職場の同僚の安西さんの8才の娘を預かることになった更紗は、亮と一緒に梨花ちゃんを預かります。(安西さんはシングルマザーで、更紗と同じく同僚たちから浮いた存在ですが、妙に気が合う唯一の「友達」です。)ところが、数日後、更新された例のサイトに載った写真に写っていた梨花ちゃんが履いていたサンダルを見た更紗が亮を問い詰めると、彼から激しい暴力を受けます。逃げ出した更紗の足は『calico』へ向かっていました。

店の前で佇んでいた更紗を文は中に入れてくれます。文は更紗のことをちゃんと気付いていました。亮と別れる決心をした更紗は、安西さんから教えてもらった「夜逃げ屋」を使って家を出ます。引っ越し先は何と文の隣の部屋 谷さんに見つからないよう外出の際には変装していた更紗ですが、文には引っ越し初日にバレていたようです。そりゃそうだ!! 

当然、亮も気付いてマンションで待ち伏せされ、再び暴力を受け警察沙汰になります。DV男の常として、暴力を振るったあとは「二度としない」と謝り反省するのよね~~でもその約束はまた必ず破られる。病気ですから!!

梨花ちゃんと再び預かることになった更紗は、ホットプレートを借りたのをきっかけに、3人で食事をしたり、梨花ちゃんが熱を出した時には文が面倒を見てくれます。そんな時、マンションの入り口で谷さんと遭遇し、警察に連れて行かれます。しかし文が更紗のことを了承していると知ると、谷さんは誤解を認めて更紗に謝罪します。

約束の日にちが過ぎても安西さんは帰ってきません。正社員の話が出ていた更紗でしたが、ある日、本社の人から『いまだ終わらない家内更紗ちゃん誘拐事件』と題された週刊誌の記事を見せられます。そこには現在の文と更紗の様子が写真入りで載っていました。翌週には亮が話したとわかる続報が出て、更紗はバイトを辞めることになります。話し合うため亮に会った更紗でしたが、揉み合った際に彼が階段から落ちてしまいます。更紗に突き落とされたと亮が言ったため、更紗だけでなく文や梨花ちゃんも事情聴取されることになります。警察は文に梨花ちゃんの面倒を見させたことを責め、前と同じく文を庇う更紗の話を全く聞こうとしません。

「全国被害者支援ネットワーク」のパンフレットを手渡された更紗は「私にわいせつ行為をしていたのは文ではなく、私が預けられていた伯母の家の息子です。文はあの家から私を救い出してくれたたったひとりの人でした。」と言います。

文の過去を知った谷さんは、受け容れられないと彼から去っていきます。文人ずっと一緒にいたいと訴える更紗に、文は自分のことを語り始めます。

良妻賢母を絵にかいたような母に育てられ、優秀な兄を持つ文は、思春期になっても二次性徴のない自分の身体に悩むようになります。

”正しい”方法で”正しい”育児をする母に普通でないことを打ち明けることができず、大学生になって家から出ても、仲間たちについていけず一人で過ごす彼は、成熟した女性に恐怖を感じるようになり、自分はロリコンだと思い込もうとしますが、それもうまくいきませんでした。

文の症状は「性腺機能低下症」と思われ、男性ホルモンの欠乏により性的発達(声変わり、陰毛や髭、性器の成熟)が遅れる病気ですが、ホルモン治療である程度改善できるようです。でも、文は周囲に隠していたので治療の機会と効果を逸していました。

雨に濡れながら公園のベンチを離れようとしない更紗に、自分と同類の孤独を感じた文は声をかけずにはいられなかったのです。更紗を連れ帰り一緒に過ごすことがどんな結果を生むかを知りながら、文は敢えて自分を破滅に追い込んでいったとも言えます。

目玉焼きにケチャップをかけ、お腹がいっぱいになると片付けもせずに寝転がり、夕食前にアイスを食べ、宅配ピザを食べながら残酷なシーンのある映画を楽しむ・・・恐ろしいくらいに自由な更紗の振る舞いが、文の心を解き放っていきます。

やがて訪れた運命の日。逮捕され、身体検査で予想していた通りの病名を告げられ医療少年院に送られた文は、やっと治療を受けますが手遅れだったようです。刑を終えると用意された自宅の離れで引き籠り状態で暮らしていましたが、母が倒れ兄家族の同居が決まると、幼い娘のいる兄嫁が嫌がったため、生前贈与されて家を追い出されます。

ある意味、自由になった文は、ネットで更紗の情報を見つけて、彼女の住む地でカフェ『calico=更紗の意』を開きます。(初めからカフェの名前に文の思いが込められていることにここでやっと気づいた)自分が彼女の人生を狂わせたと思う文は、ただ同じ場所で生きているだけで満足していたのでした。

彼の告白を聞いた文は、自分は文に恋をしていないしキスや抱き合うことも望まないけれど、彼と一緒にいたいのだとはっきり悟り、それを文に宣言します。

 冒頭のファミレスでの会話は、文と更紗、梨花のものでした。事件の動画を見て騒いでいる高校生たちは世間一般の受け止め方の見本みたい。理解してもらえなくても真実は三人だけが知っている。このことのもどかしさと切なさと愛しさがこみあげてくる結びです。

ネット時代の今、過去はどこまでも二人を追いかけてきます。そこにいられなくなったら新しい土地に行くだけという、いっそ潔い二人の生き方は逃げにも見えますが、世間に真っ向から立ち向かい理解してもらうことの難しさを知り尽くしたものの強さとも受け取れました。

安西さんが年に一度梨花と会うことを許してくれるのは細かいことは気にしない性格だからと描かれますが、この物語に登場する「母」たちは、一人として「普通」ではありません。自分の理想に邁進しレールから外れることを許さない文の母、重い荷物は手放し顧みない更紗の母、恋人と過ごすために娘を何日も他人に預けて平気な梨花の母・・・三人の抱えてきた「孤独」故に、彼らは強く結びついたともいえるのかな?

19歳の文の選択は間違っていたけれど、文と出会わなかったら更紗は幸せだったかというとそれも違う。「被害者」と「加害者」として出会った「事実」と互いを必要とし合っている「真実」。「今の場所にいられなくなったら今度はどこに行きたい?」と聞く更紗に「どこにでもついていくよ」と答える文の姿が重なります。世間からどう思われようと、今の二人は穏やかで幸せな暮らしをしているのですから。