎えても嘱託として働き続けていました。働いて家族を養ってきたという自負と、会社に多大な貢献をしてきたというプライドが彼の原動力です。

虫垂炎の手術をして2週間前に退院したばかりの妻・香子から「病院について来てくれませんか」と頼まれた時、廉太は仕事があるとにべもなく断ります。その夜、帰宅した彼は妻が家にいないことに気付きます。病院に付き添ってくれた長女の美智子の家に泊まると聞かされ「俺の夕食はどうするんだ」と怒りが先にたつあたりが何とも・・・。😖 数日経っても帰ってこない妻に苛々が最高潮に達した頃、杏子と一緒に来た美智子から妻ががんを患っていることを告げられます。😨 

廉太郎は決して傲慢でも冷淡な男でもありません。彼の父親が男尊女卑な昔の男でありそういう父親の元で育った彼が父と同じ考えになるのはある意味とても自然なことかもしれません。
けれど彼の"男は男らしく、女は女らしく” "家のことなど男のやる仕事ではない"という考えから発する言葉は、時代錯誤も甚だしく、その言葉に傷つく人の存在すら当の本人は全く気付いていません。😪 

自分の思い通りに動かない人や物事に対する怒りの沸点が低い彼は、他人には節度を守りますが家族には辛辣な言葉や大きな声を出してしまいます。素直に真意を伝えられずに誤解されてしまう人でもあります。😓 

この夫婦と世代が近い身には、どうしてこんな夫に黙って従ってきたのだろう?と杏子に対しても不満を感じてしまいました。

余命宣告を受けた妻の現実に向き合えない廉太郎は、セカンドオピニオンや先進医療を強く勧めますが、杏子は緩和ケアを望みます。
そして彼女は遺される夫を心配して彼が自立した生活ができるよう家事を仕込んでいくのです。

洗濯機の操作から始まり、掃除の仕方、料理と学んでいくうちに、廉太郎も少しずつ妻がいなくなってしまうという現実を受け入れていきます。
杏子が町内の清掃活動に夫を誘ったことがきっかけで、隣家の男性に誘われて町内の将棋仲間もできます。以前からの釣り友もいて、廉太郎の老後は決して孤独ではありません。そのように杏子が仕向けた結果でもあるのです。

杏子の病気をきっかけに退職した廉太郎は、働き盛りには時間がなくて諦めてきた諸々をしようと考えますが、視力も気力も体力も衰えた今は何をするにも億劫に感じます。それよりも妻と過ごす時間を大切にしたいと考えた廉太郎の心の変化は、初めの頃の亭主関白さが際立っていただけにより一層好ましく感じられました。

杏子の病状が進んでいくのと相関するように廉太郎の妻への献身は高まっていきます。孫の爽が長髪にした理由も知らずに「男のくせに」と失言したり、次女の恵子のパートナーが女性と聞いて憤慨したりもありましたが、口が災いして溝が出来ていた娘たちとも少しずつ心を通わせられるようになり、自宅で看取りをする頃には家族4人の幸せな時間を取り戻すことができました。

花が好きな杏子は、庭のツル薔薇を丹精に育てていました。廉太郎は彼女に指導を受けながら一生懸命手入れをします。妻は最期の朝に庭の数輪の薔薇が咲いたのを確かに見ました。

さて、杏子は夫に尽くすだけの人生だったのでしょうか?
葬儀の後、庭に佇む廉太郎に美智子は、彼の浮気を杏子が知っていたことを告げます。(え~?浮気までしてたのか、こいつは!!)。当時杏子が不機嫌だったのを更年期のせいといわれて鵜呑みにしていた彼は、何故自分を責めなかったのかと思い、自分がそうさせなかったのだと気付いて愕然とします。せめて逝く前にでも恨み言をぶつけてくれたら謝れたのにと言う父に、娘は「謝られたら許さなくてはいけないじゃない」と答えます。廉太郎は杏子がカレンダーに×を付けるようになったのは、自分が浮気をしていた頃からだったと気付きます。(うわ~!これはなかなかヘビーな展開だわ)

でもね・・・発病して逝くまでの一年で、彼女は夫を許していたのではないかしら? カレンダーの×が〇に変った頃からかな?そして遺される夫のために自分の残りの時間を使うことが、彼女の生きる目的となったのでしょう。

杏子は強い女性だったのでしょうか?
確かに意思は強かったと思いますが、死への恐怖は彼女も抱えていたことが明かされるのが、緊急入院した病室での廉太郎との会話です。そりゃそうだ!怖くないわけがない。
自宅介護になり、トイレが間に合わずに粗相した時の彼女のショックも、家族以上に強いものでした。それはまさに尊厳の最後の砦でもあったからです。
それでも、夫や娘たちに見守られ、その年に咲いた白薔薇を目にして安らかに逝くことができた杏子の人生は絶対実りあるものだったと感じられました。

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花嫁はどこへ?

2024年10月07日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年10月4日公開 インド 124分 G

2001年、とあるインドの村。プール(ニターンシー・ゴーエル )とジャヤ(プラティバー・ランター )、結婚式を終えた2人の花嫁は同じ満員列車に乗って花婿の家に向かっていた。だが、たまたま同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫のディーパク(スパルシュ・シュリーワースタウ )がかん違いしてジャヤを連れ帰ってしまう。置き去りにされたプールは内気で従順、何事もディーパクに頼りきりで彼の家の住所も電話番号もわからない。そんな彼女をみて、屋台の女主人マンジュ(チャヤ・カダム)が手を差し伸べる。一方、聡明で強情なジャヤはディーパクの家族に、なぜか夫と自分の名前を偽って告げる。果たして、2人の予想外の人生のゆくえは──?(公式HPより)


『きっと、うまくいく』のアミール・カーンが製作を手がけ、監督は彼の元妻のキラン・ラオ。取り違えられた2人の花嫁の思いがけない人生の行方を描いたヒューマンドラマです。

今から四半世紀前の設定とはいえ、花嫁の取り違えというあり得ない筈の出来事がインドの結婚事情を知れば「あり得る」と感じてしまいます。基本的にはスパイスの効いたコメディです。

さて、インドの結婚は現代でも家同士で決めることが一般的で、殆どの人が親の決めた相手と結婚するそうです。結婚の日取りも、ヒンドゥー教徒だとパンディト(僧侶か占星術師)に相談して決めるんだとか。だから大安吉日には何組もの新婚さんが誕生するわけですね。花嫁の持参金である「持参財」には、婚家への贈り物(品物等)と、花嫁の個人財産として持たせる現金や金目の物の2種類があり、貴金属の装飾品(腕輪、指輪など)は万が一の時の妻の貯金のようなものらしい。
花嫁がベールをすっぽり被るのは「パルダー」という習慣に従ったもので、家から外へ出る時や来客時、また目上の人と接する時に敬意を払う意味を込めて視線を合わせないようにするため。

という基本事項を抑えた上で、新婚カップルで混みあった満員列車に乗り合わせたことから悲劇(喜劇?)の幕が開きます。

インドの列車事情は終戦直後の日本の鈍行列車並みに混んでいるようで、もちろん指定席なんぞ見当たらない。乗降の入れ替わりも減げしく、いつのまにか離れてしまったディーパクとプールですが、目深にベールを被っているので互いに気付きません。居眠りをしていたディーパクは降車駅に泊まったことに気付いて慌てて隣の女性を促して降りると、最終バスに乗り村に帰ってきます。仲間や家族に迎えられ祝福を受けるディーパクですが花嫁の様子が変。ベールを上げると全くの別人です。プシュパと名乗った彼女を放り出すわけにもいかず家に泊めながら、ディーパクは仲間たちと警察に相談に行きます。
マノハル警部補 (ラヴィ・キシャン)は平然と賄賂を受け取る人物で、本気でプールを探してくれるのか不安を覚えてしまいます。

一方、花婿に起こされて駅に降りたものの、ディーパクの姿がありません。見知らぬ男に「ジャヤ」と呼びかけられ、怖くなって逃げ出します。トイレで一夜を過ごし駅を彷徨うプールを見兼ねて声をかけたのはマンジュの屋台で働く少年です。駅長さんに嫁ぎ先の村や自分の家を尋ねられたプールでしたが、夫の名前しか答えられません。何しろそれまで一人で村を出たこともないし、村には駅もなかったのです。(それにしても知らなすぎだろ!と一応突っ込んでみる)警察は恐いから嫌と怯えるプールに駅長さんもお手上げです。

プールは慣習に従い夫に従順な妻になるためのしつけを受けてきた女性で、そのことに疑問を抱いたこともありませんでした。しかし駅に置き去りという状況になり、マンジュに拾われて屋台で働くようになると彼女の影響もあって自ら道を切り拓こうと変っていきます。ベールを脱ぎ顔を出して料理を作って接客するプールはとても生き生きとしています。

プシュパは実はジャヤです。何故偽名を使うのか?寺院に行くと言って何時間も戻って来なかったり、彼女の行動はどこか不自然で怪しく映ります。
マノハル警部補はジャヤの夫から出された捜索願の情報からプシュパを疑い尾行を始めます。その様子がコミカルに描かれ笑いを誘います。顔写真を撮ろうと四苦八苦したのに全く撮れてなかったりね😁 
ジャヤはある目的のため、夫から隠れて時間を稼ごうとしていたのですが、警部補にジャヤであることを見抜かれ逮捕されてしまいます。
偽名を使い自分を騙していたのかとショックを受けるディーパクでしたが、ジャヤがプールを探すために動いていたと知ると彼女を助けようとします。

ジャヤは向上心が強く大学で学ぼうとしていましたが、母親が強引に結婚を決め、仕方なく従おうとしたのでしたが、取り違えが起こったことをチャンスと考え行動していました。彼女の夫となった男は裕福だけど妻を所有物と見なす粗暴な男で、子が出来なかった前妻を焼き殺したという噂もありました。

彼女の訴えを聞いたマノハル警部補でしたが、迎えに来た夫に彼女を引き渡します。え~~!やっぱ嫌な奴!と思ったら・・・粋な裁定をしてくれるじゃないですか😃 警部補の印象が180度変わる瞬間です。

ジャヤが作ったプールの捜索願いのポスターが功を奏してプールは無事にディーパクと再会します。この二人は親が決めたとはいえ互いに好意を抱いた相思相愛のカップルなのです😍 

ジャヤは警部補の計らいで無事夫と別れ大学に進学する道が拓けます。バスに乗るジャヤをディーパクやプール、彼の仲間や家族が総出で見送ります。

予期せぬ出来事を通して全く新しい価値観と可能性を手にした2人の女性の未来に幸あれと拍手を送りたくなりました。

インドの広大な自然や色鮮やかなサリーに美しいジュエリーは目の保養に、パコラ(インド風天ぷら)、サモサ(揚げパイ)、カラカンド(ミルク菓子)といった屋台メシも美味しそうで、インドの魅力が詰まっていました。

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笑うマトリョーシカ

2024年09月15日 | 
早見 和真 (著) 文藝春秋(刊)

親しい人だけでなく、この国さえも操ろうとした、愚か者がいた。
四国・松山の名門高校に通う二人の青年の「友情と裏切り」の物語。
27歳の若さで代議士となった男は、周囲を魅了する輝きを放っていた。秘書となったもう一人の男は、彼を若き官房長官へと押し上げた。総理への階段を駆け上がるカリスマ政治家。
「この男が、もしも誰かの操り人形だったら?」
最初のインタビューでそう感じた女性記者は、隠された過去に迫る。(内容紹介より)


TVドラマを見て興味を持ち原作を読んでみたくなりましたが、手元に来た時はドラマは既に最終回を迎えていました。
ドラマの水川あさみ演じる道上香苗は、仕事優先が原因で離婚しており、息子は夫に引き取られていて、小料理屋を営む母と暮らしている設定。記者である父が事件絡みで殺されたのではという疑いから清家と関わっていく展開は原作には全くなく、完全オリジナルです。鈴木とBG事件の関係についても原作では掘り下げられていません。サスペンス要素が入るので視点は道上ベースでしたが、清家を操っているのは誰か?の関心は途中で答えがわかった気がして失速感がありました。

原作はといえば、こちらは4部構成になっています。
プロローグで、自叙伝の取材に来た道上を清家は凡庸と判断しようとしますが、彼女が最後に持ち出した彼の卒論についての質問で考えを改めることになります。

第1部では、清家一郎と鈴木俊哉が出会った高校時代が、第2部では大学時代の恋人との出会いと政治家として初当選するまでが鈴木と清家の視点から語られます。ここまでが過去の出来事ですね。

第3部で現代に戻ると、誰からか送られてきた清家の卒論がきっかけで彼に興味を持った道上が清家という人物を掘り下げていきます。また清家に切られた鈴木がこれまでの二人の関係について疑念を抱くようになります。そして第4部でいよいよ清家を操っていた人物が一堂に会するのですが、ここで新たな事実が浮かび上がるのです。母や祖母の過去、恋人の失踪に隠された秘密などはドラマも忠実になぞっていました。美和子の正体についてはけっこう衝撃的で、清家に捨てられた彼女が整形までして浩子に近づいた目的もわかってみれば「らしい」と納得。清家を操ろうとした者たちは皆、彼に切られるなどとは夢にも思っていなかった。客観的に見れば滑稽で哀れにも映りました。

エピローグで清家は再び道上を前に自らの思いを吐露します。ドラマで見せた桜井翔の演技を頭の中で再現しながら読むとまた違った怖さがありました。

自分が成し得ないだろう夢を清家を操り人形としてコントロールすることで果たそうとした鈴木や母の浩子、恋人の美和子・・・彼らの思惑通りに操られていたかに見えた清家の本当の顔が見えてきた時、マトリョーシカにこめられた彼の思いもまた明らかになります。
「見くびるな」という怒り・・・それもまた彼自身の本質なのか?そもそも彼自身が本当の自分を理解できずに苦しんでいるようにも見えました。

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スオミの話をしよう

2024年09月13日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年9月13日公開 114分

豪邸に暮らす著名な詩人・寒川(坂東彌十郎)の新妻・スオミ(長澤まさみ)が行方不明となった。豪邸を訪れた刑事の草野(西島秀俊)はスオミの元夫で、すぐにでも捜査を開始すべきだと主張するが、寒川は「大ごとにしたくない」と、その提案を拒否する。やがて、スオミを知る男たちが次々と屋敷にやってくる。誰が一番スオミを愛していたのか、誰が一番スオミに愛されていたのか。安否をそっちのけでスオミについて熱く語り合う男たち。しかし、男たちの口から語られるスオミはそれぞれがまったく違う性格の女性で……。(映画.comより)


三谷幸喜が5年ぶりに監督を手がけ、彼のオリジナル脚本で、突然失踪した女性について、彼女を知る5人の元夫たちと現夫が語るミステリーコメディ作品で、終始クスクス笑いが起きる楽しい映画でした。

「誰が一番スオミを愛していたのか」「誰が一番スオミに愛されていたのか」とスオミの安否そっちのけで熱く語り合う男たちが滑稽で可愛いの。😁 

最初の夫である庭師の魚山(遠藤憲一)は、スオミが中学生の時の体育教師で彼女が20歳になるのを待って結婚しました。2番目の夫は怪し気なユーチューバー・十勝(松坂桃李)で、3番目の夫は警察官・宇賀神(小林隆)。4番目が草野で5番目が寒川です。
予告CMで彼らがソファに一列に並んで十勝が「おっさん・イケメン~」と指摘していましたが、それ以外にスオミの好みの法則は浮かびませんね。

彼らの思い出の中のスオミは、見た目も性格もまるで別人です。(種明かしで見せるスオミ(長澤)の5人の夫へのそれぞれの対応の演じ分けが見事でした)
魚山に対してはツンデレに振る舞っていましたが、草野には気弱で従順な態度を見せていました。寒川は料理上手と言いましたが、草野の記憶にあるスオミは料理ができません。離婚後もスオミは夫たちと連絡を取っていました。失業した魚山を寒川に庭師として雇ってもらったのが彼女だったこと、料理上手な魚山が寒川家の食事や子供の弁当を作っていたことも判明します。

脅迫文が届き、3億という身代金要求の電話もかかってきて、いよいよ誘拐とわかっても、ケチな寒川は要求に応じようとしません。それを他の4人が説得して何とか金を用意し、犯人の要求通りにセスナに乗り込んで向かう中でもあれこれとスオミについて熱く語る面々です。身代金投入の際のシーンはまさに「ありえね~~」展開ですが、ここまで誇張してたら逆に「あり」かも😓 

しかし、寒川がケチって(魔がさして)お金を入れていなかったため、スオミは解放されません。
ここまできて、遅まきながら草野が真相に気付いたことから事件は一気に解決へとなだれ込んでいきます。

草野の部下・小磯(瀬戸康史)が癖の強い5人の夫たちに振り回されながらも奔走する姿は 狂言回しの役割かな。
寒川の世話係・乙骨(戸塚純真)の献身的だけどどこか不自然な動きや、スオミの親友・薊(宮澤エマ)が、ある時はインテリアコーディネーター、ある時はママ友と、スオミの行く先々に現れるのも終わってみればしっかり伏線になっていました。
ちなみに イタリアンレストランの店員役で三谷作品常連の梶原善も出演しています。彼が出て来るだけで笑いが・・

スオミは夫となった人の好みに合わせるようにキャラを作ってきましたが、やっと本来の自分のままで生きようと決めたってことですね😀 

エンディングのカーテンコールはブロードウェイ風ミュージカル仕立てで出演者が総出演しています。「ヘルシンキ」の作詞は監督自らが手がけていて、作曲は『ザ・マジックアワー』以降の三谷映画の音楽を担当する荻野清子。 ダンス未経験者が多い夫たちの微妙なずれ具合もご愛敬です。😀 

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銀花の蔵

2024年09月11日 | ドラマ
 遠田 潤子 (著) 新潮社(刊)

秘密を抱える旧家で育った少女が見つけた、古くて新しい家族のかたち。大阪万博に沸く日本。絵描きの父と料理上手の母と暮らしていた銀花は、父親の実家に一家で移り住むことになる。そこは、座敷童が出るという言い伝えの残る由緒ある醬油蔵の家だった。家族を襲う数々の苦難と一族の秘められた過去に対峙しながら、少女は大人になっていく―。圧倒的筆力で描き出す、感動の大河小説。(内容紹介より)


銀花の母・美乃里は美人で料理上手でしたが盗癖がありました。「手が勝手に動いてしまう」母の後始末は銀花の肩に重くのしかかります。
実家の醤油蔵を継ぐことになった父に連れられ移り住んだ先でも、厳しい祖母の多鶴子や父と年の離れた妹・桜子との関係に苦労することになります。

ある日、銀花が蔵の中で座敷童を見たことがきっかけで、自分が父と血の繋がりがないことが判明します。母が盗った杜氏の大原の帽子を返そうとした銀花は彼から盗人の疑いをかけられ、さらに友人のキーホルダー紛失も銀花の仕業と疑われてしまいます。

銀花の父・尚孝は家業を継いだものの絵描きの道を諦められずにいました。しかし彼の絵は世間に認められることはありませんでした。座敷童を見たものが当主の資格があるという言い伝えに振り回された彼は、ある夜杜氏の大原と共に川で溺死してしまいます。

盗癖があると噂され孤独な学校生活を送る銀花でしたが、桜子に連れて行かれた暴走族の集まりで、大原の息子の剛と出会います。自由奔放な桜子が家出した時も剛は助けてくれました。暗い目をした彼を恐れながらも惹かれていく銀花でしたが、やがて美乃里の万引きが元で彼は殺人を犯して少年院に送致されます。

多鶴子に将来を尋ねられた銀花は、尚孝との約束を思い出し、蔵を継ぎたいと申し出ます。初めは拒絶した多鶴子でしたが、銀花の強い思いに折れます。

病気に倒れた大原の妻が息子の将来を心配しながら亡くなると、銀花は剛を探しだして彼の母の願いを伝え、その後も手料理を持参して彼の元を訪れるようになります。しかし彼は銀花の想いを拒絶します。

盗癖が知られ、買い物禁止令を受けた美乃里は家事の他に家業の雑務を手伝うようになりましたが、ある年の夏、風邪が悪化して亡くなってしまいます。

想いを断ち切れずに剛の元を訪れた銀花に、剛は隠していたことを告白します。昔、銀花が見た座敷童は、尚孝に当主を継がせるために大原が息子に扮装させたものでしたが、失敗したこと。それが原因で彼と父親が不仲になったこと。尚孝に座敷童の正体が自分だと告白した夜、尚孝と父が溺死したこと・・・
殺人者となった自分は相応しくないと話す彼に、銀花は自分の出自(売春婦だった母が客との間にできた子供)を告げた上で、共に生きたいと言い切ります。また剛の話を聞いた銀花は父と大原の死は事故だったと確信します。

多鶴子を説得し結婚した二人でしたが、子供はできませんでした。
数年後、突然桜子が3才の双子(晃と聖子)を置いて行き、二人は我が子のように育てます。銀花は親となって初めて両親の気持ちを理解していきます。
剛から美乃里の盗癖は窃盗病 という病気だったのではないかと言われた時、銀花と多鶴子は初めて美乃里の苦しみに気付きます。

双子と養子縁組をすることになった時、多鶴子は銀花夫婦も自分の養子とします。多鶴子が病を得て最期を迎える際、彼女は銀花夫婦に過去に犯した過ちを告白します。父親が他所で産ませた男の子を引き取ったことが発端となり、自分が唆したせいで柿の木から落ちたその子の息の根止めたのが母親でした。昔のことですから、神隠しにあったということで事件にはならず、その秘密を抱えて生きて来た多鶴子もまた母親への憎しみを抱えていました。柿を食べてはいけないというのも、座敷童の言い伝えを捏造 したのも多鶴子の罪悪感からでした。更に彼女は恋人と引き裂かれて婿養子を取らされたことで、産まれた男の子(尚孝)に愛情を持てずに育てたことを悔やんでいました。

桜子はその恋人と再会して出来た子であり、桜子自身が中学生の頃に本当の父親から真実を聞かされていたことも明かされています。それを知った銀花は桜子が自分に辛くあたったのは羨ましく嫉妬したからだと気付きます。

やがて双子は成長し、聖子は晃の友人のロシア人サーシャと結婚して家業と継ぎ、彼らの間に双子が生まれます。作中で尚孝が愛聴していた仲雅美が歌う「ポーリュシカ・ポーレ」はロシアの曲で、かの地に憧れていた父を懐かしく思う銀花でした。

老朽化した蔵を改装した際に出てきた木箱に入っていたのは子供の遺体でした。銀花は「この家の守り神」と言い「やっと会えた。あなたこんなところにいたんだね」と心の中で呼びかけました。

登場人物全てが秘密を抱えているというけっこうヘビーな設定ですが、例え血が繋がっていなくても愛情は持てるし、血の繋がった関係でも憎しみは生まれるのよね。子育てを醤油作りに例えているのが面白かったです。

1968年から始まる物語はその時代時代の出来事や流行った玩具などを散りばめながら進んでいきます。大阪万博、阪神淡路大震災身近に感じたもの、自分と無縁だったことなども含めてただただ懐かしい気持ちになりました。

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境界線

2024年09月01日 | 
中山 七里 (著)  NHK出版 

2018年5月某日、気仙沼市南町の海岸で、女性の変死体が発見された。女性の遺留品の身分証から、遺体は宮城県警捜査一課警部・笘篠誠一郎の妻だったことがわかる。笘篠の妻は7年前の東日本大震災で津波によって流され、行方不明のままだった。遺体の様子から、妻と思われる女性はその前夜まで生きていたという。なぜ妻は自分のもとへ戻ってこなかったのか――笘篠はさまざまな疑問を胸に身元確認のため現場へ急行するが、そこで目にしたのはまったくの別人の遺体だった。
妻の身元が騙られ、身元が誰かの手によって流出していた……やり場のない怒りを抱えながら捜査を続ける笘篠。その経緯をたどり続けるもなかなか進展がない。そのような中、宮城県警に新たな他殺体発見の一報が入る。果たしてこのふたつの事件の関連性はあるのか? そして、笘篠の妻の身元はなぜ騙られたのか――。(内容紹介より)


震災に奪われたものと残されたものの痕跡を描いた、『護られなかった者たちへ 』に続く宮城県警シリーズ第二弾です。
事件を扱ったミステリーではありますが、殺人事件の謎解きの醍醐味を味わうというより、根底にあるのは東日本大震災を経験したことで人生が変わった人たちに焦点を当てた話になっていました。

刑事の笘篠は、妻子が震災で行方不明となっています。あの日、妻と喧嘩して家を出たのが最後だったことに後悔と心残りがあり、失踪宣言を出せずにいた彼の元に入ったのは妻の身分証を持った遺体発見の知らせでした。しかしそれは全くの別人だったのです。遺体は自殺と判断され事件性は見当たらなかったのですが、妻の身元が誰かの手で流出し騙られていたことに、妻を冒涜されたというやり場のない怒りを持った笘篠はその経緯を知ろうと動き出します。

そんな中、新たな他殺体発見の一報が入ります。遺体は男性で顎を砕かれ両手の指を切断されていました。彼もまた震災の行方不明者の戸籍を使っていたことがわかります。本物の身元が判明すると、二人とも消したい過去の持ち主でした。

妻の名前を騙っていた女性は肉親が犯罪者だったために、殺された男性は自分の犯罪歴を隠すために別の名前が必要だったのです。
女性の自殺の動機も推察されます。生きるためにデリヘルをしていた彼女は、客として再会した同級生からの屈辱に傷ついて死を選んだようでした。しかし彼女は過去にその男性を苛めていたことも語られ、被害者とか加害者とか単純に色分けできないんですね。
自身が犯罪者だった殺された男性は、家庭環境に問題があったようですが、だからといって純然たる被害者とも言えないことが後に明らかになってきます。

笘篠は何者かが震災で失踪届が出ていない人間の戸籍を売買していると疑い、名簿屋ビジネスを行う五代を訪ねます。彼は『護られなかった者たちへ』にも登場している利根のムショ仲間で、その過去が別軸で語られていきます。
底辺の高校に通い、カツアゲなどの犯罪行為に手を染めていた五代に出来た聡明な友の存在が、末は暴力団で野垂れ死ぬしかないと絶望していた彼を変えました。

しかしその友はあの震災で両親を亡くし、目の前で流されていく子供を救うことができなかったという現実を前に心が壊れてしまいます。「善人だろうが悪党だろうが死んでしまえばただの物体」と呟いた言葉がその虚無感を表していました。

物語の中で、震災当時の描写が生々しく迫ってきます。
その中で特異なのは、塀(刑務所)の中と外の対比です。黒い濁流に呑まれ命を落としたり、避難所で寒さと食べるものにも困っている善良な市井の人々がいた一方、頑強な作りの刑務所の中で食べ物に困ることもなく生活できた囚人たち。でも囚人にも家や家族があり、何もできないままTV画面を凝視するしかなかった・・・。
生き残った人たちの中にも、家や家族を亡くした者と被害が無かった者がいます。そしてどちらもそのことでやはり深い傷を心に負っているのです。

事件の真相は、役所から破棄依頼されたハードディスクを売り捌いた下請けの従業員から震災の行方不明者のデータを買った犯人が、戸籍を買った被害者に逆に恐喝されて犯行に及んだということなのですが、犯行は偶発的な者でしたが、犯人の思考はある意味とても冷静でそれでいて大きな欠落を感じさせます。
ちなみに五代は金融関係のデータを買っていました。

震災により引かれてしまった様々な境界線が複雑に交差する物語でした。

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薬屋のひとりごと 12

2024年08月30日 | 
日向夏(著)しのとうこ(イラスト) ヒーロー文庫

玉鶯は、蝗害は異民族のせいで起きたと憤る民を鎮める名目で、砂欧に戦争を仕掛けようとしていた。壬氏は戦を避けようと頭を悩ませていたが、玉鶯の暗殺という思わぬ形で戦を回避することになる。しかし、領主代行を失った西都の舵を取る者がいない。壬氏は、いやいやながら西都の政務を執ることになった。猫猫は、心身ともに疲弊する壬氏を気遣いながら、怪我人や病人を診る日々を送っていた。そんなある日、壬氏は、領主代行だった玉鶯の息子たちを、西都のために後継者として政治を教え、育成してほしいと頼まれる。しかし、玉鶯の長男・鴟梟はどうしようもない無頼漢であった。他の二人も後継者教育を受けたことなどないことがわかり、猫猫は頭を抱えてしまう・・・(内容紹介より)

・序話
・一話 本邸の我が儘坊
・二話 温室と礼拝堂
・三話 玉鶯の子どもたち
・四話 深窓の奥方
・五話 三男次男長男
・六話 葡萄酒醸造所
・七話 遺産問題
・八話 俊杰
・九話 異国娘
・十話 急患と緊急事態
・十一話 南の宿場町
・十二話 理人国
・十三話 鏢師
・十四話 変装
・十五話 優先順位
・十六話 噓つき
・十七話 信仰の町
・十八話 盗賊の根城
・十九、二十話 盗賊村前後編
・二十一話 酌
・二十二話 事の顛末
・二十三話 帰路
・二十四話 手負いの獣
・二十五話 醜い雀の子
・二十六話 夫婦
・二十七話 師弟
・二十八話 安眠
・二十九話 折衷案
・三十話 成長
・終話

相変わらず序話の人物が誰なのかは後半にならないとわからず、それが判明する頃には物語も大きな転機を迎えます。

鴟梟の息子・玉隼がやぶ医者に怪我をさせ、母親に連れられて謝罪に来ますが、本人は全く反省していません。いかにも甘やかされて育った感丸出しの彼が後々まで猫猫を困らせることになるのね。😓 

温室を巡る庭師と猫猫の丁々発止の衝突とその結末も描かれます。礼拝堂で雀から異教の祈りの言葉を教わるのですが、後に猫猫を助ける大きな伏線になっていました。
玉鶯の三男・楊虎狼が月の君の下で働くことになったと挨拶にきます。謙虚で礼儀正しい彼に好感を抱く一同。彼は末っ子で他の兄弟とは少し年が離れています。やぶ医者情報で、兄妹の母親が異国に滞在して帰国後は目立たない存在になっていることが語られます。

玉鶯の孫娘・小紅(ストレスで髪の毛を食べていた子)の術後の診察に訪れた猫猫は、玉隼が小紅を苛めている現場に遭遇します。この時の長女(小紅の母)、三男、彼らの母の対応の違いが示されます。

久しぶりに本邸にやってきた長男・鴟梟が息子の言を信じて猫猫に詰め寄りますが、虎狼が仲裁し事なきを得ます。
長男は父親に似ていますが、陸孫の下についている次男の飛龍と虎狼はあまり似ていないようです。

壬氏から頼まれ葡萄酒の醸造所で起きた食中毒事件を見事に解決する猫猫。人を下戸にする茸を自ら実験台となってその効果を実証する彼女は実に生き生きとしてました。壬氏に報告に行った彼女は玉鶯の遺産問題の愚痴を聞かされます。😌 
 
医務室にやってきた羅半兄が収穫した芋について不満を示す中で、芽や緑色の皮に含まれる毒の話をします。これも後に猫猫が窮地を脱するヒントになっていました。小姓の俊杰が自己紹介をした際にみせた羅半兄の動揺は、彼の本名の大きなヒントになっているような。
虎狼の依頼で、往診に出かけた猫猫は患者の頭痛の原因が虫歯だと気付きます。身体にを触れさせず、問診だけで見抜くとは流石!!この時、雀は夫の馬良を同行しますが、その理由は彼の鋭い観察眼にあったよう。
患者は白金の髪と青い目の異国人でしたが、馬良は理人国の王族の四男の可能性を指摘します。だから身体に触れさせなかったのか~~!😌 

雀から収穫量の計算の仕事を依頼された猫猫でしたが、小紅の来訪で事態が思わぬ方向へ。彼女に案内された隠し通路で、毒矢で襲われた鴟梟が傷を抉り出して負傷しているのを見つけて処置をしますが、そこに雀が現れ、またまた連れ去られることに。

異国の言葉と潮の香りで、自分たちが南の宿場町にいることを推測した猫猫に、鴟梟は雀とは戌西州の平和に関して利害関係で結ばれていると話します。

壬氏は陸孫と飛龍から、理人国の使者との面会を求められます。茘に行方不明になっている自国の貴族(第四王子)の捜索協力を求める理人国の特使たちですが、それは猫猫が治療した彼女(彼)であると推察され、さらに事件の関与が疑われる鴟梟を猫猫が治療した報告も届いて対応に苦慮することになります。😖 

鴟梟は子供たちに優しく接し、特に小紅は彼に懐いています。どうも雀から聞いた話とは異なる人物像に疑問を抱く猫猫。
解放されると聞かされホッとしたのも束の間、事態が変わって女鏢師と別の場所へ移動させられることになる猫猫と子供たち。女鏢師は巧みな化粧で猫猫の年齢と容姿を誤魔化して良家の母子に化けた一行。小紅から隠し通路は「ふーらんおじさん」=虎狼から教えられたと聞いた猫猫は虎狼が鴟梟襲撃に深く関わっていることに気付きます。

女鏢師から戌西州第二の都市に向かう母子という設定を説明され、まだ西都に戻すタイミングでないが、それまで彼らを守ると言われた猫猫。自分の命を最優先にするよう蛇毒や針も渡されます。

一方、壬氏は鴟梟を尻尾切りする場合、猫猫をどう守るか悩みます。内部の裏切り者が虎狼だと発覚したきっかけが 羅漢です。父ちゃん、やっと活躍だ!虎狼の次の行動は常軌を逸していますが、それこそが謎を解くヒントなんですね。
壬氏は鴟梟と協力して第四王子を探すことを決め羅漢に同行を求めます。

森林地帯の町の手前で盗賊に襲われた猫猫は、玉隼を護衛に託して逃がし、機転を利かせて雀から教わった異国の教典の一節を引用し窮地を脱します。
盗賊に支配された信仰の町に連れて行かれた猫猫と小紅は、盗賊の頭領・独眼竜が、手配書にある異国のお嬢様を探していることに気付きます。小紅が間違えられそうになりますが、疑いが晴れると女子供が集められた場所で炊事の手伝いをさせられます。
独眼竜は、過去に鴟梟とのいざこざの恨みから町を制圧し、多くの住民に犠牲が出ていました。その選別は異教徒かどうかで、信者を装った猫猫が助かった理由です。
猫猫は町に出かけたまま行方知らずとなった女鏢師を気にかけつつ、以前この町に羅半兄が農耕指導に訪れていたことを知ります。

薬師をであること明かした猫猫は、炊事場を取り仕切る中年女から、独眼竜に虐待された少年の治療を頼まれます。捕まった時に着ていた服を返してもらった猫猫は、袖に隠された雀の刺繍と異国語のメッセージに気付き、一計を案じます。
夕食の酌を利用し馬鈴薯の皮と芽を混ぜた食事で盗賊たちの体調を崩し、蛇毒を入れた馬乳酒を呑んだ独眼竜は、口内の傷(少年の虐待の原因)から毒が回ります。事態に気付いた盗賊たちに追い詰められ絶体絶命の猫猫を救ったのは鴟梟と鏢師たちです。
鏢局を継いだ 鴟梟が、異国の要人の護送任務に関わったことで猫猫と小紅が巻き込まれたのね。女鏢師の正体が雀と知って驚く猫猫。だって容姿も身長もまるで別人だもの。でも笑い方は雀だ~!雀は猫猫たちの身の安全をちゃんと確保していたわけです。
帰路、独眼竜(熊男)の処置に不安を覚える雀の予感は的中し、逃げ出した熊男が猫猫を恨んで襲ってきます。雀が間一髪で熊男を倒すのですが、右腕に重傷を負います。彼女の体には過去の戦いの傷跡が無数に残っていました。猫猫は彼女の命を救うために全力を尽くします。

雀は幼い頃に母が突然いなくなり、母を探しに行った父も帰らず、財産を奪われて孤児になります。生き残るための厳しい生活の末、西都で母を探し出しますが、自分が母にとって「不要な存在」だと知り、彼女を捕まえた男に自分の能力をアピールして彼に拾われたのでした。
母から『馬の一族』(皇族の護衛)と『巳の一族』(諜報活動)の関係を教えられ雀と結婚させられた馬良ですが、彼女の明るさや献身に次第に心を許していきました。
重傷を負い横たわる妻への愛情を再確認し、一緒にいることを選んだ二人の絆はより深くなりました。😍 

驚いたのは、雀を巳の一族に引き込んだ男が魯侍郎だったことです。(重傷を負った彼女への評価は依然高いようです。)
雀の母の正体が玉鶯の妻でしかも巳の一族だったというのも驚愕!
雀は自分を不要の者と切り捨てた母より高い序列にいることを望んでいて一種の復讐なのね。
また彼女は「月の君を幸せにする」という命令を受けています。猫猫を守ることが彼女にとって正しい選択だったのです。

疲労困憊の猫猫の足は何故か壬氏の執務室へ向かいます。執務室の床に横たわり壬氏の体温と安心感に包まれて熟睡する猫猫と壬氏。ここで何も起こらないのがいかにもな二人ですね。😁 

気力が回復した壬氏は、虎狼、鴟梟と向き合い西都の今後を話し合います。虎狼の提案(壬氏が治める)に対し、雀は鴟梟が西都を象徴する「あやつり人形」となる折衷案を提示します。

鴟梟が本邸に戻り、傀儡(武生としての役割を果たす)として働き始め、食糧問題にも多少の目途が立ったことで、ようやく中央に帰る日が訪れます。
羅半兄にそれを伝えようとした猫猫でしたが、玉隼と小紅のやり取りに気を取られ失念してしまいます。おいおい、それってまさか・・・
小紅が玉隼を半眼で睨み果敢に言い返す姿は彼女の成長を感じますね~。それってまさしく猫猫の影響ですよね。😁 

中央へ戻る船旅の途中。乗り合わせた変人軍師が船酔いで苦しむ姿をしり目に見張り台に上った猫猫はそこに壬氏の姿を見つけます。狭い空間に座り手を繋ぐ二人。軽い接吻の後の会話はこれまでと少し変わってきたような。💛
でもここで終わらないのが羅半兄のネタです。
猫猫が伝え忘れたことだけじゃないらしいが、どこまでも不運な羅半兄というオチがついていました。😁 

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新装版 遠野物語

2024年08月26日 | 
柳田 國男 (著), 谷川 健一 (解説) 大和書房(発行)

日本民俗学の原点となった「遠野物語」を完全再録。民俗学の基本語を説く補注から、詳密な検索に耐えられる索引、柳田文学を追求した解説のほか、遠野の原風景を切り取った口絵写真も収録する。(作品紹介より)


ちょっと選択間違えたな~😓 というのが正直な感想。
学術書ではなく、「昔っこ」としての物語を期待していたのでね😅 

「遠野物語」は柳田国男が遠野出身の民話蒐集家 ・佐々木喜善から伝え聞いた民話に、現地での見聞・調査による補完を加えて 明治43年に発表した説話集です。
田村将軍征討の時代から 日露戦争の頃まで、遠野の人々が自然と深く共生して暮らしてきた記録書でもあります。

遠野を取り囲む遠野三山は、女神が3人の娘に分け与えたものと伝えられ、戦前まで女人禁制の霊験あらたかな山々でした。黄昏時に子女が忽然と消える「神隠し」(今なら誘拐や遭難と考えられますね)を人々は「山人」の存在と関連付けていました。

家や土地の神への信仰も根付いていて、旧家に祀ると幸運がやってくるという「オクナイサマ」や「オシラサマ」、子宝の神「コンセサマ」(男性器を模った精神 )、繁栄をもたらす「ザシキワラシ」などの神々が祀られていました。

沼や川、里山、狼や熊などの獣といった自然にまつわる伝承も多く収められています。また天狗や河童といった妖怪についても触れられており、「マヨヒガ(迷い家)」(家の物を持ち帰った遭難者に富をもたらす。)の伝説や、「オシラサマ」(馬と夫婦になった娘を許せず、馬の首を切り落としたら、娘がその首と天に昇り神になった)の成り立ちについても記録されています。
臨死体験をした男の話や、母殺し(姥捨て山の風習も含む)の話、山姥など、内容は多岐に渡っています。

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ラストマイル

2024年08月23日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年8月23日公開 128分 G

11 月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、
世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく――。巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか?残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか?決して止めることのできない現代社会の生命線 ―
世界に張り巡らされたこの血管を止めずに、いかにして、連続爆破を止めることができるのか?すべての謎が解き明かされるとき、この世界の隠された姿が浮かび上がる。(公式HPより)


テレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の監督・塚原あゆ子と脚本家・野木亜紀子が再タッグを組み、両シリーズと同じ世界線で起きた連続爆破事件の行方を描いたサスペンス映画だということは知らずに観ていて「あ!久部君(窪田正孝)だ~!」と思わず心の中でガッツポーズ😁 両ドラマの主要キャストが勢揃いで、ドラマを見ていた人には二重三重のお楽しみです。
また主題歌も「アンナチュラル」「MIU404」に続き米津玄師が担当しています。

DAILY FASTの巨大物流倉庫で働くのは、10名に満たない社員と1000人近い派遣社員。彼らはノルマとタイムスケジュールにより機械的に管理されています。
商品配送を受け持つ羊急便はその60%をDAILY FASTに依存しているため無理難題に文句を言えず、そのしわ寄せは業務委託する個人事業主にいきます。安い単価の配送を強いられ、しかも受け取ってもらえない場合は報酬をもらえないの。まさしく社会的搾取構造が事件の背景にありました。

爆破事件の捜査を担当する刑事は『アンナチュラル』の毛利(大倉孝二)と『MIU404』の刈谷(酒向芳)で、初動捜査を伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)が担当します。
最初の事件の被害者の死体が運ばれたのは三澄ミコト(石原さとみ)、中堂系(井浦新)、東海林夕子(市川実日子)、坂本誠(飯尾和樹)、神蔵保夫(松重豊)らが働くUDIラボです。中堂の「クソ」発言に突っ込む坂本というネタもしっかり盛り込まれファン心をくすぐります。フォレスト葬儀社の木林(竜星涼)も登場しています。
解剖をしたミコトは被害者の死体が男性ではなく女性であることに気付きます。

5年前。
センター長だった山崎(中村)は過労で精神を病み、「ブラックフライデー」(最大の繁忙期)を前に ベルトコンベアに飛び降りて久部が研修医として働いている東央医大に運ばれました。意識を取り戻した山崎は、傍にいた九部に「馬鹿なことをした」と呟きました。

彼のロッカーに書かれていた「2.7m/s → 0  70kg」という数字は、ベルトコンベアーを止めるために導きだされたものでした。「2.7m/s」はベルトコンベアーの速度で、「70kg」はベルトコンベアーの制限重量を指し、「0」がコンベアーの停止を意味するのね。体重70kgの山崎がコンベアーに乗ることで作業を止めようとしたわけです。まさに追い詰められた者の最後の抵抗といったところでしょうか。
しかし彼が飛び降りたことで停止したのは僅かな間で、異変に気付いた上司の五十嵐(ディーン・フジオカ)により即座に再開されてしまいます。
山崎の父親が会社の責任追及を相談されていたのが弁護士の三澄夏代(薬師丸ひろ子)でした。現在も意識不明で入院している彼を、会社は単なる落下事件として処理していました。

事件の初動捜査で山崎が浮かび上がり、彼の部屋を捜索した伊吹と志摩 は、彼の恋人の筧まりかの存在に気付きます。(伊吹の勘ね😁
会社側の非を認めようとしない姿勢に怒った彼女は、配送代行システムを利用して爆弾を仕掛けるという復讐を思い立ちます。といってもイマイチわからなかったのですがこういうことらしい😓 

ブラックフライデー前に購入したセール品(目玉商品)に爆弾を仕掛け配送代行商品として物流センターに持ち込んだ上でスタッフ(契約社員)として潜り込んでいた彼女が倉庫で爆弾入りの箱の配送代行商品ラベルを剥がして一般のセール品を装い購入者に配送される・・・センターの仕組みを熟知した上での計画です。😖 

連続爆弾事件の犯人が筧と判明した時には既に彼女は自殺していました。最初の爆破事件の被害者が実は筧だったのです。ミコトが気付いたあの死体ですね。

山崎と同じように過酷な労働下で精神を病んだ過去があるエレナは、彼の意図(あの数字の意味)が物流センターの稼働を止めることにあったと気付きます。エレナは羊急便の関東局局長(阿部サダヲ)に話しを持ち掛け、ストライキを起こさせると同時にセンターの稼働を停止させシステムを停止させるという行動に出ます。その結果、委託ドライバーの単価が150円から170円にアップします。僅かな額ですがそれでもちり積もで少しだけですが彼らの苦労が報われます。エレナは退職し梨本がセンター長に就任しました。 

「ラストマイル」は「荷物を顧客に届ける最後の区間」を意味する物流サービス用語だそう。そこを受け持つ配達ドライバーとして登場するのが佐野昭(火野正平)、亘(宇野祥平)親子です。息子は勤め先の会社が倒産して父の元で見習いをしていますが、最後の爆弾を届けたのが彼らで、二人の子どもを持つシングルマザーの松本( 安藤玉恵)宅に運ばれた荷物は、子どもたちが母への感謝の気持ちを込めて贈ったものでした。その荷物に爆弾が仕掛けられていたというのが何とも哀しい。急報を受け、咄嗟に洗濯機の中に荷物を投げ入れて爆発から守ったのがこの息子です。その洗濯機が彼の勤め先だった会社の製品というところに、淘汰される側の矜持を感じさせました。また、佐野父の荷物を待っている人たちにきちんと届けたいという使命感も強く表現されていました。

筧が利益追求に走るDAILY FASTに復讐したい気持ちはわかる気もします。不特定多数の一般人を標的にしたのは許せないけれど、彼女の行動は安さや便利さを求める私たち消費者が物流業界の歪みを生み出していることへの強烈なアンチテーゼなのかもとも思いました。

主要キャストではありませんが、ドラマ2作品で登場したキャラのその後が描かれているのもドラマファン心をくすぐります。
「アンナチュラル」7話登場の白井(望月歩)・・自殺した友人への苛めを明らかにさせて自殺を試みた高校生・・がバイク便のドライバーとして、久部の元へメディカル便を届けています。また、「MIU404」3話の勝俣奏太(前田旺志郎)・・上級生のドラッグ事件で廃部に追い込まれた陸上部員・・は4機捜のメンバーで陣馬(橋本じゅん)の相棒になっていました。どちらもちゃんと更生して前向きに生きてるのが好感持てます。

どちらかというと弱者である下請けに注目してしまい、主役二人、特に梨本の影が薄く感じられました。エレナが山崎のデータを消すシーンがあり、彼女が犯人?とミスリードされそうになりました。彼女が送り込まれた理由ももやもやが残りました。

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