杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

翔ぶ少女

2023年11月28日 | 
原田マハ(著) ポプラ社(発行)

泣き叫ぶことしかできなかった、あの朝。
二度と大切なものをなくさないように、あたしは強くなりたい。
1995年、神戸市長田区。震災で両親を失った小学一年生の丹華(ニケ)は、兄の逸輝(イッキ)、妹の讃空(サンク)とともに、医師のゼロ先生こと佐元良是郎に助けられた。復興へと歩む町で、少しずつ絆を育んでいく四人を待ち受けていたのは、思いがけない出来事だった――。(あらすじ紹介より)


1995年1月17日。阪神淡路大震災が起き、パン屋を営んでいた阿藤家は全壊し両親は亡くなり、丹華は右足を大怪我します。
火の手が迫る中、動けない丹華や兄の逸騎、妹の燦空を助けてくれたのは長田区で心療内科をしている「ゼロ先生」こと佐元良是朗でした。

ゼロ先生は丹華たちを養子として引き取り、仮設住宅で4人で暮らし始めます。丹華の右足は元には戻らず、引きずって歩くようになります。怪我や震災孤児となったことへの同情や憐みの視線に居たたまれなさを感じる丹華は、次第に友達から浮いていきます。唯一の楽しみは、ゼロ先やゆい姉(心療内科の研修医)に同行する復興訪問と、同じボランティア仲間の陽太に会うことでした。

陽太への気持ちが高まるにつれ肩に違和感を覚えるようになったある日、突然皮膚が裂けて小さな白い羽が生えてきます。驚く丹華でしたが、すぐに羽は背中から落ち消えてしまいます。体の変調を大人になる準備かもと考え不安になる丹華が何だか愛しくなります。

陽太のことを考えると肩が痛くなると気付いた丹華は、心に隙間を作らないよう猛勉強を始めます。病気やケガで苦しんでいる人や困っている人を助けてあげたいと思うようになり、ゼロ先生のような医者になりたいと考えたのです。ゼロ先生は宿題や授業でわからないことがあったら徹底的に付き合ってくれました。

震災から6年が経ち丹華が中2になったある日、ゼロ先生が倒れ救急車で総合病院に搬送されます。どうにか持ち直したものの、先天的な心臓疾患があり、早急に開胸手術が必要ですが、手術を成功させるには高度な腕を持つ心臓外科医でなければいけません。
ゆい姉からゼロ先生には東京の大学病院に勤務している優秀な心臓外科医の息子・佐元良裕也がいること、震災の時に倒壊した自宅の中に奥さんの昭江を残して他の被災者の救出にあたっていた父親を許せず、以来断絶状態にあることを聞いた逸騎と丹華は、ゆい姉に頼んで裕也先生の勤務先を訪問します。必死にお願いした兄妹でしたが、裕也先生は手術を断ります。この時二人は「おっちゃん」ではなく「お父ちゃん」を助けてと口にしています。大事な人、愛する人としてゼロ先生は彼らの「家族」なのです。

その夜、病院近くのビジネスホテルに泊まっていた丹華が真夜中に目を覚ますと、再び肩から羽が生えてきました。
裕也先生の病院まで飛んで、5階の窓から羽を生やしたまま部屋の中に入った丹華は(この時、裕也先生もニケが勝利の女神だという震災時のゼロ先生が丹華を励ました時と同じことを口にします)、今すぐにでも裕也先生を連れて神戸まで飛んでいくと宣言した後、意識を失い、気付くと病院のベッドの上にいました。ホテルの部屋から消えた丹華を追ってきた逸騎とゆい姉が側に立っています。
裕也先生は丹華の羽のことは誰にも話さず、「僕も(親父のもとへ)飛んでいこう」と言いました。

震災から10年が経ち、長田の街も見違えるように綺麗になっていました。
裕也先生に手術してもらい健康を取り戻したゼロ先生は、復興カウンセラーとして活躍しています。逸騎は高校を卒業して調理の専門学校に進学しています。中学生の燦空はファッションに夢中で、楽しい学校生活を送っています。高3になった丹華は、神戸大医学部合格を目標に毎日勉強に励み、放課後「阿藤パン」があった場所にできた喫茶店「もくれん」でコーヒーを飲みながら参考書と問題集を広げるのが日課です。

家族や友だちや大好きな人たちとこの土地で地に足着けて生きていくと決意した丹華の背中には、あれ以来羽は生えていません。

3兄妹の名前が「イチ・ニ、サン」となっているのが印象的です。料理上手な兄とおしゃまな妹、とても仲のよい兄妹です。
主人公の丹華が、ギリシャ神話の勝利の女神(ニケ)のように前を向いて進んで成長していく姿が描かれています。
「背中に羽」の丹華の心を投影した表現とも思うのですが、ここは素直にファンタジーを楽しむ方が良いのかも。

ゼロ先生を始め、ゆい姉や、仮設住宅のお隣さんだった佐々木のおばちゃん(後に孤独死していて切なかった)、長田名物そばめしの店主、「もくれん」の妙子さんなど周囲の人たちの輪がとても温かい。
震災時の描写や、愛する人を置いていかなければならなかった悲しみ、苦しみに何度も涙が出そうになりますが、目を背けずにいたいと思いました。

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ガラパゴス 前後編

2023年11月28日 | ドラマ
捜査一課・継続捜査班の刑事・田川信一(織田裕二)は、鑑識課の木幡祐香(桜庭ななみ)に頼まれて身元不明の死者リストを調べていた。田川は、リスト「903」の男が一酸化炭素中毒自殺に見せかけて殺害されたことを見抜く。田川と木幡は男の死を丹念に捜査し、男が沖縄県出身の派遣労働者・仲野定文(満島真之介)だと突き止める。一方、特殊班捜査係の鳥居(伊藤英明)は田川の行動に目を光らせつつ、裏では人材派遣大手ホープネス・ホールディングスの森社長(髙嶋政宏)、自動車メーカー・ヒラガモーターズの松崎社長(鶴見辰吾)と緊密な関係を結んでいた。そして田川は生前の仲野がホープネス系列の人材派遣会社に登録し、ヒラガモーターズの自動車工場に働いていたことを知る。仲野がネット上で何かを告発しようとしたことも…。その真相とは?(あらすじ紹介より)

織田裕二主演に惹かれてDVDをレンタルしたら、再放送されているのに後で気付いた😓 既に3話まで放送済だったから、ま、い~~けど。

被害者の仲野は、友人に正社員の座を譲ったために就職に失敗し派遣として働いていましたが、過酷な労働環境のなかでも明るく振る舞い、仲間を思い励ますような青年でした。彼を悪くいう者はなく人に恨まれるような人間ではないと皆が証言します。

一方、鳥居は、汚名を着せられ自殺した父のようにはなるまいと心に決め、高校の先輩で人材派遣会社ホープネスを業界大手に育て上げた森に情報を流す見返りに先輩警察官たちの天下り先を斡旋してもらい、警察組織のなかで成り上がっていきます。地道に足で事件を丹念に追う田川と対照的な人物ですね。

労働者派遣法による規制緩和が、逆に派遣の立場を損なっている現実が描かれます。結局は企業に有利な制度なのよね。😡 
ヒラガモーターズ社長・松崎は人件費削減のため、ホープネスから労働者を斡旋してもらっていましたが、派遣社員は人件費ではなく部品や備品と同じ
外注加工費の扱いになっていました。
そんななか、ヒラガは燃費向上とコストカットのために薄い金属板を使った車を生産し出荷します。しかし当時工場に勤めていた理系出身の仲野は、安全面に問題があるヒラガ車の欠陥にいち早く気付いて、ネットの掲示板で告発します。
ところが、ホープネスには、派遣社員の相互監視制度(チクリ)があり、同じ派遣労働者の清村仁が仲野の行動を森の秘書の高見沢に告げ口します。

報告を受けた森は、松崎に恩を売るため仲野を消すことにします。鳥居から助言(大きな事件が起これば捜査が手薄になる)を受け、無差別通り魔事件が起こった夜に殺人が決行されます。仲野と工場で仲が良かった長内保を正社員の座を餌に協力させ、清村と二人で青酸化合物を飲ませて殺害したのです。亡くなる直前に全てを悟った仲野は、「貧乏の鎖は俺で最後にしろ。」と言い、最後の力を振り絞り「780816」のメモを遺しました。

この数字は欠陥車の車体番号 でした。
田川たちの執念の捜査が実り、長内、清村、高見沢は逮捕されますが、事件の原因となったヒラガへの捜査は警察上層部や政治家の圧力で中止されてしまいます。
裁判が始まり証人台に立った田川は、派遣労働者を食い物にしてきた森と松崎の行為を糾弾するのでした。


タイトル「ガラパゴス」は、孤島という閉鎖環境の中で、生物が独自の進化を遂げたガラパゴス諸島の名からきていて、家電製品などを日本独自の機能やサービスにこだわった結果、海外で受け入れられない状態を表しています。
ハイスペックを求めた結果、値段で負け海外市場で取り残された日本の液晶テレビを連想しますね。
ドラマではヒラガモーターズがハイブリッドに傾倒するあまり日本でしか売れないメーカーとなっていました。仲野は、掲示板に「俺たちは“ガラパゴス”の最前線にいる」 と書き込んでいますが、まさにそのことを予見していたかのようです。

長内が友人を殺してまで手に入れたかった正社員の座。非正規から抜け出せない派遣労働者の現実が重くのしかかってきます。派遣労働者を部品としてしか見ない人材派遣会社のシステムも恐ろしいですが、正社員と非正規の格差も厳然とある現実も哀しいです。

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翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて

2023年11月27日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年11月23日公開 116分 G

埼玉県内の田舎道を、1台のワゴン車が与野在住の家族(和久井映見・アキラ100%、朝日奈央)を乗せて、熊谷に向かって走っている。カーラジオからは、埼玉のご当地ソング「人生たまたま…さいたまで」(はなわ)に続き、DJが語る、埼玉にまつわる都市伝説・第Ⅱ章が流れ始める――。
その昔、東京から蔑まれていた埼玉県人が、壮大な茶番劇の末に通行手形を撤廃し、関東に平和が訪れた。埼玉解放戦線を率いる麻実麗(GACKT)と壇ノ浦百美(二階堂ふみ)は、さらなる平和を求めて活動(=日本埼玉化計画)を推し進めていたが、埼玉県人は横の繋がりが薄いという問題が浮上する。
麗は埼玉県人の心を1つにするために、越谷に海を作る無謀な計画を打ち立てる。美しい白砂を持ち帰るために、百美を残し、和歌山県の白浜を目指して解放戦線のメンバーとともに大海原に出るも、船が嵐に巻き込まれて難破し、麗は独り和歌山の海岸に漂着する。そこで麗は、滋賀解放戦線の桔梗魁(杏)と運命的な出逢いを果たす。
当時の関西は、大阪府知事の嘉祥寺晃(片岡愛之助)、その妻の神戸市長(藤原紀香)、京都市長(川﨑麻世)らの支配下にあり、滋賀県人、和歌山県人、奈良県人らが非人道的な扱いを受けていた。白浜も大阪人のためのリゾート地になっており、通行手形のない者は入ることができず、そこには和歌山解放戦線のリーダーである姫君が囚われていた。
桔梗は姫君を、麗は嘉祥寺に囚われた仲間たちを救い出そうとするが、麗もまた嘉祥寺の手中に落ちてしまう。嘉祥寺が恐ろしい計画を企てていることを知った麗と桔梗、そして百美たちは、暴走する嘉祥寺を阻止することはできるのか……!?
そして、この事態は日本全国をも巻き込む誰も予想だにしなかった史上空前の東西対決へと発展していく! 鍵を握るのは“琵琶湖”? 埼玉の、日本の命運やいかに――!?(公式HPより)


埼玉県の自虐ネタを詰め込んだ魔夜峰央のギャグ漫画を実写映画化した「翔んで埼玉」のシリーズ第2弾です。
正直二番煎じはどうかな?と不安もありましたが、こちらも笑えてスッキリな娯楽作になっていました。
平日朝イチの回なのに8割がた席が埋まっているのも前作同様で、埼玉に限りなく近い場所柄ではありますが人気は侮れません😁 

監督(武内英樹)、脚本(徳永友一)は前作と同じですが、新キャストとして、通行手形制度撤廃に向けて滋賀県人たちを導く「滋賀のオスカル」こと桔梗魁を杏、関西を牛耳る冷酷無慈悲な大阪府知事・嘉祥寺晃を片岡愛之助が演じるほか、堀田真由、くっきー!(野性爆弾)、高橋メアリージュン、津田篤宏(ダイアン)、天童よしみ、藤原紀香、川崎麻世、和久井映見、アキラ100%、朝日奈央、戸塚純貴ら個性的な顔ぶれが登場しています。(映画.comより引用)

前作から3カ月が経ち、団結が緩んできた埼玉を危惧する麻実麗と百美は、横の繋がりを強くするため武蔵野線の建設を進めていました。しかし各鉄道会からは「横のつながりより、東京ディズニーランドに電車をつなげたい!」と相手にされません。県民の日にはこぞってTDLに出かけるという埼玉県人を早速ディスり、それぞれが東京に乗り入れている鉄道会社5社をもディスる出だしにまず笑わされます。

皆をもう1度団結させるために麗が考えたのは「和歌山から白い砂を運んできて埼玉にビーチを作る!」こと。(そういえばしらこばと水上公園ってあったな😀
麗は百美に留守を頼み、信男(加藤諒)やおかよ(益若つばさ)たちを引き連れ千葉解放戦線の船で和歌山へ向かいますが、嵐に遭い転覆し独り砂浜に漂着し、滋賀解放戦線の桔梗に助けられます。

桔梗は大阪県知事・嘉祥寺の圧政により、滋賀や和歌山から大阪へ行くには通行手形が必要で、和歌山のビーチも大阪人のものになっていると話し、麗に滋賀を解放するため協力して欲しいと頼みます。
その頃、信男たちは嘉祥寺に捕まり甲子園の地下で重労働をさせられていました。
麗が捕まった時に登場するウンパルンパダンスは「チャーリーとチョコレート工場」のシーンの丸パクリで、前日譚を描いた『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』が2023年12月8日(金)に公開される こともありグッドタイミングというか、これも狙い?個人的にツボでした😍 

今作では大阪人が滋賀・和歌山・奈良をディスりまくります。
関西方面にはかなり疎いのですが、思わず笑ってしまうネタがたくさんありました。
滋賀の車のナンバープレートの文字がゲジゲジに見えるため、京都に舞妓として潜入していた美湖(堀田真由)が女将(山村紅葉)に虐げられるとか、女将が洛外からの客に接する建前と本音の落差とか・・(京都人が本音を語らず裏表があるなどはよく知られている府民性ですよね😁
前作では神奈川県知事が都知事と組んでいましたが、今作では嘉祥寺の妻の神戸市長(藤原紀香)と京都市長(川崎麻世)が府知事と組んでいます。

嘉祥寺が、たこ焼きやお好み焼きなどの粉物の原材料に含まれる成分を使って日本を侵略する全国大阪府計画(最終的に全世界大阪府計画)を進めていると知った麗は、
原材料の植物を枯らすために琵琶湖の水を止めようとします。実行すれば滋賀は水浸しになる(水門を一か所閉めただけでかい!)という大きな犠牲を払う滋賀県人。😭 阻止しようとする大阪をとび太を使って対抗するのも面白かったです。この映画で初めて存在を知った「とび太」です。😀 前作でもお馴染みの有名人出身地合戦はやはり大阪側に軍配が上がりそうですが、京都の反則技に対抗した藤原紀香の出身地偽装(映画の中での設定です)が登場したり、「え?この人そうだったの」な有名人が出てきたりでこれもなかなか笑えます。でも前作の方がインパクトは強かったなぁ。

粉物積んで発射された通天閣ロケットを迎え撃ったのは田んぼアートで知られる行田タワーです。あまりのバカバカしさに笑うしかありません😁 てか、行田タワー自体知らない人の方が多いんじゃないかな。😓 

嘉祥寺が母で元大阪府知事(モモコ)の願いを叶えるために動いていたというのは動機が薄弱な感はあるし、和歌山の姫というのもよくわからない存在。美しい姫の本当の姿がアレ(天童よしみ)なのは「シュレック」のパクリでしょうか。

今作では百美の出番は少なく、麗と桔梗の絡みが多かったけれど、実は二人は兄弟だったというオチでした。マイアミビーチって和歌山だったのかぃ!

並行して与野の内田一家のドタバタも描かれます。知事肝いりの市対抗綱引き選手権大会で犬猿の仲の大宮と浦和がぶつからないよう苦心したものの、熊谷の暑さが災いして決勝でぶつかり、なんとか引き分けにしようと小細工する内田父のいじましい小役人さや、彼の滋賀出身の妻のラジオの話へののめりこみぶりや、産気付いた娘に遅れて来た夫が「子供の名前はとび太にしよう!」(彼もFM NACK5 79.5聴いてたのね。しかもパーソナリティは百美だった!)と言い出すなどこちらも本編に劣らず笑えました。大阪出身の助産師のおばちゃんが娘の介助をする展開で、大阪フォローも忘れないあたりが上手い!😁 



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雨を告げる漂流団地

2023年11月26日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年9月16日公開 120分 G

まるで姉弟のように育った幼なじみの航祐(CV:田村睦心 )と夏芽(瀬戸麻沙美)。小学6年生になった二人は、航祐の祖父・安次の他界をきっかけにギクシャクしはじめた。
夏休みのある日、航祐はクラスメイトとともに取り壊しの進む「おばけ団地」に忍び込む。その団地は、航祐と夏芽が育った思い出の家。航祐はそこで思いがけず夏芽と遭遇し、謎の少年・のっぽ(村瀬歩)の存在について聞かされる。すると、突然不思議な現象に巻き込まれ――気づくとそこは、あたり一面の大海原。航祐たちを乗せ、団地は謎の海を漂流する。はじめてのサバイバル生活。力を合わせる子どもたち。泣いたりケンカしたり、仲直りしたり?果たして元の世界へ戻れるのか?ひと夏の別れの旅がはじまる―(公式HPより)


取り壊しの進む団地に入り込み、不思議な現象によって団地ごと海を漂流することになった小学6年生の少年少女たちが繰り広げるひと夏の別れの旅を描いたアニメーション作品です。
可愛らしい絵柄に惹かれて観ましたが、内容はけっこう重かった😓 

二人と共に漂流することになったのは、航祐に好意を持っている令依菜と彼女の親友の珠理、二人と同じサッカーチームの太志と譲です。

夏芽と航祐は同じ団地に住んでいた幼馴染で、サッカーチームの2トップですが、老朽化した団地の取り壊しで引っ越ししてから、夏芽はチームに顔を出していませんでした。引っ越しで家が片付いていないと言う夏芽でしたが別の理由がありました。

作業員の目を盗んで団地に入った航祐、太志、譲は、航祐が住んでいた112号棟に忍び込み、鍵が開いていた航祐の祖父・安じいの部屋で寝ていた夏芽を発見します。寝ぼけて「のっぽくん?」と言った彼女は、のっぽくんとは以前団地に住んでいた少年だと説明します。団地の近くを通りかかった令依菜も、屋上に航祐たちの姿を見かけて珠理と団地に入り合流します。

夏芽が祖父のカメラを持っていたのを見咎めた航祐と喧嘩になった夏芽は煙突に上りますが急に降ってきた雨に足を滑らせ落下しますが、次の瞬間、112号棟は海の上に浮いていて、夏芽も水中に落ちて無事でした。
外界と切り離され、スマホも圏外で途方に暮れる中、夏芽は灯りや、雨水を沸かした湯、持ち込んでいたコーラやお菓子、ブタメンをなどを用意します。皆が幽霊と間違えたのがのっぽくんでした。この現象は以前にも経験していて、でも寝て起きると元の世界に戻ったから大丈夫という夏芽でしたが、翌朝も状況は変わらずに団地は漂流を続け食べ物も少なくなってきます。
屋上で一人見張りを続ける航祐は、時折別の建物が近づいてくるのに気付きます。
近づいてくる建物に飛び移って食べ物を探そうとした航祐を心配して夏芽もやってきますが、ガラス片でケガをしてしまいます。何とか非常用持ち出し袋を見つけて持ち帰り、航祐も皆と一緒に過ごすようになります。
あのカメラは航祐の誕生祝いで安じいからのサプライズの筈だったと言われた航祐でしたが、素直になれず受け取らずに逃げてしまいます。

遠くに自分たちの町の景色が見えて戻れると喜ぶのですが、航祐がのっぽくんの左手の異常に気付きます。自分はこの団地が出来た時らここにいてみんなのことを見てきたと言うのっぽくんの左腕には植物が生えていて、皆驚きながらも彼を受け入れます。

夏芽と航祐は家族のように育ってきたのですが、入院している安じいの見舞いに行った日に、励ますつもりで「お前のじーちゃんじゃない」と言って夏芽を傷つけてしまい、それを聞いていた安じいから「謝ってこい!」と叱られたのが安じいとの最期の会話になっていました。素直に謝ることのできないままの航祐と自分のせいだと気にしている夏芽は以来ぎくしゃくしていたのです。

一向に町に近づく様子のないまま、大きな建物が近づいてきます。それはかつて町にあったデパートで航祐、夏芽、のっぽくんが向かいますが、食べ物は見つからず、おもちゃ売り場での過去の悲しい出来事(両親の喧嘩)を思い出した夏芽は固まってしまいます。その後両親は離婚し、母と団地に引っ越してきた夏芽を可愛がってくれたのが安じいでした。
その時、デパートに他の建物がぶつかり、さらに団地にデパートがぶつかります。
衝撃で傾いた団地の屋上から落ちそうになった太志を珠理と令依菜が助けますが、今度は珠理が落ちそうになります。夏芽が珠理を助けますが体勢を崩して海中へ落ちてしまいます。海の底から現れたモヤのようなものが夏芽の足に絡みついて引きずり込もうとするのをのっぽくんが助けますが、彼の左足首が失われ鉄骨のようなものが剥き出しになります。

頭を怪我して意識が戻らない珠理を見て半狂乱になった令依菜が夏芽を責めます。
独りでいる夏芽を慰めようとした航祐に彼女も本音(両親の不仲で泣いてばかりだったけれど団地に来て安じいに受け入れてもらい航祐と3人で本当の家族のように過ごしたことへの感謝の気持ち)を明かします。

深夜、団地の浸水が始まり、脱出のための準備を始めます。姿の見えないのっぽくんを探しに屋上へとやってきた航祐に、彼は「この海は、本当はぼくだけが来るはずだった。ぼくが君たちを連れてきてしまった。」と言います。
全員で脱出すると決め、浴槽を繋いで筏にして乗り込みますが、残ろうとしたのっぽくんを追って夏芽が戻ってしまいます。

筏に残った5人の前に家族の幻影が見えます。その中には夏芽の母の姿もあり、航祐は夏芽も一緒に帰るんだ!と叫びます。すると近くに遊園地の観覧車が姿を現します。

団地の屋上で、自分のせいでみんながバラバラになった、お母さんだって自分がいない方がいいんだ!と呟く夏芽でしたが、「でも怖い、怖いよ」と。それが本心だよね。

嵐の中、団地に近づく観覧車。5人は協力して団地を引き寄せようとします。
バランスを崩した令依菜を助けたのは突然現れたお姉さん。のっぽくんのように緑色がかっている彼女はこの遊園地によく来ていた幼い頃の令依菜を覚えていると言います。

皆を危険に曝したと責める夏芽に航祐は一緒にいたいんだと叫びます。再び団地と観覧車は離れてしまい、傾いた屋上で身を寄せ合い荒波を耐えた3人の前に島影が現れ、近くに観覧車が浮かんでいるのが見えました。

筏で団地に戻ってきた4人と合流した夏芽たちは、美しい花と緑の島に人影を見ます。降りようとする皆を止めたのっぽくんは別れを告げます。

青白い光に包まれた団地がゆっくりと浮かび上がります。光に包まれた彼らが目覚めると、もとの団地の屋上にいました。

彼女を探しにきた母に本心を話す夏芽。
日常が戻ってきました。112号棟は取り壊されましたが、安じいのカメラで撮った写真にはあの日の海やのっぽくんの姿がありました。

夏芽は自分が必要とされていないのではという不安を抱えながら強がってみせています。それに気づいて心配しながらも素直になれない航祐。二人を結び付けていた団地と安じいを失ったことで、夏芽の中で何かが壊れてしまうのですが、思わぬ事態が再び二人の絆を繋ぎます。のっぽくんや観覧車のお姉さんは取り壊される建物の化身のような存在でしょうか。かつて暮らした、遊んだ人たちを慈しむ気持ちが彼らの中にあり、そんな彼らの行き着く安住の地としてあの島があるのかもしれません。

正直、夏芽より令依菜の方が素直だし、珠理は誰より大人だしで、一番ガキンチョなのが夏芽と航祐でした。二人の心の成長が軸になっているので当たり前ですが😁 

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彼女の家計簿

2023年11月25日 | 
原田ひ香(著)光文社(刊)

家庭に恵まれなかった里里は、シングルマザーとなって娘と暮らす。過去に囚われる晴美は、女性の自立を援助する団体の代表を務める。母親から棄てられた朋子は、かたくなに家族を否定しながら生きる。戦地から戻った夫とすれ違う加寿は、大切なものを信じて家を出る。すべては彼女が必死に生きてくれたおかげなのだ。あたしもまた、誰かにつながるような生き方をしたい。女がひとり、必死に生きてきたその証 その家に遺されていたのは、日々の暮らしが記された家計簿。そこには「男と駆け落ちして心中した女」の秘密が隠されていた。
(あらすじ紹介より)


里里は不倫相手の子供を産み、シングルマザーとして娘の啓を育てています。
里里の母・朋子は娘に愛情を持てない人物として描かれます。娘が不倫の子を産むことに反対し、孫が生まれても会おうともしません。彼女にとって、娘の生き方は「みっともない」ので自分とは関わりがない者として徹底して受け入れようとしないのですが、それには彼女の生い立ちが関わっていました。

晴美は女性を助けるNPO法人「夕顔ネット」の代表です。
新しく建物を建て替えることになって前の土地と建物を所有していた加寿の荷物を整理していて彼女の「家計簿」を見つけたことで里里と出会います。

加寿は里里の祖母で朋子の実母でした。先代の代表の頃からNPO法人を陰で支えてきた女性で、彼女が亡くなった時に土地と建物を譲ってくれていました。

家計簿には簡単な日記も綴られていて、晴美は遺族に渡そうと朋子に送りますが、朋子は読みもせず里里に送りつけます。
加寿は男と駆け落ちしたことになっていたため、朋子は母を許せずに生きてきました。夫にも心を開くことができずに離婚し里里のことも愛せずにいたのです。

里里は、啓を心から愛していますが、自分が母から愛情を受けられずに育ったことで、娘の子育てに不安を感じていました。また、啓までも自分のように根無し草のようになってしまわないかと案じてもいました。

そんな彼女が加寿の家計簿を読んだことで、祖母が愛情をもって朋子を育て愛していたことを知り、祖母の愛情が自分に、そして啓にも繋がっていると実感します。
初めは祖母が母を捨てて駆け落ちするような酷い女性だったのかと疑った里里でしたが、家計簿の中の日記を読むうちにそうではなかったと悟るのです。

実は朋子は父親の亡くなる間際の告白を聞いて、加寿がいなくなったわけを知っていました。それでもなお、戻って来なかった母を恨み続けていたのです。

加寿の家計簿からは、戦前から戦後の厳しく苦しい生活の様子が浮かび上がります。姑に仕える様は現代の女性には想像もできないのではないかしら。戦地から戻った夫が定職にもつかず家で酒浸りになり、そんな息子を姑も責めないというのも理不尽ですが、当時の感覚では許容されるのでしょう。
代用教員となって家計を支える加寿は、悩みや愚痴を聞いてくれる同僚の教師に惹かれるようになり、遂には彼に駆け落ちを持ち掛けられます。しかし断るつもりで家を出た加寿を家計簿を盗み見していた夫が追いかけてきて谷に突き落とされてしまったのです。夫は妻が家出したと偽り、そのために家に戻ることもできなかったのが真相でした。夫の方も戦地でのトラウマなり、家長としてのプライドなりが邪魔していたのかもしれませんが、何より加寿自身が、教師として働くことに誇りと生き甲斐を見出していたのが夫婦にとって不幸の要因になっていたのかもね。

家計簿が縁で里里と親しくなった晴美の過去も登場します。
結婚を約束した恋人に婚約者がいたことがわかり、さらにその彼女が目の前で自殺してしまったことで晴美の人生は大きく変わります。彼女に手を差し伸べてくれたのが法人の前代表でした。以来のめりこむように活動に没頭してきた晴美にとっても、里里と一緒に加寿の人生を紐解いていくうちに、前に進む勇気をもらうのです。この元恋人はけっこうクズ男なんだけどね。😔 

夕顔ネットの経理をしている古参の曽我は、晴美が代表に指名されたことで関係がぎくしゃくしていましたが、彼女なりに何故自分ではなく晴美が選ばれたのかに思い至り円満に身を引きます。

夕顔ネットにやってくる女性の一人、みずきは元AV女優です。(このNPOは水商売をしていた女性たちの次の身の振り方を援助する団体なのね。)資格も何もない彼女にコンピュータープログラマーの里里がボランティアでパソコンを教えるようになり、晴美の申し出を受けてNPOを手伝いビルに住むことになります。

これまで母と正面から向き合うことを避けてきた里里でしたが、啓を連れ、晴美にも同行してもらって朋子に会いに行きます。頑なな母の心を開くことが出来なかったと感じる里里でしたが、晴美に指摘されて祖母の気持ちが母に伝わったことに気付きます。

色んな事情を抱えて、でも一生懸命に生きている女性たちの物語でした。

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2023年11月24日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年11月23日公開 131分 Rー15

天下統一を掲げる織田信長(加瀬亮)は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを繰り広げていたが、その最中、信長の家臣・荒木村重(遠藤憲一)が反乱を起こし姿を消す。信長は羽柴秀吉(ビートたけし)、明智光秀(西島秀俊)ら家臣を一堂に集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索を命じる。秀吉の弟・秀長(大森南朋)、軍司・黒田官兵衛(浅野忠信)の策で捕らえられた村重は光秀に引き渡されるが、光秀はなぜか村重を殺さず匿う。村重の行方が分からず苛立つ信長は、思いもよらない方向へ疑いの目を向け始める。だが、それはすべて仕組まれた罠だった。果たして黒幕は誰なのか?権力争いの行方は?史実を根底から覆す波乱の展開が、“本能寺の変”に向かって動き出す―(公式HPより)


北野作品特有のバイオレンスは好きではないけれど、歴史を扱った作品であること、出演俳優の豪華さに惹かれて鑑賞しました。

冒頭に映し出される、川に浮かんだ首無し死体の首があった部分をカニがついばんでいる描写に気分が悪くなってしまいました。見続けることが出来るのが不安を覚えるほどで、なるほどR15指定なわけだと納得。
これは信長に謀反を起こした村重軍の敗北を象徴するシーンで、有岡城が落城すると、村重は姿を消します。

そもそも村重という武将を知らなかったので、光秀との関係性もまたわからずに観ていくと・・・村重と光秀の禁断の関係が登場。さらに、二人の関係に嫉妬した信長が、容赦のない暴力を向ける流れで、信長・光秀・村重の壮絶な愛憎劇 に仕立てられていました。

日常が暴力と狂気に満ちている戦国時代にあって、城主と家臣の間に主従関係以上の感情が働いたとしても決して不自然ではないと思わされるあたりが面白い。
信長と小姓の森蘭丸(寛一郎)の関係は有名ですしね。😁 
光秀と村重の庇い合いにキレた信長が、コテコテの尾張弁で二人を罵倒し、刀に刺した饅頭を咥えた村重の口にぐりぐりと刀を回し入れる様は、信長の狂気をまざまざと見せつけます。

村重逃亡後、信長は光秀に村重の追跡を命じる一方、家康(小林薫)秀吉、明智光秀、丹羽長秀、滝川一益たちを前に、息子の信忠に家督を継がせる気はないと断言したうえで、一番手柄を立てた者を跡取りにすると宣言します。
村重の一族郎党は皆殺しとなり、村重と親交のあった光秀は謀反に関わりあるのではと疑われ窮地に立たされます。その渦中で、光秀は千利休(岸部一徳)から抜け忍の曽呂利新左衛門(木村祐一)が捕らえた村重を引き渡され亀山城に連れ帰って匿います。実はこれも秀吉の策略だったようです。

曽呂利はその情報を秀吉に流し、召し抱えることを条件に密命を受けます。
命令実行のため甲賀に向かう途中で、首級欲しさに友人の為三(津田寛治)を殺した農民の茂助(中村獅童)を仲間に加えた曽呂利は、甲賀の里を仕切る光源坊から、信長が信忠に送った密書を買い取ると、次に亀山城に忍び込んで光秀と村重の関係を知り秀吉に報告します。一方、間者が甲賀と気付いた光秀は里を襲撃して光源坊ら里人全員を殺してしまいます。(曽呂利の兄貴分の般若の佐兵衛(寺島進)が任務を果たして里に戻ってその光景を目にするんですね。😨 

家臣に家督を継がせる気はさらさらなく、信忠に継がせた上で邪魔な家臣を殺害するよう記された書状を読んで(文字が読めないから弟に代読させている)激怒した秀吉に、黒田官兵衛はある計略を囁きます。

村重を庇う危険を回避するため、邪魔な家康のもとに村重が逃げ込んだと信長に忠言した光秀の言葉を信じ込んだ信長は、家康に刺客を差し向けますが、家康に恩を売ろうとする秀吉が彼に注進し、曽呂利や服部半蔵(桐谷健太)に護られれ難を逃れます。

毛利攻めに時間をかけている秀吉に1年以内の決着を命じた信長の言葉を遮った光秀を、信長は側近・弥助(副島淳)を使って酷く打ち据えます。その夜、秀吉は信長の書状を見せます。魔王と崇めてきた信長が所詮「ただの人間」だったことに光秀は失望します。

影武者を用意して信長の刺客を回避し続ける家康に業を煮やした信長は、光秀に命じて毒を盛って殺害しようとしますが、家康は食べたフリをして逃れます。本作の家康はまさに「たぬきおやじ」然としています。😁 

本能寺での茶会に家康を招いた信長は、光秀に家康を襲うように命じます。これを好機と捉えた光秀は、千利休を通じて秀吉に知らせます。
秀吉は曽呂利に信長を監視させながら、千利休に家康を逃がす手助けを命じます。
同時に、毛利配下の清水宗治(荒川良々)の高松城の「水攻め」を実行します。後に「忍城」攻めにも用いた作戦ですね。映画「のぼうの城」で有名になりましたが、こちらが先なのね。

亀山城出陣に際し、光秀は家臣の斎藤利三(勝村政 )の言を受け、村重を箱に閉じ込断崖から投げ落とします。どうみても村重から斎藤に乗り換えた感じ。😩 

「本能寺の変」当日。燃え盛る炎が迫る中、信長は蘭丸の介錯を行い、次に弥助の介錯をしようとしますが、日頃の怒りを募らせていた弥助に首を切り落とされます。え?そんな最期なの😮 首をぶらさげ炎の中に消えていく弥助・・

信長の首が見つからないことに焦る光秀。
曽呂利から報告を受けた秀吉は、安国寺恵瓊(六平直政)と宗治、官兵衛の三者対談で、宗治の切腹による和平協定を取り付けます。一刻も早く明智討伐に向かいたい秀吉が、宗治の切腹儀式に苛つく様子が笑えます。
秀吉の策略を身近で見てきた曽呂利は、自身の身の危険を察知し、茂助を残して消えます。しかし予感は当たり、千利休の側近の間宮(大竹まこと)と相打ちになって殺害されます。

信長の三男信孝を擁立して討伐軍を結成し光秀と相対した秀吉は光秀軍を打ち破ります。敗走し瀕死の光秀は、森の中で今度こそ侍大将に成り上がろうとする茂助に見つかり自ら首を切って絶命します。首級を得たと喜んだのも束の間、同じく首級を狙う落ち武者狩りの農民たちの手により茂助も首を落とされてしまいました。(茂助は自分が手にかけた為三への罪悪感があるようで、家族が皆殺しになっている場面と自分の首を落とした農民の中に為三を見ています。)

持ち込まれた大量の首の中から光秀の首を検分しようとする秀吉ですが、あまりに多くの首を前に光秀かどうかの見分けもつかなくなっています。飽きてると言った方が正しいかも。適当に並べられた二つの首の一つは茂助の首と判別したのに、その横に並んだ首は汚れと血で今一つ光秀かどうか見極められません。悩んだ後「光秀が死んだ事実があれば、首なんか要らない」とその首を蹴り飛ばす秀吉を捉えて映画は終わります。

大河ドラマなどで描かれる3英傑の人物像とは真逆の裏切りと策謀の姿が浮き彫りにされ、これまでのイメージが覆されます。異色の作品ですが、北野氏らしいバイオレンスに満ちた本音の世界が描かれているともいえます。
それにしても美男同士とはいえないBL展開は胸やけしそう😞

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夢幻花 上下(大活字本シリーズ)

2023年11月23日 | 
東野圭吾(著) 埼玉福祉会 (出版)

花を愛でながら余生を送っていた老人・秋山周治が殺された。遺体の第一発見者である孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えた黄色い花の鉢植えが気になり、ブログにアップする。 それを見て身分を隠して近づいてきたのが、警察庁に勤務するエリート・蒲生要介。ふとしたことから、その弟で大学院生の蒼太と知り合いになった梨乃は、二人で事件の真相解明に乗り出す。一方、西荻窪署の刑事・早瀬も、別の思いを胸に事件を追っていた……。(あらすじ紹介より)

冒頭で登場した日本刀無差別殺人事件(MM事件)が今回の事件の発端になっていましたが、それがわかるのはずっと後になってから。
登場人物たちの共通点も全てそこに集約しています。

蒲生蒼太は中学二年の時に朝顔市(蒲生家では毎年朝顔市に出かけるのが恒例行事)で偶然伊庭孝美と知り合い交際するようになりましたが、両親に交際を反対され、孝美からも一方的に連絡を絶たれます。
父や兄に対して疎外感を抱いていた彼は、大阪の大学で原子力工学を学んでいましたが、原発事故が起き社会問題となったことで自分の進むべき道に迷いを生じ悩んでいました。

水泳でオリンピックに出ることを目標に頑張ってきた秋山梨乃でしたが、心因性の症状で泳げなくなり、家族や関係者から距離を置いて高円寺で独り暮らしをしていました。突然目標を失った梨乃もこれからの生き方に悩んでいます。

ある日、アマチュア・バンドでプロになることを夢見ていた従兄の鳥井尚人が自殺したと知らされ葬儀に参列した梨乃は、祖父の秋山周治と久々に会い、家に遊びに行きます。在職中、この世には存在しない青いバラを作り出す仕事に携わっていた周治は、自宅で沢山の植物を育てていて、それをブログで紹介することを勧めた梨乃は祖父の家に通うようになります。祖父は梨乃に黄色い花の咲いた植物を見せますが、ブログに乗せたり口外することを禁じます。その祖父が殺されているのを発見したのは梨乃でした。

所轄署の刑事・早瀬は、被害者が秋山周治と知り驚きます。別居中の息子・裕太が万引きの濡れ衣を着せられた時に助けてくれたのが周治でした。裕太にも頼まれ、恩人である秋山周治を殺した犯人を自らの手で捕まえようと、事件解決が難航する中、単独で捜査を続けます。

早瀬に接触を図ってきた警察庁勤務のエリート・蒲生要介は蒼太の異母兄でした。要介はまた、祖父の死後黄色い花の鉢が無くなっていることに気付いた梨乃がブログにアップした画像を見て梨乃に接近します。

早瀬と要介はそれぞれ単独で捜査をしますが、時に互いの情報を出し合うこともあります。一方、要介を訪ねようとした梨乃が蒼太と出会ったことで、二人もまた黄色い花を調べ始めます。

尚人のバンドの復帰ライブに誘われ梨乃と参加した蒼太は、尚人の代わりに入ったキーボードの女性が伊庭孝美そっくりなことに気付き思わず声を掛けますが、人違いだと否定されます。白石景子と名乗っていたその女性は、直後にバンドを抜け連絡が取れなくなります。

彼女が孝美だと直感した蒼太は、梨乃の友人経由で調べて貰う一方、かつて周治と一緒に研究をしていた日野和郎を訪ね、アサガオの育種家・田原にも話を聞きます。
田原から、黄色いアサガオは禁忌の花「夢幻花」だと教えられ、彼が持っていた写真に孝美が写っていることに気付いた蒼太は、孝美は黄色いアサガオを追っていると推理し、ペンデュラムのメンバーやライブハウスのオーナーの工藤アキラから話を聞きます。

孝美の家が代々町医者だったこと、彼女が慶明大学の薬学部に進学していたことがわかり、在籍していた研究室を訪ねた二人は、机の引き出しにあった去年のカレンダーから勝浦の文字を見つけます。

早瀬は裕太が周治とやり取りしていた手紙を見せて貰い、周治が茶断ちをしていたことを知ります。事件現場の違和感の謎が解けたことで、日野を問い詰めた早瀬に、日野は当日家を訪ねた時には既に亡くなっていたことを告白します。彼は周治が茶断ちしていたことを知らずに零してしまった中身の代わりに湯飲みにお茶を注いでいました。(座布団の浸みの謎が解決)黄色いアサガオを持ち去ったのは彼でした。

勝浦にある工藤の別荘を訪れた蒼太と梨乃は、前の持ち主の息子が東京で殺人事件を起こしたことを知ります。(ここで冒頭の事件と繋がるのね。半世紀も前のことだったとは驚きです。)事件を調べるうち蒼太は、マリリン・モンローを崇拝していた田中和道が彼女の死で自暴自棄になり無差別殺傷に及んで自殺したことからMM事件と呼ばれた事件の被害者の中に当時赤ん坊だった母・志摩子の名前を見つけ茫然とします。家族が皆自分に隠し事をしていると確信した蒼太は、母を問い詰めようと家に帰りますが、母は置手紙を残して消えていました。

早瀬は録音した日野の供述を切り札に要介と情報交換をします。日野が鉢の他に持ち去った黄色いアサガオの写真と一緒に入っていた三枚の細長い紙がカギとなり、真犯人が判明します。

犯人がわかってみれば、芋づる式に事件の背景が浮かび上がります。
黄色い花はもちろん学術的にも貴重ではありますが、問題は種に含まれる成分なんですね😮 

変わりアサガオが愛でられていた江戸時代に端を発し、幕府が(後に明治政府が)根絶やしにしようとしていたこのアサガオ(の種)を巡り、伊庭家と蒲生家の追った宿命にまで及ぶ真相が、全くの架空とはいいきれない真実味を持って迫ってきます。
孝美が薬学の道を選んだのも、代々警察家系の要介が黄色いアサガオを個人的に追っていたのもそのためだったのね!😔 

事件解決後、兄から全てを聞いた後に蒼太は孝美と再会します。初恋の相手ではあるけれど、二人の間にロマンスはもうありません。まさに初恋は実らずですね。

兄や孝美の使命感の理由を知った蒼太と、従兄が自分の才能を羨み自身の限界に苦しんでいたことを知らされた梨乃。それぞれに自分の進むべき道を見つけて進もうとする希望がもてるラストでした。



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劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室

2023年11月20日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年4月28日公開 128分 G

【TOKYO MER】―― オペ室を搭載した大型車両=ERカーで事故や災害現場に駆け付け、自らの危険を顧みず患者のために戦う、都知事直轄の救命医療チームである。彼らの使命はただ一つ…『死者を一人も出さないこと』。

横浜・ランドマークタワーで爆発事故が発生。数千人が逃げ惑う前代未聞の緊急事態に。「待っているだけじゃ、救えない命がある」チーフドクター・喜多見(鈴木亮平)はいち早く現場に向かうべきと主張するが、厚生労働大臣が新設した冷徹なエリート集団【YOKOHAMA MER】の鴨居チーフ(杏)は「安全な場所で待っていなくては、救える命も救えなくなる」と真逆の信念を激突させる。
地上70階、取り残された193名。爆発は次々と連鎖し、人々に炎が迫る!混乱のなか重傷者が続出するが、炎と煙で救助ヘリは近づけない。まさに絶体絶命の危機…さらに、喜多見と再婚した千晶(仲里依紗)もビルに取り残されていることが判明。千晶は妊娠後期で、切迫早産のリスクを抱えていた…
絶望的な状況の中、喜多見の脳裏に最愛の妹・涼香を亡くしたかつての悲劇がよぎる――もう誰も、死なせはしない。(公式HPより)


オペ室搭載の大型車両・ERカーで事故や災害現場に駆けつける救命医療チームの活躍を描いたテレビドラマ「TOKYO MER 走る緊急救命室」の劇場。(映画.comより)

TVドラマは見ていたのですが劇場版はDVD待ちでした。
喜多見の医師としての使命感は素晴らしいですが、やはり危険に自ら飛び込んでいくのはどうもなぁ・・・。
待っていては助からない命はあるけれど、自分や周囲を犠牲にすることはあってはならないと思うのよね。とはいえ、もし自分が助けてもらう側だったら彼らはヒーローだと思うでしょうけれど。

今作では横浜のランドマークタワーが舞台です。横浜のこの地区は何度か訪れたこともあるので親近感があります。

次期総理の座を狙う政治家の思惑や、横浜と東京という行政区の違いを超えた出動など、医療とは別の次元での諍いもありますが、最後には一致団結して救助に当たるのはお約束とはいえなかなか感動的ではあります。
お腹の大きな妊婦の千晶が最後まで残る展開はかなり拙いし、そもそもあそこで置いていくかよ!ですが、盛り上がりとしてはアリなのかな。あわや帝王切開かという場面は予告でも流れた気がしますが、麻酔無しでなんてやり過ぎでしょ😖 と思ったら案の定・・・でした。

場面中、ちょこちょこドラマ版の話が挿入されているので、ドラマを見ていなくても内容が理解できるようになっていました。

東京MERメンバーはドラマ版から引き続き賀来賢人(音羽尚)、中条あやみ(弦巻比奈)、小手伸也(冬木治朗)、菜々緒(蔵前夏梅)、佐野勇斗(徳丸元一)、フォンチー(ホアン・ラン・ミン)と研修医・潮見知広役で「SixTONES」のジェシーが出演しています。

消防士の千住(要潤)や、赤塚都知事(石田ゆり子)、危機管理対策室室長の駒場 (橋本さとし)も続投。

計算高い官僚の久我山(鶴見慎吾)が、命を軽視し自分の利益しか考えていない両国大臣 を見限って白金大臣(渡辺真起子)側につきますが、どこかTOKYO MERや音羽の影響も感じられる気がします。案外根は善人なのかもね😁 

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フェイブルマンズ

2023年11月19日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年3月3日公開 アメリカ 151分 PG12

初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になった少年サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)は、母親(ミシェル・ウィリアムズ)から8ミリカメラをプレゼントされる。家族や仲間たちと過ごす日々のなか、人生の一瞬一瞬を探求し、夢を追い求めていくサミー。母親はそんな彼の夢を支えてくれるが、父親(ポール・ダノ)はその夢を単なる趣味としか見なさない。サミーはそんな両親の間で葛藤しながら、さまざまな人々との出会いを通じて成長していく。(映画.comより)


「ジョーズ」「E.T.」「ジュラシック・パーク」のスティーブン・スピルバーグ自身の原体験を映画にした自伝的作品です。
脚本はスピルバーグ自身と、トニー・クシュナー。
タイトルは、主人公サミー・フェイブルマンの名字ですが、同時に「fable=寓話の意味のドイツ語」でもあるそうです。

幼いサミーが両親に連れられ初めて観た映画は『地上最大のショウ』。列車の激突シーンに夢中になったサミーに、母は8ミリカメラを与えます。これがきっかけてサミーは映画少年になっていきます。妹たちを被写体にカメラを回すシーンでは、ケチャップで抜歯の血に見せたり、家中のトイレットペーパーを使ってミイラにしてみたり(トイレに入った母が気付くシーンが笑えます)と子供ならではの自由で楽し気な様子が映し出されます。

父のバートはコンピューターの優秀なエンジニアで、元ピアニストの母ミッツィは専業主婦でした。バートが大企業に引き抜かれアリゾナに転居する際に、パートの親友で家族同然でもある助手のベニー(セス・ローゲン)が招かれていないと知ってミッツィは激怒します。結局ベニーも一緒にアリゾナに移ることに。
サミーは沢山の友達と一緒に撮影をしながら腕を磨いて映画監督になる夢を膨らませて行きますが、ファミリーキャンプで撮影した映像を編集している時に、母とベニーの親密なシーンが写り込んでいることに気付いてしまいます。
パートはミッツィを深く愛していますが、感情を表すのが苦手でした。芸術家で感性豊かなミッツィは、感情豊かなベニーに惹かれてしまったのです。秘密を抱えたサミーは母に冷たい態度を取ってしまいます。その訳を母に問い詰められたサミーは編集した映像を黙って母に見せます。

父がIBMに引き抜かれることになり、一家はベニーを残してカリフォルニアに引っ越すことになります。母のことで映画への情熱を失ったサミーはカメラを売ろうとしますが、店でベニーと出会い彼から最新型のカメラを押し付けられます。この時既に父は母の気持ちに気付いていたのでしょうね。ベニーの能力の問題も確かにあるのでしょうけれど、助手として連れて行くことは可能だったとも思えるので。

カリフォルニアはユダヤ人への差別がある地域のようです。
新しい高校でサミーはユダヤ嫌いのローガン( サム・レヒナー )らにいじめを受けますが、クリスチャンのモニカ(クロエ・イースト )と交際し、「おサボり日」(卒業学年の海岸への遠足)の撮影を任されるなどそれなりに高校生活を楽しんでいます。

精神不安定になっていたミッツィは、遂にパートに離婚を切り出し、彼は静かに受け入れます。突然の話に子供たちは動揺します。プロムの夜、モニカに一緒にハリウッドへ行こうとプロポーズしたサミーでしたが断られてしまいます。

プロムの出し物として上映した「おサボり日」の記録映画はローガンがヒーローになっていて大好評でしたが、ローガンは「いじめのし返しか!」とサミーに詰め寄ります。周囲からヒーローだから運動神経の良さも当然としか見られず自分の努力を正当に認められない事が彼の悩みだったのです。映画のために相応しいと思ったのだと言うサミーをローガンは見直したようでした。

父とロサンゼルスに残り大学に進学したサミーですが、どうしても馴染めずに悩むようになります。そんな彼の様子を見て、父は大学を中退し映画の道に進むことを許します。

大手テレビ会社CBSに採用され、ドラマの助監督(助手の助手の助手らしい)を任されることとなったサミーが、テレビ映画制作のプロデューサー( グレッグ・グランバーグ)に引き合わせてもらった相手は巨匠ジョン・フォード監督( デイヴィッド・リンチ )でした。(アリゾナ時代にジョン・フォード監督の『リバティ・バランスを射った』を観たことで サミーの映画監督の夢が始まったのね。)
ほんの数分の会話にサミーは希望を膨らませるのでした。

サミーに影響を与えた身近な人物は母の他にもう一人、大伯父(ミッツィの母の兄)のボリス(ジャド・ハーシュ)がいます。
ミッツィの母は娘の才能を封じ込めてしまいましたが(彼女なりに娘の幸せを考えての選択ではあります)、ボリスは妹の才能が埋もれてしまったことを惜しみ、サミーには好きな道に進めと助言しました。ボリスもまた芸術家肌の男だったようです。

自伝的作品なので、面白みには欠けますが、当時の映画のファンやスピルバーグ監督のファンには興味深い作品だと思います。

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四十九日のレシピ

2023年11月18日 | 
伊吹有喜 (著) ポプラ社(出版)

熱田家の母・乙美が亡くなった。気力を失った父・良平のもとを訪れたのは、真っ黒に日焼けした金髪の女の子・井本。乙美の教え子だったという彼女は、生前の母に頼まれて、四十九日までのあいだ家事などを請け負うと言う。彼女は、乙美が作っていた、ある「レシピ」の存在を、良平に伝えにきたのだった。家族を包むあたたかな奇跡に、涙があふれる感動の物語。 
(「BOOK」データベースより)

読み進めていくうちに既視感が強くなり検索したら・・・
映画は2013.11.9に公開されていて2014.5.15にDVDを観た感想をUPしていました。本は未読でしたが、最近以前読んだ本をまた借りて来ることが続いています。それだけ惹かれるものがあったのだということにしておこう😉 

百合子が離婚届を置いて実家に帰ってくるところから始まります。
妻の乙美(後妻で百合子の継母)を突然喪った良平は何もする気力が起きず、風呂も入らず食事もまともにとっていませんでした。そんなある日、突然井本幸恵と名乗る少女が乙美との約束だと言ってやってきます。彼女は乙美が生前に絵手紙を教えていた福祉施設「リボンハウス」の生徒でした。自分が死んだら四十九日まで良平の面倒を見て欲しいと乙美に頼まれていたのだと彼女は話します。既にお金も貰っているのだと。

ここ2週間ほどまともな食事をしていない良平と夫・浩之の浮気で栄養失調のように痩せ細っている百合子に井本が作ったのは塩ラーメン。透き通った出汁に香ばしい匂いのゴマと青ネギ、スープに溶け込んだたっぷりのバター。それはまさに乙美のレシピの味でした。

良平は乙美の部屋でリングに通された小さなカードを見つけます。料理、掃除、洗濯、美容などに分けられたカードには日常生活のコツが可愛いイラストと一緒に書き込まれていました。(映画に登場したとても可愛らしいイラストが頭に浮かびました。)その中に「四十九日のレシピ」もありました。井本は乙美から読経や焼香の代わりにレシピの料理で大宴会をして皆で楽しんでくれたら嬉しいと聞かされていました。

朝市で買った生シラスを持って百合子の夫に会いに行った良平は、彼が小さな子供とお腹の大きい若い女性と一緒にいるのを見て思い直し、会わずに帰ってきます。関係修復は難しいと感じた良平は、百合子を励ますためにも乙美の願い(四十九日の大宴会)を叶えようと決意します。

客を招くためには、ボロボロな家の屋根や壁の修理が必要です。井本が助っ人に連れて来たのは近所の工場で働く日系ブラジル人のカルロス・矢部です。乙美は以前その工場の社員食堂でパートをしていて彼とも交流がありました。彼は良平を手伝って日曜大工をする傍ら、百合子を助手席に乗せて買い出しにも出かけます。彼の愛車の黄色のビートルは、以前乙美が知人から譲り受けて乗っていた車です。

良平から「ハルミ」と呼ばれるようになった彼に指摘され美容院で髪を整えた百合子は、気持ちも少しだけ前向きになります。ショッピングセンターで4人お揃いのボーダーTシャツを買ったのもその表れと言えるかも。実はハルミが百合子を引っ張り回したのは、百合子の留守中に殺風景だった彼女の部屋に家具を入れ明るくするための時間稼ぎだったというのもほっこりします。

宴会にあたり、何か芸をと考えるうち、乙美がリボンハウスの卒業生に作っていた「あしあと帳」にヒントを得た百合子が乙美の年表を作って張り出すことを思いつきます。でも家に残っていた写真は少なく、乙美の独身時代のこともわかりません。百合子は自分に送られてきていた絵手紙を貼ろうと東京の家に行きます。そこで義母や夫の愛人の亜由美、彼女の連れ子のカイトとのハプニングもあり、彼女なりに心の整理をつけることになります。ここではアメリカンドッグの描写が美味しそうでした。😋 

乙美が作業場として使っていた奥の部屋から出てきた大量の災害備蓄品(トイレットペーパーやティッシュやシャンプーや缶詰など)の処分に困った(宴会のために奥の部屋に家具を移動させる必要があった)良平たちは、リボンハウスに電話をして寄贈することにします。
軽トラックで受け取りに来た元園長の聡美(乙美の親友でもありました)から乙美がいつもニコニコと真っ白な紙に絵を描いていたことや空いた時間に隅々までピカピカに掃除していたこと、亡くなる3日前には皆で豚まんを作ったことなどを聞きます。独身で子供もいない聡美は、自分たちはテイクオフ・ボードだと言います。みんなが誰かの踏切板となって次の世代を前に飛ばす・・・素敵な考え方ですね。

物語の中では良平目線での乙美との馴れ初めも描かれていました。

リボンハウスの卒業生にも四十九日の宴会に出席して欲しいと思う百合子でしたが、 リボンハウスの特性(心に傷を負ったり何かに依存している女性をサポートする施設)上、自立後は連絡を取らないのが原則のため難しいことがわかります。

ハルミは四十九日の前日に帰国のために去って行きます。
あえて「さよなら」をしないのは別れがつらくなるからですね。

当日。開始時間きっかりに入ってきた親族やいとこたちは壁中に貼られた年表に驚きます。口煩い良平の姉の珠子は常識外れだと非難し彼女の親族たちも一緒に出て行ってしまいます。しかしその後、リボンハウスの元園長のブログを見たOGたちが続々とやってきて、皆で料理と酒を楽しみながら乙美の年表にそれぞれの思い出や絵を書き込んだり貼ったりします。乙美が最後に作っていた「あしあと帳」の女性・須藤美佳が作った乙美に教わったコロッケサンドを食べながら、良平は乙美との最後の朝のやり取りへの後悔で胸が詰まります。

お焼香にやってきた百合子の夫の浩之と良平が河原で交わした会話が切ないです。子供を望み不妊治療に必死になる百合子と浩之の気持ちが離れてしまったこと、そのきっかけの「亀」の話もどちらの気持ちも想像できるだけに痛くて切なかったです。
とはいえ、愛人に逃げ場を求めた浩之を許せるわけじゃないけど。😡 

浩之を娘に会わせず帰した良平ですが、それが正しかったか迷いもありました。彼が家に戻ると、家の中は大勢の人で溢れかえって賑やかです。趣旨を理解した珠子もお揃いのアロハを着た親族を引き連れ戻ってきてみんなで歌って踊っての大宴会になりました。

宴の後、良平は百合子の背中を押して夫と話し合うようにと帰します。
独りになった良平は、井本やハルミ(本名が長くて覚えにくいので名前を付けて欲しいと言われた良平は生まれる筈だった百合子の次の子に付けようとした名前です)が亡くなった乙美や前妻の子が姿を変えて現れたのかもしれないとの想いに囚われ川に入ってしまいます。(川はあの世とこの世を繋いでいるという考え方を前妻も乙美もしていたようです)対岸について我に返った彼は、現実にはありえないことだと自分を納得させます。良平もまた乙美の死を乗り越えて生きる決意をしたのかも。

エピローグでは浩之と復縁した百合子が久しぶりに実家の庭で空を見上げながら井本やハルミのことを思っています。生まれた亜由美の子は浩之の子ではないと判明し、この騒動は解決していました。
良平は乙美のレシピをすっかりマスターして独り暮らしを楽しんでいます。

井本やハルミの存在をファンタジーと捉えるかどうかは読者の想像次第かも。😁 

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法廷遊戯 ネタバレあり

2023年11月15日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年11月10日公開 97分 G

弁護士を目指してロースクールに通うセイギこと久我清義(きよよし)と、同じ学校で法律を学ぶ幼なじみの織本美鈴(杉咲花)、2人の同級生でロースクールの学生たちが行う「無辜(むこ)ゲーム」と呼ばれる模擬裁判を司る天才・結城馨(北村匠海)は、共に勉強漬けの毎日を送っていた。無事に司法試験に合格し、弁護士となった清義(永瀬廉 )のもとに、ある時、馨から無辜ゲームをやろうという誘いがくる。しかし、呼び出された場所へ行くとそこには血の付いたナイフをもった美鈴と、すでに息絶えた馨の姿があった。この事件をきっかけに、3人をめぐる過去と真実が浮かびあがっていき、事態は二転三転していく。(映画.comより)

作家・弁護士の五十嵐律人による法廷ミステリー小説の映画化です。

冒頭で登場する電車内での痴漢事件の登場人物が重要な伏線になっていましたが、ぼんやりな私はすぐには気付かなかった😓 

結城馨は在学中に司法試験に合格していて、「無辜ゲーム」の発案者でもあります。(最初に論じられたケースはかなりお粗末だし告発者役はエキセントリック過ぎて引いてしまいました。)

ある日、清義の過去(児童養護施設の施設長をナイフで刺した)を暴くチラシが学生たちに配られます。清義は無辜ゲームでチラシを撒いた犯人(例のエキセントリックちゃん)を突き止めますが、彼を操っていた者がいることに気付きます。同じ頃、美鈴もドアにアイスピックを刺されたり盗聴されたりと何者かに脅されます。
清義と美鈴は親から虐待されて同じ施設で育った幼馴染でした。清義が施設長をナイフで刺したのは、美鈴を施設長による性的虐待から救うためでした。事件で彼を担当した弁護士(生瀬勝久)から暴力ではなく知恵で世間と戦えと言われたことがきっかけで清義は弁護士を目指し、彼を恩人と慕う美鈴も後を追ったのです。
清義が盗聴犯の何でも屋・沼田(大森南朋)を突き止めたことで2人への脅迫は止まるのですが、2年後事態が動きます。

法科大学院を卒業して弁護士になった清義に、「久しぶりに無辜ゲームをしよう」と馨から電話がかかって来ます。指定された場所に向かった清義は、ナイフで刺殺された馨を発見します。そばには返り血を浴びた美鈴の姿がありました。「私の弁護人を引き受けて」と言った美鈴は以後完全黙秘を貫きます。
馨が被害者、美鈴が犯人、清義が弁護士の無辜ゲームの始まりです。

美鈴の無実を証明するなかで、清義は、現役の警察官だった馨の父親(筒井道隆)が痴漢の罪で罰せられたことで精神を病んで自殺していたことを知ります。

幼い頃から大人に裏切られ続けたことで、逆に大人を利用してやろうと考えるようになった清義と美鈴は、痴漢をされた美鈴が相手にお金を握らされたことをきっかけに、冤罪に手を染めていき、冒頭の事件に繋がっていったのです。そして清義は自分たちが痴漢の罪を被せた男性が、馨の父親だったと気付きます。

馨は、父親を陥れた清義と美鈴に復讐しようと無辜ゲームを仕掛けたのです。ロースクール時代にチラシを撒いたのも、人を雇って美鈴を盗聴していたのも馨でした。
教授(柄本明)からロースクールに残った馨の研究内容(加害者に被害者と同様の罰を与えるべき。目には目を。)を聞いた清義は、自分もまた試されているのだと感じます。

馨は、父親の痴漢冤罪事件の再審請求をしようとしていました。美鈴を犯人にして法廷に引っ張り出すことで、父親の痴漢冤罪事件を裁判に持ち込むのが目的だったのです。彼自らが撮影していた事件時の様子を録画した証拠のSDカードが提出され、美鈴は無罪となります。

父親の冤罪を証明するための再審請求は、被告人の配偶者や直系の親族しかできません。妻は亡くなっているので、馨が死ねば請求もできなくなるため、馨が狙ったのは殺人未遂罪だったと清義は気付きます。

馨は美鈴にこの計画を持ち掛けた際、清義の罪もまた償ってもらうと話しています。馨は父親の事件の時に現場に居合わせていたのでした。嘘を見抜かれ逃げようとした美鈴を守ろうとした清義の行為を目撃していたのです。美鈴の偽証罪は時効を迎えていますが、清義の傷害罪はまだです。美鈴は清義を守るため、馨を殺していたのです。
肇は美鈴が裏切って自分を殺した時のために、もう一つの罠を仕掛けていました。死後、清義に自分の日記(USBメモリ)が渡るようにしていたのです。

警察や司法が見抜けなかったことで冤罪となりそれを苦に自殺してしまった父親の復讐は、2人のみならず、司法や警察にも向けられていました。しかし、肇の死に対する美鈴の罪は再び免れてしまいます。
清義は弁護士バッジを外し、美鈴に別れを告げます。自首した?
判決を聞いた彼女の高笑いに込められた意味はきっと一つだけではないですね。

養護施設出身の2人がロースクールに入る学費をどのように捻出したのか、肇の刺殺痕の不自然さに鑑識が気付かなかったのかなど設定に不自然さもあります。
後味も決して良くはありませんでした。

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トランスフォーマー ビースト覚醒

2023年11月12日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年8月4日公開 アメリカ 127分 G

オプティマスプライム率いるトランスフォーマーたちが地球に来て間もない1994年。あらゆる星を食べ尽くす、惑星サイズの規格外な最強の敵「ユニクロン」が地球を次の標的に動き出した。この未曽有の危機に立ち向かうべく、プライムは仲間たちを集め、意図せず戦いに巻き込まれた人間のノア(アンソニー・ラモス)とエレーナ(ドミニク・フィッシュバック)、そして地球を救う新たな希望であるビースト戦士たちとともに立ち上がる。(映画.comより)

「トランスフォーマー」シリーズ7作目は、動物の姿をしたビースト戦士(マクシマルズ)がオートボットと共に戦います。トランスフォームの描写もますます精緻になっていて目を奪われます。

宇宙のあらゆる惑星を貪り尽くすユニクロンの配下(テラーコン)のスカージらがマクシマル星を襲撃します。彼らの目的は時空の扉を開く鍵・トランスワープキーを奪うことです。ビースト戦士(マクシマル)の司令官エイプリンクはオプティマスプライマルにトランスワープキーを託して仲間(エアレイザー、チーター、ライノックス)と共にマクシマル星から脱出させてひとり戦いますが倒されて星もユニクロンに食べられてしまいます。間一髪で逃れたオプティマスプライマルたちは地球に流れ着きます。ユニクロンはスカージにキーの奪取を命じます。

オートボットが再起のため地球を新たな拠点としてから7年経った1994年。
元軍人で電子機器専門家のノア・ディアスは、母や難病の弟クリス(ディーン・スコット・バスケス )ら家族を養うために職探しをしていますがなかなか採用されません。切羽詰まり悪友のリーク(トベ・ンウィーグウェ )の誘いに乗って高級車を盗み出そうとしてポルシェ911に変形していたミラージュと出会います。

NYの博物館で働く遺物調査員のエレーナ・ウォレスは、発掘されたハヤブサの像に見た事のない刻印を見つけて密かに調べようとしたところ、突然像の表面が剥がれ落ちてトランスワープキーが姿を現し、キーから強力なエネルギーが発せられます。異変に気付いたオプティマスプライムがオートボットたちに招集をかけたことで、ミラージュはノアを乗せたまま走り出し、警官の追跡を振り切ってアジトの廃工場で仲間(バンブルビーやアーシー)と合流します。

ノアを連れて来たことをオプティマスプライムは叱責しますが、陽気で人懐こいミラージュは気にせずノアと友だちになります。(オプティマスは前作『バンブルビー』で人間を信用できなくなっているのね。)
失われた筈のキーを手に入れれば故郷サイバトロンに帰れると考えたオプティマスは、ノアに博物館からキーを取ってくるよう頼みます。しかしスカージたちもエネルギーを察知して地球に乗り込んできます。

博物館に潜入したノアは、キーを手にしたエレーナと遭遇しますが、そこにスカージらが現れます。バンブルビーがオプティマスを庇ってスカージに殺され、キーも奪われて絶体絶命かと思われた時、エアレイザーに助けられます。
エアレイザーはマクシマルが地球に来た経緯を語り、奪われたキーは分割された半分で、もう半分の場所は知らないと話しますが、エレーナがペルーではないかと推測したことで二人は一緒にペルーに行くことになります。
一方、ユニクロンにトランスワープキーを献上したスカージも、残りの半分を回収するよう命じられます。

ストラストフェアがトランスフォームしたオンボロ輸送機で一行はペルーへ飛びます。ノアは地球を守るためキーは破壊すべきだと考えていました。

マチュピチュ遺跡でホイルジャックと合流しクスコの寺院に向かった一行は、ノアとエレーナを潜入させます。この時ミラージュはノアに武器?を授けます。二人は寺院の地下の隠し部屋の奥にマクシマルの石棺を見つけますが中は空でした。襲ってきたテラーコンと再び戦いが始まります。この時スカージはエアレイザーに特殊な銃弾を撃ち込んで去ります。

地上に出た二人は、ジャングルでオプティマスプライマルたちに遭遇します。駆け付けたオートポッドたちとの間に緊張が走りますがエアレイザーが仲裁に入り事なきを得ます。オプティマスプライマルは自分の名は伝説の戦士オプティマスプライムにあやかったと話し、原住民に預けてあったキーの半分を渡します。彼は村にあるエネルゴンの場所へ案内しますが、バンブルビーを蘇らせるにはパワーが足りませんでした。

翌朝。エアレイザーが突然苦しみ出してオートボットとマクシマルに襲い掛かり、トランスワープキーを持ったエレーナごと奪って飛び去ります。スカージが撃ち込んだのは洗脳の機械だったようです。後を追ったオプティマスプライマルでしたが、キーは既にスカージに渡っていました。エアレイザーは自分を殺してくれるようオプティマスプライマルに懇願し哀しい最期を遂げます。

火山の頂上に巨大な塔を築いてトランスワープキーを復元したスカージは、ユニクロンを地球に召喚する行動に移ります。エレーナからキーを無効化できる可能性を指摘され、オートボットとマクシマル、ノアたちは互いに協力することを決めます。
オートボットとマクシマルがテラーコンを引き付ける間に、ノアとエレーナがミラージュの護衛を受けて塔に忍び込み、ミラージュがスカージを引き付けている間にキーを奪おうとしますが、ノアがスカージに捕まり、庇ったミラージュが瀕死の重傷を負います。ミラージュは最期の力を振り絞り、自らをエクセルスーツに変形させてノアに着せました。

トランスワープキーが発したエネルギー波でエネルゴンが活性化されてバンブルビーが復活し戦いに加わります。
トランスワープキーのもとに辿り着いたエレーナは無効化の作業を開始しますが、スカージによってコントロール盤が破壊されてしまいます。

サイバトロン星への帰還を諦めたオプティマスプライムは、自身を犠牲にしてトランスワープキーを破壊します。時空の扉に吸い込まれていくユニクロンやテラーコンたちと一緒にオプティマスプライムも引き込まれそうになりますが、ノアとオプティマスプライマルが協力して助け、辛うじて脱出できます。

戦いの後、ユニクロンがまだ生きていると考えるオプティマスプライムでしたが、マクシマルと地球人と協力し合えば必ず打ち倒せるとも確信するのでした。

家族との再会を果たし再び職探しを始めたノアが知らずに面接に訪れた先は、政府の秘密組織「G.I.ジョー」です。
トランスフォーマーと協力して地球を守ったノアの功績を評価し、クリスの治療費も全額負担してくれるというのです。
ラストは、ガレージに招いたリークに中古のポルシェの部品を集めて蘇らせたミラージュを紹介するシーンです。😀 

前作で人間不信に陥ったオプティマスプライムが、共に協力して戦ったことで認識を改めるお話なんですね。
ノアとクリスの兄弟愛のエピソードも温もりがあり、「G.I.ジョー」に繋がる伏線にもなっていました。


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ワース 命の値段

2023年11月11日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年2月23日公開 アメリカ 118分 G

2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが発生した。未曾有の大惨事の余波が広がる同月22日、政府は、被害者と遺族を救済するための補償基金プログラムを立ち上げる。プログラムを束ねる特別管理人の重職に就いたのは、ワシントンD.C.の弁護士ケン・ファインバーグ(マイケル・キートン)。調停のプロを自認するファインバーグは、独自の計算式に則って補償金額を算出する方針を打ち出すが、彼が率いるチームはさまざまな事情を抱える被害者遺族の喪失感や悲しみに接するうちに、いくつもの矛盾にぶち当たる。被害者遺族の対象者のうち80%の賛同を得ることを目標とするチームの作業は停滞する一方、プログラム反対派の活動は勢いづいていく。プログラム申請の最終期限、2003年12月22日が刻一刻と迫るなか、苦境に立たされたファインバーグが下した大きな決断とは……。(公式HPより)


アメリカ同時多発テロ被害者の補償金分配を束ねた弁護士の実話を映画化した社会派ドラマです。
(9.11被害者補償基金は、テロ関連の航空機墜落事故や直後に行われた瓦礫撤去作業の結果、身体的被害を受けた、または死亡したすべての個人(または死亡した個人の代理人)に対する補償を提供するために設立され2001年から2003年にかけて計5560人に 公的資金から 70億ドル超を支払い2011年と2019年に再開と延長が決定し、長期の健康被害に苦しむ人々の救済を続けているます。)

主人公のケネス(ケン)・ファインバーグ弁護士は実の人物でワシントン ・ナショナル・オペラの元会長でもあります。ベトナム帰還兵の枯葉剤後遺症集団訴訟など数多くの補償問題に関わってきた、米国有数の裁判外紛争解決手続の専門家で、映画は彼の回想録『What is life worth?』が原案です。9.11の後も
2010年 BP社 メキシコ湾原油流出事故
2013年 ボストン・マラソン爆弾テロ事件
2016年 オーランド ナイトクラブ銃乱射事件
などを担当しています。(公式HPより抜粋)

司法長官 の要請を受けたケン・ファインバーグは、国の役に立ちたい、テロ被害者を金銭面で救いたいという使命に燃えて無償でこの国家プロジェクトに臨みます。
しかし、年齢も職種もバラバラの犠牲者たちの“値段”の算出は難問です。“命”の差別化に対する犠牲者家族の思いは様々で、面談で知る彼らの苦悩や批判の矢面に立たされる過酷な日々となります。

彼は経営パートナーのカミール・バイロス(エイミー・ライアン)や、大学の教え子で世界貿易センタービル内にあった法律事務所カイル&マッカランに入社予定だったプリヤ・クンディ(シュノリ・ラマナタン)たちと一丸となって約7000人の被害者と遺族たちに収入に応じた独自の計算式に当てはめた補償金額を算出して、それを受け取る代わりに航空会社や空港、警備会社などへの提訴の権利を放棄してもらうのです。

申請最終期限の2003年12月22日までに、対象者の80%の賛同を得ることを目標に説明会を開いたファインバーグでしたが、あまりに事務的な説明ぶりに不満の声が上がり収拾がつかなくなりそうになります。それを鎮めたのは遅れてやってきたチャールズ・ウルフ(スタンリー・トゥッチ)でしたが、彼は計算式に不備があると指摘します。

説明会の後、消防士のフランク・ドナート(クリス・タルディオ)は、同じく消防士をしていた弟のニックの話をしてプログラムの再調査を主張しますが、ファインバーグは聞き流して対応をバイロスに任せます。

遅々として賛同者が増えない中、チャールズ・ウルフがファインバーグの提案に反対するブログを立ち上げます。それを読んだプリヤはファインバーグに彼と話し合うよう提言しますが基金成立が急務と考えるファインバーグは聞こうとしません。

一方、対象者たちと面談する中で、バイロスは同性愛のパートナーを失ったグラハム・モリスの訴えを聞きます。補償金はグラハムとの関係を認めない両親に渡され、グラハムには権利がないのです。(グラハムが住むバージニア州の法律では、同性愛者は対象外)

テロ被害者の中でも高所得者層を担当していたリー・クイン(テイト・ドノバン)からは、プログラムが失敗に終わればその層から集団訴訟に持ちまれると圧力をかけられます。

時間外に訪ねてきたニックの妻カレン(ローラ・ベナンティ)は、夫の無念を訴え補償金は要らないと言います。その後、ニックと不倫関係にあったという女性の弁護士から、彼女の2人の娘にも補償金を受け取る権利があるがそれには本妻の承諾が必要なためカレンを説得して欲しいと依頼されます。

プリヤから再度ウルフと話し合うよう提言され、事務所に彼を招いたファインバーグでしたが、ウルフは「誰もが同じ価値だ」と言って政権側に沿っている彼を非難して去ります。

ある晩、オペラを観に行ったリンカーンセンターでウルフと再会したファインバーグは、互いの妻がオベラ歌手という共通点があることを知ります。対象者一人ひとりと向き合って彼らの声を聞くべきだとウルフは改めて訴えます。
それを受け、対象者リストを徹夜でチェックしたファインバーグは、 対象者が補償を受けられる条件の範囲をもっと広く出来るよう動き出します。(オフィスの机に対象者から貰った形見の品々が積まれていく様は、一人一人の声に丁寧に耳を傾けた証でもあるのね。)

賛同者たちが順調に増えていきますが、最終期限までに目標に達しそうにありません。リーからプログラム法案不成立を認めるサインを求められたファインバーグは、昔自分が彼にアドバイスした言葉を聞かされたことで、これを拒否して事務所に戻ります。するとそこには大勢の対象者と次々運ばれてくる郵便書類が!
ファインバーグたちの努力を認めたウルフがブログで彼らを評価したことで賛同者が増えたのです。

ファインバーグたちは目標を超える、95%の賛同者を得ることに成功します。
一方、グラハムのケースは残念な結果に。彼の訴えがきっかけでニューヨークでは同性愛者のパートナーにも補償金が支払われることになりましたが、ヴァージニアの州法は変わらなかったのです。同じ国内でも州によって法律が異なるんですね。😣 

カレンは、夫の不倫に気付いていたと明かし、相手との間に生まれた娘たちにも補償金が行くようサインした書類をファインバーグに手渡します。男の子しか授からなかったカレンは、娘が欲しかった夫の気持ちを知っていて耐えていたのね。

人間に”価格”をつける嫌われ役に敢えて名乗りをあげたファインバーグは善意の人のように見えますが、彼の中に過去の実績を過大評価する独善性もまたあったように見えます。自分が正しいと思う算出法を推し進めて個別の声に耳を傾けようとしない頑なな姿勢は当然反感を買いますよね。
直接面談をすることのなかった彼が、フランクやカレンの肉声を聞き、またウルフとの交流を経て考えに変化が生じていく過程が丁寧に描かれています。

9.11事件はその後のアメリカ政府の対応も議論されるべきですが、テロ被害者に寄り添おうとしたファインバーグたちの努力は正しく評価されるべきだと感じました。

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希望病棟

2023年11月10日 | 
柿谷美雨(著) 小学館文庫

神田川病院に赴任したばかりの女医・黒田摩周湖は、二人の末期癌の女性患者をみている。先輩のルミ子に促され、摩周湖が病院の中庭で拾った聴診器を使ってみると、患者たちの“心の声”が聞こえてきて・・・・・・。
母親に捨てられ、児童養護施設で育った桜子は、大人を信じていない。代議士の妻の貴子は、過去に子供を捨てたことがあるらしい。
摩周湖の勧めで治験を受けた桜子と貴子は快方に向かい、自分の人生を生き直すことに。大学に進学するお金がなく進路に悩む桜子、選挙にしか関心のない夫と姑を嫌悪する貴子。孤独と生きづらさを抱えてきた二人は、どのような道を歩み始めるのか――
共感の嵐を呼んだヒューマン・ドラマ『後悔病棟』に続く感動の長編!!
(内容紹介より)


初めに「懲役病棟」を読みシリーズと知って「if: サヨナラが言えない理由
」を読み始めたところで「あれ?これ知ってる!」・・・2019年に既に読んでました。😞 

今作では後輩を心配したルミ子から聴診器がバトンタッチされます。
哲学科の大学教授を父に救急医を母に持つ摩周湖は、忙しい両親と接する時間もなく、家政婦や家庭教師からも顧みられず孤独に育ったため、自分の気持ちをうまく言葉にすることができません。
大学の時に出来た友人の明日美に自分の悩みを話したところ贅沢だと非難され疎遠になった経験もあり、余計に自分の気持ちを外に出せなくなっていました。

そんな彼女が患者の心の声を聞き取ることができる聴診器を手にしたことで少しずつ変わっていくのです。話すのが苦手なだけで自分の考えは決して非常識ではないことに気付いた摩周湖は、今後は思ったことをそのまま口に出そうと決め、患者のために行動を起こします。

摩周湖が担当した二人の患者は末期の癌に侵されていましたが、治験を受けたことで劇的に回復します。物語は摩周湖主導ではなく、この二人の退院後の生き方の選択を主軸に書かれていて、彼女たちに刺激されて摩周湖自身も成長する形になります。

これまでの経験で大人が信じられなくなっていた桜子でしたが、生き直す機会を得たことで施設の指導員の由紀子や牧田、調理の桃山との関わり方や頑なだった心に変化が生じます。
高校を卒業したら施設を出なければならない現状は、蓄えを持たない彼女にとって切実な問題です。先に施設を出た先輩で姉のように慕っていたユリの状況を知り更に不安は募ります。同時に昔由紀子が家に遊びに行きたいといった桜子をやんわりと拒絶した理由も理解するのです。

国会議員の妻として夫を支えてきた貴子には子供を捨てた過去があります。妻の病さえ選挙に利用しようとする夫や姑を見てこれまでの自分の人生は何だったのかと自問する貴子でしたが、生活苦が目に見える離婚の決心もつかず、退院後はまた元の生活に戻りつつありました。しかし桜子や個別訪問で出会った奈緒子・七海母子の困窮を知り、自分に出来る事から始めようと決意します。

夫と結婚する前に貴子がキャバ嬢だったという設定もなかなかですが、桜子に風俗を勧めたり、自ら立ち上げたりする展開にも驚きました。
困窮からの手っ取り早い脱出方法がそれしかないのか疑問も残りますが・・・。
摩周湖が相談した明日美も奨学金返済のために風俗で働いていたと話します。奨学金というのが貧乏学生の味方ではなく体の言い貸し金だという実態にも触れています。

桜子は、国の奨学金をもらうことができて大学に進学し、桃山と暮らしています。摩周湖は桜子と貴子が親子なのではないかとDNA検査を勧めましたが、貴子が生んだのは男の子だったことが明かされ、ミスリードだったことがわかります。😁 ま、そんな都合のいい展開だったら逆に引くけど。

貴子の夫のクズぶりは相変わらずですが、姑とは逆に仲良くなっているのも面白い結末でした。姑も息子のことは見限っているのね。お嬢様育ちの姑が奈緒子たちが住むカトレア荘で一か月暮らす体験をしたことで考えが変わるのです😜 

摩周湖が忙しい母との久しぶりの会話で、自分が放っておかれていたわけではないことに気付いたり、あの聴診器の以前の持ち主が自分の母親だったことがわかったりします。当時大学病院の同僚だった笹田(現神田川病院部長)の手に渡った聴診器は、それを必要とする医師に受け継がれていくようでした。



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ハーメルンの誘拐魔

2023年11月09日 | 
中山七里(著) 角川書店(出版)

病院からの帰り道、母親が目を離した隙に15歳の少女・香苗が消えた。現場には中世の伝承「ハーメルンの笛吹き男」の絵葉書が残されていた。警視庁捜査一課の犬養隼人が捜査に乗り出し、香苗が子宮頚がんワクチン接種の副作用によって記憶障害に陥っていたことが判明する。数日後、今度は女子高生・亜美が下校途中に行方不明になり、彼女の携帯電話と共に「笛吹き男」の絵葉書が発見された。亜美の父親は子宮頚がんワクチン勧奨団体の会長だった。ワクチンに関わる被害者と加害者家族がそれぞれ行方不明に。犯人像とその狙いが掴めないなか、さらに第三の事件が発生。ワクチン被害を国に訴えるために集まった少女5人が、マイクロバスごと消えてしまったのだ。その直後、捜査本部に届いた「笛吹き男」からの声明は、一人10億、合計70億円の身代金の要求だった...。(「BOOK」データベースより)


薬害に関わるミステリーということで読んでみました。
今回は「無駄に男前で女心を全く読めない」犬養と、事件の背景にある薬害の構図に怒りを抑えきれない女性刑事の高千穂のコンビです。

犯人については想像通りで意外性はありません。
被害者は障害を持つ少女たちとはいえ、一人は健康体で、連れ去った後の監禁場所や医療処置が必要なことを鑑みれば自ずと犯人像は絞られます。推理としてはやや安易な気がしました。
ただ、犯人にいいように踊らされる犬養たち警察の焦りや憤懣が伝わってくる緊張感のある展開は面白かったかな。😉 
大阪では府民の警察に対する反応が全く違う(お上への反発心がある)のね😁 

ワクチン被害の背景に厚生労働省と製薬会社と日本産婦人科協会 の癒着の構図が登場しますが、それってありえると思わされます。
そもそもワクチンは公衆衛生を目的とされていて、副反応の救済制度もあるけれど、物語ではその副反応を認めない姿勢が事件を引き起こしているんですね。

被害者とその家族は殆どが女性ということが犬養の鋭利な推理を妨げ続けます。そのためのキャラ設定かよ!と突っ込みたくなるくらい、今回の犬養は鈍感ですが、犯人に辿り着いた後は確保に向けて大胆な行動を取ることで救うんですね。😀 

誘拐事件は解決し、ワクチン接種の推奨も控えられることになりますが、中止とはならないあたりが国の思惑もあり難しいところなのかも。

香苗の記憶障害に一縷の改善が見られたことがせめてもの希望となる結末でした。

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