杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

膠着 スナマチ株式会社奮闘記

2025年02月28日 | 
今野敏(著) 中公文庫

老舗の糊メーカー・スナマチ株式会社は創業以来の大ピンチ。社運をかけて新製品開発を行うも、できあがったのはなんと“くっつかない糊”!? そんなもの売れるのかと頭を抱える新入社員の啓太と、「俺に売れない物はない」と豪語するベテラン社員の本庄。窮地に陥った会社を救うべく、ふたりの営業マンの闘いが始まった! 今野敏が贈る、ユーモアたっぷりのサラリーマン応援小説。(出版社内容紹介より)


三流私大出の丸橋啓太はニ十社近く会社訪問をし、十社ほどの試験を受け、ようやくこの会社に入社できた新人君ですが、営業部に配属早々、量販店マルコウの注文を一桁多く間違えて発注してしまう大ポカをやらかします。ところが先輩営業マンで啓太の指導係の立場の本庄は、マルコウの仕入れ担当者に売り方の戦略アドバイスをして啓太のミスを売り上げに変えてしまいます。
接着剤を木材や模型、手芸売り場にも置けば利用客も増えるというアイディアが実は本庄の口から出まかせだったのだから呆れるやら感心するやらで俄然物語に引き込まれていきました。

啓太が外資系企業にTOB(公開株式買付)で会社が買収されるという噂を耳にした頃、先輩社員の真奈美が急接近してきます。ときめいたのも束の間、本庄に連れられ参加した新プロジェクトで明かされたのは社運をかけた新製品開発が失敗したとの報告でした。「接着できない接着剤」ができてしまった というのです。メンバーには失敗を隠して打開策を見つけるという難問が課されますが、誰も上手い解決策を見つけられないまま時間が過ぎていきます。

絶妙のタイミングでTOBの情報が流れ、会社やプロジェクトチームの中にスパイがいるのではという疑心暗鬼に陥る流れの中、本庄と真奈美のどちらかがスパイかもと板挟みになる啓太。真奈美が専務の愛人だと誤解する一幕もありましたが、結局二人とも会社を守ろうとしていたことがわかります。社長の息子の常務と専務の間の確執も匂わせていましたが、これも方針の違いからということで、両者とも買収を防ごうと動いていたわけです。

開発者の野毛が「科学の常識の中で生きている」ちょっとずれた感じは、専門用語が多用される説明部分で示され、入社まもないど素人の啓太が半分も理解できない感覚も共感できました。

その門外漢である啓太の閃きが「接着できない接着剤」の使い道を見つけます。固まらず・熱に強く・断熱性がないという特徴は、シリコングラス(PCのCPUにファンクーラーを取り付ける時に使用する接着剤)に使えるのではというアイディアが採用され、糊会社が異業種の新事業に乗り出すことが話題となったことで株価も上がり、外資企業のTOB断念に繋がっていきます。
スパイ疑惑の方も、開発部長が犯人と判明し一件落着です。

営業マンとして独り立ちした初日、啓太はマルコウで新製品の注文を取ります。担当者は本庄の陳列アドバイスを受け容れ売り上げが伸びたことで自らもどうやったら良いか考えるようになっていました。固定観念に囚われていたら成長しないんだなぁと彼の姿勢に好感を持ちました。

啓太と清掃員姿のおじいさんのエピソードはその正体についてはすぐに推察できましたが、「糊、好きかい?」と最初聞かれた時は「よくわかりません」と答えた彼が二度目(もう社長だと気付いています)には「はい。好きです。」と言い切っています。
最初はどうにか受かった会社だからという消極的な気持ちだった啓太が、ミスや買収騒ぎの中で社会人として成長し、会社のことを好きになっていく様子が心地よかったな。大学は三流でも啓太自身は状況を分析したり見極めることのできる素頭の良い子だったというわけね。😁 




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闘う君の唄を

2025年02月24日 | 
中山七里(著)朝日新聞出版

新任教諭として、埼玉県秩父郡の神室幼稚園に赴任した喜多嶋凛。モンスターペアレンツたちの要求を果敢に退け、自らの理想とする教育を実践するのだが……。どんでん返しの帝王が仕掛ける物語は、いったいどこへ向かうのか?読者の予想を裏切る著者の真骨頂!

【目次】
一. 闘いの出場通知を抱きしめて
二. こぶしの中 爪が突き刺さる
三. 勝つか負けるか それはわからない
四. 私の敵は私です
五. 冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ

タイトルに惹かれて手にしましたが、あとがきに中島みゆきさんの「ファイト!」から構想を得たとありました。だよね~😀 

冒頭の電車内で泣き叫ぶ赤ちゃんをよそにスマホをいじっている母親に注意する凛の描写は、続編のヒロインにも踏襲されていたと気付きました。😁 そっちを先に読んじゃったので事件の真犯人もわかっちゃってるんだけど💦

凛が勤めることになった幼稚園は埼玉県秩父郡の神室駅からバスで20分程の神室幼稚園です。 実はこの幼稚園では、15年前に3人の園児が殺害される事件が起き、職員の中で当時を知るのは園長の京塚正彦だけです。逮捕された送迎バスの運転手・上条卓也は死刑確定後に獄死していたと後に明かされます。

凜は年少の星組の担任になります。指導役は年中組の高梨まりかで、年少月組の担任は神尾舞子、年長組は池波智樹です。(舞子と池波は続編に登場しますが、本作の舞子先生は終始冷静沈着で人間味に欠けるキャラながら、凛が四面楚歌となった時にただ一人「普通」に接していました。)
理想に燃える凛でしたが、この園では15年前の事件以来、保護者会の力が強く園長も言いなりの現実に直面します。

凜は保護者の会長・見城真城らと何度も衝突をしながらも、牧場で牛と触れ合いながら命の尊さを教えたり、保護者会から押し付けられた劇の演目は変えずに大胆な脚本で園児や保護者が楽しめる内容を考えたりといった慣例を覆す授業や型破りな指導で少しずつ周りの信頼を得ていきます。

ところが、埼玉県警捜査一課の渡瀬刑事の出現により、再び15年前の事件が人々の記憶に呼び起こされます。
更に新入園児の保護者説明会に来ていた凛の小学校の同級生だった横山美穂により、凛が15年前の事件の犯人・上条卓也の娘だと暴露され、保護者や同僚から糾弾され
園長からは自主退職を迫られます。
辞めないと申し出た凛に、園長は副担任として仕事を続けさせますが、園児との会話も禁じられ精神的・肉体的に追い詰められていきます。

3月に入り、雨で午前中に全ての園児を退園させたある日、凛のクラスの菅沼大河が帰宅していないと連絡が入ります。
以前、大河ら数人の園児たちが自宅マンションの裏山でツキノワグマの子供にエサをあげていたことを思い出した凛は、豪雨の中を探し回ります。山の中の掘っ立て小屋を見つけ中を覗いた凛はそこに渡瀬刑事がいて驚愕します。ヤクザと見紛う面相の渡瀬がいきなり現れたらそりゃ驚くよな~~😁 凛の読み通り大河もそこにいました。

小屋の地下収納庫には血液が付着した鎌とロープがありました。渡瀬は15年前の事件の真犯人の証拠を探していたのです。鑑識により血痕が15年前に殺害された園児のものと一致します。小屋と土地の所有者は園長で、身柄は駆け付けた秩父署の刑事たちに引き渡されます。

凛が幼稚園教諭になろうと思ったのは、亡くなった3人の園児のためであり、父親の犯した罪への贖罪の気持ちがあったからでもあります。神室幼稚園に決まったのは偶然でしたが、彼女にとっては必然でもあったのです。
渡瀬は、再審請求までの道のりの険しさに言及し、凛が置かれている厳しい状況も変わらないことから転職や離職をアドバイスしますが、凛はもう逃げないと答えます。
受け持ちクラスの園児たちが一斉に見つめるその顔に希望と勇気をもらう凛です。

凛の父親は過って轢き殺してしまった園児の遺体を隠そうとして現行犯で捕まっています。保身の行為が身に覚えのない2件の殺人の犯人にされる悲運に繋がりました。
幼児性愛者の園長がこれ幸いと自分の罪をなすりつけ、平然としていたその鉄面皮には呆れを通り越してうすら寒い気がします。

それにもまして、世間というバッシングの描写の過酷さに辟易させられます。被害者遺族も加害者遺族も永遠に癒えることのない傷を受け続けなければならないどんな理由があるというのか。😡 

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薬屋のひとりごと 14

2025年02月23日 | 
日向夏(著)しおとうこ(イラスト) ヒーロー文庫

中央に戻り、外廷の医務室勤務になって医官たちの仕事を手伝う猫猫。
後輩もでき、新しい部署にも慣れていく。
しかし猫猫たちが不在の間に、宮廷では妙な派閥争いが起きつつあった。
正しき血統を維持しようとする皇太后派と、新しき流れを作ろうとする皇后派。安氏と玉葉の意思とは裏腹に、周りは次第にきな臭くなっていき、特に若い武官たちの間では、傷害沙汰が繰り返されていた。
そんな中、猫猫は姚に頼まれて「名持ち」の一族の会合に参加することになるのだった。(内容紹介より)


皇帝によって一族を表す『名』を与えられた「名持ち」の者たち。時は流れ、滅族滅となった一族もあれば、新たに起こる一族もある。
そして、元上級妃である里樹の実家、卯の一族は衰退しつつあった。
名持ちの会合で猫猫は卯の一族とかつて親交があった辰の一族と対面する。
辰の一族がかつて皇帝より賜りし家宝を探すために――。
また、花街でも女華が持つ玉牌が何者かに狙われる。辰の家宝、翡翠牌、華佗の書。皇族の末裔の謎に絡む陰謀!馬閃、そして羅半兄の恋の行方は?時代の移ろいに翻弄される猫猫たち。錯綜する思惑の中、猫猫は真実を見抜けるだろうか。(イントロダクションより)

一・二話 名持ちの会合 前後編
三話 辰の家宝
四話 兎と龍
五話 心に響く銅鑼
六話 馬と兎

燕燕に植物図録で釣られた猫猫が連れて行かれたのは丑の別邸で行われる 「名持ちの会」一応猫猫は羅のお嬢様ですもんね。羅漢・羅半兄・羅半も参加。姚と燕燕 は随行です。5年に一度の開催で、羅の一族の参加は15年ぶり。一族の長と若者の組み合わせは見合いや後継者の顔見世、コネ作りや商売の意味合いもあり密室も完備されているという😁 
娘を溺愛する羅漢が猫猫に贈った簪は超悪趣味なものでしたが、謎解きの重要なアイテムとして利用されます。
姚たちが同行したのは、辰の「恋文男」の求婚を断るため。良家のお嬢様ならではの悩みです。
実は羅半は羅漢や猫猫の力を借りて卯と辰 の家の仲違いの原因となった辰の家宝を探し出し両家を和解させ恩を売ろうとしていました。
猫猫は見事にこの謎を解きます。羅漢の嘘を見破る力も効力を発揮しますが、このおっさん、最後にどえらいことをやってくれちゃうんですね~~😖 
猫猫たちの密談中に姚を恋文男から守った羅半兄。決闘で飛蝗や盗賊の襲撃を退け開墾で鍛えた体力で見事勝利し、燕燕に俊杰さまと本名で呼ばれ篤い感謝を受けたことですっかり彼女に💛を奪われてしまいます。う~~ん、この二人上手くいくのか??

一件落着と思いきや、今度は麻美に連行され、彼女の夫の馬琴・馬閃とともに里樹の祖父 である卯の当主の元へ。趣旨を理解した猫猫は里樹の不幸話と馬閃の活躍話をして馬閃を売り込みます。やれやれ😓 この場にいた里樹の異母兄の卯純 がなにやら曲者っぽい。

七・八話 消えた盗人前後編
九話 妓女の引き際
十話 花押

女華の翡翠の牌を狙った盗人が入り、白鈴を心配した李白が馬を駆って猫猫を緑青館に連れて行きます。いちゃつく李白と白鈴はすっかりバカップル様😁 
牌は女華が別の場所に隠していて無事でしたが、盗人の手掛かりを探す謎解きが始まります。女華が風呂で部屋に不在の時間を狙い、隣の部屋にいた白鈴たちには睡眠薬入りの粥を盛った犯行は身請けされた梅梅の後釜を狙った梓琳姉が盗人を手引きしたからでした。梓琳姉の逞しさと卑しさが強調されてますね~~。😞 
身の危険を感じた女華は翡翠の牌を手放し、猫猫に託します。
猫猫は壬氏様に相談に行きます。13巻の終わりに非常に気まずい結果になっている二人ですが、翡翠の牌が華佗の牌 と判明し、持ち主を問い質す壬氏様と女華を守りたい猫猫の思いがぶつかる場面を救ったのが雀さんの言葉。
二人っきりになっても進展しない猫猫と壬氏様を扉の外で盗み見る水蓮と雀さんでした。ちなみに前話で水蓮が阿多の母 であることが明かされています。😆 

十一話 後輩たち
十二話 修練場医務室勤務
十三話 決闘とその代償
十四話 二人はなかよし
十五話 矛盾と目的
十六話 妤 

恋文男がまた決闘で負けて、卯純に連れられ医局に来ます。
決闘の理由は恋文男が里樹を莫迦にしたのを卯純が笑い流したのを偶然見ていた馬閃が両方に激怒したというもの。職務で馬閃にも聞き取りにいった猫猫は、武官に絡まれそうになりますが李白が助け舟を出してくれました。
文官だった卯純は家のゴタゴタで武官にされ(見せしめのようなもの)李白の部下となっていましたが、李白は彼を弱いが無害だと庇います。
猫猫と馬閃は「質が悪い、そういう奴ほど危険視すべき」と意見が一致します。

猫猫に医官見習いの後輩ができます。妤と長紗です。妤から『ここ数年で薬屋を始めた訳ありの男』を探していると相談を受けた猫猫は左膳のことかと思ったのですが、妤の捜し人は克用でした。😮 彼は妤のいた開拓村で医者をしていましたが、呪い師をしていた村長に疎まれ追い出されており、その後村は疱瘡で滅びました。医療知識のある克用が村に残っていたら村は滅びなかったと理不尽とわかっていても恨まずにいられなかったのね。妤の家族が無事だった のは、克用に 種痘を受けていたから。
彼は流行病の研究をしていた師匠から双子の弟とともに疱瘡の種を植えられていて、そのため顔半分に痕が残っていたのです。弱毒性の種を植えられた弟には後遺症はなかったけれど既に死んでいます。さらに彼は師匠が華佗の書 を子孫が隠し持っていると聞いたと話します。

十七話 禁猟区
十八話 華佗の末裔
十九・二十話 残された秘宝 前後編
二十一話 帰り道

天祐の故郷が狩猟地として選ばれ、解体研修で李医官・猫猫・天祐が参加することに。政のお付き合いに壬氏様が参加するのは異例でしたが、実は皇太后派の若者が暴れる予兆を聞きつけたためでした。案の定事件が起こります。天祐の実家に火の手があがり、猫猫たちが駆けつけると天祐の父親に刃物を向ける名持ちの若者たちの姿が。その中には恋文男の姿が。こいつどうしようもない一族の恥さらしだな😠 
皇子を手にかけた罪人の子孫という間違った情報を鵜呑みにした若者たちが先走り、罪人の子孫を私刑にして皇弟である壬氏様に取り入ろうとしたのですが、全く壬氏様の人となりを理解していない馬鹿者たちですね。

事の顛末に伝説の毒鳥(実は罪人の子孫の比喩だった)を餌にされた猫猫はがっかりしますが、天祐から華佗の書があると聞き燃えている家に水をかぶって飛び込もうとして壬氏様に止められます。羅の血筋を感じさせる一幕でした。
天祐父から華佗の書を見つけて処分して欲しいと頼まれ、割れた二つの牌を合わせることで見事に場所を特定した猫猫。馬閃に続き壬氏様に俵担ぎで運ばれる図は笑えますね。見つかった華佗の書は復元が必要なのでお預けです。

発見に浮かれていた猫猫はうっかり水蓮に壬氏様と馬車で二人きりにされます。
猫猫に触れたい気持ちを我慢する壬氏様ですが、猫猫じゃなくてもぞわ~~っとする変態セリフはいただけません。悪戯心を起こした猫猫が壬氏様に仕掛けますが、微妙に後が続かず・・・二人ともいい加減いい歳なんですけどね~~😅 
 

終話 悪意をばらまく者
雀さんが卯純のところにやってきます。
実は一連の騒動の火種は卯純が起こしていました。王芳に卯の龍の置物の話をし、皇太后派の血気盛んな若者たちに天祐父と翡翠の牌の存在と卯の弱体化をリークし煽っていたのです。彼は自分を強者と驕り高ぶっている者を憎んでおり、特に家族(里樹を虐めていた父と姉)を嫌っていました。でも母親と里樹は好きなのね。そんな卯純に親近感を覚えた雀は、自分の後継者(スパイ)にスカウトします。ろくでもない師弟関係の誕生です。

何気に雀さんの「母に可愛がられる異父弟はそのうち事故にみせかけよう」という一文に虎狼の行く末に待っている悲惨な運命を予感してしまいました😁 ま、あいつに思い入れはないのでちょっと楽しみだったりして。

水蓮の素性や華佗の書の登場に加え、猫猫の壬氏様への気持ちが少しずつ動いている様子や、羅漢に対しても軟化している感じが見られ、なかなか盛り沢山な内容でした。
特に、名持ちの会での羅一家団欒??の愉快な会話は笑わされました。😁 


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夜に星を放つ

2025年02月14日 | 
窪 美澄 (著) 文藝春秋(出版)

かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。

コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。


5つの物語それぞれに「星」が登場しタイトルに繋がっています。

真夜中のアボカド
コロナ禍でリモートワークの綾がマッチングアプリで出会った麻生と良い関係を築けると感じた矢先に彼が妻帯者だったことを知ります。
2年前に急死した双子の妹・弓の恋人の村瀬と妹の命日に食事をする仲でしたが、お互いのために会う事を止める選択をします。
種から育てたアボカド、双子座の星座を絡めて二つの別れが描かれます。

銀紙色のアンタレス
高一の真が海辺の祖母の家で過ごしたひと夏の出来事が描かれます。
夫との揉め事で実家に帰っていた、たえに抱いた恋心。幼なじみの朝日の告白に応えられずに振ってしまう少年の正直な残酷さが痛い。
たえと夜空を見上げ星について話した夜は少年を少しだけ大人にしたのかな。

真珠星スピカ
父親の転勤で4年ぶり生まれ育った町に戻ってきたみちるですが、転校早々中学でいじめを受け、保健室登校をしています。
たぶん、この子は少しだけ周囲の子より大人なんですね。とても冷静且つ客観的に自分の置かれている状況を理解している分、周囲から浮いてしまった・・・。😖 
隣家に住む尚ちゃんが担任というのもいじめの理由になっています。ちょっとカッコイ若い男性教師の尚ちゃんは生徒たちに人気があるのです。みちるをいじめる瀧澤さんたちは嫉妬しているんですね😞 保健室の三輪先生も尚ちゃんに好意を抱いているのもみちるは気付いています。

みちるを二か月前に事故死した大好きなお母さんの霊が見守っていました。彼女だけに見えるお母さんは話すことはできないけれど、みちるは傍に感じるだけで嬉しかったのです。
学校でこっくりさんが流行っていたある日、瀧澤さんたちがみちるを屋上に連れて行き、何かが憑いているからと無理やりこっくりさんをさせます。ところがこっくりさんは「このこをいじめたらゆるさない」と文字を綴り、霊感の強い瀧澤さんはおもらしをして翌日から発熱して学校を休みます。噂は広まりみちるへのいじめは止みます。けれどこの日を境にお母さんの霊は現れなくなりました。

夏休みに入り、お父さんと一緒にお母さんの遺品を整理しようとしますが、クローゼットの中の洋服のお母さんの残り香に、まだ出来ずに靴だけ虫干しをすることにします。その夜、みちるはお父さんの好物のコロッケを作りましたが、中からお母さんが以前片方失くしてしまった真珠のピアスが出てきます。きっと驚かせることが得意なお母さんが入れたんだというみちるにお父さんも頷きます。
タイトルは昔お父さんがお母さんに贈った真珠のピアスからかな。英語を使えなかった戦時中、星座のスピカは真珠星と訳されていたとは初耳でした。

う~~ん。なんか、良い!
大人のどんくさい尚ちゃんや三輪先生より、みちるの方がもっとずっと大人な感じ。
娘がいじめに遭っていることに気付いていたお母さんは霊となってみちるを護ったんですね。いじめがなくなると、最後にお父さん(夫)の傍らに寄り添ってお別れをしたのかな~~。とても素敵な家族で、だからこそ亡くなったのが悔しいな。

湿りの海
妻の希里子から好きな人が出来たと離婚を言い出された沢渡。希里子が娘の希穂を連れてアラスカの恋人の元に去って2年が経つのに立ち直れずにいました。心配した同僚に合コンに誘われ出かけたものの乗り気になれません。そんなある日、隣の部屋に、別れた時の希穂と同じ年頃の娘・沙帆を連れたシングルマザーの船場が越してきます。偶然公園で会い遊んでやったことから親しく付き合うようになった沢渡は、疑似家族のような感覚に陥りますが・・・。
 
これは好かん😝 ひたすら主人公が離婚した妻を引きずって泥の中でうずくまっている印象を受けました。妻が引き取った娘への想いも重いぞ。合コンの相手や船場に逃げ場を求めるような狡さがあり、結局この男は自分しか愛せない奴な気がします。
船場が娘を虐待していたかはともかく、どちらにせよ関係は進まなかっただろうなと。

星の随に
小学4年生の想は父と継母の渚さんと彼女が産んだ赤ちゃんの海と暮らしていて、実母とは決まった日にしか会えません。渚さんは想に良くしてくれるけれど、赤ちゃんの世話とても疲れているようで、ある日、学校から帰るとドアガードがかかっていて家に入れませんでした。そのことがきっかけで連日ドアガードがかかり家に入れなくなった想を同じマンションに住むお婆さん・佐喜子さんが見かけて彼女の部屋で過ごすようになりますが・・・。

両親や実母を思い遣り独りで抱えてしまった想君は聡明で優しい子供です。でもまだたった10歳。抱えるには大きすぎる負担です。せめてお父さんが彼の状況をちゃんと理解して詫びているのが救いかなぁ。
佐喜子さんが話した東京大空襲の記憶のエピソードもシュールで重いけれど、想にはしっかり伝わっているのが嬉しかったな。

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野生の島のロズ 吹替版

2025年02月14日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2025年2月7日公開 アメリカ 102分 G

大自然に覆われた無人島に流れ着き、偶然にも起動ボタンを押されて目を覚ました最新型アシストロボットのロズ(綾瀬はるか)。都市生活に合わせてプログラミングされ、依頼主からの仕事をこなすことが第一の彼女は、なすすべのない野生の島をさまよう中で、動物たちの行動や言葉を学習し、次第に島に順応していく。そんなある日、雁の卵を見つけて孵化させたロズは、ひな鳥(濱﨑司)から「ママ」と呼ばれたことで、思いもよらなかった変化の兆しが現れる。ひな鳥に「キラリ(鈴木福)」と名付けたロズは、キツネのチャッカリ(柄本佑)やオポッサムのピンクシッポ(いとうまい子)ら島の動物たちにサポートしてもらいながら子育てという“仕事”をやり遂げようとするが……。(映画.comより)


アメリカの作家ピーター・ブラウンによる児童文学「野生のロボット」シリーズを原作に、野生の島で起動した最新型ロボットが愛情の芽生えをきっかけに運命の冒険へと導かれていく姿を描いた、ドリームワークス・アニメーションによる長編アニメ映画。(映画.comより)

「リロ&スティッチ」や「ヒックとドラゴン」のクリス・サンダース監督。
まさに子供向けの内容ですが、画的には大人も十分楽しめました。
ロズは綾瀬さんの声の印象が強過ぎて重なってしまいましたが、他の声は「え?柄本佑だったの??」みたいな違和感なく入り込めました。😁 

事故で?無人島に漂着したのは最新型アシスト・ロボットです。
ラッコに起動ボタンを押されて目覚めた彼女(ロボットに雌雄がるのかは不明ですが)は、自分が仕える主人を探し回ります。島にいるのは野生動物だけですから、彼らがロズを恐がったり嫌がったりしてもお構いなしです。ビーバーのパドラー(山本高広)の家を悪気はないにせよ壊してしまったり、ピンクシッポの子供たちとのやりとりも笑えます。

言語解析機能で動物の言葉もわかるようになった頃、ロズは雁の巣に落っこちて親鳥と卵を死なせてしまいます。一つだけ無事だった卵を狙う狐のチャッカリとの争奪戦(このシーンもなかなか楽しい)を経て、孵った雛を育てていくことになります。キラリと名付けたひな鳥をチャッカリやオポッサムのピンクシッポも協力します。捕食する側のチャッカリとされる側のキラリの間に生まれる感情はロズに芽生えたそれと同じ「家族」への愛情です。
ロズの優しさに触れ、怪物として彼女を拒絶していた動物たちも島の“家族”として受け入れるようになります。

餌やり・泳ぎを教える・飛び方を教えるという3つの使命を実直に果たそうとするロズはまさに「母親」そのものに見えてきます。雁の仲間から拒絶されたキラリを鷲のサンダーボルト(滝知史)に頼んで飛び方を教えてもらい長く飛べるようになったころ、渡りの季節がやってきます。その直前にロズが親鳥と兄妹を死なせてしまったことを知ったキラリはロズにわだかまりを否めません。
渡りのリーダーのクビナガ(千葉繁)に認められ巣立っていくキラリを見送るシーンはウルっと来ますね。

渡りの途中で嵐に遭ったキラリたちはロズが作られたユニバーサル・ダイナミクスの温室 に避難しますが、侵入者と見なされ攻撃を受けます。パニックになる仲間たちの中で冷静なキラリをクビナガはリーダーと認め、自らが犠牲となって雁たちを逃がします。

島に残ったロズは動物たちと共に厳しい冬を迎えます。チャッカリと共に凍えそうな動物たちを暖かな「家」に避難させるロズ。大騒ぎの動物たち(そりゃ食物連鎖が一堂に会するのだから当たり前)をチャッカリと熊のソーン(田中美央)が諭します。

春が来て雁たちが戻ってきた頃、回収ロボットのヴォントラ が島にやってきます。
逃げるロズを助けようと動物たちは力を合わせてRECOを撃退しますが、ロズはヴォントラに捕らえられ、RECOの爆発で森に火災が起きてしまいます。

ロズを救おうと輸送機に侵入したキラリは、記憶を消去され停止したかに見えたロズを見つけて必死に呼びかけます。キラリの愛がロズの心に届きシステムが復旧します。ヴォントラを破壊して輸送機の爆発から逃れる二人。
一方、チャッカリたちは協力して火を消し止めます。

戦いは動物たちの勝利でしたが、ロズは動物たちと島を再びの攻撃から守るために、ユニバーサル・ダイナミクス社に戻ることを決意します。寂しがるチャッカリにピンクシッポやソーンが仲間がいると慰めます。ロズはキラリにまた戻ってくると約束して回収されていきました。

数か月後。ユニバーサル・ダイナミクス社の温室で働いていたロズをキラリが訪ね再会を喜び合う二人の姿で幕を閉じました。

ロズのせいで親や兄弟が死んだことを知ったキラリはロズを拒絶しますが、一番弱い個体だった自分が生き延びたのもまたロズが守ってくれたからだと気付いて彼女に感謝を伝えます。それはキラリの成長の証でもあります。
心を持たないロボットのロズの中に芽生えた感情が家族への愛であり自分の居場所を見つけたことも素敵な点でした。それにしてもあんなに多機能のアシストロボットがいたら欲しいぞ😀 

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ドクター・デスの遺産 

2025年02月10日 | 
中山 七里 (著)  角川書店

警視庁にひとりの少年から「悪いお医者さんがうちに来てお父さんを殺した」との通報が入る。当初はいたずら電話かと思われたが、捜査一課の高千穂明日香は少年の声からその真剣さを感じ取り、犬養隼人刑事とともに少年の自宅を訪ねる。すると、少年の父親の通夜が行われていた。少年に事情を聞くと、見知らぬ医者と思われる男がやってきて父親に注射を打ったという。日本では認められていない安楽死を請け負う医師の存在が浮上するが、少年の母親はそれを断固否定した。次第に少年と母親の発言の食い違いが明らかになる。そんななか、同じような第二の事件が起こる――。(内容紹介より)


一 望まれた死  
二 救われた死  
三 急かされた死 
四 苦痛なき死
五 受け継がれた死

2021年5月に映画を観ての感想をUPしていましたが、今回原作を読む機会がありました。読後の感想としては原作の方が遥かに良かった!です。
映画では犯人は快楽殺人者になっていてがっかりでしたが、本は違いました。命の尊厳とは何かを真摯に問い、安楽死の是非について考えさせられる内容です。個人的には「死ぬ権利」に賛成しますね。

事件が明るみに出たきっかけとなったのは子供の通報。
高千穂が犬養と共に通報者である馬籠大地とその母親に事情を聞いたところ両者の話の齟齬が見つかります。肺がん末期の父親・健一の心不全という死因に不自然さはなかったものの、主治医が最期を看取る前に別の医師と看護師が来ていたとの大地の証言に、急遽遺体を司法解剖した結果、血液中のカリウム濃度の異常値が判明。大地の母・小夜子を取り調べると積極的安楽死を推奨した病理学者のジャック・ケヴォーキアンを崇拝し、20万円で安楽死を請け負う〈ドクター・デスの診察室〉に依頼していたことがわかります。

その手口は、チオペンタールの点滴で患者を昏睡状態に陥らせた後、塩化カリウムを点滴して心臓発作で死に至らしめるものでした。

マスコミの報道後、匿名での情報がもたらされます。
事故で大怪我を負い意識不明となっていた、誰からも慕われていた作業長・安城邦武の突然の死は安楽とは程遠い苦悶に満ちていました。後に彼にはチオペンタールの投与がなかったことが判明します。

犬養と高千穂は過去にサイトに書き込みをした者に順次あたりますが、ドクター・デスに依頼したと見られる遺族の反応は、関与を認める者と否定する者に分かれます。その中で共通するのは“頭頂部が禿げあがった小男だが、顔に特徴が無い”という彼の印象です。
捜査に息詰まる中、犬養は娘の紗耶香を囮にしますが、見破られてしまいます。
犬養の刑事と父親の間で苦悩する姿に同情心もわかないではないですが、それ以上に呆れてしまうなぁ。

法条グループの総帥・政宗の死は、親族の密告によりドクター・デスの犯行と確認されます。依頼者の英輔の証言から看護師の似顔絵が作成され、雛森めぐみという女性が容疑者として浮かび上がります。騙されていたという彼女の証言から医師が寺町亘輝という男だと判明しますが、男の行方はつかめずにいました。そんな中、犬養は安城の死がドクター・デスを利用した男の犯行であることを暴きます。自分のミスで事故が起こった男は安城の意識が戻って真相が明らかになることを恐れての偽装工作でしたが、医学知識のない彼は直接工業用の塩化カリウムを点滴していました。その結果安城は苦しみの末に息絶えたのです。まさに無知は罪ですね。

捜査本部による徹底捜査の末、松戸市江戸川の河川敷で「テラさん」と呼ばれている男・寺町が捕まりますが、その供述から驚愕の事実が判明します。

雛森の過去を調べ上げた犬養は、依頼人の久津輪宅に先回りして彼女の犯行を防ごうとしますが、土砂崩れにより家が崩壊したことで、安楽死を見逃すか止めるかの究極の選択を迫られます。

安楽死に一分の理は認めるが全面的にはという犬養に、娘の紗耶香は、「それって考え方の違いだけ。家族を死なせたくないのも苦しませたくないのも根は同じ思いやり」だと言います。難病に苦しむ彼女ならではの言葉に犬養は虚をつかれる思いになります。
なすすべもない状況(出来過ぎだけど)で結局安楽死を黙認してしまった犬養は、それを己の十字架として背負っていくのですね。

雛森の壮絶な体験は彼女の倫理観を麻痺させ、安楽死を正当化することで自分の行為を肯定してきたように思えます。
快楽殺人者などではなかったことが映画とは大きく異なる点です。
 

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騒がしい楽園

2025年02月07日 | 
中山七里(著)  ‎ 朝日新聞出版 

埼玉県の片田舎から都内の幼稚園へ赴任してきた神尾舞子。
騒音や待機児童など様々な問題を抱える中、幼稚園の生き物が何者かに惨殺される事件が立て続けに起きる。やがて事態は最悪の方向へ――。(内容紹介より)

一 デジタルウーマン
二 悪の進化論
三 権利と義務と責任と
四 ガーディナー
エピローグ

幼稚園が舞台の「闘う君の唄を」の続編らしいのですが、そちらは未読。
埼玉の片田舎から世田谷の住宅街にある園に異動となった舞子先生。
冒頭の京葉線の女性専用車の車内で子供に食事をさせながら化粧に余念のない母親に理路整然と冷静に抗議する描写で彼女の倫理観が示唆されます。

赴任早々、都会の幼稚園ならではの騒音トラブルに直面する舞子。町内会長の老人の言は一理あるけれど、基本的な相互理解不足が浮き彫りにされます。

さらに、2年続けて入園できず、何としても息子を入園させようとする母親への対応にも悩まされます。待機児童の問題は保育園のみならず幼稚園でも起きていることに気付かされ、そういえば、子供の入園願書に夫を借り出して並んでもらったことを思い出し、今も昔も変わらない現実にため息が出ます。

舞子が受け持つ年長クラスには過労死で争った被告と原告双方の子どもが在籍していてこれがまたトラブルを生んでいます。といっても子供たちは仲が良く、それぞれの個性についても描かれほのぼのとしながらも騒がしい日常が描かれていきます。

池に毒物が入れられ飼育していた水生動物が全滅したことに端を発し、頭部を潰された蛇(アオダイショウ)が投げ込まれ、園で飼っていたアヒルが首を切られて殺され、頸を締められた野良猫の死体がぶら下げられるなど、園への嫌がらせか動物虐待の常習者の仕業かと思われる事件が続けて起き、舞子と一緒に異動した同僚の池波は、被害が魚類→爬虫類→鳥類→哺乳類と進化していることへの危惧を吐露します。

池波や舞子の指摘もあり事なかれ主義の園長も看過できず警察に届け出ますが、やってきた世田谷署生活安全課の古尾井刑事は真面目に捜査してくれずにいるうち、とうとう舞子のクラスの女児が殺されて園の門前に遺棄される事件が起きます。被害者は保護者間でトラブルのあった人材派遣会社社長の娘でした。

保護者たちの手前を取り繕うため、園長の要請で幼稚園職員が交代制で自主パトロールをしていましたが、犯行当日の当番が舞子と池波で、たまたま見回りが早く終わって30分繰り上げて終了していたことが問題となります。園長の保身のためスケープゴートにされ保護者や職員たちの非難の矢面に立たされ窮地に立った舞子と池波に、同様に初期対応の遅れを批判され捜査から外された古尾井刑事が協力して事件の犯人を突き止めようと声をかけます。

相手と距離を置きクールに対応する舞子のスタンスはそれまで一貫して崩れることがなかったのですが、教え子が殺されるという異常事態に置かれて動揺が襲います。それでも池波のさり気ない支えもあり、自分らしさを取り戻した彼女は、古尾井刑事と容疑者として浮かんだ関係者を回って情報を得ようとします。
そのうちの一人に動物虐待の疑いが浮上し、任意同行を受けて犯行を自供しますが、殺人に関しては頑なに否定されます。
そんな折、被害女児の母の弟が漏らした一言で真犯人を推察した舞子たちは、動かぬ証拠を得ようと危険な賭けに出ます。いやいや、それって囮捜査で違法じゃないの??💦
いかにもな3人の容疑者に対して、捕まった犯人の動機はわかるとして切羽詰まっている筈の犯人にしては成果までの道のりが遠大過ぎる気がしますが・・。

事件解決後、亡くなった園児の机の供花を巡る舞子と友達だった園児のやりとりが出てきます。子供たちの心の傷を少しでも癒そうとした舞子に対して、忘れないことが大事だという園児の思いにはっとさせられました。

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ショウタイムセブン ネタバレあり

2025年02月07日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2025年2月7日公開 98分 G

午後7時、ラジオ局に1本の電話が入り、その直後に発電所で爆破事件が起こる。電話をかけてきた謎の男は交渉人として、ラジオ局に左遷された国民的ニュース番組「ショウタイム7」の元キャスター・折本眞之輔(阿部寛)を指名。これを番組復帰のチャンスと考えた折本は生放送中の「ショウタイム7」に乗り込み、自らキャスターを務めて犯人との生中継を強行する。しかしそのスタジオにも、すでにどこかに爆弾が設置されていた。自身のすべての発言が生死を分ける極限状態に追い込まれた折本の姿は、リアルタイムで国民に拡散されていく。(映画.comより)


テレビの生放送中に爆弾犯との命がけの交渉に挑むキャスターの姿をリアルタイム進行で描いたサスペンス作品です。2013年製作の韓国映画「テロ,ライブ」が原作ですがオリジナル展開も盛り込まれています。折原の相棒レポーターだった伊東さくらは井川遥が演じ、新人アナの結城役はめるること生見愛瑠 。折本の上司・東海林(吉田鋼太郎)がいかにもTV業界人をイメージさせる狡さ・軽さを醸し出していました。

人気報道番組『ショウタイム7』のメインキャスターだった折本は三か月前に突然番組を降板、現在はNJBラジオのキャスターを務めています。シリアスな時事問題を扱う『ショウタイム7』の裏で、ぼさぼさの髪に不精髭で「あなたは犬派?猫派?」という(どうでもいい)テーマを扱う彼の姿のギャップをまずは見せつけられます。
折本の後釜となった安積(竜星涼)はそのルックスと爽やかなイメージが売りですが、インパクトはイマイチ感が醸し出されます。😁 

折本の番組にかかってきた一本の電話から物語が動き出します。
相手の爆破予告を悪戯と取り合わず悪態をついて電話を切った数分後、大きな爆発音が起こり、城東火力発電所が爆破される事態が発生します。これをキャスター復帰のチャンスと考えた折本の行動の素早さには舌を巻きます。
読み通りに交渉相手に指名された折本は、ショウタイム7のキャスターとして犯人と緊迫の駆け引きを展開していくのです。

6年前に起きた大和電力の城東火力発電所での事故で父を亡くしたという犯人の要求は、大和電力社長の謝罪です。当時、次世代発電所の工事にG20開催による海外要人の視察が重なり、無理なスケジュールで働かされた結果、現場で事故が起こって父と仲間たちが死亡したのに、大和電力からの謝罪はなく、僅かな口止め料が支払われただけで事故は揉み消され、母親も半年後に病死したと訴えます。

ところが社長の謝罪を早々に諦めた犯人は次に大和電力と癒着している政府・水橋総理の謝罪を求めます。
スタジオとイヤホンに爆弾を仕掛けたという犯人に、折本は、番組名物のリアルタイムの世論調査「総理は謝罪するか否か」で水橋総理に圧力をかけようとします。
視聴者の反応は「否」。まさに国民の政府への信頼度の低さを如実に現わしているようですね。😁 電話での内閣官房危機管理審議官の兼子(声:内山昂輝 )の対応は
誠実さのかけらも感じさせないまさに役人の模範解答ですね。

これを受け、犯人はさらに標的を折本に変えます。
犯人から折本の収賄疑惑の資料を受け取った安積の告発に潔白を主張する折本に対し、犯人は「折本が真実を告白するか否か」の世論調査を要求するのです。
安積の折本への疑惑は日頃の反感が加わり苛烈な追及となります。それまで犯人を追及する正義の代表然としていた折本の立場が一転、テロを利用し安積を押し除けて返り咲き、世論を利用して首相に迫った折本が、犯人のタレコミを利用した安積に迫られ、世論調査で不信任を突きつけられます。

その疑惑とは、折本が製薬会社から2,000万円の賄賂を受け取りって薬の副作用の追求を止めたというものです。折本の否定によりスタジオ爆破の緊張感が高まる展開は緊迫感があります。

しかしそんなギリギリの緊張感の中で、折本は犯人の本当の狙いと事件の真実に気付くんですね。
犯人が繁藤寛治であることは、高校時代の担任として登場した城大作(平田満)により早い時期に明かされます。犯人を激高させマイクを爆破されて死亡した筈の彼が、スタジオの廊下ですれ違った清掃員だと気付いた折本は、城が共犯者で、倒れたのは芝居だと見破ります。

ここからが本番の種明かし。
スタジオに登場した犯人は錦戸亮が演じていました。城のようにファンならもしかして声だけでわかったのかな?

城は発破技師として働いていた繁藤寛治の父方の祖父でした。清掃員としてTV局に潜り込み孫の計画を助けていたのです。

折本は真実を語り始めます。
彼は6年前の発電所の事故を取材し、遺族である繁藤の母のインタビューを取り真実を掴んでいたのに、TV局のスポンサーの大和電力と与党自由党、上司の(吉田鋼太郎) から圧力をかけられ、情報を握りつぶす代わりに『ショウタイム7』のメインキャスターの座を得ていました。権力の癒着の構図は胸糞が悪くなりますが、それに目を瞑って手に入れた座をわずか一年で再び失ったその理由が、製薬会社からの賄賂を受け取らなかったことというのも皮肉な話です。

折本は繁藤に深々と頭を下げて謝罪しますが、警察に連行される彼にこう言い放ちます。この(ショウタイム7)2時間は最高に楽しかった!
それは視聴者も同じで、安全なところにいるからこそ楽しめたのだと呼びかけた彼は、最後の「ショウタイム」を仕掛けます。その選択肢は折本の「LIVE(生)」か「DIE(死)」か。結果が表示されることはなかったのですが、直後爆弾が仕掛けられているイヤモニをつけ直し、公安の園田(安藤玉恵)が落とした爆弾のリモコンを拾って「私たちは、公正かつ公平な姿勢で真実に迫ります」とカメラに向けて言った折本は、笑顔でスイッチを押します。

画面は変わり、他局の報道番組が「大和電力と自由党、NJB」の談合スクープが報じられます。その最中、速報テロップで、ロンドンの地下鉄での爆発テロのニュースが流れます。そこにPerfumeの新曲「Human Factory – 電造人間 -」紹介とライブ映像が流れ幕を閉じるのです。衝撃的な事件は更に大きな事件に上書きされ、一方で日常は変わりなく移っていくことへの皮肉な現実を揶揄しているかのようでした。

折本の運命についての言及はなかったのですが、おそらくは爆弾は城の時と同じフェイクと推察します。繁藤が折本にスイッチを拾わせたのはその覚悟を見届けようとしたからかなぁ。

今世間を騒がせている某局の問題は質こそ違えど根っこは同じ気がします。
視聴率至上主義、政府が握る権力へのおもねり、大衆の無責任な興味と残酷さを浮き彫りにしていて見応えがありました。

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夜がどれほど暗くても

2025年02月05日 | 
中山七里(著) 角川春樹事務所 (出版)

志賀倫成は、スクープを追う有名週刊誌『週刊春潮』の副編集長。 仕事ぶりを評価され、順風満帆なジャーナリスト人生を歩んでいたが、ある日、事態は一変する。一人息子の健輔がストーカー殺人事件を起こし、被害者とともに自ら命を絶ったのだ。スクープを追う側だった志賀は、一転、追われる立場となる。凶悪事件の容疑者家族として、世間からバッシングを受ける日々。まさに絶望の淵に立たされる中、ある出来事をきっかけに事件の真相に迫っていくことになる。少しずつ浮かび上がっていく新しい真実。そして、深い闇の中で志賀が見つけた、一条の光とは。(あらすじ紹介より)


政治と健康ネタから芸能ネタに舵を切って売り上げを伸ばした彼は、社会悪を挫くネタより芸能ネタが売れるのは読者の助平根性と嫉妬心と偽善に応えているからと言い切り、部下を鼓舞してスキャンダルネタを追わせていました。
しかし息子がストーカー殺人の末自殺したことで立場が一変します。

取材する側でグイグイ攻めていた志賀が、殺人犯の父親として取材される側になり、カメラやマイクの放列に曝され、その中には顔見知りのマスコミ関係者もいました。
加害者の父は週刊春潮の副編集長と身バレして異動となった部署にも居辛くなります。

家のこと息子のことは妻任せだった志賀は、息子が亡くなってもどこか実感が湧きません。息子との思い出もなくろくに会話も無かった彼には、息子の人となりすら曖昧でした。一方一人息子を溺愛していた妻は衝撃に耐えきれず疲弊していきます。

買物に出る妻に付き添って夜道を歩いていた2人に、少女がカッターナイフで襲い掛かってきます。それは被害者の文科省高官・星野隆一と大学講師・星野希久子の娘の奈々美で、身寄りのない彼女の憎しみが容赦なく向けられます。

状況に苛立ち追い詰められた志賀が妻に手を上げたことで、実家に戻った彼女から離婚届を送られ動揺した彼は、ネットで見かけた犯罪被害者家族だけでなく加害者の家族の精神ケアをサポートするNPO法人「葵の会」を見学に訪れます。
ネット社会の中で加害者家族に対する誹謗中傷は拡大し、プライバシーを暴くことが正義であるという間違った風潮が蔓延り、加害者家族も苦しんでいる現状が浮き彫りにされます。
主催者の人柄や会の趣旨を知り入会しようとした矢先、遅れてやってきた奈々美が志賀を見て激昂して詰め寄り、当事者同士ということで入会を断られます。

息子の葬儀で、大学の友人・喜納みちるから「健輔くんが犯人だなんて、信じられない」と声をかけられたことを思い出した志賀は、本当に息子が殺したのだろうかという疑問を持ちます。
捜査一課の葛城刑事から、被疑者死亡で送検したが捜査は続けていると聞き、微かな希望を持つ志賀。

奈々美が学校でいじめられていると気付いた志賀は、彼女を守ろうとします。
同級生から暴力を受ける奈々美を庇って鼻を折られ肋骨にヒビが入っても病院で転んだと嘘をついた彼は、いじめを先導していた女子に怪我の面相を顕わにして止めるよう諭します。しかし男子2人が再び奈々美を襲う場面を目撃し、無抵抗で彼らの暴力を受けさらに怪我を負います。このことがきっかけで奈々美は志賀に少しずつ心を開いていきました。

健輔が通っていた東朋大で同じ星野ゼミだった学生に集まってもらった志賀は、息子に好意的だった久石三鈴、桐野慎、陳修然地、否定的だった橋詰朋美の話を聞きます。更に邦画倶楽部で一緒だった喜納みちるから、昔一度だけ父親と観た『鬼神 阿修羅丸』で邦画を好きになったと健輔が言っていたと教えられた志賀は、息子に無関心で冷淡だった自分を激しく後悔します。

夜。奈々美から家が燃えているとの連絡を受け駆け付けた志賀は、燃え盛る炎の中に飛び込み身を挺して守ります。

放火の犯人は星野ゼミの留学生・陳修然でした。裕福な暮らしぶりをSNSで見ていた彼は金目当てで留守の筈の星野宅に合鍵を使って入り、飛行機が欠航になり自宅に戻っていた二人に気付かれて殺害。その場に入ってきた健輔も巻き添えになったというのが真相でした。(星野教授に好意を持っていた健輔でしたがストーカーではなく、同じく彼女を見る陳の様子に不信感を持って尾行していたらしい。)健輔を犯人に仕立てて安心していたのに、捜査が続いていると知って不安に思った陳が新たな拠隠が出ないよう放火したというわけです。

事件が解決し、息子の容疑も晴れた志賀は、家を失った奈々美を同居に誘います。
奈々美を連れて自宅に戻ってきた彼は、妻の鞠子がドアの前に立っているのを見ます。

夫婦の絆が戻り新たに娘を得たという結末になるのかしらん?ちょっと出来過ぎな気もしますが・・。

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赤と青のガウン オックスフォード留学記

2025年02月04日 | 
彬子女王 (著)  PHP文庫

女性皇族として初の博士号取得。瑞々しい筆致で綴られた留学の日々。(「BOOK」データベースより)

目次
百川学海/大信不約/苦学力行/日常坐臥/合縁奇縁/一期一会/千載一遇/危機一髪/多事多難/奇貨可居/五角六張/一念通天/日常茶飯/骨肉之親/前途多難/一以貫之/玉石混淆/古琴之友/傾蓋知己/忍之一字/当機立断/随類応同/七転八倒/進退両難/不撓不屈 

彬子女王は2012年に薨去されたヒゲの殿下こと寛仁親王の長女で大正天皇の曾孫です。
皇族は天皇ご一家以外殆ど知る機会もなかったので、今回SNSでバズった
(図書館で予約の際三桁の待ちで手に取るまでかなりの月日を要しました。)
ことで初めてその存在を認識した次第です。💦 

本書は英国のオックスフォード大学に2004年から5年間留学して女性皇族として初めて海外で博士号を取得された時を振り返ったエッセイです。

大勢に囲まれる宮家の日常や、側衛の存在、パスポートの種類の違いまで、初めて知ることも多く、海外での思わぬトラブル(寝過ごして下車できずに焦った云々)やコレッジでの学友たちとの交流などが瑞々しい筆致で綴られています。故エリザベス女王にお茶に招かれた際のエピソードなどはその緊張感が伝わってきて、皇族といえどもその感覚は若い女性として共通するものがあるのだと改めて思いました。

寛仁親王自身も望まれていたオックスフォードへの留学は、当初は一年という期限付きだったのが、学究意欲から博士号取得という長期間の留学となったいきさつも明かされています。身内である父親に対しても敬語なのは一般庶民には違和感もあるのですが、読み進めるうちに父の娘への想い、娘の父に対する尊敬が伝わってきました。

指導教授のジェシカ先生の厳しいリクエストに必死についていく中で何度もストレス性胃炎に苦しめられたことなど大学での学究生活は決して楽なものではなかったことも明かされていますが、学友たちや教授たちとの心温まる交流が学究生活を続ける上での活力となったことも示されていました。

タイトルの「赤と青のガウン」は、博士号を取得した者にしか着用を許されないガウンで、彬子女王のガウンへの思いが込められているように感じました。
また、各章のタイトルの四文字熟語がその章の内容を端的に示していることから、女王の機知と聡明さが窺えました。

皇族に対する認識が少し変わったかも😀 

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ベルサイユのばら

2025年01月31日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2025年1月31日公開 113分 G

将軍家の跡取りで“息子”として育てられた男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ(声:沢城みゆき)。隣国オーストリアから嫁いできた王妃マリー・アントワネット(声:平野綾)。オスカルの従者で幼なじみの平民アンドレ・グランディエ(声:豊永利行)。容姿端麗で知性的なスウェーデンの伯爵ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン(声:加藤和樹)。18世紀後半のベルサイユで出会った彼らは、激動の時代に翻弄されながらも、それぞれの人生を懸命に生きぬいていく。(映画.comより)


1972年から「週刊マーガレット」(集英社)で連載され、現在累計発行部数2000万部を超える池田理代子の漫画を新たに劇場アニメ化しています。
ナレーションは黒木瞳。
来場者特典 第一弾は「原作:池田理代子 伝説の名シーン複製原稿【原稿袋入り】~オスカル人生で一度のドレス姿~」でした。


本編上映前には特典映像<ベルばらミニ!>オスカル編が流れました。

舞台は革命期のフランス。不自由な時代の中で、身分や性別を乗り越え自身の手で人生を選びとり、フランス革命へと飛び込んでいくオスカルの生き様が、少女たちの共感と憧れを一身に集め、読者の熱狂的な支持を集めた本作は、その後宝塚歌劇団による舞台化やTVアニメ化もされて社会現象を巻き起こしました。
当時週刊マーガレットの愛読者だった身にはとても懐かしく思い出深い作品でしたので、これはスクリーンで観なければ!と初日初回にGO!

とても長い物語を、オスカル・マリー・アンドレ・フェルゼンの4人に絞って描くことで簡潔でありながらも要所を抑えた構成で魅せてくれました。
その分、デュバリー夫人やロザリーやジャンヌらのエピソードや首飾り事件は割愛されています。二時間の枠に収めるためか、物語は1789年7月14日のバスティーユ奪取 で幕を閉じ、エンドロールでマリーの処刑までの史実が語られていました。

忘れかけていた記憶がスクリーンに蘇り、懐かしさと新たな感慨に胸が熱くなりました。
大人になった今、恋や愛、自由への渇望といった感情も登場人物により共感を持って迫ってきました。思わず涙腺が緩む場面もあり見応えがありました。😊 

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雨の向こう側

2025年01月11日 | 
高田 侑 (著) ハヤカワ文庫

雨は、哀しい過去を思い出させる。甘く苦しい抱擁をー娘を一人で育てながらメッキ会社で働く29歳の美尋は、突然、次期社長に結婚を申し込まれる。娘のためと申し出を受ける美尋。だがその矢先、かつて愛した男性が現れる。11年前、二人は許されぬ関係と知りながら結ばれた。再会に心乱れ、距離をとる美尋。しかし、彼女の同僚の死が、二人の運命を再び熱く深く結びつけてゆき…慈雨のように純粋だった恋と愛の行方。(内容紹介より)


恋愛モノにミステリー要素を絡めた作品です。
昔流行った教師と生徒の禁断の愛。当事者にとっては純愛だけど・・・
母親の不倫を知り嫌悪する美尋は新任教師の中山への感情に救いを求めた気がします。互いの気持ちに気付いてしまった二人が結ばれるのは自然な成り行きかもですが、中山の方にもっと分別というか冷静さがあったらと思うのは年齢差5~6才であろう若い(未熟な)二人にとって無理な相談かな。

母親の不倫相手の妻が押し掛けてきたことがきっかけで、美尋と中山の関係も親の知ることとなります。逆上した母親が学校に告げたことで、逃避行もどきの数日を経て2人は引き裂かれます。真面目で堅物と描かれていた父親の心中については一切触れられていませんが、妻には浮気され、娘は教師と恋愛沙汰って踏んだり蹴ったりな状況には同情を禁じ得ませんね。

それから11年が過ぎて再会した二人。彼女の母と学校から「未来永劫」近づかないという誓約書にサインさせられていたため、一切の接触を断っていた中山にとって、この再会はまさに偶然であり運命です。(律儀に約束を守ったことで彼女の妊娠出産の事実も知らなかったわけね)美尋が専務の息子と婚約したと知り、「生涯ただ一人愛した女性」である彼女の幸せを願い敢えて不愛想に振舞うのですが、その反面抑えきれない感情が彼を揺さぶります。

突然目の前から消えて連絡を絶った中山を求めることを諦め、親の反対を押し切って娘の美和(当然中山との子)をシングルマザーとして育ててきた美尋は、専務の一馬の突然のプロポーズに驚きながらも、娘のために受け入れます。けれど一馬に対して恋愛感情を持てません。そこに中山が現れ気持ちは揺れるのですが、過去は過去と割り切ろうとします。結局自分は捨てられたのだとの想いがあったのでしょうね。

美尋と同じ会社で働く岩島は、戦隊ヒーロー好きという共通の趣味で仲良くなった知的障害を抱える野方が殺されたことから美尋や中山と接点が生まれます。密かに美尋に憧れていた岩島は、専務の人間性を疑い彼女の幸せを危惧していました。美尋と中山の関係を知ると二人に協力していきます。

一馬の描写はいかにも胡散臭いので、事件への関わりも早くから予想できますが、その理由が幼児性愛者だったというのは意外でした。
一馬が美尋に求婚したのは娘の美和が目的だったという何とも卑劣極まりない男でした。何も知らずに一馬のDVDを持ち去ってしまった野方君が哀れです。彼が岩島に渡したそのDVDがきっかけで一馬の悪事が露呈し、危機一髪のところで美和が救助されるくだりはテンポ良く進んでドキドキしました。

事件が解決し、美尋と中山は今度こそ幸せになれそうです。岩島も避難所で知り合った由衣とうまくいきそうな展開です。

一馬は卑劣な男でしたが、父親である社長はとても良い人物として描かれ、息子の犯罪を知り憔悴し、美尋に土下座して謝る姿が何ともいえません。妻の方は社長ほどではなく、どこか認めたくないような気持ちを感じてしまいましたが、母親としては息子を守りたいというかその罪に向き合えないのも自然な感情なのかもしれないなあとも思います。そもそも母親の少し傲慢な態度は息子に通じるものがあるんだよなぁ。美和が仲良くなった社長の飼い犬ジャックを引き取りたいと言ったことは、社長にとって救いになったのでは。

登場人物の中で共感を持てたのは岩島君かな。😁

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ライオン・キング ムファサ

2025年01月10日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年12月20日公開 アメリカ 118分

息子シンバを命がけで守ったムファサ王。かつて孤児だったムファサの運命を変えたのは、後に彼の命を奪うスカーとの出会いだった。両親を亡くしひとりさまよっていた幼き日のムファサは、王家の血を引く思いやりに満ちたライオン、タカ(後のスカー)に救われる。血のつながりを超えて兄弟の絆で結ばれたムファサとタカは、冷酷な敵ライオンから群れを守るため、新天地を目指してアフリカ横断の旅に出る。(映画.comより)

声の出演(吹替版)
尾上右近 (ムファサ), 松田元太 (タカ), MARIA-E (サラビ), 吉原光夫 (マセゴ), 和音美桜 (アフィア), 悠木碧 (アクア), LiLiCo (賢いキリン), 賀来賢人 (シンバ), 門山葉子 (ナラ), 佐藤二朗 (プンバァ), ミキ・亜生 (ティモン), 駒谷昌男 (ラフィキ), 渡辺謙 (キロス)
 

2019年製作の「ライオン・キング」の前日譚として、若き日のムファサ王とスカーの兄弟の絆が描かれます。
年末予定が合わず、学校が始まった今週の鑑賞です。さすがに空いてた😁 

「ライオン・キング」でシンバの叔父、ムファサの弟として登場するスカーは兄を憎み死なせてしまうヴィランでしたが、今作では二人の関係性が前日譚として描かれています。

若き日のスカーは王の息子タカという名でした。父の命令(血族以外は仲間に入れない)に背いてワニに襲われたムファサの命を救った彼は「兄弟が欲しかった」と無邪気にムファサを慕います。
タカの父は息子の王位を脅かす存在を恐れ、ムファサを雌の中に留めおきます。ムファサはタカの母エシェの愛情を受け、狩りの仕方を教わります。
父に隠れて共に遊び育った幸せな子供時代が描かれ、後の確執との対比がいっそ哀しい。

今回のヴィランは、はぐれライオンを率いる白ライオンのキロスです。エシェを守ってキロスの息子を殺したムファサへの復讐を誓うキロスは、タカたちの群れを襲います。タカの父は血筋を守るために二人を逃がし、ムファサにタカを支えるよう命じます。

ムファサは両親から聞かされていた楽園ミレーレを目指します。その途中で雌ライオンのセラビとサイチョウのザズー、マンドリルのラフィキが仲間に加わったことで、兄弟の関係が壊れ始めます。
タカは心優しいライオンでしたが、母の危機を前にしながら臆病さから逃げ出してしまったことを恥じていました。追ってきたキロスたちから逃れようと像を利用した時にセラビが踏みつぶされそうになった時も何もできずにいました。

セラビに一目惚れしムファサに恋の相談をしていたタカは、彼女を身をもって庇い、それをタカの行為と言ったムファサに感謝しながらも複雑な想いを抱きます。王の命に従いタカを支えようとしてきたムファサも、セラビへの想いを抑えられなくなっていきます。

二人の仲睦まじい様子を目撃したタカは裏切られたと感じ、悲しみはやがて復讐心となって燃え上がります。そんな時、、目の前に現れたキロスを逆に利用するタカの頭には「王には知略も必要だ」と言った父の言葉が浮かんでいました。

ミレーレに辿り着いた一行をキロスの群れが襲います。タカはここで反旗を翻すのですが、ムファサがキロスに殺されそうになった刹那、「ムファサを殺さないで」と庇いキロスの爪を目に受けます。彼の傷はこの時のものなのね。

水中で死闘を繰り広げたムファサを最後に助けたのもタカでした。幼い頃にワニに食べられそうになったムファサを助けたその同じ爪で水中から引き上げます。ムファサへの復讐心の中に、捨てきれない情が残っていることが窺えるシーンです。
(この爪のエピソードは「ライオンキング」でムファサを崖から落としたスカーのシーンにも繋がっているんですね。)

それでもタカのやった裏切りは赦されない・・楽園からの追放を求める声に、ムファサは「私が王である限りは、彼をここに置くことにする。」と宣言しますが、同時に「だがもうその名は呼べない。」と告げます。タカは「ならば(傷という意味の)スカーと呼ぶがいい」と応えます。ムファサの生き別れた母はこの楽園に辿り着いて息子を待っていました。両親をキロスに殺され孤児となったタカの目に再会した二人の姿はどう映ったのでしょう・・・。

本作ではナラが第二子を出産するための場所に向かったシンバに娘のキアラの子守を頼まれたプンバァとティモンも登場します。彼らの「お話」を遮るようにラフィキがキアラに祖父ムファサの若き日のことを語って聞かせる展開になっていますが、偉大な王ムファサよりスカーに思い入れを持って観てしまいました。

若き日のタカが純粋で素直なだけに、闇に落ちてしまった後のスカーが哀れです。
タカには王としての素質(勇気や判断力など)が欠けていましたが、血筋が全ての父親から王になることを望まれ、それが唯一の道だと信じてしまったことで彼の悲劇は始まっていたのかもしれません。

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銀の夜

2025年01月01日 | 
角田 光代(著) 光文社(刊)

イラストレーター井出ちづる。夫は若い女と浮気をしている。嫉妬はまるで感じないがそんな自分に戸惑っている。早くに結婚して母となった岡野麻友美。自分ができなかったことを幼い娘に託し、人生を生き直そうとする。帰国子女で独身の草部伊都子。著名翻訳家の母のように非凡に生きたいと必死になるが、何ひとつうまくいかない。三人は女子高時代に少女バンドを組んでメジャーデビューをした。人生のピークは十代だったと懐かしむ。三十代となったこれからの人生に、あれ以上興奮することはあるのだろうか…。(内容説明より)


VERYに2005年~2007年に連載された「銀の夜の船」を改題した作品で、『対岸の彼女』直木賞受賞時に書かれたものの14年間埋もれていた長編小説。

3人は、中三の時に「意思があり、勝ち気で、生意気」を売りにした少女バンドを組んで人気が出ましたが、高校卒業の頃に解散しました。30代半ばとなった3人は、今でも時々食事をする仲ですが、もうあの頃のように本音を話すことはありません。

夫の浮気に気付いても嫉妬を感じない自分に戸惑うイラストレーターのちづる。暇つぶしに始めたジムや教養講座も心の空白を埋めてはくれずにいましたが、夫の浮気旅行をきっかけに、自分の作品で個展を開こうと思い立ちます。うん、ここまでは良いよ。でもギャラリーのオーナーの康彦と深い仲になる展開はどうよ😖 

麻友美にとっては、バンド時代が自分の人生のピークでした。自分のファンだった男と結婚し贅沢な生活をする中で、娘を芸能人にしようと考えた彼女は芸能スクールに入れるのですが、引っ込み思案な娘はオーデションに落ちてばかり。そんな折、バンドを再結成してテレビ出演の話を持ちかけられますが、2人に断られてしまいます。
自分の夢を子供に押し付けていると指摘された麻友美は、小学校受験に方向転換します。

有名な翻訳家の母を持つ伊都子は、バンド解散後は雑誌モデルやコラムを書いたりしましたが長続きせず、現在は写真集を出そうとしています。恋人の恭市はフリーの編集者ですが、実は妻子持ちだったことがわかります。不実な男に縋ろうとする彼女は、依存の対象が母から男に変っただけなんだよな~。😓 

3人共、自分の奥底にある不安や自信の無さを気付かない振りをしてやり過ごそうとしながらも、抑えきれないモヤモヤを抱えています。
それが、伊都子の母の癌がわかったことで大きく物語が動き出します。

伊都子は自分を束縛し支配してきた母への反発と憎悪を抱えていましたが、その母が余命わずかと知らされた途端、死なせてたまるものかと必死になります。確かに彼女の母はかなり強烈な女傑として描かれています。(「男に期待するのは能無しのすること。平凡は敗残者の隠れ蓑だ。」と娘に教え込んだ彼女は、シングルマザーとして娘を育てるために強くならざるを得なかったともいえるのかな?)
写真集の出版のこともどうでもよくなり、怪し気な宗教や拝み屋や民間療法にのめり込みます。そんな彼女の異常行動を二人は危惧しますが、だからといって何も手助けできずにいました。

錯乱衰弱した母の記憶の断片に登場する海が、昔母娘で滞在したスペインの海だと気付き、最期に海を見せてあげたいと思った伊都子は、二人に母を病院から連れ出して海を見せる手伝いを頼みます。伊都子の母は麻友美にとって理想の母親像であり、ちづるも思い入れがありました。伊都子の気持ちを汲んだ二人は協力することを決めます。

伊都子と母親が海を見ながら寄り添う姿をそっと見守るちづると麻友美。帰途、容体が急変した伊都子の母は運ばれた病院で息を引き取ります。
病院を抜け出し海で少女のようにはしゃぐ3人は「あの頃」に戻ったかのよう。
例え死期を早めたとしても、伊都子にとっては最高の看取りだったのだと感じました。

東京に戻った伊都子は立派に母の葬儀を出し、スペインへ旅立ちます。
ちづるは夫と別れ、麻友美は次の子供を妊娠します。
伊都子やちづるにとって、夫や恋人は自分の不安を埋めるだけの存在に過ぎなかったように思えます。裕福とは言えない家庭に育った麻友美にとって、自分にも娘にも甘く贅沢をさせてくれる夫は手放したくない存在で愛情もあるのですが、どこか卑屈さを感じてしまうという彼女の心の棘が気がかりではあります。

3人の食事会は無期限延期となりましたが、何年、年十年?経った彼女たちには確かに興味を覚えますね。😁 



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始まりの木

2024年12月29日 | 
夏川草介(著) 小学館(発行)

藤崎千佳は、東京にある国立東々大学の学生である。所属は文学部で、専攻は民俗学。指導教官である古屋神寺郎は、足が悪いことをものともせず日本国中にフィールドワークへ出かける、偏屈で優秀な民俗学者だ。古屋は北から南へ練り歩くフィールドワークを通して、“現代日本人の失ったもの”を藤崎に問いかけてゆく。学問と旅をめぐる、不思議な冒険が、始まる。
“藤崎、旅の準備をしたまえ” (あらすじ紹介より)

第一話 寄り道【主な舞台 青森県弘前市、嶽温泉、岩木山】
第二話 七色【主な舞台 京都府京都市(岩倉、鞍馬)、叡山電車】
第三話 始まりの木【主な舞台 長野県松本市、伊那谷】
第四話 同行二人【主な舞台 高知県宿毛市】
第五話 灯火【主な舞台 東京都文京区】

古屋助教授は40代半ばかと思われますが、その行動や言動は十数歳上の印象を与えます。彼の毒舌を意に介さず、ただその人柄と学識に惹かれて慕う千佳が何だか微笑ましい。彼女の大雑把で明るい性格は、古屋の亡き妻と似たところがあるように思えます。

本屋で目にした「遠野物語」の特集記事から衝動的に柳田国男のそれを手に取った千佳は、進学した東東大の文学部で「遠野物語」の講座に興味を惹かれて民俗学の門を叩きます。
丁度今年、柳田国男の「遠野物語」を読みましたが、単なる物語ではなく歴とした民俗学術書と気付いて文体と解説に怖気を振るって飛ばし読みで終わった身には、千佳のようにその奥深さに惹かれることもありませんでした。この本で柳田国男という民俗学者の崇高な理念や生き方を知ったのは何だか不思議な巡り会わせです。

古屋の語る、日本と他国の宗教観の違いはなるほどと思わせます。
日本人は山や森や川、岩や木といった「そこにある自然」を敬い寄り添いながら生きてきた民族であり、八百万の神の御神体は自然に存在しています。
しかし、現代では科学や統計学、医学の発展に伴い、それら目に見えないもの、説明できないものの存在は無と見做され軽視され忘れ去られようとしています。

古屋はそんな日本人の行く末を危惧し、無闇と前に進むことに警鐘を鳴らし、ここに至った道を丹念に調べ、どこへ道を繋げていくのかを考えるのが民俗学の仕事でもあると言います。千佳の質問には「就職の役には立たないが、人生の岐路に立ったとき判断の材料を提供してくれるのが民俗学という学問だ。」 と答えます。「これからは民俗学の出番だ。」 といった彼の言葉を千佳は受け継ぐのです。

千佳は曇りのない目で物事を見て感じることのできる女性です。古屋とのフィールドワークの先々で不思議な出来事に遭遇するのも、彼女の感受性の豊かさの現れなのかも。

古屋の飛行機とエスカレーター嫌いは、妻との旅先で遭遇した事故が理由でした。荷物持ちで同行する千佳は第一話でそれを知ることになります。

第二話では岩倉で出会った青年との不思議な邂逅が登場します。叡山電車の車内から見た紅葉のトンネルの描写は鮮やかな色彩が目に浮かぶようでまさに幽玄の境地になります。

第三話では、古屋と彼の亡き妻との思い出の木が登場。その威風堂々とした大木を前に彼の民俗学への想いが語られます。

第四話では院生の仁先輩のフィールドワークの地で起こった出来事が描かれます。
修行僧の声と姿に導かれた千佳が、倒れていたお遍路の男性を助けることになるのですが、同行していた古屋には僧の声も姿も聞こえず見えずだったのです。(ちなみにお遍路笠に書かれている「同行二人」とは、お遍路はたとえ一人旅でも、お大師様が寄り添ってくれる二人旅という意味なんだそう。)
古屋の毒舌を始終浴びている千佳ですが、彼女には自然の中に存在する神を感じ取る才能があるようです。

第五話で大学近くの寺の住職と古屋の関係が登場します。住職の「大切なのは理屈じゃない。大事なことをしっかり感じ取る心 で、その心の在り方を、仏教じゃ観音様って言うのだよ。 」との言葉が胸に響きます。寺の樹齢600年の桜の老木が、住職の命の際に見せた満開の花の描写にも心打たれました。

古屋の毒舌は的を得ているだけに敵を作ってしまいます。時には無謀な振る舞いで暴力を受けたりも。千佳はそんな古屋に対しても物おじせずに真っ直ぐ向き合い、直球で受け答えしています。そんな彼女を古屋も気に入っている様子が随所にうかがわれるのが何だか愉快です。

五話を通じて登場するのは樹齢を経た木々や雄大な山の姿です。五話で登場する桜の老木が道路拡張のために伐採の運命にあるというのはまさに現代の自然への敬意を忘れた日本を象徴しているように思えました。

これまで筆者の医療ものしか読んで来なかった身には、宗教観にも通じる民俗学をテーマにした本書はとても珍しく感じましたが、根柢にある思いは共通しているのかもしれません。

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